大阪市がん診療ネットワーク協議会がん登録部会 平成 30 年度大阪市二次医療圏全国がん登録実務者研修会 肝臓がん 大阪市立大学大学院肝胆膵外科学久保正二 平成 31 年 2 月 27 日大阪市立大学医学部附属病院

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密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

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1. ウイルス性肝炎とは ウイルス性肝炎とは 肝炎ウイルスに感染して 肝臓の細胞が壊れていく病気です ウイルスの中で特に肝臓に感染して肝臓の病気を起こすウイルスを肝炎ウイルスとよび 主な肝炎ウイルスには A 型 B 型 C 型 D 型 E 型の 5 種類があります これらのウイルスに感染すると肝細胞

肝疾患に関する留意事項 以下は 肝疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあたって ガイド ラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 肝疾患に関する基礎情報 (1) 肝疾患の発生状況肝臓は 身体に必要な様々な物質をつくり 不要になったり 有害であったりす

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付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

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はじめに 我が国の肝がん死亡者数は,2005 年頃を最多とし, その後はゆっくりと減少しつつあります しかし, いまだに年間死亡者数は 3 万人を超えており, 依然として対策が極めて重要な病気です 原因としては,C 型肝炎,B 型肝炎, 非アルコール性脂肪肝炎 (NASH: ナッシュ ) やアルコー

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肝細胞癌サーベイランスアルゴリズム 診断アルゴリズムの解説 にて行う 超音波での経過観察中, サイズアップを認めた場合は,dynamic CT あるいは dynamic MRI を再施行する 4 2. 早期造影効果なし Dynamic CT/MRI 検査で早期造影効果を認めない場合, 腫瘍径 1.5

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表 1. 罹患数, 罹患割合 (%), 粗罹患率, 年齢調整罹患率および累積罹患率 ; 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く ; 部位別, 性別 B. 上皮内がんを含む 表 2. 年齢階級別罹患数, 罹患割合 (%); 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く B. 上皮内がんを含む 表 3. 年齢

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外来在宅化学療法の実際

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2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

遠隔転移 M0: 領域リンパ節以外の転移を認めない M1: 領域リンパ節以外の転移を認める 病期 (Stage) 胃がんの治療について胃がんの治療は 病期によって異なります 胃癌治療ガイドラインによる日常診療で推奨される治療選択アルゴリズム (2014 年日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン第

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付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房

5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

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限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

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肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( / ) 上記外来の名称 ストマ外来 対象となるストーマの種類 コロストーマとウロストーマ 4 大腸がん 腎がん 膀胱がん ストーマ管理 ( 腎ろう, 膀胱ろう含む ) ろう孔管理 (PEG 含む ) 尿失禁の管理 ストーマ外

A 2010 年山梨県がん罹患数 ( 全体 )( 件 ) ( 上皮内がんを除く ) 罹患数 ( 全部位 ) 5,6 6 男性 :3,339 女性 :2,327 * 祖父江班モニタリング集計表から作成 * 集計による主ながんを表示

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患者必携 がんになったら手にとるガイド 編著 国立がん研究センターがん対策情報センター 発行 学研メディカル秀潤社 患者必携 肝細胞がんの療養情報 肝細胞がんは 多くの場合 肝炎ウイルスによる慢性肝炎や肝硬変を背景としてい ます そのため がんの治療と療養生活においては がんだけでなく肝臓の状態を

要旨 平成 30 年 2 月 21 日新潟県福祉保健部 インターフェロンフリー治療に係る診断書を作成する際の注意事項 インターフェロンフリー治療の助成対象は HCV-RNA 陽性の C 型慢性肝炎又は Child-Pugh 分類 A の C 型代償性肝硬変で 肝がんの合併のない患者です 助成対象とな

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1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

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8 整形外科 骨肉腫 9 脳神経外科 8 0 皮膚科 皮膚腫瘍 初発中枢神経系原発悪性リンパ腫 神経膠腫 脳腫瘍 膠芽腫 頭蓋内原発胚細胞腫 膠芽腫 小児神経膠腫 /4 別紙 5( 臨床試験 治験 )

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インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

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28 年 10 月 15 日発行広島市医師会だより ( 第 606 号付録 ) 平成28 年10 月平成 腫瘍マーカーとして活用されています AFP は腫瘍マーカーの分類では 癌胎児性蛋白 に該当します *AFP 測定の臨床的意義と留意点 1 慢性肝炎や肝硬変などの良性肝疾患においても AFP の濃

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

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「             」  説明および同意書

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自己免疫性肝炎 1. 概要中年以降の女性に好発し 慢性に経過する肝炎であり 肝細胞障害の成立に自己免疫機序が想定される 診断にあたっては 肝炎ウイルス アルコール 薬物による肝障害 および他の自己免疫疾患の基づく肝障害を除外する 2. 疫学好発年齢は 50~60 歳代であり 男 : 女 =1:6 と

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わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

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大阪市がん診療ネットワーク協議会がん登録部会 平成 30 年度大阪市二次医療圏全国がん登録実務者研修会 肝臓がん 大阪市立大学大学院肝胆膵外科学久保正二 平成 31 年 2 月 27 日大阪市立大学医学部附属病院

肝臓の位置と解剖 肝臓は 多くの細胞からなる体内最大の臓器 1000~1500g 胃 腸からの血流が集まり 肝臓に至る

肝臓の働き アルコールは 90% 以上が肝臓で代謝 栄養素を分解したり合成したりして身体が利用できる形に作り変えるために 栄養素を分解 合成する機能 クッパー細胞などで 腸からの細菌などを処理 胆汁という消化液を作る機能

肝臓は 沈黙の臓器 正常な肝臓は 70% を切除しても生存できる 肝切除術後 3~6 か月で肝再生は完了 肝硬変の末期にならないと自覚症状は出ない! 進行がんでも無症状 ( 肝破裂で判ることも )!

肝臓癌 ( 肝癌 ) 原発性肝癌 : 肝臓の細胞から発生した癌 ( 原発 ) 肝細胞癌 (94.7%) 肝内胆管癌 (4.4%) 間質性腫瘍悪性リンパ腫肝芽腫など 転移性肝癌 : 肝臓以外の臓器から発生し 肝臓に転移した癌 ( 胃癌 大腸癌など )

肝細胞がんの原因 B 型肝炎 +C 型肝炎 肝炎ウィルスなし B 型肝炎 C 型肝炎 1 2 3 4 B 型肝炎 C 型肝炎アルコール性肝炎 NASH( 脂肪性肝炎 ) 自己免疫性肝炎原発性胆汁性胆管炎 Budd-Chiari 症候群アフラトキシン 大阪市立大学肝胆膵外科で手術が行われた肝がん患者

非 B 非 C 肝細胞癌の危険因子 非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) アルコール性肝炎自己免疫性肝炎原発性胆汁性胆管炎 Budd-Chiari 症候群アフラトキシン日本住血吸虫ヘモクロマトーシス糖尿病 喫煙高齢テストステロン 生活習慣病

2 型糖尿病患者での発がんリスク 癌種 相対リスク 肝がん 1.97 (1.65-2.36) 膵がん 1.85 (1.46-2.34) 子宮内膜がん 1.84 (0.90-3.76) 大腸がん 1.40 (1.19-1.64) 膀胱がん 1.28 (0.89-1.86) 胃がん 1.06 (0.91-1.22) 乳がん 1.03 (0.69-1.56) 前立腺がん 0.96 (0.64-1.43) 糖尿病の人はそうでない人に比べて 肝がんになるリスクは約 2 倍高い 糖尿病と癌に関する委員会報告糖尿病 ;2013:56:374-90

肝細胞がんの症状 肝細胞がん特有の症状は少なく 肝硬変などに伴う症状が現れる 尿の色が濃い むくみ ( 体がむくむ ) 腹水 ( お腹に水が溜まる ) 全身倦怠感 ( 疲れやすい 体がだるい ) 食欲不振 ( 食欲がない ) 黄疸 微熱 肝がんになっても初期の段階では自覚症状がありません 検診が重要

C 型慢性肝炎の線維化と肝細胞がん 肝がん 肝硬変 肝発がんリスク 感染 F0 70% 血小板 18 万以上 F1 血小板 15~18 万 F2 血小板 13~15 万 慢性肝炎 F3 血小板 10~13 万 年間 0.5% F4 血小板 10 万以下 年間 1.5% 年間 5% 年間 8% 急性肝炎 感染期間 ( 年 ) 治癒 : 肝線維化の程度による分類 日本肝臓学会 : 慢性肝炎の治療ガイド 2006 を改変

肝癌診療ガイドライン 2017 年版

肝細胞がんになりやすい人は? 高危険群 : B 型慢性肝炎 C 型慢性肝炎 肝硬変 超高危険群 : B 型肝硬変 C 型肝硬変 危険因子 : 年齢 性別 糖尿病 BMI AST ALT 血小板数 飲酒量 HBV-DNA 量 日本肝臓学会肝癌診療ガイドライン 2017

どのような検査をいつ受けるか? 3~6 ヶ月間隔での腹部超音波検査 腫瘍マーカー測定 超高危険群では造影 CT または造影 MRI の併用 ( 案 ) 超高危険群 3~4ヶ月に1 回の超音波検査高危険群 6ヶ月に1 回の超音波検査 日本肝臓学会肝癌診療ガイドライン 2017

肝細胞がんの診断に用いられる腫瘍マーカーは? AFP 持続的上昇 200ng/mL 以上の上昇 (α- フェトプロテイン ) PIVKA-II 40mAU/mL 以上の上昇 AFP-L3 分画 15% 以上の上昇 腫瘍マーカー (2017 年現在 ) 超高危険群 高危険群に対する月 1 回の AFP および PIVKA-II 測定は保険適応 AFP-L3 分画の測定は肝細胞癌が強く疑われる場合のみ 日本肝臓学会肝癌診療ガイドライン 2017

CT および EOB-MRI による肝細胞がん像 単純 CT Dynamic CT 早期相 Dynamic CT 後期相 EOB-MRI 造影前 EOB-MRI 造影後 肝細胞造影相

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肝細胞がんの治療法 外科的治療 ( 肝切除 肝移植 ) 経皮的治療 ( ラジオ波 マイクロウェーブ ) 肝動脈塞栓術抗がん剤 ( 経口薬 肝動注療法 ) 放射線治療 肝がん切除例 肝細胞がん治療後の肝がん再発を抑制できるか?

肝障害度 項目 肝障害度 A B C 腹水 ない 治療効果あり治療効果少ない 血清ビリルビン値 (mg/dl) <2.0 2.0-3.0 >3.0 血清アルブミン値 (g/dl) >3.5 2.8-3.5 <2.8 ICGR 15 (%) 15 未満 15-40 > 40 プロトロンビン活性値 (%) >70 40-70 <40 Child-Pugh 分類 項目 ポイント 1 2 3 脳症 なし 1-2 3-4 腹水 なし 少量 中等量 血清ビリルビン値 (mg/dl) <2.0 2.0-3.0 >3.0 血清アルブミン値 (g/dl) >3.5 2.8-3.5 <2.8 プロトロンビン活性値 (%) >70 40-70 <40 Class A (5-6 ポイント ), B (7-9), C (10-12)

肝切除術式 右 3 区域切除 ( 後 前 内区域 ) 拡大右 2 区域切除 ( 後 前 内側区域の一部 ) 右 2 区域切除 ( 後 前区域 ) 中央 2 区域切除 ( 前 内側区域 ) 左 2 区域切除 ( 内 外側区域 ) 拡大左 2 区域切除 ( 外 内 前区域の一部 ) 左 3 区域切除 ( 外 内 前区域 ) 区域切除亜区域切除 部分切除

肝切除術後合併症 肝不全 ( 残肝が小さい うまく働かない ) 術後感染 ( 腹腔内 切開創 ) 出血胆汁漏腸閉塞

腹腔鏡下肝切除術の登録症例数と死亡率

ラジオ波焼灼療法 (RFA) エコーの画像を頼りに体外から肝臓へ針を刺し 熱によってがんを破壊する治療法 長所 : 傷が小さく 回復が早い短所 : 直接病変をみることはできずエコーの画像を頼りに治療が行われる

経動脈的治療 肝動脈塞栓術肝動注療法 肝動脈 術前 術後

肝細胞癌に対する分子標的薬 ソラフェニブ ( ネクサバール ) レゴラフェニブ ( スチバーガ ) レンバチニブ ( レンビマ ) 推奨外科切除や肝移植 局所療法 TACE が適応とならない切除不能進肝細胞癌で PS 良好かつ肝予備能が良好な Child-Pugh 分類 A 症例に 一次治療としてソラフェニブ ( またはレンバチニブ * ) による治療を推奨する ( 強い推奨 ) 二次治療として ソラフェニブ治療後画像進行を認め ソラフェニブに忍容性を示した Child-Pugh 分類 A の症例にレゴラフェニブによる治療を推奨する ( 強い推奨 ) *2017 年 9 月時点では本邦において肝細胞癌に対する保険適応は認められていない

免疫チェックポイント阻害剤 キイトルーダ ( ペムブロリズマブ ) がん化学療法後に増悪した進行 再発の高頻度マイクロサテライト不安定性 (MSI-High) を有する固形癌 ( 標準的な治療が困難な場合に限る ) オプジーボ ( ニボルマブ ) ( 臨床試験中 )

肝内胆管癌 肝内胆管の 2 次分枝およびそれより肝側の肝内胆管に由来 UICC TNM classification 7 th edition

6.00 肝内胆管がんの年齢階級別死亡率の推移 ( 男性 ) 5.00 4.00 死亡率 ( 人口 10 万対 ) 3.00 2.00 1.00 0.00 1981 年 1986 年 1991 年 1996 年 2001 年 2006 年 2011 年 粗率 ( 全年齢 ) 20-29 歳 30-39 歳 40-49 歳 50-59 歳 60-69 歳 粗率 ( 全年齢 ) 20-29 歳 30-39 歳 40-49 歳 50-59 歳 60-69 歳 1981 年 0.097 0.000 0.020 0.048 0.220 0.432 1986 年 0.187 0.000 0.010 0.118 0.375 0.734 1991 年 0.290 0.000 0.025 0.142 0.291 1.016 1996 年 1.361 0.000 0.064 0.436 1.448 3.900 2001 年 2.182 0.011 0.035 0.557 1.774 5.487 2006 年 2.548 0.000 0.064 0.361 1.930 4.974 2011 年 3.199 0.030 0.113 0.338 1.715 5.399 厚生労働省 人口動態統計 より作成 死亡診断書に 肝内胆管癌 胆管細胞癌 と記載された悪性新生物について算出 厚生労働省 年齢階級別死亡率 ( 人口 10 万対 ) = 年齢階級 Xにおける死亡者数 年齢階級 Xの人口 100000

肝内胆管がんの原因 塩素系有機溶剤 (n=5) アルコール性肝疾患 (n=5) 肝内結石 (n=5) B 型肝炎 (n=7) HCV+HBV (n=1) 原因不明 (n=26) 肝内結石膵 胆管合流異常 / 胆道拡張症原発性硬化性胆管炎 C 型肝炎 B 型肝炎非アルコール性脂肪性肝炎 C 型肝炎 (n=23) 非アルコール性脂肪性肝炎 (n=13) 1,2- ジクロロプロパンジクロロメタン 大阪市立大学肝胆膵外科

肝内胆管癌の肉眼分類 腫瘤形成型 胆管浸潤型 胆管内発育型

肝内胆管癌の治療 外科的切除肝切除胆道再建リンパ節郭清 抗がん化学療法 TS-1 ゲムシタビンシスプラチンキイトルーダ

2015 2017

原発性肝癌取扱い規約第 6 版による肝細胞癌の Stage 原発性肝癌取扱い規約第 6 版 2015 年

肝細胞癌 (UICC 8 th ) T 因子 T1 1a 単発 2cm 以下 脈管侵襲なし T2 T3 T4 1b 単発 2cm より大きい 脈管侵襲なし 単発 脈管侵襲あり (Vp1-2 Vv1) または 2cm から 5cm 多発 Stage 多発 5cm 以上 大血管浸潤 (Vp3-4 Vv2-3) 隣接臓器浸潤あり 臓側腹膜浸潤 IA T1a N0 M0 I IB T1b N0 M0 II T2 N0 M0 IIIA T3 N0 M0 III IIIB T4 N0 M0 IV IVA T4 N1 M0 IVB Any T N0 M1

1 腫瘍個数 第 6 版の改訂点 単発 2 腫瘍径 2cm 以下 3 血管侵襲 主要胆管への浸潤なし (Vp0, Va0, B0-2) Stage T1 T2 T3 T4 1 2 3 すべて合致 2 項目合致 1 項目合致 I T1 N0 M0 II T2 N0 M0 III T3 N0 M0 IVA IVB 肝内胆管癌の進行度分類 T4 N0 M0 T1-3 N1 M0 T4 N1 M0 Any T Any N M1 すべて合致せず

T 因子 UICC 8 th T1 1a 単発 5cm 以下 脈管侵襲なし 1b 単発 5cmより大きい 脈管侵襲なし T2 単発 脈管侵襲あり または 多発 T3 漿膜浸潤あり (perforating, SE?) T4 他臓器浸潤あり (invasion, SI) Stage I T1 N0 M0 I IA T1a N0 M0 IB T1b N0 M0 II T2 N0 M0 IIIA T3 N0 M0 III T4 N0 M0 IIIB Any T N1 M0 IV Any T Any N M1