解剖生理学内臓機能の調節 ( 自律神経系 ) 内臓機能の調節 生体内の諸臓器 組織は 常に一定の活動をしているわけでなく 生体内外の環境は常に変化するため その活動状態も環境に応じてダイナミックに調節されている 生体内外の環境の変化に応じて臓器の機能状態を変化させているのが 自律神経と内分泌腺から分泌されるホルモンであり 両者はホメオスタシスの主役といえる (1) 神経による調節はその効果の発現 ( 反射 ) が速いのに対し ホルモンによる効果の発現は一般に遅い (2) 神経による調節はその効果の持続が短いのに対し ホルモンの効果は長時間持続する 内臓機能の調節 自律神経の機能 目的とする臓器 ( 効果器 ) の機能を調節 ( 支配 ) する仕方の特徴 自律性 : 意志とは無関係に反射によって内臓機能が調節されている事 二重支配 : 大部分の臓器が交感神経と副交感神経の両方に支配されている事 : 汗腺やほとんどの血管は交感神経の単独支配 : 心臓は二重支配を受けるが心室には副交感神経の作用があまり及ばず おもに交感神経の影響を受ける 拮抗支配 : 二重支配をしている交感神経と副交感神経は 効果器に対して通常は互いに逆の効果を発揮する (3) 神経が生体内部環境の微調整をたえず行っているのに対し ホルモンには内部環境を一定に保つのではなく 成長や妊娠などに伴って内部環境のレべル ( べースライン ) を変化させるものも多い 持続支配 : 自律神経系は 常時ある程度の頻度で臓器にインパルスを送りつづけている (4) 神経は臓器や組織には分布するが 流れている血液には影響を与えることができない したがって 血漿中の電解質やグルコースの濃度は もっぱらホルモンによって調節される
自律神経の機能 ( 交感神経系 ) 臓器の活動性は 交感 副交感の両神経系の持続支配がつり合いで保持され 交感神経のインパルス頻度が増加すれば交感神経の作用が強くあらわれ 副交感神経のインパルス頻度が増加すれば副交感神経の作用が優位となる 血管のように交感神経の単独支配の組織では 交感神経のインパルス頻度が増加すれば血管は収縮し 減少すれば拡張する 系 : 身体活動が盛んになったときに 諸臓器 組織をその状態に適応させる : 精神的に興奮したり不安があると 特に活発になる : 交感神経系が興奮すると心臓と呼吸の促進 気管支拡張 瞳孔散大 消化抑制が惹起される : 血管が収縮するため血圧が上昇し 汗腺が刺激されて汗の分泌が増加する 自律神経の機能 ( 副交感神経系 ) 臓器の活動性は 交感 副交感の両神経系の持続支配がつり合いで保持され 交感神経のインパルス頻度が増加すれば交感神経の作用が強くあらわれ 副交感神経のインパルス頻度が増加すれば副交感神経の作用が優位となる 血管のように交感神経の単独支配の組織では 交感神経のインパルス頻度が増加すれば血管は収縮し 減少すれば拡張する 副交感神経系 : 身体がリラックスしている時にはたらく : 心臓と呼吸は抑制 心拍と呼吸はゆっくりとなり 気管支収縮 瞳孔縮小する : 消化管運動と消化液分泌は促進 消化 吸収が盛んになる : 副交感神経は内臓ヘの分布が主であり 皮膚や骨格筋には分布しない : 交感神経の分布は 内臓だけでなく血管 皮膚 骨格筋にも分布する 自律神経の機能 ( 反射弓と中枢 ) 反射弓 : 内臓からの情報を中枢に伝える求心線維と中枢からの指令を伝える交感神経系と副交感神経系の遠心線維の間で形成される : 上記によって形成される反射によって諸臓器の機能状態を調節している 自律神経の中枢 : 交感神経系と副交感神経系の中枢は中脳 橋 延髄からなる脳幹にあるが さらに高次中枢である視床下部の影響を強く受ける : 視床下部には生殖や情動に関する中枢も多くあるため 自律神経系のはたらきは情動の影響を強く受ける 自律神経の機能 ( 中枢 ) 自律神経の中枢 : 脳幹には 心臓中枢 呼吸中枢 血管運動中枢 消化に関する中枢 発汗中枢など 生命維持に直結する中枢が集中している : これらの中枢に 諸臓器 組織からの求心線維によって情報が入力され ここから遠心性の自律神経を発している : 血圧が上昇すると頸動脈洞や大動脈弓の圧受容器が興奮し その興奮は求心線維を通って心臓抑制中枢と血管運動中枢に伝えられる : 心臓抑制中枢が興奮し その興奮は副交感神経の遠心線維を通って心臓に伝えられ心拍数を減少させるが血管運動中枢は抑制されるため 血管に行く交感神経が抑制される事で血管は拡張する事で血圧は低下してもとに戻る
: 主要部は脊柱の両側に沿う左右 1 対の交感神経幹である : 交感神経幹の途中には幹神経節という紡錘状の膨らみが多数あり その間を節間枝がつないでいる : 胸部の幹神経節のそれぞれは 脊髄神経との間を 2 本の枝で繋がれ この枝を交通枝という : 交感神経の遠心線維は 脊髄を下行し中枢内では脳幹を発した後 第 1 胸髄 ~ 第 2 腰髄の高さで別のニューロンに接続する : このニューロンは節前二ユ一ロンとよばれ その細胞体は脊髄の側角 ( 側柱 ) にある : : 交感神経の節前線維は 第 1 胸髄 ~ 第 2 腰髄の高さで前根を経て脊髄から出て 脊髄神経から交通枝の 1 つを通って交感神経幹に入る : 交感神経幹に入った後の行先は 1 : 同位もしくは上 下位の幹神経節に向かい そこで別のニユーロンに接続する 2 : 幹神経節を素通りして 腹部内臓に向かう神経を通り 腹部の大動脈周囲にある 腹腔神経節 上腸間膜神経節 下腸間膜神経節に向かい そこで別のニューロンに接続する : 節前線維が接続するこれらのニユーロンは節後二ユ一口ンとよばれる : 節後ニューロンから出る神経線維を節後線維とよび 神経節から効果器にまで達する ( 節前 節後線維の走行パターン ) : 節前線維が通る交通枝を白交通枝という : 汗腺や皮層 骨格筋の血管に分布する節後線維は 幹神経節の節後ニューロンから始まり 交通枝の 1 つを通って脊髄神経束に入り 脊髄神経束を通って分布する : 節後ニューロンが通る交通枝を灰白交通枝という : 頭部の臓器 ( 眼球 唾液腺など ) と胸部内臓 ( 心臓 肺など に分布する節後線維は 幹神経節の節後ニューロンから 臓器に向かう枝に入り 節後ニューロンを通って分布する : 腹部内臓に分布する節前線維は 幹神経節を素通りして腹部の大動脈周囲にある神経節に達して 節後ニューロンに接続し 節後ニューロンから出た節後線維は 動脈に沿って分布する : ( 頭頸部 ) : 頸部の交感神経幹には 上 中 下頸神経節がある : 下頸神経節は第 1 胸神経節と合体して星状神経節をつくることが多い : これらの神経節は 灰白交通枝によって頸神経 C₁~C₈ と連絡し 節後線維を脊髄神経に送り込む : 頭頸部の神経節から内外頸動脈 鎖骨下動脈の枝に沿って分布する節後線維は 頭頸部 ( 眼球 涙腺 唾液腺 鼻腺 甲状腺 咽頭 喉頭など ) 上肢に広がり 上 中 下の心臓神経を出している ( 胸部 ) : 胸部の交感神経幹には 10~12 対の胸神経節があり 白交通枝 灰白交通枝により胸神経と連絡する : 気管 肺 心臓 食道などに分布する枝も出て 胸神経節 T₅~T₉ から前下方に向かう線維で大内臓神経 T₁₀~T₁₁ からの線維で小内臓神経をつくり 横隔膜を貫き腹腔動脈の基部にある腹腔神経節に達する : 腹腔神経節から出た節後線維は 迷走神経の枝とともに腹腔神経叢をつくり 腹部内臓に広く分布する
( 腹部 ) : 4~5 対の腰神経節があり 灰白交通枝により腰神経に枝を送るほか 動脈沿いに進んで腹部内臓や下肢に分布する ( 仙骨部 尾骨部 ) : 5~6 対の神経節があり ここから出る線維は 直腸下部 膀胱 子宮などの付近に神経叢をつくり 主として骨盤内臓に分布している 副交感神経 : 副交感神経の節前線維は 動眼神経 (III) 顔面神経 (VII) 舌咽神経 (IX) 迷走神経 (X) の脳神経の一部 脊髄の下部から出る仙骨神経の S₂~S₄ ( 骨盤内臓神経 ) に含まれる : 脳神経に含まれる節前ニューロンの細胞体は脳幹 ( 中脳 延髄 ) にあり 仙骨神経に含まれるものは仙髄の側角にある : 脳幹や側角から発した節前線維は 器官の近くにある副交感性の神経節に達し 節後ニューロンにシナプスをつくる : 副交感神経は交感神経に比べて節前線維が長く 効果器のごく近傍ではじめて線維をかえ 節後線維となる 動眼神経に含まれるもの : 眼窩の中で眼球の後方にある毛様体神経節でシナプスをつくる : 毛様体神経節から出た節後線維は 眼球に入って毛様体筋と瞳孔括約筋に分布する 副交感神経 顔面神経に含まれるもの : 節前線維は 中間神経とよばれる神経束に含まれ 顔面神経から途中で分かれ 2 つの神経節に向かう : 翼口蓋神経節 ( 翼口蓋窩に位置する ) に達すると そこからの節後線維は涙腺 鼻腺 口蓋腺等の上顎から眼周辺の外分泌腺に分布する : 鼓索神経 ( 中耳を通過する ) を通って舌神経に合流して顎下神経節に達すると顎下神経節からの節後線維は 顎下腺 舌下腺などの下顎の外分泌腺に分布する 舌咽神経に含まれるもの : 節前線維は 耳神経節 ( 下顎神経の内側に接する ) に達して シナプスをつくる : 耳神経節からの節後神経は 耳下腺に分布する 迷走神経に含まれるもの : 頸胸腹部の内臓 ( 骨盤内を除く ) の近く または内部にある多数の神経節に分布し 腺分泌や平滑筋運動を支配する : 消化管では 横行結腸の左 1/3 までの範囲を支配する 自律神経の神経伝達物質と受谷体 節後線維の末端からはノルアドレナリン ( ノルエピネフリン ) が放出され 効果器を刺激する この事から 交感神経節後線維はアドレナリン作動性線維ともよばれる 副交感神経節後線維の末端からはアセチルコリンが放出されるため コリン作動性線維とよばれる 一方 節前線維は交感神経も副交感神経もコリン作動性であり アセチルコリンが放出される 汗腺を支配するのは交感神経であるが この線維はアセチルコリンを放出するコリン作動性である
自律神経の神経伝達物質と受谷体 力テコ一ルアミン受合体 : ノルアドレナリン アドレナリン ドーパミンなどを総称して力テコ一ルアミンとよぶ : カテコールアミン受容体は 大きく α 受容体と β 受容体に分けられ さらに細かく α₁ α₂ β₁ β₂ β₃ に分けられる : これらの受容体の分布する部位は それぞれ異なっている : アドレナリンは α 受容体にも β 受容体にも親和性が高いが ノルアドレナリンは α 受容体と β₁ 受容体に対する親和性が高い : 血管平滑筋には α₁ 受容体と β₂ 受容体があるが カテコールアミンが α₁ 受容体に結合すると血管収縮がおこり β₂ 受容体に結合すると血管拡張を生じる : 気管支平滑筋には β₂ 受容体があり, カテコールアミンの結合により弛緩する : 気管支平滑筋の収縮により気道が狭窄する気管支喘息の患者に β₂ 刺激薬が有効であるが 逆に β 遮断薬の投与は絶対的な禁忌である 自律神経の神経伝達物質と受谷体 アセチルコリン受合体 : アセチルコリンの受容体には ムスカリン性受容体とニコチン性受容体の 2 種類があり 存在している部位に違いがある : ムス力リン性受容体は 副交感神経の節後線維から放出されるアセチルコリンに対する受容体であり アセチルコリンが結合することによって副交感神経の効果が発揮される : ムスカリンとはある種の毒キノコ ( テングダケなど ) に含まれる物質であるが アセチルコリンと同様にアセチルコリン受容体に特異的に結合し 副交感神経が興奮したときと同じ効果を発揮することからこの名前がつけられた : ニコチン性受容体は 自律神経の節前線維と節後線維との接合部および 運動神経が骨格筋に接合する神経筋接合部に存在するアセチルコリン受容体であり ニコチンが特異的に結合する