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行ってきた その直線型 配位子の特徴が アルキンの活性化に関する研究において十分にみられた ビス ( アルキニル ) 錯体 Tp(C CPh)2() の酸存在下における水和反応では C-Cカップリング反応を伴った水和反応が進行し 五員環メタラサイクル錯体が得られた これは 配位子の非常に強いπ 受容性の効果が多分に及んでいる また アルキンの種類を変えると非常に珍しい四員環メタラサイクル錯体が得られ さらにジイン配位子を使いホスフィンの付加反応を組み合わせることで 興味深いナフタレン骨格を有するメタラサイクル錯体の単離に成功している いずれの反応においても 単離された生成物は出発原料と同じ直線型 であるため 反応の前後で 配位子の変化 はみられていない 次のステップとして 配位 分子の動的挙動に着目した まず-Cカップリング反応によるニトロソ錯体の生成に関する研究を 行った Tp 2 () とビニルピリジンとの 反応により ニトロソビニルピリジン錯体が単離された これは ビニル基のC- 結合活性化とともに-C 結合がone-potで形成し 六員環メタラサイクルとなっている さらにそのニトロソ錯体のMe 中におけるプロトン化により 3 分子ものMeが付加したイミン錯体が得られるなど 非常に興味深い結果を得ている 本研究では 配位 分子の結合形成反応に関する研究を行う 特に ニトロソ錯体の系ではなく 二核錯体上での2つの配位 分子の - カップリングについて研究し さらに この知見を基に 分子以外の小分子の活性化について研究を行う 2. 研究の目的本研究は ルテニウム錯体上での配位 分子の動的挙動に着目し 特異な結合を誘起する反応について研究する さらにこの系を発展させ 分子以外の小分子の活性化について研究を行う Tp2() とピラゾールとの反応により 非常に興味深い二核ルテニウム錯体 1 を単離した この二核ルテニウム錯体 1 は 2 つのルテニウム間をクロライド ピラゾラトおよび(=)-(=) で架橋された構造をとっている この錯体は X 線構造解析により構造決定しており その - 間距離は約 1.86 Åと異常な距離となっており これまで報告された一般的な- 間距離 ( 約 1.2 Å) よりもはるかに長い この- 間結合の存在は 分子そのものが低温における固体状態において - 間距離が 2.18 Åで結合していること さらにはDFT 計算によりMにおいて - 間に結合性相互作用があることから確 認された 二核錯体上での2つの 分子の - カップリング反応は前例がなく 世界初の発見である また このような - カップリングは 自然界に存在する一酸化窒素還元酵素の 還元サイクルにおける鍵反応であると考えられており 金属酵素との関連からも非常に興味が持たれる この特異的な - 結合を有する二核錯体 1 の反応性として その - 間結合の容易な可逆性を見いだしている つまり 酸化反応により - 間結合が切断されジカチオン二核錯体 2 を生成し さらに還元反応により元の錯体 1 へと変化することが分かった ジカチオン二核錯体 2 についても X 線構造解析によりその構造を決定しており 二核錯体そのものの骨格はほとんど変わらないが その - 間距離は 3.006(8) Å にまで延びた さらに -- 角は約 30º 程度広がり - 間距離は短くなり三重結合性を帯びた (IR スペクトルから確認 ) また この骨格がほとんど変化しない酸化還元反応は CV スペクトルにおいて顕著に現れており 非常にきれいな 2 電子分の可逆な酸化還元波が観測されている これらの結果を元に 二核錯体 1 のプロトン酸との反応 (2 分子の脱離 ) およびそこから導かれる 還元サイクルを達成させる さらに この還元サイクルの知見を基に 分子以外の小分子 ( 等電子であるCやジアゾニウム塩など ) の活性化に関する研究を行う 3. 研究の方法 (1) 二核錯体 1 のプロトン酸との反応 (2 分子の脱離 ) 二核錯体 1 とプロトン酸との反応を行う この反応は 予備的であるがすでに行っており ジカチオン二核錯体 2 とともに酸素架橋二核錯体 3 が単離された 特筆すべきは この反応において2 分子が脱離していることである ( ガスクロマトグラフィーにより検出 ) この2 分子の脱離は まさしく一酸化窒素還元酵素の 還元サイクルで生成する分子であり 酵素の機能を再現したことになる F + 2 二核錯体 1 酸素架橋錯体 3 しかし このプロトンとの反応による2 分子の脱離の変換効率が低いため この反応の最適化を行う また 反応機構に関する情報の入手 さらに2 分子の脱離に関する速度論的研究を行い その酵素反応との比較を行う (2) 還元サイクルの達成 ( 脱水反応およ

び との反応 ) 一酸化窒素還元酵素の 還元サイクルをモデルにし これまで得られた二核錯体 1 の反応性を考慮すると 以下のような還元サイクルが提案できる 脱水および との反応 2 + 2 + 2 + ΙΙΙ 還元反応 還元サイクル ΙΙΙ 酸素架橋錯体 3 二核錯体 1 2 分子の脱離 この 還元サイクルにおいて 還元による-カップリング反応と2 分子の脱離反応に関してはすでに見出しているので 最後のステップであるプロトン化による脱水反応およびとの反応に関する研究を行う まず 酸素架橋二核錯体 3 に対してプロトン化反応を試み 架橋 2にまで架橋酸素部位にプロトン化させる その後 2つの 導入方法が考えられるが 1つはその2 架橋ジカチオン二核錯体に直接 ガスと反応させることである 分子自体ラジカルであるため 金属を還元しニトロシル配位子 ( + ) として金属に配位することが期待される もう1つは 先に錯体を2 電子還元し その後ニトロソニウム塩 ( + F - ) などを用いて 分子の導入を行い ジカチオン二核錯体 2 を生成させる方法である これらにより 還元サイクルが達成される 酸素架橋錯体 3 (3) 架橋配位子の効果に関する研究上記の酸素架橋二核錯体を用いて を導入することが可能となれば これまで架橋配位子として錯体 3 の様なクロライドとピラゾラトの組み合わせの錯体しか研究できなかったが いろいろな架橋配位子の組み合わせの錯体についても調査することができる 合成手法としては 2つの酢酸が架橋した酸素架橋二核錯体がすでに報告されており これを元に多様な酸素架橋二核錯体を合成し それらの 還元サイクルについて調査し 架橋配位子が与える影響について調査する すでに いくつかの酸素架橋二核錯体については合成に成功している 2 + 2 + 2 + or 2 還元反応 + 2 + () 小分子の活性化について 還元サイクルの知見を基にこの系を発展させ 分子以外の小分子の活性化に関する研究を行う この独特な二核ルテニウム錯体の反応場を使い 等電子構造であるジアゾニウム塩や直線型三重結合である一酸化炭素といった小分子の活性化について検討する 二核ルテニウム錯体の近接した位置に 2 つの小分子を配置させれば 特異な結合の発現が期待される 小分子活性化のコンセプト. 研究成果 (1) 二核錯体のプロトン酸との反応 (2 分子の脱離 ) 特異な- 結合を有する二核錯体とプロトン酸との反応を行った その結果 プロトン酸としてFを用いた場合 ジニトロシル二核錯体 3 とともにオキソ架橋二核錯体 が単離された 他のルイス酸をいくつか試みたが うまく反応は進行しなかった また この反応は溶媒の選択が重要であり C22を使用した場合 最も収率よくオキソ架橋二核錯体 が得られた 特筆すべきは この反応において2 分子が脱離していることである ( ガスクロマトグラフィーにより検出 ) この2 分子の脱離は まさしく一酸化窒素還元酵素の 還元サイクルで生成する分子であり 酵素の機能を再現したこと になる 2 X Y Y Y X X 還元反応 Y X Y X X Y: C, R + etc. F + 2 -カップリング二核錯体 2 オキソ架橋二核錯体 ジニトロシル二核錯体 3 (2) 還元サイクルの達成 ( 脱水反応および との反応 ) 得られたオキソ架橋二核錯体 に対して Fを用いて反応させたところ ヒドロキソ架橋二核錯体 5 がほぼ定量的に得られた さらに このヒドロキソ架橋二核錯体 5 と Fを反応させたところ 単離することはできなかったが アクア架橋二核錯体 6 が系中に発生していることが分った そこで 系中に発生させたアクア架橋二核錯体 6 を直接 ガスと反応させることで ジニトロシル二核錯体 3 を単離することに成功した これらにより 還元サイクルが達成され 酢酸架橋錯体 Tp Tp Tp Tp Tp Tp Tp Tp 脱水反応および との反応 オキソ架橋二核錯体 + F F ヒドロキソ架橋二核錯体 5 2 (gas) アクア架橋二核錯体 6 ジニトロシル二核錯体 3

た (3) 架橋配位子の効果に関する研究特異な結合を誘起する二核反応場として 架橋配位子の効果は電子的および立体的に重要であることが考えられる そこで 2 つの酢酸イオンが架橋した酸素架橋二核錯体がすでに報告されているため これを元にビスピラゾラト架橋二核錯体の合成を行った X 線構造解析によりその構造を同定しており - 間距離はこれまでの錯体に比べて 長くなっていることがわかった この結果により これまで架橋配位子としてクロライドとピラゾラトの組み合わせの錯体しか研究できなかったが いろいろな架橋配位子の錯体についても調査することができる 酢酸イオン架橋錯体 ビスピラゾラト架橋錯体 () 小分子の活性化について我々が達成した 還元サイクルを参考に オキソ架橋二核錯体 に対して 2 当量の F と反応させて アクア架橋錯体を系中に発生させた その後 亜鉛存在下で一酸化炭素ガスと反応させたところ ジカルボニル二核錯体が単離された IR スペクトルにより 末端カルボニルに帰属されるバンドが観測され また X 線構造解析によりその構造を同定した これにより 二核ルテニウム錯体の近接した位置に 2 つの小分子を配置させることができ さらに この合成法を用いることにより 他の小分子を導入することも可能である 2 F オキソ架橋二核錯体 C C ジカルボニル二核錯体 5. 主な発表論文等 ( 研究代表者 研究分担者及び連携研究者には下線 ) 雑誌論文 ( 計 3 件 ) 1 Yasuhiro Arikawa, ayato Yamasaki, Mamoru Yamaguchi, Keisuke Umakoshi, and Masayoshi nishi. Protonation of a thenium Vinylidene Complex with a Ligand Leading to thenium Vinyl Complexes. rganometallics, 28, pp. 5587 5589 (2009). 査読有 2 Mamoru Yamaguchi, Yasuhiro Arikawa, Yoshimasa ishimura, Keisuke Umakoshi, C Zn and Masayoshi nishi. Vinylidene rutheniums with an electrostructurally-flexible ligand and their ruthenacyclobutene formation. Chem. Commun., pp. 2911 2913 (2009). 査読有 3 Yasuhiro Arikawa, Taiki Asayama, Kazuki Itatani, and Masayoshi nishi. -C ond Formation of Ligands on thenium Complexes with Concurrent Vinylic C- Activation and Subsequent Proton-Induced Reactivities of the Resulting itrosovinyl Species J. Am. Chem. Soc., 130, pp. 10508 10509 (2008). 査読有 学会発表 ( 計 2 件 ) 1 有川康弘ルテニウム錯体上での 分子の動的挙動日本化学会第 90 春季年会 平成 22 年 3 月 28 日 近畿大学本部キャンパス 2 有川康弘二核ルテニウム錯体反応場での 分子の動的挙動 2009 年日本化学会西日本大会 平成 21 年 11 月 8 日 愛媛大学城北キャンパス 3 有川康弘動的な 配位子を指向したルテニウム錯体の研究第 59 回錯体化学討論会 平成 21 年 9 月 27 日 長崎大学文教キャンパス 有川康弘ピラゾラト架橋二核錯体上での特異な反応性第 58 回錯体化学討論会 平成 20 年 9 月 20 日 金沢大学角間キャンパス 6. 研究組織 (1) 研究代表者有川康弘 (ARIKAWA YASUIR) 長崎大学 生産科学研究科 助教研究者番号 :3036936 (2) 研究分担者 ( ) 研究者番号 : (3) 連携研究者 ( ) 研究者番号 :