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内容 双極性障害の診断と治療 理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チームチームリーダー加藤忠史 1) 双極性障害とは 2) 双極 Ⅰ 型障害の病態と治療 3) 双極 Ⅱ 型障害の病態と治療 4) 研究の必要性 1 2 双極性障害とは 双極性障害はほとんどの場合 最初は他の病気と診断される 躁状態とうつ状態を 数年以上の間隔を置いて繰り返す 寛解期には特に症状はない 躁状態での問題行動 うつ状態での休職を繰り返すことで 社会的後遺症を残しやすい リチウム ( 気分安定薬 ) などの薬物療法と心理社会的治療でかなりコントロールできる 初発のうつ状態では診断できず 正しい診断には長い年月がかかることが多い はい 20% 無回答 3% はじめて行った病院で双極性障害と診断されましたか? ( いいえ の人の最初の診断 : うつ病 統合失調症など ) いいえ 77% N=94 3 (NPO 法人日本双極性障害団体連合会 [ ノーチラス会 ] 2011) ( 大 ) うつ病双極性障害 症状 うつ状態のみ 躁状態 うつ状態 経過 半数は1 回のみ 再発を繰り返す 発症年齢 幅広い 若年 (30 歳台 ) 生涯有病率 15%( 女 > 男 ) 0.8% 治療薬 抗うつ薬 気分安定薬 ( リチウム ) 治療期間 6ヶ月 ~1 年 生涯にわたる予防 原因 ストレス 養育遺伝的体質 異種性が高い うつ状態の症状だけでは区別できない 症候群 双極性障害とうつ病 メランコリー型 ( 性格 ストレス ) 双極性障害 双極スペクトラムうつ病 うつ病 非定型うつ病 ( パーソナリティー障害 不安障害 虐待 ) 血管性うつ病 季節性うつ病 認知症前駆うつ病 5 1

大うつ病エピソード患者のうち双極性うつ病が占める割合 ( フランス N=250) 6% 双極性障害患者でうつ状態が占める期間 双極 I 型障害 32% 双極 II 型障害 50% 22% 双極 I 型 72% 双極 II 型大うつ病 ( 単極性 ) (Hantouche EG, J Affect Disord 1998 50: 163-173) 7 試験概要 :1978 年 ~1981 年にエントリーした患者を前向き調査し 双極 Ⅰ 型障害患者 146 例を平均 12.8 年 双極 Ⅱ 型障害患者 86 例を平均 13.4 年追跡し 週ごとに症状の変化を記録した N=146, 12.8 年 (Judd LL et al, Arch Gen Psychiatry 59: 530-7, 2002) N=86, 13.4 年 うつ 躁 / 軽躁 うつ cycling/ 混合 寛解期 (Judd LL et al, Arch Gen Psychiatry 60: 261-9, 2003) 双極性障害を鑑別することの重要性 うつ病を診断するには 初診で双極性障害を除外する必要がある 双極性障害に対し 抗うつ薬は 慎重投与 ( 躁転 急速交代化 ) 治療方針が全く異なるうつ病 : その病相を治す双極性障害 : 病相の予防 9 うつ状態 の診断 うつ状態 身体疾患が原因 薬剤が原因 一般身体疾患による気分障害物質誘発性気分障害 大うつ病エピソードの基準 NO 2 年以上 YES 気分変調症 YES 躁病エピソード YES NO 適応障害など双極 Ⅰ 型障害 NO 軽躁病エピソード YES 双極 Ⅱ 型障害 NO 大うつ病性障害 ( うつ病 ) ( 注 : これは簡略化したもので 気分障害の全てを示したものではありません ) 10 双極性うつ病を示唆する臨床特徴 過眠 過食 精神病症状を伴う 若年発症 (<25 歳 ) 病相回数が多い 双極性障害家族歴 ( 親 同胞 ) 抗うつ薬が無効 内容 1) 双極性障害とは 2) 双極 Ⅰ 型障害の病態と治療 3) 双極 Ⅱ 型障害の病態と治療 4) 研究の必要性 11 12 2

双極 Ⅰ 型障害の治療目標 1) 再発を防ぎ社会生活を送れるようにする 2) 躁状態を早期にコントロールし 社会生活への影響を最小限にとどめる 3) 自殺を予防する ( うつ状態 混合状態 ) 4) うつ状態の苦痛を取り除く 躁状態の治療の導入 本人が受診したがらない場合 身体の問題を取り上げる ( 不眠 身体が参っている ) 本人が信頼している人 ( 直属の上司でない人 ) から説得してもらう 初発の中等症以上の躁病では入院を原則とし 早期に入院適応を判断する 妥協せず説得し 意思に反した治療を行う際もだましたりせず きちんと宣言 13 14 急性治療 予防 双極性障害 ( 躁うつ病 ) 治療薬のエビデンス 太字は各病相において適応のある薬剤 * 本邦未承認 躁状態 リチウムバルプロ酸オランザピンリスペリドンクエチアピンアリピプラゾール定型抗精神病薬カルバマゼピン リチウムオランザピンラモトリギンアリピプラゾールクエチアピン ( バルプロ酸 ) ( カルバマゼピン ) ( リスペリドン ) うつ状態 クエチアピンリチウムオランザピン ( ラモトリギン ) (fluoxetine * ) ラモトリギンの効能 効果は 双極性障害における気分エピソードの再発 再燃抑制 双極 Ⅰ 型障害の主な治療薬 躁 うつ予防 副作用 気分安定薬リチウム 手指振戦 口渇 腎障害 ラモトリギン SJ 症候群 バルプロ酸 肝障害 消化器系 カルバマゼピン SJ 症候群 血球減少 非定型抗精神病薬オランザピン 糖尿病 体重増加 眠気 アリピプラゾール アカシジア 不眠 クエチアピン ( 適用外 ) 糖尿病 体重増加 眠気 慎重投与三環系抗うつ薬 躁転 急速交代化 SSRI 無効 嘔気 双極性障害の治療アルゴリズム? リチウム # 躁転した際は 非定型抗精神病薬 バルプロ酸 # も うつ状態となったら非定型抗精神病薬 ラモトリギン * も 日本うつ病学会作成の治療ガイドライン 維持療法は原則としてリチウム # 単剤をめざす 予防効果不十分ならラモトリギン場合によっては非定型抗精神病薬やバルプロ酸 # を併用 http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/img/120331.pdf または 日本うつ病学会 で検索 18 * 保険適応は維持療法のみ # 保険適応は躁病 躁状態のみ 17 3

躁病エピソードの治療 1 躁病エピソードの治療 2 最も推奨される治療 ( 一部の薬剤は適応外使用 ) 躁状態が中等度以上の場合 リチウムと非定型抗精神病薬 ( オランザピン, アリピプラゾール, クエチアピン, リスペリドン ) の併用 躁状態が軽度の場合 リチウム 次に推奨される治療 ( 一部の薬剤は適応外使用 ) バルプロ酸 非定型抗精神病薬 ( オランザピン, アリピプラゾール, クエチアピン, リスペリドン ) カルバマゼピン バルプロ酸と非定型抗精神病薬の併用 19 20 躁病エピソードの治療 3 双極性障害の大うつ病エピソードの治療 1 その他の推奨される治療 ( 一部の薬剤は適応外使用 ) 気分安定薬 2 剤以上の併用 気分安定薬と定型抗精神病薬 ( クロルプロマジン, スルトプリド, ハロペリドール, レボメプロマジン, チミペロン, ゾテピン ) の併用 電気けいれん療法 推奨されない治療 ラモトリギン トピラマート ベラパミルなど 21 推奨される治療 ( オランザピン以外は適応外使用 ) クエチアピン (300mg/ 日 ) リチウム (0.8mEq/L を超える血中濃度に到達後, 最低でも 8 週間は経過観察を行う ) オランザピン (5~20 mg/ 日 ) ラモトリギン (200mg/ 日,HRSD 得点が 25 点以上の症例 ) 22 双極性障害の大うつ病エピソードの治療 2 双極性障害の維持療法 (A. 薬物療法 ) 1 その他の推奨される治療 リチウムとラモトリギンの併用 電気けいれん療法 推奨されない治療 三環系抗うつ薬の使用 抗うつ薬による単独治療 23 など 最も推奨される治療 ( 適応外使用 ) リチウム (0.4~1.0mEq/L を目安とする ) 次に推奨される治療 ( ラモトリギン以外は適応外使用 ) ラモトリギン オランザピン クエチアピン リチウムまたはバルプロ酸とクエチアピンの併用 リチウムとラモトリギンの併用 アリピプラゾール リチウムとアリピプラゾールの併用 リチウムとバルプロ酸の併用 24 バルプロ酸 4

双極性障害の維持療法 (A. 薬物療法 ) 2 双極性障害の維持療法 (B. 心理社会的治療 ) その他の推奨される治療 ( いずれの薬剤も適応外使用 ) カルバマゼピン リスペリドン持効性注射剤 ( 充分な心理教育を行ってもなお服薬不遵守の患者 ) 上記以外の気分安定薬同士, あるいは気分安定薬と非定型抗精神病薬の組み合わせ 甲状腺ホルモン剤 推奨されない治療 抗うつ薬 ( 特に三環系抗うつ薬 ) の使用 抗うつ薬単剤での治療など 25 推奨される治療 ( いずれも薬物療法との併用 ) 心理教育 対人関係 - 社会リズム療法 家族療法 その他の推奨されうる治療 ( 薬物療法との併用 ) 認知行動療法 推奨されない治療 薬物療法なしに, 心理社会的治療単独での治療 26 リチウム 歴史が古い 予防効果 抗躁作用 抗うつ作用 自殺予防効果 第一選択薬 副作用が多い ( 口渇 振戦 嘔気等 ) 安全域が狭く 中毒になりやすい 血中濃度測定が必要 ( トラフ値で 0.4~1.0mM) 腎障害予防 アドヒアランスの両面から 1 日 1 回投与が良い ( 添付文書では維持期は 1~3 回分割投与 ) 妊娠中は禁忌 27 リチウムは 1 日 1 回の方が腎障害が少ない 徐放剤を 1 日 2 回 人数 n=95 n=28 普通錠を 1 日 1 回 年齢 ( 歳 ) 43.2±12.1 50.5±12.1 投与期間 ( 年 ) 6.5±3.6 8.0±2.2 平均血中濃度 0.88±0.19 0.93±0.15 尿量 (L/ 日 ) (median) 2.83 (1.06-8.15) 2.38 * (1.44-3.57) GFR(ml/min) 99.5±26.6 90.3±19.4 (Schou et al, Psychopharmacology 77: 387-390, 1982) 28 リチウムの自殺予防効果のメタ解析 双極性障害 or うつ病に対する 48 臨床試験 (6674 名 15 種の比較 ) のメタ解析 リチウムは両疾患で自殺を顕著に減少 (OR=0.13 95%CI 0.03-0.66) 全ての原因による死亡を減らす (OR=0.38 95%CI 0.15-0.95) 双極性障害に有効な心理社会的治療 心理教育 ( 疾患の受容 ) 家族療法 ( 悪循環の打破 ) 認知行動療法 ( うつ状態の過ごし方 ) 対人関係社会リズム療法 ( 生活のリズム ) セルフヘルプグループ (Cipriani et al, BMJ 346: f3646, 2013) 29 5

双極性障害患者が服薬しない理由 疾病の否認 (N=140) 双極性障害における気分安定薬による維持療法の問題点 副作用もう治った役に立たない薬がなくなった薬代がかかる多幸感がなくなる 病気じゃないから (Keck PE et al, Psychopharmacol Bull 1997: 33: 87-91) 0% 20% 40% 60% 80% 服薬不遵守による再発が多い 1) 服薬に関わる患者の心理の理解 2) 服薬不遵守に対する心理療法的アプローチ 臨死患者の心理 ( キュブラー = ロス 1971) 第 1 段階否認 第 2 段階怒り 第 3 段階取引 第 4 段階抑うつ 第 5 段階受容 双極性障害患者の心理 第 1 段階否認 第 2 段階怒り 第 3 段階取引 第 4 段階抑うつ 第 5 段階受容 自分は病気ではない精神病者だというのか! 自分だけは再発しない精神病者になってしまった躁うつ病とつきあおう ( 加藤忠史 高橋良斉 高橋三郎 : 双極性感情障害における集団療法の試み. 精神科治療学 10: 165-170) 双極性障害患者への心理療法 心理教育 受容的精神療法 生活療法自助グループ 自分は病気ではない精神病者だというのか! 自分だけは再発しない精神病者になってしまった躁うつ病とつきあおう 受容プロセスのモニタリング 双極性障害治療の心構え 本人 家族が病気を良く理解する 病気を受容し 再発予防の薬を服用する 正しい薬の作用 副作用の知識を持つ 100% を目指さない 再発の初期徴候を知る 自分のストレスを知り色々な対処法を持つ 生活のリズムを守る ( 加藤忠史 高橋良斉 高橋三郎 : 双極性感情障害における集団療法の試み. 精神科治療学 10: 165-170) 36 6

うつ状態の過ごし方 休みをとる 100% を目指さない ( 認知療法 ) 日の光を浴びるスケジュールを考える生活のリズムを守る ( 社会リズム療法 ) 食生活に気をつける気分にあった音楽を聴く香りを利用するアルコールは避ける 37 内容 1) 双極性障害とは 2) 双極 Ⅰ 型障害の病態と治療 3) 双極 Ⅱ 型障害の病態と治療 4) 研究の必要性 38 双極 Ⅱ 型障害 患者数は 双極 Ⅰ 型障害より多い可能性もあり その治療は大きな課題 データが少なく確定的なことが言い難い 当初は躁状態で入院しなかった躁うつ病 現在では軽症の人が含まれ 多様化 治療成績を検討するにも 診断の幅が施設によって一定しない 双極 Ⅱ 型障害の治療 薬物療法は双極 Ⅰ 型に準じる 場合によっては抗うつ薬 (SSRI) の併用もありうるが 悪化のリスクはある 薬物療法だけではうまくいかない うつ状態と寛解期 そして寛解期と軽躁状態の境界が曖昧 治療目標を見失いやすく ( 症状? 悩み?) 治療関係が不安定になりやすい 40 内容 目指したい未来の双極性障害診療 1) 双極性障害とは 2) 双極 Ⅰ 型障害の病態と治療 3) 双極 Ⅱ 型障害の病態と治療 4) 研究の必要性 診断 定義治療 転帰イメージ 現在 面接のみ医師によって違う場合も自覚症状治るのに時間がかかる気分安定薬 ( 副作用 ) いつまでも服用社会復帰できない人もこころの病 ( 偏見 ) 研究進展後 面接 + 検査 ( 血液 脳画像 ) 脳の病変即効性の薬剤根本的治療薬幹細胞療法? 通常の社会生活脳という身体の疾患 41 7

臨床研究 双極性障害研究の道筋 基礎研究 双極性障害の原因 ゲノム研究でまれな原因遺伝子発見 エンドフェノタイプ研究 死後脳研究で確認 臨床単位として確立 脳病態診断法の確立 臨床試験 動物モデル作成 モデルの妥当性の確認 脳病態の解明 脳病態診断法の開発 根本的治療法 予防法の開発 ( 加藤忠史. 岐路に立つ精神医学勁草書房 2013) 血液細胞細胞内 Ca 2+ シグナリング変化 遺伝学 細胞膜イオン輸送 (Ca 2+ 含む ) 薬理学 気分安定薬の神経保護作用 脳画像 皮質下高信号 神経細胞の脆弱性 ミトコンドリア機能障害? 双極性障害研究の課題 ゲノム研究で原因遺伝子を発見原因遺伝子変異を持つマウスマウスで脳の異常を解明死後脳で異常を確認 参考 日本うつ病学会双極性障害委員会 躁うつ病のホームページ 双極性障害研究ネットワーク @ KatoTadafumi 患者さんの脳が保存されていない! 診断法 治療法の開発 加藤忠史 : 岐路に立つ精神医学勁草書房 2013 46 8