急性期に PCPS 補助下でアセチルコリン負荷試験を行って診断し得た冠攣縮性狭心症による心室細動の 1 例 A case of vasospastic angina diagnosed by emergency acetylcholine provocation test after out-of-hospital ventricular fibrillation cardiac arrest 相川忠夫 牧野隆雄 高橋雅之 甲野哲郎 浅川響子 加藤法喜 檀浦裕 2) 提嶋久子 市立札幌病院循環器センター循環器内科,2) 同救命救急センター 相馬孝光 岩切直樹 Abstract 症例は,45 歳, 男性.2012 年 3 月下旬に院外心肺停止で救急要請され, 初期波形は心室細動 (ventricular fibrillation;vf) で除細動後に心拍再開して当院救命救急センター搬入となった. 搬入時は正常洞調律で心電図などでも虚血性の変化なく,ICU 入床後に脳低温療法を開始したが, その後に広範な誘導で ST 変化を認めて再度 VFに移行し, 経皮的心肺補助装置 (percutaneous cardio pulmonary support;pcps) 導入となった. 緊急冠動脈造影で左右冠動脈に有意狭窄を認めず, 引き続きアセチルコリン (acetylcholine;ach) 負荷試験を施行したところ, 左右冠動脈ともに高度び漫性狭窄を認め, 冠攣縮性狭心症 (vasospastic angina;vsa) による VFと判断した. その後は硝酸薬の持続投与を行いながら第 3 病日に PCPSを離脱したが, 特に不整脈の出現なく経過した. 神経学的後遺症を認めず, 第 18 病日に植込み型除細動器 (implantable cardioverter defibrillator;icd) 植え込みのため他院転院となった.PCPS 補助下での Ach 負荷試験は比較的安全に施行でき, 急性期の VSAの診断に有用であると考えられた. Tadao Aikawa, Masayuki Takahashi, Kyoko Asakawa, Yutaka Dannoura, Takamitsu Soma, Naoki Iwakiri, Takao Makino, Tetsuro Koya, Noriyoshi Kato, Hisako Sageshima 2) Key words 冠攣縮性狭心症 経皮的心肺補助装置 心室細動 アセチルコリン負荷試験 植込み型除細動器 Department of Cardiovascular Medicine, Sapporo City General Hospital, 2)Department of Emergency and Critical Care Medicine, Sapporo City General Hospital (2013.1.8 原稿受領 ;2013.4.22 採用 ) ( 日本循環器学会第 107 回北海道地方会推薦演題 ) はじめに 冠攣縮性狭心症 (vasospastic angina;vsa) は比 較的予後良好な疾患とされているが, 中には冠攣縮 から心室細動 (ventricular fibrillation;vf) になる例 もあり, その救命には適切な初期治療や早期診断が 責任著者相川忠夫 : 市立釧路総合病院心臓血管内科 ( 085-0822 北海道釧路市春湖台 1 番 12 号 ) 1389
A C Ⅰ V1 Ⅱ V2 B Ⅲ V3 avr V4 図 1 全身 CT 検査, 搬入時心電図 avl avf V5 V6 1 mv A,B: 全身 CT の縦隔条件および肺野条件 ; 特記すべき所見を認めない. C: 搬入時の 12 誘導心電図 ; 正常洞調律, 虚血性の ST 変化を認めない. 必要となってくる. われわれは, 院外心肺停止 (outof-hospital cardiac arrest;ohca) で当院に搬入となり, 難治性 VFに対して経皮的心肺補助装置 (percutaneous cardio pulmonary support;pcps) を導入し, 急性期にアセチルコリン (acetylcholine;ach) 負荷試験を行って診断し得た,VSAによるVFの 1 例を経験したので報告する. 症例患者 :45 歳, 男性. 主訴 : なし. 既往歴 : 逆流性食道炎で加療中. 家族歴 : 父方の祖母が40 歳で突然死. 生活歴 : 喫煙 ;20 本 / 日を 27 年間 (3 年前より禁煙 ). 現病歴 :38 歳ころより連日早朝に 2 3 分程持続する胸部圧迫感を自覚していたが, 逆流性食道炎として加療されていた.2012 年 3 月下旬の朝にOHCA で救急要請され, 初期波形はVFで除細動後に心拍再開し, 当院救命救急センターに搬入となった. 搬入時現症 : 身長 187cm, 体重 80.1kg, 意識 Japan Coma Scale 1-3,Glasgow Coma Scale E4V2M5, 血圧 161/100mmHg, 脈拍数 80bpm 整, 心音に異常なく, 両下腿浮腫なし. 全身 CT 検査 ( 図 1A,B): 頭部および胸腹部に特記すべき所見を認めなかった. 心電図 ( 図 1C): 正常洞調律, 虚血性変化なし. 血液検査所見 ( 表 ):FDP 18.3μg/mL,D-dimer 11.5 μg/mlと凝固異常を認めた. 搬入後経過 : 搬入時の心電図および心エコー検査で有意な所見を認めず,ICU 入床となったが, その後すぐに心電図で広範な誘導にST 変化を認め ( 図 2), VFに移行したために右大腿動静脈よりPCPSを導入した. 病歴から冠攣縮性狭心症に伴うVFを疑って緊急に冠動脈造影 (coronary angiography;cag) を施行したが, 初回造影で左右冠動脈に有意狭窄を認めなかったため ( 図 3A,B), 引き続きAch 負荷試験を施行した. その結果, 左右の冠動脈にそれぞれAch 50 μg ずつ冠動脈内投与した時点で遅延造影を伴う高度 1390 心臓 V o l. 4 5 N o. 1 1 ( 2 0 1 3 )
表血液検査所見 WBC 9,700/μL CK 87 IU/L TSH 1.92μg/mL RBC 464 10 6 /μl CK-MB 31 IU/L FT3 2.8pg/mL Hb 14.2g/dL Na 137mEq/L FT4 1.33ng/dL Ht 44.2% K 3.4mEq/L PT-INR 1.08 Plt 23.8 10 4 /μl Cl 105mEq/L APTT 23 秒 TP 6.6g/dL Ca 8.6mg/mL Fib 208mg/dL Alb 3.2g/dL BUN 11mg/dL FDP 18.3μg/mL T-Bil 0.8mg/dL Cr 0.87mg/dL D-dimer 11.5μg/mL AST 115 IU/L CRP 0.2mg/dL AT-3 86% ALT 126 IU/L NT-proBNP 86pg/mL LDH 473 IU/L PG 321mg/dL γ-gtp 61 IU/L HbA1c 5.9% FDP,D-dimer の上昇を認める. Ⅰ avr V1 V4 Ⅱ avl V5 V2 Ⅲ avf V3 V6 1 mv 図 2 ICU 入床後の心電図 広範な誘導で ST 変化を認める. び漫性狭窄を認めた ( 図 3C,D). いずれも硝酸イソソルビド (isosorbide dinitrate;isdn)1 mgの冠動脈内投与により狭窄は速やかに解除され,vsaが繰り返すvfの原因であったと考えられた.cag 終了後よりISDN 1 mg/ 時の持続投与を開始したところ, 血行動態は速やかに改善し,24 時間の脳低温療法を行って, 第 3 病日に PCPSを離脱した. 第 4 病日には人工呼吸器も離脱し, 神経学的後遺症なく経口摂取可能となったために, カルシウム拮抗薬 ( アムロジピン 2.5mg/ 日 ) と硝酸薬 2 剤 ( 一硝酸イソソルビド40mg/ 日, ニコランジル 15mg/ 日 ) の内服を開始したが, その後は心室性不整脈の出現なく経過した. 後日, 植込み型除細動器 (implantable cardioverter defibrilla- tor;icd) の植え込みを行って独歩退院となった. 考察冠攣縮は, 突然の冠動脈の過収縮により一過性に血流が低下して心筋虚血を引き起こす病態で, 欧米人と比較して日本人における虚血性心疾患発症により大きく関与していることが示唆されている 2).VSA は比較的予後良好な疾患とされているが, 中には冠攣縮が遷延して心室性不整脈の出現, 急性心筋梗塞の発症, さらにはOHCAにいたる例があり, 本邦で全国 47 施設から集められた VSA 患者 1,429 例を平均 32 カ月観察した結果, 5 年生存率が98% であるものの, 経過中に17 例 (1.2%) が心室頻拍 (ventricular tachy- 1391
A B C D 図 3 冠動脈造影所見 A: 左冠動脈造影 ; 右前斜位 30 尾側 25 左冠動脈に有意狭窄病変を認めない. B: 右冠動脈造影 ; 左前斜位 30 頭側 25 右冠動脈に有意狭窄病変を認めない. C: 左冠動脈内にAch 50μg 冠動脈内投与にて左前下行枝に造影遅延を伴う高度び漫性狭窄を認める. D: 右冠動脈内にAch 50μg 冠動脈内投与にて造影遅延を伴う高度び漫性狭窄を認める. cardia;vt) またはVFとなり,35 例 (2.4%) がOHCA にいたっている. 一方, 明らかな器質的心疾患を認めなかった VFによる OHCA 症例について,VSAを背景に有する頻度は日本人が欧米人より約 3 倍高いとの報告もある 3). 本邦ではIgarashiらが, 明らかな器質的心疾患を認めない心肺停止蘇生後 14 例のうち 9 例にエルゴノビン負荷試験を施行したところ, 5 例で冠攣縮が誘発されたと報告している 4). 当院に2009 年 1 月から2012 年 6 月まで搬入されたOHCA 症例のうち, 搬入までのモニター心電図で VFを確認し, 心原性心肺停止を疑って CAGを行った連続 105 例の検討では, 冠動脈に有意狭窄を認めなかったのが 35 例 (33%) であった. さらに,35 例のうち14 例に対してAch 負 荷試験を行ったところ, 6 例で陽性であった. このため,OHCAの原疾患としてVSAは本邦では特に重要であるといえるが, 通常,VF 蘇生後の急性期の CAG で冠攣縮を認めなければ, その時点でVSAの診断はつかず, 慢性安定期に再度 Ach 負荷試験を施行しなければならない. しかし, その時点ですでにカルシウム拮抗薬や硝酸薬が開始されてしまっている場合, Ach 負荷試験を施行する際にはそれらの薬剤を休薬しなければならず, 特にカルシウム拮抗薬は休薬に伴う発作頻度の増悪 ( リバウンド現象 ) からVF 発作を生じる可能性があるため, 休薬中は慎重にモニタリングをする必要がある. 本例においては家族から聴取した病歴より VSAの存在が疑われたために,PCPS 1392 心臓 V o l. 4 5 N o. 1 1 ( 2 0 1 3 )
補助下で急性期にAch 負荷試験を施行することとしたが, その結果速やかにVSAの診断を得られて急性期の治療方針の決定に有用であったと同時に, 慢性安定期に冠血管拡張薬を休薬してAch 負荷試験を行う危険性を回避することができた. 調べられ得る限りで本例と同様に心エコー検査や CAGで器質的心疾患を認めなかった OHCA 症例に対して, 急性期にAch 負荷試験を施行し得た報告はなく,PCPS 補助下においては体外式ペースメーカ挿入も不要であるので, 比較的安全に施行できると考えられた. VSAの冠攣縮発作時に心室細動を認めた例に対するICDの適応に関しては賛否両論あり 5)6), 本邦のガイドラインでも統一した見解がなされていない 2). 最近 Matsueらは VFまたは持続性 VTの既往がある VSA 患者 23 例に対して全例にカルシウム拮抗薬の内服と ICD 植え込みを行い, また半数以上で硝酸薬の内服も併用して経過観察を行ったところ, 平均 2.9 年間の観察期間で 5 例が心肺停止となり, さらにそのうち 4 例でICDの適切作動を要する VFを認めたと報告している 7). 症例数は十分とはいえないが, 適切な薬物療法を行っても VFの既往がある VSA 患者においては高率にVFが再発し得ることを示唆しており, 本例においても患者家族と相談のうえで突然死予防のために ICD 植え込みを行う方針とした. 今後は同様の症例を多施設で集積して,VSAに対するICD 適応をよりエビデンスのあるものにしていく必要がある. 文献 Takagi Y, Yasuda S, Tsunoda R, et al : Clinical characteristics and long-term prognosis of vasospastic angina patients who survived out-of-hospital cardiac arrest : multicenter registry study of the Japanese Coronary Spasm Association. Circ Arrhythm Electrophysiol 2011 ; 4 : 295-302 2) 小川久雄, 赤坂隆史, 奥村謙, ほか : 循環器病の診断と治療に関するガイドライン (2006-2007 年度合同研究班報告 ) 冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン. http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/jcs2008_ogawah_ h.pdf Circ J 2008 ; 72(Suppl Ⅳ): 1195-1238(cited 2013 Oct 04) 3)Sueda S, Kohno H : Dual induction tests save patients surviving out-of-hospital cardiac arrest : the revival of coronary spasm. Circ J 2009 ; 73 : 630-631 4)Igarashi Y, Tamura Y, Suzuki K, et al : High prevalence of coronary artery spasm in survivors of cardiac arrest with no apparent heart disease. Jpn Heart J 1992 ; 33 : 653-663 5)Meisel SR, Mazur A, Chetboun I, et al : Usefulness of implantable cardioverter-defibrillators in refractory variant angina pectoris complicated by ventricular fibrillation in patients with angiographically normal coronary arteries. Am J Cardiol 2002 ; 89 : 1114-1116 6)Letsas KP, Filippatos GS, Efremidis M, et al : Secondary prevention of sudden cardiac death in coronary artery spasm : is implantable cardioverter defibrillator always efficient? Int J Cardiol 2007 ; 117 : 141-143 7)Matsue Y, Suzuki M, Nishizaki M, et al : Clinical implications of an implantable cardioverter-defibrillator in patients with vasospastic angina and lethal ventricular arrhythmia. J Am Coll Cardiol 2012 ; 60 : 908-913 1393