H26_大和証券_研究業績_C本文_p indd

Similar documents
られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

生活習慣病の増加が懸念される日本において 疾病の一次予防はますます重要性を増し 生理機能調節作用を有する食品への期待や関心が高まっている 日常の食生活を通して 健康の維持および生活習慣病予防に努めることは 医療費抑制の観点からも重要である 種々の食品機能成分の効果について数多くの先行研究がおこなわれ

2015 年度 SFC 研究所プロジェクト補助 和食に特徴的な植物性 動物性蛋白質の健康予防効果 研究成果報告書 平成 28 年 2 月 29 日 研究代表者 : 渡辺光博 ( 政策 メディア研究科教授 ) 1

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

ルグリセロールと脂肪酸に分解され吸収される それらは腸上皮細胞に吸収されたのちに再び中性脂肪へと生合成されカイロミクロンとなる DGAT1 は腸管で脂質の再合成 吸収に関与していることから DGAT1 KO マウスで認められているフェノタイプが腸 DGAT1 欠如に由来していることが考えられる 実際

Untitled

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

別紙様式 (Ⅵ)-2 商品名 : エクササイズダイエット 届出食品に関する表示の内容 科学的根拠を有する機能性関与成分名及び当該成分又は当該成分を含有する食品が有する機能性一日当たりの摂取目安量 本品には 3% グラブリジン含有甘草抽出物が含まれます 3% グラブリジン含有甘草抽出物は 肥満気味の方

脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

平成24年7月x日

Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

HAK2906.mcd

Microsoft Word CREST中山(確定版)

Microsoft Word - Ⅲ-11. VE-1 修正後 3.14.doc

15K00827 研究成果報告書

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

Microsoft Word - FHA_13FD0159_Y.doc

( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

1. はじめに C57BL/6J マウスは食餌性肥満 (Diet-Induced Obesity) モデルで最も一般的に使用される系統です このモデルは, 肥満に関する表現型の多くを発現し, ヒトに類似した代謝疾患, 高脂血症, 高インスリン血症, 高レプチン血症を発症します 本モデルは, 主に肥満

スライド 1

スライド 1

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

<4D F736F F D20824F B678DE897B294565F95F18D908F912E646F6378>

H24_大和証券_研究業績_p indd

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

<8CBA95C4985F95B62E786477>

Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

GJG160842_O.QXD

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 01.doc

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

( 様式甲 5) 氏 名 渡辺綾子 ( ふりがな ) ( わたなべあやこ ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲 第 号 学位審査年月日 平成 27 年 7 月 8 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 学位論文題名 Fibrates protect again

H27_大和証券_研究業績_C本文_p indd

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

アントシアニン

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

Microsoft Word - 手直し表紙

<4D F736F F D EA95948F4390B3817A938C91E F838A838A815B835895B68F F08BD682A082E8816A5F8C6F8CFB939C F

「中小企業・ベンチャー挑戦事業の内実用化研究開発事業」の進め方について

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

Microsoft Word - 3.No._別紙.docx

Untitled

Powered by TCPDF ( Title 非アルコール性脂肪肝 (NAFLD) 発症に関わる免疫学的検討 Sub Title The role of immune system to non-alcoholic fatty liver disease Author

<4D F736F F D EC969E82C582E0939C C982C882E882C982AD82A295FB964082F094AD8CA A2E646F63>

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

32 小野啓, 他 は変化を認めなかった (LacZ: 5.1 ± 0.1% vs. LKB1: 5.1 ± 0.1)( 図 6). また, 糖新生の律速酵素である PEPCK, G6Pase, PGC1 α の mrna 量が LKB1 群で有意に減少しており ( それぞれ 0.5 倍,0.8 倍

2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス

Untitled


( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

平成14年度研究報告

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

平成23年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

要旨 グレープフルーツや夏みかんなどに含まれる柑橘類フラボノイドであるナリンゲニンは高脂血症を改善する効果があり 肝臓においてもコレステロールや中性脂肪の蓄積を抑制すると言われている 脂肪肝は肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まった状態で 動脈硬化を始めとするさまざまな生活習慣病の原因となる 脂肪肝

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

-119-

図 1 マイクロ RNA の標的遺伝 への結合の仕 antimir はマイクロ RNA に対するデコイ! antimirとは マイクロRNAと相補的なオリゴヌクレオチドである マイクロRNAに対するデコイとして働くことにより 標的遺伝 とマイクロRNAの結合を競合的に阻害する このためには 標的遺伝

Microsoft Word - プレスリリース最終版

研究成果報告書

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

糸球体で濾過されたブドウ糖の約 90% を再吸収するトランスポータである SGLT2 阻害薬は 尿糖排泄を促進し インスリン作用とは独立した血糖降下及び体重減少作用を有する これまでに ストレプトゾトシンによりインスリン分泌能を低下させた糖尿病モデルマウスで SGLT2 阻害薬の脂肪肝改善効果が報告

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

Untitled

<4D F736F F D DC58F4994C5817A C A838A815B83588CB48D F4390B3979A97F082C882B5816A2E646F6378>

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

学位論文の要約

核内受容体遺伝子の分子生物学


<4D F736F F D DC58F49288A6D92E A96C E837C AA8E714C41472D3382C982E682E996C D90A78B408D5C82F089F096BE E646F6378>

2

本書の読み方 使い方 ~ 各項目の基本構成 ~ * 本書は主に外来の日常診療で頻用される治療薬を取り上げています ❶ 特徴 01 HMG-CoA 代表的薬剤ピタバスタチン同種同効薬アトルバスタチン, ロスバスタチン HMG-CoA 還元酵素阻害薬は主に高 LDL コレステロール血症の治療目的で使 用

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

Microsoft PowerPoint

講座 食品健康科学 研究分野 : 食品分子機能学 構成員 : 教授 河田 照雄 助教 高橋 信之 大学院博士後期課程 5 名 大学院修士課程 13 名 専攻 4 回生 4 名 特別研究学生 1 名 A. 研究活動 (2010.4~2011.3) A-1. 研究概要 a) 脂質代謝と肥満の

第6号-2/8)最前線(大矢)

Untitled

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

Untitled

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

新技術説明会 様式例

本文/YA6280C

病原性真菌 Candida albicans の バイオフィルム形成機序の解析および形成阻害薬の探索 Biofilm Form ation Mech anism s of P at hogenic Fungus Candida albicans and Screening of Biofilm In

論文の内容の要旨

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

Microsoft Word Webup用.docx

No146三浦.indd

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

シトリン欠損症説明簡単患者用

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

Untitled

Transcription:

脂質メディエーターの産生制御による肥満抑制を目指した新規肥満抑制剤の開発 大阪薬科大学薬学部生体防御学研究室 准教授藤森功 はじめに欧米の先進国のみならず 日本においても食の欧米化や運動時間の減少により 肥満人口は増加の一途をたどっている 肥満は様々な代謝異常疾患 ( 生活習慣病 ) を引き起こし さらには高い頻度で循環器系疾患や脳疾患をまねくと考えられている 脂質メディエーターであるプロスタグランジン (prostaglandin: PG) 類やそれらの代謝物は 肥満や肥満に起因して発症する代謝異常疾患の制御において重要であることが知られている 我々はこれまでに PGD2 の合成酵素であるリポカリン型 PGD 合成酵素 (lipocalin-type PGD synthase: L-PGDS) が肥満進展ともに発現上昇し (Fujimori et al., J.Biol.Chem., 27, 282, 1858; Fujitani et al., FEBS J., 21, 277, 11) 脂肪細胞特異的にL-PGDS 遺伝子が欠損したコンディショナルノックアウトマウスでは野生型マウスと比べて体重増加 ( 脂肪蓄積 ) が鈍化することから PGD2は肥満の促進因子であることを明らかにしている また 脂肪細胞において PGD2はPGD2 受容体の一つであるCRTH2(DP2) 受容体に結合し またPGD2 の代謝物であるΔ -PGJ2 は核内受容体であるPPARγに結合する つまり PGD2 は複数の経路を介して脂肪細胞の分化を活性化する (Fujimori et al., Gene, 21, 55, ) これらの結果は PGD2の受容体やPPARγだけを標的とした阻害剤では抗肥満効果は不十分であり その上流であるPGD 合成酵素を阻害することこそが 抗肥満薬の開発のためには必要であることを示唆している 本研究では L-PGDSを標的とした抗肥満薬の開発を目的として 経口投与可能なL-PGDS の阻害剤の抗肥満効果を マウスを用いて検討した 結果野生型マウス (C57BL/; 週齢 雄 ) を高脂肪食摂餌させるとともに L-PGDSの阻害剤である( 図 1A) を連日経口投与 (2mg/kg) した 1 週間ごとに体重測定を行い 2 ヵ月後に血液を採取し 各種血液生化学値 組織から抽出したRNAを用いて各種遺伝子発現レベルを測定した また 脂肪量はCT(Computed Tomography) により測定した 高脂肪食を摂餌し を連日投与することにより 2 ヵ月後には 非投与群と比べて約 1% の体重減少が認められた ( 図 1B-D) 血液生化学データについては 投与に 11

よりトリグリセリド ( 中性脂肪 ) の値が有意に減少していた ( 図 1E) 一方 血糖値 総コレステロール値 LDLおよびHDLコレステロールの値は 投与 非投与群において有意な差は認められなかった ( 図 1E) A B D (g) 1 8 2 HFD HFD + C 5 7 8 9 1 11 13 1 weeks E TG 25 glucose 25 Total-Cho LDL-Cho 1 HDL-Cho 1 8 2 2 1 5 2 1 5 9 3 75 5 25 図 1. による肥満抑制効果の検討 A. の構造.B. 高脂肪食を摂餌したマウス.C. CT による腹部断層写真 ( 内臓脂肪はピンク色 皮下脂肪は黄色に着色している ).D. 2 ヵ月間の体重変化 ( : 非投与群 : 投与群 ) E. 各種血液生化学検査. p<.1, vs. control 次に 上で述べた方法で飼育したマウスから 2 ヵ月後に内臓脂肪を抽出し 脂肪細胞の分化に関連する遺伝子の発現を調べた 脂肪細胞の分化マーカー遺伝子であるPPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor γ) とその標的遺伝子であるaP2(fatty acid binding protein ) やLPL (lipoprotein lipase) の発現レベルは 投与マウスの内臓脂肪組織で 野生型マウスと比べて有意に低下していた また 脂肪酸合成系の遺伝子であるFAS(fatty acid synthase) とSCD(stearoyl-CoA desaturase) の発現も 投与マウスの内臓脂肪組織において低下していた しかしながら 血液生化学検査において 肝臓の逸脱酵素であるALT (alanine aminotransferase) の値は 投与群が上昇しており 肝障害の発生が考えられた ( 図 3A) そこで 肝臓を取り出し 切片を作製して 肝細胞内の脂肪滴をOil Red O により染色したところ 投与群では脂肪肝になっていることが分かった ( 図 3B) 1

Relative mrna level (/TBP) 1 8 2 9 PPARγ ap2 LPL 25 8 2 1 5 2 ACC FAS SCD 9 9 3 3 3 図 2. 投与したマウスの脂肪組織における脂肪細胞分化マーカー遺伝子の発現 p<.1, vs. control A 8 ALT B Oil Red O (IU/L) 2 図 3. 投与マウスの肝臓への影響 A. 血中 ALT 値 B. 肝臓の切片の Oil Red O 染色 考察 L-PGDSは脂肪細胞においてPGD2 を合成し 合成されたPGD2 は PGD2 としてPGD2 受容体の一つであるCRTH2(DP2) 受容体に結合する また PGD2 は非酵素的にΔ -PGJ2 に代謝され 核内受容体であるPPARγに結合し 脂肪細胞の分化を促進する また Δ - PGJ2 はPPAR γに結合して機能を発揮するだけではなく 未知の経路を介して脂肪分解を抑制すること 11

が分かっている (Fujimori et al., Gene, 21, 55, ) つまり 脂肪細胞において L-PGDSの酵素活性を阻害してPGD2 の産生を抑制すると PPARγの機能抑制と脂肪分化の抑制が解除され 脂肪量が減少することが期待できる 今回 L-PGDSの阻害剤であるをマウスに投与すると 体内脂肪量が減少し 体重増加が抑制された しかしながら 同時に肝臓内の脂肪蓄積量が増加し 脂肪肝になり 肝機能マーカーであるALTの値が高値となった 今回 用いた高脂肪食は肥満になることを目的とした餌 ( 含 % 脂質 ) であるため 体内摂取された脂質が脂肪細胞に蓄積されずに流出し脂質が肝臓に蓄積された結果 脂肪肝に至ったと考えられる の投与量 投与スケジュールの調節が必要である また すでに肥満になった動物に を投与し 体重が減少するかの検討を開始している さらに 効果は合成化合物ほどではないが 低い副作用が期待できる天然物由来成分がL-PGDSの遺伝子発現を抑制することを見出している 今後 この天然由来成分についても解析を行っていく 要約 L-PGDSによって合成されるPGD2 は脂肪細胞の分化を促進し 動物においては肥満を促進する 本研究では 経口投与可能なL-PGDSの阻害剤である を 高脂肪食摂餌させているマウスに投与して体重増加に与える影響を調べたところ 投与により 非投与群と比べて体重増加が鈍化することが分かった また 投与により体内の脂肪量は有意に減少しており 各種脂肪細胞分化マーカー遺伝子の発現も低下していた これらのことから L-PGDSの機能調節が肥満制御につながることが示唆された しかしながら 脂肪細胞に取り込まれなかった あるいは脂肪分解の亢進により 血中の遊離脂肪酸レベルが上昇し 肝臓は脂肪肝を呈していた 一方 に代わる天然物成分によるL-PGDSの阻害による PGD2 産生の低下について検討し 化合物を探索し 候補化合物を得た 今後 L-PGDSの機能を阻害する天然物の抗肥満効果を検討し 合成化合物ではなく より緩やかだが 副作用の少ない抗肥満効果を有する天然物についても検討を行っていく 謝辞本研究の実施にあたり 調査研究助成を頂きました公益財団法人大和証券ヘルス財団に心より御礼申し上げます 文献 1. Fujimori, K. and Shibano, M. 213 Avicularin, a plant flavonoid, suppresses lipid accumulation through repression of C/EBP -activated GLUT-mediated glucose uptake in 3T3-L1 cells. J. Agric. Food Chem. 117

1: 5139-517. 2. Fujimori, K. 2 Prostaglandins as PPAR modulators in adipogenesis Review. PPAR Res. 5277. 3. Fujimori, K., Maruyama, T., Kamauchi, S., and Urade, Y. 2 Activation of adipogenesis by lipocalintype prostaglandin D synthase-generated -PGJ2 acting through PPAR -dependent and independent pathways. Gene 55: -52.. Fukuhara, A., Yamada, M., Fujimori, K., Miyamoto, Y., Kusumoto, T., Nakajima, H., and Inui, T. 2 Lipocalin-type prostaglandin D synthase protects against oxidative stress-induced neuronal cell death. Biochem. J. 3: 75-8. 5. Fujimori, K., Fukuhara, A., Inui, T., and Allhorn, M. 2 Prevention of paraquat-induced apoptosis in human neuronal SH-SY5Y cells by lipocalin-type prostaglandin D synthase. J. Neurochem. : 279-291.. Fujitani, Y., Aritake, K., Kanaoka, Y., Goto, T., Takahashi, N., Fujimori, K., and Kawada, T. 21 Pronounced adipogenesis and increased insulin sensitivity by overproduction of prostaglandin D2 in vivo. FEBS J. 277: 11 119. 7. Fujimori, K., Aritake K, and Urade, Y. 27 A novel pathway to enhance adipocyte differentiation of 3T3- L1 cells by up-regulation of lipocalin-type prostaglandin D synthase mediated by liver X receptor-activated sterol regulatory element binding protein-1c. J. Biol. Chem. 282: 1858-18. 118