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あたらしい 農業技術 No.576 分娩前の栄養管理指標による 乳牛の生産性向上管理技術の確立 平成 24 年度 - 静岡県経済産業部 -

要旨 1 技術 情報の内容及び特徴 (1) 近年 乳牛の受胎率が著しく低下しており 酪農家の経営を圧迫しています 品種改良による生産乳量の増加に伴い 分娩後に生理的に起きるエネルギー不足が大きくなっており これが繁殖成績の低下に結びついているのではないかと考え エネルギー不足の評価方法と エネルギー不足を軽減する飼養管理方法の検討を行いました (2) 分娩予定 1か月前から分娩 4か月後まで 定期的に体重測定と血液検査を行い 栄養状態をモニタリングしたところ 着目していた分娩後のエネルギー不足よりも 分娩前 1か月間の栄養状態が 受胎率や分娩後の病気の発症率に影響していることがわかりました 分娩予定の 1 か月前から2 週間前の間に 胎子の成長に合わせて体重が増加 ( 分娩 1か月前の母牛の体重に対して 3.5% 以上増加 ) した牛 分娩予定 1か月前の血液検査で エネルギー摂取量や肝臓機能の指標となる血液検査項目が高い牛は 受胎率が高く 病気の発症率が低かったため 生産性の高い牛と判定されました (3) 分娩前にエネルギー不足が疑われた牛に 分娩予定 2 週間前から分娩までの間 ペレット状の栄養添加剤を給与したところ 受胎率が向上し 病気の発症率が低下する傾向にありました 給与や血液検査のコストと 受胎率向上による損失軽減額を計算した結果 1 頭の1 泌乳期当たり約 15 万円の損失軽減となり 分娩前 1か月間 ( 乾乳後期 ) の飼養管理によって 生産性の向上が期待できると考えられました 2 技術 情報の適用効果分娩後の病気の発症が多い 空胎日数が延長している といった酪農家では 乾乳期の管理に問題があると考えられ 飼養管理の評価と改善の指標に体重の増加率と血液検査が有効であり 栄養添加剤等の給与による飼養管理の改善によって 病気の軽減 繁殖成績の向上が期待できます 3 適用範囲県下全域の酪農家 4 普及上の留意点 (1) 分娩前の栄養状態のモニタリングによって 個体に対する栄養管理の改善が可能であり 牛群全体の乾乳期の飼養管理を把握することができます (2) 乾乳牛がストレスの少ない環境下で飼われていること 良質な粗飼料を十分与えられていること 分娩前後の慣らし給与が適切に行われていることが前提となります (3) 基準数値は 牛群の管理方法や測定機器によって変動する可能性があります

目次 はじめに 1 1 栄養管理指標の検討 1 (1) 試験牛の概要及び試験の方法 1 (2) 試験結果 1 2 生産性を向上させるための飼養管理 3 (1) WCR を指標にした飼養管理 3 (2) 血液検査結果を指標にした飼養管理 4 3 指標を活用した飼養管理の提案 5 おわりに 5 参考文献 6

はじめに乳牛は 自分の体を削って生乳を生産する動物です 分娩後 40 日前後で迎える泌乳のピークには 1 日 60kg 近く生乳を生産し 1 回の泌乳期 (1 年弱 ) で約 1 万 kg に達します 1kg の生乳を生産するためには 乳腺に血液を約 500L 循環させる必要があり 多くのエネルギーを必要とします しかし そのエネルギーを飼料摂取で補おうとしても食べきれず 飼料摂取のピークは泌乳量のピークから1か月程度遅れてしまいます そのため 分娩後 2か月くらいまでは 生理的にエネルギー不足の状態になり 体脂肪からエネルギーを産生し 生乳の生産を行っています 近年 品種改良が進み 生産乳量が増加してきていますが それと反比例するように 受胎率が著しく低下しており 酪農家の経営を圧迫しています 乳量の増加に伴って 分娩後に生理的に起きるエネルギー不足が大きくなっており これが繁殖成績の低下に結びついているのではないかと考え エネルギー不足の評価方法 ( 栄養管理指標 ) と エネルギー不足を軽減する飼養管理方法の検討を行いました 1 栄養管理指標の検討畜産技術研究所飼養牛 24 頭について 分娩予定 1か月前から分娩 4か月後まで 定期的に体重測定と血液検査によって栄養状態のモニタリングを行い 疾病の発症 繁殖成績及び泌乳成績と比較しました (1) 試験牛の概要及び試験の方法乾乳期は原則 60 日で パドックにて 粗飼料を自由採食させました 分娩予定 1か月前を目安にスタンチョンへ移動させ 3 週間前から慣らし給与を実施 分娩後は TMR の飽食を基本とし 乳量に応じて配合飼料を追加給与しました 試験牛 24 頭について 分娩予定 1か月前 2 週間前 分娩日 ( 分娩直後 ) 分娩 1 2 週間後 1 2 3 4か月後の計 9 回 体重測定と血液検査を実施しました また 毎日の健康観察 分娩後 21 日からの直腸検査等により 試験牛の疾病の発症と繁殖成績を調査しました 泌乳成績は 牛群検定成績の項目の中から 305 日補正乳量 ( 以下 乳量 ) を用いました (2) 試験結果多くの牛は 分娩に向けて体重が増加し 分娩によって胎子と胎水の重量が減り その後 徐々に体重が減少していきました 分娩から2か月経つと増加に転じ 4か月後には 分娩時に近い体重まで回復していました ( 図 1) 試験開始時の試験牛の体重は 最高で 804kg 最低で 562kg と牛によって大きな差がありました このように 体格が異なる牛の体重変化は 数字そのもので比べることはできません そこで 測定日間の体重の変動を [( 今回の体重 - 前回の体重 ) 前回の体重 100] の式を使ってパーセンテージで表し 体重変動率 (WCR) とし 生産性 ( 疾病発症 受胎性 乳量 ) と比較しました ア疾病発症周産期疾患及び繁殖障害を発症した牛群 ( 疾病群 ) の特徴は 分娩予定 1か月前にエネルギー不足の状態にあり 肝臓機能の低下が認められ 分娩前の体重増加が小さいということで

した 具体的には 分娩予定 1か月前 (-30) の血液検査において 飼料摂取量不足時に低下するインスリン様成長因子 Ⅰ(IGF-1) が低く エネルギー不足で高くなる遊離脂肪酸 (FFA) が高く 肝臓機能の低下時に低くなるレシチンアシルトランスフェラーゼ (LCAT) 及び総コレステロール (TCho) が低い状態にあり 分娩予定 1か月前 ~2 週間前の WCR( 以降 WCR(-30~-14) と示す ) が小さかったことがわかりました ( 表 1) イ受胎性分娩後 120 日を超えても受胎しなかった牛群 ( 空胎延長群 ) の特徴は 疾病発症群と同様に 分娩 1か月前にエネルギー不足の状態にあり タンパク質の不足 分娩前の体重増加が小さいということでした 具体的には 分娩予定 1か月前 (-30) の血液検査において エネルギーとタンパク質のバランスを表す血中尿素態窒素 (BUN) が低く LCAT が低く 分娩時 (0) の IGF-1 が低い状態にあり WCR(-30~-14) が小さい傾向にありました ( 表 2) ウ乳量 305 日補正乳量が 12,000kg 以上の牛を高泌乳群とした場合 12,000kg 未満の牛群 ( 低泌乳群 ) の特徴は 分娩 1か月前のエネルギー不足と 肝臓機能の低下でした ( 表 3) また 高泌乳群は 初回排卵が遅くなるものの 初回授精日数が早く 空胎日数が短縮していました これまで 高泌乳化による分娩後の負のエネルギーバランスの増大 ( 分娩後の体重減少 ) が疾病発症率の上昇や受胎率の低下の原因であると考えられてきましたが 本試験では 泌乳成績との関連性は低く むしろ 高泌乳牛の方が繁殖成績が良い という結果となりました 以上の結果から 分娩 1か月前から ( 乾乳後期 ) のエネルギーの充足 タンパク質とのバランス 肝臓機能 胎子の成長に合わせた体重増加が 分娩後の生産性の向上に影響することがわかりました 平均体重 (kg) 750 700 650 600-30 -14 0 7 14 30 60 90 120 分娩後日数 図 1 試験牛の平均体重の推移 表 1 健康群と疾病群の比較 LCAT(-30) (U) TCho(-30) (mg/dl) FFA(-30) (meq/l) IGF-1(-30) (ng/dl) WCR(-30~-14) 疾病群 550±128 * 96±19 0.11±0.04 * 178±18 ** 4.2±2.7 健康群 444± 72 * 87±18 0.22±0.14 * 121±30 ** 1.6±3.7 群間に有意差あり **:p<0.01 *:p<0.05

()()表 2 空胎日数優良群と延長群の比較 LCAT(-30) (U) BUN(-30) (mg/dl) IGF-1(0) (ng/dl) BUN/GLU(-30) WCR(-30~-14) 優良群 566±131 * 8.7±3.0 * 67± 8 * 0.13±0.05 * 4.2±2.7 * 延長群 456± 83 * 6.1±2.7 * 53±20 * 0.09±0.03 * 1.6±3.7 * 群間に有意差あり *:p<0.05 表 3 高泌乳群と低泌乳群の比較 LCAT(-30) (U) FFA(-30) (meq/l) 初回排卵 ( 日 ) 初回授精 ( 日 ) 空胎 ( 日 ) 高泌乳群 532±120 * 0.13±0.06 ** 41±10 ** 87±35 * 135±74 ** 低泌乳群 428± 75 * 0.25±0.16 ** 28± 9 * * 129±62 * 251±96 ** 群間に有意差あり **:p<0.01 *:p<0.05 WCR-30 ~-14-14 8 6 4 2 a b 120 日未満 120 日以上 WCR-30 ~ 8 6 4 2 健康群発症群 0 a-b:p<0.05 図 2 空胎日数と WCR(-30~-14) の関係 0 図 3 疾病の発症と WCR(-30~-14) の関係 2 生産性を向上させるための飼養管理 (1)WCR を指標とした飼養管理繁殖成績良好群及び健康群の成績を元に基準値を設定し比較したところ WCR(-30~-14) が 3.5% 以上であった牛群は それ未満であった牛群に比べて 疾病の発症率が低く 初回受胎率及び 120 日受胎率が高くなっていました ( 図 4) この結果から 生産性向上のための飼養管理の評価指標として WCR(-30~-14) が有用であり 3.5% 以上になっていれば 適正な管理ができていると評価することができます WCR の計算のためには 牛衡機 ( 牛用の体重計 ) が必要となります 市販の体重推定尺は 牛の体格や測定する人によって誤差が生まれるため 3.5% という指標の計算には適していません 牛衡機が無い酪農家では 次に記載する 血液検査項目を指標としてください

80 疾病発 60 症率 40 及び受 20 胎率 0 WCR(-30~-14)3.5% 以上 WCR(-30~-14)3.5% 未満 b c e a d f 疾病発症率 初回受胎率 120 日受胎率 a-b,c-d,e-f :p<0.05 図 4 WCR(-30~-14) と疾病発症率及び受胎率の関係 (2) 血液検査結果を指標にした飼養管理繁殖成績良好群及び健康群の成績を元に基準値を設定し比較したところ 分娩予定 1か月前の血液検査で 総コレステロール (TCho)105mg/dl 以上 レシチンアシルトランスフェラーゼ (LCAT)520U 以上 尿素態窒素 (BUN)8.0mg/dl 以上であると受胎率が高く インスリン様成長因子 -Ⅰ(IGF-1)165ng/dl 以上であると疾病発症率が低くなっていました ( 図 5) LCAT が 520U 未満であり 肝臓機能の低下が疑われた群では 乳量も低下しており 乾乳後期の管理が 乳量も含めた生産性に大きく影響していると考えられます この結果から 受胎率向上のための飼養管理の評価指標は 分娩 1か月前の LCAT TCho BUN が 疾病発症率低下のための飼養管理の評価指標は 分娩 1か月前の IGF-1 がそれぞれ有効であり LCAT 520U 以上 TCho 105mg/dl 以上 BUN 8.0mg/dl 以上 IGF-1 165ng/dl 以上であれば 適正な管理ができていると評価することができます 疾 100 病発 80 症 60 率及 40 び受 20 胎率 0 A C B 以上未満以上未満以上未満以上未満 LCAT (520U) D ac b d TCho (105mg/dl) BUN (8.0mg/dl) 血液検査項目 ( 基準値 ) e f 初回受胎率 120 日受胎率疾病発症率 E IGF-1 (165ng/dl) F A-B, C-D, E-F : p<0.01 a-b, c-d, e-f : p<0.05 図 5 分娩予定 1 か月前の血液検査結果と疾病発症率及び受胎率の関係

3 指標を活用した飼養管理の提案 WCR や血液検査結果を指標とし 適正範囲となるような分娩前の飼養管理をすることで 生産性の向上が期待されます 適正値を下回り 生産性の低下が予想された牛 12 頭について エネルギー添加試験 ( ) を行い 分娩後の生産性の向上について調べました ( :12 頭中 6 頭にグリセリンペレット 400g/ 日を 分娩予定 2 週間前から分娩まで約 2 週間給与し 非給与群と比較 ) その結果 分娩 1か月前の血液検査で TCho が 100mg/dl を下回った牛にグリセリンペレットを給与することで 受胎率の向上 空胎日数の短縮 授精回数の減少が確認できました ( 表 4) 繁殖成績の向上によって得られる経済効果は 1 頭当たり一泌乳期で約 15 万円と試算され ( グリセリンペレットの給与と 血液検査料金等のコストを考慮 ) 効果的な飼養管理の改善の手法と考えらます 今回の試験では 疾病発症率の明らかな低下は認められませんでしたが 畜産技術研究所で過去に実施した試験では ケトーシス発症率の低下が認められており 更なる経済効果も期待できます 表 4 グリセリンペレット給与による生産性の変化初回受胎率 120 日受胎率疾病発症率授精回数空胎日数 ( 回 ) ( 日 ) 給与群 50.0 66.7 * 33.3 2.0±1.1 * 135±74 ** 非給与群 0 0 * 50.0 3.5±0.8 * 251±96 ** 群間に有意差あり **:p<0.01 *:p<0.05 おわりに本試験の結果から 疾病発症率の増加や受胎率の低下は 泌乳による分娩後の体重減少が原因ではなく 分娩予定 1か月前からの栄養管理の不適が影響していたことがわかりました ( 分娩後 1か月間の体重減少が大きい牛は 初回排卵や初回発情が遅延するものの 初回授精は早く 初回受胎率も良い という結果になりました ) このことから 生産性を向上させるためには 乾乳牛の飼養管理の見直しが重要であると結論づけることができました 分娩予定 1か月前及び2 週間前の体重測定による WCR(-30~-14) の計算 又は 分娩予定 1か月前の血液検査 (LCAT TCho BUN IGF-1) により 飼養管理が適正であるかどうかの評価を行うことが可能になります 乾乳期は 乳腺を休め 次の泌乳に備える重要な時期です また 分娩予定 1か月前から分娩までは 急激に成長する胎子のため そして 分娩 泌乳再開のために エネルギーを必要とする時期です 現在の管理が適正かどうかのチェックを行い 栄養不足が疑われる場合は飼養管理の見直しによって改善を図ってください LCAT と IGF-1 は 専門機関への測定依頼が必要となりますが TCho と BUN については 自動分析装置を保有する診療所で簡便に測定することができます ぜひ 担当の獣医師に相談し 測定と評価をしてみてください TCho が 100mg/dl 未満だった牛へは サプリメント等による栄養補給を行いつつ 牛群全体の飼養管理の見直しを図り 生産性の高い牛群管理を目指してください

参考文献 1) 赤松裕久 土屋貴幸 佐野文彦 笠井幸治 芹澤正文,2009, 分娩前の血中総コレステロール値の違いがケトーシス予防効果におよぼす影響. 静岡県畜産技術研究所研究報告,2,10-13. 2) 川島千帆, 2008. 乳牛における周産期の栄養代謝状態と分娩後の卵巣機能. 家畜診療, 55(6), 375-380. 3) 小比類巻正幸 増井真知子 大塚浩通 川村清市,2005. 乳牛における体重変動率 (WCR) を用いた牛群管理の試み. 臨床獣医,23(4),19-25. 4) 森山直樹 高木光博 大谷昌之 宮澤清志 宮本明夫 松井基純 三宅陽一,2007. ホルスタイン種乳用牛の周産期における血液と乳成分および体重の変動と分娩後の卵巣活動の関連性. 家畜臨床誌,30(2),45-50. 5) 坂口実 笹本良彦 鈴木貴博 高橋芳良 山田豊,2003. 産次, 分娩季節, 乳量およびボディーコンディションスコア低下が分娩後乳牛の繁殖性に与える影響. 北畜会報,45,33-40. 6) 坂口実,2008. 分娩後乳牛の繁殖性と生産性の関係. 日畜会報,79(3),353-359. 用語解説 1) WCR: 体重変動率 Weight Change Rate の略 測定日間の体重の増減を割合で表す 2) 空胎日数 : 分娩から受胎するまでの日数 3) 疾病発症率 : 低カルシウム血症 ケトーシス 第四胃変位 胎盤停滞 卵巣静止 黄体形成不全などの周産期疾患や繁殖障害で治療を行った牛の割合 4) 初回受胎率 : 分娩後初めての種付けで受胎した牛の割合 5) 120 日受胎率 : 分娩後 120 日以内に受胎した牛の割合 120 日以降受胎しない場合 1 日あたり約 1,200 円の経済損失が発生する 6) グリセリンペレット : アシドーシスなどによって第一胃内の環境を損なうことなく 速やかなエネルギー補給が可能なサプリメント 7) レシチンアシルトランスフェラーゼ (LCAT): 肝臓に特異的な酵素で 脂肪の代謝に関わり 活性値は肝臓機能を反映する 特に 分娩前に低値は脂肪肝の発生リスクを高める 8) インスリン様成長因子 Ⅰ(IGF-1): 採食量を反映して増加し ホルモン分泌を促す作用を持つ 畜産技術研究所酪農科 主任研究員 河村恵美子 ( 現東部農林事務所家畜衛生課富士分室 主任 )

発行年月 : 平成 25 年 3 月編集発行 : 静岡県経済産業部振興局研究調整課 420-8601 静岡市葵区追手町 9 番 6 号 054-221-2676 この情報は下記のホームページからご覧になれます http://www.pref.shizuoka.jp/sangyou/sa-130a/