褥瘡会誌 (2014) (Jpn J PU),16(2):135 143,2014 135 原 著 パークベンチ体位における陰圧式固定具 体圧分散用具での 固定法の褥瘡予防における有効性と発汗の影響についての検討 吉村美音 長田理 河野道宏 豊田美和 大橋正悟 秋月種高 Effectiveness of using a new perioperative fixation method in the park-bench position, combining a decompression posture fixation device with a support surface, for the prevention of pressure ulcers and influence of perspiration Mine Yoshimura, RN ;Osamu Nagata, MD, PhD ;Michihiro Kohno,MD, PhD ; Miwa Toyoda, RN, WOCN ;Shogo Ohashi,RN and Tanetaka Akizuki, MD, PhD 1) Department of Nursing, Tokyo Metropolitan Police Hospital 2) Department of Anesthesiology, Cancer Institute Hospital, Japanese Foundation for Cancer Research 3) Department of Neurosurgery, Tokyo Metropolitan Police Hospital 4) Department of Plastic Surgery, Tokyo Metropolitan Police Hospital Abstract There have been many reports describing that a park-bench position is a risk factor for the occurrence of pressure ulcers because this position loads higher external pressure and shear stress than other positions. Therefore, we started to use a new perioperative fixation method, which involves combining a suction pressure posture fixation device with a support surface, for patients undergoing neurosurgery in the park-bench position. We retrospectively compared the incidence of pressure ulcers between the conventional and new methods in 135 patients. Pressure ulcers occurred in 20 of 66 cases(30%)treated using the conventional method, and in 10 of 69 cases(14%)treated using the new method, indicating that the new method significantly decreased the incidence of pressure ulcers compared with the conventional one(p = 0.03). Perspiration is one of the general risk factors for pressure ulcers. In the absence of perspiration, the new method was associated with a significantly lower rate of ulcers than the conventional method(p = 0.04). However, with perspiration, the new method did not significantly reduce the incidence of pressure ulcers. Therefore, the new method was effective in a clinical setting without perspiration. We plan to investigate a method for preventing pressure ulcers in patients with perspiration. Key words:park-bench position, support surface, decompression posture fixation device, perioperative risk factors for pressure ulcer, perspiration 東京警察病院看護部 公益財団法人がん研究会がん研究会有明病院麻酔科 東京警察病院脳神経外科 東京警察病院形成外科 別刷請求先 : 吉村 美音 東京警察病院看護部 164-8541 東京都中野区中野 4-22-1 E-mail:miney-tky@umin.ac.jp 原稿受領日 2013 年 3 月 19 日
136 パークベンチ体位での陰圧式固定具を用いた褥瘡予防 要 旨 側臥位やパークベンチ体位では, 外圧とずれが負荷されるため褥瘡発生リスクが高い そこで, 脳神経外科にてパー クベンチ体位で手術を行った患者 135 例を対象に, 除圧とずれ予防に配慮した陰圧式固定具と体圧分散マットレスを併用した体位固定法 ( 改善法 ) を用い, 褥瘡予防効果について従来法と改善法の褥瘡発生率を比較検討した 褥瘡発生は従来法 20/66 例 (30%), 改善法 10/69 例 (14%) に発生し, 改善法で有意に褥瘡発生率が低かった (P =0.03) また, 術中褥瘡発生危険因子と考えられる発汗の有無での体位固定法別の発生率は, 発汗なし群では改善法が有意に低値 (P = 0.04) であったが, 発汗あり群では 2 群間に有意差はなかった 以上から, 発汗のない状況では改善法が有効であるものの, 発汗のある状況では接触皮膚に生じるすれ力が大きくなり褥瘡予防効果が得られなかったため, 今後さらに発汗による皮膚湿潤に対する対策が必要と考えられた キーワード : パークベンチ体位, 陰圧式固定具, 体圧分散マットレス, 術中褥瘡発生危険因子, 発汗 はじめに 病棟での褥瘡発生はこの 10 年間で減少傾向にあるが 1 3), 周術期の褥瘡発生に関してはいまだ対策が不十分である 4) 2006 年度から褥瘡ハイリスク患者ケア加算が導入され, 周術期に関する項目として 6 時間以上の全身麻酔下による手術 と 特殊体位による手術 が褥瘡ハイリスクであり適切な予防策を講じることが求められている 5) 手術体位は, 安全な手術施行のために術野の確保と手術操作を妨げず, 強固な体位固定が求められるため, 褥瘡予防の優先度は低く, 実際には褥瘡予防とは相反する状況下で手術が行われることが多い たとえば, 脳神経外科で用いられる側臥位の特殊体位であるパークベンチ体位は褥瘡発生に関する報告が多い 6, 7) 近年, 側臥位および側臥位の特殊体位に対して, 陰圧式固定具 ( マジックベッド R : オカダ医材株式会社, バキュフォーム R : 村中医療器株式会社 ) を用いた固定方法が多く報告されており, 手術中の固定具としての利便性の報告があるものの, 褥瘡予防効果については一定の見解を得ていない 8, 9) また, 陰圧式固定具の固定能力の高さはずれの少なさにつながるため褥瘡予防に有効であるものの 1), 陰圧式固定具だけでは褥瘡発生を予防できないという報告もあり, 体圧分散マットレスなどの除圧用具の併用も推奨されている 6, 9, 10) 今回われわれは, 側臥位の特殊体位であるパークベンチ体位で脳神経外科手術が行われた患者を対象に, 除圧とずれ予防を施した陰圧式固定具と体圧分散マットレスを併用した体位固定方法 ( 改善法 ) を行い, すでに報告したパークベンチ体位における術中褥瘡発生 11) 危険因子の一つである発汗の有無で, 褥瘡予防効果について従来の方法と改善法との褥瘡発生率を比較検討した 対象と方法. 対象 2010 年 4 月から 2011 年 3 月までに当院脳神経外科にてパークベンチ体位で手術が施行された連続した 135 症例を対象とした このうち,2010 年 4 月から8 月までに側板 低反発マットレスを用いて体位固定を施した従来法群 66 例と,2010 年 9 月から2011 年 3 月までに陰圧式固定具 体圧分散マットレスを用いて体位固定を施した改善法群 69 例に分類し, 遡及的に調査を行った. 体位固定方法の実際従来法, 改善法とも同一の手術台 ( マグナス R : マッケ ジャパン社 ) を使用した 従来法での体圧分散は, 手術台に付属する厚さ 8cm のマットレス上に, 低反発マットレス ( トゥルースリーパープレミアム R : オークローンマーケティング社 ) を重ねて敷いて行った 体幹の固定は, 前胸部, 背部, 腰部, 恥骨部の 4ヵ所で行った 側板と体幹の間に低反発マットレスを挟み局所の体圧分散も考慮した ( 図 1) 改善法では, 手術台に付属するマットレスの上にマジックベッド R ( 以下, 陰圧式固定具 ) を置いた 陰圧式固定具は,920 720 45mm の塩化ビニール樹脂のバック内にポリエチレンビーズが入っており, 陰圧で吸引することでビーズが固まり体位固定を行う構造になっている 陰圧式固定具の上に底付き予防のために 40011 アクションパッド ( アクションジャパン社以下, パッド ) を敷いた 体圧分散は, 体幹には陰圧式固定具と同じ大きさの体圧分散マットレス ( ソフトナースイエローピンク R : ラックヘルスケア社 ) と下腿にもソフトナース R をパッドの上に置いた ( 図 2) ソフトナース R と陰圧式固定具で体幹を包み込み, 側板で4ヵ所固定した ( 図 3) 従来法, 改善法とも手術台に接する下側の上肢はパークベンチ体位用の上肢台に乗せ, 上側の上肢は上肢台には乗せず体幹に沿わせて綿製のひも ( 幅 8cm)
褥瘡会誌 2014 137 図 従来法の体位固定方法 前方より 側板と体幹の間に 低反発マットレスを挟み局所の体圧分散も考慮した 前胸 部 恥骨部 背部 腰部の 4ヵ所を側板で固定した 下腿は関節が重なり合わない ように また 手術台の傾斜でずれないようにスポンジを挟んで固定した 図 改善法のベッドセッティング ①手術台 ②マジックベッド ③アクションパッド ④体幹用 下腿用ソフトナース の順に設置した 図 改善法の体位固定方法 前方より 頭側より ソフトナース イエローピンク とマジックベッド で体幹を包み込み 側板で 4ヵ所 固定した 下腿は改善法と同様の方法で固定した で固定した 下腿は 体圧分散用にスポンジ EM トーヨーソフランテック社 を用い 膝関節が重な り合わないように固定した 図 1, 3 担当の看護師 によって生じる手技および体位のばらつきを最小限に するため 体位固定方法のマニュアルを作成するとと もに術前に模擬患者を用いた訓練によりイメージの統 一を図った エルゴチェック による体圧分散の比較 研究開始前に改善法での体圧の減少の程度を確認し た 測定器はエルゴチェック ABW 社 以下 体圧 分布測定器 を使用して 当院手術室看護師の健常男 性 1 名を対象としてマットレスの上に体圧分布測定器
138 パークベンチ体位での陰圧式固定具を用いた褥瘡予防 を敷いて従来法と改善法で体位を固定した その後, 手術台を約 10 度頭側挙上して体圧測定を実施した. 調査項目背景因子として, 年齢, 性別,BMI(Body Mass Index), 術前の全身状態の評価分類である ASA (American Society of Anesthesiologists)PS(Physical Status) 分類, 手術時間, 手術終了時体温, 出血 12) 量, 輸血量, 総タンパク値, ヘモグロビン値, 既往歴, 褥瘡発生の既往, 麻痺, 喫煙歴, アレルギー, 浮腫, 皮膚乾燥, 骨突出, 皮膚保護材の使用, 手術台の傾斜の有無を, 周術期褥瘡経過観察用紙, 電子カルテの麻酔記録, 看護記録を用いて調査 集計した 既往歴の高血圧, 糖尿病, 心疾患, 貧血, リウマチ, 麻痺については, 麻酔科医師の術前診察記録を参考に一つでも該当すれば あり とした 浮腫は下腿脛骨前面で浮腫の有無を確認し, 浮腫が認められれば あり とし, 皮膚乾燥は全身で一ヵ所でも皮膚乾燥が認められれば あり とし, 骨突出は, 身体で一ヵ所でも骨突出が認められれば あり とし, 発汗の有無については, 手術終了時に患者の体幹と顔面を観察し, 肉眼的に発汗が確認できるものを あり とした 血液データでは, 栄養状態低下の評価には血清アルブミンが推奨されている 13) が, 当院では血清アルブミンは術前検査項目に含まれていないため検討が困難であった さらに, 脳神経外科で後頭蓋窩腫瘍摘出術や微小血管減圧術を受ける患者は比較的全身状態が良好な患者が多い 14) 13) ため, 総タンパクを栄養状態の指標, ヘモグロビンを貧血の指標に用いた 15) 褥瘡発生率は, 従来法と改善法の各群で求め, 術中褥瘡発生危険因子 11) の一つと考えられる発汗の有無で比較した. 褥瘡の定義 16) 褥瘡発生直後から約 1 3 週間は急性期褥瘡と呼ばれるが, 手術直後の褥瘡に関しての明確な定義はな 17) いため,NPUAP のステージ分類を参考に手術終了時に発赤が発生していて,24 時間後の術後回診で消退しなかった発赤をステージⅠの褥瘡と判定した また, 水疱形成と表皮剝離をステージⅡとした. 統計学的分析統計学的解析には, 統計解析ソフト JMP for Windows Ver 9.0.3(SAS Institute Japan) を使用した 対象患者における背景因子の検定には, 体位固定法別で 2 群に分け, 各項目での単変量解析とともに,2 群の比率の差の検定にはχ 2 検定法を用い,2 群間の差の検定には対応のない t 検定または Mann-Whitney U 検定を用いた 体位固定法別および発汗の有無での褥瘡発生率の検定については, 体位固定法別では従来法 改善法, 発汗では発汗あり なしで 2 群に分けて χ 2 検定法を用いた さらに, 褥瘡発生の有無を目的 変数とし, 体位固定法と発汗の有無を説明変数として組み込んだロジスティック回帰分析を行い,P < 0.05 の変数を有意とした. 倫理的配慮本研究の施行にあたり, 事前に当院倫理委員会の審査と承認を受けた データは本研究の目的以外に使用しないこと, 匿名化したうえで使用後すみやかに破棄することとした 結. 体圧分布測定器による体圧分散の比較従来法において 50mmHg 以上の圧が負荷されていた部位は側胸部と大転子部で, 改善法では側胸部のみで, その面積も縮小していた さらに, 改善法で身体とマットレスとの接触面積の拡大も確認され, 従来法と改善法では身体が高い圧で圧迫される部位と面積, 身体とマットレスとの接触面積に差が認められた ( 図 4). 対象患者における背景因子対象患者の年齢と性別は, 従来法では平均年齢 45.5 ± 15.7 歳 (± 標準偏差 ), 男性 25 例, 女性 41 例の合計 66 例であった 従来法の患者背景因子として高血圧 4 例, 糖尿病 4 例, 心疾患 2 例, 喘息 4 例, リウマチ1 例の基礎疾患が認められた 術式は, 小脳橋角部腫瘍摘出術 60 例, 微小血管減圧術 6 例で, 手術時間は 383.9 ± 93.4 分 (± 標準偏差 ) であった 改善法では平均年齢 46.6 ± 14.1 歳 (± 標準偏差 ), 男性 31 例, 女性 38 例の合計 69 例であった 高血圧 3 例, 糖尿病 2 例, 心疾患 1 例, 喘息 3 例, 貧血 1 例の基礎疾患が認められた 術式は, 小脳橋角部腫瘍摘出術 65 例, 微小血管減圧術 4 例で, 手術時間は 383.0 ± 82.0 分 (± 標準偏差 ) であった 体位固定法別の患者背景を表 1に示す 両群間で ASA PS 分類, 総タンパク値, ヘモグロビン値で有意差が認められた 栄養状態の指標である総タンパク 13) は, 従来法では術前目標値の目安である総タンパク 6.0g/dl 18) より低い症例は含まれていなかったが, 改善法では 69 例のうち 5 例で低値を示した 従来法 66 例のうち 12 例 ( 高血圧 4 例, 糖尿病 4 例, 心疾患 2 例, 喘息 1 例, リウマチ1 例 ), 改善法では 69 例のうち 10 例 ( 高血圧 3 例, 糖尿病 2 例, 心疾患 1 例, 喘息 3 例, 貧血 1 例 ) で周術期の褥瘡発生危険因子とされる基礎疾患, 糖尿病, 高血圧, 呼吸器疾患, 心臓疾 18) 患, 貧血があったものの病態は治療されており, ASA PS 分類 1 または 2 であった 体位固定法別の ASA PS 分類は従来法で PS 分類 1 が 55 例,PS 分類 2 が 11 例で, 改善法では PS 分類 1が39 例,PS 分類 2 が 30 例であった さらに, 貧血の指標であるヘモ 果
褥瘡会誌 2014 139 a b 図 エルゴチェック による体圧分散の比較 10 度の頭側挙上時 g a 側胸部と大転子部で 50mmHg 以上の体圧が測定された また 改善法と比較して体幹と マットレスとの接触面積も小さい g b 側胸部のみで 50mmHg 以上の体圧が測定され 従来法と比較して範囲も縮小していた ま た 従来法と比較して体幹とマットレスとの接触面積の拡大を認めた g 表 従来法と改善法の患者背景 n = 135 従来法 n = 66 改善法 n = 69 P値 45.5 ± 15.8 46.5 ± 14.1 0.6837 25/41 31/38 0.406 23.3 ± 4.5 22.4 ± 3.0 0.146 11/55 39/30 0.0006* 383.9 ± 93.4 383 ± 82 0.8069 37.8 ± 0.6 37.7 ± 0.7 0.0934 出血量 ml 225.4 ± 262.3 206.3 ± 155.6 0.8758 輸血量 ml 149.4 ± 234.6 150.1 ± 149.1 0.1197 年齢 歳 性別 男 / 女 BMI PS 分類 1 2 手術時間 分 手術終了時体温 総蛋白 g/dl 7.1 ± 0.4 6.8 ± 0.5 0.002* ヘモグロビン g/dl 13.3 ± 1.7 12.5 ± 1.8 0.0007* 高血圧 あり なし 4/62 3/66 0.7142 糖尿病 あり なし 4/62 2/67 0.434 心疾患 あり なし 2/64 1/68 0.6139 喘息 あり なし 4/62 3/66 0.7142 0/66 1/68 0.0007* 1/62 0/69 0.4889 褥瘡発生の既往 あり なし 0/66 0/69 麻痺 あり なし 3/63 1/68 0.3584 喫煙歴 あり なし 14/52 14/55 0.8949 アレルギー あり なし 19/47 13/56 0.1735 浮腫 あり なし 0/66 0/69 既往歴 貧血 Hb 9.0g/dl 以下 あり なし リウマチ あり なし 皮膚乾燥 あり なし 2/64 3/66 1.0000 骨突出 あり なし 18/48 21/48 0.5824 皮膚保護材使用 あり なし 65/1 68/1 1.0000 手術台の傾斜 あり なし 5/61 7/62 0.7645 数値は平均値 ±標準偏差 *P 0.05 Mann-Whitney U 検定を用いて解析 BMI Body mass index PS 分類 Physical status 分類
140 パークベンチ体位での陰圧式固定具を用いた褥瘡予防 表 体位固定法別の褥瘡の程度と褥瘡発生率 n = 135 程度 従来法 改善法 ステージⅠ 18 9 ステージⅡ 2 1 計 20/66 30% 10/69 14% P = 0.03* *P 0.05 a b 大浦武彦 現場の疑問に答える褥瘡診療 Q&A 宮地良樹 真田弘美 編集,5, 中外医学社, 東京, 2008. 図 褥瘡発生部位 a 従来法 b 改善法 表 発汗の有無での体位固定法別褥瘡発生率 n = 135 従来法 改善法 P値 発汗あり 7/10 70% 5/9 56% 0.65 発汗なし 13/56 23% 5/60 8% 0.04* *P 0.05 15 19 グロビン 9.0g/dl 以下の症例は従来法ではなかった が 改善法では 69 例のうち 1 例が低値あり 従来法 散していた 図 5 また ステージⅡの症例は従 来法で側胸部に水疱と表皮剝離をそれぞれ 1 例ずつ認 より改善法での対象者の全身状態の指標が劣ってい た 固定方法と発汗が褥瘡発生に及ぼす影響 褥瘡が発生した症例数は 従来法 20/66 例 30 め 改善法では側胸部に水疱を認めた 両群ともス テージⅠ Ⅱの褥瘡が深部損傷褥瘡 Deep Tissue Injury に移行した症例は認められなかった 発汗の有無と 2 つの体位固定法における褥瘡発生率 改善法 10/69 例 14 であり改善法での発生率が有 意に低かった P = 0.03 表 2 褥瘡発生部位は 従来法ではパークベンチ体位での褥瘡好発部位のなか について 発汗がある状況では両群間で有意差を認め なかったが 発汗がない状況では改善法は有意に発生 率が低値であった P = 0.04 表 3 また 発汗の でも側胸部に集中していたが 改善法では各部位に分 有無ごとに褥瘡発生率を比較したところ 発汗あり群
褥瘡会誌 (2014) 141 表 体位固定法と発汗の有無でのロジスティック回帰分析結果 n = 135 発汗なし ; 従来法 オッズ比 (95%CI) 1 発汗なし ; 改善法 0.51(0.295-0.927) 発汗あり ; 従来法 2.41(1.094-5.334) 発汗あり ; 改善法 2.33(1.06-5.16) では従来法 70% に対して改善法 56% で相対危険減少率 20% であった 発汗なし群では従来法 23% に対して改善法 8% となり相対危険減少率 65% であった 両群間で相対危険減少率が同様でないことから, 褥瘡発生に影響を及ぼす発汗の有無と体位固定法の 2 つの要因には交互作用があると考えられたため, ロジスティック回帰分析には体位固定法と発汗の有無を組み合わせた新たな変数を作成して検討した ロジスティック回帰分析においても発汗がない状況では, 褥瘡予防に改善法が有効であることが示された しかし, 発汗がある状況では両群間で褥瘡予防効果に有意差は認められなかった ( 表 4) 考察パークベンチ体位における腫瘍摘出術では, 一般的に手術時間が長く, 平均 8 時間の同一体位を強いられることから, 皮膚損傷を起こすリスクが高い 6) また, 側臥位は仰臥位と比較すると, マットレスと患者の体幹との接触面積が約 1/2 と小さいために体圧分散を行いがたく, 側胸部に高い圧力が持続的に負荷される 20) 特にパークベンチ体位では, 頭部と一部の上半身が手術台の外側で把持される姿位となるため, 一般的な側臥位よりもさらに接触面積が小さくなり褥瘡が発生しやすい状況にある さらに, パークベンチ体位を用いる後頭下開頭による脳神経外科の手術では, 背側の手術部位を顕微鏡で観察しながら腫瘍を摘出するため, 手術台を患者の腹側に傾斜 ( ローテーション ) させて術野を確保する この傾斜によって手術台の上に身体が 1/2 しか接していない側臥位では, 重心の位置が高く患者の身体は不安定な状態になる このような複数の理由から, パークベンチ体位のような手術時の特殊体位が褥瘡発生に深く関与していることが報告されている 7, 21) 一般的に病棟での褥瘡予防には, 体圧分散用具による圧再分配が推奨されている 22) しかし, 手術時の体 位固定は手術操作の容易化や安全性が優先されるため, 褥瘡予防対策の優先度は低くなり, 経時的な接触部分の変化 すなわちコンピュータ制御のエアーマットレスなどを使用することは困難である さらに, 褥瘡を予防するために手術時間を短縮することは現実には不可能であるため, 手術に支障がない範囲で体位固定方法を工夫して褥瘡予防を実施しなければならない このような理由により, われわれはパークベンチ体位において 2 つの観点から褥瘡を予防することが重要であると考えた 一つは重心が高く手術台を傾斜させることで患者の身体が動揺し, ずれ力が発生することに対して, 身体が安定するように陰圧式固定具を使用して身体を包み込むように体位固定を行うこと, もう一つは接触面積が小さい側臥位で体圧分散を図り, 陰圧式固定具による圧力を側面でも除圧するために 沈める と 包む ことを主体とした静止型体圧分散マットレスを使用することである この2つの観点から, パークベンチ体位において患者の身体を安定させる方法として, 陰圧式固定具が有効という報告がある 8, 10) 陰圧式固定具は構造上, 患者の体型に合わせやすく, 体幹を広範囲に包み込むような体位固定が可能である 8) また, 側臥位やパークベンチ体位での体位固定方法の工夫として陰圧式固定具の利便性が報告され, さらに側板などの固定具よりも褥瘡発生率が低いとされている 8) 一方で, 陰圧式固定具が完全に硬化するには陰圧での吸引が最低 2 分間を必要とすることにも注意が必要である 吸引する時間が短いと硬化が不十分となり強固な体位固定が行えない場合や, 陰圧式固定具が変形し, その部分が突出することで身体を圧迫して褥瘡を発生させる場合がある このように, 吸引によって硬化する陰圧式固定具には褥瘡予防に体圧分散マットレスなどの除圧用具を併用する必要がある 6, 9, 23) 吉川らは, 陰圧式固定具と静止型体圧分散マットレスの使用を報告した 6) この方法は田中らが, 仰臥位時のローテーション時の
142 パークベンチ体位での陰圧式固定具を用いた褥瘡予防 ポジショニングとして, 陰圧式固定具による固定がずれを予防すると同時に, ウレタンフォームによる除圧が効き, ローテーションを行っても体圧がほとんど変化しない 11) ことを検証している 体圧分布測定器による体圧測定では, 従来法での低反発マットレスでは体圧分散が不十分で, 身体とマットレスとの接触面積も小さかった このため, パークベンチ体位での褥瘡好発部位である側胸部と大転子部に圧が集中し, 体圧が高くなっていると考え改善法を考案した 改善法では身体とマットレスとの接触面積が大きくなっており, 側胸部と大転子部の圧が低下していることが確認された 臨床現場では改善法の患者群は, 従来法の患者群にくらべて栄養状態,ASA PS 分類などの全身状態の 24) 指標が劣っており, 褥瘡が発生しやすい状況だったにもかかわらず褥瘡発生率は減少しており, 改善法は褥瘡予防に有効であると考えられた 先行研究でわれわれは発汗が術中の褥瘡発生危険因子の一つであると報告した 11) 本研究では発汗の有無で褥瘡発生率に有意差が認められ, 発汗のない状況では改善法が有効であるものの, 発汗のある状況では改善法であってもずれ力が大きくなる可能性があるため, 今後さらに発汗に対する対策が必要と考えられた 皮膚湿潤を抑制するために, 麻酔科医と術者の協力を得て, 術中の発汗をどのように制御するかを検討することが今後の課題である まとめ パークベンチ体位での体位固定法は, 発汗がない状況では陰圧式固定具 体圧分散マットレスが有効であるが, 発汗がある状況では褥瘡予防効果が得られなかった 発汗による湿潤環境はずれや摩擦とともに皮膚の脆弱性が増大するため, 今後さらに発汗による皮膚の湿潤に対する対策が必要と考えられた 謝 稿を終えるにあたり, ご協力いただいた東京警察病院看護部長谷川恵梨さん, 石園夢さんに深謝いたします 本論文の要旨は, 第 14 回日本褥瘡学会学術集会 (2012 年 9 月 1 日, 横浜 ) にて発表した 利益相反 なし 文 1) 岡芹繁, 高橋陽子, 佐鳥紀輔, ほか : 神経疾患専門病院 辞 献 における褥瘡対策の予防治療効果と医療経済的評価. 褥瘡会誌, 6(4):567-570,2004. 2) 祖父江正代, 棚橋幸子, 堀佐知子, ほか : 褥瘡発生状況からみたスキンケア検討会活動の成果. 褥瘡会誌, 7 (1):43-52,2005. 3) 石川治 :NEW 褥瘡のすべてがわかる,( 真田弘美, 宮地良樹編集 ), 475-482, 永井書店, 大阪, 2012. 4) 田中マキ子, 中村義徳 : 動画でわかる手術患者のポジショニング, ( 田中マキ子, 中村義徳編集 ), 2-6, 中山書店, 東京, 2007. 5) 日本褥瘡学会編集 : 平成 18 年度 (2006 年度 ) 診療報酬改定褥瘡関連項目に関する指針, 42-43, 照林社, 東京, 2006. 6) 吉川賢行, 生明直子, 秋山由美子, ほか : パークベンチ位での皮膚トラブルに対する体位物品の検討. 日手術医会, 28(3):37-39,2007. 7) 高橋亜矢子, 秋山由美子, 生明直子, ほか : 脳外科手術パークベンチ位での褥瘡対策 体圧分散マットと低摩擦表面パッドを併用して. 日手術医会, 29(3): 51-52, 2008. 8) 谷田勝志, 久保仁, 松本毅, ほか : 側臥位に用いる固定具の有用性に関する検討. 日手術医会, 18(1): 27-29,1997. 9) 清家卓也, 中西秀樹, 橋本一郎, ほか : 陰圧式体位保持具使用に関する術中褥瘡の 1 例. 褥瘡会誌, 12(4): 536-540, 2010. 10) 田中マキ子, 中村義徳 : 動画でわかる手術患者のポジショニング,( 田中マキ子, 中村義徳編集 ), 33-35, 中山書店, 東京, 2007. 11) 吉村美音, 長田理, 河野道宏, ほか : パークベンチ体位での術中褥瘡発生危険因子の検討. 日臨麻会誌, 33 (1), 75-83, 2013. 12) 杉田知子 : 麻酔の基礎知識と周術期ケア全身麻酔 領域麻酔の実際と術前 術中の患者管理,( 釘宮豊城, 西村欣也編集 ), 90-93, 医学芸術社, 東京, 2010. 13) 日本褥瘡学会編 : 褥瘡予防 管理ガイドライン, 56-58, 照林社, 東京, 2009. 14) 小西敏郎編集 : 手術看護のポイント速習ブック, オペナーシング 2010 臨時増刊, 111-118, メディカ出版, 大阪, 2010. 15) 丸山貴美子 : 周手術期看護,( 森田孝子監修 ), 38-39, 学習研究社, 東京, 2007. 16) 日本褥瘡学会編 : 在宅褥瘡予防 治療ガイドブック, 88-89, 照林社, 東京, 2009. 17 ) 日本褥瘡学会編 : 褥瘡予防 管理ガイドライン, 20-21, 照林社, 東京, 2009. 18) 中野真寿美, 前川三奈 : 手術体位をレベルアップ! 3 施設から分析する共通点とカラー写真で学ぶ皮膚ト
褥瘡会誌 (2014) 143 ラブル, オペナーシング, 25(2):69-73, 2010. 19) 大浦武彦 : 現場の疑問に答える褥瘡診療 Q&A( 宮地良樹, 真田弘美編集 ), 2-6, 中外医学社, 東京, 2008. 20) 田中マキ子, 中村義徳 : 動画でわかる手術患者のポジショニング,( 田中マキ子, 中村義徳編集 ), 52-53, 中山書店, 東京, 2007. 21) 西澤幸子 : 術中褥瘡予防の基本と人工骨頭置換術時の褥瘡予防 その 1. メディア視覚教材実践手術看, 3 (4):73-78, 2009. 22 ) 日本褥瘡学会編 : 褥瘡予防 管理ガイドライン, 48-50, 照林社, 東京, 2009. 23) 田中マキ子, 中村義徳 : 動画でわかる手術患者のポジショニング,( 田中マキ子, 中村義徳編集 ), 46-51, 中山書店, 東京, 2007. 24) 日本褥瘡学会編 : 在宅褥瘡予防 治療ガイドブック, 42-43, 照林社, 東京, 2008.