学術委員会学術第 1 小委員会 慢性腎臓病(CKD) 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 ~ 腎機能低下患者への投与に関係する添付文書記載の問題点の調査 ~ 委員長東京薬科大学薬学部医療実務薬学教室竹内裕紀 Hironori TAKEUCHI 委員白鷺病院薬剤科和泉智 Satoshi IZUM

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葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

腎薬ニュース第 5 号 (2007 年 6 月 ;2012 年 1 月加筆修正 ) 熊本大学薬学部臨床薬理学分野平田純生 添付文書どおり腎機能に基づいた投与量にしても起こるアシクロビル中毒の原因は? 1. アシクロビル中毒の症状は? 慢性腎臓病 (CKD) 患者に頻発するアシクロビル バラシクロビル

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(2) 健康成人の血漿中濃度 ( 反復経口投与 ) 9) 健康成人男子にスイニー 200mgを1 日 2 回 ( 朝夕食直前 ) 7 日間反復経口投与したとき 血漿中アナグリプチン濃度は投与 2 日目には定常状態に達した 投与 7 日目における C max 及びAUC 0-72hの累積係数はそれぞれ

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タペンタ 錠 25mg タペンタ 錠 50mg タペンタ 錠 100mg に係る 販売名 タペンタ 錠 25mg タペンタ 錠 50mg 医薬品リスク管理計画書 (RMP) の概要 有効成分 タペンタ 錠 100mg 製造販売業者 ヤンセンファーマ株式会社 薬効分類 821 提出年月 平成 30 年

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1)~ 2) 3) 近位筋脱力 CK(CPK) 高値 炎症を伴わない筋線維の壊死 抗 HMG-CoA 還元酵素 (HMGCR) 抗体陽性等を特徴とする免疫性壊死性ミオパチーがあらわれ 投与中止後も持続する例が報告されているので 患者の状態を十分に観察すること なお 免疫抑制剤投与により改善がみられた

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添付文書情報 の検索方法 1. 検索条件を設定の上 検索実行 ボタンをクリックすると検索します 検索結果として 右フレームに該当する医療用医薬品の販売名の一覧が 販売名の昇順で表示されます 2. 右のフレームで参照したい販売名をクリックすると 新しいタブで該当する医療用医薬品の添付文書情報が表示され

デベルザ錠20mg 適正使用のお願い

スライド 1

緒言

総論 2 腎不全患者に特徴的な薬物動態の変化 薬効 薬物名 商品名 尿中排泄率 (%) 副作用 リバビリン レベトール 50 骨髄抑制, 意識障害 禁忌 アマンタジン シンメトレル 90 不穏, せん妄, 幻視 禁忌 抗ウイルス薬 オセルタミビル タミフル 70( 活性代謝物 99 悪心, 嘔吐,

オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

減量・コース投与期間短縮の基準

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

相互作用DB

目次 C O N T E N T S 1 下痢等の胃腸障害 下痢について 3 下痢の副作用発現状況 3 最高用量別の下痢の副作用発現状況 3 下痢の程度 4 下痢の発現時期 4 下痢の回復時期 5 下痢による投与中止時期 下痢以外の胃腸障害について 6 下痢以外の胃腸障害の副

2. 改訂内容および改訂理由 2.1. その他の注意 [ 厚生労働省医薬食品局安全対策課事務連絡に基づく改訂 ] 改訂後 ( 下線部 : 改訂部分 ) 10. その他の注意 (1)~(3) 省略 (4) 主に 50 歳以上を対象に実施された海外の疫学調査において 選択的セロトニン再取り込み阻害剤及び

使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

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医薬品の添付文書等を調べる場合 最後に 検索 をクリック ( 下部の 検索 ボタンでも可 ) 特定の文書 ( 添付文書以外の文書 ) の記載内容から調べる場合 検索 をクリック ( 下部の 検索 ボタンでも可 ) 最後に 調べたい医薬品の名称を入力 ( 名称の一部のみの入力でも検索可能

日本医薬品安全性学会 COI 開示 筆頭発表者 : 加藤祐太 演題発表に関連し 開示すべき COI 関連の企業などはありません

から (3) までの具体的な予定については添付 2 の図のとおりですので申し添 えます

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

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添付文書の薬物動態情報 ~基本となる3つの薬物動態パラメータを理解する~

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ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

2017 年 9 月 画像診断部 中央放射線科 造影剤投与マニュアル ver 2.0 本マニュアルは ESUR 造影剤ガイドライン version 9.0(ESUR: 欧州泌尿生殖器放射線学会 ) などを参照し 前マニュアルを改訂して作成した ( 前マニュアル作成 2014 年 3 月 今回の改訂

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1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

改訂後 ⑴ 依存性連用により薬物依存を生じることがあるので 観察を十分に行い 用量及び使用期間に注意し慎重に投与すること また 連用中における投与量の急激な減少ないし投与の中止により 痙攣発作 せん妄 振戦 不眠 不安 幻覚 妄想等の離脱症状があらわれることがあるので 投与を中止する場合には 徐々に

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

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より詳細な情報を望まれる場合は 担当の医師または薬剤師におたずねください また 患者向医薬品ガイド 医療専門家向けの 添付文書情報 が医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されています

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

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3 病床数 施設 ~19 床 床 床以上 284 (3 施設で未回答 ) 4 放射線専門医数 ( 診断 治療を含む ) 施設 ~5 人 226 6~10 人 人

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

( 別添 ) 御意見 該当箇所 一般用医薬品のリスク区分 ( 案 ) のうち イブプロフェン ( 高用量 )(No.4) について 意見内容 <イブプロフェン ( 高用量 )> 本剤は 低用量製剤 ( 最大 400mg/ 日 ) と比べても製造販売後調査では重篤な副作用の報告等はない 一方で 今まで

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薬物動態開発の経緯 特性製品情報(3) 薬物動態に対する食事の影響 ( 外国人データ )(B66119)12) 品情報臨床成績臨床成績薬物動態薬物動態薬効薬理薬効薬理一般薬理 毒性一般薬理 毒性(2) 反復投与 (CV18546) 11) 日本人健康成人男性 6 例に アピキサバン 1 回 2.5

あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

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2 抗インフルエンザウイルス薬と異常行動の議論と今後の予定 平成 21 年に取りまとめられた報告書以降の知見を改めて報告書にまとめ 以下の議論がなされた 平成 21 年以降の非臨床研究及び 10 年に及ぶ疫学研究の科学的な知見を総括し 以下の事実から タミフル服用のみに異常行動と明確な因果関係がある

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添付文書における1 腎機能低下患者の投与設計に必要な PK パラメータである尿中排泄率の記載 2 腎機能別投与量が記載されているかなど腎機能低下患者への対処法の記載 さらには 以前に本委員会にて調査した 腎障害に投与禁忌 の問題点も含め 3 腎障害患者における医薬品適正使用のための注意事項の記載について 調査を行い その問題点を整理する そして 腎機能低下患者に薬物療法を行う上で 必要な添付文書の記載の在り方について検討し 今後より良い添付文書の作成 改訂ための提言を行うことを目的とした 3. 方法 CKD 診療ガイド 2012 の巻末に掲載されている 360 成分 (375 製剤 ) について CKD 患者の薬物療法および腎障害に関する添付文書の記載法について 2 腎機能低下患者に対する対応の記載 の3 項目について 製薬メーカーに回答を依頼した 回収したデータはすべて委員で確認作業を行った ( 要旨作成時 確認途中 ) 各薬剤の添付文書の記載法の問題点をパターン化し 典型例の掲示を行った また問題となる記載がされている薬剤の割合も算出した ( 要旨作成時は解析途中 ) 具体的には 以下のように問題となる記載を整理し それぞれについて調査した 1. 未変化体と代謝物で区別がされていない ( 放射能標識体 ) で尿中排泄率が記載されている 2. 経口剤でバイオアベイラビリティ (BA) を考慮せずに全投与量に対する割合で尿中排泄率が記載されている 3. 尿中排泄率を算出するまでの回収時間が十分に取られていない ( 半減期 2 倍以下および4 倍以下で調査 ) で尿中排泄率が記載されている 2 腎機能低下患者に対する対応の記載 1. 腎機能の応じた用量 用法の記載がされていない 2. 慎重投与や重要な基本的注意で 投与量の減量を考慮する等 の対処についての記載がない 3. 慎重投与で 腎障害患者 と記載があるがその根拠が希薄である 4. 重度 中程度 軽度の腎機能障害の基準があいまいである 1. 腎障害性薬剤であるが CKD 患者への投与に関する注意が記載されていない 2. 腎障害性薬剤であるため 禁忌となっているが 投与が可能と考えられる腎機能が廃絶した透析患者への投与においても禁忌と判断される記載となっている 4. 調査結果 ( 中間解析結果 ) 問題となる記載は 上記に示した分類に整理することができた 問題となる記載がされている薬剤の中間解析結果を以下に示す 2

尿中排泄率においては 未変化体と代謝物で区別がされていない ( 放射能標識体 ) で尿中排泄率が記載されているものが 3 割程度あった また経口薬ではほとんどの薬剤が BA を考慮せずに投与量に対する尿中排泄率が記載されていた 尿中排泄率を算出するまでの回収時間は 1 割近くで半減期の 2 倍に達していなかった 2 腎機能低下患者に対する対応の記載腎機能の応じた用量 用法の記載がされていない薬剤が半数程度存在していた また 慎重投与や重要な基本的注意で 投与量の減量を考慮する等 の対処についての記載がない薬剤は半数近くあった 慎重投与に 腎障害患者 と記載があるがその根拠が希薄である薬剤は 1 割程度であった 腎障害性薬剤であるが CKD 患者への投与に関する注意が記載されていない薬剤が 3 割程度あった 腎障害性薬剤であるため 禁忌となっているが 投与が可能と考えられる腎機能が廃絶した透析患者への投与においても禁忌と判断される記載がほとんどであった 5. 考察添付文書への記載に問題があると考えられる薬剤は非常に多かった 現上の記載法では 添付文書を参考に CKD 患者へ適切な薬物療法を提供することは困難であることが多いと考えられる したがって 使用者 ( 医療従事者 ) がよりわかりやすく 安全に使用できるための記載をさらに検討していくべきである 尿中排泄率は患者腎機能とともに 腎排泄性薬剤の用量設定をする上で 基本となるパラメータであるため その適切なデータの記載が必要である しかし 未変化体と代謝物で区別がされていない ( 放射能標識体 ) で尿中排泄率が記載されている薬剤は 腎排泄の寄与が過大評価され また経口剤で BA を考慮せずに全投与量の割合で尿中排泄率が記載されている薬剤や尿中排泄率を算出するまでの回収時間が十分に取られていない薬剤では過小評価される可能性がある 2 腎機能低下患者に対する対応の記載腎排泄性薬剤で腎機能の応じた用量 用法の記載がされていない薬剤が多くあり 用量 用法の記載は参考値でも記載すべきであり 肝代謝性薬剤などで用量設定が必要ない薬物においても体内動態的は用量調整が必要ないことを記載すべきであると考える また慎重投与にその根拠が希薄であるにもかかわらず 腎障害患者 と記載がある薬剤がある 安全を重視するあまり 過度の記載をしている可能性があり 反対に臨床現場に混乱を招き 過度に投与制限がされ 患者が不利益を蒙る可能性があるため 適切な表記の記載が望まれる 腎機能が廃絶した透析患者においては 腎障害を考慮しなくても良いため 投与可能であると考えられる NSAIDs などの腎障害性薬剤でも 重篤な腎障害には禁忌 の表現となっているため 3

1, 本来なら使用ができない しかし 平成 19~20 年度に本委員会で実態調査 2) では 添付文書では透析患者にも禁忌であるが 実際に日常的に使用されており 禁忌という認識も低いことを示した 実際の臨床と添付文書に矛盾が生じており 添付文書の信頼性の確保のためにも より詳細な記載が必要であると考えられる また 今回の結果では NSAIDs の記載の 重篤な腎障害には禁忌 では透析を受けている患者も含まれるが 全薬剤で 重篤な腎障害には禁忌 と記載がされていた 腎障害性薬剤の腎機能が廃絶した透析患者への投与については 禁忌から除くことを含め 根本的な記載の改善が必要であると考えられた 6. 記載法の提言上記に示した記載上の問題点を改訂していくための提言を以下に示した 1. 活性体が未変化体と代謝物かを表示し 未変化体と代謝物を区別した尿中排泄率を記載する または 活性体の尿中排泄率を腎排泄率と定義し 記載する 2. 経口剤では BA を記載するか 静注があるものは静注時の投与量に対する尿中排泄率を記載する 3. 尿中排泄率を算出するまでの回収時間は半減期が可能な限り定常に達したと考えられる時間を取る あるいは定常に達していないと考えられる尿中排泄率はその旨がわかるように記載する 2 腎機能低下患者に対する対応の記載 1. 腎排泄性 ( 腎排泄率が 40% 以上 またはそれ以下でも腎機能低下に応じて蓄積し 副作用が現れやすい薬剤 ) は 腎機能の応じた用量 用法の記載をする または Giusti-Hayton の式などで投与設計できるように活性体の尿中排泄率や 腎機能低下時の AUC Cmax 半減期などの情報を記載する 2. 慎重投与等で 腎障害患者 と記載されている薬剤では a. 腎排泄性薬剤であるため 投与量の減量を考慮する必要があるのか b. 腎障害が発現しやすいのか c. 病態として薬剤の感受性が高く 副作用が発現しやすいのか等 その理由を可能な限り明確に記載する 1. 腎機能が廃絶した透析患者はこの限りではない などの表現を使用し 保存期腎不全患者やそれ以前の腎機能障害者と区別して記載する 引用文献 1) 平田純生, 和泉智ほか : 学術委員会学術第 8 小委員会報告高齢者および慢性腎疾患患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 ~ 重篤な腎障害 に関する禁忌薬物に関する調査 ~. 第 1 報日本病院薬剤師会雑誌, 44, 1162-1163 (2008). 2) 平田純生, 和泉智ほか : 学術委員会学術第 7 小委員会報告高齢者および慢性腎疾患患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 ~ 重篤な腎障害 に関する禁忌薬物に関する調 4

査 ~. 第 2 報日本病院薬剤師会雑誌, 45, 27-30 (2009). 3) 和泉智, 鎌田直博ほか : H21 年度学術委員会学術第 1 小委員会報告高齢者および慢性腎臓病 (CKD) 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 ~CKD 患者の副作用および薬剤性腎障害と薬剤師の関与に関するアンケート調査 ~, 日本病院薬剤師会雑誌, 46, 989-1008 (2010). 4) 和泉智, 大野能之ほか : H22 年度学術委員会学術第 1 小委員会報告高齢者および慢性腎臓病 (CKD) 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 ~CKD 患者の薬物療法における薬剤師の関与事例等の収集 ~, 日本病院薬剤師会雑誌, 47, 937-941 (2011) 5) 和泉智, 大野能之ほか : H23 年度学術委員会学術第 1 小委員会報告高齢者および慢性腎臓病 (CKD) 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 -CKD 患者の薬物療法適正化のための薬剤業務手順書 -, 日本病院薬剤師会雑誌, 48, 919-922 (2012) 6) Ohno Y, Kusama M et al. Analysis of pharmacokinetic data provided in Japanese package inserts and interview forms focusing on urinary excretion of pharmacologically active species. Yakugaku Zasshi, 126, 489-494, (2006). 5

慢性腎臓病 (CKD) 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 ~ 腎機能低下患者への投与に関係する添付文書記載の問題点の調査 ~ 学術第一小委員会 慢性腎臓病 (CKD) 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 - これまでの活動内容ー 年度 内容 委員長 添付文書における 腎障害に投与禁忌 の薬物につい 平成 19~20 年度 て実態調査 平田純生 委員長 東京薬科大学薬学部医療実務薬学教室 竹内裕紀 委員 白鷺病院薬剤科 和泉智 東京大学医学部附属病院薬剤部 大野能之 土谷総合病院薬剤部 鎌田直博 中部労災病院薬剤部 田中章郎 中部労災病院薬剤部 長谷川功 西陣病院薬剤部三宅健文 平成 21 年度 平成 22 年度 平成 23 年度 CKD 患者の副作用や薬剤性腎障害の実態と薬剤師の関与についてのアンケート調査 副作用経験薬剤の種類や薬剤師の取り組みなどの現状を明らかにした CKDに関して薬剤師が特徴的な取り組みや先駆的な業務を実践している病院を選択 視察し その活動や実際の関与事例を紹介薬剤師がCKD 患者の薬物療法にどのように関わるべきかを CKD 患者の薬物療法適正化のための薬剤業務手順書 としてまとめた 和泉智 和泉智 和泉智 平成 24 年度の活動内容の背景 CKD 患者の適切な薬物療法を行う上での添付文書記載の問題点 薬剤師がCKD 患者の適切な薬物療法を行うにあたり 情報の源となる添付文書の記載が必ずしも 臨床現場で使用する上で適切に書かれていない現状がある 現在の添付文書のPKパラメータの記載内容は統一されていない 文献データがあるにもかかわらず記載されていない場合がある 解釈に混乱をきたす記載が多く見受けられる 平成 24 年度の活動内容 添付文書における 1 腎機能低下患者の投与設計に必要な尿中排泄率の記載 2 腎機能別投与量が記載されているかなど腎機能低下患者への対処法の記載 3 腎障害患者における医薬品適正使用のための注意事項の記載 以上の 3 項目について調査を行い その問題点を整理し 腎機能低下患者に薬物療法を行う上で 必要な添付文書の記載の在り方について検討し 今後より良い添付文書の作成 改訂ための提言を行うことを目的とした 方法 調査薬剤 CKD 診療ガイド 2012 の巻末に掲載されている 360 成分 (375 製剤 ) 調査内容 調査結果の集計 解析 CKD 患者の薬物療法および腎障害に関する添付文書の記載法について 2 腎機能低下患者に対する対応の記載 の3 項目についての問題となる記載内容を整理した上で 製薬メーカーに回答を依頼し その後回収したデータについて委員で確認作業を行った 1 各薬剤の添付文書の記載法の問題点をパターン化し 典型例の掲示 2 各項目で問題となる記載がされている薬剤の割合を算出 ( 要旨作成時は解析途中 ) 腎機能低下患者の薬物療法を行う上で 必要な添付文書情報の記載の問題点の分類 1 の問題点 1. 未変化体と代謝物で区別がされていない ( 放射能標識体 ) で尿中排泄率が記載されている 2. 経口剤でバイオアベイラビリティ (BA) を考慮せずに全投与量に対する割合で尿中排泄率が記載されている 3. 尿中排泄率を算出するまでの回収時間が十分に取られていない ( 半減期 2 倍以下および 4 倍以下で調査 ) で尿中排泄率が記載されている 6 1

ハルシオン の添付文書 薬物動態の項 排泄パターンは尿中排泄型であり 総排泄率は尿中 82% 糞便中 8% である 尿中への排泄は速やかで 投与後 10 時間及び 24 時間までの排泄率は尿中総排泄率の各々 73% 及び 94% である ゾビラックス の添付文書 代謝 排泄健康成人にアシクロビル 200mg 及び 800mg を単回経口投与した場合 48 時間以内にそれぞれ投与量の 25.0% 及び 12.0% が未変化体として尿中に排泄された 主な尿中代謝体 9- カルボキシメトキシメチルグアニンの未変化体に対する割合は 経口投与時で約 7.5% であった 1. 未変化体と代謝物で区別がされていない ( 放射能標識体 ) で尿中排泄率が記載されている 2. 経口剤でバイオアベイラビリティ (BA) を考慮せずに全投与量に対する割合で尿中排泄率が記載されている コバシル の添付文書 代謝 排泄健康成人にペリンドプリルエルブミン 2mg 4mg 8mg 12mg を単回経口投与した場合 投与後 24 時間までに投与量の 21 26% が未変化体 3 10% がペリンドプリラート 12 14% がペリンドプリラートのグルクロン酸抱合体として尿中に排泄された 活性代謝物のペンリプリラートの半減期 50-100 時間 3. 尿中排泄率を算出するまでの回収時間が十分に取られていないで尿中排泄率が記載されている 腎機能低下患者の薬物療法を行う上で 必要な添付文書情報の記載の問題点の分類 2 2 腎機能低下患者に対する対応の記載の問題点 1. 腎機能の応じた用量 用法の記載がされていない 2. 慎重投与や重要な基本的注意で 投与量の減量を考慮する等 の対処についての記載がない 3. 慎重投与で 腎障害患者 と記載があるがその根拠が希薄である 4. 重度 中程度 軽度の腎機能障害の基準があいまいである 1. 腎機能に基づく投与量の基準が記載されている例 ガスター の添付文書 用法 用量に関連する使用上の注意 腎機能低下患者への投与法ファモチジンは主として腎臓から未変化体で排泄される 腎機能低下患者にファモチジンを投与すると 腎機能の低下とともに血中未変化体濃度が上昇し 尿中排泄が減少するので 次のような投与法を目安とする 1. 投与量の減量や投与間隔の延長を考慮することと書かれているが 具体的な投与量の基準の記載のない例ザイロリック の添付文書 使用上の注意慎重投与腎機能障害のある患者 [ 高い血中濃度が持続するので 減量等を考慮すること 重要な基本的注意腎機能障害のある患者では本剤やその代謝物の排泄が遅延し高い血中濃度が持続するので 投与量の減量や投与間隔の延長を考慮すること 特に腎不全患者に副作用が発現した場合は重篤な転帰をたどることがあり 死亡例も報告されているので 患者の状態を十分に観察し注意しながら投与すること ( 慎重投与 の項参照 ) 7 2

2. 明確に投与量の減量や投与間隔の延長が必要とは書かれてはいない例 3. 慎重投与で 腎障害患者 と記載があるがその根拠が希薄 ドグマチール の添付文書 根拠がない例? レンドルミン の添付文書 使用上の注意慎重投与腎障害のある患者 [ 高い血中濃度が持続するおそれがある ] と記載されているだけ! 使用上の注意慎重投与 3. 心障害 肝障害 腎障害のある患者 [ 心障害では症状が悪化 肝 腎障害では代謝 排泄が遅延するおそれがある ] 4. 重度 中程度 軽度の腎機能障害の基準が曖昧 ロキソニン の添付文書 禁忌 重篤な腎障害のある患者 [ 急性腎不全 ネフローゼ症候群等の副作用を発現することがある ] 使用上の注意慎重投与 腎障害又はその既往歴のある患者 [ 浮腫 蛋白尿 血清クレアチニン上昇 高カリウム血症等の副作用がおこることがある ] 腎機能低下患者の薬物療法を行う上で 必要な添付文書情報の記載の問題点の分類 3 1. 腎障害性薬剤であるが CKD 患者への投与に関する注意が記載されていない 2. 腎障害性薬剤であるため 禁忌となっているが 投与が可能と考えられる腎機能が廃絶した透析患者への投与においても禁忌の記載となっている 1. 腎障害性薬剤であるが CKD 患者への投与に関する注意が記載されていない ペントシリン の添付文書 使用上の注意慎重投与高度の腎障害のある患者 [ 血中濃度が持続するので減量又は投与間隔をあけて投与すること 薬物動態 の項参照 ] 重大な副作用急性腎不全 間質性腎炎等の重篤な腎障害 ( 頻度不明 ) があらわれることがあるので 定期的に検査を行うなど観察を十分に行い 異常が認められた場合には投与を中止し 適切な処置を行うこと 血中濃度が上昇する可能性があることは書かれているが 使用上の注意に腎障害があることは書かれていない 2. 腎障害性薬剤であるため 禁忌となっているが 投与が可能と考えられる腎機能が廃絶した透析患者への投与においても禁忌と考えられる記載となっている ブルフェン の添付文書 禁忌 重篤な腎障害のある患者 [ プロスタグランジン合成阻害作用による腎血流量の低下等により 腎障害を更に悪化させるおそれがある ] 使用上の注意慎重投与 腎障害又はその既往歴のある患者あるいは腎血流量が低下している患者 [ 腎障害を悪化又は再発あるいは誘発させるおそれがある ] 8 3

問題となる記載がされている薬剤の割合の集計結果 尿中排泄率においては 未変化体と代謝物で区別がされていない ( 放射能標識体 ) で尿中排泄率が記載されているものが 3 割程度あった また経口薬ではほとんどの薬剤が BA を考慮せずに投与量に対する尿中排泄率が記載されていた 尿中排泄率を算出するまでの回収時間は 1 割近くで半減期の 2 倍に達していなかった 2 腎機能低下患者に対する対応の記載腎機能の応じた用量 用法の記載がされていない薬剤が半数程度存在していた また 慎重投与や重要な基本的注意で 投与量の減量を考慮する等 の対処についての記載がない薬剤は半数近くあった 慎重投与に 腎障害患者 と記載があるがその根拠が希薄である薬剤は 1 割程度であった 腎障害性薬剤であるが CKD 患者への投与に関する注意が記載されていない薬剤が 3 割程度あった 腎障害性薬剤であるため 禁忌となっているが 投与が可能と考えられる腎機能が廃絶した透析患者への投与においても禁忌と判断される記載がほとんどであった 考察 添付文書への記載に問題があると考えられる薬剤は非常に多かった 現上の記載法では 添付文書を参考に CKD 患者へ適切な薬物療法を提供することは困難であることが多いと考えられる したがって 使用者 ( 医療従事者 ) がよりわかりやすく 安全に使用できるための記載をさらに検討していくべきである 未変化体と代謝物で区別がされていないで尿中排泄率が記載されている薬剤は 腎排泄の寄与が過大評価され また経口剤で BA を考慮せずに全投与量の割合で尿中排泄率が記載されている薬剤や尿中排泄率を算出するまでの回収時間が十分に取られていない薬剤では過小評価される可能性がある 2 腎機能低下患者に対する対応の記載 腎排泄性薬剤で腎機能の応じた用量 用法の記載がされていない薬剤が多くあり 用量 用法の記載は参考値でも記載すべきである 慎重投与にその根拠が希薄であるにもかかわらず 腎障害患者 と記載がある薬剤がある 安全を重視するあまり 過度の記載をしている可能性があり 反対に臨床現場に混乱を招き 過度に投与制限がされ 患者が不利益を蒙る可能性がある NSAIDs の記載の 重篤な腎障害には禁忌 では透析を受けている患者も含まれるが 全薬剤で 重篤な腎障害には禁忌 と記載がされていた 腎障害性薬剤の腎機能が廃絶した透析患者への投与については 禁忌から除くことを含め 根本的な記載の改善が必要であると考えられた 6. 記載法の提言 1. 活性体が未変化体と代謝物かを表示し 未変化体と代謝物を区別した尿中排泄率を記載する または 活性体の尿中排泄率を腎排泄率と定義し 記載する 2. 経口剤では BA を記載するか 静注があるものは静注時の投与量に対する尿中排泄率を記載する 3. 尿中排泄率を算出するまでの回収時間は半減期の可能な限り定常に達したと考えられる時間を取る あるいは定常に達していないと考えられる尿中排泄率はその旨がわかるように記載する 6. 記載法の提言 2 腎機能低下患者に対する対応の記載 1. 腎排泄性 ( 腎排泄率が 40% 以上 またはそれ以下でも腎機能低下に応じて蓄積し 副作用が現れやすい薬剤 ) は 腎機能の応じた用量 用法の記載をする または Giusti-Hayton の式などで投与設計できるように活性体の尿中排泄率や 腎機能低下時の AUC Cmax 半減期などの情報を記載する 2. 慎重投与等で 腎障害患者 と記載されている薬剤では a. 腎排泄性薬剤であるため 投与量の減量を考慮する必要があるのか b. 腎障害が発現しやすいのか c. 病態として薬剤の感受性が高く 副作用が発現しやすいのか等 その理由を可能な限り明確に記載する 6. 記載法の提言 腎機能が廃絶した透析患者はこの限りではない などの表現を使用し 保存期腎不全患者やそれ以前の腎機能障害者と区別して記載する 9 4