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技術論文 Accuracy Validation of Wind Turbine Wake Analysis Including Wind Direction Fluctuation Correction 武藤厚俊 Atsutoshi Muto 鈴木潤 Jun Suzuki 鈴木広幸 Hiroyuki Suzuki 藤田泰宏 Yasuhiro Fujita 要 旨 近年 日本における風車建設は 風況の良い沿岸の平坦地域がすでに飽和傾向にあるため 山岳地域に高密度に配置したウィンドファームが主流となりつつある 山岳地域の風況は 地形による影響を受けるため乱流強度が高く さらに近接風車の後流の影響により乱れはさらに増大する 高い乱流強度は風車各部に大きな荷重変動を生じ 疲労による機器の損傷を招く結果となる また 日本国内では乱流強度や風向変動など国際規格で定められている風況とは異なることが多く 国際規格で定められている手法を適用できない場合が多いと考えられる 本稿では 風向変動を考慮した風車周辺の気流解析を実施し 観測塔により実測された後流の統計量と比較した結果を示す 得られた結果からは 本稿で提案した風向変動を考慮した解析手法は 平坦地形において実測値と良好な一致が示された 今後は複雑地形に対しても適用を試みる予定である Synopsis In recent years, wind farms where wind turbines are densely located in a mountain area have become predominant in the wind turbine construction in Japan because of the fact that most of the coastal areas with suitable wind conditions have been fully occupied with the existing wind turbines. In mountain areas, high levels of turbulence are generated by the terrain, and they are further increased by the wake of neighboring wind turbines. High turbulence intensity gives rise to a large degree of load fluctuation in each part of a wind turbine and may result in fatigue damages in the equipment. In addition, the application of turbulence analysis methods specified by an international standard appears impossible in Japan, where the turbulence intensity and fluctuation in the wind direction are mostly different from those defined in the international standard. In this paper, an air flow analysis around a wind turbine was carried out with a correction in light of fluctuation in the wind direction, and the result was compared with the actual turbulence measured by a met mast on the site. It was shown that the proposed analysis method has precisely predicted the turbulence intensity at least for a flat terrain. The same analysis will be attempted for more complex terrains. 室蘭研究所 Muroran Research Laboratory (46) 日本製鋼所技報 N o. 6 5( 2 014. 10)

1. 背景近年 日本国内においては風車建設に最適な沿岸部好風況地域は既設風車により飽和傾向にあり 新規の建設は内陸部 特に高風速が期待できる山岳部に集中する傾向にある また ウィンドファームの発電事業性の観点から風車を高密度に配置する傾向にある このようなサイトにおいては 地形により生成される乱流と 近接風車の後流による乱流により高い乱流強度が発生する 乱流強度の増加は 風車の疲労荷重の増加による風車のコスト 発電量 建設可能エリアの縮小等事業性に関わる多くの事項に影響を与えるため 精度の高い予測 評価方法が求められている しかしながら 複雑地形における風車後流による乱流強度の有効な評価手法は 未だ提案されていないのが現状である 本論文では 複雑地形における予測手法の検討に先立ち 平坦地形における風車後流の風速及び乱流強度の解析精度の向上を目的とし 風車後流の実測値と比較検証した結果について報告する 2. 風車建設事前評価一般的に 風車もしくは複数の風車からなるウィンドファームの建設予定地におけるサイト事前評価は 大まかに以下の手順によって行われる ( 図 1) ただし ここでは極値風速の検討や大臣認定等の手順は含んでいない 先述のように 複雑地形である山岳地域に建設する場合には 地形や近接風車の影響により乱流強度が増加する傾向があるため 風車の配置再検討や運転条件の再検討を複数回実施することが多い 4に示す近接風車の後流による影響は IEC61400-1 Ed.3 Annex D (1) ( 式 (1)~ 式 (3)) に示される手法により算出し 測定 もしくは解析により得られた乱流強度を補正する この手法は 現時点において風車に関する国際規格に記述された 唯一の風車後流による乱流強度の算出方法である (1) ここで 各変数は以下の通りである : 有効乱流強度 : 各風車における風向出現率 : 風向 θにおける周囲及び風車後流による乱流強度 : 対象材料の Wöhler 指数 : ハブ高さにおける風速 [15 m/s] 各風向の乱流強度は 近接風車が存在しない風向では 式 (2) により算出する (2) 一方 近接風車が存在する風向では 式 (3) により算出する (3) ここで 各変数は以下の通りである : 周辺乱流標準偏差 ( 観測値 ) : 対象となる近接風車のロータ直径により規格化された近接風車までの距離 : 定数 [m/s] 図 1 風車 / ウィンドファーム建設前の事前評価手順 先述したように 本手法は国際規格に記述された 風車後流による乱流強度の算出方法を示した手法であるが 欧州の平坦地形および洋上環境を基に策定されているため 複雑地形における適用可能性については確認されていない 加えて 当社製風車既設サイトにおける風況測定実績から 山岳地域などの複雑地形における多くの場合 IEC の手法では乱流強度を過大に見積もる傾向があることが確認されている 乱流強度の過大評価は風車建設可能エリアを縮小するだけでなく 風車構成部材製造及び輸送時のコスト 運転条件による発電量の低下など 事業性に大きな影響を与える可能性がある したがって 複雑地形において乱流強度を精度よく予測することは 経済的な風車建設の観点からも重要であると考えられる 本研究では複雑地形において近接風車の後流により増大する乱流強度の予測精度向上の試みに先立ち 風況観測塔を有する平坦サイトにおいて風車後流による乱流強度の予測精度の検証を目的とする (47)

3. 風況解析手法一般的に 風況解析には 線形解析ソフト WAsP (2) (Risø) 非線形定常解析ソフト MASCOT (3) (4) ( 東京大学 ) 非線形非定常解析ソフト Riam Compact (5) ( 九州大学 ) などが使用されることが多く すでに多くの実績を挙げている 本研究においては 自作コードを追記して地形上気流および風車後流の数値再現を実施するために汎用コード ANSYS Fluent 12.0 を用いた 表 1 に解析条件を示す 出力 2,000kW の風力発電機である J70 初号機は 2006 年夏に当社室蘭製作所構内に建設され運転を開始し 現在に至るまで運転を継続している 本論文では通常運転とは異なり 定格出力を 1,500kW とした運転モードにおけるデータを使用した 風況観測塔は J70 の SSE 方向 262m に位置している 表 1 解析条件 地形データは国土地理院の数値地図 50m メッシュ ( 標高 ) を使用し 地表面粗度は国土交通省の土地利用細分メッシュデータを利用して決定した 地表面における境界条件は 式 (4) に示す対数則による壁面せん断応力により算出した これにより 地表面粗度を考慮した解析を可能とした なお 土地利用と粗度長の関係は文献 (8) に示される値を式 (4) に用いて変換した 図 2 JSW 社製風車 J70-2.0 表 2 J70-2.0 の諸元 (4) ここで 各変数は以下の通りである : 地表高さ [m] : 粗度長 [m] : 地表高さ z における風速 [m/s] : 摩擦速度 [m/s] : カルマン定数 [ - ] また 対象領域の上流に対象領域と同じ広さを持つ付加領域を追加し それら二つを合わせた領域の周囲に緩衝領域を設けた領域を解析領域とした (4) 風車後流モデルは アクチュエータディスク理論 (6) に基づいて算出した運動量欠損を 流れ方向運動方程式のソース項として組み込んだ なお 後流速度 U W は 解析対象風車の発電量 P 及びスラスト係数 C t より算出した 解析対象は 風況観測塔を有する 当社室蘭製作所構内の風車 J70-2.0( 図 2 表 2 以下 J70) を中心とした地形とした 当社製風車 J70 は 全長 34m の GFRP 製ブレードと永久磁石による同期型発電機を有する 定格 (48) 図 3 図 4 に示すように J70 風車近傍の地形は平坦であり 北西 ~ 北方向は海に面しているが その他の方向は標高 100m ~ 200m の比較的低い山に囲まれている 解析領域および解析メッシュを図 5 に示す 解析メッシュの座標軸は 風主流方向を X 軸 風直角方向を Y 軸 鉛直方向を Z 軸とした 解析領域は風車近傍より約 20,000m 上流側とした これは流入境界を十分前方とすることにより 地表面により形成される大気境界層を正確に再現するためである また 解析領域の鉛直方向高さは 上部速度境界による縮流効果が無視できるように 日本製鋼所技報 N o. 6 5( 2 014. 10)

十分高く 10,000m 設定している 流入 風 速は 10m/s 表 3 解析メッシュの詳細 とした 表 3 に解析メッシュの詳細を示す 4. 4.1 図 3 J70-2.0 周辺地形 実機による解析モデル検証 風況観測塔による風車後流の測定 風況観測塔を有する当社構内 室蘭サイト を解析対象 とし 後流モデルの妥当性検証を実施した 本サイトには 風車が 2 基 J70 J82 設置されているが 風車配置と風 向出現率から 風況観測塔においては J70 風車後流のデー タが多く観測されるため J70 後流を評価対象とした ま た 解析風向は J70 の風下に風況観測塔が位置する方位と した 観測高さは J70 のハブ高さに等しい 65m とし 風速 は三杯型風速計 風向は矢羽式風向計により測定した 観 測塔の 65m 高さには超音波型風速計も併設しており 実 測と解析による乱流強度を比較する際に使用した 三杯型 風速計で乱流強度を測定する場合 応答速度により 高 い周波数を測定できないため 解析と比較して値を低く見 積もることが知られている 本検討では 観測塔における 超音波風速計と比較することにより乱流強度の補正を実施 図 4 JSW 室蘭製作所構内の風車及び 風況観測塔 Met mast の位置 している 実測による風車後流域の風速及び乱流強度は 後の解析結果と併せて示す 4.2 風車後流域風速の解析結果 図 6 a b に解析により算出された対象風車 J70 周辺の速度分布図を示す 図 6 a より 十分上空において 風速は流入風速である 10m/s となり 地表面近傍で速度が 減少する通常の大気境界層が再現されており 風車ロータ面 下流では後流モデルにより速度欠損が発生し 流れが減 速されている また 風速の回復はロータ面上方で早く 下方で遅いことが確認できる これは風速の鉛直方向分 布 ウィンドシア により ロータ面上方では速度が大きく 減速域に対する主流からのエネルギ供給が大きいためで あると考えられる また図 6 b は J70 のハブ高さ水平 面 X-Y 平面 Z=65m における速度分布を示している 図 5 解析領域および座標定義 風車ロータ直径を D とすると 風車後流は 1D 2D 下流 位置において 幅 1.5D 程度の速度欠損領域を示した後 10D 下流位置付近において十分な速度回復を示すことが確 認された 49

図6 4.3 解析により得られた J70 周囲の風速分布 風車後流域における乱流強度の解析結果 図7 4.4 解析により得られた J70 周囲の乱流エネルギ分布 風速分布の実測値と解析結果の比較 図 7 a b に解析により算出された対象風車周囲の 図 8 に風況観測塔から得られた実測データ 及び解析に 乱流エネルギ分布を示す 乱流エネルギは直接風の乱流 よる風車後流の風速を示す 横軸は観測塔から見た風車の 強度と対応する 乱流エネルギの生成項は速度せん断に 方位を 0 とし ± 5 間隔で風速実測値に対して BIN 平均 比例するため 主流と速度欠損領域の速度差により生成 標準偏 処理を行った 赤点 図中のエラーバーは± 1σ され 後流に輸送される様子が確認できる 図 7 a に 差 を示しており 各方位において約 6% 15% の標準偏 見られるように 風速が高く 主流との大きな速度差が 差を有していた 解析により算出した速度欠損分布 黒線 発生するロータ面上方において大きな乱流が発生してい は 実測値と比較して方位が狭く 欠損割合が大きかっ る また 図 7 b に見られるように 乱流場は速度場 た これは 数値解析における流入風は風向変動成分を よりも大きく拡大し 風車下流 3D 程度の位置において約 有していないため 風車後流が比較的直線的に後方へ伝搬 3D の幅を示す 一般に風車設置の最小間隔は主流方向 したためであると考えられる しかしながら 実機におい に 10D 主流直角方向 3D とされており 本結果と一致す ては風車後流は風向変動により蛇行 meandering しな るため 本モデルの妥当性が定性的に確認されたと考え がら伝搬するため 後流による影響範囲は広くなることが られる 知られている 8 9 そのため 観測塔において実測された 風向標準偏差σθを使用して解析値の補正を行った 具体 的な手順は以下の通りである 風向変動は平均値 0 風 向標準偏差σθの正規分布に従うとし また 本検討では 平坦地形であることから 風向が 0 からθ' ずれた際の風 50 日本製鋼所技報 No.65 2014.10

速分布も 風向変動がない場合 解析値 と同様の分布 能であることが確認された しかしながら 先述のように 形状であると仮定した そして 式 5 に示すように 解 複雑地形においては風車後流が適切に輸送されないため 析によって得られた風速分布を 正規分布の重みづけによ 適用は可能ではないと思われる り重ね合わせて 補正後の風速分布 u' を得た 以上より 本検討に用いた後流モデルが 平坦地形にお いては 実測値に対して良好な精度で一致することが確認 5 された 複雑地形における検証は今後の課題としたい ここで 各変数は以下のとおりである 補正後の風速分布 平均値 0 標準偏差σθの正規分布関数 解析により算出した風速分布 風向変動を考慮して補正した風速分布 図 8 青線 は 実測値の平均値 赤点 を良好に再現しており 風向変動 の考慮が風車後流の解析において重要な因子であることが 確認された 図9 解析および実測により得られた風車後流による 乱流強度分布 5. まとめと課題 汎用流体解析ソフトANSYS Fluent 12.0 及び自作コード を使用して風車後流をモデル化し 風車後流を含めた風況 解析を試みた 平坦地形における実測値との比較では 風 向変動を考慮することにより 風速 乱流強度ともに良好 な一致が見られることが確認された 今後本手法を用いる 図8 4.5 解析および実測により得られた風車後流による 風速欠損領域分布 乱流強度分布の実測値と解析結果の比較 ことにより 風車建設前のサイトアセスメント 建設後の風 況診断に有益な手法となると考えられる 今後は本手法を複雑地形に適用し ウィンドファームサ 10 解析から得られた乱流エネルギ k より 式 6 を用い て乱流強度を算出した イト実測値との比較による解析精度の向上を目指す また 現状の風況解析ソフトと比較して数倍の計算コストを要する ため 計算速度の向上にも取り組む予定である 6 参 考 文 献 図 9 に実測値と解析値における乱流強度 T.I. の分布を 示す 解析により算出された乱流強度 黒線 は 風速分 布 図 8 と同様に実測値と比較して過大な値を示すが 風向変動を考慮すると 実測値と良好に一致する 青線 1 IEC6140 0-1 Wind turbines Part1 Design Requirements Edition 3 2005. 2 J.F. Corbett S. Ott and L. Landberg The new 次に図 9 中に IEC 61400-1 Ed.3 Annex D に規定される WAsP flow model: a fast linearized Mixed Spectral 有効乱流強度を併せて示す 紫線 風向 BIN ごとに近接 Integration model applicable to complex terrain 風車の影響を考慮するため ステップ状になるが その値 European Wind Energy Conference proceedings は実測値に対し良好に一致する これは この IEC の手 法が欧州の平坦地形や洋上を想定して策定されたものであ 2007. 3 石原孟 非線形風況予測モデル MASCOT の開発とそ るためであり 日本国内においても上流に複雑地形がない の実用化 日本流体力学学会誌 第 22 巻 第2号 2003 平坦地形においては ここで示されたように十分に適用可 pp.387-396. 51

(4) 石原孟 山口敦 藤野陽三 : 複雑地形における局所風況の数値予測と大型風洞実験による検証 土木学会論文集 No.731/I-63(2003) pp.195-221. (5) 内田孝紀 大屋祐二 : 風況予測シミュレータ RIAM- C O M P A C T の開発 日本流体力学学会誌 第 2 2 巻 第 5 号 (2003) pp.417-428. (6) Tony Burton David Sharepe et al.: WIND ENERGY HANDBOOK WILEY (2005). (7) 山口敦 石原孟 藤野陽三 : 力学統計的局所化による新しい風況予測手法の提案と実測による検証 土木学会論文集 A Vol.62 No.1(2006) pp.110-125. (8) Gunner C. Larsen Helge Aa. Madsen et al: Dynamic wake meandering modeling Risø Report (2007). (9) Juan José Trujillo and Martin Kühn: Adaptation of a Lagrangian Dispersion Model for Wind Turbine Wake Meandering Simulation EWEC Proceedings (2009) (10) 風力発電設備支持物構想設計指針 同解説 [2010 年度版 ] 土木学会 (2010) (52) 日本製鋼所技報 N o. 6 5( 2 014. 10)