物理化学 Ⅱ 講義資料 ( 第 章熱力学第一法則 ) エネルギーの保存 1 系と外界系 : 注目している空間 下記の つに分類される 開放系 : 外界との間でエネルギーの交換ができ さらに物資の移動も可能閉鎖系 : 外界との間でエネルギーの交換はできるが 物質の移動はできない孤立系 : 外界との間でエネルギーも物質も移動できない外界 : 系と接触している巨大な世界 例えば エネルギーの出入りがあっても 温度が変化しないほど巨大なエネルギーのたまり場 また 系が外界に向けて膨張しても 外界は圧力変化しないし 体積変化もしないほど大きい 熱と仕事仕事も熱もエネルギーの移動様式の一つである仕事 w : 外界に対して一様な動きを与える あるいは外界から一様な動きを受けるエネルギーの移動様式熱 q : 温度差のある系を移動するエネルギーであり 外界に対して乱雑な動きを与えたり 外界から乱雑な動きを与えられるようなエネルギーの移動様式温度 : 示強性の性質であり エネルギーが熱として流れる方向を決める系がとり得るエネルギー準位について その相対的な占有数を与える唯一のパラメーターは温度 発熱的 : 熱としてエネルギーを放出する過程吸熱的 : 熱としてエネルギーを吸収する過程 重要な点 : 熱と仕事は状態関数 ( 状態だけで決まる変数 ) ではない! この点は後々とても重要であり 熱および仕事として移動したエネルギーの大きさは 通った経路 ( 変化した過程 ) に依存する 仕事の測定熱と仕事の向き外界から系に熱が移動したとき および外界が系に対して仕事をしたときを 正 とする 熱力学のデータは全て符号付きで与えられており ( これから学習する ) 原則通り取り扱えば 符号は自動的に決まる 膨張の仕事 : これは系が圧力 ( 外圧 ) に対抗して膨張するときの仕事である 一定の外圧 に逆らって系が膨張するときの仕事 w w 一定の圧力下での気体を i から まで膨張させるときの仕事 w は 右図の 曲線図において長方形で示される領域の面積に等しい 自由膨張: 外圧が 0( ゼロ ) の時の膨張 この時の仕事は w 0 である 一定の外圧下における気体の膨張 自習問題 1 反応で生成する O は 一定の外圧 ( この場合 大気圧 100 k ) に逆らって膨張する訳であるから その仕事は w で表される よって w となる 10010 5 10 500.5 10 N.5 10 J.5 kj
等温可逆膨張最大仕事 : 外界と力学的平衡を保って膨張するとき 系は最大の仕事をする完全気体を i から まで膨張させるときの仕事は dw d dw nr d, w nr ln i nr 1 dw d nr d i i nr (ln lni ) nr ln これは右図 ( テキスト p.45, 図 10) の 曲線図において まで積分した結果 ( 斜線の部分の面積 ) に等しい i nr の関係にある関数を i から 完全気体の等温可逆膨張 可逆膨張のモデル ここで可逆膨張について説明する 系が膨張する際に 系の圧力 と外圧 が力学的平衡を保った状態にある膨張 右上図のモデルによれば 外圧 ( この場合は無限小の重りの集合体により発生する圧力 ) とピストン内部の圧力 ( 系の圧力 ) が釣り合った状態にあるとき 無限小の重りをゆっくりと外すと 系は力学的平衡を保ったまま膨張する このような ( 仮想的な ) 膨張を可逆膨張という 実際には 無限小の重りなど存在しないので このような膨張は実現できないが 可逆変化 は熱力学の最も重要な思考実験の一つである 例えば 変化の経路 ( 道筋 ) に依存する物理量である仕事 w は 一定外圧の元での膨張や可逆膨張以外の膨張では簡単に求めることができない 最大の仕事 という表現は 膨張の仕事は 可逆変化以外ではいずれの場合も 可逆変化の時よりも小さくなることを意味していて その値は変化の経路に依存するので 経路を特定しない限り求めることはできない 自習問題 等温可逆膨張における仕事は.010 て w 1.0 8.1 98 ln 1.010 w nr ln i で表されるから これに与えられた数値を代入し 8.1 98 0.69 1.710 J 1.7 kj となる 問題を解く際には まず 系の変化を良く考えてから ( 膨張に伴って 圧力 温度の変化は?) 式を使うこと 適切な式を使わないと 正しい解が得られない!
4 熱の測定 q 定義 : 熱容量 ( 系に入ったエネルギー ( 熱 ) q 温度上昇 ) もっと明確な物理量として 以下の熱容量が定義されている 1 比熱容量 S : S 単位は 1 - J K g これを比熱と呼んでいる 1 モル熱容量 : 単位は 1 - J K ol n 定圧熱容量 モル定圧熱容量 : 圧力一定の元で系に流入 ( あるいは放出 ) したエネル 定容熱容量 モル定容熱容量,, ギーと温度変化の関係を表す : 一定体積の元で系に流入 ( あるいは放出 ) したエネル ギーと温度変化の関係を表す ( 定圧熱容量 定容熱容量の定義は この章の後半部分で解説する ) 系に流入した熱量は熱計 (clorieter) を用いて測定する 測定は 予め熱量計 ( 装置 ) の持つ熱容量を測定しておき ( 熱量計自身も加熱すると温度が上昇する!) そこに試料を入れて系に流入した熱量と温度の関係を求め 装置の熱容量を補正すれば 試料の熱容量が求まる このとき 系に熱を供給する良い方法の一つは ヒーターによる加熱である ヒーターに流した電流 I ( 単位 : アンペア ) 電圧 ( 単位 : ボルト ) と時間 t の関係は 以下の式で表される ( これは高校で習っている ) q It ( この式から 熱量の単位は J As であることがわかる ) 自習問題 まず ヒーターから供給した熱量と温度変化から 装置の熱容量 を求める 系に供給された熱量は q It 1.111.5 16 086 J である この熱量で装置の温度は 5.11 5.11 K 上昇したことから 装置温度を 1.00 上昇させるために必要な熱量 ( 装置の熱容 086 1 量 ) は 408 J K となる 一方 気体の燃焼で 装置の温度は.78.78 K 上昇し 5.11 た訳だから この時装置の供給された熱量は 求めた比熱容量より 1 q 408 J K.78 K 114 J 1.1 kj 5 膨張時の熱流入次の項でまとめて取り扱う 内部エネルギーとエンタルピー 6 内部エネルギー 熱力学的パラメーターとして 内部エネルギー モル内部エネルギー ネルギーと仕事 熱の関係は以下の式で表される w q ( 内部エネルギーの定義式 : 墓場まで持って行くこと!) を定義する 内部エ n (1) 等温膨張完全気体の等温膨張では 内部エネルギー変化はない 0 式 ( 9) 完全気体では 内部エネルギーは気体分子の運動エネルギーのみに由来するから 温度が変わらなければ 内部エネルギー変化もない ( 分子の平均速度が温度のみに依存するため ) この結果から w q 0, q w の関係が導かれる この関係はとても重要で 完全気体の等温変化 ときたら 即座に 0 につなげて欲しい この関係から仕事を求める問題は多い
自習問題 4 内部エネルギー変化 は 系の成した仕事 w と系に出入りした熱 q より w q で表される よって 5 10 50 10 5 10 J 5 kj となる 系に流入した熱は +( プラス ) 系が外界にした仕事は-( マイナス ) なので 符号に注意すること! 7 状態関数としての内部エネルギー状態関数 おかれている状態のみで決まる関数で その状態がどのように実現されたのか ( すなわち通った道筋 = 経路 ) には依存しない関数 我々が日常的に使っている温度 圧力 体積なども状態関数である 孤立系の内部エネルギーは一定である = 熱力学第一法則あたりまえ! 孤立系とは 物質もエネルギーも移動できない系 内部エネルギーは一定!( 体積変化もしちゃダメよ! 外部に仕事をすることになるので ) 体積一定で非膨張仕事がない場合内部エネルギーの定義は w q である 非膨張仕事がない 仕事は膨張 ( 体積変化 ) のみ : w d 体積変化がない d 0 よって w 0 これより q q は体積一定での熱量変化を表す ) ( 測定はボンベ熱量計を用いる ( テキスト p.5, 図 17) 定容熱容量 この結果から 重要な物理量が定義される ボンベ熱量計により得られたデータを 横軸に温 d 度 縦軸に内部エネルギー ( 変化 ) をとってプロットすると その傾きは定容熱容量 を表 d す ( テキスト p.5, 図 17) 内部エネルギーにモル当たりの値を使えば モル定容熱容量 と なる これを数学的に正確な表現で書くと 以下のようになる, ( 定容熱容量の定義 : 墓場まで持って行くこと!) 8エンタルピー生態系を含む化学反応は 一般に大気圧下 ( 一定圧力下 ) での反応である 教科書に書かれている反応 O (s) の熱分解 を例に考える O (s) O (s) O (g) この反応では 気体の O が発生するが この気体は周りの気体を押しのけて生成する すなわち体積膨張している この結果 加えた熱 q は 1 内部エネルギーの増加 ( 温度上昇 ) と 体積膨張の仕事 w に使わ れる このような変化に対応した新しい物理量を定義する ( エンタルピーの定義式 : 墓場まで持って行くこと!) : エンタルピー仕事だからと w d としたいところだが エンタルピー自体は圧力変化する系でも使えるので としている あくまでも定圧条件下では 系に出入りした熱量 q と系のエンタルピー変化 が等しい 容易に求めることができる ということである すなわち d d d( ) d d d ここで 圧力一定であるから d 0 より d d d となる さらに 内部エネルギーの定義 w q d q より d q となる ( テキスト 15 式 ),
よって 一定圧力の元では 以下の関係が成り立つ 吸熱反応 外界から系に熱が移動するので エンタルピーは増加する ( 0 ) 発熱反応 系から外界へ熱が移動するので エンタルピーは減少する ( 0 ) 完全気体の場合 nr より nr となり 両辺を n で割れば R ( 式 1b) となる このエンタルピーという物理量 は 名称は違うが既に高校で学習している 例えば 高校で習う 反応熱 は 標準反応エンタルピーと同義である ( 高校では 標準条件 の定義を明確にしていないので厳密に同じではないが 少なくとも記載している数値は同じものである 例えばアンモニアの生成熱など ) 9エンタルピーの温度変化内部エネルギーの場合と同様に 横軸に温度 縦軸にエンタルピー ( 変化 ) をとってプロットす d ると その傾きは定圧熱容量 を表す ( テキスト p.56, 図 1) 内部エネルギーにモル当 d たりの値を使えば モル定容熱容量 となる これを数学的に正確な表現で書くと 以下のよ うになる, ( 定圧熱容量の定義 : 墓場まで持って行くこと!), 標準条件において ある物質をその物質を構成する元素の担体から合成する反応のエンタルピー ( これを標準生成エンタルピー と呼ぶ ) は 色々な物質についてテキスト巻末のデータ部 (p.550 以降 ) にまとめられている エンタルピーの基準標準生成エンタルピーは 標準条件において その元素の最も安定な単体の値を 0( ゼロ ) とする ( 定義 ) ここで 熱力学では標準条件を規定する物理量は 圧力 (1 br = 10 5 ) ただ一つである しかし エンタルピーを初めとする熱力学で重要な物理量は 温度の関数であるから 温度も定義せねばならない 一般に温度の基準は 98.15 K にとる ( 巻末のデータも全てこの温度の値である ) 例えば アンモニア N について見ると 構成する元素 すなわち標準条件における水素と窒素の安定な単体は および N であるから 定義より これらの値を 0 とする ( (, g) 0, (N, g) 0 ) 一方 N のそれは テキスト p.555, 表 D1 より 1 (N, g) 46.11kJ ol であることが分かる 1 別の見方をすると 水の標準生成エンタルピー (N, g) は N ( g) ( g) N ( g) という反応の 標準反応エンタルピー ( 反応熱 ) と同義である 高校の教科書には 倍した値 9 kj ol -1 が記載されている 定圧熱容量の温度依存性定圧熱容量の温度依存性は 多くの物質について 以下の形の経験式でまとめられている ( テキスト, p.55, 式 17), b c (, b, c は物質固有の定数 ) 幾つかの物質について テキスト表 に定数, b, c がまとめられている 窒素 ( g) と二酸化炭 素 O ( g) について その値をグラフにすると右のようになる N O (g) N (g) の温度依存性
エンタルピーの温度依存性エンタルピーの定義式, より 圧力一定下では d d, となるから 先の定圧熱容量の温度依存性, c b をこれに代入して 98.15 K から求めたい温度までを積分すればよい よって 1 98 (98) ) ( (98) ) ( (98) ) ( c b d c b d d, となる ( テキスト p.56, 18 が同じ式だが テキストの式はちょっと ) 多くの物質について 98.15 K の標準生成エンタルピーの値と定数 c b,, は公開されているので それらから目的とする温度での値を容易に決定できる ただし 多くの場合 定数 c b,, の使用可能な温度域が決められている Myer の式完全気体の場合には 定容熱容量と定圧熱容量の間に次の関係式がある ( テキスト p.56, 式 19) R,, 導出過程 ( ちょっと難しい!) テキストの式はちょっと (1) ここで d d d ( これは状態関数では常に成り立つ ) より 圧力一定の条件で 上式を微分すると () (1) () 式より ここで完全気体の場合には 0 ( 等温膨張の内部エネルギー変化はゼロ ) が成り立つから が得られる また = nr より nr nr nr 両辺を n で割れば R,, となる