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(c) 規模に関して収穫一定の生産技術をもっているから, 総費用は直線で表され, また平均費用も限界費用も同様に直線で表されかつフラットな形状になる. 問 (b) の解答より, 1 脚当たりの総費用は $65( $390 / 6 ) であるから, 各費用関数は図 9.12 のように描くことができる.

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い最適消費点 ) を E 1 と記入しなさい 接点の位置は任意でよい (7)E 0 と E 1 を結んだ曲線の名前は, ( 価格消費 ) 曲線という 問 3.( 1) 下表のカッコ内に 増加 か 減少 の言葉を入れなさい (2) ギッフェン財は上の表では ( 3 ) 番のケースにあたる - 2 -

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7. 1 max max min f g h h(x) = max{f(x), g(x)} f g h l(x) l(x) = min{f(x), g(x)} f g 1 f g h(x) = max{f(x), g(x)} l(x) = min{f(x), g(x)} h(x) = 1 (f(x)

限界効用は以下のようにして求められます. du d U この式は U という式を で微分する という意味です. 微分ていったい何なのさ で確認しておきましょう. 微分は接線の傾きを求めることでした. 限界効用も, 接線の傾きとして求められます. こちらの方がよく使われますので, マスターしておきまし

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2018 年度前期 ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 萩原史朗 ( 地域文化学科地域社会講座 ) 研究室 : 教育文化学部 3 号館 3-330 E-mail:hagihara@ed.akita-u.ac.jp ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 1

ミクロ経済学のフローチャート 経済主体が多数の場合 ミクロ経済学 価格理論 経済主体が少数の場合 消費者の効用最大化 需要曲線 企業の利潤最大化 供給曲線 市場均衡 ( 余剰分析, 一般均衡分析 ) ゲーム理論 完備情報ゲーム ( 情報の非対称性なし ) 不完備情報ゲーム ( 情報の非対称性あり ) ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 2

講義の概要 1. 効用の概念と消費者余剰を求める方法について 2. 費用の概念と生産者余剰を求める方法について ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 3

1. 消費者の効用と消費者余剰 ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 4

効用 効用 (utility) とは, 消費者が, 財 サービスの消費から得る満足度のこと. 基数的効用 (cardinal utility): 効用の大きさを数値として測定可能であるという考え方. 序数的効用 (ordinal utility): 効用の大きさは測定可能ではないが, 順序付けは可能であるという考え方. 注意 1: 基数的効用が分かればその順序付けは可能である. つまり, 序数的効用の方がより緩い仮定である. 注意 2: この講義では, 理解の簡単化のため, 前者の立場で講義を進めて行く. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 5

効用関数 効用関数 (utility function): 財 サービスの消費量 (X) と効用水準 (U) の関係を表したもの. 財 サービスの消費水準が 1 種類の場合, 消費者の効用水準は, U = U(X) という効用関数により表される. 効用関数は, 財 サービスの消費量 (X) が決定するとそれに応じて効用水準 (U) が決定することを意味している. 通常, 消費者の効用水準は, 財 サービスの消費水準が増えるほど増加すると仮定される. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 6

( 効用関数 のつづき ) 例 1. 効用関数が U = X の場合 消費水準 (X) 0 1 2 3 効用水準 (U) 0 1 2 3 例 2. 効用関数が U = X の場合 消費水準 (X) 0 1 2 3 効用水準 (U) 0 1 1.414 1.732 ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 7

限界効用と限界効用逓減の法則 限界効用 (marginal utility ): 財 サービスの消費量を追加的に 1 単位増やしたときの効用の増加分. 限界効用逓減の法則 (law of diminishing marginal utility): 消費者の効用水準は財 サービスの消費量が増えるほど増加するが, その増加分 ( 限界効用 ) は減少するという仮定. 限界効用逓減の法則が成立する場合, 効用関数は図 1 のような効用曲線として描くことができる. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 8

U( 効用水準 ) 図 1. 効用曲線 (1 財のケース ) U = U(X) 0 X( 消費水準 ) ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 9

( 限界効用と限界効用逓減の法則 のつづき ) 例 3. 効用関数が U = X の場合 消費水準 (X) 0 1 2 3 効用水準 (U) 0 1 2 3 限界効用 1 1 1 効用関数が U = X の場合, 限界効用は 1 で一定. したがって, この場合, 限界効用逓減の法則は成立しない. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 10

( 限界効用と限界効用逓減の法則 のつづき ) 例 4. 効用関数が U = X の場合 消費水準 (X) 0 1 2 3 効用水準 (U) 0 1 1.414 1.732 限界効用 1 0.414 0.318 効用関数が U = X の場合, 限界効用は逓減する. したがって, この場合, 限界効用逓減の法則は成立する. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 11

限界便益 限界便益 (marginal benefit ): 消費者が追加的な 1 単位の財 サービスの消費量に対して最大限支払っても良いと思う金額. 限界効用を金銭的に評価したもの. 図 2のケースの限界便益 1 個目の財の消費に対する限界便益 =160 円 2 個目の財の消費に対する限界便益 =140 円 3 個目の財の消費に対する限界便益 =120 円 4 個目の財の消費に対する限界便益 =100 円 ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 12

160 140 120 100 価格 図 2. 消費量が離散変数である場合の限界便益 限界便益 : 1 単位目,2 単位目,3 単位目,4 単位目のリンゴの消費から得られる限界効用を金銭的に評価している. 0 1 2 3 4 リンゴの需要量 ( 単位 = 個 ) ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 13

価格 図 3. 消費量が連続変数である場合の限界便益 リンゴの消費が 1g 単位で行われる場合, 160 140 数学的には連続変数であるので, 限界便 益は限界便益曲線の高さで表わされる. 120 100 限界便益曲線 0 300g 600g 900g 1200g リンゴの需要量 ( 単位 = グラム ) ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 14

消費者余剰 消費者余剰 (consumer s surplus): 消費に伴って生まれる満足度を金銭的に評価した額 (= 限界便益の合計 ) から実際の支出額の合計を引いたもの ( 図 4~ 図 9 参照 ). 図 2 のケースの消費者余剰 財の消費量限界便益価格消費者余剰 1 160 円 90 円 70 円 2 140 円 90 円 50 円 3 120 円 90 円 30 円 4 100 円 90 円 10 円 合計 520 円 360 円 160 円 ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 15

160 140 120 100 価格 図 4. 離散変数の場合の消費者余剰の求め方 (1) ステップ 1: 限界便益の合計を求める 限界便益の合計 =160 円 +140 円 +120 円 +100 円 =520 円 = 太線で囲まれた面積 0 1 2 3 4 リンゴの需要量 ( 単位 = 個 ) ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 16

160 140 120 100 90 価格 図 5. 離散変数の場合の消費者余剰の求め方 (2) ステップ 2: 支出額の合計を求める 支出額の合計 =1 個 90 円 4 個 =360 円 = 太線で囲まれた長方形の面積 0 リンゴの需要量 ( 単位 = 個 ) 1 2 3 4 ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 17

160 140 120 100 90 価格 図 6. 離散変数の場合の消費者余剰の求め方 (3) ステップ 3: 限界便益の合計 - 支出額の合計を求める 消費者余剰 =520 円 -360 円 =160 円 = 太線で囲まれた面積 0 リンゴの需要量 ( 単位 = 個 ) 1 2 3 4 ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 18

A 160 140 120 100 価格 図 7. 連続変数の場合の消費者余剰の求め方 (1) ステップ 1: 限界便益の合計を求める リンゴを 1, 200g 消費したときの限界便益の合計 = OABX の面積 B X 限界便益曲線 300g 600g 900g 1200g 0 リンゴの需要量 ( 単位 =グラム ) ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 19

160 140 120 100 P = 90 価格 A 図 8. 連続変数の場合の消費者余剰の求め方 (2) ステップ 2: 支出額の合計を求める リンゴを 1, 200g 消費したときの支出額の合計 = OPCX の面積 B C X 限界便益曲線 300g 600g 900g 1200g 0 リンゴの需要量 ( 単位 =グラム ) ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 20

160 140 120 100 P = 90 価格 A 図 9. 連続変数の場合の消費者余剰の求め方 (3) B C ステップ 3: 限界便益の合計 - 支出額の合計を求める リンゴを 1, 200g 消費したときの消費者余剰 = OABX- OPCX = ABCP X 限界便益曲線 300g 600g 900g 1200g 0 リンゴの需要量 ( 単位 =グラム ) ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 21

2. 様々な費用の概念と生産者余剰 ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 22

費用とは? 費用 (cost) とは, 実際に支出された金額である会計上の費用ではなく機会費用のこと. 機会費用 (opportunity cost) とは, ある行為によって失った収入を得る機会のうち, 最大収入を生み出す機会からの収入のこと. 例. 開業医の A 氏は甲子園で阪神戦を見るために臨時休業した. この場合,A 氏の機会費用は, その日に診察を行っていたら得られたであろう所得のこと. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 23

可変費用の例 可変費用, 固定費用, 総費用 投入量を変えることのできる生産要素を可変的生産要素 (variable factor) あるいは可変的投入物 (variable input) という. 可変的生産要素にかかる費用を可変費用 (VC, variable cost) という. 材料費 : 例えば, 自動車メーカーの部品の調達は生産台数に応じて変えることができるので部品調達費用等の材料費は可変費用. 非正規労働者の賃金 : 非正規雇用者はある程度自由に雇用量を調整できるので, 非正規の賃金は可変費用. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 24

( 可変費用, 固定費用, 総費用 のつづき ) 投入量を変えることのできない生産要素のことを固定的生産要素 (fixed factor) あるいは固定的投入物 (fixed factor) という. 固定的生産要素への費用を固定費用 (FC, fixed cost) という. 固定費用の例 機械設備費用 : 自動車メーカーの機械設備は一度購入すると車の生産台数がゼロでもかかる費用なので固定費用. 正規労働者の賃金 : 日本やヨーロッパでは, 正規雇用者は, 厳しい解雇規制に守られておりよほどのことがない限り解雇できないので, 正規の賃金は固定費用. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 25

( 可変費用, 固定費用, 総費用 のつづき ) 総費用 = 固定費用 + 可変費用 ( 図 10 参照 ) 総費用の例 自動車メーカーでは, 部品会社から購入した部品を機械設備や正規雇用者および非正規雇用者の労働力を用いて組み立てを行い, 自動車を生産している 総費用 = 機械設備の費用 ( 固定費用 )+ 材料費 ( 可変費用 )+ 正規雇用者の人件費 ( 固定費用 )+ 非正規雇用者の賃金 ( 可変費用 ) ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 26

C( 総費用 ) 図 10. 総費用曲線 C 1 可変費用 固定費用 0 X 1 X( 生産量 ) ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 27

C( 総費用 ) 図 11. 逆 S 字型総費用曲線 X( 生産量 ) 出典 : 芦谷政浩 (2009) ミクロ経済学 117 頁 上の総費用曲線では, 生産量が少ない領域では, 限界費用が逓減していくが, ある生産量を超えると限界費用が逓増する 総費用曲線は S の字を逆にしたような形状であるので逆 S 字型総費用曲線と呼ばれる. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 28

限界費用の数値例 限界費用 限界費用 (MC, marginal cost): 生産物を 1 単位増加するときの追加的な生産費用のこと. 生産量 0 1 2 3 4 5 6 総費用 200 210 225 245 275 315 375 限界費用 10 15 20 30 40 60 上の数値例の場合, 限界費用曲線は図 12 のような凹関数となる. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 29

MC( 限界費用 ) 図 12. 限界費用曲線 20 15 10 0 1 2 3 X( 生産量 ) ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 30

平均費用の数値例 平均費用 平均費用 (AC, average cost): 生産物 1 単位当たりの平均的な費用のこと.AC= C X で表される ( 図 13 参照 ). 生産量 0 1 2 3 4 5 総費用 200 210 225 245 275 315 平均費用 210 112.5 約 81.7 69 63 生産量 6 7 7 総費用 375 475 625 平均費用 67.5 約 67.9 約 78.1 ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 31

AC( 平均費用 ) 250 図 13. 平均費用曲線 200 150 100 50 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 X( 生産量 ) アルファベットの U の形をしているので,U 字型の平均費用曲線と呼ばれる. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 32

生産者の利潤と生産者余剰 ( 図 14 参照 ) 生産者 ( 企業 ) の利潤 (profit): 利潤 = 収入 - 総費用 = 収入 -( 固定費用 + 可変費用 ) 生産者余剰 (producer s surplus): 生産量がゼロの時と比べてどれだけ利潤が増加しているかを表したもの. 生産によって生み出された価値の金銭的評価額を表す. 生産者余剰 = 利潤 - 生産量が 0 のときの利潤 = 利潤 -(- 固定費用 ) = 利潤 + 固定費用 = 収入 - 可変費用 固定費用は一定の値なので, 上式から利潤を最大化することと生産者余剰を最大化することは同値である. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 33

MC( 限界費用 ), P( 価格 ) 図 14. 生産者の利潤と生産者余剰 限界費用曲線 P B 利潤 + 固定費用 = 生産者余剰 C D 可変費用 = 面積 OBDX 収入 = OPCX 0 X X( 生産量 ) 生産量が X のとき, 生産者の収入 =PX, 可変費用は限界費用曲線の下側の面積 ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 34

効用や費用の概念 さらなる学習のために 芦谷政浩 (2009) ミクロ経済学 有斐閣, 第 2 章および第 5 章. 伊藤元重 (2015) 入門経済学第 4 版 日本評論社, 第 2 章, 第 3 章. 神戸伸輔 寶多康弘 濱田弘潤 (2006) ミクロ経済学をつかむ 有斐閣 ( テキスト ), 第 3 章の unit 7,unit-8 および第 4 章 unit 13, unit 14. ミクロ経済学概論 ( 第 7 回 ) 35