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応用力学論文集 Vol.11, (2008 年 8 月 ) 土木学会 矩形断面容器におけるスロッシング対策案の検討 Examination of Sloshing Measures in Rectangular Section Container 池田達哉 * 井田剛史 ** 平野廣和 *** 佐藤尚次 **** Tatsuya IKEDA, Tsuyoshi IDA, Hirokazu HIRANO and Naotsugu SATO * 中央大学大学院理工学研究科土木工学専攻 ( 112-8551 東京都文京区春日 1-13-27) ** 博士 ( 工学 ) 十川ゴム研究開発部 ( 599-8244 大阪府堺市中区上之 516 ) *** 工博中央大学総合政策学部教授 ( 192-0393 東京都八王子市東中野 742-1) **** 工博中央大学理工学部教授土木工学科 ( 112-8551 東京都文京区春日 1-13-27) The sloshing phenomenon might be caused by long-period ground motion. As a result of it, the storage liquid might overflow. The pool of the nuclear waste storage overflowed due to the Niigata Chuetsuoki Earthquake is the recent case. In this paper, shaking experimentation was conducted by setting up small tank of rectangular section on shaking table to make this cause clear. In addition, the effect of setting the net in small tank inside as one of sloshing measurement is explained. Key Words: sloshing, noncontact measures, rectangular section, long-period ground motion 1. はじめに 2~20 秒のやや長周期地震動の影響で大型容器にスロッシング現象 ( 液面揺動の励起 ) が発生し, 貯蔵液体が溢流する場合がある.2003 年十勝沖地震では, 石油タンク火災 2 基, 浮屋根沈没 7 基などの甚大な被害を被った. 地震時に発生した第一火災では, リング火災, タンクヤード, タンク直近配管の 3 カ所で火災があった. これらの火災は, スロッシング現象により浮屋根が激しく揺動したことによる衝撃火花により, 原油に着火しリング火災となると同時に, 着火した原油が溢流したことにより後者 2 つの火災となったものと考えられる 1). よって, タンク内溶液の溢流は, 火災の危険 拡大を招くことになりかねない. また,1964 年の新潟地震では, 火災には至らなかったが, 内容量の 5% が溢流した事例も報告されている 2). 石油タンク以外でのスロッシングが原因として考えられる溢流の最近の事例としては,2007 年 7 月 16 日に発生した新潟県中越沖地震 (M6.8) での東京電力柏崎刈羽原子力発電所内の縦 13.6m, 横 12.2m, 水深 11.8m の使用済み核燃料プール水が, オペレーティングフロア ( 管理区域 ) の全域にわたり溢れ出したものがある. この状況は,3 号機に設置されているビデオカメラの映像記録から, 地震発生時に使 用済核燃料プール水が大きく波打ち, 水面と床の高さが 40cm あったが, この高さを越える勢いでプールの水が放射線管理区域外へ溢流した状況が確認されている 3). なお, 幸いにも発電所外及び発電所内における放射性物質の影響はなかったと報告されている. 一方, 地震発生確率が高いと言われている宮城県沖地震, 東海地震, 東单海地震, 单海地震等の海溝型地震, いつ起きても不思議でない直下型の活断層型地震など, これらの地震はやや長周期の地震を強く励起する可能性が高いと予測されている. そのため, 円筒形である石油タンクを初めとして各種容器におけるスロッシング現象の把握 4), さらにはスロ 5) や ッシング対策の必要性が挙げられ, 溢流の把握浮屋根の減衰対策 6) に代表される各種の研究がなさ れている. そこで本研究では, 使用済核燃料プールに代表される矩形断面を対象とし, まず基礎的な実験として小型矩形断面容器を採り上げる. 具体的には矩形容器を小型振動台に設置し, 自由表面で加振実験を行う. さらに自由表面を有するスロッシング減衰対策の一対策案として, 水槽内部に金網を設置することを提案する. これは金網を設置することにより, 金網を通過する時の液体の抵抗力が増加し, 見かけ上流体の粘性が付加されることを期待するものであ

る 7), 8). これにより, 波高の低減, 減衰定数の増加につながり, 溢流を防ぐことを目的としている. ここで, 対策無と対策有 ( 金網を設置 ) とを同一条件の設定で加振実験を行うことにより減衰効果を検証するものである. また本研究では, 液体の挙動を把握する一つの手法として, デジタルビデオカメラ ( 以下 DVC とする ) を用いた非接触計測によって液体の応答波高, 固有振動数, 減衰定数といった振動特性把握を行う方法を採用する. 以上, 本研究の実験的検討により提案した金網を用いたスロッシング減衰対策で, 波高の低減, 減衰定数の増加により溢流対策が定性的に確認することができたので, これを報告する. 図 -1 矩形水槽の寸法 [ 卖位 :mm] 2. 実験概要 (1) 計測方法本研究では, 図 -1 に示す内側部 580 280mm の矩 形水槽を小型振動台に設置して加振実験を行う. 実 験全体の状況を写真 -1 に示す. 矩形水槽は, 起振方 向の幅において溢流した東京電力柏崎刈羽原子力 発電所内の使用済み核燃料プールの起振方向にお いて約 1/23 の縮尺である. 計測は DVC を用いた非接触計測で行い, 撮影し たデジタル画像を元に画像処理を行うことで水面 の応答波高を算出する.DVC の設置位置は, 水槽か ら 90cm 離れた所とする. これは, コマ送り機能を 用いて応答変位を算出する際, ズーム機能により水 槽の一部を詳細に把握するためである. なお, 水槽 の内側端部が樹脂でコーティングされ, 液面の挙動 を把握しにくいため, 水槽端部から 2cm 内側の波高 を計測ポイントとする. その状況を写真 -2 に示す. 画像処理されたデータより液面挙動に対して応答 波高, 固有振動数, 減衰定数を算出する. また, 全体 の水面形を把握できるように, 水槽から 240cm 離れ た所にも DVC を設置する. ビデオ撮影は, 起振開 始から液面挙動が停止するまで行うものとする. 写真 -1 実験状況 コマ送り機能に用いた点 (2) 実験パラメータの設定実験に使用した小型振動台は, テーブルサイズ : 1.2m 1.2m, 最大搭載重量 :700kg, 最大変位 :± 51mm, 振動数範囲 0.5~100Hz である. この振動台で設定できるパラメータは, 振動数, 振幅,Wave count( 回数 ) の 3 つである. そこで入力波形を詳細に把握することを目的として, 一軸加速度計を振動台に設置する. また, 水槽と振動台が同調しているかどうかを確認するために, 一軸加速度計を水槽側 2cm 写真 -2 応答波高算出ポイント壁にも設置する. ここでのサンプリング周波数は 100Hz, 計測方向は起振方向, 計測時間は起振開始から起振終了までとする. 写真 -3 に加速度計設置状況, ならびに起振方向を示す.

一般に最も波高が大きくなるのは, 入力振動数と スロッシングの固有振動数が一致して共振した場 合である. そのため, 矩形水槽のスロッシング n 次 モード振動数を式 (1) の理論式 9) より算出する. 1 f 2 2n 1 g 2n 1 L tanh H L ここで,f はスロッシングの振動数,L は水槽内 壁間の幅,H は水深である. 実験で用いた容器にお けるスロッシング 1 次,2 次モード振動数の理論値 は, 表 -1 に示すようにそれぞれ 1.06Hz,2.01Hz で ある. 写真 -3 加速度計設置状況 表 -1 スロッシング n 次モード振動数理論値 水深 起振方向の幅 1 次モード 2 次モード [m] [m] [Hz] [Hz] 0.22 0.58 1.06 2.01 表 -2 振動装置の設定条件 振動数 [Hz] 振幅 [mm] 起振時間 [s] 0.8~2.2 ±3.0 10.0 表 -3 設置した金網の諸元 亜鉛引織網 線径 [mm] 0.63 目合 [mm] 3.0 開口率 [%] 68.3 幅 [mm] 280 高さ [mm] 330 図 -2 実験に使用した金網のモデル 1 小型振動台の設定条件を表 -2 に示し, 振動数は 0.8Hz から 2.2Hz までを 0.1Hz 刻みで行う. 振幅は片振幅 3mm に固定し, 振動装置で設定できる Wave count は振動数に応じて変化させ, どの振動数においても起振時間は 10 秒間に統一する. ここで振幅を固定したのは, 減衰定数が加振振幅の増加すなわち水の流速の増加に伴って大きくなる傾向を示し, 両対数でほぼ直線関係にあることによる 8). 実験の時間インターバルは設定振動数ごとに静止した状態から始めるとする. 実験は対策無, 対策有の 2 ケース行うものとし, 各ケースにおいて振動台を用いた加振実験により, 液体の挙動と振動特性を把握する. なお, 本研究では比較項目として, 波高, 減衰定数に着目する. (3) スロッシング対策案スロッシング対策には, これまで様々な検討が行われてきた. この中で自由表面を有する矩形断面においては, 抵抗板を利用する方法が代表的な方法である. この方法は, 流れ場を直接コントロールする方法で, 機械的な要素が無く卖純であり, 安定した制振効果を期待できる. 例えば自由表面付近に側壁から水平に抵抗板を設置したもの 10), 鉛直方向に抵抗板を配置してここで生じる渦により減衰効果を得るもの 11) などがある. しかし, これらは新設の構造物には設置し易いが, 既存の構造物に設置する場合は, プールの水を抜くなどの施工上十分検討しなくてはならない項目が残る. これに対して本研究で提案する方法は, プール内に金網を設置する方法である. この方法は, やや長周期の固有振動数を有する構造物の卓越した振動方向の制振装置として開発されたスロッシングダ 7), ンパーの考え方 8) を応用したものである. これには機械的な摩擦が無いので微振動から効果を発揮するとともに, 構造が簡卖な特徴を有している. また, 既存のプールなどに設置する場合は, 一つの設置方法としてフレームに設置した物を天井クレーン等で水中へ降ろし, 固定するなどの簡卖な施工ができる. この方法により期待できる効果は, スロッシングにより液体揺動が生じた時, 液体が金網を通過するときに抵抗力が生じ, 水の粘性が見掛け上大きくなることである. これにより, 減衰が付加され, 流速を抑え波高を低減できる. そこで, 本論文では十分な剛性を有する亜鉛引織網を水槽内部起振方向に対して垂直とし, 水槽中心部に設置する. なお, 金網は市販されているものを寸法に合わせて調節し, 設置する. 図 -2 に本実

パワースペクトル [cm 2 s] パワースペクトル [cm 2 s] 験で用いた金網のモデルを, 表 -3 に金網の諸元を示 す. なお, 金網の開口率は 68.3% である. 3. 実験結果 1 次モード ( 入力振動数 1.0Hz) 2 次モード ( 入力振動数 2.0Hz) 写真 -4 液面の挙動 (DVC 画像 ) (1) 実験映像の比較 DVC で撮影した映像データをコンピュータに取り込み,1 コマ 1/30 秒のコマ送り機能を用いて, 実寸法の比率で割り出して実卖位での応答波高を算出する. 解析に使用した撮影データは, 起振開始から液面挙動停止までのデータを用いている. また, 全体の水面形を把握できるように設置した DVC から矩形断面容器におけるスロッシング 1 次,2 次モードの液面挙動を求める. 写真 -4 および図 -3 にそれぞれの代表的な振動モード形状を示す.1 次モードでは, 水槽中心を対称として液面が揺動し, 端部において非線形性の影響と考えられる挙動を示す. そして端部で波高は最も大きな値を示している. 一方で,2 次モードでは水槽中心部を境に凹凸挙動が確認できる. これらより, モードによって水面形状が大きく異なってくることを把握することができた. 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 (a)1 次モード (b) 2 次モード図 -3 液面の波形 対策無対策有 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 2.1 2.2 入力振動数 [Hz] 図 -4 応答波高の 1 次成分 対策無対策有 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 2.1 2.2 入力振動数 [Hz] 図 -5 応答波高の 2 次成分 (2) パワースペクトルの比較非接触計測実験から得られた起振開始から 70 秒間の応答波高データを用いて, パワースペクトルを算出し, 固有振動数を求める. 図 -4,5 に応答波高の 1 次成分,2 次成分におけるピーク時の値を示す. 対策無については, 応答波高の 1 次成分において, 入力振動数 1.0Hz では 1.65cm 2 s,1.1hz では 1.52cm 2 s を示している. 最大波高が得られた入力振動数は 1.0Hz であるが, 理論値は 1.06Hz である. これは振動装置の設定が 0.1Hz 刻みずつでしか設定できず, その差が生じたと考えられる. また, 応答波高の 2 次成分は 1.9Hz から大きくなり,2.0Hz では 0.40cm 2 s を示している.1.9Hz と 2.0Hz の間で応答波高の 2 次成分が急激に増加したことがわかる. 金網を設置することによって, 応答波高の 1 次成分で最大の値を生じた 1.0Hz では 1.65 cm 2 s から 0.22 cm 2 s,1.1hz では 1.52cm 2 s から 0.12 cm 2 s となり,2 次成分においては 2.0Hz では 0.40 cm 2 s から 0.016cm 2 s と低減されている. (3) 応答波高の比較図 -6 に対策有無での入力振動数 0.8Hz から 1.7Hz

0.8Hz 1.3Hz 0.9Hz 1.4Hz 1.0Hz 1.5Hz 1.1Hz 1.6Hz 1.2Hz 1.7Hz 図 -6 応答波形の対策前と後の比較 (1 次モード付近 )

1.8Hz H/F[cm/N] 0.14 0.12 0.1 0.08 0.06 0.04 0.02 0 0.02 0.015 対策無対策有 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 2.1 2.2 入力振動数 [Hz] 図 -8 最大応答波高の比較 対策無対策有 減衰定数 0.01 1.9Hz 0.005 0 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 2.1 2.2 入力振動数 [Hz] 図 -9 減衰定数の比較 2.0Hz 対策無対策有写真 -5 水槽端部での応答波高 ( 入力振動数 1.0Hz における DVC の静止画 ) ( 注 : 写真中の矢印は水面の勾配を表すとする ) 2.1Hz 2.2Hz 図 -7 応答波形の対策前と後の比較 (2 次モード付近 ) における起振開始から 70 秒間の 1 次モード付近での応答波高図を, 図 -7 には 1.8Hz から 2.2Hz における同 2 次モード付近での応答波高図をそれぞれ示す. 1 次モード付近では入力振動数 1.0Hz,1.1Hz において対策無, 対策有ともに起振開始から徐々に波高が増加している. しかし, 金網を設置した時 ( 対策有 ) の波高の増加は, 対策無と比較してみると波高上昇時の勾配が緩やかである. 水が金網を通過する時に生じる流体の抵抗力が増加して波高が低減されているため, 最大波高を示している振動数域で最も波高の低減が見られる. また, 起振開始から 70 秒経過時においては, 対策無の場合は片振幅 2cm 程度揺動しているのに対して, 対策有の場合はすでに液面挙動が停止していることが確認できる. このことから液体が金網を通過す

ることによって起振中から波高を低減し, 自由振動となってからは早く減衰していることも確認できる. これに対して 1 次モードの共振域を外れた 1.2Hz ~1.9Hz 帯では波高が小さいことから, 液体の流体運動も小さいため両者には顕著な差は見られない. 次に 2 次モード付近である入力振動数 2.0Hz において, 起振中の波高は若干ではあるが抑えられている. 対策無の場合, 自由振動となってからはビートを打ちながら減衰していく. これは自由振動へ移行してから回転運動挙動が見られ, かつ計測ポイントを水槽端部から 2cm 内側における波高を算出したためである. 一方, 網を設置したことで回転運動が抑制された応答波形となっており, 波高も低減されていることが確認できる. (4) 最大応答波高の比較図 -8 に最大波高 (H) を各入力振動数 (F) における加振力で除した値と入力振動数との関係を示す. また, 写真 -5 に入力振動数 1.0Hz における静止画を示す. 起振中において最も波高が大きい 1 次モードの共振域である 1.0Hz では対策無の場合, 片振幅 3mm, 10 秒間の加振で 7.2cm の最大波高を示し, 加振力で除した値は 0.12cm/N である. 入力振動数 1.0Hz 時の波高は, 溢流する限界の高さとなっていることが写真 -5 からも確認できている. これに対して金網を設置することにより, 最大波高が 4.6cm と大きく低減されており, この時の波高低減率は 36% である. なお, 最大波高低減率は 1.1Hz 時であり, その値は 38% である. 次に 2 次モード共振付近である 2.0Hz では, 若干ではあるが最大波高は 3.9cm から 3.2cm, 加振力で除した値では,0.0165cm/N から 0.0137cm/N と低減されている. (5) 減衰定数の比較図 -9に非接触計測より算出した応答波高のデータを用いて, 式 (2) よりシンプレックス法を用いた非線形最適化により, 対策有無における減衰定数を算出した結果を示す. η(t) = Ae - ω 0 t cos( ω t q θ 0) (2) ここで,ω q は減衰各固有振動数,A は振幅,θ 0 は位相差,ω 0 は固有角振動数である. なお,2 次モード付近の減衰定数を算出する際には, バンドパスフィルタをかけて時系列データの波形から減衰定数を算出する. 対策無において減衰定数は振動装置の入力振動数, 波高や振動モード形状に依存せず,0.2~0.4% となっている. この値は, 従来から論じられている自由表面でのスロッシングの減衰定数として妥当な値である 6), 12).0.2~0.4% いう減衰定数の値は小さな値であるので, 液体は一度揺動してしまうと自由振動となってから液面揺動の停止まで相当な時間が必要となる. 一方, 対策有において 1 次モード付近である入力振動数 1.0Hz の場合, 減衰定数は 0.94% であり対策無の 0.30% と比較すると 3 倍程度増加している. しかし, 共振域以外での減衰定数は,1~2 倍程度増加しているだけである. 次に 2 次モード付近である入力振動数 2.0Hz の場合は,0.95% であり対策無の 0.33% と比較して 3 倍程度の増加が得られている. これらから, 金網を設置することによって, 自由振動へ移行してからの減衰は増加していることが確認できる. 特に, 共振時付近で金網を水が多く通過することで, 水の抵抗力が付加され, 減衰定数が増加されたと考えられる. これより, 揺動が大きいほどその流体運動を利用し, 減衰も増加していることである. 4. おわりに DVC を用いた非接触計測より, 矩形断面容器におけるスロッシング発生時の液体の応答波高, 固有振動数, 減衰定数を算出することができた. 対策無の場合では, 共振時においては 10 秒間程度の微小振幅加振で, 溢流する限界の最大波高が確認された. また, 入力振動数における最大波高, 振動モード形状に依存せずに, 減衰定数は 0.2~0.4% と一定の値をとり, 一度揺動し始めると容易には減衰しないことが確認できた. 本研究で提案した対策方法は, 起振中の波高を抑制, かつ減衰が増加することを目的として, 金網を水槽中心部に設置し, 対策の有無で加振実験を行なった. この結果, 最大波高はスロッシング 1 次モードにおいては入力振動数 1.1Hz の時で最大 38% の低減が確認できた. この値は座間らの研究 5) によれば, スロッシング発生時の溢流現象は 23% 程度の波高減少でも大きな効果が期待されている. そのため, 38% の減少効果は実用上十分な効果であると判別できる. さらに減衰定数はスロッシング 1 次,2 次モードにおいて 3 倍程度, 最大は入力振動数 1.1Hz のときで 3.23 倍の増加が見られた. 特に, 流体運動が大きくなる共振時に顕著である. 金網を水槽中心部に設置することで, 起振中の波高を抑制することができ, かつ減衰も高くなったことが確認できた. コ

スト面を考慮した本論で提案した制振対策は, 自由表面を有するプールなどのスロッシング制振対策に効果が期待できると考えられる. しかし 2 次モード付近において, 減衰の増加は確認できたものの, 波高は 1 次モードほど顕著な低減が見られなかった. これは金網の設置位置が水槽中心部であるので,2 次モードに対しては十分な有効性を確認できなかった. これは網の設置によって回転運動を抑制したため,2 次モードにおける波高の評価が正しく行われていないということが考えられる. また, 金網の設置位置の変更や複数枚の金網を水槽内に設置した実験や開口率の異なる網を用いての実験などパターンの異なる実験を行う必要があり, その際に金網が流体から受ける力を計測することも必要であると考える. 本研究ではまず基礎的な実験として振幅, 起振時間を一定にしての実験を試みたが, これは既往の研究の成果を踏襲したことによる. これに関しても加振振幅をパラメータとして確認する必要がある. さらに, 小型矩形水槽で実験を行ったが, 水槽の角の影響を多く受けるなど, 制約もあった. このため新たにスケールを大きくして, 極力制約を無くした状態での実験を試みる必要がある. 同時に数値シミュレーションによって挙動確認をする予定である. 以上の今後の課題を踏まえて, 矩形断面容器に対して金網の設置方法, 設置場所, 金網目の選択方法等の詳細な基準が必要となってくるため, 定性的 定量的に評価, 検討していきたいと考える. 謝辞本研究を行うに際し, 嶋澤隆介氏 ( 研究当時 : 中央大学大学院理工学研究科土木工学専攻, 首都高速道路 ) の協力を得た. ここに記して感謝の意を表す. 最後に, 本研究の一部は ( 独 ) 日本学術振興会科学研究費 基盤研究 (C) 及び中央大学理工学研究所共同研究助成の給付を受けたことを付記する. 参考文献 1) 消防研究所 : 平成 15 年 (2003 年 ) 十勝沖地震に際して発生した出光興産 北海道製油所原油タンク火災に係わる火災原因調査報告書,2004. 2) 電力中央技術研究所 : 新潟地震被害現地調査報告書,1964. 3) 柏崎刈羽原子力発電所被害の速報 (5 学会合同調査団 ): 土木学会誌,Vol.92, No.10, 2007.10. 4) 酒井理哉, 東貞成, 佐藤清隆, 田中伸和 : 溢流を伴う矩形水槽の非線形スロッシング評価, 構造工学論文集 vol.53, pp.597-604, 2007.3. 5) 座間信作, 山田實, 西晴樹, 廣川幹浩, 平野廣和, 鈴木森晶 : 石油タンクのスロッシングによる内溶液の溢流の算定, 消防研究所報告, 第 101 号,pp.14-20,2006.9. 6) 井田剛史, 平野廣和, 有田新平, 佐藤尚次, 奥村哲夫 : スロッシング発生時の貯槽浮屋根挙動の一考察 -φ4000 タンクモデルでの振動実験, 土木学会論文集 A, Vol.63, No.3, pp.444-453, 2007.6. 7) 萩生田弘, 平野廣和, 野路利幸, 立見栄司 : スロッシングを利用した制振装置の研究, 土木学会第 43 回年次学術講演会第 Ⅰ 部門,1988.10. 8) 野路利幸, 吉田英敏, 立見栄司, 小坂英之, 萩生田弘 : 水のスロッシングを利用した制振装置の研究 ( その1) 装置の流体力特性と制振効果の特性, 日本建築学会構造系論文報告集,No.411, pp.97-105, 1990.5. 9) 葉山眞治, 有賀敬治, 渡辺辰郎 : 長方形容器におけるスロッシングの非線形応答, 日本機械学会論文集,49 巻 437 号,1983.1. 10) K. Muto, Y. Kasai, M. Nakahara, and Y. Ishida: Experimental tests on sloshing response of a water pool with submerged blocks, in S.J. Brown, editor, proceedings of the 1985 Pressure Vessels and Piping Conference 98-7 (Fluid Structure Dynamics). ASME, pp.209 214, 1985. 11) 渡辺昌宏, 小林信之, 本多智一, 大野克徳, 本井久之 : 隔壁挿入による矩形容器内液体スロッシングの制振特性, 日本機械学会論文集 (C 編 ), 67 巻 657 号, pp.1422-1429,2001.5. 12) 廣川幹浩, 座間新作, 山田實, 西晴樹, 畑山健 : 石油タンクのスロッシング減衰定数, 消防研究所報告, 第 98 号,pp.66-73, 2004.9. (2008. 4. 14)