第 17 回学術一泊合同研修会 症例検討 輸血検査 ( 解答 / 解説 ) 設問 1 もし 緊急時 O 型赤血球輸血を行う場合 医師や看護師に注意点としてどのようなこ とを伝えますか? O 型 RCC 輸血後に採血すると 患者血液と輸血血液が混ざった状態となり判定が困難となりますので 必ず輸血前に検体を採取してください 血液型が確定後は同型血に切り替えるので すみやかに検体を提出してください 救命後でかまいませんので 緊急時異型適合輸血に関する説明を含んだ同意書を取得しておいてください 患者血液と輸血血液が混ざった状態になると オモテ試験で部分凝集となり判定が困難となりますので 輸血前に必ず採血してもらってください 輸血療法の実施に関する指針 では緊急に赤血球の輸血が必要な出血性ショック状態にある救急患者について, 直ちに患者の検査用血液を採取することに努めるが, 採血不可能な場合には出血した血液を検査に利用しても良い としています 検査室では 出庫する前に RCC のセグメントを確保しておき 出庫した後でも間接抗グロブリン試験を含むクロスマッチを行えるようにしておいてください この時点では RCC に含まれる抗 A 抗体 抗 B 抗体による溶血性副作用の可能性 また患者が Rh(D) 陰性である可能性 (0.5%) 不規則抗体の保有により溶血反応を生じる可能性(0.5% 以下 ) があり遅発性溶血性副作用のリスクは約 1% となります 緊急に輸血を行った場合には事後説明を行い 事後の同意の記録を残すことが必要だと考えられます 設問 2 RCC が必要になった場合 輸血できるものを優先する順番に並べてください 1A 型 (+)2B 型 (+)3O 型 (+)4AB 型 (+)5A 型 (-)6B 型 (-)7O 型 (-) 8AB 型 (-) 患者は AB 型 (-) と確定しているので 8AB 型 (-)>5A 型 (-)=6B 型 (-)>7O 型 (-)>4AB 型 (+)>1A 型 (+)= 2B 型 (+)>3O 型 (+)
設問 3 FFP PC が必要になった場合 輸血できるものを優先する順番に並べてください 1A 型 2B 型 3O 型 4AB 型また 今回この症例患者は男性ですが 女性で AB 型 (-) だった場合 PC の輸血で注意する点はありますか? 患者は AB 型なので 4AB 型 >1A 型 =2B 型 なお, 患者が Rh 陰性で将来妊娠の可能性のある患者に血小板輸血を行う場合には, できる だけ Rh 陰性由来のものを用いる Rh 陽性の血小板濃厚液を用いた場合には, 抗 D 免疫グロ ブリンの投与により抗 D 抗体の産生を予防できることがある 患者血液型が未確定の場合は O 型 RCC AB 型 PC FFP の輸血となります 確定している場合は同型血となるが 同型の在庫がなく血液センターからの搬送が間に合わない場合は異型適合輸血を考えます Rh 抗原が陰性と判明したときは,Rh 陰性の血液の入手に努めるが Rh 陰性を優先して異型適合血を使用してもよいとされています 患者が女児又は妊娠可能な女性で Rh 陽性の血液を輸血した場合は, できるだけ早く Rh 陰性の血液に切り替えます 輸血後 48 時間以内に不規則抗体検査を実施し抗 D 抗体が検出されない場合は, 抗体産生を予防する目的で抗 D 免疫グロブリンの投与を考えます 抗 D 免疫グロブリン 1 本 (1000 倍 /2ml 250μg 相当 ) で 約 15ml の D(Rh) 陽性赤血球による感作を抑制します PC FFP にはほとんど赤血球は含まれませんが (PC10 単位中に 0.01ml 以下 ) 20~24 度で保存する PC には不規則抗体産生の報告もあることから 妊娠可能な女性には PC も Rh 陰性の輸血をするよう努めてください また HLA 適合血小板を輸血する際は ABO よりも HLA を優先することがありますが O 型は高 力価の IgG をもっていることがあり 溶血性副作用の報告例がありますので注意が必要です 異型適合血の選択 患者血液型 RCC PC FFP A A>O A>AB>B B B>O B>AB>A AB AB>A=B>O AB>A=B O O のみ 全型適合
設問 4 抗体スクリーニングの結果よりそれぞれの cell について消去法を実施してください 設問 5 抗体スクリーニングの判定と消去法により否定できない抗体 可能性の高い抗体を記 入してください Sex Rh-hr DUFFY KIDD LEWIS MNS P DIEGO TestResults Linked cell Rh-hr D C E c e Fy a Fy b Jk a Jk b Xg a Le a Le b S s M N P 1 Di a Di b cell S C CC 1 R 1 R 1 + + 0 0 + 0 + 0 + + + 0 0 + 0 + + s 0 + 1 1 + 2 + n.t 2 R 2 R 2 + 0 + + 0 + 0 + + + 0 + + 0 + 0 + 0 + 2 0 0 2 + 3 rr 0 0 0 + + + + + 0 0 0 + 0 + + + 0 0 + 3 0 1 + n.t Di a R 1 r + 0 0 0 0 + 0 + + 0 0 0 + + + + + + + Di a 0 0 2 + 自己 0 0 2 + S 生理食塩水法 C クームス法 CC クームスコントロール 消去できる抗体 cell 1 なし cell 2 D E c Fy a Xg a Le b cell 3 なし cell Di a D Fy a P 1 Di a Di b S M P 1 Di b 判定 否定できない抗体 可能性の高い抗体 陽性 Jk a Jk b s N C e Fy b Le a 消去法は 量的効果 に留意して実施してください 同じ対立遺伝子を持つものを ( たとえば E と E Fya と Fya M と M など ) をホモ接合体 違う対立遺伝子を持つもの ( たとえば E と e Fya と Fyb M と N など ) をヘテロ接合体といいます ホモ接合体の赤血球には ヘテロ接合体に比べ約 2 倍の抗体が結合します そのため ホモ接合体の赤血球では凝集が強くおこりますが ヘテロ接合体の赤血球では 凝集をおこすのに十分な抗体を結合できないことがあるため たとえ反応が陰性であっても抗体の存在は否定できません 量的効果を示す血液型には Rh kidd Duffy MNS などが知られています
< 消去法の表記の手順 > 1 パネル赤血球の Rh kidd Duffy MNS の血液型がホモ接合体かヘテロ接合体か確認する それ以外の血液型は量的効果を考慮しなくてもよい 2 陰性 を示したパネル赤血球について消去をしていく 3 陰性だったパネル赤血球の抗原 + 上に をつける 量的効果がある血液型では ホモ接合体の抗原 + の場合に をつけ ヘテロ接合体抗原 + なら / とする 4 が 1 つ以上あれば その抗原に対する抗体の存在を否定できる / のみの抗原に対する抗体は判定を保留する 5 消去法の反応パターン 強度から 可能性の高い抗体 と 否定できない抗体 に分類ができる 今回は 生食法で cell 1 が (1+) クームス法で cell 1 が (2+) cell 3 が (1+) となっています 生食法でよく反応する抗体には Lewis M N P やや反応が弱いものとして Rh S がありますが このパターンでは Lea が一致します また クームス法で (2+) と (1+) で反応の強弱がみられることから 量的効果がある抗体や複数抗体が推測されます 設問 6 Hb 5.5 g/dl より Hb 8.0 g/dl まで上昇させたい場合 RCC は何単位必要ですか 患者は体重 50Kg 循環血液量は 70ml/Kg RCC1 単位の Hb 量は 29g で計算してください 予測上昇 Hb 値 (g/dl)= 投与 Hb 量 (g)/ 循環血液量 (dl) 予測上昇 Hb 値 (g/dl):8.0-5.5=2.5 循環血液量 (dl):50 70/100=35 投与 Hb 量 (g):35 2.5=87.5 RCC1 単位は 29g のため 87.5/29=3.01 約 3 単位の RCC が必要 だいたい体重 50kgの人に RCC2 単位 PC10 単位 FFP4 単位輸血すると Hb が 1..7g/dl 血小板が約 3.8 万 /μl フィブリノゲンが 17 mg /dl 程度上昇します 通常の輸血の場合 最初の 15 分は 1 分間に 1ml 程度の速度で輸血し 副作用が起こらないか観察し その後は 1 分間に 5ml 程度輸血します 輸血にかかる時間は RCC2 単位で 1 時間 10 分程度 PC10 単位で 50 分程度 FFP4 単位で 1 時間 50 分程度です
設問 7 医師はクロスマッチを待っている時間はないため AB 型 (-)RCC4 単位を生食法のみ で救急外来へ持ち出し 輸血を開始するとのことでした 医師にどのようなことを伝えますか? 患者は 前回の輸血で不規則抗体を持っている可能性があります 今回の輸血で溶血性副作 用を起こす可能性があるので 様子を見ながら輸血をしてください 不規則抗体による輸血副作用は 多くは遅発性溶血性副作用であり 過去の輸血や妊娠で産生された抗体が 対応抗原陽性赤血球が輸血された結果 抗体価が上昇して赤血球を破壊する二次免疫応答によるもので 輸血後 24 時間以降 主に 3~14 日以内に発症することが多いとされます ABO 不適合輸血以外では致死的になることは少ないが 医師にリスクがあることを説明し 検査室では引き続き間接抗グロブリン試験を含むクロスマッチを実施してください 設問 8 スクリーニングと不規則抗体同定の結果より 可能性の高い抗体と 準備すべき血液 型 適合率を答えてください Sex Linked Rh-hr DUFFY KIDD LEWIS MNS P DIEGO TestResults cell Rh-hr D C E c e Fy a Fy b Jk a Jk b Xg a Le a Le b S s M N P 1 Di a Di b cell S C CC 1 R 1w R 1 + + 0 0 + + 0 + + 0 0 + 0 + + 0 + s 0 + 1 0 0 2+ 2 R 1 R 1 + + 0 0 + + 0 + 0 + + 0 0 + + + 0 0 + 2 1+ 0 2+ 3 R 2 R 2 + 0 + + 0 + + + 0 + 0 + + 0 + + 0 0 + 3 0 1+ n.t 4 R 0 r + 0 0 + + 0 0 0 + 0 0 0 + + + + + 0 + 4 0 0 2+ 5 r r 0 + 0 + + + 0 0 + 0 0 0 0 + + + + 0 + 5 0 0 2+ 6 r r 0 0 + + + 0 + + + + 0 + 0 + + + + 0 + 6 0 2+ n.t 7 rr 0 0 0 + + 0 + 0 + + 0 + + + + + + 0 + 7 0 2+ n.t 8 rr 0 0 0 + + 0 0 + 0 + + 0 + 0 + 0 + 0 + 8 1+ 0 2+ 9 rr 0 0 0 + + 0 + 0 + + 0 + 0 + 0 + 0 0 + 9 0 2+ n.t 10 rr 0 0 0 + + + 0 + 0 0 0 + 0 + + + + s 0 + 10 0 0 2+ 11 R 1 R 1 + + 0 0 + 0 + 0 + + + 0 0 + 0 + + 0 + 11 1+ 2+ n.t
可能性の高い抗体は 抗 Fyb 抗体と抗 Lea 抗体 ( 室温反応性 ) です 準備すべき血液型は AB 型 ( ) の Fyb 抗原陰性血です 適合率は 80% です 不規則抗体同定では 否定できない抗体として E Xga S N Dia があるが スクリーニングで E Xga S Dia は消去できている N はどちらでも消去できないが 反応パターンより考えにくい 結果 Fyb と Lea が可能性が高い抗体と考えられます 適合血の選択基準によると Lea はクームスで反応していないので 抗原陰性血を選択する必要がありません よって 適合率は Fyb のみの 80% となります 施設によって抗血清があれば 患者血球と抗 Fyb 血清との反応結果を確認します 患者抗原に対する同種抗体は産生されないことから 検出された不規則抗体が同種抗体であれば 患者赤血球上の当該抗原は陰性でなければなりません 陰性ならば患者は Fyb 抗原を持っていないことになるので 抗 Fyb 抗体を保有している可能性が極めて高くなります また 追加パネルとして Fya(+) Fyb(-)Lea(-)M(-)N(+) の血球を探して検査し 陰性ならば N の可能性は否定できます 適合血の選択基準 選択の必要性がある抗体群 これらの血液型に対する抗体を保有している場合は 必ず抗原陰性血を選択する Rh Duffy kidd Diego S s kell 選択の必要性が少ない抗体群これらの抗原に対する抗体を保有していても 抗原陰性血液を選択することは少ない Leb P1 A1 N Xga Bga 高頻度抗原に対する抗体 (JMH Knops Cost Chido/Rodgers) 反応性によって選択の必要性あり間接抗グロブリン試験が陽性 (37 で 1 時間加温後 ) または試験管内で溶血を示す場合は抗原陰性血を選択する Lea M 専門機関に相談その他高頻度 または低頻度抗原に対する抗体
設問 9 患者はすでに Lot No1 と Lot No2 の 4 単位輸血しています 医師にクロスマッチの 結果を含めて どのような説明をしますか? 患者は抗 Fyb 抗体と抗 Lea 抗体という不規則抗体を保有していました RCC 輸血の場合は Fyb 抗原陰性血の選択が必要ですが 今回は緊急輸血のため適合血の選択ができていません すでに輸血された 4 単位はクロスマッチで陰性でしたが これは RCC の抗原に十分に患者抗体が結合しなかったため 凝集せずに陰性だった可能性があります 溶血性副作用の可能性がありますので 今後 2 週間ぐらいまで溶血所見がないか注意してください 施設により抗血清があれば 輸血済み RCC の Fyb 抗原の有無を調べるとよいと思います 設問 10 輸血後の患者データー項目で確認したらいいところはどこですか? また検体の観察で 気をつける点はどこですか? 今後の輸血について医師にどのような説明をしますか? 溶血所見を反映する検査値 :Hb 値の低下 AST ALT LDH 総ビリルビンの上昇 ハプトグロビン低下 腎機能低下 (BUN クレアチニン ) 直接クームス検査 検体の観察 : 尿 ( ヘモグロビン尿 ) 血清の色調など 今後の輸血について : 患者は抗 Fyb 抗体と 抗 Lea 抗体を保有しています 抗 Lea 抗体は 37 で反応しないため Lea 抗原陰性の血液を準備する必要はありません 今後は Fyb 抗原陰性血を準備します 適合血の選択には間接抗グロブリン法によるクロスマッチが必要になりますので検査には 1 時間程度必要です 適合率は 80% です 取り寄せに通常より時間がかかることが予想されるため 申し込みは早めにお願いします 今後 輸血を行っていくと新たな不規則抗体産生の可能性もあるため 定期的に検査し注意しながら輸血してください
輸血副作用対応ガイドラインより 遅発性溶血性輸血副作用の診断 1) 輸血前後の検体による不規則抗体検査と交差適合試験 ( 輸血前 :- 輸血後:+) 2) 不規則抗体同定 ( 原因抗体が 1 種類でなく複数関与する場合もある ) 3)DAT( 輸血赤血球が残存している場合は陽性となる ) 4) 抗体解離試験 ( 原因抗体が同定される場合がある ) 5) 輸血した赤血球の抗原確認 ( 原因抗体の対応抗原が輸血赤血球に存在する ) 6) 溶血所見の確認 :Hb 値の低下 LDH 総ビリルビンの上昇 血清または尿の色調 7) 不明な場合は血液センターに相談または検査依頼 遅発性溶血性輸血副作用の治療 1) 通常は無治療で経過観察するが 腎機能には十分な注意が必要である 2) 重度の溶血反応が生じた時は急性溶血反応と同様に治療する 3) 貧血が強度であれば抗原陰性赤血球濃厚液の輸血を行う 遅発性溶血性輸血副作用の予防 1) 不規則抗体検査に IgG 抗体の検出感度が高い検査法を用いる 2) 交差適合試験のみでの輸血は行わずに 輸血前に必ず不規則抗体検査を実施する 3) 3 ヵ月以内に輸血 妊娠歴がある患者の交差血は 輸血前 72 時間以内の採血検体を用いる 4) 臨床的意義がある抗体が検出された患者には その旨を記載したカードを携帯させる 5) 輸血前後の患者検体とセグメントを保管する ( 原因検索のため輸血後 1 カ月程度 ) 6) 輸血後の生化学検査および血球計数検査のデータをモニターする ( 早期発見 ) 7) DHTR の発症が予想される場合は 輸血部門から担当医師に十分な情報提供を行う 特に救命のために緊急輸血が実施された症例では重要である 遅発性溶血性輸血副作用対策( 緊急輸血症例 ) 救命のために緊急輸血が実施された症例では 事後であっても 不規則抗体スクリー二ング 交差適合試験 血液型の確定を行う 37 で反応する不規則抗体の存在が疑われる場合は抗体同定を行う 自施設で同定不能の場合は 血液センター等に精査を依頼する 遅発性溶血反応の発生が予想される場合には 輸血部門から担当医師に十分な情報提供を行う