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80 武凪沙, 他 態で腰椎のわずかな右側屈により 骨盤を右挙上させ下肢を後方へと振り出す これに対し本症例は 立位姿勢から上位胸椎部屈曲位 胸腰椎移行部屈曲 左非麻痺側 ( 以下 左 ) 側屈位を呈し体幹直立位保持が困難となっていた また右股関節 膝関節が左側と比べてより屈曲していることで骨盤右下制位による体幹右傾斜を認めており さらに左後足部は回外位を呈していた そして右下肢を後方へと振り出す際には 常に骨盤右下制位による体幹右傾斜を呈し 左後足部回外位であるために左下肢への体重移動が不十分となり 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上も困難であった そのため左股関節屈曲および内転による体幹が右前方傾斜しようとする働きが増強し 転倒の危険性を認めていた 理学療法では まず体幹を直立位保持させ さらに右股関節伸展を促すことで 骨盤右下制位による体幹右傾斜を改善し立位姿勢を獲得させた そして 脳梗塞発症前から認めていたと考えられる左後足部回外位を改善し より円滑な左側体重移動に伴う右下肢の後方ステップ動作練習をおこなった その結果 日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作の安全性 安定性が向上し 退院後の公演会にて日本舞踊を披露することが可能となった そこで今回 本症例に対する理学療法経過について考察をふまえて報告する なお 本論文の作成に関して趣旨を症例に説明のうえ 同意を得た 本症例は平成 X 年 2 月に脳梗塞 ( 左放線冠 ) を発症し 右片麻痺を呈した80 歳代前半の女性であり 職業は日本舞踊家である 脳梗塞発症後 他院にて約 6 週間リハビリテーションをおこなったのち 当院の回復期リハビリテーション病棟に転院されリハビリテーションを継続する運びとなった 発症前の日常生活活動 (Activities of Daily Living : 以下 ADL) としては 平成 X-20 年より左膝関節に内反変形を認めていたが独歩は可能であった しかし 平成 X - 3 年から左膝関節の内反変形が増強するとともに左膝に疼痛が出現し 歩きにくさを認めるようになり 移動時には伝い歩きまたは歩行車歩行となった また日本舞踊においても 徐々に踊りにくさを認めるようになっていた そして当院でのリハビリテーション開始時は 脳梗塞を発症したことにより発症前は可能であった伝い歩きが困難となり 歩行車歩行においては介助を要していた そのため約 8 週間の当院での理学療法経過にて 両下肢および体幹筋の筋緊張改善と 脳梗塞発症前から認めていた左膝関節の内反の軽減により疼痛が消失したことで屋内での伝い歩き さらには短距離であれば独歩も可能となり 院内でのADL は概ね自立となった そこで本症例より もう一度踊りたい という 新たな希望が聞かれ さらにご家族からも もう一度舞台で踊ってほしい との希望があがり 日本舞踊の動作観察をおこなったところ 右下肢を後方へと振り出す際に右前方への転倒の危険性を認めた このため 日本舞踊において右下肢の後方ステップ動作に続く方向転換ができず 踊りきることが困難となっていた また本症例からも 右脚を後ろに上手く引けない との訴えが聞かれた そこで今回 退院後の公演会で踊ることを目的に ニードを 日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作の安全性 安定性の向上 とし 理学療法評価を実施した まず日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作を評価するにあたり 日本舞踊の正常動作を把握することを目的に 本症例およびご家族から日本舞踊の動作についての情報収集をおこない 脳梗塞発症前の日本舞踊を動画にて観察した 動作観察より 日本舞踊の正常動作では両側股関節 膝関節を軽度屈曲させた体幹直立位を基本姿勢とし 衣装にしわを作らないために動作中は常に股関節の内転 外転 内旋 外旋および体幹の側屈 回旋を最小限にする必要があることが確認された そして右下肢の後方ステップ動作時には 支持側の左足関節背屈 後足部 前足部回外により足底内側を離床しながら下腿を前外側傾斜させ左側体重移動をおこない 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上および遊脚側の右股関節伸展により右下肢を後方へと振り出す ( 図 つぎに日本舞踊の正常動作をふまえたうえで 本症例の日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作を観察した まず立位姿勢から上位胸椎部屈曲位 胸腰椎移行部屈曲 左側屈位で体幹直立位保持が困難であった 加えて両股関節 膝関節は屈曲位を呈し 右股関節 膝関節が左側と比べてより屈曲していることで 骨盤右下制位による体幹右傾斜を呈し 骨盤の水平位保持は困難となっていた さらに左膝関節は内反位を呈し下腿は外旋 外側傾斜位で 左後足部は前足部に対して回外位を呈していた ( 図 2) この立位姿勢より予測される問題点として 上位胸椎部屈曲位 胸腰椎移行部屈曲 左側屈位を呈し体幹直立位保持困難となっていることから 胸腰部伸展 右側屈の関節可動域 (Range of Motion: 以下 ROM) 制限 両側最長筋 右外腹斜筋縦線維の筋緊張低下 腹直筋上部線維 両側外腹斜筋斜走線維 左外腹斜筋縦線維 腸肋筋の筋緊張亢進が予測された また両股関節 膝関節は屈曲位を呈し 右股関節 膝関節が左側と比べてより屈曲し骨盤右下制位による体幹右傾斜を呈していることから 右股関節伸展 膝関節伸展の ROM 制限 右大殿筋下部線維 腸腰筋 大腿四頭筋の筋緊張低下 右腸腰筋 大腿直筋の筋緊張亢進 右股関節 膝関節の深部感覚障害が予測された さ

日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作時に転倒の危険性が生じた脳梗塞後右片麻痺患者の理学療法 81 1 両側股関節 膝関節を軽度屈曲させた体幹直立位を基本姿勢とし 衣装にしわを作らないために動作中は常に股関節の内転 外転 内旋 外旋および体幹の側屈 回旋を最小限にする必要があることが確認された そして右下肢の後方ステップ動作時には 左図のように支持側の左足関節背屈 後足部回外により足底内側を離床しながら下腿を前外側傾斜させ左側体重移動をおこない 中央図および右図のように腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上および遊脚側の右股関節伸展により右下肢を後方へと振り出す らに左後足部は前足部に対して回外位であり 下腿が外側傾斜位を呈していることから 左足部外がえしの ROM 制限 左長腓骨筋の筋緊張低下 左後脛骨筋 長母趾屈筋 長趾屈筋の筋緊張亢進が予測された つぎに日本舞踊における基本姿勢をとっていただくと 上記の立位姿勢と同様の姿勢であった 基本姿勢より右下肢の後方ステップ動作時には 右下肢を後方へと振り出す際の腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上が困難であった さらに支持側である左下肢への体重移動時に 左足関節背屈に加え左後足部の過剰な回外を伴う下腿外側傾斜が増強していた 加えて左足関節底屈による下腿後傾および左股関節屈曲による体幹前傾 さらには遊脚側の右股関節伸展 膝関節屈曲にて右下肢を後方へと振り出していた このとき立位姿勢から続く左股関節内転位の状態で左股関節屈曲 内転による体幹が右前方傾斜しようとする働きが増強し 転倒の危険性を認め安全性 安定性が低下していた ( 図 3ab) この右下肢の後方ステップ動作時に予測される問題点としては 立位姿勢から予測された問題点に加えて 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上が困難であったことから 右外腹斜筋縦線維 内腹斜筋斜走線維 腰方形筋 腸肋筋の筋緊張低下が予測された 加えて左側体重移動時にも常に左股関節内転位で体幹右傾斜位を呈していたことから 左中殿筋の筋緊張低下が予測された さらに右下肢を後方へと振り出す際に 左股関節内転位の状態で左股関節屈曲が増強し 体幹の右前方傾斜が生じていたことから左大殿筋 腸腰筋の筋緊張 2 左図は前方から見た立位姿勢を 右図は後方から見た立位姿勢を示す 上位胸椎部屈曲位 胸腰椎移行部屈曲 左側屈位で体幹直立位保持が困難であった 加えて両股関節 膝関節は屈曲位を呈し 右股関節 膝関節が左側と比べてより屈曲していることで 骨盤右下制位による体幹右傾斜を呈し 骨盤の水平位保持は困難となっていた さらに左膝関節は内反位を呈し下腿は外旋 外側傾斜位で 左後足部は前足部に対して回外位を呈していた

82 武凪沙, 他 3 a の左図 b の左図のように 支持側である左下肢への体重移動時に 左足関節背屈に加え左後足部の過剰な回外を伴う下腿外側傾斜が増強していた また a の右図 b の右図のように 右下肢を後方へと振り出す際の腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上が困難であった 加えて 左股関節内転位での支持側の左足関節底屈による下腿後傾および左股関節屈曲による体幹前傾 さらには遊脚側の右股関節伸展 膝関節屈曲にて右下肢を後方へと振り出していた このとき左股関節内転位の状態で左股関節屈曲 内転による体幹が右前方傾斜しようとする働きが増強し 転倒の危険性を認め安全性 安定性が低下していた 低下が予測された 以上の姿勢および動作観察より 予測された問題点に対して検査測定をおこなった結果 筋緊張検査における低下筋は 両側最長筋であり 右側がより低下していた 加えて右外腹斜筋縦線維 大殿筋下部線維も筋緊張低下を認めた また亢進筋は 腹直筋上部線維 両側のうちとくに左側の外腹斜筋斜走線維 左後脛骨筋 長母趾屈筋 長趾屈筋であった さらにROM 検査については 胸腰部伸展 20 とROM 制限を認めていた なお胸腰部右側屈 15 右股関節伸展 5 右膝関節伸展 10 左後足部外がえし 15 に関して ROM 制限は認めたものの 今回の日本舞踊の動作に必要な ROMは獲得されていることから機能障害として考えなかった そして感覚検査においては右股関節 膝関節の深部感覚に問題を認めず また右下肢の運動機能の評価としてフューゲル-マイヤー運動機能評価をおこなったところ 股関節および膝関節 足関節の項目は 28/28 点であり 右下肢の分離運動は検査上では充分に可能な状態であった 以上の理学療法評価により 本症例は立位姿勢から両側最長筋においてとくに右側の筋緊張低下が著明に認 められたことから 上位胸椎部屈曲位 胸腰椎移行部屈曲 左側屈位を呈し体幹を直立位に保持することが困難であると考えた また上位胸椎部屈曲位 胸腰椎移行部屈曲 左側屈位を呈することで 常に左側腹部の胸郭と骨盤間の距離が狭くなっていたと考えた そのため 腹直筋上部線維および両側のうちとくに左側の外腹斜筋斜走線維は常に短縮した状態となり 筋緊張亢進が生じていると考えた 以上より 本症例が立位姿勢から上位胸椎部屈曲位 胸腰椎移行部屈曲 左側屈位を呈している主要問題としては 両側最長筋の筋緊張低下であると考えた そして上位胸椎部 胸腰椎移行部が屈曲位を呈し体幹直立位保持が困難であることに対し 両股関節 膝関節を屈曲し両膝を前方に位置させ 殿部を後方変位させることで重心を支持基底面内にとどめていると考えた しかし右大殿筋下部線維の筋緊張低下により 右股関節が左側と比べてより屈曲することで それに伴い右膝関節がさらに屈曲し右膝がより前方に位置した結果 骨盤右下制位による体幹右傾斜を呈し骨盤の水平位保持が困難となり 左側体重移動時には左下肢への体重移動が不十分となっていると考えた また左後脛骨筋 長母趾屈筋 長趾屈筋の筋緊張亢進により 立位姿勢から左後足部は前足部に対して回外位を呈し 下腿は外側傾斜位と

日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作時に転倒の危険性が生じた脳梗塞後右片麻痺患者の理学療法 83 4 a の図のように座位にて上位胸椎部の伸展 胸腰椎移行部の伸展および右側屈を誘導し 両側最長筋のうちとくに右最長筋の求心性収縮を求めた つぎに b の図のように 体幹直立位保持させた立位にて 右大殿筋下部線維を把持し右股関節を伸展方向へと誘導することで 大殿筋下部線維の求心性収縮を求め 日本舞踊の基本姿勢をとらせた そして c の図のように 左後足部回外位から回内方向へと誘導することで 左後脛骨筋 長母趾屈筋 長趾屈筋の筋緊張減弱を図った 最後に d の図のように 左後足部 前足部回外により足底内側を離床しながらの左側体重移動を確認したなかで 右下肢の後方ステップ動作練習をおこない 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上を促し右外腹斜筋縦線維の求心性収縮を求めた なっていると考えた そのため左側体重移動時には 左後足部回外による下腿外側傾斜が過剰に生じていると考えた さらにこのとき 常に左股関節内転位で体幹右傾斜位を呈していたが 検査測定結果より左中殿筋の筋緊張に問題は認められなかった よって左後足部回外により下腿外側傾斜が過剰となることに対して 左股関節内転位で体幹を右傾斜させておくことで 左側への過剰な体重移動を制動していることも考えられた しかし本症例は脳梗塞発症前から踊りにくさを自覚しており 左膝関節の内反変形により当時から下腿は外旋 外側傾斜位で 左後足部が前足部に対して回外位であったことが予測された このことから 左後足部回外位を生じさせている左後脛骨筋 長母趾屈筋 長趾屈筋の筋緊張亢進は 脳梗塞発症前から存在する機能障害であると考え 下位の問題点とした そして右股関節 膝関節が左側と比べてより屈曲し骨盤右下制位による体幹右傾斜を呈していることで 左下肢への体重移動が不十分となり さらに右外腹斜筋縦線維の筋緊張低下により 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上がより困難となると考えた このため 積極的に支持側の左足関節を底屈し下腿を後傾することで後方へと体重移動し 同時に左股関節屈曲による体幹前傾と遊脚側である右股関節伸展 膝関節屈曲により右下肢を後方へと振り出していると考えた このとき立位姿勢から続く左股関節内転位の状態で左股関節屈曲 内転による体幹が右前方傾斜しようとする働きが 増強し転倒の危険性を認め 動作の安全性 安定性が低下していると考えた 以上より 本症例の日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作の安全性 安定性を向上させるためには まず立位姿勢から体幹直立位に保持させることが重要であると考えた 問題点の整理より 日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作の安全性 安定性を向上させるためには 体幹直立位保持した立位姿勢の獲得が重要であると考えた そこでまず 立位姿勢における体幹直立位保持困難の主要問題である 両側最長筋の筋緊張低下に対してアプローチをおこなった まず座位にて上位胸椎部屈曲位 胸腰椎移行部屈曲 左側屈位であることに対し 上位胸椎部の伸展 胸腰椎移行部の伸展および右側屈を誘導し 両側最長筋のうちとくに右最長筋の求心性収縮を求めた このとき両側最長筋の活動により胸椎部および胸腰椎移行部伸展 右側屈が可能となったことで 左側腹部の胸郭と骨盤間は距離が広がり 腹直筋上部線維 両側のうちとくに左側の外腹斜筋斜走線維は伸張された ( 図 4a) さらに立位では体幹直立位保持が可能となったことで 重心を支持基底面内にとどめるために生じていた両股関節 膝関節屈曲位にも改善を認めた しかし右股関

84 武凪沙, 他 5 a の左図は前方から見た立位姿勢を 右図は後方から見た立位姿勢を示しており 体幹直立位保持した立位姿勢の獲得に至った そして日本舞踊における両側股関節 膝関節を軽度屈曲させた体幹直立位での基本姿勢をとることも可能となった また b の左図のように左後足部回外位の改善により 左側体重移動時の左後足部回外による過剰な下腿外側傾斜が軽減した さらに b の右図のように右下肢の後方ステップ動作においては 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上が可能となった そして立位姿勢の体幹直立位保持および左後足部回外位が改善された結果 右下肢を後方へと振り出す際に生じていた左股関節屈曲 内転 足関節底屈は軽減し 体幹を直立位に保持した状態での右下肢の後方ステップ動作の獲得に至った 節 膝関節の伸展は不十分であり 骨盤右下制位による体幹右傾斜を呈した状態であった そこで右股関節 膝関節が左側と比べてより屈曲し 骨盤右下制位による体幹右傾斜を呈している問題点である右大殿筋下部線維の筋緊張低下に対してアプローチをおこなった 体幹直立位保持させた立位にて右大殿筋下部線維を把持し右股関節を伸展方向へと誘導することで 大殿筋下部線維の求心性収縮を求めた ( 図 4b) その結果 右股関節伸展が可能となりそれに伴い右膝関節も伸展したことで 骨盤の右下制位が改善し 骨盤を水平位に保持したなかで体幹直立位保持した立位姿勢が獲得された そして日本舞踊における両側股関節 膝関節を軽度屈曲させた体幹直立位での基本姿勢をとることも可能となった さらに基本姿勢が獲得された状態で より円滑な左側体重移動を可能とするために 左後足部回外位を呈する問題点である左後脛骨筋 長母趾屈筋 長趾屈筋の筋緊張亢進に対してもアプローチをおこなった 体幹直立位保持させた基本姿勢にて 左後足部回外位から回内方向へと誘導することで 左後脛骨筋 長母趾屈筋 長趾屈筋の筋緊張を減弱させた ( 図 4c) その結果 立位姿勢より呈していた左後足部回外位 下腿外側傾斜位に改善を認め 左側体 重移動時に生じていた 左後足部回外による過剰な下腿外側傾斜および左股関節内転による体幹右傾斜も改善した そして左後足部 前足部回外により 足底内側を離床しながらの左側体重移動が可能となった 最後に 日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作に必要とされる 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上を困難とさせる問題点である 右外腹斜筋縦線維の筋緊張低下に対してアプローチをおこなった 体幹直立位保持させた基本姿勢にて 左後足部 前足部回外により足底内側を離床しながらの左側体重移動を確認したなかで 右下肢の後方ステップ動作練習をおこない 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上を促し右外腹斜筋縦線維の求心性収縮を求めた ( 図 4d) 上記の理学療法を約 60 分間 1 日に 2 回の頻度で 1 週間継続しておこなった結果 理学療法前と比較し体幹直立位保持した立位姿勢の獲得に至った ( 図 5a) そして日本舞踊における両側股関節 膝関節を軽度屈曲させた体幹直立位での基本姿勢をとることも可能となった また右下肢の後方ステップ動作においては 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上が可能となった そして立位姿勢より呈していた左後足部回外位の改善により 左側

日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作時に転倒の危険性が生じた脳梗塞後右片麻痺患者の理学療法 85 6 左図では支持側である左後足部 前足部回外による左側体重移動が円滑におこなえるようになった さらに中央図および右図のように 右下肢を後方へと振り出す際の腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上を認め 右下肢の後方ステップ動作が可能となった この結果 右下肢の後方ステップ動作に続く方向転換が可能となり 退院後の公演会にて日本舞踊を披露することができた 体重移動時の左後足部回外による過剰な下腿外側傾斜が軽減した さらに立位姿勢の体幹直立位保持および左後足部回外位が改善された結果 右下肢を後方へと振り出す際に生じていた左股関節屈曲 内転 足関節底屈は軽減し 体幹を直立位に保持した状態での右下肢の後方ステップ動作の獲得に至った ( 図 5b) 機能障害に関しても ROM 検査において胸腰部伸展 ROMが 20 から 5 と改善を認めた また 筋緊張検査において低下筋であった両側最長筋および右外腹斜筋縦線維 大殿筋下部線維については低下しているものの改善を認め 亢進筋であった腹直筋上部線維 両側外腹斜筋斜走線維 左後脛骨筋 長母趾屈筋 長趾屈筋についても筋緊張減弱を認めた そして 右下肢の後方ステップ動作が可能となったことで 続く方向転換が可能となり 退院後の公演会にて日本舞踊を披露することができた ( 図 6) 日本舞踊では両側股関節 膝関節を軽度屈曲させた体幹直立位を基本姿勢とし 衣装にしわを作らないために股関節の内転 外転 内旋 外旋および体幹の側屈 回旋を最小限にする必要がある そして右下肢の後方ステップ動作時には腰椎のわずかな右側屈により骨盤を右挙上させ下肢を後方へと振り出す 本症例の立位姿勢は 両側最長筋においてとくに右側の筋緊張低下が著明に認め られ さらに腹直筋上部線維および両側のうちとくに左側の外腹斜筋斜走線維の筋緊張亢進により上位胸椎部屈曲位 胸腰椎移行部屈曲 左側屈位で体幹直立位保持が困難となっていた そして体幹直立位保持が困難であることに対し 両膝関節を屈曲させることで大腿を後傾させ 重心を支持基底面内にとどめていると考えた そこで理学療法にて両側最長筋の活動を求めた結果 体幹直立位保持が可能となり 両側股関節 膝関節屈曲位にも改善を認めた しかし右大殿筋下部線維の筋緊張低下により 右股関節伸展とそれに伴う膝関節伸展は不十分であった そのため 右大殿筋下部線維の活動を求めた結果 右股関節伸展とそれに伴う膝関節伸展が得られ 骨盤の右下制位が改善し 骨盤を水平位に保持したなかで体幹直立位保持した立位姿勢が獲得された さらに立位姿勢が獲得されたことで 日本舞踊における両側股関節 膝関節を軽度屈曲させた体幹直立位での基本姿勢をとることも可能となった 以上のことから 立位姿勢の体幹直立位保持困難および右股関節の問題点に着目し理学療法を実施した結果 日本舞踊における基本姿勢でも骨盤の水平位保持に改善を認め 体幹直立位保持した姿勢の獲得に至ったと考えた そしてつぎに右下肢の後方ステップ動作時に必要とされる 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上を困難とさせている右外腹斜筋縦線維の筋緊張低下に対してアプローチをおこなった 大沼ら は 外腹斜筋は肋骨から腹直筋に向かって内下方に走行

86 武凪沙, 他 し腹直筋鞘に付着する線維と 肋骨と骨盤間を縦方向に走行する線維に分かれ 内腹斜筋は骨盤から腹直筋に向かって内上方に走行し腹直筋鞘に付着する線維と 骨盤と肋骨間を走行する線維 さらに両側腸骨稜を結ぶ線より下部の横方向線維に分かれていると述べている また鈴木ら 2) は 外腹斜筋の片方の筋活動にて体幹を同側方へと側屈させる働きがあり 胸郭を引き下げる作用と 胸郭を固定すると骨盤を引き上げる作用があると述べている そこで右下肢の後方ステップ動作練習のなかで 右外腹斜筋縦線維による骨盤右挙上を促した結果 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上が可能となった また本症例は 脳梗塞発症前から左膝関節の内反変形により下腿が外旋し 後足部は前足部に対して回外位を呈した状態で 踊りにくさを認めていた 脳梗塞発症後の理学療法経過にて 左膝関節の内反および疼痛に改善を認めたものの 左後足部回外位は残存していた そのため左後足部回外位にも配慮し理学療法をおこなった結果 より円滑な左側体重移動が可能となり 体幹を直立位に保持した状態での右下肢の後方ステップ動作の獲得に至ったと考えた 本症例を通して 日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作を獲得するにあたり 日本舞踊という動作特性を理解したうえで 脳梗塞発症後に生じた問題点と発症前より生じていた問題点をそれぞれ評価し 理学療法を展開することの必要性が確認できた 1. 日本舞踊における右下肢の後方ステップ動作時に 右 前方への転倒の危険性が生じ安全性 安定性の低下を 認めた脳梗塞後右片麻痺患者の理学療法を経験した 2. 立位姿勢より体幹直立位保持が困難で骨盤右下制位 による体幹右傾斜を呈し 右下肢の後方ステップ動 作では 本来必要とされる腰椎のわずかな右側屈に よる骨盤右挙上が困難となっていた 3. 理学療法では 上位胸椎部および胸腰椎移行部伸展 右側屈 さらに右股関節伸展を誘導し体幹直立位保 持させた基本姿勢にて 右下肢の後方ステップ動作 練習の際に 左後足部 前足部回外による左側体重移 動と 腰椎のわずかな右側屈による骨盤右挙上を促 した結果 動作の安全性 安定性が向上した 4. 本症例を通して 日本舞踊における右下肢の後方ス テップ動作を獲得するにあたり 日本舞踊という動 作特性を理解したうえで 脳梗塞発症後に生じた問 題点と発症前より生じていた問題点をそれぞれ評価 し 理学療法を展開することの必要性が確認できた 大沼俊博 他 : 立位での踵部および前足部荷重における腹斜筋群 多裂筋の筋活動について. ボバースジャーナル 37: 2 5, 2014. 2) 鈴木俊明 他 :The Center of the Body 体幹機能の謎を探る, 第 6 版.pp18 30, アイペック,2015.