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Transcription:

日本銀行金融高度化センターワークショップ リスク計測の高度化 ~ テイルリスクの把握 ~ 説明資料 1 切断安定分布による資産収益率のファットテイル性のモデル化と VR VaR の計測手法における モデル リスクの数値的分析 2013 年 2 月 28 日日本銀行金融機構局金融高度化センター磯貝孝

要旨 ( 分析の枠組み ) 日経平均株価の日次収益率の母分布を切断安定分布として推計 同分布からのランダム サンプリングに基づく数値シミュレーション 一般的な計測手法 ( 正規分布近似 一般化パレート分布 (GPD) 近似 ヒストリカル法 カーネルスムージング ) によるリスク量 (VaR ) の計算精度をサンプルサイズ 信頼水準別に比較 VaRでは捉らえきれないテイルリスクをみるため 同一信頼水準における/VaR 比率にも注目 ( 分析結果 ) 正規分布近似は 計算精度が低い ( 特にの過小推計 ) その他の手法は 概ねベンチマークに近かったが 小サンプル 高 信頼水準ではリスク量計算が安定しないケースもみられた /VaR 比率は ヒストリカル法 カーネルスムージングについては 概ねベンチマークの動き ( 信頼水準の上昇につれて 1 へ近づく ) ( 金融機関のリスク管理実務との関連 ) 本稿の分析から 確率分布の想定 信頼水準 データサイズ 計算の容易さなどの観点からのリスク量計測の手法に関する多角的な比較分析の重要性が改めて確認された 2

1. はじめに ( 問題意識 概要 ) 価格変動のテイルリスクをリスク指標でどの程度把握し得るか 数値シミュレーションで確かめるシ ( 分析対象 ) バーゼル委もトレーディング勘定のリスク指標として の採用を検討 リスク量の指標 :VaR VR (Expected t dshortfall 期待ショートフォール ) 計測手法 : 正規分布近似 一般化パレート分布近似 ヒストリカル法 カーネルスムージング ベンチマーク : 2008 年 ~2012 年央の日経平均株価 ( 日次対数収益率 ) から推計した母分布 ( 切断安定分布 ) から VaR を計算 ランダムサンプルを用いたシミュレーション : 同分布から複数 のサンプルデータセットを得て これに対して上記 4 手法を用いてリスク量を複数の信頼水準について計算 ベンチマークとの比較 + 手法相互に比較 リスク量計算の正確性 ばらつきなどを手法毎に分析 留意点を整理 + VaRでは捉らえきれないテイルリスクをみるために /VaR 比率を比較 3

日経平均株価 パラメータ推計 分析の概要 母分布 : 切断安定分布 VaR の推計値 ( ベンチマーク ) サンプルデータ 250 500 1000 2000の4つのサイズ 300セット サンプリング ( 視点 ) これらの計測手法はベンチマークのリスク量を正しく再現できるか ( 精度 )? 計算されたリスク量はサンプルによってどのくらいばらつくか? 正規分布 4 つの確率分布による近似 GPD ヒストリカル法 カーネルスムージング VaR VaR VaR VaR の推計値 の推計値 の推計値 の推計値 各セットともサンプルサイズ別 信頼水準別に計算 4

2. 収益率変動の捉え方とリスク指標 ー日経平均株価の日次収益率ー 5

日経平均株価の密度関数と QQ プロット 日経平均株価のヒストグラム ( 左軸 ) 密度 ( 右軸 ) 400 経験分布正規分布 30 25 300 20 200 15 10 100 5 0 0-0.15-0.10-0.05 0.00 0.05 0.10 0.15 赤線で示した経験分布の密度関数はカーネルスムージングによって推計したもの 株価の日次収益率の分布は 正規分布とは言い難い ( ファットテイル性の存在 ) 6

条件付きモデルと無条件モデル VaR や などのリスク指標を計算するには 価格変動の分布の想定が必要 問題 : ファットテイルな分布をどう 特徴付け ればいいか 裾部分 ( テイル ) のあてはまりがいいものを探すのが難しい 1 条件付きモデル 時間の変化によって収益率変動に影響する要因を特定した条件付きの分布を想定 ( 例 )GARCH モデル : ボラティリティの変動を考慮 2 無条件モデル 時間の変化に影響されない無条件の損失分布を想定 中長期のリスク把握向き ( 例 ) 一般的なヒストリカル法 分散共分散法など < 収益率データを直接リスクの計測対象とする > こちらを対象に分析する どのような分布を選べばよいか その根拠は? 7

3. 収益率変動のモデル化 : 安定分布と切断安定分布 収益率 X が安定分布に従う とは ある自然数 n があって X の n 個の部分和が X と同じ分布に従う S n X X X, S X 1,, 1 2 X n n n 1 は独立同一分布に従う (i.i.d.) な確率変数 d C n X D d は確率分布が同一であることを示す 安定分布の密度関数 f ( X ;,,, ) :α 形状,β: 歪度,γ: 尺度 δ: 位置 n スケーリングが可能 日次 週次などの保有期間調整後も調整前の分布と同じ分布に従う 安定分布はファットテイル性を表現可能 任意の分布は安定分布に収束 ( 一般化中心極限定理 ) ただし α=2 のときは正規分布 α<2 では分散が存在しない ( リスク量計算が困難 ) 分布の裾を閾値( 前日比 ±20% 便宜的な水準設定) で切断した 切断 安定分布で代用する( 現実的な対応 ) 8

株価収益率の分布関数の切断安定分布によるモデル化 分布確率の比較 経験分布 安定分布 正規分布の分布確率 1.0 経験分布 ( データ ) 安定分布 08 0.8 正規分布 0.05 004 0.04 経験分布安定分布正規分布 0.6 0.4 裾部分を拡大 0.03 0.02 切断安定分布はほぼデータにフィット正規分布はテールの確率を過小推計 0.2 0.01 0.0 0.00-0.10-0.05 0.00 0.05 0.10-0.12-0.10-0.08-0.06-0.04 Kolmogorov-Smirnov 検定 D 値 0.016 p 値 0.924 Anderson-Darling 検定 A-D 値 0.230 p 値 0.979 ( 帰無仮説はいずれも データが切断安定分布に従う ) 9

リスク指標 (VaR ) の定義 VaR を超える損失の平均 ( 例 )1% の確率 < 信頼水準 99%> VaR( 分位点 ) VaRは 収益率変動の確率分布に関する一定の信頼水準に対応した分位点に相当する 対象とするデータが同じでも 対象とするデ想定する確率分布が異なればVaRも当然異なる は VaR を超える損失の期待値 VaR と同様 も想定する確率分布に依存する - 期待値の計算には 想定した確率分布の密度関数が用いられる は 定義により同一の信頼水準において常に VaR よりも大きな数値を取ることから より保守的なリスク指標とされる - バーゼル委では トレーディング勘定のリスク指標としての採用を提案している 0 収益率 10

切断安定分布から計算した VaR /VaR 比率 切断安定分布の VaR 0.14 0.16 VaR 0.10 0.12 0.06 0.08 0.04 全ての信頼水準において の方が VaR よりも大きい VaR 信頼水準が上がるほど下が /VaR 比率が大きいほど VaRでは表せないテイルり /VaR 比率は 1 に近づく リスクが大きい と解釈できる 95 96 97 98 99 100 信頼水準 信頼水準が上がるほど VaR ともに値が大きくなり 特に信頼水準が99% を超えるとVaR とも急激に大きくなっている シミュレーションでのシ ベンチマーク 11

4. ランダム サンプルに基づくリスク量計算の数値シミュレーション 切断安定分布のVaR ベンチマーク ランダムサンプリングによりファットテイル性の強い複数のサンプルデータセットを生成 一般的な4つのリスク計測手法 ( 正規分布近似 GPD 近似 ヒストリカル法 カーネルスムージングカ ) によりサンプルサイズ 信頼水準別にVaR を計算 ( 分析 ) 1 推計したリスク量をベンチマークと比較し モデル リスク ( リスク量を誤って計測してしまうリスク ) の観点から考察 2 推計値の計測手法間の相互比較を通じて 各計測手法の特徴点や計算上の留意点などを明らかにする 12

切断安定分布からのサンプリングのイメージ 観測期間中の最大損失を超えるストレスロスを含む その発生頻度は 推計した確率分布を根拠に一定の合理性を持って設定される ( 正規分布より頻度は高い ) 切断安定分布の密度関数切断安定分布の発生確率によりランダムサンプリング 頻度 確率 最大損失を上回る損失のサンプル ( ストレスシナリオ ) 正規分布の密度関数 収益率 左切断点 サンプルデータ 最大損失 実際に観測されたデータ範囲 切断安定分布の範囲 13

4 つのリスク計測法 1. パラメトリック 1 正規分布近似 平均と分散から VaR を計算する 2GPD( 一般化パレート分布 ) 近似 極値理論を応用 閾値を超える損失の分布を推計し リスク量を計算する - 閾値の設定が必要 本稿では 損失の上位 10% に設定 2. ノンパラメトリック 1ヒストリカル法 経験分布からリスク量を計算する 2 カーネルスムージング 確率分布の平滑化 ( カーネル関数 を複数組み合わせる ) を行った上でリスク量を計算する - カーネルの種類 バンド幅 の二つを設定する必要 本稿では ガウスカーネルと一般的なバンド幅の指定法を選択した 計算上の諸設定は なるべく一般的かつ単純なものとした より複雑な設定で精度を上げることは可能 14

ランダム サンプルに基づくVaR の推計結果と推計方法間の比較 ( まとめ ) パラメトリック ノンパラメトリック 正規分布近似 GPD 近似ヒストリカル法カーネルスムージング サンプル数の増加信頼水準の上昇 ベンチマークとの乖離は縮小しない 多いほどばらつきは小さい ばらつきへの影響は小さい 多いほどベンチマークに近く ばらつきは小さくなる /VaR 比率もベンチマークに近づく 高いほどベンチマークからの乖離 ばらつきが拡大する傾向がある 特に 99% を超える水準で 乖離 ばらつきが目立つ 精度 VaR 低い信頼水準で過大 高い信頼水準で過小 全信頼水準で過小 高い信頼水準ほど乖離が拡大する ほぼベンチマークに近い ほぼベンチマークに近い 高い信頼水準では過大 (*) ほぼベンチマークに近い 小サンプルでは ほぼベンチマークに近い VaR はやや過大傾向 VaR とも高い信 はヒストリカル法 頼水準で最大損失に の過小推計 ( 左記 ) 一致する場合がある を補正し よりベン はやや過小傾向 チマークに近い ばらつき VaR のばらつきがより大きい (の変動係数は4 手 VaR の間で ばらつきの傾向に差はない法中最大 サンプル数制約も影響 ) VaR ともほぼ同じ傾向 の方が相対的にばらつきが大きい 15

正規分布近似による VaR ( 抜粋 ) VaR ベンチマーク ( 切断安定分布 ) 低い信頼水準で過大 高い信頼水準で過小 全信頼水準で過小 高い信頼水準ほど乖離が拡大 300 セットの平均 97 98% の信頼水準では リスク量がたまたまベンチマークに一致 VR VaR とも 信頼水準の差はばらつきにあまり影響しない 16

VaR GPD 近似による VaR ( 抜粋 ) 切断の影響で過大推計 ほぼベンチマークに近い ほぼベンチマークに近い 高い信頼水準では過大 サンプル数が多いほど ベンチマークに近く ばらつきは小さくなる 信頼水準が高いほどベンチマークからの乖離 ばらつきが拡大する 17

ヒストリカル法による VaR ( 抜粋 ) VaR ほぼベンチマークに近い 小サンプルでは高い信頼水準でVaRが最大損失に一致してしまうことがある やや過小傾向 の方が相対的にばらつきが大きい サンプル数が多いほど ベンチマークに近く ばらつきは小さくなる 信頼水準が高いほどベンチマークからの乖離 ばらつきが拡大する 18

カーネルスムージングによる VaR ( 抜粋 ) VaR ほぼベンチマークに近い ヒストリカル法と違って 小サンプルの高い信頼水準でも最大損失に一致しない ほぼベンチマークに近い ヒストリカル法での過小推計を補正し 同法よりもベンチマークに近い サンプル数が多いほど ベンチマークに近く ばらつきは小さくなる 信頼水準が高いほどベンチマークからの乖離 ばらつきが拡大する 19

推計手法別の VaR の水準の相対比較 ( 抜粋 ) VaR カーネル カーネルスムージング GPDがベンスムージングチマークに近い 高い信頼水準ではズレが目立つ ヒストリカル GPD 正規分布 VaR とも正規分布のずれが目立つ ( 注 )のGPDが高信頼水準で過大になっているのは 安定分布の裾の切断の影響 20

推計手法別の VaR の変動係数比較 ( 抜粋 ) VaR VaR とも正規分布のばらつきは限られている 小サンプルではヒストリカル法のばらつきが目立つ ヒストリカル GPDは VaRに比べてばらつきが最も大きい ヒストリカル法とカーネルスムージングの差は目立たない カーネルスムージング GPD 正規分布 変動係数 (= 標準偏差 / 平均 ) リスク量の相対的なばらつき度合いを示す ( 計測手法間の比較に使える ) 21

ベンチマーク ( 切断安定分布 ) 推計手法別の /VaR 比率 カーネルスムージング GPD ヒストリカル法 カーネルカスムージングはベンチマークのカーブに近い ヒストリカル サンプル数が増えると ベンチマークのカーブにより近づく 正規分布 正規分布は ベンチマークからの乖離が目立つ GPD 近似は 高い信頼水準で サンプリング時の安定分布の裾の切断の影響がみられる 22

5. おわりに ファットテイルなデータのリスク量計測においては 正規分布近似によるリ スク量計算は精度が低いことが確認された 特に では ベンチマークからの乖離が顕著 その他の3 手法は概ねベンチマークに近い結果を示したが 小サンプル 高信頼水準では リスク量計算が安定しないケースもみられた バーゼル自己資本比率規制の見直しにおける の新規採用の検討を契機 に リスク指標に関する比較分析の重要性が増している リスク量の計測手法について 確率分布の想定 信頼水準 データ サイズ 計算の容易さなどの観点から多角的な検討を行うことの重要 性が改めて確認された 23