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162 Jpn. J. Clin. Immunol., 36 (3) 162~169 (2013) 2013 The Japan Society for Clinical Immunology 総 説 抗 RANKL モノクローナル抗体製剤デノスマブの開発とその薬理学的作用 高見正道 Development and pharmacological ešects of anti-rankl monoclonal antibody drug Denosumab Masamichi TAKAMI Department of Biochemistry, School of Dentistry, Showa University (Accepted May 10, 2013) summary Denosumab (called RANMARK in Japan), an anti-bone resorptive drug, is a complete human type monoclonal antibody that targets the osteoclast dišerentiation factor receptor activator of NF-kB ligand (RANKL). Usingadvanced gene-engineering techniques, Amgen Inc. (USA) has developed the drug, and it is now utilized in Japan for treatment of cancerous bone lesions associated with multiple myeloma and bone metastasis. On the other hand, denosumab has also shown inhibitory ešects on bone resorption seen in patients with osteoporosis, rheumatoid arthritis, and Paget's disease, thus its range of use for medical treatment is expected to widen. Because of its long half-life in the body, subcutaneous denosumab administrations every 6 months are su cient to obtain inhibitory ešects on bone resorption, suggesting that this agent is more e cacious than bisphosphonates, which are presently used as anti-bone resorptive drugs. However, hypocalcemia might develop in patients with massive renal dysfunction. Denosumab binds to a speciˆc loop structure of the RANKL molecule and inhibits its interaction with its receptor RANK. When labeled with radioactivity, denosumab was detected in lymph nodes and the spleen after subcutaneous administration, indicating its binding to RANKL expressed in those tissues. Thus, many medical doctors and investigators are interested in the inhibitory ešects of denosumab on bone resorption as well as its mode of action. Key words denosumab; bone; osteoclasts; RANKL; cancer 抄 録 骨吸収抑制剤デノスマブ (Denosumab) は, 破骨細胞の分化誘導因子である RANKL (receptor activator of NFkB ligand) を標的とした完全ヒト型モノクローナル抗体製剤である. 米国 Amgen 社が最先端の遺伝子工学技術を駆使して本剤を開発し, わが国ではランマーク (RANMARK) という商品名で多発性骨髄腫や固形癌骨転移に伴う骨病変の治療に使用されている. また, 骨粗鬆症や関節リウマチ, 骨パジェット病患者に対しても骨吸収抑制効果を示すことから, 使用範囲は今後さらに拡大すると予想される. デノスマブは生体内での半減期が長く, 半年に 1 度の皮下投与で十分な骨吸収抑制効果が得られる. これは, 従来使われてきたビスホスホネート製剤よりも強力であることを意味するが, 重度の腎機能障害患者では低カルシウム血症引き起こすこともある. デノスマブは, RANKL 分子特有のループ構造に結合し, 受容体である RANK との相互作用を阻害する. また, 放射能標識したデノスマブを用いた生体内での追跡実験結果から, 皮下投与したデノスマブが血液を介してリンパ節や脾臓の RANKL に結合することが示唆されている. このように, 本剤は強力な骨吸収抑制作用と, これまでにない作用機序をもつことから, 医師および研究者の注目を集めている. はじめにデノスマブ (Denosumab) は, 米国最大のバイオベンチャーである Amgen 社が開発した新しい骨吸収抑制剤であり, その主成分は, 破骨細胞分化の必須因子,RANKL (receptor activator of NF-kB ligand) を標的としたヒト型モノクローナル抗体で昭和大学歯学部口腔生化学 ある 1~4) ( 図 1). 本剤は 2012 年 4 月, 第一三共株式会社よりランマーク (RANMARK ) という商品名で国内販売され, 多発性骨髄腫または固形癌骨転移による骨病変の治療に使用可能となった 1). これまで用いられてきた骨吸収抑制剤には, エストロゲン製剤 5), エストロゲン受容体モジュレーター (selective estrogen receptor modulators : SERM) 6), カルシトニン製剤 7), ビスホスホネート製剤 8) などがあるが, デノスマブは, 骨粗鬆症患者

高見 ヒト型抗 RANKL 抗体製剤デノスマブ 163 図 1 RANKL による破骨細胞分化誘導に対するデノスマブの作用破骨細胞の前駆細胞は単球 マクロファージに由来し, 受容体である RANK を発現している. リガンドである RANKL が RANK 結合すると細胞内シグナルが活性化され, 破骨細胞に分化する. このとき,M-CSF (macrophage colony-stimulating factor) による c-fms (M-CSF 受容体 ) シグナルも必須である. 破骨細胞に分化した後も,RANK からのシグナルは骨吸収機能や生存を維持する. 骨芽細胞や T 細胞などが発現する RANKL は膜結合型だが, その一部は酵素により切断されて可溶型となる. デノスマブは膜結合型および可溶型のいずれにも結合し, そのはたらきを阻害する.( 文献 3)( 図 著者オリジナル ) などにおける骨関連リスクに対し, ビスホスホネートよりも少ない投与回数でそれを上回る骨吸収抑制効果を発揮することから, 骨疾患治療における革新的な薬剤として期待されている 9). そこで本稿では, デノスマブの開発過程とその骨吸収抑制作用機序について解説する. I. デノスマブの開発デノスマブは完全なヒト型抗体であるため, 生体内でも安定であり, 免疫細胞により異物として認識されにくい. このような完全ヒト型抗体の開発には, マウスの IgG ではなく, ヒト型の IgG を産生するよう遺伝子が改変された XenoMouse 10) や HuMAb Mouse 11) などが用いられている 12,13). デノスマブの開発過程ではまず,XenoMouse をヒト RANKL (hrankl) で免疫した後, リンパ節より B 細胞を採取し, これらの細胞とマウスの骨 図 2 デノスマブの開発 hrankl をヒト IgG2/k を産生する XenoMouse に注射し, ~ リンパ節から採取した細胞とマウス骨髄腫細胞との融合によりハイブリドーマを誘導した. その中から, ELISA, Biacore および破骨細胞分化アッセイを利用して hrankl 特異的中和抗体を産生する AMG6.5 株を選抜した. この細胞株がもつ mrna 情報を解析し,IgG2 の L 鎖および H 鎖発現ベクターを作製し, CHO 細胞に共導入することによって hrankl 特異的モノクローナル抗体を産生する製造用細胞株を樹立した. この抗体を精製 製剤化したのがデノスマブである. 製造工程では, 微生物等の不活性化処理や濾過, ウイルス試験, マイコプラズマ試験, エンドトキシン試験などが実施されている.( 文献 14, 17) ( 図 著者オリジナル ) 髄腫細胞を融合させ, ハイブリドーマ細胞を誘導した 14,15) ( 図 2). 次に,hRANKL に対して高い特異性と親和性をもつ抗体を産生するハイブリドーマ細胞を,ELISA, Biacore および破骨細胞分化誘導アッセイを用いて選抜し,AMG6.5 細胞株を得た. この細胞株から抽出したヒト IgG をコードする

164 日本臨床免疫学会会誌 (Vol. 36 No. 3) mrna の塩基配列を解析し,IgG の L 鎖および H 鎖の発現ベクターをハムスター卵巣由来の細胞株 CHO 細胞に導入した. これにより, 安定して抗 hrankl 抗体を産生する製造用の細胞株を樹立し, その培養上清から抗体を精製 製剤化したのがデノスマブである 14) ( 図 2). II. デノスマブの分子構造と RANKL に対する特異性 1. 分子構造デノスマブは H 鎖 (448 アミノ酸残基 )2 分子と,L 鎖 (215 アミノ酸残基 )2 分子で構成される単量体型の免疫グロブリン (IgG) であり,H 鎖と L 鎖はそれぞれ 4 個および 2 個のジスルフィド結合をもつ ( 図 3A).RANKL との相補性を決定する領域は, 各鎖に 3 箇所ずつ存在し,H 鎖 298 番目のアスパラギン残基には N- 結合型糖鎖が結合しているが, その有無による生物活性への影響は認められていない 14).IgG には IgG1~IgG4 までのサブクラスがあり, デノスマブは IgG2 に属する. 一般に, 食細胞の Fc レセプターに対する IgG2 の結合能は微弱で, 補体の活性化作用も IgG4 に次いで低い 15). すなわち, デノスマブは他の IgG サブクラスに比べ,RANKL を発現する標的細胞に与える細胞傷害活性が小さく, 抗原 抗体反応に起因する副作用のリスクを最小限に抑えることができている. 2. ヒト RANKL に対するデノスマブの特異性 RANKL には細胞表面に結合した細胞膜型と, それが酵素により切断され血液中を循環する可溶型が存在し 16), 細胞膜型が破骨細胞分化を誘導するには, 破骨細胞の前駆細胞との細胞間接触を必要とする ( 図 1). 一方, 関節リウマチ患者の関節液中などにも認められる可溶型 RANKL は, 細胞接触を介すること無く前駆細胞に作用し, 破骨細胞分化を誘導する. デノスマブは細胞膜型だけでなく, 可溶型にも結合してその機能を阻害することから, 病的な骨吸収を阻止できると推察される 14,17). RANKL に結合してその作用を阻害する因子として OPG (osteoprotegerin) がある.OPG は内在性の分泌型タンパク質であり,RANKL のおとり受容体として機能し, 破骨細胞分化を阻害することから, 長きにわたり骨吸収抑制剤としての利用が検討されてきた. しかし, 生体内での半減期が短いほか, RANKL だけでなく,TNF ファミリーの一員である TRAIL (tumor necrosis factor-related apoptosisinducing ligand) にも結合する 18,19). これに対して, デノスマブは半減期が長く,TRAIL を含め TNF-a, TNF-b, CD40L など, 他の TNF ファミリー分子に結合しないことが確認されている 14). したがって, 生体内での半減期や RANKL に対する特異性において, デノスマブの方が OPG よりも骨吸収抑制剤として優れている. 図 3 デノスマブの分子構造 (A) および RANKL 三量体におけるデノスマブの結合部位 (B) A デノスマブの構造. デノスマブは IgG2 サブクラスに分類され,448 アミノ酸残基の H 鎖と 215 アミノ酸残基の L 鎖各二分子がそれぞれジスルフィド結合 ( 点線 ) で結合した糖タンパク質である. 太い赤線で示した H 鎖の 31 35, 50 66 および 99 111 番目のアミノ酸と,L 鎖の 24 35, 51 57 および 90 98 番目のアミノ酸は RANKL に対する特異性をもつ領域である.( 文献 14, 図 著者オリジナル ) B RANKL 三量体の構造.RANKL の分子構造には, アミノ酸鎖が折りたたまれて形成されるループ領域が存在する. そのうち, AA ループと DE ループは受容体である RANK と接触する領域である. デノスマブは DE ループ ( 赤色 ) に結合して RANK との結合を阻害する.( 文献 14, 17, 図 文献 20 より引用, 一部改変 ).

高見 ヒト型抗 RANKL 抗体製剤デノスマブ 165 3. デノスマブが結合する RANKL の分子内構造 RANKL と RANK はそれぞれ三量体を形成して結合する 20,21). その結果,RANK の細胞内領域にある TRAF (TNF receptor associated factor) 結合ドメインに種々のシグナル伝達因子が会合し, それらの連携によりシグナルが核へと伝達され, 破骨細胞分化が誘導される 3,22,23).RANKL と RANK の結晶構造解析の結果,RANKL には他の TNF ファミリー分子と共通して存在する 3 つのループ領域 (AA ループ,DE ループ,EF ループ ) があり, それらの立体構造は少しずつ異なっていた. さらに, RANKL の AA ループと DE ループは,RANK と接触する領域であった 20). この情報に基づいて開発者らは,ELISA などによりデノスマブの結合部位を解析したところ,RANKL の DE ループがデノスマブの結合標的となっていることが示唆された 14,15) ( 図 3B). すなわち, デノスマブは RANKL に特有の立体構造に結合することで,RANK シグナルの活性化を抑制している. III. デノスマブの生体内分布開発者らは, 投与したデノスマブの生体内分布を調べるため, 雌のサルに 125 I で放射能標識したデノスマブを単回皮下投与した. その結果, 投与後 12 時間と 120 時間後に各種組織中の放射線濃度が最高値を示した 14). デノスマブ投与後 56 日目には, 放射能濃度が高く推移した腋窩 鼠径リンパ節, 脾臓, 卵巣, 肺のうち, 腋窩 鼠径リンパ節と脾臓で血清中よりも高濃度の放射能が検出された. このことから, デノスマブがこれらの組織に発現する RANKL に結合したことが示唆された 14). 一方, 破骨細胞分化を支持する骨芽細胞も RANKL を発現することが知られているが 3,24), 大腿骨などの骨組織における放射能濃度は血清中よりも低く, 骨組織へのデノスマブの特異的な取り込みは認められなかった 14). さらに, 免疫組織染色法を用いてヒトおよびサルの組織におけるデノスマブの分布を観察した結果, やはりリンパ節に存在するリンパ球細胞膜上に陽性反応が認められたが, それ以外の組織で特異的な陽性反応は認められなかった 14). 以上の結果から, デノスマブは血液中を循環し, リンパ節や脾臓に存在する T 細胞などの RANKL に結合するのではないかと推察される. ただし, 可溶型 RANKL や,T 細胞以外の種々の細胞が発現する RANKL への結 合 25,26), さらには関節リウマチなどの骨病態におけるデノスマブ分布について, 更なる解析を要する. IV. 実験動物に対する作用 1. ヒト RANKL ノックインマウスデノスマブはマウスの RANKL に結合しないため, マウスに投与しても本来の薬理作用は認められない. そこで, マウス自身の RANKL 遺伝子をヒトの RANKL 遺伝子で置換した hrankl ノックイン (KI) マウスを用いてデノスマブの薬理作用が検討された 14,27).6~8 週齢の hrankl KI マウスにデノスマブ (5mg/kg) を週 2 回,3 週間皮下投与したところ, 脛骨における破骨細胞の減少, 骨吸収マーカーである血清 TRAP ( tartrate-resistant acid phosphatase)5b の低下, および脛骨における海綿骨の増加が認められた. また, 加齢マウス (10 ヶ月齢 ) にデノスマブを投与したところ, 血清 TRAP5b と骨形成マーカーである血清オステオカルシンの低下が認められた. これらの結果は, デノスマブが骨吸収を抑制したことによる骨代謝回転速度の低下を示唆する 14,27). 2. カニクイザルカニクイザルを対象として, デノスマブを週 1 回, 1 ヶ月間反復皮下または静脈内投与する実験群と, 同剤を月 1 回,6 ヶ月または 12 ヶ月間, 反復皮下投与する実験群を準備し, デノスマブの毒性試験がおこなわれた 14,15). デノスマブを 1 ヶ月間投与した群では, 骨の低代謝回転を示唆する血清アルカリホスファターゼ, 血清カルシウム濃度, 血清 I 型コラーゲン架橋 N テロペプチド (NTx), およびオステオカルシン濃度の低下と, それにともなう骨密度増加が認められた 14,15). デノスマブを 6 または 12 ヶ月間投与した群においても, 低代謝回転による脛骨, 胸骨, 大腿骨の骨端成長板の肥厚のほか, 軟骨破裂の減少, 骨芽細胞数および破骨細胞数の減少が認められた 14,15). 体重や眼科的所見, 心電図, 血圧, 血清中 IgG およびリンパ球分画数, ならびにその他の臨床病理学的パラメーターにおいて明らかな影響は認められなかった 14,15). また, 生殖や発生においても顕著な変化は認められなかったが, RANKL の阻害がリンパ節形成や硬組織に関連した発生に影響を与えることが報告されていることより 13,26,28), 胎児への影響を防ぐ目的で妊婦やその可能性のある婦人に対してのデノスマブ投与は禁忌と

166 日本臨床免疫学会会誌 (Vol. 36 No. 3) されている 1). V. ヒト骨関連疾患に対する作用 1. 骨粗鬆症閉経後低骨密度女性を対象として,6 ヶ月毎のプラセボまたはデノスマブ (6, 14, 30 mg) 皮下投与群と, 週 1 回のアレンドロネート 70 mg 経口投与群の効果が 1 年にわたり比較された 29). いずれの群 も, 投与後 1 ヶ月以内に骨吸収マーカーである血清 C テロペプチド (CTx) のレベルが低下し ( 図 4A), 3 ヶ月以内に骨形成マーカーであるアルカリホスファターゼレベルが低下した ( 図 4B).CTx の低下率は, アレンドロネート群よりも 30 mg デノスマブ群の方が大きかった.1 年後, 両群の脊椎, 腰椎, 橈骨および全身の骨密度が増加しており,30 mg デノスマブ群で最も高い骨密度が認められた. 図 4 閉経後の低骨密度女性 (A, B, C), 骨転移を有する乳癌患者 (D), 関節リウマチ患者 (E) および骨パジェット病患者 (F) に対するデノスマブの作用 A-C 閉経後低骨密度女性に対して, プラセボ (46 例 ), 半年毎にデノスマブ 6mg(40 例 ),14 mg(43 例 ), または 30 mg(40 例 ) を皮下投与した群と, 毎週 70 mg アレンドロネート (46 例 ) を経口投与した群における (A) 血清中 CTX(I 型コラーゲン架橋 C テロペプチド 骨吸収マーカー ),(B) 骨特異的アルカリホスファターゼ ( 骨形成マーカー ) および (C) 脊椎骨の骨密度の変化 ( 文献 29 より引用 一部改変 ). D 骨転移を有する乳癌患者に対して 4 週毎に 120 mg デノスマブ ( 皮下 ) およびゾレドロン酸のプラセボ ( 静脈内 ) を投与した群 (1,026 例 ) と,4 週毎に 4mgゾレドロン酸 ( 静脈内 ) とデノスマブのプラセボ ( 皮下 ) を投与した群 (1,020 例 ) の初回 SRE (skeletal-related events) 発現までの期間の Kaplan-Meier 曲線 ( 文献 32 より引用 一部改変 ). E グルココルチコイド非投与の関節リウマチ患者を対象として,6 ヶ月毎にプラセボ (49 例 ),60 mg デノスマブ (45 例 ) または 180 mg デノスマブ (43 例 ) を皮下投与した群の腰椎骨密度の変化 ( 文献 36 より引用 一部改変 ). F 骨パジェット病患者 (1 例 ) に対して 60 mg のデノスマブを 0, 6, 9, 12, 15 ヶ月目に皮下投与 ( 矢印 ) したときの血清 CTX と血清 1CTP( 型コラーゲン C 末端テロペプチド 骨吸収マーカー ) の推移 ( 文献 37 より引用 一部改変 ).

高見 ヒト型抗 RANKL 抗体製剤デノスマブ 167 ( 図 4C). これらの結果から, デノスマブは投与量に依存して骨代謝回転抑制作用と骨密度増加作用を発揮することが示唆された. 閉経後骨粗鬆症患者の骨折リスクに対するデノスマブの抑制効果が検討された (Fracture Reduction Evaluation of Denosumab in Osteoporosis Every 6 Months : FREEDOM 試験 ) 30).6 ヶ月毎のデノスマブ 60 mg 皮下投与群と, プラセボ群の骨折率を 3 年間にわたって比較したところ, 脊椎骨折, 非脊椎骨折, 大腿骨頸部骨折のいずれにおいてもプラセボ群に対してデノスマブ群で有意な抑制効果が認められた 30). すなわち, デノスマブは 6 ヶ月に一度の投与により, 骨粗鬆症患者の骨折リスクを有意に低下させることが示された. 2. 骨転移を有する癌骨転移を有する癌患者には, ビスホスホネート製剤の 1 つであるゾレドロン酸が汎用されている 31). 骨転移を有する癌患者を対象とした第 相臨床試験では, 病的骨折, 骨への放射線治療, 骨の外科的処置, または脊髄圧迫を骨関連事象 (skeletal-related events : SRE) と定義し, デノスマブとゾレドロン酸が比較された 32~35). 骨転移を有する乳癌患者を, 4 週毎にデノスマブ (120 mg, 皮下 ) およびゾレドロン酸のプラセボ ( 静脈内 ) を投与するデノスマブ群と, 4 週毎にゾレドロン酸 (4mg, 静脈内 ) およびデノスマブのプラセボ ( 皮下 ) を投与するゾレドロン酸群の 2 群に分け,27 ヶ月間にわたり比較された 32). その結果, デノスマブ群では初回 SRE 発現までの期間がゾレドロン酸群に比べて有意に延長した ( 図 4D). この試験では, 歯痛, 低カルシウム血症を除き, 発熱, 骨痛, 関節痛, 貧血などの有害事象のほとんどでデノスマブ群の方がゾレドロン酸群より発現頻度が低かった. また, 上記癌を除いた多発性骨髄腫または骨転移を有する進行固形癌患者を対象とした臨床試験 33) と, 骨転移を有する去勢抵抗性前立腺癌患者を対象とした臨床試験 34) が実施され, ゾレドロン酸に対してそれぞれ非劣勢, および有意に優れた抑制効果が示された. なおビスホスホネートと同様, デノスマブ投与患者 943 例中 22 例で顎骨壊死が認められた 34). 3. 関節リウマチ (RA) 第 相臨床試験において, グルココルチコイドま たはビスホスホネート投与中の活動性 RA 患者にプラセボ, デノスマブ 60 mg またはデノスマブ 180 mg が 6 ヶ月ごとに 1 年間皮下投与され, 脊椎および寛骨の骨密度に対する効果が検討された 36) ( 図 4E). その結果, プラセボ群に対してデノスマブ投与群 (60 または 180 mg) では, 脊椎および寛骨の骨密度上昇と, 骨代謝マーカーである CTx および 1 型プロコラーゲン架橋 N ペプチド (procollagen 1N-terminal peptide : P1NP ) の低下が認められた 36). これらの作用は, 骨密度の基準値, 骨代謝マーカーレベル, およびグルココルチコイドまたはビスホスホネートの使用の有無に関係なかった. したがって,RA 患者においてもデノスマブは骨代謝回転を抑制し, 骨密度の回復に有効であることが示唆された. 4. 骨パジェット (Paget) 病加齢にともなう腎機能低下以外, 特筆すべき治療歴をもたない 86 歳のパジェット病患者 ( 男性 ) に 60 mg のデノスマブを皮下投与したところ,1 ヶ月以内に骨代謝回転速度が顕著に低下し, その後 4~ 6 ヶ月後にかけて回復傾向が認められた 37).6 ヶ月後, 再度デノスマブを投与したところ, 骨代謝回転は再度抑制され,9, 12, 15 ヶ月後の投与により抑制効果が持続した ( 図 4F). その結果, 骨痛が改善され, 骨シンチグラフィーではホットスポットの活性レベルの低下が認められた. 投与期間中, 腎機能は一定で, 他の疾患の兆候はなかった. この症例から, デノスマブが骨パジェット病の治療にも有効であることがうかがえる. 今後の臨床試験結果が注目される. おわりにデノスマブが標的とする RANKL は, 破骨細胞の分化誘導だけでなく, 樹状細胞の活性化や腸管免疫を司る M 細胞分化, 乳腺の発達, 中枢性の発熱制御など, 発生や生体内の恒常性維持において様々な役割を担うことが知られている. 最近では,2 型糖尿病患者の血中で RANKL 濃度の有意な上昇が認められ, それが独立したリスク因子であることが判明している 38). したがってデノスマブは, 骨関連疾患だけでなく,RANKL が関与する多様な疾患の治療にも有効である可能性があり, その未知なる能力に期待したい.

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