東北地域の大学進学問題 東京圏に進学する生徒と地元で進学する生徒の特質の差

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(2) あなたは選挙権年齢が 18 歳以上 に引き下げられたことに 賛成ですか 反対ですか 年齢ごとにバラツキはあるものの概ね 4 割超の人は好意的に受け止めている ここでも 18 歳の選択率が最も高く 5 割を超えている (52.4%) ただ 全体の 1/3 は わからない と答えている 選択肢や

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Chapter カスタムテーブルの概要 カスタムテーブル Custom Tables は 複数の変数に基づいた多重クロス集計テーブルや スケール変数を用いた集計テーブルなど より複雑な集計表を自由に設計することができるIBM SPSS Statisticsのオプション製品です テーブ

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表 1) また 従属人口指数 は 生産年齢 (15~64 歳 ) 人口 100 人で 年少者 (0~14 歳 ) と高齢者 (65 歳以上 ) を何名支えているのかを示す指数である 一般的に 従属人口指数 が低下する局面は 全人口に占める生産年齢人口の割合が高まり 人口構造が経済にプラスに作用すると

解禁日時新聞平成 30 年 8 月 1 日朝刊テレビ ラジオ インターネット平成 30 年 7 月 31 日午後 5 時以降 報道資料 年月日 平成 30 年 7 月 31 日 ( 火 ) 担当課 学校教育課 担当者 義務教育係 垣内 宏志 富倉 勇 TEL 直通 内線 5

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前ページ最後の画面で 栄東高等学校 をクリックし 高校詳細画面を表示させています 東京圏の主要私立高等学校については 弊社刊行の 東京圏私立中学校 高等学校受験年鑑 の該当記事をご覧になることができます 5 このタブをクリックすると 当該高校の大学別合格者数が表示されます ( 次ページ参照 ) 高校

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l. 職業以外の幅広い知識 教養を身につけたいから m. 転職したいから n. 国際的な研究をしたかったから o. その他 ( 具体的に : ) 6.( 修士課程の学生への設問 ) 修士課程進学を決めた時期はいつですか a. 大学入学前 b. 学部 1 年 c. 学部 2 年 d. 学部 3 年 e

学習指導要領の領域等の平均正答率をみると 各教科のすべての領域でほぼ同じ値か わずかに低い値を示しています 国語では A 問題のすべての領域で 全国の平均正答率をわずかながら低い値を示しています このことから 基礎知識をしっかりと定着させるための日常的な学習活動が必要です 家庭学習が形式的になってい

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Transcription:

東北地域の大学進学問題東京圏に進学する生徒と地元で進学する生徒の特質の差 田中正弘 ( 筑波大学 ) 渡部芳栄 ( 岩手県立大学 ) 高森智嗣 ( 福島大学 ) 村山詩帆 ( 佐賀大学 ) 津多成輔 ( 筑波大学大学院 ) 1

1. 研究の目的 2

研究の背景 東北地域の人口流出が, 特に大震災以降, 加速している このままでは, 東北地方は急激に衰退してしまう 人口流出に歯止めを掛けるには, 東北の大学の魅力が重要となる 東北の若者が地域外 ( 主に東京圏 ) への定住を決意するのは, 大学卒業後の就職選択時より, 大学進学時が圧倒的に多い ( 石黒ほか 2012) ためである 石黒格 李永俊 杉浦裕晃 山口恵子 (2012) 東京 に出る若者たち ミネルヴァ書房 3

研究の目的 そこで本発表では, 人口流出が深刻な東北 3 県 ( 青森 岩手 福島 ) を対象に, 東京圏 の大学への進学を希望する生徒と, 地元 の大学への進学を希望する生徒の間にはどのような特質の差があるのかを探求してみたい 地元 は県内として操作的に定義する 4

2. データ 5

データ (1) 分析に利用するデータは,2015 年 8 月 ~10 月に行った質問紙調査によって得られたものである 調査対象校は, 公立進学校の中から, 調査への協力を快諾してくれた計 15 校 ( 青森 5 校, 岩手 4 校, 福島 6 校 ) である 対象者は 3 年生とし, 悉皆調査でお願いした 調査は授業中などに実施されたことから, 当日欠席した生徒を除くほぼ全数の回答を得られた 6

データ (2) 県名 配布数 回収数 回収率 有効票 青森 1226 1202 98.0% 1201 岩手 997 969 97.2% 969 福島 1774 1663 93.7% 1663 7

3. 進路希望の概要 8

卒業後の進路希望 9

進学希望先の地域 注 ) 大学進学希望者数のみ 10

希望する大学の設置者 n = 3665( 多肢選択 ) 11

当該大学を希望する理由 自分の学力レベルに合っていること 12

当該大学を希望する理由 有名な大学であること 13

当該大学を希望する理由 学費が安いこと 14

当該大学を希望する理由 自宅から通えること 15

当該大学を希望する理由 都会に住めること 16

進学した場合の経済的援助 因子抽出法 : 主成分分析回転法 :Kaiser の正規化を伴うプロマックス法 17

進学した場合の経済的援助 記述統計 ( 学業援助 ) 分散分析 18

進学した場合の経済的援助 記述統計 ( 学業以外援助 ) 分散分析 19

学校での成績 20

学校での成績 記述統計 分散分析 21

小括 県別で概括的に見ると 卒業後の進路希望は 9 割以上が大学 進学希望先地域は自県よりも東京圏の割合が高い 全体的に国立志向が強い 他方, 福島では私立志向もやや強い 当該大学の希望理由について, 自宅から通えること は重視されていない 進学した場合の経済的援助は, 学業援助については期待できると認識している 経済的援助について, 学業援助 学業以外援助ともに, 青森と福島, 岩手と福島の間に有意差が見られた (p<0.01) 学校での成績については, 分散分析の結果, 有意差は見られなかった 22

4. 地元進学希望への影響に関する 探索的分析 23

前節を踏まえての検証課題 進学先を目的変数, 次のものを説明変数と考える 性別 進学先の設置者 進学先の分野 学力レベル 有名大学 学費 経済援助の見通し 地元志向 ( 将来自県に住みたいと思っている ) 学校内成績 ( 自己評価 ) ( 自宅通学 都会居住は統制変数 )

分析の単位 別添資料 1 によると 進学希望先の比率が同じ県内でも異なる 要因として仮定する変数 ( 性別, 設置者, 分野 ( 芸体 その他は多くはない ), 希望理由, 地元志向, 金銭援助 ) で学校間の差が見られる 学校別分析を行いつつ, 県別分析 3 県全体分析の結果との比較

目的変数との連関 青森県 岩手県 福島県 A B C D E F G H I J K L M N O 自宅 (F) 76.8 207.9 1.858 10.65 0.312 159 93.47 13.44 44.67 12.87 16.88 39.74 127.9 2.469 11.99 *** 都会 (F) 61.33 51.7 29.52 28.62 52.14 37.97 47.39 25.79 28.38 31.06 20.43 36.94 47.66 52.97 64.3 ** 性別 (V) 0.081 0.226 0.152 0.041 0.204 0.129 0.109 0.148 0.067 0.119 0.026 0.14 0.115 0.096 0.053 * 国立 (V) 0.2 0.185 0.116 0.183 0.279 0.155 0.152 0.201 0.202 0.308 0.358 0.16 0.119 0.309 0.409 公立 (V) 0.122 0.242 0.097 0.145 0.252 0.144 0.153 0.111 0.135 0.216 0.268 0.292 0.094 0.269 0.273 私立 (V) 0.19 0.242 0.134 0.197 0.156 0.064 0.229 0.256 0.269 0.228 0.394 0.157 0.159 0.227 0.38 人文 (V) 0.146 0.239 0.177 0.167 0.073 0.152 0.016 0.163 0.074 0.109 0.013 0.107 0.091 0.142 0.081 教育 (V) 0.188 0.048 0.16 0.091 0.196 0.212 0.189 0.238 0.075 0.1 0.126 0.054 0.096 0.085 0.196 社会 (V) 0.143 0.197 0.23 0.253 0.088 0.294 0.05 0.246 0.061 0.131 0.123 0.213 0.135 0.272 0.189 理工農 (V) 0.15 0.292 0.221 0.145 0.05 0.169 0.075 0.091 0.092 0.267 0.131 0.164 0.18 0.152 0.108 医保 (V) 0.491 0.434 0.388 0.293 0.161 0.233 0.139 0.238 0.048 0.23 0.13 0.329 0.151 0.463 0.063 学力 (F) 5.148 2.653 0.229 3.568 5.044 8.322 0.39 1.95 1.293 1.762 1.898 1.208 0.576 1.419 0.693 有名 (F) 10.47 37.68 4.699 5.135 0.261 10.13 9.094 9.027 6.771 5.598 1.404 6.8 11.17 2.816 12.44 低学費 (F) 3.231 4.101 2.394 2.659 3.455 1.662 0.024 4.469 9.889 9.721 11.39 4.912 8.975 14.22 24.19 地元志向 (V) 0.395 0.4 0.412 0.4 0.517 0.406 0.414 0.322 0.329 0.281 0.402 0.316 0.322 0.332 0.271 学業援助 (F) 0.047 3.933 0.193 0.207 1.182 0.129 0.874 0.064 1.216 0.305 0.816 0.019 0.809 0.065 0.782 非学業援助 (F) 4.509 1.554 2.812 2.076 2.39 1.295 2.966 0.505 0.029 1.497 0.302 3.113 2.017 1.016 0.03 成績 (F) 2.991 0.799 1.287 3.265 0.808 13.1 4.385 6.144 0.128 1.252 0.71 0.378 4.311 0.486 0.071

分析方法 目的変数 :1= 自県,2= 東京圏,3= その他 多項ロジスティック回帰分析 ( 参照カテゴリー = その他 ) 統制変数 : 希望理由のうち自宅通学, 都会居住 1= 全く ~5= よく ( 逆転 ) 27

分析方法 説明変数 : 疑似相関 ( 無相関 ) の可能性も考慮し, 前述の全ての変数を投入 性別 :0= 男 1= 女 設置者 ( 国立 公立 私立 ):0= 非該当 1= 該当 分野 ( 人文 教育 社会 理工農 医保 ):0= 非該当 1= 該当 希望理由 ( 学力レベル 有名大学 低学費 ):1= 全く ~5= よく ( 逆転 ) 成績 :1= 下の方 ~5= 上の方 ( 逆転 ) 学業援助 非学業援助 :( 逆転の上 ) 主成分得点 地元志向 :0= 非自県,1= 自県 28

分析方法修正点 ただし, 以下の点を修正した 変数間の相関が大きいものは除外 国立との相関が大きい私立を除外した 学校別に見た場合, 分析上の問題 ( 度数が 0) が生じたため, 分野を文系と理系に統合したが, 相関が大きいため, 文系のみ残した 29

分析結果 1 別添資料 2 性別によって影響があるのは 4 校 ( 影響は様々 ) 国立進学を目指す場合, 東京圏よりその他になるのが 8 校 公立進学を目指す場合, その他より自県になるのが 3 校 文系を目指す場合, 自県を抑制したり, 東京圏に行きやすくなるのが 9 校 逆 ( 同時 ) に自県になるのも 3 校 自分の学力にあってるからという理由で自県に残る学校が青森県で 2 校, 東京圏を目指すが学力にあっているからではない学校が他に 1 校 ( 解釈が難しい )

分析結果 2 別添資料 2 地元に残っても有名大学だからというわけではない学校が 6 校 低学費だから自県に残りやすい学校も 1 校 (J) あるが, 学費に関わらず東京圏を目指しやすい学校が 6 校 成績の高低が進学先に影響するのは 2 校のみ ( 影響は両方 ) 学業援助, 非学業援助については様々 ( 解釈が難しい ) 地元志向が高いと, 自県に残りやすい学校は多い ( 東京圏に行きにくくなるのも含む ) 31

参考分析 3 県全体 別添資料 3 上 概ね学校ごとの分析と整合的 県別分析 別添資料 3 下 県ごとの独自性もある 青森 : 性別 岩手 : 文系, 成績 福島 : 国立, 地元志向 32

小括と課題 学校ごとに自県進学 東京圏進学 その他進学を促す要因が異なるが, 多くで共通したのは 将来地元に住みたいと考えている子は, 地元の大学を選ぶ 文系学部に進みたいと考えている子は, 東京圏の大学を選ぶ 非東京圏という意味での国公立の重要性 統制変数にした自宅通学志向や都会居住志向や, 地元志向そのものの要因が不明

5. 高校教員の意見 34

高校教員の意見 (1) 2016 年 7 月に, 調査に協力してくれた一部の高校の教員を対象に訪問調査を行い, 進路指導への教員側の意見を集めた ほぼ全ての教員が述べられた意見に, 国立大学に進学してほしい という強い期待がある この期待は, 保護者や地域社会の公立進学校への期待を反映したものといえる あるいは, 国立大学に何名進学したかで高校の評価が下されるという, 東北地域に根強い文化も垣間見える 35

高校教員の意見 (2) 国公立大学への進学志向が強いことは, 一つの問題もはらんでいるという興味深い意見も伺えた その問題とは, 理系クラスの進路選択が本人の適性を度外視して行われる傾向のことである 事実, 訪問先の高校では理系クラスが多くなっており, 数 Ⅲ や物理の指導に困難が生じているとのことである 36

6. まとめ 37

まとめ 対象校では, 性別や金銭面それ自体に差は見られない 一方で, 進学先を規定する特質や社会的要因として, 地元志向 と 文系 が特に強いことを指摘できる 特質である 地元志向 のメカニズムは, 今回の分析では解明できなかったが, 社会的要因である 文系 は, 政策的含意を持つ つまり, 国立大学の文系削減は, 地方創生の流れからいって危険であること, およびそれが地元民の意識とも相まって, 高校生に悪影響を及ぼすかもしれないことが今回のアンケート 訪問調査から明らかになった 38

ご清聴ありがとうございました 本発表は, 挑戦的萌芽研究 (H27-28) 東北地域の大学進学問題 教育社会学と比較教育学の研究手法の融合 ( 研究代表 : 田中正弘 ) の助成を受けて実施した研究成果の一部である 39