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第 2 章微分 偏微分, 写像 豊橋技術科学大学森謙一郎 2. 連続関数と微分 工学において物理現象を支配する方程式は微分方程式で表されていることが多く, 有限要素法も微分方程式を解く数値解析法であり, 定式化においては微分 積分が一般的に用いられており. 数学の基礎知識が必要になる. 図 2. に示すように, 微分は連続な関数 f() の傾きを求めることであり, 微小な に対して傾きを表し, を無限に 0 に近づけることによって における傾きが得られる. df () f ( ) f () f '() = 0 d (2.) たとえば, 微分において傾きを表す導関数 f () は次のように求められる. f()=ab (2.2) a( ) b a b a f '() = a 0 0 また, は十分小さいため, は無限に近づけた時は小さいとして無視する. f()=a 2 bc (a,b,c: 定数 ) (2.3) 2 2 2 a( ) b( ) c a b c 2a a b f '() 0 0 lim 0 (2a b a ) = 2a b = 各種の関数における導関数を表 に示す. f() df() d 図 2. 微小な に対する連続関数の変化量 df() 表 各種の関数における導関数 ( n ) =n n- (e ) =e (log) =/ (sin) =cos (cos) =-sin (tan) =sec 2

2.2 微分法則 複雑な関数の微分においては, 次のような微分法則を用いると微分がより簡単になる. 関数 f() と g() に対して, 和の微分は次のようになる d(f g) = d df d dg d (2.4) 一方, 積の微分は次のようになる. d(fg) dg df = f g (2.5) d d d また, 関数 f が別の関数 h を変数とする関数 f(h()) 合成関数の場合は, 次のような公式を用いることができる. df df dh = (2.6) d dh d たとえば, 次のような関数に対しては, 微分は次のようになる. f(h)=dh (a,b,c: 定数 ) (2.7) h()=a 2 bc df = d (2a b) = 2ad bd d f(h) の中に h を代入して h を消去して f() にしてそれを微分すると, 式 (6) と同じ解が求まる. f()=d(a 2 bc)=ad 2 bdcd (2.8) df = 2ad bd d このように複雑な関数の微分では, 単純な式で置き換えて, それぞれを微分した方が簡単になる. 2.3 関数の展開 微分を使うと, 連続な関数は =a を中心としてべき級数に展開でき, これをテイラー展開と呼ぶ. (n) f '(a) f ''(a) 2 f (a) n f () = f (a) ( a) ( a) L ( a) L (2.9)! 2! n! 特に a=0 のときをマクローリン展開と呼ぶ.

2.4 常微分と偏微分 有限要素法では, 変形を 3 次元的に取り扱うため, 変位, ひずみ, 応力などが位置の関数になり, 座標,, の関数として表される. 変数の関数の微分は常微分と呼ばれて d が微分記号として用いられているが,2 変数では偏微分になり, 微分記号としては が使われ, 有限要素法においては偏微分が一般的である. 図 2.2 に示すように,2 変数以上の関数ではそれぞれの変数の方向に対して導関数が異なり, 微分は次のように違った式になる. f (,,) f (,,) f (, 0 f (,,) f (,,) f (, 0 f (,,) f (,, ) f (, 0, ), ), ) (2.0) 偏微分において導関数を求める場合, 微分する変数の他の変数は定数として微分を行う. たとえば, について偏微分する場合は と は定数として偏微分する. 式 (6) に対して, 複合関数 f(h(,),g(,)) の偏微分は次のように全微分として表される. f f h f g = h g f f h f g = h g (2.) 偏微分の例としてひずみを示す. ひずみ成分 ε,ε,ε,γ,γ,γ は座標に対する変位 u,u,u の傾きとして表されるが, それぞれの方向に対する微分として表される. u u ε =, u ε =, ε =, (2.2) u u u u γ =, γ =, f(,) u u γ = (,) 図 2.2 2 変数関数におけるそれぞれの変数の方向に対する偏微分

2.5 偏微分方程式 固体の力学では, 力の釣合い式を解くことによって解が求まるが, これは偏微分方程式として表され, 有限要素法ではこの方程式を離散化する. 力の釣合いは, 図 2.3 に示すように 3 次元変形を考えて, 微小な要素 ddd から導ける. 応力は座標とともに変化し,=0 における面 dd に が作用しているが, それが =d においては次式のように変化する. d (2.3) 上式は式 (2.9) のテーラー展開で 2 次以上の項を無視することによって得られ, 応力の傾きと距離の積であり,d 間の の変化量を表すことになる. 応力に断面積を掛けると力になり, 自重を無視して 方向の力を全て釣り合わせると, 次式が得られる. d)dd dd ( d)dd dd ( d)dd dd = 0 (2.4) ( d d 0 d d d d d d d d d d 図 2.3 微小な要素に対する応力成分の変化 これを簡単化すると, 方向の力の釣合い式が得られる. = 0 (2.5) 残り 2 方向の釣合い式は次のように表わされる. = 0 = 0 (2.6)

応力は場所によって変化しているため, 力の釣合いでは応力の変化率が釣合うことになり, 方程式が微分形式で表されることになる. 有限要素法によって温度分布を計算する場合, 次の熱伝導の方程式が定式化されるが, この方程式も微小要素に対する熱量の釣り合いから導かれる. 2 2 2 T T T T cρ q = 0 2 2 & (2.7) t k 2 ここで,T は温度,k は熱伝導率,c は比熱,ρ は密度,t は時間,q& は単位体積当りの熱エネルギ - 率である. 上式の左辺第 項目は熱伝導項であり, 第 2 項目は非定常項, 第 3 項は発熱項である. 2.6 写像 有限要素法では, 物体を非常に多数の要素に分割し, それぞれの要素内における変位, 速度などの分布は単純な式で近似される. この場合, 要素内の分布を直接空間座標系,, の関数として表現するのではなく,± の範囲を持つ正規化された座標系を導入してその関数に写像し, 正規化された座標系と空間座標系の間の関係を別に定義する. 正規化された座標系を導入することによって, 数値積分が容易になる. 有限要素法では,2 次元問題 4 節点アイソパラメトリック 4 角形要素がよく用いられる. この要素内では平面ひずみ変形において, 方向と 方向の変位 u と u の分布は正規化された座標 η を導入して次のように仮定される ( 図 2.4). u = 4 {(-ξ)(-ui (ξ)(-u j (ξ)(u m (-ξ)(u k } u = 4 {(-ξ)(-ui (ξ)(-u j (ξ)(u m (-ξ)(u k } (2.8) 上式で,u および u は節点において節点変位と一致する. また, 要素の辺上では ξ または η の 次関数になって変位が線形に変化するため, 隣り合う要素で変位が連続になる. 節点変位にかかっている係数を形状関数と呼ぶ. また, 空間座標, と正規化された座標 η の関係は次のようになる. = 4 {(-ξ)(-i (ξ)(- j (ξ)( m (-ξ)( k } = 4 {(-ξ)(-i (ξ)(- j (ξ)( m (-ξ)( k } (2.9) このように節点速度と座標の形状関数が同じ関数になる要素を, アイソパラメトリック要素と呼ぶ.

u i u k η u k k ( k, k ) - 0 u m u m m ( m, m ) u j ξ i ( i, i ) u i - j ( j, j ) u j 図 2.4 4 節点アイソパラメトリック 4 角形要素 2.7 ヤコビ行列 式 (2.2) に示したように, 変位を空間座標, で微分するとひずみが得られる. しかしながら, 式 (2.8) に示すように変位は正規化された座標で表されており, 直接微分することはできない. そこで, 式 (2.2) の複合関数の偏微分を用いる. u u ξ u η ε& = = (2.20) ξ η 上式の u / v / η は式 (2.8) を η で偏微分すれば, 容易に求まる. また, /, η/ は式 (2.9) を で全微分した次の連立方程式から求まる. ( ξ ( η = ξ η ( ξ ( η 0 = ξ η (2.2) 上式をマトリックス表示すると, ( ( ξ ξ η = ξ η η 0 ( (, ) ξ η (2.22) 右辺の第 項目はヤコビ行列と呼ばれ, その逆行列と左辺の積から /, η/ が計算できる. ヤコビ行列の行列式 J は, 有限要素法における積分で次のように用いられている.

(, )dd 0 0 f f ((, ( ) J dξdη (2.23) = J = ( ( ξ η ( ( ξ ηξ ヤコビ行列式はヤコビアンとも呼ばれ, これを用いて正規化された座標に変換した積分になり, 積分範囲が ± になって数値積分が容易になる.