税額控除の対象となる試験研究費の範囲と税務調整

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3. 改正の内容 法人税における収益認識等について 収益認識時の価額及び収益の認識時期について法令上明確化される 返品調整引当金制度及び延払基準 ( 長期割賦販売等 ) が廃止となる 内容改正前改正後 収益認識時の価額をそれぞれ以下とする ( 資産の販売若しくは譲渡時の価額 ) 原則として資産の引渡

IFRS基礎講座 IAS第12号 法人所得税

198 第 3 章 減価償却資産の取得価額 キーワード ソフトウエアに係る取得価額購入したソフトウエアの取得価額は 1 当該資産の購入の代価と 2 当該資産を事業の用に供するために直接要した費用との合計額とされています 引取運賃 荷役費 運送保険料 購入手数料 関税 その他の当該資産の購入のために要

改正 ( 事業年度の中途において中小企業者等に該当しなくなった場合等の適用 ) 42 の 6-1 法人が各事業年度の中途において措置法第 42 条の6 第 1 項に規定する中小企業者等 ( 以下 中小企業者等 という ) に該当しないこととなった場合においても その該当しないこととなった日前に取得又

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目 次 問 1 法人税法における当初申告要件及び適用額の制限に関する改正の概要 1 問 2 租税特別措置法における当初申告要件及び適用額の制限に関する改正の概要 3 問 3 法人税法における当初申告要件 ( 所得税額控除の例 ) 5 問 4 法人税法における適用額の制限 ( 所得税額控除の例 ) 6

研究開発税制の概要

【問】適格現物分配に係る会計処理と税務処理の相違

損金経理と積立金経理の違い ( 圧縮超過額がない場合の基本構造 ) 例 A 社は 50の国庫補助金を得て 100で機械を取得した なお A 社の経常利益は 100 である * 仕訳の違い ( 単位 : 百万円 ) 損金経理積立金経理 補助金受贈と機械取得時の仕訳 ( 両者とも同じ ) 現金預金 50

租税特別措置法 ( 昭和三十二年法律第二十六号 ) 第十条の二 第四十二条の五 第六十八条の十 租税特別措置法 ( 昭和三十二年法律第二十六号 ) ( 高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除 ) 第十条の二青色申告書を提出する個人が 平成三十年四月一日 ( 第二号及

作成する申告書 還付請求書等の様式名と作成の順序 ( 単体申告分 ) 申告及び還付請求を行うに当たり作成することとなる順に その様式を示しています 災害損失の繰戻しによる法人税 額の還付 ( 法人税法 805) 仮決算の中間申告による所得税 額の還付 ( 法人税法 ) 1 災害損失特別勘

スライド 1

に相当する金額を反映して分割対価が低くなっているはずですが 分割法人において移転する資産及び負債の譲渡損益は計上されませんので 分割法人において この退職給付債務に相当する金額を損金の額とする余地はないこととなります (2) 分割承継法人適格分割によって退職給付債務を移転する場合には 分割法人の負債

日本基準基礎講座 有形固定資産

税額控除限度額の計算この制度による税額控除限度額は 次の算式により計算します ( 措法 42 の 112) 税額控除限度額 = 特定機械装置等の取得価額 税額控除割合 ( 当期の法人税額の 20% 相当額を限度 ) 上記算式の税額控除割合は 次に掲げる区分に応じ それぞれ次の割合となります 特定機械

改正された事項 ( 平成 23 年 12 月 2 日公布 施行 ) 増税 減税 1. 復興増税 企業関係 法人税額の 10% を 3 年間上乗せ 法人税の臨時増税 復興特別法人税の創設 1 復興特別法人税の内容 a. 納税義務者は? 法人 ( 収益事業を行うなどの人格のない社団等及び法人課税信託の引

1 繰越控除適用事業年度の申告書提出の時点で判定して 連続して 提出していることが要件である その時点で提出されていない事業年度があれば事後的に提出しても要件は満たさない 2 確定申告書を提出 とは白色申告でも可 4. 欠損金の繰越控除期間に誤りはないか青色欠損金の繰越期間は 最近でも図表 1 のよ

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第 298 回企業会計基準委員会 資料番号 日付 審議事項 (2)-4 DT 年 10 月 23 日 プロジェクト 項目 税効果会計 今後の検討の進め方 本資料の目的 1. 本資料は 繰延税金資産の回収可能性に関わるグループ 2 の検討状況を踏まえ 今 後の検討の進め方につ

【問】新ロゴマークの商標登録までに要する費用の取得価額算入の要否

下では特別償却と対比するため 特別控除については 特に断らない限り特定の機械や設備等の資産を取得した場合を前提として説明することとします 特別控除 内容 個別の制度例 特定の機械や設備等の資産を取得して事業の用に供したときや 特定の費用を支出したときなどに 取得価額や支出した費用の額等 一定割合 の

貸借対照表 (2019 年 3 月 31 日現在 ) ( 単位 : 千円 ) 科目 金額 科目 金額 ( 資産の部 ) ( 負債の部 ) 流動資産 3,784,729 流動負債 244,841 現金及び預金 3,621,845 リース債務 94,106 前払費用 156,652 未払金 18,745

法人による完全支配関係下の寄附金 1.100% グループ内の法人間の寄附 ( 法法 372) 現行税制上では 寄附金は支出法人では損金計上限度額を超える部分が損金不算入 受領法人では益金算入です 平成 22 年度税制改正により 100% グループ内での支出法人では寄附金全額を損金不算入とし 受領法人

平成23年度税制改正の主要項目

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営業活動によるキャッシュ フロー の区分には 税引前当期純利益 減価償却費などの非資金損益項目 有価証券売却損益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目 営業活動に係る資産 負債の増減 利息および配当金の受取額等が表示されます この中で 小計欄 ( 1) の上と下で性質が異なる取引が表示され

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日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の

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CONTENTS 第 1 章法人税における純資産の部の取扱い Q1-1 法人税における純資産の部の区分... 2 Q1-2 純資産の部の区分 ( 法人税と会計の違い )... 4 Q1-3 別表調整... 7 Q1-4 資本金等の額についての政令の規定 Q1-5 利益積立金額についての政

Ⅲ 設例による解説設例 1 市場販売目的のソフトウェアの減価償却の方法 ( その1) 販売開始時における見込みどおりに各年度の販売収益が計上された場合設例 2 市場販売目的のソフトウェアの減価償却の方法 ( その2) 残存有効期間に基づく均等配分額の制限を受ける場合設例 3 市場販売目的のソフトウェ

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2. 中小企業のための主な優遇制度 注 : 各項目に付記している番号は 関連する参考資料です 番号に対応する資料名などは 5~6 ページに掲載していますのでご参照ください [1] 中小法人等 に適用される主な優遇制度 紙面の都合により ここでは制度の種類と それに関連する参考資料の番号を紹介していま

することが適当であることから 本通達では 特定施設の敷地の用に供される土地等には 土地又は土地の上に存する権利を取得した時において 現に特定施設の敷地の用に供されているもの及び特定施設の敷地の用に供されることが確実であると認められるものが該当することを明らかにしている なお 取得の時において特定施設

新設 ( 大法人により発行済株式等の全部を保有される場合の適用対象金額の計算 ) 66 の 6-10 の 2 措置法令第 39 条の 15 第 1 項第 1 号の規定により特定外国子会社等の適用対象金額につき本邦法令の規定の例に準じて計算するに当たり 特定外国子会社等の発行済株式等の全部を直接又は間

企業会計の利益 法人税法上の所得金額 売上原価販売費一般管理費営業外費用特別損失 売上 営業外収益特別利益 損金の額原価費用損失の額 益金の額 ( 収益の額 ) 当期純利益所得の金額 2 益金の額に算入すべき金額とは何か益金の額に算入すべき金額とは 法人税法の規定や他の法令で 益金の額に算入する 又

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要件① 雇用者給与等・・・・ (ざっくり) 平成24年度の給与総額と比べて、平成25年以降毎年、一定割合以上給与総額が増えていること。 <雇用者給与等支給額とは> <一定割合とは>

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会社税務のてびき目次 平成 28 年度 法人税関係税制改正のポイント 1 1 法人税は何にかかるか? 3 2 収益は どの時点で計上するか? 8 3 配当金を受け取ったときは? 15 4 売上原価を求める方法 19 5 売却した有価証券の損益を求める 24 コラム 1 社長が会社にお金を貸していたら

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2. 減損損失の計上過程 [1] 資産のグルーピング 減損会計は 企業が投資をした固定資産 ( 有形固定資産のほか のれん等の無形固定資産なども含む ) を適用対象としますが 通常 固定資産は他の固定資産と相互に関連して収益やキャッシュ フロー ( 以下 CF) を生み出すものと考えられます こうし

改正法人税法により平成 24 年 4 月 1 日以後に開始する事業年度については法人税率が 30% から 25.5% に引き下げられ また 復興財源確保法により平成 24 年 4 月 1 日から平成 27 年 3 月 31 日までの間に開始する事業年度については基準法人税額の 10% が復興特別法人

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[2] のれんの発生原因 企業 ( または事業 ) を合併 買収する場合のは 買収される企業 ( または買収される事業 ) のおよびを 時価で評価することが前提となります またやに計上されていない特許権などの法律上の権利や顧客口座などの無形についても その金額が合理的に算定できる場合は 当該無形に配

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はじめに 会社の経営には 様々な判断が必要です そのなかには 税金に関連することも多いでしょう 間違った判断をしてしまった結果 受けられるはずの特例が受けられなかった 本来より多額の税金を支払うことになってしまった という事態になり 場合によっては 会社の経営に大きな影響を及ぼすこともあります また

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このため 法人税法の取扱いでは 収益の計上時期について各法人の任意の取扱いに委ねるのではなく 課税の公平の観点からこれを統一的に取扱うこととしている すなわち 法人が商品等を販売した場合には それによる収益は商品等の 引渡しがあった日 に収益に計上することとしている つまり 商品等の買主への引渡しと

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〇本事例集は 平成 31 年 3 月を期限とした個人の確定申告について 国税通則法関連 ( 所得税 の納税地を含む ) の 誤りやすい事例 について取りまとめています 〇本事例集は 誤りやすい事例 を載せた後に 正しい解釈 処理方法を提示しています なお 無用 な文字数 ページ数の増加を避けるため

Ⅰ 法人関連税制 1 減価償却制度 2 年連続の大改正になった背景 減価償却制度については 平成 19 年度税制改正により 残存価額および償却可能限度額の取扱いが廃止される大改正が行われ 定率法はいわゆる 250% 定率法 と呼ばれる従来にない新しい計算の仕組みが採用されました そして平成 20 年

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Ⅰ はじめに グループ法人税制 100% グループ内の法人間での譲渡損益の繰り延べ 100% グループ内の法人間の寄附 ( 以上 本号 ) 100% グループ内の法人間の寄附 ( 承前 ) 支配関係 完全支配関係の判定 100% グループ内の法人のステータス 100% グループ内の法人からの受取配当

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税額控除の対象となる試験研究費の範囲と税務調整 Profession Journal No.14(2013 年 4 月 11 日 ) に掲載 税理士鈴木達也 1 研究開発税制の概要試験研究を行った場合の法人税額の特別控除は 大法人及び中小法人でも活用できる制度です 大法人は 平成 24 年 4 月 1 日開始事業年度から青色欠損金の損金算入制限 ( 法法 571) が適用され 青色欠損金額を有していても 課税所得が生ずることがあるため 研究開発税制による税額控除により納税額を軽減することができます この税額控除の制度は 青色申告書を提出する法人の各事業年度において 損金の額に算入される試験研究費の額がある場合には 試験研究費の12% 相当額をその法人のその事業年度の所得に対する法人税の額から控除することとされています ( 措法 42の41) 2 試験研究費の意義税務上の試験研究費とは 製品の製造又は技術の改良 考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用で一定のものをいいます ( 措法 42の412 一 ) この 試験研究 は 工学的 自然科学的な基礎研究 ( 1) 応用研究( 2) 及び工業化研究 ( 3)( 開発 工業化等 ) であり 新製品や新技術の試験研究に加え 現に生産中の製品の製造や既存の技術の改良等のための試験研究であっても該当し 製造現場における量産化のための試験研究なども含まれることとなります 他方 製品の製造 又は 技術の改良 考案若しくは発明 に当たらない人文 社会科学関係の研究は 本制度の 試験研究 には該当しません このため 次のような費用は含まれないこととなります ( 4) 1 事務能率 経営組織の改善に係る費用 2 販売技術 方法の改良や販路の開拓に係る費用 3 単なる製品のデザイン考案に係る費用 4 既存製品に対する特定の表示の許可申請のために行うデータ集積等の臨床実験費用 なお 会計上は 試験研究費 という文言がなく 研究開発費等に係る会計基準 ( 以下 会計基準 といいます ) では 研究開発費 が定義されていますが この 研究開発費 とは 新製品の計画 設計又は既存製品の著しい改良等のために発生する費用 ( 研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針 ( 以下 実務指針 といいます ) 4) をいい 税務上の試験研究費に含まれる製造現場における量産化のための試験研究や 1

現に生産している製品の改良のために継続的に行われる試験研究は含まれません ( 1) 自然現象に関する実験等によって法則を決定するための研究 ( 2) 基礎研究の結果を具体的な物質 方法等に実際に応用して工業化の資料を作成する研究 ( 3) 基礎研究及び応用研究を基礎として工業化又は量産化をするための研究 ( 4) 国税庁 Q&A 研究開発減税 設備投資減税について ( 法人税 ) ( 平成 15 年 10 月 ) 3 試験研究費の範囲製品の製造又は技術の改良 考案若しくは発明に係る試験研究のために要する費用で一定のものとは 他社への委託研究費 その試験研究を行うために要する原材料費 人件費 ( 専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限ります ) 及び経費をいいます ( 措令 27の46 一 二 ) 会社の経理処理によっては 試験研究費が他の勘定科目に計上されているため 集計漏れがないように注意が必要です 試験研究費のうち 損金算入されない金額及び試験研究に充てるために他者から受けた金額を除いたものが 税額控除の対象となる試験研究費となります 以下 実務を想定して試験研究費の範囲等について考察することとします (1) 委託研究費例えば 製造子会社が基礎研究を親会社に委託する場合など 他者に試験研究を委託する費用は 試験研究費の対象となります ( 措令 27の46 二 ) 委託研究費は 研究開発の内容について検収 ( 中間検収を含みます ) を行った時点で費用として処理すべきであり 契約金等は前渡金として処理しなければなりませんが その契約金等の支払時に費用処理しているケースが散見されるため 研究開発の委託契約や検収書を確認した上で適切な処理をする必要があります 自社で行う試験研究費を集計することが難しい場合には この委託研究費のみを申告することもできます 2

(2) 新製品の開発に係る試験研究費 自社の試験研究費を把握するに当たっては まず 次の事項を確認し 併せてその会 計処理も確認しておくとよいでしょう 1 研究プロジェクトとスケジュール新製品の開発に係る試験研究の研究プロジェクトとそのスケジュールにより 試験研究の全体像を把握します 会社の経理担当者も どのような試験研究が行われているのかを知らない場合があります そのような場合には 経理担当者が開発責任者から試験研究の内容を聞くようにすると 経理担当者の試験研究に対する意識も高まるでしょう 2 試験研究の開始時期試験研究の開始時期は 機関決定の書類や稟議書等により確認できます 通常 試験研究には多額の費用が投じられるため 会社として 研究テーマや研究内容を決めています 中小企業では少人数で試験研究を行うため機関決定をしていない場合もあるかもしれませんが 税務調査に備えて書類等を用意しておく方がよいでしょう 3 量産化の決定時期会計上 製品の量産化の決定をもってその製品の研究開発は終了します それまでの経費は費用処理とされ それ以降の経費はその製品の製造原価となります このため 量産化の決定時期は 会計処理をする上での重要なメルクマールとなります 量産化を決定する場合には その試験研究により開発された製品が一定レベルに達しているかどうかを評価する会議が開かれ その会議で量産化の承認がなされます このような会議が開かれない場合には 取締役会や稟議書等の書類によりその時期を明らかにしておく方がよいでしょう また ソフトウェア開発における量産化の決定時期は 製品マスターの完成時点 具体的には 機能評価版のソフトウェアであるプロトタイプが完成した時点とされ 量産化の決定前の費用は 研究開発費となります プロトタイプを制作しない場合には 製品として販売するための重要な機能が完成しており かつ 重要な不具合を解消した時点とされます ( 研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A Q 10) 4 量産化後 新製品発売までの期間における業務会計上 量産化のための開発が行われ 新製品が発売されるまでに生じた費用 ( 試 3

験研究費を含みます ) は 新製品の製造原価としてその新製品の棚卸資産に配賦されることとなります この期間中に事業年度末が到来した場合には 仕掛品として資産計上しなくてはなりません この期間に行われる量産化のための試験研究は 製品の製造又は技術の改良のための試験研究に該当するため 試験研究費となります ( 会計上の研究開発費には該当しません ) ただし 全ての研究者が試験研究を行っているわけではなく 試験研究以外の業務 ( 例えば 営業への説明や顧客対応 ) を行うことがあるため その業務の有無を確認しておく必要があります 新製品の製造に係る試験研究 ソフトウェア開発に係る試験研究 (3) 原材料費試験研究のために要した原材料費は 試験研究費となります その原材料を用いて試作品を製作した場合に その試作品が販売可能なものであれば 棚卸資産とするのが適当と考えられます ただし 試作品が転用 売却できずに廃棄するしかないということであれば 棚卸資産とする必要はありません (4) 人件費 1 試験研究の専従者とそれ以外の者開発部門に属する人件費のうち 試験研究費の対象となる人件費は 専門的知識を 4

もって試験研究の業務に専ら従事する者に係るものに限られます ( いわゆる直接人件費 ) このため 開発部門に所属する者であっても 例えば事務職員 守衛 運転手等のように試験研究に直接従事していない者に係るもの ( いわゆる間接人件費 ) は これに含まれないこととなります ( 措通 42の4(1)-3) また 評価や分析などの業務を行い開発部門に属さない者であっても 相当期間試験研究の業務に従事する者の人件費であれば 試験研究費の対象となります なお 専門的知識をもって当該試験研究の業務に専ら従事する者 については 下記の個別通達が参考となります 参考 試験研究費税額控除制度における人件費に係る 専ら 要件の税務上の取扱いについて ( 通知 ) ( 平成 15 年 12 月 25 日 ( 課法 2-28)) ( 中略 ) 専門的知識をもって当該試験研究の業務に専ら従事する者 とは 試験研究部門に属している者や研究者としての肩書を有する者等の試験研究を専属業務とする者や 研究プロジェクトの全期間中従事する者のほか 次の各事項のすべてを満たす者もこれに該当する 1 試験研究のために組織されたプロジェクトチームに参加する者が 研究プロジェクトの全期間にわたり研究プロジェクトの業務に従事するわけではないが 研究プロジェクト計画における設計 試作 開発 評価 分析 データ収集等の業務 ( フェーズ ) のうち その者が専門的知識をもって担当する業務 ( 以下 担当業務 という ) に 当該担当業務が行われる期間 専属的に従事する場合であること 2 担当業務が試験研究のプロセスの中で欠かせないものであり かつ 当該者の専門的知識が当該担当業務に不可欠であること 3 その従事する実態が おおむね研究プロジェクト計画に沿って行われるものであり 従事期間がトータルとして相当期間 ( おおむね1ヶ月 ( 実働 20 日程度 ) 以上 ) あること この際 連続した期間従事する場合のみでなく 担当業務の特殊性等から 当該者の担当業務が期間内に間隔を置きながら行われる場合についても 当該担当業務が行われる時期において当該者が専属的に従事しているときは 該当するものとし それらの期間をトータルするものとする 4 当該者の担当業務への従事状況が明確に区分され 当該担当業務に係る人件費が適正に計算されていること 2 管理職の人件費開発部長など その部門を管理する業務が多い者であっても 実態として専門的知識をもって試験研究の業務に専ら従事する者に該当するのであれば その者の人件費 5

は 試験研究費に含まれます 通常 開発部長 は 研究者として専門的知識を持ち プロジェクト全般にわたって業務を担当しているものと考えられます 中小企業の場合には 役員が研究プロジェクトの中心な役割を果たすことも少なくありません このような場合には その役員が専門的知識をもってプロジェクトに参加し その職務や従事状況が明確であれば その人件費 ( 他の研究者と比べ同程度の役員報酬部分に限ります ) は 試験研究費に含まれると考えられます 3 従事比率新製品の製造に係る試験研究を行う者であっても 常に試験研究をしているわけではありません 既に発売された製品の保守や簡単な改良 営業サポートなどをすることがあります このような場合には 全ての時間を試験研究に費やしているということにならないため 試験研究に従事していない時間を除く必要があります 各人別に作業日報を作成し 明確に試験研究への従事状況を管理することが理想ですが 大企業であっても そこまでは管理できていないケースも少なくないようです このような場合には 月次単位で各人別に作業内容を明確にし 合理的な試験研究費を集計する というようなことになるものと考えられます 4 賞与引当金 退職給付引当金試験研究費のうち損金算入されない金額は 税額控除の対象とならないため 人件費のうち期末に税務調整をしている賞与引当金 ( その社会保険料を含みます ) や退職給付引当金について 試験研究費の調整が必要です すなわち 試験研究の業務に専ら従事する者の人件費を計算するに当たり これらの者の期首の賞与引当金等を加算し 期末の賞与引当金等を減算して 損金に算入された人件費を計算します (5) 試験研究に係る経費試験研究に係る経費とは 開発部門や試験研究をする者の家賃 光熱費 交通費など 間接的に試験研究に要した経費をいいます これらの経費に特許申請費用 工業所有権の実施権の取得費用など試験研究後の経費が含まれている場合には これらの費用を試験研究費から除く必要があります そして 上記 (4) で述べた試験研究に従事していない期間に対応する経費についても 試験研究費に該当しないこととなります また 税額控除の対象となる試験研究費は 損金算入された金額に限られる ( 措法 42 の41) ため 交際費や寄附金が損金不算入となる法人では これらの損金不算入とさ 6

れる金額を除くこととなります なお 増加試験研究費の特別控除 ( 措法 42の49 一 ) の適用に当たっては 比較年度 基準年度及び適用年度の試験研究費の範囲 試験研究費を計算する場合の共通経費の配賦基準等については 継続して同一の方法によることとなります ( 措通 42の4(1)-2) (6) 補助金や他社から受けた受託研究費試験研究費に充てるために他の者 ( その法人との間に連結完全支配関係がある他の連結法人を含みます ) から支払いを受ける金額がある場合には その金額を控除した金額が税額控除の対象となる試験研究費となります ( 措法 42の41) この他の者から支払いを受ける金額には 次のものが含まれます ( 措通 42の4(1)- 1) 1 国等からその試験研究費に充てるため交付を受けた補助金 2 独立行政法人科学技術振興機構と締結した新技術開発委託契約に定めるところにより 同機構から返済義務の免除を受けた開発費の額から引き渡した物件の帳簿価額を控除した金額 3 受託研究費の額自社で試験研究を行う一方で 他社から受託研究を受けて収益を上げている場合に 自社の試験研究費から控除する金額は 受託開発に係る原価相当額ではなく その受託研究に係る利益部分を含めた受託研究費の額となるので 留意が必要である 上記 (1)~(6) を図で示すと 次のとおりとなりますが 網掛け部分が税額控除の対象となる試験研究費です ( 1) 量産化後の製品の保守対応に係る人件費 税務調整した賞与引当金等 ( 2) 上記 ( 1) の人件費に対応する間接費や交際費損金不算入部分など 7

4 税務調整が必要な試験研究費次に掲げる項目については 試験研究費の会計上と税務上の処理が異なることがあります 税務調査においても 調査項目となることがあるため 注意が必要です (1) 製造原価となる研究開発費会計上 研究開発費は全て発生時に一般管理費又は当期製造費用として費用処理することとされています ( 会計基準 3 同注 2) 一般的な研究開発費は 原価性がないと考えられるため一般管理費として処理し 工場などの製造現場で発生する研究費であっても 製造原価に含めることが不合理であると認められるときは 当期製造費用に算入してはならないとされています ( 実務指針 4) 一方 法人税基本通達では 試験研究費を基礎研究 応用研究及び工業化研究に分け そのうち工業化研究に該当することが明らかなものは製造原価に算入し それ以外のものは製造原価に算入しないことができることとされています ( 法基通 5-1-4(2)) この 工業化研究に該当することが明らかなもの とは 特定の製品の製造に係る研究 採用している製造技術や製法の改良を目的として継続的 経常的に行われる研究と考えられます すなわち 工業化研究に該当することが明らかな試験研究費については 会計上で費用処理されるものの 税務上は製造原価に算入しなければならず この部分の税務調整が必要となります 会計上 一時の費用として処理された製造原価となる試験研究費は 原価差額として税務調整することとなります 具体的には その試験研究費を他の原価差額に加算し その加算後の原価差額がプラスの場合には 期末棚卸資産に対応する部分の金額をその期末棚卸資産に加算することとなります ( 法基通 5-3-1) また その原価差額を一括して次に掲げる算式により期末棚卸資産に配賦する方法も認められています ( 法基通 5-3-5) この税務調整した金額は 損金の額に算入されず 控除対象となる試験研究費には含まれないこととなるため 注意が必要です 8

(2) 自社利用ソフトウェアの開発費用 1 税務調整会計上 ソフトウェアの開発費用のうち 試験研究に該当する部分は 費用処理します ( 会計基準 3) 一方 法人税基本通達では ソフトウェアの取得価額に算入しないことができるものとして 研究開発費の額を挙げています ( 法基通 7-3-15の3(2)) ただし 自社利用のソフトウェアの研究開発費の額は その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限られており それ以外のものはソフトウェアの取得価額に算入しなくてはならないとされています ( 同括弧書 ) 実務上 自社利用のソフトウェアが開発中止になるまでは その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかになることはないため 自社利用のソフトウェアの開発費用の全額がソフトウェアの取得価額とされます このため 自社利用のソフトウェアの開発費用で 会計上 研究開発費として費用処理された部分は 税務調整が必要となります もっとも 会計監査上 ソフトウェアの資産計上については 厳密な処理が行われているとは言い難く 研究開発費であっても資産計上されている部分が多いように見受けられます 2 税額控除の対象金額ここで問題となるのは 上記 1の通達によりソフトウェアの取得価額とされた部分が税額控除の対象となる試験研究費に該当するか否かです この通達の趣旨は 次のとおりです 企業会計では 自社利用のソフトウェアは 将来の収益獲得又は費用削減が確実 な場合に限り資産の取得価額とされている ( 会計基準 11) しかし その判断が実務上必ずしも明確ではなく 法人の主観性や恣意性が介入する余地があるため 本通達により恣意性を排除している 9

従って 自社利用ソフトウェアといえども その開発過程における研究開発を否定しているものではない 法人税基本逐条解説 ( 六訂版 ) ( 税務研究会 )P550 私見ですが 試験研究費がソフトウェアの取得価額となったとしても試験研究であることに変わりはないため 試験研究費として税額控除の対象となる余地があるのではないでしょうか ただし 税額控除の対象となる試験研究費は損金算入されることが条件となっているため ソフトウェアの取得価額になったときには税額控除の対象とならず そのソフトウェアが減価償却され損金算入された時点で税額控除の対象になると考えられます 過去においても試験研究費が法人税法上の繰延資産とされていたときには 法人の選択により繰延資産とすることができました この場合には その繰延資産である試験研究費の償却額が 税額控除の対象となる試験研究費とされていたようです (3) 特定の研究開発目的の機械装置等会計上 特定の研究開発目的にのみ使用され 他の研究に使用できない機械装置や特許権等を所得した場合には 取得時に研究開発費として処理することとされています ( 実務指針 5) 一方 税務上は他に使用ができないものであっても 減価償却資産として実態を備えているものであれば 研究開発用減価償却資産 ( 耐用年数省令別表六 ) として法定耐用年数で償却する必要があります そして その機械装置等が役目を終え除却したときに 未償却残高を費用処理することとなります この除却費用が試験研究費に該当するかどうかについては その除却が試験研究の継続過程において通常行われる取替更新に基づくものであれば試験研究費に含まれ 災害 研究項目の廃止等に基づき臨時的 偶発的に発生するものであれば試験研究費に含まれません ( 措通 42の4(1)-5) 10