システム創成学基礎 - 観測と状態 - 古田一雄 システムの状態 個別の構成要素の状態の集合としてシステムの状態は記述できる 太陽系の状態 太陽の状態 s 0 = {x 0,y 0,z 0,u 0,v 0,w 0 } 水星の状態 s 1 = {x 1,y 1,z 1,u 1,v 1,w 1 } 金星の状態 s 2 = {x 2,y 2,z 2,u 2,v 2,w 2 } 太陽系の状態 S={s 0,s 1,s 2,s 3,s 4,s 5,s 6,s 7,s 8 } 1
太陽系の運動 太陽系は 10 万個を超える天体で構成 状態変数の数 6 100,000 相互作用の数 2 100,000 = 10 30,000 太陽と 8 惑星以外の小天体を無視 状態変数の数 6 9=54 相互作用の数 2 9 = 512 惑星間の相互作用を無視 相互作用の数 8 気体分子の運動 要素数 10 23 相互作用数 10 46 個々の分子の動きを知りたいわけではない 平均的特性に興味 分子の動きはランダム 相関がない 統計的特性がシステムの状態を表す 要素数が多くなると大数の法則が働き 観測結果は統計的平均値に漸近する 2
気体の状態方程式 統計的平均量としてのマクロ変数の導入 密度 : 単位体積あたりの分子数圧力 : 単位時間 単位面積あたりに受ける力積内部エネルギー : 分子の運動エネルギーの総和温度 : 内部エネルギーに対応するマクロ変数 マクロ変数間の関係式 PV = nrt 小数システムと大数システム 小数システム 古典力学的システム 少数の要素で構成 あるいは簡略化可能 解析的な扱いが可能 大数システム 統計力学的システム ランダムな多数要素の集合 統計的な扱いが可能 3
中数システム ( 複雑系 ) N 個の要素間の関係 2 N 通り 簡略化による解析が不可 要素を無視したり分解したりすると全体特性が消失 相互作用が非局所的 乱雑さ 大数システム乱雑で複雑 中数システム規則的で複雑 統計的扱いが不可 要素挙動がランダムでない 要素特性が非一様 相互作用が非線形 小数システム規則的で単純 複雑さ システムとはモノの見方である (1) 何に見える? 若い女性 老婆 東京大学とは何をする組織か 高度人材育成 レジャーの提供 給料を支払う 水を使いゴミを出す 4
システムとはモノの見方である (2) 温度計を急に湯の中に入れたら 温度計の指示はどうなるか ガラスの膨張 指示 指示 指示 時刻時刻時刻 ミュージック ボックス 点滅する赤と緑のランプがあり 高さ 6 段階の音を出す装置がある 装置にはスイッチが 1 つ付いており モードを 3 段階に切替えることが出来る ランプの点灯状態と音を観測することはできるが 装置の中を見ることは出来ない 5
ミュージック ボックスの可能な全状態 状態 赤ランプ 緑ランプ 音階 a ON ON 1 b ON ON 2 c ON ON 3 d ON ON 4 : : : : x OFF OFF 6 完全な観測者の視点 n g a モード1 i f モード2 m k d b j r c q モード 3 e o l p h 6
不完全な観測者 1 の視点 観測状態 音階 対応する状態 A 1 a, g, m, s B 2 b, h, n, t C 3 c, i, o, u D 4 d, j, p, v E 5 e, k, q, w F 6 f, l, r, x 観測者 1 の観測結果 B A A モード1 C F モード2 A E D B D F C E モード 3 E C F D B 7
不完全な観測者 2 の視点 観測状態 赤ランプ 音階 対応する状態 α ON 1, 2 a, b, g, f β OFF 1, 2 m, n, s, t γ ON 3, 4 c, d, i, j δ OFF 3, 4 o, p, u, v ε ON 5, 6 e, f, k, l ζ OFF 5, 6 q, r, w, x 観測者 2 の観測結果 β α α モード1 γ ε モード2 β ε γ α γ ζ γ ζ モード 3 ε δ ε δ α 8
次の状態の予測 完全な観測者前の状態 a b c d e 次の状態 n j q f b 観測者 1 前の状態 A B C D E F 次の状態 A,B,D C,D E F A,B A,C 観測者 2 前の状態 α β γ δ ε ζ 次の状態 β,γ,δ δ ε,ζ ε α,δ α,δ システムの観測力と記述 観測の仕方によって システム挙動の異なる記述が得られる 不完全な観測では システム挙動の一部しか記述できない 不完全な観測では システム状態の将来予測に不確かさが残る 区別する意味のない複数の状態を 1 つの状態にまとめて 記述を簡略化することができる 状態の縮約 9
知力による観測力の補完 観測者 1 前の状態 F A E A A A 次の状態 A B D 観測者 2 前の状態 γ ε α δ ε α ζ α 次の状態 β γ δ ある程度 知力は観測力の不足を補完できる ある程度 観測力は知力の不足を補完できる 関数による表記 z = f(x, y) z が x と y に依存することを表すと同時に これ以外のパラメータに依存しないことを表している 科学では何を無視すべきかが重要である 完全性の誤り 観測すべきものを見落してしまうこと 過剰完全性の誤り 不必要なものを観測してしまうこと 10
システムとはモノの見方である (3) T : 温度計の指示 W: 湯の水温 I : 気温 t : 挿入時からの時間 D : ガラスと水銀の膨張差 T=f(W) T=f(W,I,t) T=f(W,I,t,D) 指示 指示 指示 時刻時刻時刻 同じ観測結果に対する 2 つのモデル モデル 1 T=f(a,b,c) モデル 2 T=f(b,c) a b c T=(c-a)/2+2b T=(c-10) 2 +6(b-2) 2 0 3 8 10 10 4 3 12 10 10-4 1 12 10 10 この観測結果だけからは何れかを選択できない 11
特性によるシステムの分解 a h o v e g n u d k w p i b s q j c t m D A ランプサブシステム C B 赤ランプ 緑ランプ 状態 ON ON A ON OFF B OFF ON C OFF OFF D 5 1 4 2 音階サブシステム 3 一見分解不可能なシステム h g c u d v b q i k w p m a t s n o e j?? 12
定義が自明でない特性 状態 a b c d e f g h i j k l 明雅 A C C A D? B A A C B? 恣似 β β γ ε β? β α δ α ε? 状態 m n o p q r s t u v w x 明雅 B B A C D? C D D B D? 恣似 γ δ γ δ γ? ε α δ α ε? 特性によるシステムの分解 h g c u d v b q i k w p m a t s n o e j A α β D 明雅サブシステム C B ε 恣似サブシステム δ γ 13
組合せ的爆発 複雑系では状態数が爆発的に増加して容易に手に負えない規模になる B777 のパーツ数 15 万個 状態数 10 15 万 ヒト遺伝子の塩基対数 30 億個 状態数 4 30 億 N 都市巡回セールスマン問題の解空間 N! 観測や記述は詳しければよいとは限らない ティコ ブラーエ (1546-1601) 詳細な天体観測を行うも天動説に留まる ヨハネス ケプラー (1571-1630) ブラーエのデータを地動説で解釈してケプラーの法則を発見 適切な観測 記述のレベル 観測能力が急激に進歩しているので使い道のないデータでも容易に収集可能 当面の目的にとって関係ない状態を区別しても無意味 車のエンジンが不調なのにドアの点検をしても無駄 地球温暖化の議論なのに分刻みで気温を計測しても無駄 状態の縮約 あるいはサブシステムへの分解によって状態空間を扱いやすい規模に縮小することが重要 観測 記述の分解能や時間スケールなどにも適切なレベル 如何に関係ない部分を無視するかが鍵 14