マクロ経済学 [3] 第 3 章設備投資と在庫投資 何のために投資をするのか 中村学園大学吉川卓也 目次 3-1 企業の設備投資 3-2 投資の決定要因 3-3 3-4 資本の使用者費用 3-5 望ましい 1 2 投資とは 1. 消費とは ( 主として ) 家計による財 サービスの購入である 2. 投資とは ( 主として ) 企業が生産のためにおこなう財 サービスの購入である 3. 設備投資とは 民間企業が建物や機械 設備といったを購入したり 建設したりする活動のことである 4. 投資には 設備投資のほかに 政府の公共投資 家計の住宅投資 そして企業の生産と販売のギャップによって生まれる在庫投資が 1. と投資 (1) とは ある時点において企業が保有する建物や機械 設備のことである (2) 投資とは の増加させる活動のことである (3)t 期の純投資 I t は t 期のK t と前期のK t-1 との差 ( 変化分 ) である I t =K t -K t-1 (4) 時間がたつことにより摩耗 陳腐化したを 資本減耗と呼ぶ (5) 純投資に資本減耗 dk t-1 を加えたものを 粗投資という 含まれる 3 4 (6) すなわち 粗投資 I tg =K t -K t-1 +dk t-1 =K t -(1-d)K t-1 資本消耗率 d Kt 1 = dkt 1 Kt 1 t 1 期の資本減耗分 d Kt =dk t Kt t 期の資本減耗分 Kt+1 (1 d)kt 1 (1 d)kt t 1 期の It t 期の It+1 t+1 期の 5 dkt 1 t 期の粗投資 dkt 1
2. 日本の GDP と投資 (1) 需要面からみたGDPのうち 粗投資は 総固定資本形成で表され GDPの30% 程度を占める (2) 総固定資本形成は 公的総固定資本形成 ( 公共投資 ) と民間総固定資本形成とに分けられる (3) 民間総固定資本形成は 1 家計による住宅建設のための住宅投資と 2 民間企業による生産のための機械 設備や建物などのへの支出である企業設備投資に分けられる (4) 一般的に 投資あるいは設備投資とは 企業設備投資のことである 7 3. 設備投資と景気循環 (1) 投資は景気循環において重要な役割を果たしている (2) 民間消費 ( 民間最終消費支出 ) 設備投資 GDPの変化率の推移をみると 設備投資は景気循環の過程で 消費に比べ非常に大きく変化しており GDPの変動に大きな影響を与えている (3) 高度成長期 (1960 年代 ) の日本では 都市化による人口移動がもたらした世帯数の増加 耐久消費財の普及 ( 需要増 ) などにより 設備投資は好況期に大きく増加し 長期の好況の原動力となった (4) 反対に 設備投資は不況期には大きく減少した 8 1. フローとストック 2. 投資の決定要因 (1) フローとは ある期間内におこなわれた経済活動の成果を表す ( 例 )1 年に建てられた住宅件数 1か月に作られた機械の台数 投資 (2) ストックとは ある特定の時点ですでに達成されている経済活動の成果を表す ( 例 ) 現時点における住宅総数 現時点における機械の台数 投資によって形成された 2. 投資の決定要因 2. の決定問題 1. フローとしての投資の決定問題は その結果としての水準の決定問題と密接に関連している 2. 決定に関する代表的な理論である新古典派の投資理論は 企業の利潤最大化行動によって投資が決定されるというものである 3. まず 望ましいの水準が を増加させた際に 収入と費用のどちらが大きいかによって決定されると考える 4. 次に 現存するが 望ましいに等しくなるように設備投資額が決定される 9 10 3. 1. の逓減 1. 企業が機械などを新たに 1 台購入すると は 1 単位増加すると考える 2. とは を 1 単位増加させることによって生産量がどれだけ増加するかを表す指標 ( 数値 ) である 3. 現存するの量が小さい場合はは高い 4. 現存するの量が大きくなるにつれて は低下してくる このことを の逓減 という 5. 規模の経済性が成り立つ場合は 資本の限界生 産性が逓増することもある 11 3. 2. の逓減の図解 1. 生産関数とは 企業が生産に使用したと生産量との関係を示したものである ( 図 3-3(1)) 2. 他の投入物 ( 労働力など ) を一定とすると 1 が大きければ大きいほど生産量は大きくなる 2 しかし が大きくなるとは小さくなる ( 逓減する ) 3. Marginal Productivity of Capital (MPK) は 生産関数の傾きで表される 4. 生産関数の傾き ( ) は が大きいほど小さくなる ( 逓減 ) ( 図 3-3(2)) 12 2
生産量 3. K1 K2 13 4. 資本の使用者費用 1. 資本の使用者費用の構成要素 1. 資本の使用者費用 ( レンタル コスト ) とは を 1 単位使用するのに必要な費用のことである 2. 資本の使用者費用は 1 資本減耗の費用と 2 利子の費用の 2 つが考えられる 2. 資本減耗の費用 1. 資本減耗の費用とは 使用しているが時間がたつにつれ陳腐化し 価値が下がることによる費用である 2. 資本減耗率とは 1 単位あたりの資本減耗を表す数値である 3. 資本減耗率が大きければ大きいほど 企業の資本の使用者費用は大きくなる 14 3. 利子の費用 4. 資本の使用者費用 1. 利子の費用とは を新たに購入するときに必要な資金に対して支払われる利子の金額である 2. 利子率とは 1 単位あたりの利子の費用である 3. もし企業が自己資金でを購入したとしても 利子の費用はかかると考える 4. なぜならば を購入しなければその資金で得られた利子を の購入にあてたことで失ったと考えられるからである このような費用を機会費用という 15 1. 望ましいの決定 1. とは 資本を 1 単位増加させたときの生産の増加分である 2. 生産したものがすべて売れれば ( 在庫が残らなければ ) 生産の増加分は収入の増加分である 3. 一方 資本の使用者費用とは そのときの費用の増加分である 4. > 資本の使用者費用なら 資本をもう 1 単位増加させると生じる収入の増加分 > 費用の増加分となり 利潤 (= 収入 - 費用 ) が増加するので 企業は資本をもう 1 単位増加させる方が望ましい 16 1. 望ましいの決定 ( 続き ) 5. < 資本の使用者費用なら 資本をもう1 単位減少させると生じる収入の減少分 < 費用の減少分となり 利潤が増加するので 企業は資本をもう1 単位減少させる方が望ましい 6. このため企業は と資本の使用者費用が等しくなるまでを増減させる 7. = 資本の使用者費用となったの水準で 企業の利潤は最大化される このときのの水準を 望ましい という 17 2. 望ましいの決定の図解 資本の使用者費用 d+i 2 d+i 1 E 2 K 2 K 1 E 1 (i=i 2 ) 資本の使用者費用 (i=i 1 ) 18 3
2. 望ましいの決定の図解 1. 資本の使用者費用 = 資本減耗率 d+ 利子率 i 2. 資本の使用者費用は の量に依存しない ( の量に関係なく一定である ) ので 横軸に平行な直線で表される 3. 資本減耗率 dは同じで 利子率 iが異なるケースを考える (i 1 <i 2 ) ( 図 3-4) 4. は 右下がりの曲線で表される の水準は のグラフと資本の使用者費用のグラフの交点 E 1 およびE 2 で決定する 6. 望ましいの水準は 使用者費用がd+i 1 のときK 1 d+i 2 のときK 2 である 19 生産量 d+i=mpk 3 ( 参考 ) 生産関数と費用関数 d+i MPK 3 生産量費用 K1 K 3 K2 20 3. 利子率と望ましいとの関係 1. 利子率が上昇した場合 (i 1 i 2 ) 資本の使用者費用が増大する 2. その結果 従来の K1 では 資本の使用者費用がを上回る 3. したがって 望ましいの水準は K 2 まで減少する 4. 利子率が下落した場合 (i 2 i 1 ) 資本の使用者費用が減少し 望ましいの水準は K 1 まで増加する 5. このような利子率ととの反比例の関係から 利子率と投資水準も反比例の関係になる 21 4. が及ぼす効果 1. は 生産物への需要の増加や生産技術の進歩によって上昇する 2. この場合 同じに対してが上昇するので のグラフは右上方へシフトする 3. 資本の使用者費用が変わらなければ と資本の使用者費用が等しくなる点は E 2 から E 3 へ移動する 4. したがって 望ましいの水準は が上昇する前の K 2 から K 3 へ増加する 5. このように と望ましいの水準には 正比例の関係がある 22 4. が及ぼす効果 ( 続き ) 資本の使用者費用 d+i E 2 E 3 K 2 K 3 資本の使用者費用 上昇後の上昇前の 23 6. 新古典派の投資理論 1. 新古典派の投資理論の考え方 1. もし投資をおこなう企業にとって 資本の使用者費用しかかからない場合は 瞬時に望ましいの水準に調整される 2. t 期における望ましいの水準をK t* とすると t 期の純投資 I t は次の式で計算される I t =K t* -K t-1 3. 資本減耗率をdとすれば 資本減耗を考慮した粗投資 I tg は次の式で計算される I tg =K t* -K t-1 +dk t-1 =K t* -(1-d)K t-1 4. いずれにしろ 新古典派の投資理論では 望ましいと現存のの差を補う額だけ純投資がおこなわれることになる 24 4
2. 投資の変動要因 6. 新古典派の投資理論 1. 新古典派の投資理論では 1 利子率が上昇すれば投資は減少する ( 利子率が上昇すると 望ましいが減少するから ) 2 が上昇すれば投資は増加する ( が上昇すれば 望ましいが増加するから ) 2. は景気とともに大きく変化することから 投資が景気とともに大きく変化することを説明できる 25 7. ジョルゲンソンの投資理論 1. ジョルゲンソンの投資理論とその特徴 1. 現実には の調整には時間やコストがかかるので 必ずしも最適水準に決定されていない 2. そこで 投資の調整速度 λを考え 0<λ<1とする そして投資は 次の式で決定すると考える I t =λ(k t* -K t-1 ) 3. この式の意味は 今期の望ましいK * t と前期の実際のK t-1 との差額の一部 λだけ実現するということである 26 1. 在庫投資の内訳 1. 在庫投資とは 一定期間 ( たとえば 1 年間 ) に企業が生産した製品のうち その期間中に売れ残って新たな在庫になった部分のことである 2. 在庫 ( ストック ) とは 過去から現在までに積み重なった在庫投資の合計である 3. 製品在庫とは 最終的な利用者によって購入される財である最終財の在庫のことである 4. 仕掛品在庫とは 製造工程の途中にある未完成品の在庫のことである 5. 原材料在庫とは 最終財の原材料として保有されている在庫のことである 27 2. マクロ的にみた在庫投資 1. マクロ的にみた在庫投資とは 一定期間中 ( たとえば 1 年間 ) に生産された付加価値 (= 生産量 ) のうち 最終的な利用者に販売された付加価値 ( 生産量 ) を差し引いたものである 在庫投資 = 生産量 - 販売量 2. 生産量 > 販売量ならプラスの在庫投資 生産量 < 販売量ならマイナスの在庫投資になる 28 3. 在庫投資の変動と景気循環 1. GDP に占める在庫投資の割合は 設備投資 (GDP に占める割合は 16% 程度 ) の 10 分の 1 以下で 非常に小さい 2. しかし 在庫投資は非常に大きく変動する 3. したがって 在庫投資が景気循環へ与える影響は重要である 4. 日本の GDP に占める在庫投資の割合は 近年非常に小さくなっている 5. また多くの先進国では 在庫投資の変動は小さくなってきており 景気変動も小さくなっている 29 5