44_213

Similar documents
エンジンと Z ペラ推進器が船舶の騒音に及ぼす影響エンジンと Z ペラ推進器が船舶の騒音に及ぼす影響 * 及びその低減手法の評価に関する研究 * 及びその低減手法の評価に関する研究 ** ** 田代大和井桁正 ** 樹田代大和井桁正樹鹿窪 *** 勇太三浦信之鹿窪勇太三浦信之 Evaluation

FFT


Microsoft Word - 泉南阪南火葬場生活環境影響調査報告書(pdf用)

Microsoft Word - 騒音予測計算の紹介.doc

板ガラスの斜め入射音響透過損失に関する実験的検討その 2 斜め入射音響透過損失の算出方法に関する検討 板ガラスの斜め入射音響透過損失に関する実験的検討 その 2 斜め入射音響透過損失の算出方法に関する検討 松岡明彦 * 1 大阪谷彰 * 2 山内崇 * 1 小林正明 * 1 1. はじめに近年は室内

Slide 1

<4D F736F F F696E74202D A438B5A8CA48CA48B8694AD955C89EF5F97AC90DD8DE2967B5F AE989E692F18F6F E

Microsoft Word - 01宮川.doc

<4D F736F F D B8F8F5A8BE682CC919B89B992E18CB882C98AD682B782E98EC08FD88CA48B8695F18D B5A8BA6816A2E646F63>

グループ事業内容 グループ事業内容 トップシステムフロア エコエアーフローリング トップシステムフロア エコエアーフローリング オリジナルフローリング 管理 01 02

大脇 山下式 2012 予測計算シートの使い方 床衝撃音研究会

日本産業機械工業規格 JIMS K-1002:2015 ゴム及びプラスチック機械 - 竪型射出成形機 - 安全通則 ( 追補 1) for Rubber and Plastics Machinery Vertical Injection Moulding Machines Safety Requir

3. 試験体および実験条件 試験体は丸孔千鳥配置 (6 配置 ) のステンレス製パンチングメタルであり, 寸法は 70mm 70mm である 実験条件は, 孔径および板厚をパラメータとし ( 開口率は一定 ), および実験風速を変化させて計測する ( 表 -1, 図 -4, 図 -) パンチングメタ

F7-10 エンジンの Design of F7-10 High Bypass Turbofan Engine for P-1 Maritime Patrol Aircraft 空 部 ス 部 空エンジン 部 空 部 ス 部 空エンジン 部 F7-10 エンジン の P-1 の ファン エンジン 部

PowerPoint プレゼンテーション

省エネデバイスを考慮した舶用プロペラまわりのキャビテーション数値解析,三菱重工技報 Vol.49 No.1(2012)

<836F F312E706466>

150MHz 帯デジタルデータ通信設備のキャリアセンスの技術的条件 ( 案 ) 資料 - 作 4-4

極厚H形鋼・NSGH®鋼・NS-TWH®鋼

r 0 r 45 r 90 F 0 n

0302

<4D F736F F F696E74202D A957A A8EC0895E8D7182C982A882AF82E EF89FC915082CC82BD82DF82CC A83808DC5934B89BB A2E >

HP_GBRC-141, page Normalize_3 ( _GBRC-141.indb )

Microsoft PowerPoint - ce07-13b.ppt

技術資料 JARI Research Journal OpenFOAM を用いた沿道大気質モデルの開発 Development of a Roadside Air Quality Model with OpenFOAM 木村真 *1 Shin KIMURA 伊藤晃佳 *2 Akiy

Present Situation and Problems on Aseismic Design of Pile Foundation By H. Hokugo, F. Ohsugi, A. Omika, S. Nomura, Y. Fukuda Concrete Journal, Vol. 29

Microsoft Word - 8報告 上田 

CLT による木造建築物の設計法の開発 ( その 3)~ 防耐火性能の評価 ~ 平成 26 年度建築研究所講演会 CLTによる木造建築物の設計法の開発 ( その 3) ~ 防耐火性能の評価 ~ 建築防火研究グループ上席研究員成瀬友宏 1 CLT による木造建築物の設計法の開発 ( その 3)~ 防耐

untitled

Ⅰ. 世界海運とわが国海運の輸送活動 1. 主要資源の対外依存度 わが国は エネルギー資源のほぼ全量を海外に依存し 衣食住の面で欠くことのでき ない多くの資源を輸入に頼っている わが国海運は こうした海外からの貿易物質の安定輸送に大きな役割を果たしている 石 炭 100% 原 油 99.6% 天然ガ

2.2 実験結果 3 ケースの音響透過損失測定結果を JIS A : 2000 建築物及び建築部材の遮音性能の評価方法 - 第 1 部 : 空気音遮断性能 付属書 1 に規定された建築部材の空気音遮断性能の等級曲線に載せて図 -2 に示す この結果によると次のことが言える 1case-0

基礎講座 (騒音・振動)

75 unit: mm Fig. Structure of model three-phase stacked transformer cores (a) Alternate-lap joint (b) Step-lap joint 3 4)

AR 技術を用いた造船生産支援 システムの開発について 構造基盤技術系 松尾宏平 1

構造力学Ⅰ第12回

5 ii) 実燃費方式 (499GT 貨物船 749GT 貨物船 5000kl 積みタンカー以外の船舶 ) (a) 新造船 6 申請船の CO2 排出量 (EEDI 値から求めた CO2 排出量 ) と比較船 (1990~2010 年に建造され かつ 航路及び船の大きさが申請船と同等のものに限る )

<4D F736F F F696E74202D A957A A8A438FE E089B C68AC888D D82CC8C9F93A22E B8CDD8AB B83685D>

スライド 1

< B837B B835E82C982A882AF82E991CF905593AE90AB8CFC8FE382C98AD682B782E988EA8D6C8E40>

本日の講演内容 1.JRTT の技術支援について 1 新技術の調査研究 2 共有建造制度による政策誘導 3 離島航路旅客船建造における検討段階からの支援 4 船舶建造の技術支援 5 就航後の技術支援 2. 人にやさしい船 について 3. 人と環境に優しい船 について 1

国土技術政策総合研究所 研究資料

第 2 章 構造解析 8

CLT による木造建築物の設計法の開発 ( その 2)~ 構造設計法の開発 ~ 平成 26 年度建築研究所講演会 CLT による木造建築物の設計法の開発 ( その 2)~ 構造設計法の開発 ~ 構造研究グループ荒木康弘 CLT による木造建築物の設計法の開発 ( その 2)~ 構造設計法の開発 ~

Microsoft PowerPoint - chap8.ppt

Kumamoto University Center for Multimedia and Information Technologies Lab. 熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI 宮崎県美郷

サマリー Bowers & Wilkins の CM シリーズは 2006 年に発売された CM1 から発展し 時の経過とともに Bowers & Wilkins の製品ラインナップの中でも有数の充実したシリーズに成長しました そしてシリーズの一部モデルに採用された技術が大幅な進歩を遂げました 新し

大成建設技術センター報第 46 号 (2013), 音響シミュレーション技術の開発 TSounds シリーズとその展開 増田潔 *1 田中ひかり *1 *1 山口晃治 Keywords : sound simulation, noise propagation, floor impact sound

<4D F736F F D B B998BC682CC8FC C838B834D815B82C98CFC82AF82C481768DC58F4994C E646F6378>

<4D F736F F D CA8E A985F95B68DEC90AC977697CC81698EA DB91E8816A816995BD8CF5816A>

Microsoft Word doc

Microsoft PowerPoint - 01_内田 先生.pptx

PowerPoint プレゼンテーション

技術解説_有田.indd

ブレースの配置と耐力

特-2.indd


附属書A(参考)品質管理システム

西松建設技報

レーザ・アークハイブリッド溶接の一般商船への適用

例 e 指数関数的に減衰する信号を h( a < + a a すると, それらのラプラス変換は, H ( ) { e } e インパルス応答が h( a < ( ただし a >, U( ) { } となるシステムにステップ信号 ( y( のラプラス変換 Y () は, Y ( ) H ( ) X (

図 維持管理の流れと診断の位置付け 1) 22 22

杭の事前打ち込み解析

Microsoft PowerPoint - ВЬ“H−w†i…„…C…m…‰…Y’fl†j.ppt

FEM原理講座 (サンプルテキスト)

平成 23 年度 JAXA 航空プログラム公募型研究報告会資料集 (23 年度採用分 ) 21 計測ひずみによる CFRP 翼構造の荷重 応力同定と損傷モニタリング 東北大学福永久雄 ひずみ応答の計測データ 静的分布荷重同定動的分布荷重同定 ひずみゲージ応力 ひずみ分布の予測 or PZT センサ損


Transcription:

* ** 修理英幸 1. はじめに 船舶の騒音では, 船内騒音と船外の海中に放射される水中放射雑音がある. 船内騒音は, 乗客の乗り心地や客室の静寂性, 乗組員の作業性や居住性を対象としている. 一方, 水中放射雑音は, 船体に装備されているソナーなどの水中音響機器の性能への影響低減あるいは艦船などでは軍事上の非探知性を対象としている. 船舶では, 船体構造内に, 推進機関や発電機, ポンプ, 空調機器などの補機, 荷役機器などの多くの機器を搭載している. これらの機器からの騒音が船体内を伝播して客室, 船室及び作業室の騒音となる. 一般的に, 船舶は鋼あるいはアルミなどの金属材料で作られているために, 機械の振動が船体構造を伝播して居住区画あるいは作業区画の構造の振動となり, その振動から空中に放射される固体伝播音が, 機器から空中に放射されて空中を伝播する空気伝播音よりも影響が大きいと言う特徴がある. 船舶の騒音を低減するには, 空気伝播音と固体伝播音の両方の対策を検討する必要がある. また, 騒音対策を実施する場所については, 騒音源及びその設置場所, 伝播経路, 受音室 ( 居住 作業区画 ) がある. 最も効果的な対策は騒音源器機から発生する騒音及び音響域の振動を低減することである. 次には, 基本計画及び設計段階で, 騒音源器機の位置を考慮した居住区の配置計画と騒音レベルの予測を行い, 騒音規制値を満足する適切な居住区配置と居室の対策を決定することである. 本稿では, 快適で乗り心地の良い船舶及び船内環境を実現するための騒音低減対策について, 現状の技術と課題を報告する.. 騒音規制値 騒音に関してはより低いレベルや静粛が要求される. しかし, 船舶の設計を行う場合には, 静寂性, 作業性, 居住性を評価するための騒音基準が必要となる. 大型客船では, クルーズ人口の増加に伴って, 乗客は船内において高級ホテル並みの静かさや快適な空間, 船内のエンターテイメントをより音響効果の良い環境で楽 * 原稿受付平成 0 年 1 月 19 日. ** 正会員東海大学 ( 静岡市清水区折戸 3-0-1). しむことを要求するようになってきている. このため, 大型客船を運航する会社も快適さや娯楽性を更に重要視するようになってきた 1). ここでは, 作業性や居住性に対する騒音許容基準と静粛性や乗り心地に対する環境評価基準について紹介する..1 騒音許容基準 1981 年に IMO (International Maritime Organization) が, 総トン数 1,600 トン以上の船舶に対して, 船員の作業環境と居住環境の騒音許容基準 IMO A.468 (ⅩⅡ) Code on noise level onboard ships を勧告している. 安全な作業が可能な環境の確保, 聴力損傷などからの船員の保護, 健康を考慮した静粛な居住性の確保を目的としている. この IMO の騒音許容基準に基づいて, 各国は船舶の騒音規制値を制定している. 一般的に, 船舶建造の契約時に, 船主と造船所との間では,IMO の騒音許容基準や各国の騒音規制値をもとにした船内の騒音レベル値を規定する. 表 1に IMO A.468 (ⅩⅡ) の騒音許容基準を示す.1 日当り 8 時間以内の労働の場合, 最大許容騒音レベルは 85dB(A) である.85dB(A) 以上の騒音レベルの環境での作業には, 耳栓などの耳防護具の着用が要求されている. 騒音レベルは, 機関制御室 75dB(A), 食堂及び事務室などの公室 65dB(A), 船室及び病室 60dB(A) である. 表 1 IMO A.468( XII ) の騒音許容基準 Locations db(a) Work spaces Machinery spaces (continuously 90 manned) Machinery spaces (not continuously 110 manned) Machinery control rooms 75 Workshops 85 Navigation spaces Navigation bridge and chartrooms 65 Radio rooms 60 Radar rooms 65 Listening port, including navigation 70 bridge wings and windows Accommodation Cabins and hospitals 60 spaces Mess rooms, Recreation rooms 65 Offices 65 Service spaces Galleys, serveries and pantries 75 1 33 Journal of the JIME Vol. 44,No.(009) 日本マリンエンジニアリング学会誌第 44 巻第 号 (009)

14. 環境評価基準客船ではその静粛性が商品価値を決める重要な要素の一つであり, 船主は造船所に対してより低い騒音レベルを要求するようになってきている.DNV (Det Norske Veritas) は,1995 年に騒音に関する快適性基準 (Comfort Class Noise Limits) を制定した. その後,RINA (Registro Italiano Navale), LR (Lloyd s Register) 及び ABS (American Bureau of Shipping) など主要な船級協会が, 船内の居住区画に対して快適性基準を制定し, 環境評価を行っている. 快適性基準では, 居室内の騒音レベルを規定するだけでなく, 振動レベル, 壁の遮音等級や床の衝撃音レベルを含めた総合的な評価を行っている. DNV は, 客船の居室に対する最高グレード (COMF-V (1)) を 44dB(A), 貨物船の船室に対する最高グレード (COMF-V (1)) を 50dB(A) と設定している. 他の船級協会の快適性基準も同様の騒音レベルを設定している. これらの騒音基準は,IMO A.468 (ⅩⅡ) の騒音許容基準よりも 10dB 以上も低い騒音レベルとなっている ). 一方, 静かな環境を実現するには, 騒音対策の費用と重量が大幅に増加することになる. また, 快適性基準を評価するための計測点と計測時間の増加, これに伴う試運転費用や解析費用の増加となる. 例えば, 総トン数 90,000 トンの大型客船では, 約 650 箇所の騒音計測, 約 50 箇所の振動計測を実施するために 8 人で 4 時間の計測作業が必要となっている 3)..3 水中音の評価基準海洋及び漁業調査船などの非軍事目的の船舶に対する水中放射雑音の評価基準としては, 国際海洋探査委員会 (International Council for the Exploration of the Sea) が 1995 年に評価基準 ((Underwater Noise of Research Vessels : Review and Recommendations) 4) を提案している. この評価基準は, 漁業調査船の水中放射音が魚類に影響を与えないことを目標としており, 最近, 漁業調査船の建造時の要求値として適用が拡大している. 今後, この評価基準が, 海洋哺乳動物が生息する海域を航行する一般商船の水中放射雑音の規制値に適用されることが予想される. 図 1 に, 評価基準を示す. 3. 騒音対策 3.1 騒音対策の考え方船舶の騒音対策では, 重量と費用の増加を最小に抑えて目標の騒音規制値を達成することが最も重要であり, かつ設計者や技術者が最も苦労する課題である. 一般的な騒音対策では, 最初に騒音の発生原因を考えて騒音源を特定する. 次に, 音源機器 ( 騒音源 ), 伝播経路, 船室や作業区画 ( 受音室 ) の対策を検討する. このとき, 騒音源からの騒音の伝播特性を考えて, 固体伝播音と空気伝播音に対して適切な対策を検討する. 図 に,DNV の船舶の騒音対策の取り組み方法 (Noise control strategy) を示す 5). 騒音源としては, プロペラ, 主機関を始めとする船内に搭載されている機器を対象とする. また, 固体伝播音と空気伝播音の両方を取り扱う. 基本設計段階 (Early Review) で騒音源を特定して音源レベルを特定する. これらの騒音源の騒音レベル, 音響域振動レベルを用いて騒音と水中放射雑音を予測し, 目標値を達成するための対策を実施する. 対策の結果を評価するために, 音源機器の騒音及び振動の計測, 建造段階における騒音対策の実施状況の確認, 試運転時の騒音計測を行う. Propeller Analysis - Wake - Propeller Advice on Wake and other hydrodynamic issues Early Review Preliminary Criteria to Excitation Sources including Energy Budgets Structure-borne Noise Analyses Excitation/ Transmission Radiation Resulting Noise Levels - in water - on board Comparison with specified noise limits Airborne Noise Analysis Direct Transmission Transmission through secondary paths Noise reducing Measures Attendance of Vendor Tests Building Inspections Verification Measurements 図 1 水中放射音基準 (ICES CRR No.09:1995) 4) 5) 図 騒音対策の取り組み方法 Journal of the JIME Vol. 44,No.(009) 34 日本マリンエンジニアリング学会誌第 44 巻第 号 (009)

15 3. 音源機器の対策大型客船ではプロペラ直上の船尾部に客室, レストラン, 遊歩道などの施設が配置されることが多く, プロペラの圧力変動 ( キャビテーション及び非キャビテーション ) によって船底外板に発生する音響域振動が騒音の原因となる. プロペラ性能を満足して, より圧力変動の少ない船尾形状とプロペラを設計することによって騒音低減を図っている 1). 船体構造内に設置される主機関や発電機では, 防振ゴムにより機器を弾性支持することによって, 船体構造に伝達される音響域振動を低減することが有効である. 大型タンカーや貨物船では, 主機関と推進軸が直結されているために, 一般的に弾性支持は採用されていない. 一方, 大型客船では, ディーゼル発電と推進モータによる電気推進方式が採用されており,10 万馬力を越す大型のディーゼル エンジンが弾性支持されている 6). 図 3に主機関の弾性支持の一例を示す. 空気伝播音を低減するために, 小型の機器では, 防音ボックスを設置して機器から放射される騒音を低減する. しかし, 機器のメンテナンス性や冷却, 給排気機構の考慮が必要となる. このために, 空気伝播音の対策としては設置空間内の吸音対策と遮音対策が採用される. 水中放射音 船室の振動と騒音 振動伝播 機械室の騒音 主機関 図 4 騒音源からの騒音の伝播機構 図 5に, 主機ガーダモデルのトッププレートに曲げ波の振動パワーを入力した時の曲げ波と縦波のパワーの伝播を示す. 振動パワーは, トッププレートからウエブプレートを曲げ波, 縦波及びせん断波として伝播して, ボットムプレートに伝達される. ウエブプレートでは, 縦波やせん断波として伝播するパワーが増加する. 騒音源の振動は種々の波動に変化して伝播する. トップ ウエブ ボットム 6) 図 3 主機関の弾性支持の一例 曲げ波のパワーフロー 3.3 伝達経路の対策図 4に音源機器から船体構造への騒音の伝播機構 ( 空気伝播音, 固体伝播音 ) を示す. 船体構造は鋼やアルミなどの透過損失が大きい金属材料で作られているために, 空気伝播音は音源機器が設置されている空間とこれに隣接する空間で重要となる. 一方, 音源機器から船体構造に伝達された音響域振動は, 減衰の小さな金属材料内を曲げ波, 縦波, せん断波として伝播して, 船内の空間に騒音として放射, あるいは海中に水中音として放射される. また, 音源機器が設置されている空間の壁, 床, 天井は, 音源室内の高い音圧によって加振されて音響域振動が発生 ( 二次固体伝播音 ) する. 音源室の騒音レベルを低減することは, 二次固体伝播音の低減に有効である. 縦波のパワーフロー 図 5 主機ガーダモデルの音響域振動の伝播機構 3 Journal of the JIME Vol. 44,No.(009) 35 日本マリンエンジニアリング学会誌第 44 巻第 号 (009)

16 伝播経路の対策としては, 制振材 ( 拘束型あるいは非拘束型 ) を船体構造部材に貼り付けて減衰を増加させる. 鋼板の損失係数は約 0.001 から 0.0001 であり, 制振材を貼り付けることによって損失係数は 0.1 から 0.01 に増加する. 損失係数が約 100 倍に増加すると, 振動レベルは約 0dB 減少することになる. しかし, 船体構造を構成する鋼板では, 他の鋼板部材との溶接接合やスティフナの取り付けなどによって, 損失係数は 0.01 から 0.001 程度となる. このため, 制振材の施工よる振動レベルの低減量は, 最大で 10dB 程度となる. また, 制振材の効果は, 鋼板の曲げ変形による制振材の伸びやせん断変形によるものであり, 鋼板の曲げ変形によって騒音や水中音が放射される場所では対策の効果が顕著に現れる. 費用と重量を考慮して, 騒音源近傍, 騒音や水中音が放射される場所に施工されることが多い. 目標達成と費用 重量低減のために, 制振材の効果を精度良く推定することが課題となっている. 図 6に小型特殊船 ( タグボート ) の居住区周壁に制振材を施工した場合の効果を, 船体外板の振動加速度レベル, 振動エネルギ密度レベル, 振動インテンシティレベル, 振動インテンシティベクトルで推定した結果を示す. 制振材を施工した位置の振動加速度レベルが低減しており, 施工位置での効果が確認できる. 振動エネルギ密度分布からは施工範囲近傍での振動エネルギの低減と振動エネルギの高い位置 ( 音源位置 ) を確認することができ, 制振材の施工範囲の検討に有効である. 振動インテンシティとベクトルからは, 音源からの伝播経路を特定することができ, 制振材の施工範囲の検討に有効である. 今後, 施工範囲と制振効果を定量的に評価する指標を設定することが課題である. 図 6に示した曲げ波, 縦波, せん断波の振動エネルギ密度, 振動インテンシティ及び振動加速度は,(1) 式のパワーフロー支配方程式から求めたものである. cg e ηωe + π in = 0 (1) ηω r cg cg e e e I = e =,, ηω ηω x y z () ω α = e (3) ρh c: 波動のグループ速度 g e: 振動エネルギ密度 π in : 振動入力パワー密度 r I: 振動インテンシティ [ m s] [ J m ] η: 損失係数 [ W m ] ω: 角周波数 [ rad s] [ W m] α: 振動加速度 [ m s ] 3.4 船室や作業区画 ( 受音室 ) の対策居住区画では, 床, 壁, 天井などの内装材の仕様を検討することにより, 必要な騒音対策を実施する. 一般には, 防火 防熱要領と一緒に騒音対策要領を決定して, 施工される. 図 7に居住区の床に適用される浮床構造の例を示す. 甲板にロックウールを敷き, その上に鋼板とデッキコンポジションを施工する. ロックウールを緩衝材又はばねとした弾性支持構造により, 甲板に伝達された音響域振動を遮断する. カセットパネル方式の間仕切りパネルや内張りパネルの壁構造を浮き床構造の上に設置することによって, 壁や天井構造に伝達される音響域振動も遮断することができる. 間仕切りパネル デッキコンポジション鋼板ロックウール 制振材施工位置 ( 赤 ) 制振材分布 振動エネルギ密度分布 図 7-1 浮き床構造の例 1 板厚分布板厚の影響 制振材の影響 振動インテンシティ分布 加速度レベル分布 振動インテンシティベクトル 防振ゴム 図 6 制振材施工効果の推定方法 図 7- 浮き床構造の例 Journal of the JIME Vol. 44,No.(009) 36 日本マリンエンジニアリング学会誌第 44 巻第 号 (009)

17 4. 騒音予測方法 船舶に要求された騒音レベルを, コストと重量を最小にして達成するためには, 設計段階において精度の良い騒音予測を行い, 必要な対策を決定して, 確実に施工することが重要である. 日本造船研究協会 SR156 部会 船内騒音に関する調査研究 において, 統計的エネルギ解析法 (Statistical Energy Analysis: SEA) を船舶の騒音予測に適用するための実験や解析が大規模に実施された. その後, 各造船所や研究機関での開発により, 実用的な騒音予測法として利用できるようになっている 7). 欧米でも同様に SEA 法を利用した騒音予測が実用化されている. ここでは, 漁業調査船の船内騒音と水中放射雑音, 砕氷型バルクキャリアの船内騒音の予測について紹介する. 図 8 漁業調査船の騒音 水中音計算モデル 8) 8) 表 船内騒音レベルの予測値と計測結果の比較 Compartment Measured Level Predicted Level db(a) db(a) Aft Staterooms 58 56 Fwd Staterooms 51 49 ICES CRR No.09 4.1 漁業調査船の船内及び水中放射雑音 Lloyd s Ship Noise and Vibration Conference(005) において, 漁業調査船の船内及び水中放射雑音の予測方法と計測結果が報告されている 8),9). 船内騒音の規制値は,IMO A.468 (ⅩⅡ) の騒音許容基準である. 水中放射雑音の規制値は,ICES CRR No.09:1995 の水中放射音基準である. 騒音源からの騒音伝播経路として, 空気伝播音, 固体伝播音, 二次固体伝播音を考慮している. 空気伝播音については, 音源が設置されている区画 ( 音源室 ), 音源室と隣接する区画について, 建築音響学の一般的な手法を使って直接音, 拡散音と透過音を計算することによって騒音レベルを推定する. 固体伝播音と二次固体伝播音は,SEA 法で音源室から受音室までの振動の伝播を計算する. そして, 受音室を構成する床, 壁, 天井の振動から室内に放射される騒音レベルを推定する. 水中放射雑音は,SEA 法で計算された船体外板の振動レベルと放射伝達係数 (Radiation transfer function) を用いて推定される. これらの手法は, これまでに発表されている手法 7) と基本的には同一の手法である. ただし, 騒音源の騒音及び音響域振動データ, SEA モデルへの音源データの入力方法, 制振材や浮き床構造の効果の評価法, 水中への放射伝達係数など, 計測データや実績値, ノウハウが多く含まれている. これらについては, 報告されていない. 図 8に漁業調査船の SEA 法のモデルを示す. 約 360 個の板要素で構成されている. 表 に船内騒音レベルの予測値と計測結果の比較を示す. また, 図 9に水中放射雑音の規制値と計測結果を示す. ただし, 計測結果が 1/3 オクターブバンドの値となっているために, 図中の規制値は図 1 に示した ICES CRR No.09:1995 を 1/3 オクターブバンドに変更している. 図 9 漁業調査船の水中放射雑音計測結果 9) 10) 4. バルクキャリアの船内騒音騒音予測では,SEA モデルを効率良く作成, 評価することが重要である. 図 10 に, 汎用音響解析ソフト AutoSEA を利用したシステムを示す.FE モデルと共通な形状及び材料データから SEA モデル ( 板と空間要素 ) を作成し, SEA 計算結果から騒音と水中放射雑音を計算する. 室内騒音は居室データを用いて計算する. 結果の表示には,FE モデルと同じ形状データを用いることによって汎用ポストプロセッサーを利用することが可能である. [ 形状 材料データ ] [SEA モデル作成 ] [SEA 計算 ] [ 水中放射音計算 ] Scripts FE model Create SEA Plates from FE Create Enclosed Cavities Apply Fluid Loading Define Noise Source and Material Properties Calculate Air and Structure borne Noise Results For underwater noise Create Underwater SIF Calculate Underwater Results 図 10 汎用音響解析ソフトを利用した騒音予測 10) Journal of the JIME Vol. 44,No.(009) 37 日本マリンエンジニアリング学会誌第 44 巻第 号 (009)

11 図 11 に, 砕氷型バルクキャリアの機関室及び上部構造の SEA モデルと板要素のモーダルエネルギ分布 (1/3 オクターブ中心周波数 :1kHz) を示す. 板要素の寸法は約 3m 3m, 要素数は 4,097 個である. 二次固体伝 播音を考慮するために, 機関室など騒音源の設置されている大空間には, 仮想板要素を用いて複数の空間要素を定義している. 空間要素数は 413 個である. 図 1 に, 空間要素の音圧レベル (1kHz) を示す. 騒音源は主機関と発電機として, 音源位置の板及び空間要素に振動速度レベルと音響パワーを入力した. Sound Pressure Level db(a 110 100 90 80 70 60 50 40 30 measured predicted c poop Point of measurement upper floating floor 10) 図 13 騒音計測結果と予測値との比較 nd 3rd lower floor 5. おわりに 図 11 板要素のモーダルエネルギ分布 (1kHz) 10) 図 1 空間要素の音圧レベル分布 (1kHz) 10) 図 13 に, 試運転時の騒音計測結果と予測値を比較して示す. 計測結果は,IMO A.468 (ⅩⅡ) の騒音許容基準以下であった. 機関室及び居住区の騒音レベルは ± 5dB 程度で予測できている.Poop Deck や nd Deck の一部に, 騒音対策として浮き床構造を採用している. 計測結果から, 浮き床構造を採用した居室は, 同じ Deck の一般床構造の居室よりも約 10dB, 騒音レベルが低くなっている. 騒音予測システムを利用することによって, 騒音対策の必要な場所の特定, 騒音対策効果を推定することが可能となっている. しかし, 騒音源機器の音源データ ( 特に, 音響域振動 ) は, ショップテスト時の計測方法, 搭載後の評価方法が確立されていない. また, 固体伝播音に対する制振材, 居住区内装の効果を騒音低減と関連付けた定量的な評価法の開発も必要である. に関連して, 騒音規制値, 環境基準, 騒音源, 伝播経路及び居住区画の対策について, これまでの研究や調査結果を紹介した. 乗組員の作業環境や居住環境, 乗客の快適な環境を確保するために, 低騒音化の要求は今後も厳しくなるものと思われる. これらの要求に答えて, コストと性能を満足して, より静粛な環境の船舶を実現することが造船, 海運, 舶用機器の技術者に求められている. この報告がこれらの技術者にとって参考となれば幸いである. 参考文献 1) Hamalainen, R. et al, Highest Comfort Class Design for M/S Color Fantasy, The World s Largest Ever Cruise-Liner with Car-. Proceedings of I.S.N.V.C., Lloyds, (005) ) ISSC, Report of Technical Committee II.: Dynamic Response, Proceedings of the 16 th ISSC, (006) 3) Blanchet, A. et al, Euro-yards Point of View on the Classification Societies Comfort Classes. Proceedings of I.S.N.V.C., Lloyds, (006). 4) Miston, R. B., Underwater Noise of Research Vessels, CRR No.09, ICES, (1995) 5) Abrahamsen, K.A. Noise Control for Noise Sensitive Vessels, Proceedings of I.S.N.V.C., Lloyds, (005) 6) 本田, 客船における低騒音化 低振動化技術, 騒音制御, 3-(008-4),1-17 7) 修理ほか, 船舶の騒音, 日本マリンエンジニアリング学会誌,40-5(005), 71-76 8) Spence, J. et al, Case Study: Application of SEA to Predicting Shipboard Noise, Proceedings of I.S.N.V.C., Lloyds, (005) 9) Fischer, R., Acoustic Design, Construction and Testing of NOAA s Fisheries Research Vessel, Proceedings of I.S.N.V.C., Lloyds, (005) 10) 平川ほか, 船舶の騒音, 水中放射音予測システム, 日本船舶海洋工学会講演論文集,3(006-10), 377-378 Journal of the JIME Vol. 44,No.(009) 31 日本マリンエンジニアリング学会誌第 44 巻第 号 (009)