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解 説 一方 乳成分にも違いが見られた 分娩後30日以内 産牛100頭規模の農場としている 損失額の計算は で乳脂肪率が5 を超える場合は栄養不足で体脂肪の ①雄子牛の出生頭数減少 雄子牛の売却減 ②雌子 過剰な動員が起こっていると判断できる この時期に 牛の出生頭数減少 更新牛購入コスト ③出荷乳量 乳脂率5 を超える牛の割合は 繁殖良好群に比べて の減少による収入減 ④授精回数増加に伴うコストを 繁殖不良群で多かった また 乳タンパク質率はエネ もとにした ルギー充足の目安になるが 繁殖不良群では乳タンパ その結果 経産牛100頭規模の牛群では空胎日数が ク質率が泌乳前期を通じて繁殖良好群よりも有意に低 28日延びたことにより約510万円の損失が生じた こ く推移した 図３ つまり 泌乳前期にエネルギー のうち 最も大きいのが出荷乳量の減少による損失で 全体の７割を占めている 空胎日数の延長により牛群 の平均搾乳日数が延び １日１頭あたりの生産乳量が 低下する これが最も大きな損失である ちなみに この試算から 空胎日数が１日延びることで１頭あた りおよそ1,800円の損失となった ３ 乳牛の繁殖成績に 影響する要因 １ 空胎日数を延長させる要因とは 繁殖成績の指標として最も良く使われる空胎日数に ついて見てみよう 検定成績などに示される牛群の平 均空胎日数は あくまでその農場の平均値である 同 じ農場内でも牛によって空胎日数は異なっている 何 が不足していたと考えられる これらのデータから 繁殖成績の良い農場は 乳牛 の泌乳能力を十分に引き出す良好な飼養管理を行って 故違いが出るのだろうか 根釧農試の乳牛40頭につい て分娩8週前から各種項目を調査し 空胎日数との関 係を調べ 相関のあった項目を表1に示した おり そのことが繁殖にも良い結果をもたらしている と考えられる ２ 繁殖成績の悪化による経済的損失 乳牛の繁殖成績が悪化すると経済的な損失を招き 酪農経営に多大な影響を及ぼす これまで いくつか の試算がされてきたが ここでは十勝農協連が2004年 に行った例をもとにどれくらいの損失が生じたのかを 見てみよう １ 周産期の体調不良 肥満 糖代謝異常 体脂肪 動員 難産 後産停滞 1994年における十勝管内の検定実施酪農家の空胎日 数は平均で123日であったが 2004年には151日に延長 ２ 分娩後のエネルギー不足 主にエネルギー 他 にタンパク質 ミネラルも関与 していた これをもとに空胎日数延長による経済的損 失を試算したのが図４である 計算しやすいように経 ３ 発情が見つからない 初回排卵 初回発情の遅 れ 発情微弱 初回授精の遅れ この３つが空胎日数を延長させる大きな要因と言え る ２ 周産期の体調不良は何故起こる 肥満 糖代謝異常と難産 前述の40頭の調査では 分娩の1 2週前から飼料の 7
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解 説 ②分娩状況を記録する 分娩時には分娩介助の有無や難産があったかどうか 記録する 分娩房がある場合は 分娩が始まる半日ほ ど前に分娩房に入れて分娩させる 検定で用いられて いる分娩難易度で言うと 難易度１ 無介助で自力分 娩 はスコア0 難易度2 軽度な介助 はスコア2 難易度3以上は難産としスコア4とする ③後産の排出を確認する 後産停滞のチェック 子牛を出産して12時間を過ぎても後産を排出しない 場合を後産停滞とする 後産排出の有無は必ず確認す ４ 周産期モニタリング で健康チェック 分娩後に乳牛の卵巣機能が回復するためには 十分 る 後産停滞がなければスコア0 あればスコア4 と する ④初乳の比重で分娩前の栄養代謝をモニターする な栄養摂取が必要であり そのためには周産期の健康 初乳の比重やケトン体は分娩前の栄養や代謝の状態 が最も重要となる 前述したとおり 周産期の健康状 を反映している 初乳は分娩後最初に搾乳したものを 態が 卵巣機能の回復を左右するとも言える そこで 検査に用いる 周産期の健康状態を分娩時点で評価し 繁殖障害のリ 比重は初乳の温度によって変わり 搾乳直後に測っ スクを分娩時点で予測するモニタリングを考案した た比重は室温で測った比重よりも0.008低い値となるの モニタリング項目は 簡単に実施できるBCS 分娩難 で注意する 周産期モニタリング チェックシート 易度 後産停滞の有無 初乳の比重ならびに初乳ケト には室温 約20 の場合の基準を示している 今回 ン体 3-ヒドロキシ酪酸 の５項目に絞り 試験成績 比重の測定は市販の初乳用比重計 富士平工業K.K をもとに基準を設定してチェックシート形式にした を用いた 写真1 初乳は温度が低くなると粘稠性を 図17 ①乾乳期のBCSをチェックする 分娩の１ ２ヶ月前にはボディコンディションスコ ア BCS を測定する 太りすぎや痩せすぎがないか をチェックし 3.25 3.5であればスコア0 問題なし 増すので 室温で測る場合には比重計を浮かべてから それ以外はスコア2 問題あり とする BCSはファ ５分程度放置する必要がある 比重1.060以上 初産牛 ーガソンのUV法を用いるが 今回の目的だけから言 は1.050以上 をスコア0とし 1.050未満 初産牛は うと とりあえずBCSは3.0 3.75までの４段階だけを 1.040未満 であればスコア4と判定する これが搾乳 覚えれば十分である 乾乳期のBCSの目標は3.25 3.5 直後であれば比重1.052以上でスコア0 比重1.042未満 とされている でスコア4となる 12
解 説 初乳の比重は 初乳中の乳タンパク質率と高い正の相 リング項目として重要である 各農場の繁殖に関わる 関 r=0.904 があり ほとんど乳タンパク質率によっ 管理の良し悪しを 検定情報や農場の記録から総合的 て決まる つまり 初乳の比重を評価するということ に評価する 繁殖改善モニタリング チェックシート は ほとんど初乳中の乳タンパク質率を評価している を付図1 最終ページ に示した 今回作成したチェ ことと同じである そして この乳タンパク質率は分 ックシートに必要な数値を記入していくことで 繁殖 娩前の１ ２週間にルーメンで合成される菌体タンパ 成績を向上させるために何を改善すべきかを客観的な ク量などによって左右されると考えられる したがっ 数値として捉えることができる モニタリングは大き て 初乳の比重を測定することは 分娩前のルーメン く分けて４つの項目から成るので 各項目ごとに説明 における菌体タンパク合成が良好であったかどうかを する 評価していると言える 実際に 分娩前に糖代謝能が ①牛群の繁殖成績評価 概要 異常だった牛は 正常な牛に比べて飼料摂取量が少な 牛群成績 農場の繁殖成績の現状を把握するためのモ く 初乳比重も低かったという成績が得られている ニタリング項目である ⑤初乳中ケトン体で健康をモニターする ケトン体は 市販の牛乳中ケトン体測定試験紙 サ ンケトペーパー 三和化学 を初乳に浸して１分間反 牛群成績表の初回授精日数 初回授精受胎率 空胎 日数等の数値をそのまま使用する 初回授精日数は75 日以内 空胎日数は115日以内が目標である 図18 応させ 乳白色 紫色の色調表から判定する 写真1 この試験紙は ケトン体の一種である3-ヒドロキシ酪 酸という物質を検出しており 初乳中で擬陽性以上の 濃度で検出されれば ケトーシス予備軍と考えた方が 良い 陰性はスコア0 擬陽性はスコア2 陽性はスコ ア4とする これら5項目について付けたスコアを合計したもの この基準は 根室管内の検定実施酪農家の上位25 が が個体の周産期スコアとなる 図17 個体の周産期 クリアしている水準である 除籍率は ここでは疾病 スコアが6ポイント以上の牛は 健康状態に問題があ 等による淘汰のみを問題とするので 乳用売却を除い り その後 周産期病や繁殖障害などを発生するリス た除籍頭数が経産牛全頭に占める割合とする クが高いと判定できる このような問題牛には特別な 繁殖効率 分娩後120日までに何 の牛が授精され 注意が必要となる 150日までに何 の牛が妊娠しているかおおまかに把 今回の周産期モニタリングでチェックする項目に 握する 毎月実施される検定成績表からデータを拾う は 特別困難なものはない 初乳比重計とケトン体試 ことができる 授精率は 各月の検定日に分娩後91 験紙さえあればすぐに実行できる 120日に該当する牛を拾い出し そのうち何頭が授精 実際に6農場353頭の乳牛を調べたところ 周産期ス 済みであるかを調べてその割合をチェックシートに記 コアが6ポイント以上の牛では繁殖成績が悪化し 周 入する 妊娠率は 各月の検定日に分娩後121 150日 産期病も多発していた 表3 に該当する牛の番号と授精日を拾い出し その授精で 妊娠したかどうかを調べ 妊娠した牛の割合をチェッ クシートに記入する 図18 この割合を出すために 過去１年分の個体成績を集計する 目標値は 授精実 施率 分娩後91 120日 が85 以上 累積妊娠率 分娩後121 150日 が60 以上である これは根室 管内酪農家の上位25 のデータを基準に設定してい ５ 検定情報等を活用した 繁殖改善モニタリング る ②周産期モニタリング牛群チェック 周産期管理を評価 繁殖成績を良好に保つためには 周産期の健康に加 前述の周産期モニタリング個体チェックシートの周 え 分娩後の栄養充足や適切な発情発見技術もモニタ 産期スコアを集計し平均値とスコア３以下 ６以上の 13
解 説 牛の割合を計算する 図19 周産期スコアの平均値 MUN濃度でタンパク質とエネルギーのバランスを把 握することができる 放牧期のMUN濃度目標値は根 釧農試 2003 それ以外の目標値は根室管内酪農家 およそ1,500戸の平均値±標準偏差から設定している 図20 乳タンパク質率は夏と冬に分けて平均値と最高値 は3以下が目標である 個体の周産期スコアの目標値 最低値とをチェックシートに記入する MUN濃度は として スコアが3以下の牛が60 以上 スコア6以上 放牧期と舎飼期で基準が異なるので時期別に平均値と の牛が10 未満であれば良好な管理と言える これに 最高値 最低値を記入する バルク乳成分は１ヶ月に より乾乳期管理の良し悪しがわかる ２ ３回のデータが示されるので これらの値をその ③乳成分の評価 栄養充足の評価 地域の平均値とともにグラフに記入し その推移をモ 個体乳成分のモニタリング 産褥期と泌乳初期の個体 ニターするとよい 図21 バルク乳の乳タンパク質 乳成分は 分娩後の栄養充足を反映する この時期の 栄養に問題があると卵巣機能の回復に異常を来すこと になる モニタリングには 毎月の検定情報のうち個 体成績のデータを使う 個体乳成分は 乳脂率と乳タ ンパク質率について異常値を示す牛の割合で評価す る 目標値は根室管内の検定データを解析して設定し た 乳脂率については 検定日数が30日以内の牛の乳脂 率を拾い出し そのうち乳脂率高値 5.0 以上 を示 す牛の割合を１年分ほど集計してチェックシートに記 入する 図20 この割合が12 以下であることを目 標とする 12 を超えている牛群は 分娩直後の飼料 摂取量が著しく低く 過剰な体脂肪動員が起こってい 率が3.1 を下回る月に授精した牛は受胎率が低下する る牛が多いと判断できる 傾向がある 図22 乳タンパク質率は粗飼料の品質 乳タンパク質率については 検定日数が31 60日 や摂取量が変化したときに変動しやすいので サイレ 61 90日に該当する牛の乳タンパク質率を調べ 2.8 ージのロットが変わった時などはよくチェックする必 未満の低値を示す牛の割合を同様に１年分調べチェッ 要がある クシートに記入する 31 60日の低値割合が25 以下 ④発情発見の評価 であることを目標とし 25 を超えている牛群は 泌 空胎日数を短くするために 分娩後100日以内の授 乳初期にエネルギー不足の状態にある牛が多いと判断 精回数 ならびに発情をスタンディングやマウンティ できる この時期のエネルギー不足は繁殖障害につな ングで発見した割合をモニタリングする がる 授精回数 分娩後100日間 授精回数のデータは農場 バルク乳成分のモニタリング バルク乳成分のうち乳 での繁殖記録 または個体の検定成績から分娩後100 タンパク質率で牛群全体のエネルギー過不足を 日以上在籍した牛について100日以内に何回授精され 14
解 説 たか集計する 図23 分娩後50日から授精を開始し ている場合には1.2回 60日から開始していれば1.0回 ６ まとめ を目標とする 簡便な方法としては ①の授精実施率 分娩後91 120日 の項でピックアップした牛につい 産乳量の上昇に伴い 周産期を健康に乗り切ること て授精回数の合計を頭数で除すると105日以内の授精 の重要性が増している 周産期モニタリングおよび繁 回数になる 殖改善モニタリングを活用することで繁殖成績が向上 発情を行動で発見する 人工授精する場合に 発情を し 経営の安定化が図られることを望みたい スタンディングやマウンティングといった発情行動で 見つけた割合が50 を超えていれば 牛が発情をよく 主な参考資料 発現し 発情発見も良好と考えられる 発情を行動で １ 北海道酪農検定検査協会 年間検定成績 1993 2003 発見した割合を知るには 牛が発情行動を現すことが ２ 北海道立根釧農業試験場 乳牛の繁殖改善モニタリングシス できる環境で１日２回発情観察を行う必要がある そ して 授精を依頼したときに 発情を行動でみつけた か あるいはそれ以外なのかを記録し１年分集計する 図23 発情行動から発情を確認した場合の受胎率は 高い 表４ テム 平成15年度北海道農業試験会議 成績会議 資料 2004 ３ 根 室 生 産 農 業 協 同 組 合 連 合 会 根 室 管 内 乳 用 牛 群 検 定 成 績 2000 2002 ４ 十勝農業協同組合連合会 十勝管内における繁殖成績の現状 と経済的損失 冬期講座 繁殖管理対策 資料 2004 ５ 北海道立根釧農業試験場 草地酪農における飼料自給率70 の放牧技術 北海道農業試験会議 成績会議 資料 2003 ６ 草刈直仁 乳牛の繁殖成績を向上させるためのポイントが見 えてくる Dairy Japan 8月号 P10 15 2004 ７ 中尾 茂 中本慎二 後閑賢一 2004 繁殖障害診療が乳 牛の生産性向上に及ぼす影響 日本産業動物獣医学会 北海道 北海道獣医師会誌 第48巻 8号 P27 2004 ８ 大滝忠利 草刈直仁 宍戸則雄 中尾 茂 糟谷広高 山川政 明 小関忠雄 分娩状況ならびに栄養と繁殖管理方法が乳牛 の分娩後初回授精受胎率に与える影響 北海道畜産学会報 第 46巻 P31-36 2004 ９ 草刈直仁 高泌乳牛の栄養摂取と発情発現 臨床獣医 第22 巻 12号 P16-21 2004 ＥＴニュースレターNo.28 ＥＴニュースレターNo.27 ＥＴニュースレターNo.26 ＥＴニュースレターNo.25 ＥＴニュースレターNo.24 ＥＴニュースレターNo.23 ＥＴニュースレターNo.22 価格は送料 税込み その他資料 LIAJ News 当団機関紙 隔月 発行 卵通信 当団の体外受精卵情報 年４回発行 DIARY SIRE DIRECTORY 2005-8月 2005 黒毛和種種雄牛案内 お問い合わせ お申込みは 最寄りの種雄牛センター または 104-0031 東京都中央区京橋1-19-8 大野ビル 社 家畜改良事業団 事業部 電話 03-3561-8151 ファックス03-3561-8156 までお申しつけください 15
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