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Microsoft PowerPoint - 020_改正高齢法リーフレット<240914_雇用指導・


今回の改正によってこの規定が廃止され 労使協定の基準を設けることで対象者を選別することができなくなり 希望者全員を再雇用しなければならなくなりました ただし 今回の改正には 一定の期間の経過措置が設けられております つまり 平成 25 年 4 月 1 日以降であっても直ちに希望者全員を 歳まで再雇用

26公表用 栃木局版(グラフあり)(最終版)

①公表資料本文【ワード軽量化版】11月8日手直し版【1025部長レク⑤後】平成30年61本文(元データあり・数値1004版)

市報2016年3月号-10

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Microsoft Word - コピー ~ (確定) 61発表資料(更新)_

Microsoft PowerPoint - 【資料3-2】高年齢者の雇用・就業の現状と課題Ⅱ .pptx

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

2 継続雇用 の状況 (1) 定年制 の採用状況 定年制を採用している と回答している企業は 95.9% である 主要事業内容別では 飲食店 宿泊業 (75.8%) で 正社員数別では 29 人以下 (86.0%) 高年齢者比率別では 71% 以上 ( 85.6%) で定年制の採用率がやや低い また

みずほインサイト 政策 2013 年 2 月 20 日 希望者全員を 65 歳まで雇用義務化高齢者が活躍できる職場の創設と人材育成が課題 政策調査部上席主任研究員堀江奈保子 年 4 月 1 日に高年齢者雇用安

「高年齢者雇用安定法《のポイント

スライド 1

取材時における留意事項 1 撮影は 参加者の個人が特定されることのないよう撮影願います ( 参加者の顔については撮影不可 声についても収録後消去もしくは編集すること ) 2 参加者のプライバシーに配慮願います 3 その他 (1) 撮影時のカメラ位置等については 職員の指示に従ってください (2) 参

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

中央労働災害防止協会発表

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少子高齢化班後期総括

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社会保障 税一体改革大綱(平成24 年2月17 日閣議決定)社会保障 税一体改革における年金制度改革と残された課題 < 一体改革で成立した法律 > 年金機能強化法 ( 平成 24 年 8 月 10 日成立 ) 基礎年金国庫負担 2 分の1の恒久化 : 平成 26 年 4 月 ~ 受給資格期間の短縮

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

定していました 平成 25 年 4 月 1 日施行の 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律 では, 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが, 平成 25 年 4 月 1 日の改正法施行の際, 既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準につい

3. 継続雇用制度の対象者基準の経過措置 Q3-1: Q3-2: Q3-3: Q3-4: Q3-5: Q3-6: Q3-7: すべての事業主が経過措置により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることができますか 改正高年齢者雇用安定法が施行された時点で労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する

目次 問 1 労使合意による適用拡大とはどのようなものか 問 2 労使合意に必要となる働いている方々の 2 分の 1 以上の同意とは具体的にどのようなものか 問 3 事業主の合意は必要か 問 4 短時間労働者が 1 名でも社会保険の加入を希望した場合 合意に向けての労使の協議は必ず行う必要があるのか

PowerPoint プレゼンテーション

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資料4 270924【セット】高齢者現状

平成30年版高齢社会白書(概要版)(PDF版)

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

第3節 重点的な取り組み

23 歳までの育児のための短時間勤務制度の制度普及率について 2012 年度実績の 58.4% に対し 2013 年度は 57.7% と普及率は 0.7 ポイント低下し 目標の 65% を達成することができなかった 事業所規模別では 30 人以上規模では8 割を超える措置率となっているものの 5~2

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日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

資料9

H30年度 シンポジウム宮城・基調講演(藤波先生)

子宮頸がん予防措置の実施の推進に関する法律案要綱

3. 無期労働契約への転換後の労働条件無期労働契約に転換した後の職務 勤務地 賃金 労働時間等の労働条件は 労働協約 就業規則または個々の労働契約等に別段の定めがない限り 直前の有期労働契約と同一になるとされており 無期転換に当たって職務の内容などが変更されないにもかかわらず 無期転換後の労働条件を

することを可能とするとともに 投資対象についても 株式以外の有価証券を対象に加えることとする ただし 指標連動型 ETF( 現物拠出 現物交換型 ETF 及び 金銭拠出 現物交換型 ETFのうち指標に連動するもの ) について 満たすべき要件を設けることとする 具体的には 1 現物拠出型 ETFにつ

①-1公表資料(本文 P1~9)

等により明示するように努めるものとする ( 就業規則の作成の手続 ) 第 7 条事業主は 短時間労働者に係る事項について就業規則を作成し 又は変更しようとするときは 当該事業所において雇用する短時間労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努めるものとする ( 短時間労働者の待遇の原

第 Ⅰ 部本調査研究の背景と目的 第 1 節雇用確保措置の義務化と定着 1. 雇用確保措置の義務化 1990 年代後半になると 少子高齢化などを背景として 希望者全員が その意欲 能力に応じて65 歳まで働くことができる制度を普及することが 政策目標として掲げられた 高年齢者雇用安定法もこの動きを受

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Microsoft PowerPoint - 7.【資料3】国民健康保険料(税)の賦課(課税)限度額について

いる 〇また 障害者の権利に関する条約 においては 障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとされている 〇一方 成年被後見人等の権利に係る制限が設けられている制度 ( いわゆる欠格条項 ) については いわゆるノーマライゼーションやソーシャルインクルージョン ( 社会的包摂 ) を基本理念とする成年

- 調査結果の概要 - 1. 改正高年齢者雇用安定法への対応について a. 定年を迎えた人材の雇用確保措置として 再雇用制度 導入企業は9 割超 定年を迎えた人材の雇用確保措置としては 再雇用制度 と回答した企業が90.3% となっています それに対し 勤務延長制度 と回答した企業は2.0% となっ

高齢社会は危機かチャンスか

問題の背景 高齢者を取り巻く状況の変化 少子高齢化の急速な進展 2015 年までの労働力人口の減少 厚生年金の支給開始年齢の段階的引き上げ 少なくとも 年金開始年齢までは働くことのできる 社会 制度づくり ( 企業への負担 ) 会社にとっての問題点 そしてベストな対策対策が必要に!! 2

付加退職金の概要 退職金の額は あらかじめ額の確定している 基本退職金 と 実際の運用収入等に応じて支給される 付加退職金 の合計額として算定 付加退職金は 運用収入等の状況に応じて基本退職金に上乗せされるものであり 金利の変動に弾力的に対応することを目的として 平成 3 年度に導入 基本退職金 付

資料2:再任用制度と「雇用と年金の接続」の概要

Microsoft PowerPoint - 2の(別紙2)雇用形態に関わらない公正な待遇の確保【佐賀局版】

被用者年金一元化パンフ.indd

平均賃金を支払わなければならない この予告日数は平均賃金を支払った日数分短縮される ( 労基法 20 条 ) 3 試用期間中の労働者であっても 14 日を超えて雇用された場合は 上記 2の予告の手続きが必要である ( 労基法 21 条 ) 4 例外として 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の

Microsoft Word 年度評価シート.docx

改正要綱 第 1 国家公務員の育児休業等に関する法律に関する事項 育児休業等に係る職員が養育する子の範囲の拡大 1 職員が民法の規定による特別養子縁組の成立に係る監護を現に行う者 児童福祉法の規定により里親である職員に委託されている児童であって当該職員が養子縁組によって養親となることを希望しているも

Microsoft Word - 雇用継続制度

Ⅲ コース等で区分した雇用管理を行うに当たって留意すべき事項 ( 指針 3) コース別雇用管理 とは?? 雇用する労働者について 労働者の職種 資格等に基づき複数のコースを設定し コースごとに異なる配置 昇進 教育訓練等の雇用管理を行うシステムをいいます ( 例 ) 総合職や一般職等のコースを設定し

基金通信

問 2 次の文中のの部分を選択肢の中の適切な語句で埋め 完全な文章とせよ なお 本問は平成 28 年厚生労働白書を参照している A とは 地域の事情に応じて高齢者が 可能な限り 住み慣れた地域で B に応じ自立した日常生活を営むことができるよう 医療 介護 介護予防 C 及び自立した日常生活の支援が

厚生年金の適用拡大を進めよ|第一生命経済研究所|星野卓也

高年齢者雇用就業対策の体系 1 年齢にかかわりなく意欲と能力に応じて働くことができる 生涯現役社会 の実現に向けた高年齢者の就労促進 年齢にかかわりなく働くことができる企業の普及に向けた支援を充実するとともに 高齢期にさしかかった段階で 高齢期の生き方を見つめ直すことを奨励するなど 生涯現役社会の実

改正労働基準法

参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

図 1 年金の支給開始年齢の引上げスケジュール めることになっているため 再 任 用 制 度を 用すること 定年退職者を臨時職員や非常勤嘱託など 再 雇 用 再 任 用 制 度が導 入される以 前 の動きを受けて 地方 自 治 体においても再 で雇用する際に使われていた言葉 設けていないところもあり

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資料1 短時間労働者への私学共済の適用拡大について

平成 27 年改正の概要 ( サマリー ) 一般労働者派遣事業 ( 許可制 ) 特定労働者派遣事業 ( 届出制 ) 26 業務 期間制限なし 26 業務以外 原則 1 年 意見聴取により最長 3 年まで 規定なし 規定なし 1. 許可制への統一 2. 派遣契約の期間制限について すべての労働者派遣事

(3) 始業 終業時刻が労働者に委ねられることの明確化裁量労働制において 使用者が具体的な指示をしない時間配分の決定に始業及び終業の時刻の決定が含まれることを明確化する (4) 専門業務型裁量労働制の対象労働者への事前通知の法定化専門業務型裁量労働制の導入に当たり 事前に 対象労働者に対して 1 専

☆表紙・目次 (国会議員説明会用:案なし)

資料 3 時代の要請を受けた 消費者保護の課題について 平成 31 年 4 月 経済産業省商務 サービスグループ 商取引監督課

事業活動の縮小に伴い雇用調整を行った事業主の方への給付金

Microsoft PowerPoint 榔本è−³äººè³⁄挎.pptx

資料3

に該当する者に支給されるものに限る ) 移転費及び 3の求職活動支援費の支給対象とすることとされた ( 第 56 条の3 第 1 項第 2 号及び同条第 2 項関係 ) 3 高年齢被保険者 ( 教育訓練を開始した日が高年齢被保険者でなくなった日から1 年以内にある者を含む ) について 教育訓練給付

(1) 政府の方針 (2) 近年の法改正の動向 (3) 国の高齢者雇用施策の概要 2 神奈川県の取組 (1) シニア ジョブ スタイル かながわ (2) 神奈川生涯現役促進協議会の取組 (3) 第 10 次神奈川県職業能力開発計画 (4) 経済団体への要請 (5) シルバーベンチャーの創出促進 (6

日本の少子高齢化と経済成長

女性が働きやすい制度等への見直しについて

ⅰ. キーワードや法令を知る 01 処遇検討の背景 少子高齢化が急速に進展する中 労働力人口の減少に対応し 経済と社会を発展させるため 高年齢者をはじめ働くことができる全ての人が社会を支える全員参加型社会の実現が求められております また 現在の年金制度に基づき平成 25 年度から特別支給の老齢厚生年

スライド 1

PowerPoint プレゼンテーション

< 目的 > 専ら被保険者の利益 にはそぐわない目的で運用が行われるとの懸念を払拭し 運用に対する国民の信頼を高める 運用の多様化 高度化が進む中で 適切にリスクを管理しつつ 機動的な対応を可能に GPIF ガバナンス強化のイメージ ( 案 ) < 方向性 > 1 独任制から合議制への転換基本ポート

< 現行 > 対象者医療区分 Ⅰ(Ⅱ Ⅲ 以外の者 ) 1 * 医療の必要性の低い者医療区分 Ⅱ Ⅲ 1 2 * 医療の必要性の高い者 ( 指定難病患者を除く ) 3 指定難病患者 2 生活療養標準負担額のうちにかかる部分 1 日につき32 1 日につき 1 日につき < 見直し後 > 対象者医療区

1 ハローワークとは 1

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第22回規制改革会議 資料3

女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する取組指針について

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別添

の業務について派遣先が九の 1 に抵触することとなる最初の日 六派遣先への通知 1 派遣元事業主は 労働者派遣をするときは 当該労働者派遣に係る派遣労働者が九の 1の ( 二 ) の厚生労働省令で定める者であるか否かの別についても派遣先に通知しなければならないものとすること ( 第三十五条第一項関係

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5. 退職一時金に係る就業規則のとりまとめ 退職一時金に係る就業規則の提供があった企業について 退職一時金制度の状況をとりまとめた なお 提供された就業規則を分析し 単純に集計したものであり 母集団に復元するなどの統計的な処理は行っていない 退職一時金の支給要件における勤続年数 退職一時金を支給する

JILPT 高齢者の雇用 採用に関する調査結果 (2008) の概要 高齢者の雇用 採用に関する調査 (2008 年 8-9 月実施 ) 高年齢者雇用関連の法制度が整備される中で 企業の高齢者の雇用や採用に関する最近の取組等を把握 全国の常用雇用 50 人以上の民営企業 社を対象 有効回

目次. 独立行政法人労働政策研究 研修機構による調査 速報値 ページ : 企業調査 ページ : 労働者調査 ページ. 総務省行政評価局による調査 ページ

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2. 年金額改定の仕組み 年金額はその実質的な価値を維持するため 毎年度 物価や賃金の変動率に応じて改定される 具体的には 既に年金を受給している 既裁定者 は物価変動率に応じて改定され 年金を受給し始める 新規裁定者 は名目手取り賃金変動率に応じて改定される ( 図表 2 上 ) また 現在は 少

第 3 章 就労促進に向けた労働市場の需給面及び質面の課題 くなり いきがい 社会参加 や 頼まれた といった社会とのつながりによる理由が高くなっており 長期的にも上昇傾向にある 一方 女性については いずれの年齢層も 経済上の理由 が最も高くなっているが 男性よりその割合は小さく いきがい 社会参

社会保険診療報酬の所得計算の特例措置の概要 概要 医業又は歯科医業を営む個人及び医療法人が 年間の社会保険診療報酬が 5,000 万円以下であるときは 当該社会保険診療に係る実際経費にかかわらず 当該社会保険診療報酬を 4 段階の階層に区分し 各階層の金額に所定の割合を乗じた金額の合計額を社会保険診

ための手段を 指名 報酬委員会の設置に限定する必要はない 仮に 現状では 独立社外取締役の適切な関与 助言 が得られてないという指摘があるのならば まず 委員会を設置していない会社において 独立社外取締役の適切な関与 助言 が十分得られていないのか 事実を検証すべきである (2) また 東証一部上場

Transcription:

雇用と年金支給開始年齢の確実な接続のために 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案 さとう厚生労働委員会調査室佐藤 てつお哲夫 1. はじめに 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 は 戦後の経済の高度成長に伴う労働力需給の著しい改善から取り残された中高年齢者の雇用対策を目的として 昭和 46 年に 中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法 として制定された その後 昭和 61 年の法改正により 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 に法律名が変更され さらに 5 次にわたる改正を経て今日に至っている 本稿は 高年齢者雇用の現状に触れるとともに 平成 24 年 1 月召集の第 180 回国会に提出された 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案 について その提出の背景と経緯 法律案の概要 主な論点を紹介するものである 2. 法律案提出の背景と経緯 (1) 背景ア少子高齢化の進展と高年齢就業者数の増加平成 22 年国勢調査によれば 平成 22(2010) 年には 総人口 1 億 2,806 万人 生産年齢人口 8,173 万人 ( 生産年齢人口割合 63.8%) 1 老年人口 2,948 万人 ( 老年人口割合 23.0%) 2 であった 平成 24(2012) 年 1 月に発表された新しい人口推計 3 によれば 平成 42(2030) 年には 総人口 1 億 1,662 万人 生産年齢人口 6,773 万人 ( 生産年齢人口割合 58.1%) 老年人口 3,685 万人 ( 老年人口割合 31.6%) に 平成 72(2060) 年には 総人口 8,674 万人 生産年齢人口 4,418 万人 ( 生産年齢人口割合 50.9%) 老年人口 3,464 万人 ( 老年人口割合 39.9%) となると推計され 高齢化の進展と生産年齢人口の減少傾向が続くことが見込まれている また 平成 23(2011) 年の年齢階級別の就業率を前提とした場合の就業者数を見ると 平成 23(2011) 年は 15~64 歳層で 5,433 万人 65 歳以上層で 544 万人であるが 平成 42(2030) 年には 15~64 歳層で 4,761 万人 65 歳以上層で 711 万人になると推計され 15~64 歳層では約 670 万人の減少となるが 65 歳以上層では約 170 万人の増加が見込まれている 4 イ高年齢者雇用等の現状 雇用失業情勢を見ると 平成 22 年における完全失業率は 総数が 5.1% であるのに

対して 55~59 歳層で 4.3% 60~64 歳層で 5.7% 65 歳以上層で 2.4% となっており 60~64 歳層で総数より高い数字となっている 5 就業状況を見ると 51 人以上規模の企業における常用労働者は 60~64 歳層は 平成 17 年に約 78 万人 平成 23 年に約 175 万人 65 歳以上層では 平成 17 年に約 26 万 5,000 人 平成 23 年に約 55 万 5,000 人と大幅に増加している 6 就業率を見ると 60~64 歳層では 平成 17 年に 52.0% 平成 23 年に 57.3% 65 歳以上層では 平成 17 年に 19.4% 平成 23 年に 19.3% となり 7 65 歳以上層では横ばいであるが 60~64 歳層では増加傾向にある 就業意欲については 60 歳以上の男女を対象とした調査によれば 60 歳くらいまでとする者が 9.7% であるのに対し 65 歳くらいまでとする者 19.2% 70 歳くらいまでとする者 23.0% 75 歳くらいまでとする者 10.4% 76 歳以上とする者 2.4% 働けるうちはいつまでもとする者 36.8% である 8 65 歳を超えて働きたいとする者は 35.8% で 働けるうちはいつまでもとする者と合わせると 7 割程度を占めることになる 就業者について仕事をした主な理由を見ると 男性では 経済上の理由とする者は 55~59 歳層 84.7% 60~64 歳層 73.2% 65~69 歳層 53.0% 生きがい 社会参加のためとする者は 55~59 歳層 6.5% 60~64 歳層 7.6% 65~69 歳層 15.3% となっている 年齢が上がるにつれて 経済上の理由が減り 生きがい 社会参加のためとする者が増える傾向にあるが 基礎年金の支給開始年齢に到達する 65 歳 ~69 歳層でも経済上の理由とする者が 5 割程度を占めていることとなる また 女性では 経済上の理由とする者は 55~59 歳層 68.0% 60~64 歳層 56.9% 65~69 歳層 44.5% 生きがい 社会参加のためとする者は 55~59 歳層 12.3% 60 ~64 歳層 16.2% 65~69 歳層 15.4% となっている 年齢が上がるにつれて 経済上の理由が減ることは男性と同じ傾向であるが 生きがい 社会参加のためとする者については 男性と異なり ほぼ横ばいという傾向にある 9 ウ高年齢者に係る雇用制度の現状平成 23 年では 定年制を定めている企業は 92.9% そのうち一律の定年制を定めている企業は 98.9% である また 定年年齢については 60 歳とする企業が最も多くて 82.2% 65 歳以上とする企業は 14.0% となっている 10 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 ( 以下 高年齢者雇用安定法 という ) に沿った年金支給開始年齢までの高年齢者雇用確保措置 ( 定年の引上げ 継続雇用制度の導入 定年の定めの廃止 ) の実施状況を見ると 実施済みの企業は 31 人以上規模の企業 13 万 8,429 社中 13 万 2,429 社 95.7% となっている そのうち 定年の定めの廃止の措置を講じた企業は 2.8% 定年の引上げの措置を講じた企業は 14.6% 継続雇用制度の導入の措置を講じた企業は 82.6% となっている 11 継続雇用制度を導入した企業のうち 希望者全員を対象とする制度を導入した企業は 43.2% 制度の対象となる高年齢者に係る基準 ( 以下 対象者基準 という ) 12 を定めた企業は 56.8% である また 希望者全員が 65 歳以上まで働ける企業の割合は 47.9% となっている 13

定年後 継続雇用制度により継続雇用された者の割合 人数について見ると 過去 1 年間の定年到達者約 43 万 5,000 人のうち 定年後に継続雇用された者の割合は 73.6% 約 32 万人となっている 継続雇用制度による高年齢者雇用確保措置を講じている企業について 定年後の継続雇用者の割合は 希望者全員を継続雇用する企業で 82.3% 対象者基準の該当者を継続雇用する企業では 69.5% となっている 継続雇用を希望したが 対象者基準非該当により離職した者は約 7,600 人 継続雇用希望者全体の2.3% 定年到達者全体の 1.8% となっている 14 エ年金支給開始年齢の引上げ少子高齢化の急速な進展と経済の低成長の長期化が予想される状況にあり また 厚生年金保険の財政再計算により厚生年金保険料率の大幅引上げが必要との試算がなされたことなどから これまで 2 度の法改正により 老齢厚生年金の支給開始年齢が引き上げられることとなった まず 平成 6 年の法改正により 老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は 平成 13 年度から 25 年度にかけて 60 歳から 65 歳へ3 年ごとに1 歳ずつ引き上げられ 60 歳からは報酬比例部分のみが支給されることとされた ( 女性は5 年遅れで実施 ) また 平成 12 年の法改正により 老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢についても 段階的に引き上げていくこととし 平成 25 年度から 37 年度にかけて 60 歳から65 歳へ3 年ごとに1 歳ずつ引き上げていくこととされた ( 女性は5 年遅れで実施 ) (2) 経緯高年齢者を取り巻く厳しい雇用失業情勢 将来の生産年齢人口減少の見込み 年金制度改革による年金支給開始年齢の引上げを背景として 定年の引上げ 継続雇用制度の導入 定年の定めの廃止のいずれかの高年齢者雇用確保措置の義務付けとその段階的実施 継続雇用制度導入に当たっては対象者基準の設定を認めること等を主な内容とする 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律 が平成 16 年に成立した 15 この改正を受けて 平成 17 年 4 月 1 日に 平成 17 年度から平成 24 年度までを対象期間とする高年齢者等職業安定対策基本方針 16 ( 第 4 次 ) が告示され この基本方針に沿って取組が行われることとなった その後 更に取組内容を充実させるため 平成 21 年 4 月 1 日に 平成 21 年度から平成 24 年度までを対象期間とする高年齢者等職業安定対策基本方針 ( 第 5 次 ) が告示されることとなった 平成 22 年 6 月 18 日には 新成長戦略 が閣議決定され 急速に進展する我が国の少子高齢化に伴う労働力人口の減少を跳ね返し 経済の活力を維持するためには 若者 女性 高年齢者など全ての人が可能な限り社会の支え手となることが必要であるとの観点からの施策が進められることとなった 17 新成長戦略の閣議決定を受けて 平成 21 年 12 月 厚生労働省に 雇用政策研究会 が設置され 新成長戦略で目標とする平成 32 年に向け 重点的に取り組むべき雇用 労

働政策の方向性について検討が重ねられ 平成 22 年 7 月 14 日 報告書として 持続可能な活力ある社会を実現する経済 雇用システム 18 が取りまとめられた また 平成 22 年 11 月 厚生労働省に 今後の高年齢者雇用に関する研究会 が設置され 希望者全員の 65 歳までの雇用確保策及び年齢に関わりなく働ける環境の整備を中心とした議論 検討が行われ その結果が 平成 23 年 6 月 今後の高年齢者雇用に関する研究会報告 ~ 生涯現役社会の実現に向けて ~ としてまとめられた この報告書に述べられている施策の進め方 ( ポイント ) は次のとおりである 今後の高年齢者雇用に関する研究会報告における施策の進め方 ( ポイント ) 希望者全員の 65 歳までの雇用確保 希望者全員の 65 歳までの雇用確保のための方策としては 1 法定定年年齢を 65 歳まで引き上げる方法あるいは 2 希望者全員についての 65 歳までの継続雇用を確保する方法を考えるべき 1について 報酬比例部分の支給開始年齢の 65 歳への引上げ完了までには定年年齢が 65 歳に引き上げられるよう 引き続き議論することが必要 2について 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る現行の基準制度は廃止すべき また 雇用確保措置の確実な実施を図るため 未実施企業に対する企業名公表など指導の在り方を検討することが必要 12のいずれの方策をとる場合でも 賃金 人事処遇制度について 労使の話し合いにより適切な見直しを行うことが必要 生涯現役社会実現のための環境整備 生涯現役社会実現のための環境整備として 1 高齢期を見据えた職業能力開発及び健康管理の推進等 2 高年齢者の多様な雇用 就業機会の確保 3 女性の就労推進 4 超高齢社会に適合した雇用法制及び社会保障制度の検討を行っていくべきである ( 出所 ) 厚生労働省資料より引用 今後の高年齢者雇用に関する研究会報告 を受けて 労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会において 希望者全員の 65 歳までの雇用確保策及び生涯現役社会の実現に向けた環境の整備のための方策を中心に 更に議論が進められ 平成 24 年 1 月 6 日 厚生労働大臣に対して 今後の高年齢者雇用対策について ( 労働政策審議会建議 ) ( 以下 建議 という ) が建議された この建議のポイントは次のとおりである

今後の高年齢者雇用対策について ( 労働政策審議会建議 ) のポイント 1 法定定年年齢 (60 歳 ) の現状維持直ちに法定定年年齢を 65 歳に引き上げることは困難であり 中長期的に検討していくべき課題である 2 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止無年金 無収入となる者が生じることのないよう 雇用と年金を確実に接続させるため 現行の継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は廃止することが適当である また 基準廃止後の継続雇用制度の円滑な運用に資するよう 企業現場の取扱いについて労使双方に分かりやすく示すことが適当である 老齢厚生年金 ( 報酬比例部分 ) の支給開始年齢の段階的引き上げを勘案し できる限り長期間にわたり現行の9 条 2 項に基づく対象者基準を利用できる特例を認める経過措置を設けることが適当である 3 継続雇用における雇用確保先の対象拡大等子会社や関連会社など一定範囲のグループ企業など事業主としての責任を果たしていると言える範囲において 雇用確保先の対象拡大が必要である 他の企業での雇用を希望するような者が 再就職できるよう 定年前の産業雇用安定センターや有料職業紹介事業者を通じた高年齢者の円滑な労働移動の支援を強化する必要がある 希望者全員の 65 歳までの雇用確保についての普及 啓発や 同制度の導入に関する相談支援等について 特に経営環境の厳しい中小企業をはじめ 政府としても積極的に支援することが必要である 4 義務違反の企業に対する公表規定の導入等今後全ての企業で確実に措置が実施されるよう 指導の徹底を図り 指導に従わない企業に対する企業名の公表等を行うことが適当である ( 出所 ) 厚生労働省資料より引用 この建議に基づき 厚生労働省により 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案要綱 が作成され 平成 24 年 2 月 16 日 厚生労働大臣から労働政策審議会に対して諮問がなされ 同年 2 月 23 日 労働政策審議会から厚生労働大臣に対して 厚生労働省案は おおむね妥当と認める との答申がなされた なお この答申の際 使用者側の強い主張を受けて なお 使用者側委員からは 対象者基準を廃止する場合は 現行の継続雇用制度の定義について 現に雇用している高年齢者が希望するときは 定年後も引き続いて雇用することを原則とするよう改め 例外を認める制度であることを法律上明確化すべきとの意見があった とのなお書きが付されている この答申を受け 平成 24 年 3 月 9 日 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一

部を改正する法律案 が閣議決定され 同日第 180 回国会に提出された 3. 法律案の概要 (1) 趣旨男性の厚生年金 ( 報酬比例部分 ) の支給開始年齢が平成 25 年から 61 歳となり 平成 37 年にかけて 65 歳に引き上げられる これにより 60 歳の定年後 再雇用されない男性の一部に無年金 無収入の期間が生じる恐れがあることから この空白期間を埋めることにより無年金 無収入の期間の発生を防ごうとするものである (2) 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止前述のとおり 平成 16 年の法改正により 高年齢者雇用確保措置として 定年年齢の引上げ 継続雇用制度の導入 定年の定めの廃止のいずれかの措置を講じることが企業の義務として課せられることとなった 高年齢者雇用確保措置のうち 継続雇用制度は 原則として現に雇用している高年齢者が希望するときは 当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度である しかし 事業主が 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合 労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との労使協定により 対象者基準を定め 当該基準に基づく制度を導入した場合には 継続雇用制度を導入したものとみなすとする例外規定を置き 希望者全員を対象としない継続雇用制度の導入が可能となっている 高年齢者雇用確保措置のうち 最も多く講じられている措置は継続雇用制度であることから 高年齢者の就労をより一層促進させるため 今回の改正案において この例外規定を削除することとしたものである (3) 継続雇用制度の対象者が雇用される企業の範囲の拡大現行の高年齢者雇用安定法では 定年まで高年齢者が雇用されていた企業での継続雇用制度の導入を求めている 19 が 運用により一定の要件を満たす子会社は継続雇用制度による雇用先として認められている 20 しかし 高年齢者の増加に伴い 65 歳までの雇用先を更に確保していくためには 雇用先となる企業の範囲の拡大が必要とされてくることと これまで運用により行われてきた子会社での継続雇用を法文上明確にする必要から 今回の改正において 一定の要件を満たす子会社及び関連会社を継続雇用制度による雇用先の特例として認める規定を置くこととしたものである (4) 義務違反の企業に対する公表規定の導入平成 16 年の法改正により 企業に対して高年齢者雇用確保措置を講じることが義務付けられた この義務付けに伴い その履行確保措置として 高年齢者雇用確保措置を講じない企業に対して 厚生労働大臣は必要な指導及び助言を行うことができることとなり さらに この指導及び助言後もなお 高年齢者雇用確保措置を講じない企業に対し

て 厚生労働大臣は措置を講じることを勧告することができるとされた しかし 平成 23 年 6 月時点においても 高年齢者雇用確保措置を講じていない企業が 6,000 社 4.3% ある 21 という状況を踏まえ より一層 高年齢者雇用確保措置による雇用の確保を確実にするために 今回の改正において 勧告に従わない企業名を公表することができるとしたものである (5) 高年齢者等職業安定対策基本方針の見直し高年齢者等職業安定対策基本方針 ( 以下 基本方針 という ) は 高年齢者雇用安定法第 6 条に基づき 厚生労働大臣が策定する高年齢者等の職業の安定に関する施策の基本となるべき方針である 基本方針においては 高年齢者等の就業の動向に関する事項 高年齢者の雇用の機会の増大の目標に関する事項 事業主が行うべき諸条件の整備等に関して指針となるべき事項及び高年齢者等の職業の安定を図るための施策の基本となるべき事項を定めることとされている 高年齢者等の雇用の機会の増大の目標に関する事項は 現行の高年齢者雇用安定法により 65 歳未満の高年齢者を対象とすることとなっているが 現在の基本方針では 70 歳までの雇用 就業の目標が記載されており 齟齬が生じている このため 建議において変更が必要であるとされたことを受け 今回の法改正において 65 歳未満 とする制限に関する規定を削除することとしたものである (6) 施行期日 平成 25 年 4 月 1 日から施行するものとする (7) 経過措置改正前の高年齢者雇用安定法第 9 条第 2 項の規定により 高年齢者雇用確保措置を講じたものとみなされている事業主については 同条同項の規定は 平成 37 年 3 月 31 日までの間は なおその効力を有するものとしている この場合において 対象者基準の対象となる者の年齢を 老齢厚生年金 ( 報酬比例部分 ) の支給開始年齢の引上げに合わせて 次のとおり 段階的に引き上げるものとされている 図表対象者基準の対象年齢に関する経過措置 期間 対象者基準の対象となる者の年齢 法律の施行日から平成 28 年 3 月 31 日までの間 61 歳以上の者 平成 28 年 4 月 1 日から平成 31 年 3 月 31 日までの間 62 歳以上の者 平成 31 年 4 月 1 日から平成 34 年 3 月 31 日までの間 63 歳以上の者 平成 34 年 4 月 1 日から平成 37 年 3 月 31 日までの間 64 歳以上の者 ( 出所 ) 厚生労働省資料より筆者作成 4. 主な論点 ここでは 主な論点について 審議会等における議論を中心に紹介することとしたい

(1) 定年年齢の引上げ 60 歳定年制を導入している企業の割合は 92.9% に達しており 60 歳定年制はほぼ定着しているということができよう 厚生年金支給開始年齢の 65 歳への引上げに伴う雇用と年金の確実な接続という観点からは 定年年齢の 65 歳以上への引上げが最も確実な方法であると考えられる しかし 定年年齢を 65 歳以上とする定年制を導入している企業の割合は 14.0% であり 順調に導入が進んでいるとは言い難い状況にある このため 定年年齢の 65 歳以上への引上げに対して 使用者側からは 現在の導入状況から考えると企業への負担が重く時期尚早である 22 との指摘や解雇に関する厳しい規制を伴う現行の労働法制下では 定年年齢の在り方の検討自体が非常に困難である 23 との指摘がなされている 労働者側からも 希望者全員の 65 歳までの雇用確保が先であり 65 歳定年は今後のあるべき方向として検討すべきものである 24 との主張がなされている 建議においても 直ちに法定定年年齢を 65 歳以上に引き上げることは困難であり 中長期的に検討していくべき としており また 労使ともに 現時点での導入は困難としているが 雇用と年金の確実な接続という観点からは 引き続き 中長期的な観点から導入に向けた環境整備と労使間の議論を続けていくことが必要であろう (2) 対象者基準制度の廃止対象者基準制度は 平成 16 年の法改正により 高年齢者雇用確保措置導入が義務化された際 企業の負担増を考慮して導入された制度である 対象者基準制度に対しては 使用者側から 高齢になればなるほど個別対応が必要となること 労働者が最新の技術の習得を必要とする業種があることなどから 業種ごと 企業ごとの実態にあった対応を可能とする現行の労使協定という枠組みは必要であるとの主張がある また 例外のない 65 歳までの雇用義務は 労働者のモラルハザードを招く懸念があるとの指摘 定年前の解雇に厳しい規制がある現状の解雇法制においては 継続雇用の際の対象者基準は必要である 25 との指摘がなされている さらに 現行制度による継続雇用者に加えて 対象者基準の廃止により新たに生じる継続雇用者に関する人件費負担の増大が 企業に対してどのような影響を及ぼすかということも論点の一つとなるであろう これに対して 労働者側からは 継続雇用制度は原則として希望者全員を対象とする趣旨の制度であるから 対象となる高年齢者に係る基準の設定は認めない方向での見直しが必要である 26 再雇用であれば労働条件の見直しは可能であり 今までと同一スキルの労働力をより安いコストで使用できるメリットがある 27 との指摘がなされている なお 希望者全員の継続雇用について どのような場合に 使用者が雇用継続を不承諾とできるかも論点の一つとして挙げられる この点について 公益側から 使用者側には勤務態度に問題のある労働者の継続雇用への懸念があるようだが そのような者は定年前から勤務態度に問題があると考えられるので 定年前の解雇法制の適用を検討す 28 る必要がある旨の指摘がなされている また 継続雇用希望者が 病気等のため勤務に

耐えられない状況にあるなど 解雇し得る事由があると同視できる場合 意欲と能力を持った高年齢者が働くための環境整備を行うという法の趣旨から 事業主は継続雇用を不承諾とすることに合理性があると言い得るとの指摘 29 もなされている 全員を継続雇用制度の対象とすることが原則とはいえ 労働契約は労働力の提供が前提であり 労働力を十分に提供できない状態にある労働者へどのように対応するかが問題となる この問題への対応は 個々の労働者の状況や企業の実態に基づく対応が必要であり 個別の労使間の十分な協議が重要となってくると考えられる 今後は 労使間で十分な協議が公正に行われるよう 具体的なルール作りが必要になってくるであろう (3) 高年齢者雇用の促進が若年者雇用に及ぼす影響使用者側からは 平成 32 年時点において 労働力人口の減少以上に職の減少が進むため 若年者はもとより全体の失業率も上昇するとの試算がある 30 対象者基準制度が廃止され 希望者全員 65 歳までの継続雇用が義務付けられた場合の対応について 約 4 割の企業が 新卒の採用の減少で対応する と回答したとの調査結果がある 31 との指摘がなされた また 対象者基準の廃止による高年齢雇用者の増加が若年者雇用へ悪影響を及ぼすことが懸念される 32 との主張もなされている 労働者側からは 高年齢者雇用の増加による若年者雇用への影響といっても 平成 23 年の対象者基準非該当による離職者は定年到達者の 1.8% 約 7,600 人であり微々たるものである 33 との指摘や若年者と高年齢者では労働力が質的に異なるためそれほど問題にならない 34 との指摘がなされている なお 建議では 今後の労働力人口の減少などから 長期的な視点に立ち 高齢者 若年者の意欲と能力に応じて働くことのできる環境の整備をすることが重要であるとしているところである 高年齢者雇用と若年者雇用との代替性については 経済学者の間でも見解が定まっていない面があるとされており 35 また 雇用失業情勢はそのときどきの経済状況に左右される面が大きいことから 今後 高年齢者雇用対策とともに若年者雇用対策を実施しつつ 若年者雇用の動向も注視し 必要に応じて更に若年者雇用対策を充実させていくことが必要となってくるであろう (4) 継続雇用制度による雇用先の特例の範囲今後 高年齢者雇用確保措置による一層の高年齢者雇用の進展により 事業主には高年齢者の雇用先の確保の必要性がより高まってくると考えられる このため 今回の法改正において 継続雇用制度による雇用先の範囲を拡充することとされている しかし 使用者側から 中小企業では そもそも子会社や関連会社がないことから雇用先の拡大につながらないため 高年齢者雇用確保措置について 財団法人産業雇用安定センター 36 や民間の職業紹介会社を通じた雇用確保も 高年齢者雇用確保措置を講じたものと認めてほしい 37 との主張がなされている 38 これに対して 労働者側からは 継続雇用制度による雇用先の範囲拡大についての検

討はよいが 拡大の範囲は企業として責任の取れる範囲であり 親会社の実質的な支配力が及ぶか否かが一つの基準となり 基準は明確な形で示されることが必要である 39 との指摘がなされている 今回の法改正の施行に当たっては 高年齢労働者の不安を解消し その生活の安定を図るために 高年齢者の雇用の確保による雇用と年金の接続という法改正の趣旨を踏まえて 拡大範囲を具体的に定めていくことが必要となろう 5. むすび高年齢者雇用の現状の項で見たとおり 経済上の理由から就業する者は 男性の 60~ 64 歳層で 73.2% 65~69 歳層でも 53.0% を占めている また 平成 24 年 1 月の職業別有効求人倍率を見ると 事務的職業は 0.26 倍 管理的職業は 0.66 倍であり 高年齢者の再就職にとって厳しい状況となっており 高年齢者雇用の確保は重要性を増している 今回の法改正により 雇用と年金の接続に向けて 65 歳までの雇用確保に対する取組が更に進展し 高年齢者の生活の安定に資することになることは 一定の評価に値しよう ただし この法律による高年齢者雇用確保措置は 事業主に対する義務付けであり 直接個々の労働者の雇用義務を規定するものではないことから その適切な運用について注視していく必要がある また 平成 24 年 2 月 17 日に閣議決定された社会保障 税一体改革大綱では 中長期的な課題として更なる年金支給開始年齢の引上げの検討が盛り込まれており 所得保障という面から引き続き高年齢者の雇用確保を図っていくことが重要である 他方 それぞれの高年齢者の様々な経済状況 身体状況から そのライフスタイルも多様なものとなり 働く理由も必ずしも所得確保だけではなくなってきている 高年齢者は それまでの職業生活の中で様々な経験や技術を身につけてきている 人口減少の進展に伴う 生産年齢人口の減少が見込まれる中 高年齢者の持つ経験や技術を埋もれさせることなく でき得る限り活かすためには 短時間労働や協働労働など多様で柔軟な形の働く場を整備していくことも必要になってくるだろう 参考文献 労務行政編 高年齢者雇用安定法の実務解説 ( 労務行政社平成 18 年 ) 1 2 生産年齢人口とは 15~64 歳の人口をいう 生産年齢人口割合は総人口に対する生産年齢人口の割合を表す 老年人口とは 65 歳以上の人口をいう 老年人口割合は総人口に対する老年人口の割合を表し 高齢化率ということもある なお 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律における 高年齢者 とは 55 歳以上の者をいう 3 社会保障 人口問題研究所による出生率中位 死亡率中位と仮定した場合の推計 4 人口推計 ( 平成 24 年 1 月 ) による平成 42(2030) 年の生産年齢人口及び老年人口に総務省労働力調査 ( 岩手県 宮城県及び福島県を除く ) による平成 23(2011) 年の就業率 (15~64 歳 70.3% 65 歳以上 19.3%) を乗じたもの

5 総務省労働力調査による 6 厚生労働省平成 23 年高年齢者雇用状況報告による 7 総務省労働力調査による ( 平成 23 年は岩手県 宮城県及び福島県を除く ) 8 内閣府平成 20 年高齢者の地域社会への参加に関する意識調査による 9 独立行政法人労働政策研究 研修機構平成 21 年高年齢者の雇用 就業の実態に関する調査による 10 厚生労働省平成 23 年就労条件総合調査 ( 常用労働者 30 人以上の民営企業が対象 ) による 比較可能な最も古いデータである平成 20 年では 定年制を定めている企業は 94.4% そのうち一律の定年制を定めている企業は 98.4% である また 定年年齢を 60 歳とする企業は 85.2% 65 歳以上を定年年齢とする企業は 10.9% となっている 11 厚生労働省平成 23 年高年齢者雇用状況報告による 12 対象者基準制度は 高年齢者雇用確保措置の一つである継続雇用制度について 労使協定により継続雇用制度の対象となる労働者に係る基準を定めたときは 希望者全員を対象としない制度も可能とするものである 13 厚生労働省平成 23 年高年齢者雇用状況報告による 14 厚生労働省平成 23 年高年齢者雇用状況報告による 15 平成 16 年改正の主な内容は 1 年金支給開始年齢までの雇用確保のため 65 歳未満の定年の定めをしている事業主に対する高年齢者雇用確保措置の義務付け 2 事業主都合により解雇となった高年齢者に対する求職活動支援書の作成 交付 3 労働者の募集 採用の際に 65 歳未満の上限年齢を定める場合の求職者に対する理由提示の義務付け 4 高年齢者の就業機会の多様化に資するためシルバー人材センターの業務に関する特例措置である 施行期日は 1 については平成 18 年 4 月 1 日から順次施行され 平成 24 年度の義務年齢は 64 歳であり 平成 25 年度に 65 歳までの引上げが完了することとなっている 2 から 4 については平成 16 年 12 月 1 日からとなっている 16 高年齢者等職業安定対策基本方針は 高年齢者雇用安定法第 6 条に基づき 厚生労働大臣が策定する高年齢者等の職業の安定に関する施策の基本となるべき方針であり 高年齢者等の就業の動向に関する事項 高年齢者の雇用の機会の増大の目標に関する事項 事業主が行うべき諸条件の整備等に関して指針となるべき事項及び高年齢者等の職業の安定を図るための施策の基本となるべき事項を定めることとされている 17 新成長戦略 ( 平成 22 年 6 月 18 日閣議決定 ) では 国民すべてが意欲と能力に応じ労働市場の様々な社会活動に参加できる社会 ( 出番 と 居場所 ) を実現し 成長力を高めていくことを基本 とし 国民各層の就業率向上のために政策を総動員するという方針が示されている そして 厚生年金 ( 報酬比例部分 ) の支給開始年齢の 65 歳への引上げが開始される平成 25 年度を目前に控え 60 歳から年金支給開始年齢までの 5 年間 無年金 無収入となる者が生じる可能性があることから 雇用と年金の確実な接続が喫緊の課題とされた そのため 65 歳まで希望者全員の雇用が確保されるよう 施策の在り方について検討を行い その結果を踏まえ 平成 25 年度までに所要の措置を講ずべき としている また 2020 年に 60~64 歳までの就業率を 63% とする数値目標が盛り込まれている 18 第 4 章全員参加型社会 トランポリン型社会の構築 (1) 積極的労働市場政策 3 高齢者の就労促進 の項において 65 歳まで希望者全員の雇用が確保されるよう 施策の在り方について検討を行う必要がある とされている 19 継続雇用制度については 高年齢者雇用安定法第 9 条第 1 項第 2 号に 継続雇用制度 ( 現に雇用している高年齢者が希望するときは 当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう ) の導入 と規定されている 20 厚生労働省作成の改正高年齢者雇用安定法 Q&A によれば 定年まで高年齢者が雇用されていた企業以外の企業であっても 両者一体として一つの企業と考えられる場合であって 65 歳までの安定した雇用が確保されると認められる場合には 高年齢者雇用安定法第 9 条が求める継続雇用制度に含まれるものであると解釈でき るとして 具体的には 会社との間に密接な関係があること ( 緊密性 ) と子会社において継続雇用を行うことが担保されていること ( 明確性 ) の二つの要件を総合的に勘案して判断することとされている 21 厚生労働省平成 23 年高年齢者雇用状況報告による 22 平成 23 年 10 月 25 日 第 45 回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会 23 24 平成 23 年 9 月 12 日 第 43 回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会

25 26 平成 23 年 11 月 22 日 第 46 回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会 27 28 29 30 平成 23 年 11 月 22 日 第 46 回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会 31 平成 23 年 11 月 22 日 第 46 回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会 32 33 平成 23 年 12 月 26 日 第 48 回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会 34 平成 23 年 10 月 25 日 第 45 回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会 35 36 厚生労働大臣から無料職業紹介事業の許可を受け 産業構造の変化等に伴う労働力需給の変化に対応した労働力の産業間 企業間移動の円滑化に寄与するため 事業主に対して 出向 移籍による失業なき労働移動に関する情報提供 相談等を行っている 昭和 62 年 3 月 12 日設立 37 平成 23 年 11 月 22 日 第 46 回労働政策審議会職業安定分科会雇用対策基本問題部会 38 平成 24 年度から 定年退職予定者を有料職業紹介事業者や産業雇用安定センター等の無料職業紹介事業者のあっせん等により受け入れた場合 受け入れた企業に対して賃金の一部を助成することを内容とする助成金が新設されている 39