長期金利の上昇と商業用不動産価格の関連性

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長期金利の上昇と商業用不動産価格の関連性 私募投資顧問部主任研究員米倉勝弘 過去における不動産価格と長期金利の推移を見る限り 両者に負の相関関係は認められず 長期金利の変化が不動産価格に対して直接的に作用しているとは言いがたい 期待利回りの押し上げ要因となる 長期金利の上昇 があったとしても 将来的に安定的な経済成長が見込め NOI の成長も期待できる場合にはリスクプレミアムが縮小し 期待利回りを押し下げる方向に作用するものと整理できる 長期金利の変化は不動産価格に直接的に作用するものではなく その時の経済環境を通じて間接的に作用するものである 長期金利の上げ下げだけを取り上げて不動産価格の変化を予測することは難しく 良い金利の上昇 か 悪い金利の上昇 かが重要となる 1. 不動産価格を決定する期待利回りの構成要素 不動産の期待利回り は 賃貸借に供する不動産を取得するために要した資本額に対して期待される純収益のその資本相当額に対する割合と定義される また 資本資産評価モデル (Capital Asset Pricing Model:CAPM) を準用して 期待利回りの構成要素を リスクフリーレート + リスクプレミアム で表現するケースが多々見受けられる ( リスクフリーレートには長期金利 = 新発 10 年国債利回りを用いるのが一般的 ) 商業不動産価格 ( 以下 不動産価格 という ) と期待利回りは逆相関の関係にあるため 仮に長期金利 ( リスクフリーレート ) が上昇した場合には 期待利回りが押し上げられ不動産価格は下落すると考えるのが自然である しかしながら 長期金利の変動だけでは不動産価格の変化をうまく説明できないのも事実である そこで 本稿では 長期金利の変動は不動産価格に対して直接的に作用するものではなく あくまで間接的に作用する要素であるとの仮説のもと 不動産価格と長期金利の関係性を考察したいと思う 2. 不動産価格と長期金利の関係性図表 1は 不動産価格を表す指標として 地価公示 ( 東京圏商業地 ) を 長期金利を表す指標として 新発 10 年国債利回り を採用し それぞれについて 1985 年以降の推移を示したものである これによれば 当該期間における両者の相関係数は 0.78 となり 正の相関関係が認められる つまり 長期金利の上昇が不動産価格を押し上げる ( 期待利回りを押し下げる ) 長期金利の低下が不動産価格を押し下げる( 期待利回りを押し上げる ) という理論とは真逆の結果となっていることがわかる また J-REIT 市場が開設された 2001 年以降の推移 ( 図表 2) で比較すると当該期間における両者の相関係数が -0.32 となっている 弱い負の相関関係があるように見えるが 相関係数の有意性検定を行った結果 P 値は 0.21 であり 母相関係数が 0 である とする帰無仮説を有意水準 10% でも棄却できなかった つまり 無相関である可能性を否定できないため 相関関係があるとは言えないということになる 1

不動産価格の変動は金利を含む複合的な要素により説明される事象であり 少なくとも金利が上がれば不動産価格は必ず下落するとは言えないのではないだろうか 期待利回り = リスクフリーレート + リスクプレミアム という関係性が成り立っているという前提に立てば リスクフリーレートが変化すると同時にリスクプレミアムも変化しているとの解釈が合理的であろう すなわち 期待利回りの押し上げ要因である長期金利の上昇があったとしても 将来的に安定的な経済成長が見込め NOI の成長も期待できる場合にはリスクプレミアムが縮小し 期待利回りを押し下げる方向に作用するものと整理できる 図表 1 地価公示と新発 10 年国債利回りの比較 (1985 年 ~2017 年 ) 8.00% 7.00% 6.00% 5.00% 4.00% 3.00% 2.00% 1.00% 新発 10 年国債利回り : 左 地価公示 ( 東京圏商業地 ): 右 6,000,000 5,000,000 4,000,000 3,000,000 2,000,000 1,000,000 0.00% 1985 年 1987 年 1989 年 1991 年 1993 年 1995 年 1997 年 1999 年 2001 年 2003 年 2005 年 2007 年 2009 年 2011 年 2013 年 2015 年 2017 年 0 ( 円 ) 出所 ) 国土交通省および Bloomberg のデータをもとに三井住友トラスト基礎研究所作成 図表 2 地価公示と新発 10 年国債利回りの比較 (2001 年 ~2017 年 ) 1.80% 1.60% 1.40% 1.20% 1.00% 0.80% 0.60% 0.40% 0.20% 0.00% 新発 10 年国債利回り : 左地価公示 ( 東京圏商業地 ): 右 2001 年 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年 2014 年 2015 年 2016 年 2017 年 1,600,000 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 ( 円 ) 出所 ) 国土交通省および Bloomberg のデータをもとに三井住友トラスト基礎研究所作成 2

3. 経済理論による不動産価格と長期金利の関係性不動産私募ファンドは デット資金およびエクイティ資金を調達して投資対象不動産を購入するのが一般的である デット資金を用いてレバレッジ効果を活用する財務戦略はどのファンドにも概ね共通しているが 当該財務戦略の違いによって期待利回りが直接的に影響を受けることはない モディリアーニ=ミラーの企業評価論 (MM 理論 ) の第 1 命題として 企業の市場価値は 期待収益が同じであれば 最適な資本構成は存在しないという考え方がある i つまり 資金調達方法に最適な自己資本対他人資本の比率は存在せず ROA(Return On Asset 期待利回り ) は同一となるのである 不動産の財務戦略についても同様であり 個別不動産の期待利回りに対してマーケットでの評価が変わらない限りは LTV 水準に関係なく 不動産価格は変化しない これを例示したものが図表 3 である NOI(104 百万円 ) とデットの資本コスト = 負債利子率 (1% と仮定 ) は所与であり 個別不動産の期待利回り (5.2%) はマーケットで決定されるため 加重平均資本コスト (Weighted Average Cost of Capital:WACC) の考え方を用いれば エクイティの期待利回り = 資本コスト ( 当初 8.0%) が算出できる 当該条件下における価格は 20 億円 (104 百万円 5.2%) となる 図表 3 の各ケースは LTV の水準を変化させても個別不動産の期待利回りは 5.2% で同一となり LTV の水準と個別不動産の期待利回りは無関係であることを示している LTV40% のとき 8.0% であったエクイティ投資家の期待利回り ( 図表 3 LTV40%) は 他の条件が一定という条件のもとで LTV を 30% とした場合 財務リスクが低減することにより 7.0% に低下する ( 図表 3 LTV30%) さらにフルエクイティの場合には財務リスクがなくなるため 5.2% まで低下する ( 図表 3 LTV0%) との考え方である 図表 3 期待利回りと財務戦略 <LTV40%> <LTV30%> <LTV0%=フルエクイティ> NOI 104,000,000 円 NOI 104,000,000 円 NOI 104,000,000 円 価格 2,000,000,000 円 価格 2,000,000,000 円 価格 2,000,000,000 円 デット 1.0% デット 1.0% デット 1.0% エクイティ 8.0% エクイティ 7.0% エクイティ 5.2% LTV 40% LTV 30% LTV 0% 期待利回り 5.2% 期待利回り 5.2% 期待利回り 5.2% 図表 4 は金利が 1.0% から 2.0% へと上昇したケースを例示したものである なお 図表 3 のケースと同様に NOI は 104 百万円で所与としている 図表 4 金利上昇 Ⅰ は 景況が不安定な状態で金利が上昇したケースを想定しており 個別不動産の期待利回りに対するマーケットでの評価が 5.2% から 5.6% へ上昇した例である この状態をデットとエクイティのコストに分解するとすれば 金利の 2% は所与となるので エクイティ投資家の期待利回りは 8.0% で変化がなかったと解釈できる 結果として不動産価格は 20 億円から約 18.6 億円に下落している 金利上昇 Ⅰ のケースをゴードンモデル ii にあてはめて考えると 将来的な NOI(D) の成長を見込めないケースであることから成長率 (g) はゼロであり エクイティ投資家の期待利回りは横ばいであったものと整理することができる つまり リスクフリーレートが上昇したにもかかわらずエクイティ投資家の期待利回りに変化がなかったため個別不動産の期待利回りは 5.2% から 5.6% に上昇したのである 一方で 図表 4 金利上昇 Ⅱ は 将来的に安定的な経済成長が見込める環境下で金利が上昇したケースを i ii 税金や取引に関わる諸経費が存在しない 完全市場 を仮定している D PV = PV: 現在価値 D:NOI( 期待配当 ) r: 割引率 g: 成長率 r g 3

想定しており 個別不動産の期待利回りに対するマーケットでの評価が 5.2% で変化しなかった例である この状態をデットとエクイティのコストに分解するとすれば 金利の 2% は所与となるので エクイティ投資家の期待利回りが 8.0% から 7.3% に低下したものと解釈できる 結果として不動産価格は 20 億円で変わらない 金利上昇 Ⅱ のケースをゴードンモデルにあてはめて考えると 将来的に NOI(D) の成長が見込めるケースであることから成長率 (g=0.7%) の分だけエクイティ投資家の期待利回りが低下したものと整理することができる つまり リスクフリーレートは上昇したもののエクイティ投資家の期待利回りが低下したため個別不動産の期待利回りは 5.2% で変化しなかったのである また 図表 3 の例示と同様に LTV 水準を低下させた場合でも 財務リスク低減によりエクイティ投資家の期待利回りも低下するため 個別不動産の期待利回り水準は影響を受けない ( 図表 4 財務リスク低減 ) 図表 4 金利上昇の影響 < 金利上昇 Ⅰ> < 金利上昇 Ⅱ> < 財務リスク低減 > NOI 104,000,000 円 NOI 104,000,000 円 NOI 104,000,000 円 価格 1,857,142,857 円 価格 2,000,000,000 円 価格 2,000,000,000 円 デット 2.0% デット 2.0% デット 2.0% エクイティ 8.0% エクイティ 7.3% エクイティ 6.6% LTV 40% LTV 40% LTV 30% 期待利回り 5.6% 期待利回り 5.2% 期待利回り 5.2% 4. 金利上昇局面において不動産価格の変動は 良い金利上昇 か 悪い金利の上昇 かで決まる不動産価格と長期金利における過去の関係性から見ても 長期金利の変化のみで機械的に不動産価格を予測することには限界があるように思われる 前項 図表 4 金利上昇の影響 で見たとおり その時点における経済環境下の違いによって影響が異なるためである つまり 長期金利が上昇したという事象よりも それが 良い金利の上昇 か 悪い金利の上昇 かが重要となる 良い金利上昇 とは将来的に安定的な経済成長が見込め NOI の成長も期待できる環境下での金利上昇であり 設備投資などの資金需要が増加することによる金利上昇や債券市場から株式市場へ資金が流入することによる金利上昇などが想定される 一方 悪い金利上昇 とは将来的な経済成長が見込めず NOI の成長も期待できない環境下での金利上昇であり 財政リスクを伴う金利上昇などが挙げられる 長期金利の変化は不動産価格に直接的に作用するものではなく その時点の経済環境を通じて間接的に作用するものある したがって 長期金利の上げ下げだけを取り上げて不動産価格の変化を予測することは難しい 今後 仮に日本でも長期金利の上昇基調が鮮明になった場合に それが好景気を織り込んだものであれば 極端に不動産価格の下落を恐れる必要はないと言える 重要なことは 長期金利の変化そのものよりもその背景に着目し 不動産価格への影響を注視していくことである 以上 4

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