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新製品 新技術特集技術論文 57 DUV レーザによる微細加工技術開発 Development of Microfabrication Technology by DUV Laser *1 今宮悠治 *1 赤間知 Yuji Imamiya Satoru Akama *2 藤田善仁 *3 二井谷春彦 Yoshihito Fujita Haruhiko Niitani 近年, レーザ加工技術は目覚ましく進展しており, その利便性や適用材種の多様性から, 多岐にわたる分野で産業用途に採用されている 穴あけに代表されるレーザ微細加工においては, 短パルスレーザを用いることで高品質かつ高精度な加工が可能であるが, 微細度の更なる向上が求められている 三菱重工工作機械 ( 株 ) では, 加工分解能の向上が期待できる深紫外レーザを用いた光学系を開発し, 各種材料に対する加工特性を明らかにした さらに, 開発した光学系を微細レーザ加工機に搭載して穴あけ試験を実施した結果, 穴直径最小 10μm, アスペクト比最大 10 の超微細穴加工を実現した 1. はじめに 近年, 電子デバイスの小型化に伴い, それらに搭載される電子部品やプリント回路基板等の小型化, 高機能化が進展しており, 穴加工を代表とした超精密加工の更なる微細化, 高品質化のニーズが高まっている そのようなニーズに対応可能な手法として, 短パルス, 短波長のレーザを用いた加工方法が注目されている ピコ秒のような短パルスレーザを用いることで, 熱影響のないアブレーション加工が可能であり, 高精度かつ高品質な加工が実現できる さらに, 短波長のレーザを用いるとレーザ集光径を小さくすることができるため, より微細な加工が可能である 現在, 微細加工用短パルスレーザとして, 図 1に示すように,YAG レーザ ( 波長 1064nm) をはじめとして,YAG 第二高調波 ( 波長 532nm) であるグリーンレーザ, 及び YAG 第三高調波 ( 波長 355nm) である UV レーザなどが広く普及している 一方で, 第四高調波 ( 波長 266nm) である深紫外 (Deep Ultra Violet の頭文字をとり,DUV) レーザは, その取扱いの難しさから普及が進んでおらず, 微細加工システムとしての実績は少ない (1) しかし, 短波長であることから, 照射位置でのレーザ集光径を小さくすることができるため穴加工の更なる微細化が期待でき, 加えて, 種々の材料に対する高い吸収率と高い光エネルギーを有することから, 従来では加工困難であった材料にも適用が期待できる 三菱重工工作機械 ( 株 ) では既に, ピコ秒グリーンレーザを搭載した微細レーザ加工機 ABLASER を市場投入しているが (2), 加工穴の更なる微細化, 高品質化を目的として, ピコ秒 DUV レーザを採用した光学系と加工技術を開発した 本稿ではピコ秒 DUV レーザの基本的な加工特性を明らかにするとともに,DUV レーザを適用した ABLASER での超微細穴加工事例を紹介する *1 三菱重工工作機械 ( 株 ) 先端生産システム開発センター *2 三菱重工工作機械 ( 株 ) 先端生産システム開発センター主席技師 *3 三菱重工工作機械 ( 株 ) 先端生産システム開発センターセンター長

58 図 1 波長に対する各種レーザ光 2. DUV レーザ光学系の構成と加工特性 2.1 DUV レーザ集光光学系微細レーザ加工においては, 加工対象物の表面にレーザ光を集光して照射し, その光エネルギーの作用によって照射面の材料除去を行う このとき, 照射するレーザ光の集光径が小さいほど, 材料を除去する面積を狭くできるため, 加工の微細度を向上できる 集光径を小さくするには, 短波長レーザを使用する, 集光前のビーム径を太くする, 焦点距離を短縮する手段が考えられる ところが, レーザ光波長が紫外領域になるとガラス材料に対する吸収率が高くなるため, レンズなど光学素子材料への負担を軽減する必要がある また, 残りの手段では集光角度が大きくなるため加工穴の出入口径差が付きやすく, また焦点深度も浅くなるため, 得られる加工穴形状に限界がある 今回開発した集光光学系は, 小さな集光径を得ることができる DUV レーザを採用するため, 事前に光学素子に使用するガラスの DUV レーザ光に対する耐性試験を行い, 最適なガラス材料を選択するとともに, レーザ照射密度を適切に設定することでレンズの耐久性を確保した さらに焦点距離とレンズ形状を最適化することで, 微小な集光径としながらも集光角度を極小に抑え, 長焦点深度を実現した 2.2 DUV レーザ集光径の評価 2.1 項にて検討した内容を基に DUV レーザ集光光学系を試作し, 集光径とエネルギー分布を測定して, 期待できる加工微細度を確認した 集光径測定系の構成を図 2に示す DUV レーザ発振器から出射されたビームは, 搭載を予定しているレーザ加工機の光伝送経路を模擬した全反射ミラーによる伝送と集光レンズを経て, 集光される 図 2 DUV レーザ集光径測定系構成図

59 CCD カメラ式測定器により計測した集光点でのエネルギー分布を図 3に示す エネルギー分布は狙い通りガウス分布とほぼ一致しており, 理想的であると言える 集光径測定値は直径 5.7μ m であった 一方, 理論式から算出した集光径設計値は直径 5.5μm であり, 測定値と設計値はほぼ一致している 当社従来のグリーンレーザを使った ABLASER での集光径と比較すると, DUV レーザの集光径は約 1/2 であり, より微細な穴加工が期待できる また, 集光点での楕円率は 0.998 であり, 高精度な穴加工が期待できることを確認した 図 3 集光点でのエネルギー分布 DUV レーザ光の集光直径は 5.7μm であり, エネルギー分布もガウス分布と一致した理想形状であった 2.3 種々の材料に対する DUV レーザ光の加工レート調査種々の材料に対する DUV レーザ光及びグリーンレーザ光 ( 波長 515nm) の加工レートを求め, その特性を比較, 評価した 集光径測定系と同様の光学系構成において, 焦点位置に各材料を設置した ( 図 2) 表 1に示す各材料に対して, 集光させた DUV もしくはグリーンレーザ光を1パルスだけ照射し, 形状解析レーザ顕微鏡 ( 株式会社キーエンス製,VK-X150/160) を用いて形成された加工穴の深さを計測した 加工後の穴断面形状はクレータ状になるため, 穴中心の最大深さとしている パルスエネルギーを変更しながら加工 計測を実施することで, 各材料の加工レートを求めた 試験結果を図 4に示す グラフの縦軸は加工深さ, 横軸は, 照射したレーザ光のエネルギー密度である 図 3に示す通り, エネルギー分布は照射範囲内で均一でないため, 密度算出時は中心付近のエネルギーの値を使用している 表 1 DUV 及びグリーンレーザ光の 1 パルス照射試験加工材料 金属材料半導体材料樹脂材料ガラス材料 ステンレス単結晶シリコンカーバイドウェハポリエチレンテレフタレートホウケイ酸ガラス 図 4 DUV 及びグリーンレーザのエネルギー密度に対する各材料の加工深さグラフ縦軸及び横軸には正規化した数値を使用 尺度は全グラフで統一している

DUV 及びグリーンレーザ光による加工レートを比較したところ, 全ての材料で顕著な差を確認できた 両レーザによる加工痕及び加工断面形状を図 5に示す 化合物半導体材料である単結晶シリコンカーバイドウェハ (SiC) は, 硬度が高い上に化学的に安定した性質を持つため, 精密な機械加工や化学作用による加工は非常に困難であり, レーザによる精密加工が期待されている しかしながら, そのバンドギャップの大きさから, レーザ光の中でも高い光エネルギーを持つ, より短い波長のレーザ光が加工に適していると考えられる 本試験結果においても, グリーンレーザ光による加工レートは非常に小さく, レーザ照射範囲で材料の溶融が発生している 一方で, 光エネルギーの大きい DUV レーザ光では, 比較的大きな加工レートが得られ, 加工痕の断面形状もガウス分布に近い形状となった そのため, 微細穴加工でも精密な加工が期待できる ホウケイ酸ガラスに対しても,DUV レーザ光では明瞭な加工痕が形成された グリーンレーザ光では, その大部分が材料を透過してしまうため, 加工自体が大変困難であり, 得られた加工レートも非常に小さい また,DUV レーザでは加工面の溶融, 除去物の再付着が少ない加工痕が確認できたことから, 理想的なアブレーション現象が誘発されていると考えられ, ひいては高品質な微細穴加工が期待できる 金属材料であるステンレスに対しても,DUV レーザ光ではグリーンレーザより大きな加工レートが得られ, その優位性が確認できた さらに, 高分子材料であるポリエチレンテレフタレートでは, グリーンレーザ光による加工痕において気泡が発生しており, 材料が溶融していると考えられるが,DUV レーザ光においては熱影響が少ないアブレーション作用と十分な加工レートが確認できた 60 図 5 各材料の 1 パルス加工痕画像及び断面形状画像及び断面形状の尺度は全て統一している 以上の結果より, 数種の材料においてグリーンレーザ光に対する DUV レーザの優位性を示すことができた また, 各材料に対し必要な加工深さを得るための最適な出射パルス数が推測でき, 加工品質の向上と能率の最適化が可能である 3. DUV レーザを用いた ABLASER による加工事例の紹介 既に当社で市場投入している, 微細レーザ加工機 ABLASER に,DUV レーザ光学系を搭載し, 穴あけ加工を行った ABLASER では高品質な加工穴を得るため, 図 6に示す, レーザビームの軌道を高精度に旋回させることができるヘリカルドリリング加工方式を採用している また, 独自に開発した光学ヘッドにより, 図 7に示すようにレーザ旋回直径に加えて入射角の制御が可能であり, 任意の加工穴直径及び断面形状を得ることができる

61 図 6 ヘリカルドリリング加工方法ヘリカルドリリング加工は, レーザビームを任意の旋回直径に調整して高速度で回転させながらパルスレーザを照射し, 加工を行う 図 7 ABLASER によるレーザ入射角の制御レーザビームの入射角を制御することで, ストレート穴, 順テーパ穴, 逆テーパ穴のように任意の断面形状に加工可能である 前述の 1 パルス照射試験結果から得られた加工特性からレーザ照射条件を設定し, ステンレス材及び単結晶 SiC ウェハに貫通穴加工を実施した ステンレス材 ( 板厚 0.2mm) に対し, 直径 20 m の貫通穴を得ることができた 表面及び裏面における貫通穴の真円度は良好であり, 欠けのないエッジ部が形成することができた SiC ウェハ ( 板厚 0.1mm) に対しては, 直径 10 mの貫通穴を得ることができた 図 8に SiC ウェハの加工穴事例を示す バンドギャップが高く, 一般的に加工困難な SiC でも, 狙い通り直径 10 m の貫通穴を形成することができた また, 加工エッジ品質も非常に良好であり, アブレーションにより熱影響の少ない加工を実現できたと言える 図 8 単結晶シリコンカーバイドウェハの DUV レーザによる加工穴 SEM 画像材質 : 単結晶 SiC ウェハ, 厚さ :0.1mm, 加工穴直径 : 約 10 m

以上より,DUV レーザ光の採用, 集光光学系の最適化, 精密なビーム軌道制御によって, 従来では加工困難であった直径 20 m 及び10 m, アスペクト比 10 の高品質な貫通穴加工を実現できた 今後は他の誘電体や半導体, 金属材料に対しても, 加工条件を最適化し, 穴加工や切断, 溝加工を実施して DUV レーザの適用優位性について解明していく 62 4. まとめ レーザ微細加工の更なる微細化の要求に応えるため, 短パルス DUVレーザを適用した光学系を開発し, 必要な焦点深度を確保しつつ, 微小な集光径が得られることを確認した また, この光学系を使用して様々な材料に対する加工特性を明らかにした さらに, これら光学系を三菱重工工作機械 ( 株 ) が製作販売する微細レーザ加工機 ABLASER に搭載し, 加工穴直径最小 10μ m, アスペクト比最大 10 の超微細穴加工を実現した 本報で紹介した短パルス DUV レーザを適用した ABLASER は第 28 回日本国際工作機械見本市 (JIMTOF2016) に出展し販売予定である 今後も多岐にわたる産業分野における超精密加工の更なる微細化, 高品質化要求に対し最適なソリューションを提供できるよう, 技術開発を推進する 参考文献 (1) 池田直昭らほか, 微細加工用全固体紫外レーザ加工機 Meister 1000DF, 三菱重工技報 Vol.39 No.6 (2002-11) p344-347 (2) 中川清隆らほか, 微細レーザ加工機 ABLASER を適用した微細穴加工技術の開発, 三菱重工技報 Vol.52 No.3 (2015) p.25-29