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2 累計 収入階級別 各都市とも 概ね収入額が高いほども高い 特別区は 世帯収入階級別に見ると 他都市に比べてが特に高いとは言えない 階級では 大阪市が最もが高くなっている については 各都市とも世帯収入階級別の傾向は類似しているが 特別区と大阪市が 若干 多摩地域や横浜市よりも高い 東京都特別区

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ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

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(3) 可処分所得の計算 可処分所得とは 家計で自由に使える手取収入のことである 給与所得者 の可処分所得は 次の計算式から求められる 給与所得者の可処分所得は 年収 ( 勤務先の給料 賞与 ) から 社会保険料と所得税 住民税を差し引いた額である なお 生命保険や火災保険などの民間保険の保険料およ

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III 世帯属性別にみた貯蓄・負債の状況

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リターン大2 運用商品を選ぼう 確定拠出年金は 自分で選んだ商品で運用し その運用結果によって将来の受け取り額が決まります なお 投資信託は預金とは異なり 運用の結果によっては損失が生じる可能性があります ご加入の方からの運用指図がないご資産は 未指図資産という現金相当の資産として管理されます 所定

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このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

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基礎数理 ()Aさんは確定拠出年金の加入者となった 投資商品は収益率がそれぞれ独立な正規分布 N(7, σ ), N(, σ y ) に従う,Y から選択することとした の過去 8 年間の収益率の実績は {8,,,5,,-,6,}(%) Y の過去 6 年間の収益率の実績は {,,,4,,}(%)

196 インターネット関連というように狭く考えず 通信 計算技術の進歩と ITの利用者が特定の専門家だけでなく 広く一般の人に拡がったというように考えると デリバティブの急拡大を始めとする金融技術の発展こそ ITの進歩の金融システムへの最大の影響と考えられるであろう そこで 本稿では 金融システムの

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1. 期待収益率 ( 期待リターン ) 収益率 ( リターン ) には次の二つがあります 実際の価格データから計算した 事後的な収益率 将来発生しうると予想する 事前的な収益率 これまでみてきた債券の利回りを求める計算などは 事後的な収益率 の計算でした 事後的な収益率は一つですが 事前に予想できる

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別紙2

学年第 3 学年 2 単元名 ( 科目 ) いろいろな関数の導関数 ( 数学 Ⅲ) 3 単元の目標 三角関数 対数関数 指数関数の導関数を求めることができる 第 次導関数の意味を理解し 求めることができる 放物線 楕円 双曲線などの曲線の方程式を微分することができる 4 単元の学習計画 三角関数 対

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論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

(3) 消費支出は実質 5.3% の増加消費支出は1か月平均 3 万 1,276 円で前年に比べ名目 6.7% の増加 実質 5.3% の増加となった ( 統計表第 1 表 ) 最近の動きを実質でみると 平成 2 年は 16.2% の増加となった 25 年は 7.% の減少 26 年は 3.7% の

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Transcription:

2011 年 9 月 28 日 ICS 修士論文発表会 我が国の年齢階級別 リスク資産保有比率に関する研究 2011 年 3 月修了生元利大輔

研究の動機 我が国では, 若年層のリスク資産保有比率が低いと言われている. 一方,FP の一般的なアドバイスでは, 若年層ほどリスクを積極的にとり, 株式等へ投資すべきと言われている. 高齢層は本来リスク資産の保有を少なくすべきかを考察したい. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 2

研究の概要 家計調査の年齢階級別データを用い個人投資家のリスク回避度を分析. 分析には, 資産配分意思決定モデルである, 平均分散分析, 消費を組入れたモデル (CCAPM), 労働所得を組入れたモデルを用いる. なお, 本研究では代表的個人を想定せず,1 人の個人についての部分均衡モデルを扱うことになる. これらのモデルより, インプライド リスク回避度を求め, 年齢階級別のリスク回避度の違いや推移を見る. その結果, 消費や労働所得を組入れると, 年齢階級別に大きな違いは無くなり, 高齢者ほどリスク回避 ( または愛好 ) 的 という事実は確認されなかった. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 3

主な先行研究 最適資産配分の意思決定モデル Markowitz(1952) 平均分散分析 Samuelson(1969),Merton(1969) 多期間モデル Viceira(2001),Campbell and Viceira(2002) 労働所得を組入れたモデル 実証分析 Mehra and Prescott(1985) 株式リスクプレミアム パズル ( リスク回避度が非常に高くないと 実現した ERP は説明できない ) Hansen and Jagganathan(1991) SDF のボラティリティ変動範囲 Campbell, et al(1997) 上記ボラティリティ変動範囲 2SLS を用いた分析 ( 消費 CAPM を肯定する結果ではない ) 祝迫 (2001) 消費 CAPM を否定 羽森 (1996) 消費 CAPM を肯定 Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 4

分析の前提 記号等 Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 5

分析モデル抜粋 ( 平均分散分析 ) 最適化問題 最適資産配分 危険回避的な投資家を想定しているのでγ>0である. 収益率に対し対数正規分布を仮定しベキ型効用を仮定すれば,γは投資家の相対的危険回避度となる. リスク回避度が高い投資家ほどリスク資産への配分比率は低下する. 正のリスクプレミアムであれば, リスク資産の保有比率が高い投資家ほど, インプライド リスク回避度が低くリスク愛好的であり, リスク資産の保有比率が低い投資家ほどリスク回避的と考えることができる. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 6

分析モデル抜粋 ( 労働所得を組入れた 1 期間モデル ) Campbell and Viceira(2002) 最適化問題 制約条件に対数線形近似を行い, 最適資産配分を求めると, 次のようになる. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 7

分析モデル抜粋 ( 労働所得を組入れた 1 期間モデル )( 続き ) リスク資産への最適配分比率は, 労働所得に無関係なポートフォリオと労働所得をヘッジするポートフォリオを, パラメータρを用いて合成したものである. 貯蓄と所得の比率が高いほどρは上昇し, ヘッジポートフォリオへの需要は減少する. 所得とリスク資産の共分散が正であれば, 貯蓄と所得の比率が高い投資家ほどリスク資産の配分比率は高くなる. 一方,0 <ρ< 1であるから, 貯蓄と所得の比率が高くなると, 労働所得に無関係なポートフォリオのウェイト (1/ρ) が低下しリスク資産への配分比率は低下する. 従って, 貯蓄と所得の比率の上昇は, リスク資産への配分比率の上昇と低下という 2 つの影響を与える. 最終的にリスク資産への配分比率が上昇するか低下するかは, リスク回避度の大きさに依存する. リスク回避度の高い投資家ほど労働所得に無関係なポートフォリオの配分比率は低下し, ヘッジポートフォリオの影響が強くなるので, 貯蓄と所得の比率が上昇するとリスク資産への配分比率は上昇する. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 8

分析モデル抜粋 ( 労働所得を組入れた多期間モデル ) Viceira(2001) 投資家の状態を,1) 在職状態 [e]( 労働収入あり ),2) 退職状態 [r]( 労働収入なし ),3) 死亡状態 [d]( 消費ゼロ ) に分け, それぞれの状態の確率を用いて組み合わせたモデル. 在職時のオイラー方程式 制約条件とオイラー方程式を対数線形近似して, 最適資産配分を求めると以下のとおり. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 9

分析モデル抜粋 ( 労働所得を組入れた多期間モデル )( 続き ) リスク資産への最適配分比率は, の比率で労働所得に無関係なポート フォリオを保有し, の比率で労働所得をヘッジするポートフォリ オを保有したもの. は高齢になるほど0に近づくので, ヘッジポートフォリオへの需要は減少し, 労働所得に無関係なポートフォリオのみを保有することになる. は貯蓄と所得の比率が高いほど上昇し, 消費と所得の比率が高いほど低下 する.( 高齢層ほど は高い ) が上昇すると, 労働所得に無関係なポートフォリオのウェイトが低下し, リス ク資産への配分比率は低下する. の低下と の上昇が, を上昇させるので, 高齢層ほどリスク資産への配 分比率は低下することになる. 従って, の上昇は, リスク資産への配分比率 の上昇と低下という2 つの影響を与える. 最終的にリスク資産への配分比率が上昇するか低下するかは, リスク回避度の大きさに依存する. リスク回避度の高い投資家ほど労働所得に無関係なポートフォリオの配分比率は低下し, ヘッジポートフォリオの影響が強くなるので, 貯蓄と所得の比率が上昇するとリスク資産への配分比率は上昇する. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 10

分析に用いたデータ 総務省統計局の家計調査, 貯蓄動向調査から, 年齢階級別の消費, 収入, 貯蓄, 株式 株式投資信託の保有額のデータを取得. なお, データは1966 年からの年次データ. 市場データとしては, 我が国の株式市場収益率と安全資産利子率, また, インフレ調整後の実質収益率で分析を行うため, インフレの系列として消費者物価指数の総合指数を用いている. これらの系列はイボットソン アソシエイツ社の提供するデータを用いている. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 11

年齢階級別貯蓄と所得の比率の推移 ほとんどの年において, 高齢になるほど貯蓄と所得の比率が高い. 従って, 労働所得を組入れたモデルのρ, は年齢階級があがるにつ れ高くなる. なお, 消費と所得の比率は, 各年齢階級ともに平均 80-90% に収まるの で, 貯蓄と所得の比率のような大きな差はない. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 12

結果抜粋 ( 平均分散分析 ) リスクプレミアムとリスク資産の分散は, 全ての年齢階級で同一の値を用いるので, 高齢層のリスク資産の保有比率の高さが, 高齢層がリスク愛好的であるという結果を導く. しかし, なぜ高齢層は若年層に比べリスク資産を多く保有するのかは, 平均分散分析では明らかにすることはできない. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 13

結果抜粋 ( 労働所得を組入れた多期間モデル ) 40 歳代は他の年齢階級に比べややリスク回避的であることが分かる.( 各種パラメータを考慮しても40 歳代はリスク資産への投資が若干少ないことを示している.) 20 歳代,30 歳代,50 歳代の分布を見ると, ほぼ同じ範囲であることからリスクに対する態度に差はないと考えられる. 高齢層ほどリスク資産の保有比率が高い理由は, ヘッジポートフォリオへの需要が減少したためと考える. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 14

多期間モデルでのリスク回避度別リスク資産への配分比率 各年齢階級の1966 年から2008 年までの全期間のデータを用い, リスク回避度を変化させ, スライドP9の式によりリスク資産への配分比率を求めた結果を示している. リスク回避度が低いケースでは, 高齢層ほどリスク資産への投資を抑制すべきという結果. リスク回避度が高いケースでは, 高齢層ほどリスク資産の保有比率を抑えるべきとは言えない. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 15

まとめ 家計調査における年齢階級別のリスク資産保有比率を見ると, 高齢層ほどリスク資産の保有比率は高く, ファイナンシャル プランニングのアドバイスとは矛盾している. 平均分散分析では, リスク資産の保有比率は高齢層ほど高いので, 年齢階級が上がるにつれ, リスク愛好的であるという結果. 労働所得を組入れたモデルでは,1 期間モデル, 多期間モデルともに, 高齢層ほどリスク資産の保有比率が高い理由は, 高齢層は若年層に比べリスク愛好的であったからではなく, ヘッジポートフォリオへの需要が減少したからであるという結果. 我が国の年齢階級別のリスク資産の保有比率の違いは, リスクに対する態度の違いではなく, 労働所得や家計の収支, 年齢, 所得とリスク資産の共分散等により説明できる. Sep 28, 2011 ICS 修士論文発表会 16