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XⅡ 特性化震源モデル 将来発生する地震の断層破壊シナリオを予め想定することは非常に難しく, ばらつきも大きい しかし, 過去に発生した地震の震源破壊過程を解析してそれらを統計解析すると, 震源断層と地震規模には一定の法則性 ( スケーリング則 ) があり, 強い地震動を放射する部分 ( アスペリティ ) の大きさなどにもある程度の制約を設けることができることが分かって来た これらの関係を用いることで, 想定される震源断層に対して標準的な破壊シナリオを想定することができ, 地震動計算を実施する者の主観で著しく異なるシナリオが設定されることを抑制することができる このような目的によって検討された成果が : 震源断層を特定した地震の強震動予測手法 ( レシピ ) ( 地震調査研究推進本部, 9) としてまとめられている 1. 巨視的断層モデル 地震断層規模とそこから生成される地震の規模 ( 地震モーメント ) など断層破壊パラメータには一定の関係があり, スケーリング則 ( 相似則 ) と呼ばれる 例えば,Someville e l.(1999) は断層面上のすべり分布が解析されている内陸地震を用い, 断層面積 平均すべり量 すべり継続時間 ( 立ち上がり時間 ) と地震モーメントとの平均的な関係を導いている 内陸活断層による地震は, 図 -1に示すように, 地震発生層 (Seismogenic Zone) によってその断層モデルが規定される 地震発生層は, 地域によって異なるが, 一般に3~km 程度の範囲と考えられている これよりも浅いと地殻構成物質が十分に固結しておらず, 強い地震動を放射するような断層破壊 ( 応力降下 ) が発生しない 一方, 地震発生層よりも深いと岩盤の温度が高くなって延性的となり, やはり強い地震動を放射する断層破壊が生じない これは, 内陸の微小地震活動からも支持される現象である ここで, 特に規模の小さい地震の断層面を正方形であると仮定する 地震規模が大きくなるにつれて, 正方形の断層面は深さ方向で地震発生層一杯に広がるようになり, 規模の増大とともに水平方向に広がるのみとなる 震源断層が地震発生層一杯まで広がると, それ自身では強い地震動を放射するような断層破壊を起こさない地殻浅部の亀裂が受動的にすべるようになり, 地表にまでその影響を及ぼすようになる これが地表で観察される地震断層と考えられている 地表断層を生じる地震規模は,M J =6.8 (M W =6.5) 程度と考えられる [Shimzki(1986)] 図 -1 地震発生層と震源断層のイメージ 1

ここで注意したいことは, 地表に活断層として認定できる痕跡を残す地震では, 少なくとも地震発生層一杯に広がる規模の断層面を想定すべき, という点である 地表で認定される活断層が3kmの場合に,3km 3kmの大きさの断層が地表直下にあるわけではなく, 深さ3km 程度の地下から地震発生層一杯に広がったM J =6.8(M W =6.5) 程度の地震の結果として, 地表に地震断層 3kmが生じた, と考えることが合理的である したがって, 地震規模と断層面の設定は, 後者のモデルにしたがっておこなわれることが望ましい. 微視的断層モデル ( 非一様断層モデル ) Someville e l.(1999) では, 断層面上ですべり量の大きい部分 ( 大きなモーメント放射のあった場所ともほぼ共通し, アスペリティ (Aspeiy) と称する ) に着目した検討をおこなっている 図 -がアスペリティ抽出( 特性化 ) の過程を示しており, 上段が震源インバージョン解析によって得られたすべり分布を示し, 下段がアスペリティを矩形モデルとして抽出したものである このように, 断層面およびアスペリティを矩形で表現するものを特性化震源モデルと称し, 予測問題で広く用いられている 図 - アスペリティの抽出 ( 上 : 震源インバージョン解, 下 : 特性化モデル )

断層すべりのこのような非一様性は予測地震動に大きく影響し, そのモデル化をいかにうまくおこなうかが重要となる 以下, 震源断層を特定した地震の強震動予測手法( レシピ ) ( 地震調査研究推進本部, 9) に沿って, 活断層調査より得られた情報を基に震源破壊シナリオを設定する一般的な流れを概説する 特殊な事例や設定の詳細については, 同資料を参照することが望ましい 3. 震源断層を特定した地震の強震動予測手法 ( レシピ ) (1) 想定断層の幾何形状の設定対象とする断層について, 既往の評価結果を参考に, 長さ (L), 幅 (W), 走向, 傾斜, 上端深さ ( 図 -1のD 1 ), すべり方向 ( レイク角 ) を設定する 幅の設定にあたっては, 図 -1 に示したように地震発生層での飽和に配慮する () 地震規模の設定長さと幅より断層面積 (S) が得られる 断層面積と地震モーメント (M ) には以下の関係が提案されており, これらを用いて地震規模を設定する ( 図 -3) ふたつの式は, 図 -1で断層幅が飽和する規模よりも小さいか大きいかに対応している S( km S ( km ).31 15 M 3 ( dyne cm) M <7.5x1 5 dyne cm (Someville e l., 1999) ) 4.4 1 11 M 1 ( dyne cm) 7.5x1 5 dyne cm M <7.5x1 8 dyne cm ( 入倉 三宅, 1) (1) () 図 -3 スケーリング則 ( 入倉 三宅, 1) 3

(3) 地震モーメントのセグメントへの配分対象断層が複数のセグメントから構成される場合, 以下の式に従ってセグメントの面積に応じて i 番目のセグメントに地震モーメントを配分する Si M i M (3) 3 S 3 i 面積と地震モーメントより, 以下の関係から平均すべり量 (D) が評価される μは地震発生層の剛性率である (3) 式に従うと, セグメント分割によって平均すべり量は変化しない M D S (4) (4) 短周期レベルとアスペリティの総面積壇 他 (1) は, 地震観測記録の解析から, 短周期レベル ( 加速度震源スペクトルの短周期帯域でのフラットレベル ) と地震モーメントとのスケーリング則を提案している 1 3 17 A( dyne cm / s ).46 1 M ( dyne cm) (5) ここで, 断層面積 (S) に等価な円の半径をR(S=πR ), アスペリティの総面積 (S ) に等価な円の半径を(S =π ) とすると, 以下の関係が導かれる 7 M 4 A R (6) ここに,βは地震発生層のS 波速度である (6) 式より, アスペリティの大きさと短周期レベルが反比例の関係にあることが分かる なお (6) 式の導出には, 以下の 式が用いられている ここに,Δσ はアスペリティの静的応力降下量である M 16 R 7 (Bowigh, 1988) (7) A 4 ( 壇 他, 1) (8) (5) アスペリティと背景領域の平均すべり量 Someville e l.(1999) によると, 以下の式で示される内陸地震におけるアスペリティと断層全体の平均すべり量比 (ξ) はほぼである D D (9) 背景領域 ( アスペリティ以外 ) については,(9) 式で得られたアスペリティのすべり量 (D ) とアスペリティの総面積 (S ) を (4) 式に適用してアスペリティの地震モーメント (M ) を評価し, これを全地震モーメントから除くことで背景領域の地震モーメント (M ) を得る 背景 4

領域の面積 (S ) とともに再び (4) 式で評価すれば, 背景領域の平均すべり量 (D ) を設定する ことができる (6) アスペリティと断層全体の静的応力降下量断層全体を円形クラックとして平均静的応力降下量を評価すると, 以下のように表される (Eshely, 1957) 7 M (1) 3 16 R また,(7) 式を変形すると以下のようになる 7 M (11) 16 R 断層, アスペリティとも円形として (S=πR,S =π ),(1) および (11) 式の比を取ると, S S (1) が導かれる (Mdig, 1979) つまり, 断層全体に対するアスペリティの静的応力降下量の比はアスペリティ面積比に反比例し, アスペリティが小さいほどその静的応力降下量が大きくなる 以上の関係から, まず (1) 式で断層全体の静的応力降下量を求め,(1) 式を用いてアスペリティの静的応力降下量を導くことができる ここで, 地震動に影響する有効応力は, 静的応力降下量と等価と見なす アスペリティ総面積が断層面積に占める割合 (S /S) は (6) 式を介して設定できるが, 例えば震源インバージョン解析に基づくSomeville e l.(1999) の解析では平均値として. が得られている (7) 背景領域の有効応力有効応力は, すべり速度 ( すべり量 (D)/ 立ち上がり時間 (τ)) に比例する 立ち上がり時間は, 断層幅 (W)/ 破壊伝播速度 (V ) に比例する ( 比例係数はレシピでは.5 とされているが, 更に半分程度の方が妥当との検討結果 ( 片岡 他, 3) もある ) ので, 結果として有効応力は ( すべり量 (D) 破壊伝播速度 (V )/ 断層幅 (W)) に比例する 破壊伝播速度は断層面上でほぼ一定と近似できるので, 結局のところ有効応力は ( すべり量 (D)/ 断層幅 (W)) に比例することになる ( 壇 他, ) この関係から, 背景領域の有効応力 (σ ) は, アスペリティの有効応力 (σ ) から導くことができる D W D (13) W 5

(8) 破壊伝播速度破壊伝播速度 (V ) は, 地震発生層の S 波速度 (β) の.7 倍 (Gelle, 1976) から.8 倍 ( 片岡 他, 3) 程度が提案されている (9) すべり時間関数強震動評価に用いる断層すべり時間関数として, 中村 宮武 () によってすべり速度時間関数が提案されている グリーン関数合成法によるすべりの合成関するは基本的にこの関数に類似したものとなっている 長周期地震動の評価に用いる 3 次元差分法で短周期成分までを合理的に表現するためには, この震源時間関数を用いることが望ましい 以下, 具体的な定義について概説する 中村 宮武 () によるすべり速度時間関数は, 以下のように定義されている ( 図 -4) s s d d m o c V d dd,,,,, 1 ) ( (14) ここで, d d m d d V 1, 1 6 5 (15) 図 -4 中村 宮武 () によるすべり速度時間関数このうち, 最大すべり速度振幅 V m, 最大すべり速度到達時間 d,kosov 型関数に移行する時間, ライズタイム が関数を形作るパラメターとなっている 各パラメターは以下のように 6

表現することができる ここに,f mx は高周波数限界,f c はローパスフェイルターのコーナー周 波数 (f mx と同等 ) である d 1 f mx (16) W (17) V V m f c W V (18) (17) 式の α はレシピでは.5 だが, 片岡 他 (3) では.5 程度が適当とされている な お, は全体を積分したすべり時間関数の最終値が設定したすべり量に対応するように求める ことができる (1) 破壊開始点破壊開始点の配置については, 地表活断層トレースの分岐状況から有る程度のルールが設定できるとする考え方がある 地震断層末端部では, 地表地震断層が屈曲し, また分岐するなど複雑な様相を示すことから, 中田 他 (1998) は, 図 -5に示すように, 地表活断層のトレースの特徴から破壊開始点の候補 ( 星印 ) が設定できるとしている また, 近年の内陸地震の震源インバージョン解からは, 破壊開始点の深さは大きなアスペリティ下部にあり, アスペリティでは下から浅い方向へ破壊が伝播することが多いように思える 以上の条件から, 破壊開始点位置は断層面の任意点ではなく, ある程度の絞り込みが可能となりつつある 図 -5 地表活断層の分岐と破壊開始点候補 ( 中田 他, 1998) アスペリティ位置については, 地表活断層の活動度に顕著な差があれば, その大きな場所の地下に置くことが考えられる しかし, そのような調査が詳細におこなわれている断層は少ない また, アスペリティの深さについては, 規模が大きく明瞭な地表断層を生じるものは浅めに, 規模の小さいものはやや深めに設定することが合理的と考えられるが, 現在のところ確実な設定根拠が無い状況である 7

レシピで得られる断層破壊パラメターは平均的な推奨値であり, その設定にはばらつきが含まれる 将来発生する地震の断層破壊シナリオには不確定性があるが, パラメター設定のばらつきを, 現状の知識不足による設定のばらつき と 自然現象の不確定性によるばらつき に分けて認識し, 前者のばらつきをできるだけ小さくする努力が払われるべきである このような状況を踏まえ, 現状で強震動予測, それも耐震設計に用いるための予測をおこなう必要がある場合には, 次の 通りの設定法が考えられる 確定的アプローチ 特に重要な施設の耐震設計においては, その地震断層で想定される最大の地震動を模索し, アスペリティを対象サイトに最も影響する位置に配置し, フォーワード ディレクティビティの影響が対象サイト方向に最も大きくなるように破壊開始点を配置する いずれの場合も, 多少のパラメトリック スタディをおこない, 対象構造物に影響する周期帯の地震動が最も大きくなるケースの波形を採用する 極論を言えば, 対象サイトがフォーワード ディレクティビティ パルスによって狙撃されるような設定 ( 図 -6) を検討すべき設定の中に含むように配慮することが望ましい 統計的アプローチ アスペリティおよび破壊開始点の配置をランダムかつ無数に設定し, 多くのシミュレーションをおこなう 得られた計算波形を ( 応答 ) スペクトルで評価し, 平均値, 平均 +1σ, 平均 +σなど, 対象施設の重要度に応じて設計スペクトルを設定する ただし, この時に設定するスペクトルにフィッティングして新たな模擬波形を作成し, 顔の無い地震波形を用いるのではなく, その設定スペクトルに最も近いスペクトルを与えるリアルな計算波形を用いることが望ましい 図 -6 対象サイトがフォーワード ディレクティビティ パルスの影響を強く受ける設定 8

4. アスペリティと背景領域より構成される断層破壊シナリオによる強震動評価 統計的グリーン関数合成法では任意の要素地震波を生成することができるので, 以上のようにして得られた地震モーメントおよび応力パラメターから各アスペリティと背景領域の要素地震波を作成し, それぞれがω - 則を満たすように重ね合わせパラメターを設計して合成すれば良い ( 図 -6) このとき, 破壊開始点 ( 星印 ) からの時間遅れは, 全ての計算で共通に与える 絶対時刻を揃えて得られた地震波形を足し合わせることにより, 大地震による地震動を合理的にシミュレーションすることができる 図 -6 アスペリティと背景領域より成る断層の強震動評価法 5. 参考文献 Bowigh, J.: The seismic diion fom composie models of fuling, Bull. Seism. Soc. Am., 78, 489-58, 1988. 壇一男 渡辺基史 佐藤俊明 石井透 : 断層の非一様すべり破壊モデルから算定される短周期レベルと半経験的波形合成法による強震動予測のための震源断層のモデル化, 日本建築学会構造系論文集,545,51-6,1. 壇一男 佐藤俊明 入倉孝次郎 : アスペリティモデルに基づく強震動予測のための震源モデルの特性化手法, 第 11 回日本地震工学シンポジウム, 555-56,. Eshely, J. D. : The deeminion of he elsic field of nd ellipsoidl inclusion, 9

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付録 A レシピに沿った基本的なパラメター設定 (ecepi.xls) 1) 内容表計算ソフト (Excel) の機能を用いて, 震源断層を特定した地震の強震動予測手法( レシピ ) ( 地震調査研究推進本部, 9) に沿って断層破壊のパラメターを設定するテンプレート ファイルである なお, 本ファイルではマクロ機能を用いていない 利用するにあたっては, オリジナル ファイルは保存した上で, コピーしたファイルで作業することを推奨する ( 解説図は Excel 7 で実行した際のもの ) ) 入力パラメターファイルを開くと図 -1の状態になる D 列に赤字で示される数値が入力すべきパラメターになる これらを変更すると, その都度新しい設定で青字のパラメターが変更される ( 断層走向が黒字になっているが, これはパラメターの計算には利用されない ) 図 -1 ファイルを開いた状態 アスペリティ面積比, すべり量比, 立ち上がり時間比については推奨値を参考に入力できるようにしているが, あまりかけ離れた値を用いることは好ましくない また, 断層面の分割によってはアスペリティ面積など計算された値をそのまま用いることが困難な場合があると思 11

われる その場合は, 得られた値を推奨値としてそれに近い値を実計算に用いるなどの配慮が必要である 断層が複数セグメントで構成される場合は, 本文 (3) 式で各セグメントに地震モーメントを配分した上で, セグメント毎にパラメターを設定すれば良い ひとつの断層あるいはセグメントに複数のアスペリティを設定する場合は, 震源断層を特定した地震の強震動予測手法( レシピ ) ( 地震調査研究推進本部, 9) を参照に応用されたい 1