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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化にむけて分化を始めるが プロラクチン (PRL) 等の分泌が特徴的で これらは脱落膜化 のマーカーとして認識されている 脱落膜化を誘導する物質としてプロゲステロンが証明 されているが camp のシグナル伝達系がその誘導に直接介在していることが示されてい る SULT2B1b がヒトにおいても着床期に誘導される場合 脱落膜化の起因物質であるプ ロゲステロン及び camp が発現に関与しているのではないかと仮定した そこで 本研究 において まず 1SULT2B1b がヒト子宮内膜において着床の時期で発現が誘導されている ことを確認した後 性ステロイドホルモンと camp による発現調節について検討した 次 に 2 コレステロール硫酸の着床期ヒト子宮内膜における機能解析として プロテアーゼに 対する作用を検討した 方法及び結果 ヒト子宮内膜における SULT2B1b 発現の局在を in situ hybridization 法 にて検討したところ 子宮内膜腺管上皮及び間質に発現が認められた 腺管上皮に発現を 認めたことから コレステロール硫酸が子宮内膜より分泌される可能性が示されたため [ 35 S]-PAPS をトレーサーとして子宮内膜上皮細胞の上清中に添加し培養後 細胞及び培養 上清から脂質を抽出 薄層クロマトグラフィー法にて展開したところ 双方においてコレ

ステロール硫酸のバンドを認め さらに培養上清におけるコレステロール硫酸の方が多い ことが確認された これは 細胞中で合成されたコレステロール硫酸が培養上清中に分泌 されたことを示しており 分泌能が確認された ヒト子宮内膜における月経周期での SULT2B1b の発現の変化を定量的 PCR 法にて検討 したところ 分泌中期において発現が有意に高いことが示された この結果から ヒトに おいても着床期に胚の存在に関わらず SULT2B1b の発現が誘導される可能性が示唆された ため この発現誘導の機序について まず子宮内膜間質細胞の培養系を用いて検討した エストロゲン (E2)10-8 M とプロゲステロン (P4) 10-8 M camp 1mM の添加による SULT2B1b の発現の変化を検討したところ 培養 9 日目では E2 と P4 の同時添加及び camp の添加で SULT2B1b が誘導された 次に E2 と P4 の同時添加による SULT2B1b の発現量 の経時的変化を調べたところ 培養 9 日目と 11 日目で有意に増加を認めた なお 同じ培 養系で脱落膜化のマーカーとして知られるプロラクチンの発現について調べたところ 培 養 13 日目において発現の誘導を認めたことから SULT2B1b の発現の誘導は 脱落膜化が 進む時期より早期に認められることが示唆された さらに P4 の SULT2B1b の発現誘導に おける容量依存性を検討したところ 10-8 M でその効果は最大となった この発現誘導は プロゲステロンレセプターと camp の特異的インヒビターの同時添加にて各々抑制された このことから プロゲステロンによる SULT2B1b の発現誘導は camp の経路を介すること が示唆された

子宮内膜上皮細胞培養系においても同様に検討したところ 培養 3 日目において camp による SULT2B1b の発現誘導はみられたものの E2 及び P4 による変化はみられなかった 次に 子宮内膜上皮細胞において camp 濃度を上昇させる因子である hcg 及びリラキシン の SULT2B1b の発現に対する作用を検討したところ 培養 3 日間で hcg 100ng/ml の添加 による発現誘導はみられなかったが リラキシン 100ng/ml の添加により培養 3 日目におい て有意に発現の誘導を認めた 次にコレステロール硫酸の機能解析として 子宮内膜間質培養系におけるプロテアーゼ 活性に対する作用を検討した まずプラスミンの前駆物質であるプラスミノーゲンを培養 上清に添加し コレステロール硫酸を添加して活性の変化を蛍光基質法にて検討したとこ ろ プラスミン活性はコレステロール硫酸の濃度依存的に活性の低下がみられ 過去の in vitro の反応系で得られた結果と同様の結果であった MMP 活性は in vitro の反応系ではコレステロール硫酸によって抑制を受けないが 実際 の生体内において MMP は不活性型 MMP として分泌された後 プラスミンによって活性 化を受けて活性型 MMP となるため MMP がプラスミンと共在する子宮内膜間質細胞培養 系においては MMP 活性はコレステロール硫酸による抑制を受けるのではないかと仮定し た これを証明するため プラスミノーゲン及びコレステロール硫酸を添加した同様の系 で MMP-3 活性を蛍光基質法で検討したところ MMP-3 活性は有意に低下を認めた ウエ スタンブロット法でも コレステロール硫酸による不活性型 MMP-3 から活性型 MMP-3 へ

の移行の抑制が示された 次に MMP-2 及び MMP-9 の活性化に対するコレステロール硫 酸の作用について MMP-2/-9 の共通の蛍光基質を用いて検討した コレステロール硫酸の 濃度依存的に活性の抑制はみられたものの その程度は軽度であった ゼラチンザイモグ ラフィー法による検討において MMP-9 活性がコレステロール硫酸によって抑制されるこ とが示されたが MMP-2 ではみられなかったことから この MMP-2 の結果が蛍光基質法 で示された 活性の抑制が軽度であることを説明しうると考えられた 考察 コレステロールの硫酸化に特異的に働く酵素として知られる SULT2B1b が ヒト 子宮内膜において着床期にあたる分泌中期に発現が増加することを証明し その発現機序 解明のために子宮内膜間質細胞の一次培養系を用いて camp の伝達経路を介したプロゲス テロンの作用を明らかにした さらに トロフォブラストの浸潤に最も重要なプロテアー ゼとして知られる MMP の活性をコレステロール硫酸の濃度依存的に抑制することを示し た 排卵後 プロゲステロンの増加により子宮内膜は間質の脱落膜化がおこるが 脱落膜化 を直接起こす因子として camp の経路の持続的な活性化が知られ プロゲステロンにより camp が誘導されることが報告されている 本研究において SULT2B1b がプロゲステロ ンの濃度依存的に発現が誘導され さらに PKA( プロテインキナーゼ A) の抑制によりそ の発現が減少することを示し 脱落膜化が起こる過程で SULT2B1b も誘導される可能性が 示唆された 脱落膜化のマーカーであるプロラクチンより早期に発現が増加することから

いわゆる predecidualization の時期に発現する遺伝子であることが推測された 子宮内膜上皮細胞における SULT2B1b の発現調節についても検討し 間質細胞と同様に camp における発現の誘導を認め さらに細胞内の camp を上昇させうる物質として知ら れるリラキシンの添加でも有意に発現の誘導を認めた リラキシンは排卵後の黄体より分 泌されること リラキシンの細胞膜上のレセプターである LGR 7 の月経周期における発現 が分泌前期に増加することから SULT2B1b の発現誘導を起こす物質の候補として矛盾し ないものと考えられる 次に コレステロール硫酸の着床期における働きとして 着床に重要なプロテアーゼの 調節因子として働くことを見出した 子宮内膜間質培養系において コレステロール硫酸 はトロフォブラストの浸潤に重要であることが知られるプラスミン及び MMP-3, MMP-9 に対し抑制的に働くことが本研究で示された コレステロール硫酸により不活性型 MMP の発現は変化がみられなかったものの 不活性型から活性型への移行が抑制されたことか ら MMP の活性の抑制はプラスミン活性の抑制を介して間接的に起こったと考えられる プラスミンは多くのサブタイプの MMP の活性化に主として働く物質であるため 他のサ ブタイプの MMP 活性をも抑制している可能性がある 本研究において コレステロール硫酸がヒト子宮内膜において着床期に特異的に発現を 認めうることが示され この分子学的機構として camp の経路を介したプロゲステロンに よる誘導作用が明らかとなった さらにコレステロール硫酸のヒト子宮内膜における新た

な作用として トロフォブラストの浸潤に重要である MMP 系とプラスミノーゲンアクチ ベーター / プラスミン系に対して抑制的に働くことで 着床現象の浸潤の過程における制御 因子の一つとしての役割を担う可能性が示唆された