船舶事故調査報告書 平成 29 年 7 月 13 日運輸安全委員会 ( 海事専門部会 ) 議決委員庄司邦昭 ( 部会長 ) 委員小須田敏委員根本美奈 事故種類衝突 ( 防波堤 ) 発生日時発生場所事故の概要事故調査の経過事実情報船種船名 総トン数船舶番号 船舶所有者等 L B D 船質機関 出力 進

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おお航海士 Aは 22 時 00 分ごろ福岡県宗像市大島東方沖で船長から 船橋当直を引き継ぎ レーダー 1 台を 6 海里 (M) レンジとして 電 子海図表示装置及び GPS プロッターを 12M レンジとしてそれぞれ 作動させ 操舵スタンド後方に立って単独で操船に当たった 本船は 航海士 A が

本船は 船長が1 人で船橋当直につき 主機を回転数毎分約 1,2 00( 出力約 20%) とし 約 5ノットの対地速力で 早岐港南東方沖を手動操舵により南南東進中 11 時 07 分ごろ主機が突然停止した 機関長は 温度計測の目的で機関室出入口の垂直はしごを降りていたところ ふだんと違う同室の音を

船舶事故調査報告書 平成 25 年 8 月 22 日 運輸安全委員会 ( 海事部会 ) 議決 委員長 後藤昇弘 委 員 横山鐵男 ( 部会長 ) 委 員 庄司邦昭 委 員 石川敏行 委 員 根本美奈 事故種類発生日時発生場所船舶事故の概要事故調査の経過事実情報船種船名船籍港総トン数 IMO 番号船舶

船舶事故調査報告書 平成 26 年 9 月 4 日 運輸安全委員会 ( 海事専門部会 ) 議決 委 員 横山鐵男 ( 部会長 ) 委 員 庄司邦昭 委 員 根本美奈 事故種類発生日時発生場所事故調査の経過事実情報船種船名 総トン数船舶番号 船舶所有者等 L B D 船質機関 出力 進水等乗組員等に関

その他の事項 という ) を乗せ ウェイクボーダーをけん.. 引して遊走する目的で 平成 30 年 8 月 13 日 14 時 00 分ごろ土庄町室埼北東方にある砂浜 ( 以下 本件砂浜 という ) を出発した 船長は 自らが操船し 操縦者 同乗者 E の順にウェイクボードに 搭乗させ 本件砂浜北東

MI 船舶インシデント調査報告書 ( 地方事務所事案 ) 横浜事務所 1 引船第二十一管洋運航不能 ( 絡索 ) 2 漁船末廣丸運航不能 ( 機関損傷 ) 3 貨物船鹿児島エキスプレス運航不能 ( 機関損傷 ) 神戸事務所 4 貨物船東翔丸運航不能 ( 船体傾斜 ) 5 ヨット朝鳥運航

操舵室 船室 本件倉庫の通気口 本件倉庫 船尾側 写真 1 本船本船は 船長ほか甲板員 1 人が乗り組み コンベンション協会が企画する地域興し企画の目的で 参加者 11 人及び知人 1 人を乗せ 船体中央部にある船室の各窓を閉めてエアコンを運転し 18 時 40 分ごろ檮原川津賀ダム上流の北岸の係留

台風による外国船の 走錨衝突事故防止に向けて 平成 24 年 9 月 6 日 運輸安全委員会事務局横浜事務所

MA 船舶事故調査報告書 平成 24 年 4 月 27 日 運輸安全委員会 Japan Transport Safety Board

船尾部の便所 スパンカーマスト及び操舵室上部が脱落した 大浦丸は 左舷船首部 のハンドレールに曲損を 前部マストに折損を 船底部に破口及び擦過痕をそれぞれ 生じた < 原因 > 本事故は 洲埼北西方沖において 大浦丸が北進中 第五育丸が漂泊して釣り中 両船長が見張りを適切に行っていなかったため 両船

その他の事項 約 200 であり 船首の作業灯がついていて 船長が投錨する旨を指 示したので 機関室に移動して発電機を起動し いつでも主機を中立 運転にできるように準備した後 自室に戻った 航海士 A は 20 時 00 分ごろ本船が減速していることに気付いて 昇橋したところ 船長から船位が分からな

免許登録日平成 26 年 7 月 3 日免許証交付日平成 26 年 7 月 3 日 ( 平成 31 年 7 月 2 日まで有効 ) 釣り客 A 男性 54 歳釣り客 B 男性 51 歳釣り客 C 男性 74 歳死傷者等重傷 3 人 ( 釣り客 A 釣り客 B 及び釣り客 C) 損傷 なし 気象 海象

MA 船舶事故調査報告書 平成 23 年 9 月 30 日 運輸安全委員会

Japan Transport Safety Board 1 コンテナ船 ACX CRYSTAL ミサイル駆逐艦 USS FITZGERALD 衝突事故 運輸安全委員会令和元年 8 月

船舶事故調査報告書 船種船名 LNG 船 PUTERI NILAM SATU IMO 番号 総トン数 94,446トン 船種船名 LPG 船 SAKURA HARMONY IMO 番号 総トン数 2,997トン 事故種類衝突発生日時平成 25 年 1 月 10 日 1

船舶事故調査報告書 船種船名コンテナ船 WAN HAI 162 I M O 番号 総トン数 13,246 トン 船種船名漁船第七盛南丸 漁船登録番号 OS 総トン数 9.7 トン 船種船名漁船第八盛南丸 漁船登録番号 OS 総トン数 9.7 トン 事故種類衝突

( 東京事案 ) 1 貨物船 MAY STAR 漁船明神丸衝突及び貨物船 MAY STAR 乗揚 2 旅客船 DANS PENTA 1 乗揚 3 釣船うしお丸転覆 4 貨物船第七住力丸漁船大業丸衝突 5 油送船第八豊栄丸乗組員死亡 ( 地方事務所事案 ) 函館事務所 6 漁船西山丸転覆 7 遊漁船第

( 東京事案 ) 1 ダイビング船スタイル乗船者死亡 2 油送船第十七永進丸ケミカルタンカー COSMO BUSAN 衝突 3 ケミカルタンカー錦陽丸引船かいりゅう台船 千 2 衝突 ( 地方事務所事案 ) 函館事務所 4 貨物船りゅうえい乗揚 5 漁船進正丸乗組員死亡 6 漁船第十八のぞみ丸転覆

目 次 はじめに 1 1 立入検査の状況 2 2 命令に係る事項 3 3 その他輸送の安全に重大な関係を有する事項 (1) 船舶事故等の発生状況 6 (2) 船種別事故等の発生状況 7 (3) 主な指導内容 9

裁決録

( 東京事案 ) 1 貨物船 MAY STAR 漁船明神丸衝突及び貨物船 MAY STAR 乗揚 2 旅客船 DANS PENTA 1 乗揚 3 釣船うしお丸転覆 4 貨物船第七住力丸漁船大業丸衝突 5 油送船第八豊栄丸乗組員死亡 ( 地方事務所事案 ) 函館事務所 6 漁船西山丸転覆 7 遊漁船第

船舶プロダクト検討について 背景 船舶の情報はユーザーの注目が高く その情報は主に AIS( 後述 ) や衛星画像 ログ情報等から得られる そして海象 気象情報との連携や統計情報等の大量データから得られる情報等から新しい価値の創出も期待できる このことからコアサービスから提供するプロダクト検討の一環

( 東京事案 ) 1 旅客船龍宮城乗組員死亡 2 プレジャーボートかいきょう丸プレジャーボートこくら丸衝突 3 遊漁船しぶさき10 号沈没 4 遊漁船はなぶさ釣り客負傷 5 モーターボートKaiser 衝突 ( 係船杭 ) 6 漁船若栄丸小型兼用船福寿丸衝突 7 遊漁船一福丸モーターボート可奈丸衝突

同船は沈没した NIKKEI TIGER に死傷者はなく また 船体に大きな損傷はなかった < 原因 > 本事故は 夜間 金華山東方沖 930km 付近において NIKKEI TIGER が北東進中 堀栄丸が南南西進中 両船の進路が交差する態勢で接近する状況となった際 NIKKEI TIGER が左

伏木富山港における大型クルーズ船受入機能強化等 基盤整備調査 調査成果報告書 別添 3 調査主体 富山県 対象地域 富山県高岡市 対象となる基盤整備分野 港湾. 調査の背景と目的伏木富山港は 平成 3 年 月に日本海側拠点港の 外航クルーズ ( 背後観光地クルーズ ) に選定されたほか その他の機能

裁決録

( 東京事案 ) 1 コンテナ船 SONG CHENG 乗揚 2 漁船第八浦郷丸火災 ( 地方事務所事案 ) 函館事務所 3 漁船日正丸転覆仙台事務所 4 モーターボート三王丸転覆 5 モーターボートムスタング乗組員行方不明横浜事務所 6 モーターボート Ever Free Ⅱ 同乗者負傷 7 漁船

船舶事故等調査報告書 ( 軽微 ) 1 船舶事故計 96 件 2 船舶インシデント計 26 件 合計 122 件 平成 21 年 12 月 18 日 運輸安全委員会

( 東京事案 ) 1 ケミカルタンカー青鷹沈没 2 油タンカー PACIFIC POLARIS 衝突 ( 桟橋 ) 3 旅客船第十一天竜丸転覆 ( 地方事務所事案 ) 函館事務所 4 貨物船 SAKHISLAND 引船たていわ丸衝突 5 漁船第十五漁徳丸乗組員死亡 6 漁船第三恵丸乗組員死亡仙台事務

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船舶事故等調査報告書 ( 軽微 ) 1 船舶事故計 96 件 2 船舶インシデント計 26 件 合計 122 件 平成 21 年 12 月 18 日 運輸安全委員会

資料 8 平成 28 年 7 月 25 日 海外のスマートフォンを用いた航海支援アプリについて 海上技術安全研究所 1. 概要現在 スマートフォンを用いたナビゲーション支援アプリは 自動車をはじめ 歩行者用 公共交通機関の乗り継ぎ案内等多くの交通機関を対象として様々な機能に対応している ここでは 海

をガス専焼モードとして運転していたところ ガス燃料管のガスリークディテクタがガス濃度上昇の信号を発し LNGの蒸発ガスの燃焼が停止して主ボイラが失火したので 蒸気消費量を減少させようとして2 台のタービン発電機のうちの1 台の負荷をディーゼル発電機に移行させたが 1 台のタービン発電機の気中遮断器を

( 東京事案 ) 1 モーターボート建友爆発 2 貨物船 AQUAMARINE 漁船平新丸衝突 ( 地方事務所事案 ) 函館事務所 3 漁船第五十一萬漁丸火災 4 漁船第 18 勝丸火災 5 プレジャーボート第十八栄海丸乗揚 6 漁船第六十八廣洋丸衝突 ( 消波ブロック ) 7 漁船第五十五富丸衝突

(1) 船舶の堪航能力が不十分であるとき (2) 天候 本船の状態 積荷の種類又は水路等の状況に照らし 運航に危険 のおそれがあるとき (3) 水先船の航行に危険のおそれがあるとき (4) 水先人の乗下船に対する安全施設が不備であるとき (5) 水先人の業務執行に際し 身体及び生命に危険のおそれがあ

( 東京事案 ) 1 旅客フェリー万葉船体傾斜 2 旅客船第三あんえい号旅客負傷 3 旅客船第三十八あんえい号旅客負傷 ( 地方事務所事案 ) 函館事務所 4 漁船第五十五漁信丸乗揚 5 漁船善宝丸乗組員死亡 6 漁船保栄丸衝突 ( 防波堤 ) 仙台事務所 7 漁船漁栄丸プレジャーボート第五カサイ丸

<4D F736F F D A815B91E58C588ECE8E968CCC91CE8DF482CC82DC82C682DF E646F63>

P&I 保険 とは 船舶の運航に不可欠 船舶の運航に伴って生じる船主の法律上 契約上の責任を対象とする 賠償責任保険 です 例えば 船舶の運航中に港湾 漁業施設などの船舶以外の財物に与えた損害 および 費用をてん補します 非営利での運営 船舶の運航に欠かせない P&I 保険は 非営利で運営される組合

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1. 船舶事故の概要報告書 1 ページ 旅客フェリーさんふらわあだいせつは 船長ほか22 人が乗り組み 旅客 71 人を乗せ 車両等 160 台を積載し 北海道苫小牧市苫小牧港に向けて茨城県大洗港を出港し 苫小牧港南方沖を北進中 平成 27 年 7 月 31 日 17 時 10 分ごろ第 2 甲板で

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( 東京事案 ) 1 交通船フレッシュありかわ乗揚 2 モーターボート涼乗船者負傷 3 貨物船新賢和丸貨物船第八昭和丸衝突 4 貨物船大航丸乗揚 5 漁船大康丸漁船宮島丸衝突 ( 地方事務所事案 ) 函館事務所 6 漁船第六十三潮丸乗組員死亡 7 貨物船阿州山丸火災 8 漁船第 18 太平丸乗組員死

5 ii) 実燃費方式 (499GT 貨物船 749GT 貨物船 5000kl 積みタンカー以外の船舶 ) (a) 新造船 6 申請船の CO2 排出量 (EEDI 値から求めた CO2 排出量 ) と比較船 (1990~2010 年に建造され かつ 航路及び船の大きさが申請船と同等のものに限る )

側のCO₂ルーム バラストタンク等に浸水したため 右舷傾斜が生じて上甲板の右舷側が没水した状態になったことによりハッチカバー 出入口等から船体内部への浸水量が増加するとともに 風浪を受けて復原力を喪失して横転し 更に浸水量が増加して沈没したことにより発生したものと考えられる MING GUANGが波

既存の船舶に関する情報 1

昭和57年広審第15号

< F2D C4816A8A438FE382C982A882AF82E9>

なお 本件に関してご不明な点は 以下の部署にお問い合わせください 一般財団法人日本海事協会 (ClassNK) 本部管理センター別館船体部 EEDI 部門 住所 : 東京都千代田区紀尾井町 3-3( 郵便番号 ) Tel.: Fax:

平成4年第二審第14号

平成 30 年度 網代浜海水浴場流況調査 報告書 平成 30 年 7 月調査 第九管区海上保安本部

ホームページ等のご案内 の情報提供 来島海峡航路を航行する船舶に対して 来島海峡航路に関する様々な情報 ( 巨大船の航路入航予定 潮流 気象現況 航路の航行制限 海難の状況など ) を 無線放送 インターネット ホームページ 一般電話を通じてリアルタイムに提供しています 来島海峡を安全に航行するため

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平成 27 年共同研究の成果について ポイント 以下 1~3 については 平成 27 年 7 月 ~11 月の動向です 1 北極海航路を横断した船舶の航行数 北極海航路( ロシア側 ) を横断した船舶は24 航行 ( 前年は31 航行 ) 前年の航行数はノルウェーの研究機関 CHNLの分析結果 2

裁決録

海の安全情報 1 海の安全情報 インターネットホームページ 仙崎海上保安部のホームページの中に 海の安全情報がリンクされ 気象 海象のほか 港の工事 海難などの海上交通に関 する様々な安全情報を提供しています

< F2D A8E678BA692E88E9696B D2E6A7464>


工事 海難防止のための五か条 一見張りは常時 適切に 目視のほか レーダーや AIS 等を使用霧などで視界不良時は 見張りを増員無理な回航は 居眠りの原因 一航法を守り 早目の避航 海上衝突予防法等に定められた航法や灯火等ルール遵守避航は 早めに かつ 大幅に 一最新の気象情報を入手 刻々と変化する

公益財団法人海難審判 船舶事故調査協会 平成 23 年海審第 7 号 カーフェリーありあけ遭難事件 言渡年月日平成 25 年 6 月 20 日 審 判 所海難審判所 ( 小寺俊秋, 松浦数雄, 片山哲三 ) 理 事 官桒原和栄 受 審 人 A 職 名ありあけ船長 海技免許一級海技士 ( 航海 ) 補

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<4D F736F F F696E74202D A957A A8EC0895E8D7182C982A882AF82E EF89FC915082CC82BD82DF82CC A83808DC5934B89BB A2E >

港則法 海上交通安全法改正に伴う AIS の目的地入力について >JP FNB >JP TYO >JP CHB >JP KWS >JP ANE >JP YOK >JP KZU >JP YOS 第三管区海上保安本部

長崎丸が装備するスラスターの旋回性能

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海上自衛官の海技従事者国家試験の受験資格について(通知)

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海上安全管理 (Marine Safety Management) 海上安全 + 安全管理 海上安全 船 - 操船者 - 環境 の相互連環システムに視点をおいた安全施策 安全管理 安全性を高めるために関係者のモチベーション醸成とコンセンサス形成を図ること 井上欣三著 海上安全管理 研究 (2006

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目 次 Ⅰ 総則 P1~2 Ⅱ 関門海峡通過船舶の標準 P3 Ⅲ 若松区 響新港区 1 若松区 ( 全般 ) 2 若松第 1 区 ( 奥洞海 ) 3 若松第 2 区 ( 八幡泊地 ) 4 若松第 3 区 5 若松第 4 区 ( 戸畑公共岸 内浦 ) 6 若松第 5 区 ( 響灘公共南 戸畑泊地 堺川

2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 平成 21 年 (2009 年 ) の月別累年順位更新表 ( 横浜 ) 23

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2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 横浜地方気象台月別累年順位更新表 横浜地方気象台冬日 夏日 真夏

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ISO/TC 8/SC 6( 航海及び操船分科委員会 ) 担当分 議長 : 今津隼馬氏 ( 東京海洋大学名誉教授 ) 幹事国 : 日本 (( 一財 ) 日本船舶技術研究協会 ) 現在 TC 8/SC 6 担当規格番号標題標題 ( 邦訳 ) 概要制定等年月日 JIS 化の状況 S

f ( 0 ) y スヴェルドラップの関係式は, 回転する球面上に存在する海の上に大規模な風系が存在するときに海流が駆動されることを極めて簡明に表現する, 風成循環理論の最初の出発点である 風成循環の理論は, スヴェルドラップの関係式に様々な項を加えることで発展してきたと言ってもよい スヴェルドラッ

平成18年第二審第37号

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内容 1. 調査概要 2. 内航船の騒音実態調査 3. Janssen 法による騒音予測プログラム 4. 騒音対策の検討 5. まとめ 2

Transcription:

船舶事故調査報告書 平成 29 年 7 月 13 日運輸安全委員会 ( 海事専門部会 ) 議決委員庄司邦昭 ( 部会長 ) 委員小須田敏委員根本美奈 事故種類衝突 ( 防波堤 ) 発生日時発生場所事故の概要事故調査の経過事実情報船種船名 総トン数船舶番号 船舶所有者等 L B D 船質機関 出力 進水等乗組員等に関する情報死傷者等損傷 平成 28 年 8 月 23 日 06 時 44 分ごろ 静岡県富士市田子の浦港 田子の浦港西防波堤灯台から真方位 006 20m 付近 ( 概位北緯 35 08.1 東経 138 41.9 ) メテオラ貨物船 METEORA は 北西進中 防波堤に衝突した METEORA は 左舷船尾部外板に擦過傷を生じ また 防波堤は 南 東端に破損を生じた 平成 28 年 10 月 4 日 本事故の調査を担当する主管調査官 ( 横浜 事務所 ) ほか 1 人の地方事故調査官を指名した 原因関係者から意見聴取を行った 貨物船 METEORA( ケイマン諸島籍 ) 32,348 トン 9368845(IMO 番号 ) METEORA NAVIGATION S.A. 189.99m 32.26m 18.00m 鋼 ディーゼル機関 8,400kW 2007 年 5 月 ( 建造 ) 船長 ( キプロス共和国籍 ) 男性 62 歳 締約国資格受有者承認証船長 ( ケイマン諸島発給 ) 交付年月日 2016 年 7 月 25 日 水先人 A 男性 70 歳 (2016 年 12 月 31 日まで有効 ) 田子の浦水先区一級水先人水先免状 免許年月日平成 21 年 3 月 16 日 免状交付年月日平成 26 年 2 月 28 日 有効期間満了日平成 29 年 3 月 15 日 水先人 B 男性 69 歳 田子の浦水先区一級水先人水先免状 なし 免許年月日平成 14 年 12 月 20 日 免状交付年月日平成 27 年 12 月 4 日 有効期間満了日平成 30 年 12 月 19 日 本船左舷船尾部外板に擦過傷 - 1 -

気象 海象 事故の経過 その他の事項 防波堤南東端角に破損気象 : 天気晴れ 風向北 風力 2 視界良好海象 : 波高約 0.4m 潮汐上げ潮の初期本船は 船長ほか18 人 ( 全員ウクライナ国籍 ) が乗り組み とうもろこし約 26,000tを積載し 船首及び船尾共に約 9.82mの等喫水で 平成 28 年 8 月 23 日 06 時 00 分ごろ田子の浦港南方沖で水先人 2 人を乗せ 水先人 Aが操舵室で水先を行い 水先人 Bが船首部で水先の補佐につき 同港に向けて微速力前進の約 6ノット (kn) の速力 ( 対地速力 以下同じ ) で北進した 本船は 操舵室において 船長が操船指揮 三等航海士が機関操縦及び甲板手が手動操舵の各配置につき 水先人 Aが水先業務に当たり 06 時 10 分ごろ左舷船首にタグボートA( 出力約 1,800k W) を及び左舷船尾にタグボートB( 出力約 2,600kW) を取った 水先人 Aは ふだん 田子の浦港で水先業務に当たる際 約 6knの速力とし 田子の浦港導灯の重視線 ( 以下 本件重視線 という ) となる323.5 ( 真方位 以下同じ ) と 田子の浦港の水路に張り出している突堤に向かう325 の線の間を航行していた 水先人 Aは 06 時 34 分ごろ 西方への圧流を感じていたので 針路 329 とし 本件重視線上を最微速力前進の約 5knで進行した 水先人 Aは 流圧差等を考慮して針路 334 まで取っていたが 西防波堤入口に近づいたので 西方への圧流が弱まると思い 左方に針路を戻したところ 本件重視線より西方に偏位したので 本件重視線上に戻そうと右に針路を転じた 水先人 Aは 左舷船尾が西防波堤に接近して衝突のおそれがあったので キック *1 で避けようと左舵一杯として全速力前進とすることとした 水先人 Aは 慌てていたので 左舵一杯とするところを右舵一杯と指示し 全速力前進としたが すぐに指示の間違いに気付いて左舵一杯に訂正した 本船は 06 時 44 分ごろ 約 5knの速力で左舷船尾部外板が西防波堤の南東端角に衝突した 本船は 衝突後 水先人 Bの水先により 田子の浦港内の岸壁に着岸した ( 付図 1 航行経路図 付表 1 本船のAIS 記録 ( 抜粋 ) 参照 ) 水先人 Aは 本船の速力が約 5knであり 左舷側に取っていたタグボートを頭付けで押させて衝突を回避することはできないと思い 使 *1 キック とは 転舵によって船体が原針路から外側に押し出される現象をいう - 2 -

分析乗組員等の関与船体 機関等の関与気象 海象等の関与判明した事項の解析 用しなかった 水先人 Aは ふだんよりも速力が遅く また 流圧差等は5 ~ 7 程度での経験はあったが 10 近くの当て舵量から考えるとふだんよりも西方への流れが強かったと 本事故後に思った 平成 24 年 8 月に国土交通省中部地方整備局が実施した田子の浦港の流況調査によると 西防波堤付近の上層での平均流速は西向きでは約 9cm/s 東向きでは約 12cm/sであった 静岡県東部及び伊豆では 台風 9 号の接近により 21 日夜から雨が降り始め 22 日朝から昼前にかけて非常に激しい雨となり 富士市では22 日 02 時 46 分に大雨警報が発表され 15 時 38 分に大雨注意報に切り替えられ 17 時 30 分に同注意報が解除された タグボートBの船長は 23 日出港後 台風の大雨の影響で増水した河川からの流れがあり 田子の浦港の防波堤入口付近に強い潮流等があったのではないかと思った 水先人 Aは 約 7 年間の水先の経験があり 本船については 8 月 18 日の入港時及び21 日の出港時に水先人 Bの補佐を行っていた 水先人 Bは 本船が本件重視線から西方へ偏位していると思ったが そのような操船方法もあるので 水先人 Aにその旨を連絡しなかった 水先人 Bは 田子の浦港での水先において 一定ではないが東西の流れがあり 強いときには1~2knの場合もあることを知っていた 文献 操船通論 ( 本田啓之輔著 株式会社成山堂書店 平成 23 年 12 月発行 ) によれば 支援される船の船首にタグボートを頭付けして回頭させるときは 支援される船の速力が3kn 以下でなければタグボートの姿勢保持は困難である ありなしあり本船は 田子の浦港に入航中 左 ( 西 ) 方へ圧流される状況下 水先人 Aが 本件重視線を用いて偏位の確認を適切に行っていなかったことから 本件重視線上を保持する動作が遅れ 西防波堤に向けて圧流され 同防波堤に衝突したものと考えられる 水先人 Aは 西防波堤に近づいたので圧流量が減じるものと思い 本件重視線を用いて偏位の確認を適切に行っていなかったものと考えられる 本船は 田子の浦港に入航中 大雨による河川の増水により左 ( 西 ) 方に圧流された可能性があると考えられるが その状況を明らかにすることはできなかった 本船は 西防波堤付近で約 5knの速力があったことから タグボー - 3 -

原因 参考 トの支援等も困難であった可能性があると考えられる 本事故は 本船が 田子の浦港に入航中 左 ( 西 ) 方へ圧流される状況下 水先人 Aが 本件重視線を用いて偏位の確認を適切に行っていなかったため 本件重視線上を保持する動作が遅れ 西防波堤に向けて圧流され 同防波堤に衝突したものと考えられる 田子の浦水先区水先人会は 本事故後 事故防止対策として 潮流等の外力の影響を注意深く観察し 船位の確認を確実にすることなどとした 今後の同種事故等の再発防止に役立つ事項として 次のことが考えられる 外力の影響を考慮して慎重に操船すること - 4 -

付図 1 航行経路図 静岡県富士市 西防波堤 事故発生場所 ( 平成 28 年 8 月 23 日 06 時 44 分ごろ発生 ) 田子の浦港西防波堤灯台 田子の浦港 325 線 本件重視線 本船 - 5 -

付表 1 本船のAIS 記録 ( 抜粋 ) 船位船首方位対地針路対地速力時刻北緯東経 ( ) ( ) (kn) ( 時 : 分 : 秒 ) ( - - ) ( - - ) 06:33:01 35-07-19.2 138-42-34.7 334 335.7 5.2 06:34:30 35-07-25.9 138-42-29.8 329 325.6 5.2 06:35:01 35-07-28.0 138-42-28.0 329 323.7 5.2 06:36:11 35-07-32.8 138-42-23.4 332 320.3 5.1 06:37:02 35-07-36.4 138-42-20.1 333 322.9 5.1 06:38:30 35-07-42.3 138-42-14.5 334 323.7 5.1 06:39:02 35-07-44.5 138-42-12.7 333 325.8 5.1 06:40:02 35-07-48.8 138-42-09.0 330 322.1 5.1 06:41:02 35-07-52.7 138-42-05.0 330 319.3 5.2 06:42:01 35-07-56.7 138-42-00.8 332 318.9 5.3 06:43:01 35-08-00.8 138-41-56.9 333 322.5 5.2 06:44:01 35-08-04.9 138-41-53.4 340 336.2 4.7 06:45:01 35-08-09.5 138-41-51.5 330 336.5 4.9 06:46:01 35-08-13.7 138-41-48.7 321 324.2 4.7 06:47:01 35-08-17.3 138-41-45.3 318 322.4 4.4 船位は 船橋上方に設置されたGPSアンテナの位置である - 6 -