呼吸困難を呈し 臨床的に閉塞性細気管支炎と診断した犬の 2 例 稲葉健一 1) 城下幸仁 1) 池田浩希 2) 1) 相模が丘動物病院呼吸器科 2) 永井動物病院
末梢気道病変 気管支内腔模式図 気道の分泌物気管支壁の肥厚肺気腫
症例 1 ポメラニアン 雌 ( 避妊済 ) 3 歳齢 主訴 : 呼吸困難 異常呼吸音 咳
症例 1: 来院経緯および問診 1 カ月前から持続性痰産生性咳 異常呼吸音あり 様々な内科療法を行うも反応せず次第に悪化し呼吸困難になり 精査加療のため呼吸器科受診 完全室内飼育 定期予防実施 同居犬あり ( 呼吸器症状なし ) 既往歴 : なし
症例 1: 身体検査 BW 1.8kg BCS 5/9 T:38.4 P:60 回 / 分 R:24 回 / 分 呼気努力 呼気性喘鳴 痰産生性咳 体表熱感 聴診 : 両側肺音にて fine crackles を聴取 胸部タッピングでの咳誘発陽性
症例 1: 呼吸様式
症例 1:CBC 生化学 CRP WBC 18300 /µl BUN 11.8 mg/dl 犬リウマチ 因子 Sta 0 /µl Cre 0.2 mg/dl 抗核抗体 - Seg 16150 /µl ALT 52 U/L Lym 1601 /µl AST - U/L CRP 1.05mg/dl Mon 412 /µl TChol - mg/dl Eos 137 /µl GGT - U/L Bas 0 /µl ALP 334 U/L RBC 669 x 10 4 /µl ALB 3.7 g/dl Plate 29.9 x 10 4 /µl TP 6.4 g/dl Hb 17.2 g/dl Glu 81 g/dl PCV 46.0 % TG - mg/dl -
症例 1: 動脈血ガス分析 ph 7.43 (7.35~7.45) Pco2 42 (mmhg) (29~39) Po2 52 (mmhg) (80~100) [HCO3 - ] 27.4 (mmol/l) (19~25) Base Excess 3.2 (mmol/l) (-5~+1) AaDo2 47 (mmhg) (0~20)
吸気 Lateral
呼気 Lateral
R L DV
症例 1: 透視検査
疑われる病変部位 カテゴリー 暫定診断 鑑別疾患 部位 : 上気道 中枢気道 末梢気道 肺実質 病態カテゴリー : 閉塞性疾患 間質性肺疾患 肺水腫 肺塞栓症 気管支肺炎 誤嚥性肺炎 暫定診断 何らかの末梢気道の気流制限により生じた気管支拡張症 鑑別疾患 下気道感染症 好酸球性気管支肺症 過敏性肺炎
治療 経過 末梢気道病変に対し 気管支拡張剤を投与 治療経過 0 病日 ICU 管理 ( 終日酸素濃度 25% 温度 22 ) テルブタリン :0.01mg/kg SC BID ネブライザー療法 ( メプチン吸入液 0.5ml+ ゲンタマイシン 0.5ml+ ビソルボン吸入 0.5ml) 7 病日 PaCO2 : 42 39 mmhg PaO2 : 52 79 mmhg 9 病日気管支鏡検査
症例 1: 気管支鏡検査 吸気時にびまん性気管支拡張呼吸休止時に気管支虚脱 気管支ブラッシング (LB1V1): 多数の好中球 細菌陰性
症例 1: 気管支肺胞洗浄液 (BALF) 解析 慢性活動性炎症パターン 挿入気管支 RB2 肉眼的性状にごり ( ) 粘液 ( ) 総細胞数 49 (mm 3 ) (84-243) 細胞診 マクロファージ 72.2 (%) (92.5) リンパ球 2.1 (%) (4.0) 好中球 18.5 (%) (2.0) 好酸球 0.5 (%) (0.4) 好塩基球 0.0 (%) (0.0) 腫瘍細胞 ( ) 細菌培養 ( )
疑われる病変部位 カテゴリー 暫定診断 鑑別疾患 部位 : 上気道 中枢気道 末梢気道 肺実質 病態カテゴリー : 閉塞性疾患 間質性肺疾患 肺水腫 肺塞栓症 気管支肺炎 誤嚥性肺炎 暫定診断 何らかの末梢気道の気流制限により生じた気管支拡張症 鑑別疾患 下気道感染症 好酸球性気管支肺症 過敏性肺炎
症例 1: 経過 67 病日呼吸困難となり 緊急入院 閉塞性細気管支炎と診断 プレドニゾロン 2.0mg/kg SC SID 追加 咳の減少 呼気性喘鳴の改善を認めた 242 病日ステロイド肝障害のため プレドニゾロンを減量 シクロスポリン 5mg/kg SID を追加 再び咳の悪化 呼気性喘鳴 顕著な呼気努力を認める 現在 (316 病日 ) 在宅酸素療法 プレドニゾロン 1.5mg/kg BID シクロスポリン 5mg/kg BID 経過観察中
症例 2 ミニチュア ダックスフンド オス ( 未去勢 ) 8 歳齢 主訴 : 呼吸困難
症例 2: 来院経緯および問診 来院前年の 7 月に頻呼吸症状あり 抗生剤 去痰剤に反応なく 12 月まで症状は消失しなかった 来院年も 6 月に同様の頻呼吸となり 対症療法に反応なく 失神転倒が生じた 終日の在宅酸素療法を開始したが状態改善なく 精査加療のため呼吸器科受診 完全室内飼育 定期予防実施 同居犬あり ( 呼吸器症状なし ) 既往歴 : 椎間板ヘルニア 問診 : 咳なし 重度な運動不耐性あり
症例 2: 身体検査 BW 4.24kg BCS 3/9 T:38.9 P:108 回 / 分 R:144 回 / 分 頻呼吸 SpO2 : 86%(room air)
症例 2: 呼吸様式
症例 2:CBC 生化学 CRP WBC 18000 /µl BUN 9.6 mg/dl 犬リウマチ 因子 Sta 0 /µl Cre 0.3 mg/dl 抗核抗体 - Seg 16650 /µl ALT 86 U/L Lym 990 /µl AST - U/L CRP 0.85mg/dl Mon 360 /µl TChol - mg/dl Eos 0 /µl GGT - U/L Bas 0 /µl ALP 196 U/L RBC 706 x 10 4 /µl ALB 3.3 g/dl Plate 52.1 x 10 4 /µl TP 6.6 g/dl Hb 17.1 g/dl Glu 107 g/dl PCV 49.0 % TG - mg/dl +
症例 2: 動脈血ガス分析 ph 7.36 (7.35~7.45) Pco2 62 (mmhg) (29~39) Po2 47 (mmhg) (80~100) [HCO3 - ] 34.2 (mmol/l) (19~25) Base Excess 6.8 (mmol/l) (-5~+1) AaDo2 31 (mmhg) (0~20)
症例 2 正常犬
疑われる病変部位 カテゴリー 暫定診断 鑑別疾患 部位 : 上気道 中枢気道 末梢気道 肺実質 病態カテゴリー : 閉塞性疾患 間質性肺疾患 肺水腫 肺塞栓症 気管支肺炎 誤嚥性肺炎 暫定診断 閉塞性細気管支炎 鑑別疾患 下気道感染症 好酸球性気管支肺症 過敏性肺炎
(mmhg) 80 70 60 50 40 30 20 症例 2: 治療および経過 73 35 PaO2 PaCO2 0 3 7 11 28 ( 病日 ) ICU 管理テルブタリン (0.01mg/kg) プレドニゾロン (1 2mg/kg) 未分画ヘパリン (100U/kg) 退院 気管支鏡検査
症例 2: 気管支鏡検査 特異所見なし気管支ブラッシング (RB2): 細菌陰性
症例 2: 気管支肺胞洗浄液 (BALF) 解析 慢性活動性炎症パターン リンパ球増加パターン 挿入気管支 RB2 肉眼的性状にごり ( ) 粘液 ( ) 総細胞数 493 (mm 3 ) (84-243) 細胞診マクロファージ 48.7 (%) (92.5) リンパ球 20.0 (%) (4.0) 好中球 23.4 (%) (2.0) 好酸球 0.0 (%) (0.4) 好塩基球 0.0 (%) (0.0) 腫瘍細胞 ( ) 細菌培養 ( )
疑われる病変部位 カテゴリー 最終診断 鑑別疾患 部位 : 上気道 中枢気道 末梢気道 肺実質 病態カテゴリー : 閉塞性疾患 間質性肺疾患 肺水腫 肺塞栓症 気管支肺炎 誤嚥性肺炎 最終診断閉塞性細気管支炎 鑑別疾患 下気道感染症 好酸球性気管支肺症 過敏性肺炎
90 症例 2: 経過 (mmhg) 80 70 60 50 40 30 20 PaO2 PaCO2 28 82 133 224 315 357 ( 病日 ) フ レト ニソ ロン 1.5mg/kg BID 1.0mg/kg EOD 2.0mg/kg BID
閉塞性細気管支炎 細気管支内腔 Dungworth DL:Pathology of Domestic Animals, Jubb KVF, Kennedy PC, Palmer N, 4th ed, 539-699, Academic Press, Inc, London(1993) 結合組織 慢性的な細気管支上皮の傷害により 結合組織による線維性ポリープが形成され 管腔内を部分的または完全に閉塞する病態である 気流制限が生じる 呼気努力 高炭酸ガス血症 肺過膨張
結語 閉塞性細気管支炎と考えられる 2 例を経験した 臨床診断には動脈血ガス分析と気管支鏡検査が有用であった