地域における継続した総合的酪農支援 中島博美 小松浩 太田俊明 ( 伊那家畜保健衛生所 ) はじめに管内は 大きく諏訪地域と上伊那地域に分けられる 畜産は 両地域とも乳用牛のウエイトが最も大きく県下有数の酪農地帯である ( 表 1) 近年の酪農経営は 急激な円安や安全 安心ニーズの高まりや猛暑などの

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現在 乳房炎治療においては 図 3に示す多くの系統の抗菌剤が使用されている 治療では最も適正と思われる薬剤を選択して処方しても 菌種によっては耐性を示したり 一度治癒してもすぐに再発することがある 特に環境性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌の場合はその傾向があり 完治しない場合は盲乳処置や牛を廃用にせざるを

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られる 3) 北海道での事例報告から 100 頭を超える搾乳規模での発生が多かった (33 例 82.5%) 冬から春にかけての発生がやや多い傾向 2006 年は 9 例 2007 年は 6 例が発生 全道的にも増加していると推察された 発生規模は 5~20% と一定で 搾乳規模に相関しなかった 発


検査の重要性 分娩前後は 乳房炎リスクが高まる時期 乾乳軟膏の効果が低下する分娩前後は 乳房炎感染のリスクが高まる時期です この時期をどう乗り越えるかが 乳房炎になるかどうか重要なポイントです 乾乳期に分娩前乳房炎検査を実施して 乳房炎の有無を確認 治療を行い泌乳期に備えます 分娩前後いかに乗り切る


システムの構築過程は図 1 に示すとおりで 衛生管理方針及び目標を決定後 HAC CP システムの構築から着手し その後マネジメントシステムに関わる内容を整備した 1 HACCP システムの構築本農場の衛生管理方針は 農場 HACC P の推進により 高い安全性と信頼を構築し 従業員と一体となって

参考1中酪(H23.11)

B 農場は乳用牛 45 頭 ( 成牛 34 頭 育成牛 7 頭 子牛 4 頭 ) を飼養する酪農家で 飼養形態は対頭 対尻式ストール 例年 BCoV 病ワクチンを接種していたが 発生前年度から接種を中止していた 自家産牛の一部で育成預託を実施しており 農場全体の半数以上の牛で移動歴があった B 農場

A 農場の自家育成牛と導入牛の HI 抗体価の と抗体陽性率について 11 年の血清で比較すると 自家育成牛は 13 倍と 25% で 導入牛は 453 倍と % であった ( 図 4) A 農場の個体別に症状と保有している HI 抗体価の と抗体陽性率を 11 年の血清で比較した および流産 加療


名称未設定-2

マイコプラズマについて

2. マイコフ ラス マ性中耳炎子牛の中耳炎原因の 70% 以上は マイコフ ラス マ ホ ヒ スである 3 から 6 週令に発症が多く 3 ヶ月令以上には少ない 中耳炎発症の疫学として 殺菌不十分な廃棄乳の利用 バケツによる がぶ飲み哺乳 による誤嚥 ( 食べ物や異物を気管内に飲み込んでしまうこと

農業高校における繁殖指導とミニ講座による畜産教育支援 大津奈央 中島純子 長田宣夫 飯田家畜保健衛生所 1 はじめに 管内の農業高校では 教育の一環とし て 繁殖雌牛4頭を飼育し 生徒が飼養 いた また 授業外に班活動として8名が畜 産部に所属していた 管理を担うとともに 生まれた子牛を県 飼養管理

通常 繁殖成績はなかなか乳量という生産性と結びつけて考えることが困難なのですが この平均搾乳日数という概念は このように素直に生産性 ( 儲け ) と結びつけて考えることができます 牛群検定だけでなく色々な場面で非常に良く使われている数値になりますので覚えておくと便利です 注 1: 平均搾乳日数平均

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ふくしまからはじめよう 農業技術情報 ( 第 39 号 ) 平成 25 年 4 月 22 日 カリウム濃度の高い牧草の利用技術 1 牧草のカリウム含量の変化について 2 乳用牛の飼養管理について 3 肉用牛の飼養管理について 福島県農林水産部 牧草の放射性セシウムの吸収抑制対策として 早春および刈取

学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

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2 体細胞にかかる基本概念 (1) 体細胞とは? さて このように総合指数にも組み込まれるほど重要な形質である体細胞ですが そもそも体細胞とはなんでしょうか? 釈迦に説法ですが 復習したいと思います 体細胞とは乳汁中に含まれる白血球と脱落上皮細胞その他の総称したものです 病原微生物が乳房内に侵入して

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い 乳房炎によって乳量が増加することはないので 確率変数と見た場合の泌乳量の分布は減少局面のみとなるため 酪農生産基盤が ぜいじゃく 脆弱化している近年においてはその効果が 需給に大きな影響を及ぼしうる 乳房炎を経済的側面から分析した研究はいくつかあるが そのほとんどは経営段階や全国のマクロレベルで

に侵入する ( 環境性乳房炎 ) その多くは明確な症状を呈し 農場内で顕在化することから 治療をはじめとして 感染個体の早期対応が可能となる 一方 SAは搾乳器具や人の手指を介して個体間を伝搬する微生物であり それによる乳房炎は伝染性乳房炎 ( ウシからウシに伝染する乳房炎 ) として位置付けられて

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(1) 乳脂肪と乳糖の生成反芻動物である乳牛にとって最も重要なのはしっかりしたルーメンマットを形成することです そのためには 粗飼料 ( 繊維 ) を充分に与えることが重要です また 充分なルーメンマットが形成され微生物が活発に活躍するには 充分な濃厚飼料 ( でんぷん 糖 ) によりエネルギーを微

年 ( 平成 25 年 )10 月 235 (1) 繁殖管理の基本は? 繁殖管理では 早期の子宮と卵巣の回復 的確な発情の発見 適期授精に気をつけることが重要と言われています 分娩後四十日経っても発情兆候のない牛は 獣医師に検診を依頼することも必要です 二回目(四十日~五十日)に良い発

子牛育成の参考書 ~ 子牛育成プロジェクトの調査結果から ~ 平成 26 年 3 月 東松浦農業改良普及センター唐津農業協同組合上場営農センター北部家畜保健衛生所


Milk quality and animal health

(2) 牛群として利活用 MUNを利用することで 牛群全体の飼料設計を検討することができます ( 図 2) 上述したようにMUN は 乳蛋白質率と大きな関係があるため 一般に乳蛋白質率とあわせて利用します ただし MUNは地域の粗飼料基盤によって大きく変化します 例えば グラスサイレージとトウモコシ

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背景 消費者の食品の安全性に対する関心 要求は 平成 7 年の腸管出血性大腸菌 O157による食中毒事件を機に一気に高まり 消費者は 安心して食べられる安全な食品 を強く求めています このような消費者の要望に応えるため 食品業界では食品の安全性の確保のため世界的に有効な衛生管理手法として認められてい

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平成 26 年度 ~27 年度施策評価票 評価する施策下記施策の体系による 総合計画との関連 施策の体系 2 - 肉用牛の振興酪農の振興養豚の振興養鶏の振興家畜防疫と環境保全食肉流通体制の充実 施策の内容と現況 (1) (2) (3) (4) (1) (2) (3) (4) (5) (6) 中分類畜

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国産粗飼料増産対策事業実施要綱 16 生畜第 4388 号平成 17 年 4 月 1 日農林水産事務次官依命通知 改正 平成 18 年 4 月 5 日 17 生畜第 3156 号 改正 平成 20 年 4 月 1 日 19 生畜第 2447 号 改正 平成 21 年 4 月 1 日 20 生畜第 1

解説 新しい牛群検定成績表について ( その 26) ボディコンディションスコアの判定 電子計算センター次長相原光夫 牛群検定におけるボディコンディションスコア (BCS) は 平成 23 年度から開始した最も新しい検定項目です その活用法は 牛群検定の 4 つの機能 (1 飼養 ( 健康 ) 管理

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家畜保健衛生所における検査の信頼性確保にむけて 湘南家畜保健衛生所 田村みず穂駒井圭浅川祐二太田和彦 矢島真紀子中橋徹松尾綾子稲垣靖子 はじめに 家保の検査の中には 鳥インフルエンザやヨーネ病等の 社会的 経済的影響の大きい検査が含まれている 食の安全 安心を得るためには生産から消費に至る食品供給の

12 牛白血病対策のため考案したアブ防除ジャケットの実用化試験 東青地域県民局地域農林水産部青森家畜保健衛生所 菅原健 田中慎一 齋藤豪 相馬亜耶 水島亮 林敏展 太田智恵子 森山泰穂 渡部巌 小笠原和弘 1 概要わが国では近年 牛白血病の発生が増加しているが その原因である牛白血病ウイルス (BL

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目 次 Ⅰ 酪農及び肉用牛生産の近代化に関する方針 1 酪農及び肉用牛生産をめぐる近年の情勢の変化 1 2 酪農及び肉用牛生産の競争力の強化 1 3 酪農及び肉用牛生産のための飼料生産基盤の確立 3 4 家畜衛生対策の充実 強化 5 5 安全安心な畜産物の生産による消費者の信頼確保 5 6 消費者ニ

目 次 Ⅰ 酪農及び肉用牛生産の近代化に関する方針 Ⅱ 生乳の生産数量の目標並びに乳牛及び肉用牛の飼養数の目標 1 生乳の生産数量及び乳牛の飼養数の目標 2 肉用牛の飼養数の目標 Ⅲ 酪農経営又は肉用牛経営の改善の目標 1 酪農経営方式 2 肉用牛経営方式 Ⅳ 乳牛及び肉用牛の飼養規模の拡大のための

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リン系を選択した場合の方が優れていることが明らかとなった したがって これまでのセフェム系への偏重使用は耐性菌を助長する観点から見直すべきであり ペニシリン系の抗菌薬とバランスよく使用することが望まれる また グラム陰性菌による乳房炎については よく使用されるセフェム系抗菌剤の従来基準と今回検討した

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る 飼料は市販の配合飼料を使用している 発生場所である肥育豚舎エリアの見取り図を図 1に示した 今回死亡豚が発生したのは肥育舎 Aと肥育舎 Dで 他の豚舎では発生していないとの事であった 今回病性鑑定した豚は黒く塗りつぶした豚房で飼育されていた なお この時点では死亡例は本場産の豚のみで発生しており

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地域における継続した総合的酪農支援 中島博美 小松浩 太田俊明 ( 伊那家畜保健衛生所 ) はじめに管内は 大きく諏訪地域と上伊那地域に分けられる 畜産は 両地域とも乳用牛のウエイトが最も大きく県下有数の酪農地帯である ( 表 1) 近年の酪農経営は 急激な円安や安全 安心ニーズの高まりや猛暑などの異常気象など様々な影響を受けている 飼料 燃料費などの価格高騰による生産コストの上昇 体細胞数増加等によるペナルティー ヒートストレス等による繁殖性低下など酪農家は多くの課題を抱えている このような状況の中で経営を維持していくためには 良質な自給飼料の増産や高品質な生乳の生産性向上が必要不可欠となっている 高品質な生乳の生産性向上のためには 乳房炎などの搾乳に関する課題や繁殖に関する課題などがある これらは 酪農家本人が感じている課題 ( 表 2) と本人が見えていない課題がある これらの課題は 農場によっても様々であった 表 1 管内の畜産 ( 戸数 ) 地域乳用牛肉用牛豚鶏諏訪 30 11 3 5 上伊那 75 36 7 13 計 105 47 10 18 (H24 年度定期報告数 ( 鶏は100 羽以上飼養者 ) 表 2 酪農家の課題 課題 農 場 A B C D E F G 乳房炎 バルク乳 繁殖 育成牛 乳量 飼養管理 課題への対応様々な課題に下記のように対応した (1) 乳質向上指導 : 乳房炎が増えた バルク乳の体細胞数が多い バルク乳の細菌数が多い 乳房炎が治らない 導入したけどマイコプラズマが心配など 搾乳や乳質にかかわる課題 (2) 繁殖性向上対策 : 繁殖成績が良くないなど 繁殖にかかわる課題 (3) 牛群ドック : 乳量を増やしたい 繁殖成績が良くない 飼養管理状況を確認したいなど 総合的な課題 (4) 育成牛ドック : 育成牛の繁殖が良くない 発育状況や飼養管理状況を確認したいなど 育成牛にかかわる課題 (5) 酪農経営緊急支援事業 : 牛群検定をやってみたい 牛群の状態を確認したいなどの要望 [ 取組み内容 ] (1) 乳質向上指導 : 搾乳立会 バルク乳検査 1

個体乳汁検査 マイコプラズマ検査など行い 必要に応じて検討会を実実施 (2) 繁殖性向上対策 :1 回 / 月程度の定期繁殖検診 (3) 牛群ドック : 事前調査 ( 牛群基礎データ収集など ) 代謝プロファイルルテスト 飼料給与診断を行い 検討会を開開催 (4) 育成牛ドック : 体尺値測定定などから発育状況の確認 代謝プロファイルテスト 飼料給与状況の確認を行い 検検討会を開催 (5) 酪農経営緊急支援事業 : 搾乳牛の乳量 乳成分などの検査 全戸バルク乳検査 必要に応じた個体乳汁検査など ( 図 1) それぞれの機関がもつ情情報や技術などを共有し 検討会 というう場を設けて 酪農家とともによりよい方方向へと支援をし続けた [ 実績 ] 平成 23 年度から 25 年度 (H25 度は H25.12 まで ) の約 3 年間で継続的に取り組んできた実績 ( 表 3) 表 3 3 年間の取り組み実実績 内容 H23 度 H24 度 H25 度 (1) バルク乳 69 検体 94 検体 9 検体 個体乳汁 216 検体 780 検体 251 検体 搾乳立会 20 農場 7 農場 3 農場 (2) 牛群 D* 20 農場 13 農場 9 農場 (3) 育成牛 D - - 3 農場 (4) 繁殖検診 926 頭 884 頭 433 頭 (10 農場 ) (10 農場 ) (8 農場 ) (5) バルク乳 - - 192 農場 全頭検査 - 16 農場 15 農場 *D: ドック [ 取組み体制 ] これらの取り組みは 家家畜保健衛生所を窓口として 農協専門酪酪農協 全農長野 臨床獣医師 普及センター 畜産試験場など関係機関が協力力して実施した 図 1 関係機関等の協力力体制 [ 農場ごとの支援 ]( 平成 25 年度 ) 農場により課題は異なるため 農場毎 の課題に対応して様々な支援を組み合わ せた 下表は平成 25 年度度に実施した支援 策の一部を示した ( 表 4) 表 4 農場毎の支援 支援 農場 B D E F (1) (2) (3) (4) (5) 表 4に示した4 農場 (BB D E F) についての事例を紹介する 2

事例紹介 1. D 農場 飼養頭数 : 搾乳牛 60 頭 ( 乳肉複合経営 ) 飼養形態 : フリーバーン 泌乳期は1 群 TMR 管理 ( 購入の発酵 TMR) その他 : 牛群検定農場 育成牛の繁殖成績が悪い 搾乳牛の繁殖成績の向上 乳房炎が多い 2013 年は 良好な状態を維持している ( 図 3) 図 3 事例紹介 D 農場 図 2 事例紹介 D 農場 2011 年からの 3 年間 D 農場では毎年牛群ドックを実施したが 検討討会での指導事項は毎年同様で改善があまりみられなかった 課題である搾乳牛の繁殖殖成績もあまりよくなかった さらに D 農場では本年度 育成牛の繁殖成績が悪い との相談があっったため 新しい試みとして 育成牛ドックク を実施した この成果は今後フォローしていかなくてはならない ( 図 2) 一方 乳房炎に関しては 2012 年にバルク乳体細胞数の高い期間が続続いたため 搾乳立会を実施し 黄色ブドウ球菌保菌牛の 摘発を主に搾乳衛生対策を実実施した 2. B 農場 飼養頭数 : 搾乳牛 50 頭飼養形態 : フリーストール 1 群 TMR 管理 ( 自家調整 ) その他 : 定期繁殖検診対象象農場 繁殖成績の向上 図 4 事例紹介 B 農場 B 農場では 繁殖検診を実施 ( 月に 1 回 程度 ) していたが まき牛牛による交配であ ったため 繁殖管理が難しかった そこで 3

人工授精 ( 以下 AI) の導入入を提案した 2012 年に AI を導入し 繁繁殖管理や乾乳期の管理がスムーズになった また 毎月繁殖検診を実施施している中で 農場主の いつもと違う感じの乳房炎 に対応し マイコプラズマ性乳乳房炎の早期発見と対策が実施できた ( 図 4) 3. E 農場 飼養頭数 : 搾乳牛 120 頭飼養形態 : フリーバーン 1 群 TMR 管理 ( 自家調整 ) その他 : 定期繁殖検診対象農農場 マイコプラズマ性乳房炎炎対策を含めた乳房炎の低減 繁殖成績の向上 プラズマ検査 ) を実施した E 農場では 12%(12/101 頭 ) から Mycoplasma bovis (M.bovis) が分離された その後 マイコプラズマ対策として M.bovis 陽性牛の隔離や乳乳房炎牛 分娩後 の牛 導入牛 バルク乳などで継続的なマ イコプラズマ検査を実施した これらの対 策と同時に分娩前の乳汁検検査と予防的治療 牛床への石灰塗布 (1 回 /1 日 ) など環境対 策を継続的に実施した 約 2 年かかったが 現在在ではマイコプラ ズマは沈静化 ( バルク乳でのマイコプラズ マ検出が半年以上ない ) し 乳房炎の発生 も 4% 程度となり 非常に良良好な結果を維持 している ( 図 5) 図 6 事例紹介 E 農場 図 5 事例紹介 E 農場 2011 年はじめ頃に乳房炎が多発した 同年 11 月に当所管内でマイコプラズマ検査を希望した 51 農場のバルク乳のうち E 農場を含めた 2 農場からマイコプラズマが検出された マイコプラズマが検出された 2 農場において 全頭検査 ( 泌乳期の乳乳汁からマイコ また E 農場の繁殖成績績に関しては B 農場と同様にまき牛による交交配のため繁殖管理が難しい状況だった 2012 年中頃 AI に完全移移行した 家保とコンサルタント獣医師でひと月に各々 1 回 合計 2 回の繁殖検診を実施施し 繁殖管理と 乾乳期の管理ができるようになった ( 図 6) 4

4. F 農場 飼養頭数 : 搾乳牛 100 頭飼養形態 : フリーバーン 1 群 TMR 管理 ( 自家調整 ) その他 : 定期繁殖検診対象農農場 繁殖成績の向上 繁殖検診自体も繁殖向上上に必要だが 繁殖検診というツールを使っって農場の状況を知ることも重要なことでした 図 8 事例紹介 F 農場 図 7 事例紹介 F 農場定期繁殖検診 (1 回 / 月 ) を実施しているが まき牛による交配のため繁殖管理が難しく AI 導入を提案中である また AI 導入と一緒に牛群群検定への復帰も併せて提案した 近々 酪酪農経営緊急支援事業の お試し牛検 を実実施することと今年中に牛群検定への復帰と AI の導入を予定している ( 図 7) 牛群検定に関しては F 農場以外にも H25 年度に管内で3 農場が加入 復帰した 毎月の繁殖検診の際に乳質質の話題を提供 することにより 最近 バルク乳の細菌数が時折高くなるので 搾乳状状況を確認してほしい などの相談がある 要望に応えるために搾乳立会や必要に応じた乳汁検査 環境の検査を実施し 結果に基づいて注意喚起や提案をしてきた ( 図 8) まとめ酪農を取り巻く厳しい現現状の中で 経営を維持していくためには 高品質な生乳の 生産性向上が必要不可欠である そのためには 各々の農農場が抱える課題 に対応する必要があり 様様々な支援策を組 み合わせて継続的に対応した 乳質向上指導では 搾乳乳立会やマイコプ ラズマ検査 乳汁検査などを実施したこと により一定の改善を確認できた しかしながら 概ね年 1 回実施した牛群 ドックでは その成果を確確認することは難 しかった 定期繁殖検診は 検診だけでなく定期的 に農場の状況を把握することができた そ の中で農場のちょっとした相談にも素早く対応することができ 繁殖殖障害以外に疾病などの早期発見と対策にも繋がった 短期間で支援対策を実施施したり評価した りすることは難しく 継続続的な支援が重要であった また 総合的な支援には 関係 5

機関が協力して取り組むことが必要不可欠 であった 今後の課題対応してきた支援をわかりやすくするために 支援の成果をデータ化するなど 見える化 し 農場へ還元することと 農場毎に異なる新たな課題を洗い出し提案していく必要がある 2013 年度から試みた 育成牛ドック のように新たな支援策を検討していくことも今後の課題である また 高品質生乳の生産性向上には 農場サイドの努力と意識改革も必要であるが 継続的な行政サイドの支援も重要である 6