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シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

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ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

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染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

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割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

背景 ~ 抗菌薬使用の現状 ~ 近年 抗微生物薬の薬剤耐性菌に伴う感染症の増加が国際的にも大きな課題の一つに挙げられている 欧州及び日本における抗菌薬使用量の国際比較 我が国においては 他国と比較し 広範囲の細菌に効く経口のセファロスポリン系薬 キノロン系薬 マクロライド系薬が第一選択薬として広く使

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緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

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2012 年 7 月 18 日放送 嫌気性菌感染症 愛知医科大学大学院感染制御学教授 三鴨廣繁 嫌気性菌とは嫌気性菌とは 酸素分子のない環境で生活をしている細菌です 偏性嫌気性菌と通性嫌気性菌があります 偏性嫌気性菌とは 酸素分子 20% を含む環境 すなわち大気中では全く発育しない細菌のことで 通

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2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

Ⅲ. 検査検査は軽症 (0 項目 ) と中等症 (1 2 項目 ) では肺炎球菌尿中抗原 必要によりレジオネラ尿中抗原とインフルエンザ抗原 中等症 (1,2 項目 ) と重症 (3 項目 ) ではさらに喀痰グラム染色 喀痰培養を追加 超重症 (4,5 項目 ) ではさらに血液培養 血清検査とストック

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者における XO 阻害薬の効果に影響すると予測される 以上の議論を背景として 本研究では CKD にともなう FX および尿酸の薬物体内動態 ( PK ) 変化と高尿酸血症病態への影響を統合的に解析できる PK- 薬力学 (PD) モデルを構築し その妥当性を腎機能正常者および CKD 患者で報告さ

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15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit

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記載データ一覧 品目名 製造販売業者 BE 品質再評価 1 バンコマイシン塩酸塩散 0.5g サワイ 沢井製薬 # 2 バンコマイシン塩酸塩散 0.5g タイヨー 武田テバファーマ # 3 バンコマイシン塩酸塩散 0.5g ファイザマイラン製薬 # ー 4 バンコマイシン塩酸塩散 0.5g MEEK

づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

本書の読み方 使い方 ~ 各項目の基本構成 ~ * 本書は主に外来の日常診療で頻用される治療薬を取り上げています ❶ 特徴 01 HMG-CoA 代表的薬剤ピタバスタチン同種同効薬アトルバスタチン, ロスバスタチン HMG-CoA 還元酵素阻害薬は主に高 LDL コレステロール血症の治療目的で使 用

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2006 年 3 月 3 日放送 抗菌薬の適正使用 市立堺病院薬剤科科長 阿南節子 薬剤師は 抗菌薬投与計画の作成のためにパラメータを熟知すべき 最初の抗菌薬であるペニシリンが 実質的に広く使用されるようになったのは第二次世界大戦後のことです それまで致死的な状況であった黄色ブドウ球菌による感染症に対して ペニシリンは劇的な効果を発揮しました しかし その後ペニシリンが広範囲に使用されたことによって ペニシリン耐性黄色ブドウ球菌が出現しました このペニシリン耐性菌に対して メチシリンが開発され 再び広く使用されるようになりましたが 今度はメチシリンが効かないグラム陰性桿菌が問題となりました これらを制圧するために 広範囲スペクトラムのセフェム系抗菌薬が次々に開発され 繁用されることにより MRSA が出現しました これらのことから人類は 抗菌薬は使えば使うほど 耐性菌を生み出す ことを理解し 抗菌薬の適正使用が強く望まれるようになりました まず 抗菌薬投与開始に当たっての 3 原則は 1. その患者が感染症かどうか? 2. 抗菌薬が効く感染症かどうか? 3. 抗菌薬の投与が必要かどうか? です これら 3 原則に全て当てはまる場合 抗菌薬の使用が開始されます 実際の抗菌薬の使用に当たって 最大の効果と安全性を確保するためには 次のようなチェック事項があります 原因菌は何か

原因菌の薬剤感受性 抗菌薬の臓器移行性 抗菌薬の投与計画 抗菌薬使用時に注意する副作用 相互作用 特別に配慮が必要な患者の状態 ( 免疫不全 腎障害 肝障害 栄養状態など ) 経済性はどうか本日は これらの中でも 感染症治療のチーム医療において 薬剤師が最も能力を発揮すべき 抗菌薬投与計画作成のためのパラメータについてお話しいたします 抗菌薬の投与計画を作成するためには 抗菌薬のパラメータと微生物に関するパラメータの双方を熟知しておく必要があります 抗菌薬のパラメータとしては Cmax T1/2 AUC Time above MIC そして PAE が重要です また 微生物に関するパラメータとしては MIC MBC があります これらの抗菌薬のパラメータと 微生物に関するパラメータを総合的に評価する考え方を PK/PD 理論と言い 薬物体内動態 (PK : Pharmacokinetics) と薬力学 (PD:Pharmacodynamics) を加味して抗菌薬の投与計画を作成します PK パラメータは 薬物の生体内での吸収 分布 代謝 排泄などを表す PK パラメータは 薬物の生体内での吸収 分布 代謝 排泄などの薬物動態を表します 抗菌薬の投与量や投与方法と 生体内での薬物濃度の時間推移である血中濃度推移 血中濃度半減期が指標となります 特に Cmax Trough 値 AUC が重要なパラメータです Cmax: 最高血中濃度 (peak 血中濃度 ) 薬物投与後の血中濃度の最大値で 抗菌活性と関連します ニューキノロン系やアミノグリコシド系のような濃度依存性の抗菌薬では Cmax が臨床効果を高める上で重要とされます Tmax: 最高血中濃度到達時間薬物投与後 血中濃度が Cmax に到達するまでの時間を表します T1/2: 血中濃度半減期 ( 消失半減期 ) 血中の薬物濃度が半分に減少するのに要する時間を表します Trough 値 : 最低血中濃度薬物投与後の次回投与直前の血中濃度最低値で 抗菌活性および安全性と関連します β-ラクタム系 マクロライド系 グリコペプチド系抗菌薬では有効性の指標となります 一方 ニューキノロン系やアミノグ

リコシド系のような濃度依存性の抗菌薬では trough 濃度が安全性の指標となります AUC(area under the curve): 血中濃度曲線下面積薬物血中濃度の時間経過を表したグラフで描かれる曲線 ( 薬物血中濃度 時間曲線 ) と 横軸 ( 時間軸 ) によって囲まれた部分の面積を表します ニューキノロン系やアミノグリコシド系抗菌薬の臨床効果と関連します PD パラメータは 細菌に対する薬物濃度暴露と薬効の強さの関係を表す PD パラメータは 薬力学のパラメータで 細菌に対する薬物濃度曝露と薬効の強さとの関係を表します 抗菌薬の有効性と安全性の指標となります MIC PAE が重要です MIC(minimum inhibitory concentration): 最小発育阻止濃度細菌の増殖を阻止するのに必要な抗菌薬の最小濃度で 抗菌薬の抗菌力および感受性の指標です MIC 値が低いほど 対象となる菌に対して抗菌活性が強いことを示します 例えば MIC80 と表記がある場合は 全体の 80% の菌株の発育を阻止する濃度を意味します また 最近では MIC では感受性菌は除菌できても 耐性菌を残してしまう可能性があるため 耐性菌を残らず除菌するためには MIC よりさらに高い濃度である MPC(Mutant prevention concentration) が必要という考え方も生まれてきています MBC(minimum bactericidal concentration): 最小殺菌濃度 MIC の測定の後 生育が認められなかった培養液を薬剤無添加の培養液に加えて 菌の発育がみられなかったときの濃度を表します 値が小さいほど殺菌力が強いことを意味します PAE(post-antibiotic effect): ある抗菌薬が微生物に短時間接触した後 抗菌薬を除去しても持続してみられる増殖抑制効果のことです 血中から抗菌薬が消失した後も 細菌の増殖が抑制されます グラム陽性菌に対してはβ-ラクタム系をはじめ ほとんどの抗菌薬がこの作用を持ちます グラム陰性菌に対してはニューキノロン系とアミノグリコシド系の抗菌薬がこの作用を持ち 特にアミノグリコシド系抗菌薬の 1 日 1 回投与の理論的根拠となっています PAE とは別に PASME(post-antibiotic submic effect) という概念も用いられるようになってきました PAE は完全に薬剤を除いた時にみられる菌の増殖抑制効果であるのに対し PASME は薬剤濃度が生体内で徐々に低下し MIC 以上の濃度から 1/2MIC 1/4MIC などの submic に低下しても引き続き菌の増殖が抑えられる効果のことです 抗菌薬併用療法の理論的根拠となっています

PK と PD のパラメータを総合的に評価することが必要 抗菌薬を適切に使用するためには PK と PD のパラメータを総合的に評価することが必要です また PK/PD の関係は 薬物血中濃度モニタリングの科学的根拠です PK/PD パラメータとしては Cmax/MIC AUC/MIC Time above MIC があります Cmax/MIC: 最高血中濃度 / 最小発育阻止濃度特にニューキノロン系やアミノグリコシド系などの濃度依存性の抗菌薬では 有効性の指標となります AUC/MIC: 血中濃度曲線下面積 / 最小発育阻止濃度ニューキノロン系抗菌薬をはじめ いくつかの抗菌薬では 臨床効果を予測するパラメータです AUC/MIC が大きければ優れた臨床効果が期待できます Time above MIC: MIC 以上の濃度を持続している時間 β-ラクタム系やマクロライド系抗菌薬では 病巣内で MIC 以上の濃度が保たれる時間が長いほど臨床効果が高くなります β-ラクタム系では 次の投与までの間の Time above MIC が 40% を超えることが有効性につながると言われており β-ラクタム系を重症感染症に使用する場合に 1 回投与量を増加するより 投与間隔を短くする方が重要とされる根拠となっています 最近では重症感染症において β-ラクタム系の持続点滴なども試みられるようになってきました 最後に 抗菌薬を最も安全に効果的に使用するためには その性質をよく把握した上で 目の前の患者さんに対して適切な投与量 投与方法を決定する必要があります そのためには PK/PD の考え方が欠かせません しかしながら 現在 医療現場では 全ての医療従事者がこの考え方を理解している状況には至っていません 感染制御専門薬剤師には この PK/PD 理論を熟知して 抗菌薬適正使用を推進する という重要な役割を担うことが期待されます http://medical.radionikkei.jp/jshp_sp/program.html

PK/PDパラメータからみた抗菌薬 薬効と関連する Cmax/MIC AUC/MIC Time above MIC パラメータ 抗菌薬 アミノグリコシド系薬フルオロキノロン系薬 アジスロマイシンフルオロキノロン系薬ケトライド系薬リネゾリド カルバペネム系薬セフェム系薬ペニシリン系薬マクロライド系薬 抗菌作用 濃度依存性 濃度依存性 時間依存性 治療への応用 投与量 投与量 投与間隔調整 阿南節子他 : 抗菌薬 消毒薬 Q&A, じほう,2005 Pharmacokinetics(PK) Pharmacodynamics(PD) 濃度 効果 時間 濃度 (Log) PK/PD 効果 vs 時間 効果 PD および PK/PD 解析の関係 PK とMIC(PD PD) を組み合わせると横軸に時間, 縦軸に MIC の概念が入る 入る そして, 抗菌薬の効果に影響を及ぼす PK/PD パラメーターは Time above the MIC(1 日の内で抗菌薬の血中濃度が MIC を超えた時間の割合 ),AUC AUC( 血中濃度を表したものの面積 )/MIC) MIC,Cmax( 最高血中濃度 )/MIC) の3つを使用し, 抗菌薬の効果を判定する 時間

PK/PD 面からみた抗菌薬の特性 血中濃度 Cmax/MIC AUC0-24/MIC MIC Time above/mic 時間 PAE:Post-Antibiotic Effect 細菌に対して一定時間抗菌薬を作用させた後, その抗菌薬を除いても細菌増殖が抑制される現象 PAE 効果時間は白血球数に依存して延長する ( 白血球数減少時は期待できない ) 抗菌薬細菌 PAE β- ラクタム薬 グラム陽性球菌 グラム陰性悍菌 2~6 時間 <1 時間 アミノグリコシド系フルオロキノロン系テトラサイクリン系マクロライド系 グラム陽性球菌 グラム陰性悍菌 4~10 時間 2~8 時間

各種抗菌薬の特徴 時間依存性殺菌作用 β- ラクタム薬 MIC 以上の血中濃度が投与間隔の何 % 保たれるかが効果と相関 (40% 以上?) 重症感染症では 1 回投与量の増加より投与間隔が重要 濃度依存性殺菌作用 アミノグリコシド系, フルオロキノロン系 最高血中濃度が MIC の何倍かが重要 ( 効果と関連 ) 安全確認のトラフ濃度のチェック ( アミノグリコシド系 TDM) 1 日総投与量が決まれば,1 日 1 回投与が可能