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第 講 - エネルギーバンドとブリルアンゾーン - はじめに前回は一様なポテンシャル中を運動する電子の振る舞いをポテンシャル 0(V(r)=0) の下でシュレーディンガー波動方程式を解くことによって明らかにした その結果 電子の波動関数は平面波 ( r) A exp( ir) で記述され そのエネルギーは 3 V m 状態密度は D m で与えられ 体積 V の中に N 個の電子があるとき フェルミ エネルギー 3 3 N F m V を持つ 軌道まで占有される 有限温度では フェルミレベル近傍の電子が熱励起し フェルミ ディラック分布則 f ( ) exp T に従って分布すること を学んだ 実際の固体中では 電子は図 - に示すように イオンの正電荷が作る周期ポテンシャル中にあり その影響を取り入れる必要がある 本号と次号で結晶の対称性に応じた周期ポテンシャル中を運動する電子の性質を明らかにする 図 - 周期ポテンシャルを受けて運動する波の力学的モデル 波板の波長が台の波長に比べて十分長いとき (b) 十分短い場合 (e) は容易に台上を滑らすことが出来る 両者の波長が一致すると波板が台にはまりこみ ( トラップされ ) 動けなくなる この時 力学的に安定な位置は (c) 準安定な位置は (d) である また 波長がわずかにずれている場合 波板が変形し台にはまりこむことが予想される ただし 後に示すように 電子波の場合 波動関数の波長が周期ポテンシャルの 倍の時に強い影響を受ける これは この場合物理的に意味があるのは波動関数そのものでなく 波動関数の 乗である確率振幅であり その周期は 波動関数の波長の 分の であるからである cos ( si に留意 ) 図 - 金属結晶中で電子が感じるポテンシャルエネルギーの概念図 結晶中を運動する電子は 正の電荷を帯びたイオン殻に引きつけられる 電子の波動性により結晶の周期 ( 原子間距離 ) の整数分の の半波長を持った電子のみが強い影響を受ける 周期ポテンシャルの影響 力学モデルによる類推図 - に示すような波状の表面を持つ基台の上を色々な波長を持った波板を滑らせるモデルを考える Brgg の回折条件による考察材料科学を学ぶ者にとって X 線や電子線の回折はおなじみの現象であろう 結晶中を運動する電子は電子線回折と同じように結晶の周期ポテンシャルの影響を受ける 今 図 -3 に示すように x 方向に進行する 次元平面波 ( x) expix が周期 で並んだ反射面に垂直 (θ=π/) に入射する場合を考える θ=π/ の入射波に対し Brgg 条件 si を満たすのは =λ 従って 波数 =π/λ=π / のとき強い反射が生じる すなわち 反対方向 (- x 方向 ) に進行する波 ( ) exp x ix が生じ - -

これが入射波と干渉し定在波が生じる 合成された定在波の波動関数は x ( ) A exp ix exp i x A 'si (-) または x ( ) A exp ix exp i x A 'cos (-b) で表せる この現象は 電子波の半波長がポテンシャルの周期に一致したとき 電子の運動がポテンシャルにトラップされたためと解釈される それに対し 波長がポテンシャルの周期と異なるときは電子はポテンシャルの影響をほとんど受けない 図 - 4 V(x):+ イオンが周期 で並んだ 次元結晶中で電子が感じるポテンシャル 電子密度波の波長が結晶の周期に一致するとき定在波が生じ 最大振幅の位置が + イオンの位置に来るとき [ψ (+) : 図中の実線 力学モデルの (c) に対応 ] 進行波 [ 振幅一定 図の 点鎖線 ] よりポテンシャルエネルギーが低くなる また 最大振幅の位置が + イオンの中間に来るとき [ψ(-) : 図中の点線 力学モデルの (d) に対応 ] 進行波よりポテンシャルエネルギーが高くなる このようにして 運動エネルギーと合わせた電子のエネルギー ( エネルギー分散曲線 ) は下図のように波動関数の波長が λ= 波数が =±π/ のときエネルギーギャップが生じる 図 - 3 結晶中を進行する電子波 ブラッグ条件を満たすと全反射される エネルギーギャップ * 電子の密度は ( r) ( r) ( r ) [ψ*:ψ の複素共役関数 ] で与えられるので 平面波 ( x) exp( ix) で ( x) exp( ix )exp( ix) すなわち一様に分布する それに対し 実関数である定在波 si(x), cos(x) の密度はそれぞれ si ( x), cos ( x ) 従って 電子密度すなわち負の電荷密度が空間的に振動する 電荷密度の振動の波長が正電荷による結晶のポテンシャルの周期に一致したとき強くトラップされる ( 力学モデル図 - (c) の状態 ) すなわち + イオン位置で最大密度をとる ψ(+) がエネルギー最小の安定状態となり もう一つの関数 ψ(-) が準安定状態 ( 力学モデル図 - (d) に相当 ) 従って 同じ波数 =π/ の状態に対しつのエネルギーが対応し 電子のエネルギーはその中間値は取り得ない すなわち エネルギーギャップが生じる 図 -5 にその様子を示す ここで の領域を ( 第 ) ブリルアン ゾ ーンと呼ぶ 図 - 5 () 自由電子 ( 進行波 ) のエネルギーと波数の関係 ( エネルギー分散曲線 ) (b) 周期 で配列した + イオン中の電子の分散曲線 波数 =± π/ のとき電子波はブラッグ条件を満たし定在波となる その結果 エネルギーギャップが生じる 3 周期ポテンシャルの影響 量子力学 ( 摂動法 ) による解前節では 色々なモデルで周期ポテンシャルの影響とバンドギャップ生成のメカニズムを直感的に理解することを試みたが あくまでアナロジーの範囲であり 正確に理解するには量子力学に拠らねばならない しかし シュレーディンガー方程式が解析的に解けるのは 水素様原子 (V (r)=-ze /r) 調和振動体 (V(x)= x ) 自由電子 (V(x,y,z)=0) などごく限られたポテンシャルについてのみであり 一般のポテンシャルについては近似法により解かねばならない 近似法として代表的な方法は () 摂動法 () 変分法がある 摂動法は一般的な方法で物理現象の解明に有力な手段である 変分法は 分子軌道法 バンド計算など エネルギー - -

準位や波動関数の具体的な計算に使われる ここでは 摂動法によりバンドギャップの出現の機構を明らかにする 摂動法摂動法は古典力学では 惑星の運動に対する他の惑星からの引力による完全楕円軌道からのずれを計算する方法で 正確に解ける系の運動に対し 微少な力 ( ポテンシャルエネルギー ) が働いたときの影響を見積もる方法である 量子力学においても重要な近似法であり ここでは これからの議論に必要な 必要最小限の公式を述べておく 式の導出法など詳しいことは量子力学のテキストに委ねることにする 今 正確に解けるハミルトニアンを 0 とし その解を 固有エネルギーを E とする すなわち 0 E (- ) 0 0 このとき 0 は完全直交系をなし 任意の関数 Ψ(r) が 0 の 次結合で表せる すなわち 0 * ' dr ', ( r) ( r) (- ) 0 0 ここで ' はデルタ関数とよび = のときのみ では 0 と定義される関数である 外乱によるポテンシャルを λv (λ は微少なパラメター ) とすると 全ハミルトニアンは 0 ' と書ける ここで ' V ' を摂動ハミルトニアンとよぶ 例えば 次元調和振動子に対し x 3 に比例する非調和項が存在する場合 d 0 x, m dx 3 ' x, (- 3) と書ける 摂動により 番目のエネルギー準位 E 0 波動関数 ψ 0 は以下のように変化する ただし 番目の準位に縮退は無いとする ( 縮退があるときは別に扱う必要がある ) m ' 0 E E ' E E m m (- 4) m ' r m m Em E (-5) ここで m ' をブラ ケット表示とよび 数学的にはエルミット行列の性質を持ち 角運動量などのより一般的な量子論の展開につかわれるが ここでは m r r r dr ' m *( ) '( ) ( ) と 摂動演算子を波動関数ではさみ積分したものとして定義される (.4) の右辺第 項を 次摂動エネルギーとよび 元の状態 ( 波動関数 ψ 0 ) に対する ' の平均値とみなせる (-5) の右辺第 項は摂動による波動関数の変形を表し 以外の状態 ( 波動関数 ) が混ざることによって生じる つまり 摂動により 異なった状態に一時的に遷移し 波動関数が歪むわけである このとき 遷移確率に相当する m ' が大きいほど また エネルギー差が小さいほど強く混ざる また (-4) 式の右辺第 3 項は 次摂動エネルギーとよび 変形した波動関数に対する ' の補正値とみなせる 自由電子に対する周期ポテンシャルの摂動効果ここでは 無摂動系として 周期的境界条件 [ψ(x+l)=ψ(x)] での 次元自由電子を考える すなわち V 0 (x) = 0 として, ( x) A exp( ix), E m 0 ここで L L / L / L / L / 規格化定数 A は * dx A dx を満たす値 すなわち A=L - / である 以下の計算では L は十分大きいとし 積分範囲は明示しない ここで 周期ポテンシャル V (x) を表現するため 数学 ( フーリエ級数 ) の復習をしておく 数学の復習 : フーリエ級数 f ( x ) f ( x) なる周期関数は f ( x) si x b0 b cos x (- 6) と展開できる 指数関数で表すと と展開できる ここで f ( x) c exp i x / c exp ig x (-7) G g : g, 0,,, - 3 -

結晶のポテンシャル V '( x) は格子間隔 の周期を持つので V '( x) v exp( igx), G と展開できる 簡単のため v は (-8) G g, G g / のときのみ値 v v U をもつとする これは V '( x) V cos x とすることに等しい ここ 0 で U あるいはV0 は微少な値とする 従って 摂動ハミルトニアン ' は '( r) U exp ix exp ix U exp( igx) exp( igx) 公式 : (- 0) A i x dx exp ' ' (-9) ' ' A exp( i ' x) '( x)exp( ix) dx より (-0) は ' g のときのみ値 U を持つ 従って 次摂動エネルギーは ' 0 なのでエネルギー変化には寄与せず 次摂動まで取り入れる必要がある そこで この場合について (-4) 式を適応すると (-) が得られる が第 ブリルアン ゾーンの内側にある場合 ( 図 -6 の ) は一般に g, g なので 次摂動効果によりエネルギーは低下する すなわち より高いエネルギー状態を混ぜることにより 波動関数が変形しポテンシャルエネルギー ひいては全エネルギーが低下すると言ってもいいだろう 冒頭に示した力学モデルに立ち戻ると 波板の波長が台の波長に近づくと 波板が変形し台にはまりこみ 変形のための弾性エネルギーの損を凌駕してポテンシャルエネルギーが低下することに対応する 逆に 第 ブリルアンゾーンの直上で第 ブリルアンゾーン内にある 3 ( 図 -6 3) の場合 g となり エネルギーは上昇する なお この場合 3 g なので (-) 3 式の第 項は分母が大きく あまり寄与しない 従って g を g A U exp i ' g xdx A U exp i( ' g ) x dx U 境として すなわち U 0 g g - 4 - g で エネルギーの飛びが予想され る ただし この近傍では 解が発散し この近似は使えなくなる の場合 つまり ブリルアン ゾーン境界でのエネルギーを求めるには 縮退のある場合の摂動論を適応する必要があり ここではとりあえずエネルギーギャップが生じる原因を説明することにとどめておきギャップの大きさには立ち入らないことにする 図 - 6 (-) 式第 3 項によるエネルギーの変化をもたらす波数 矢印で結ばれた状態がエネルギー変化をもたらす >0 の場合 (-) 式第 項は g より第 3 項にと比べて無視できる ブロッホの定理次に 波動関数が周期ポテンシャルの影響でどのように変形するかを調べる 摂動による波動関数の変形は (-5) 式で与えられる ( 以下では (-5) 式の指標,m は波数, を採り は周期関数の展開の指数に使うので注意 ) 摂動ポテンシャルとして (-8) をとれば =+G のときのみ ' ' 0 である C( G ) ' ' ' ( x) C exp( ix) 0 0 C( G )exp i( G ) x と置けば c( )expig x exp( ix) (-) と書ける ここで c C A c C G, ( ) とする (-7) より { } 内は周期 の周期関数であり これを u ( x) u ( x ) u ( x) とすると

( x) u ( x)expix (-3) と書ける 規格化定数は u ( x) に含めるものとする このように 周期ポテンシャル中の電子の波動関数は 周期関数 u(x) と平面進行波 exp(ix) の積で表せる これを ブロッホの定理といい この関数をブロッホ関数とよぶ 3 次元でも同様に ( r) u ( r)expi r (- 4) となる ここで, r は波数および空間ベクトル u(r ) は結晶と同じ周期性を持つ関数である ( x) の実数部を図に示すと 図 -7 のように表せ 平面進行波 exp(ix) が周期関数 u(x) で変調されたものとしてイメージできる u(x) は原子の波動関数を反映した関数と考えてよい ネルギーバンドを形成する 各の領域に対し 第 ( 第 ブルリアン ゾーン (B.Z.) 第 第 エネルギー バンドが定義される エネルギー帯の色々な表現 : 還元ゾーン 反復ゾーンブロッホ関数の性質を考慮すると 第 ( 第 3 以上も ) B.Z. にある波数 の状態は ( ) x の第 B.Z. 内にあるブロッホ関数と みなせる 少し煩雑であるが以下にその数学的証明を示しておく ブロッホの定理より ( x) u ( )exp x ix u ( ) x は周期 の周期関数なので u ( x) c ( )exp ig x, G とフーリエ展開できる 故に 図 - 7 ブロッホ関数の実数部 平面波が原子波動関数で変調されているとみなせる ただし 虚 数部を入れて電子密度 ( x) をとると各原子位置で同じ振幅 u x をもつ ( ) 4 ブリルアン ゾーン (Brilloui Zoe) [ 略して B.Z. ] ( x) ( c )exp igx exp ix c( )exp igx exp i xexp ix c( )exp i G x exp ix c( )exp ig ' x exp ix u ( x)exp i x ( x) ここで G ' ( ) と置いた すなわち u ( x) で変調された波数 のブロッホ波は u ( x) で変調された波数 のブロッホ波と 見なすことが出来る 同様に 第 3 第 4 第 B.Z. 内の波数 のブロッホ波も * と置くことにより 第 B.Z. 内の波数 のブロッホ [: 波として表すことが出来る ここで * 偶数のとき ] * ( ) [: 奇数のとき ] と する このように バンド構造は図 -9 に示すように第 B.Z. 内だけで表すことが多い これを還元ゾーン表示という 図 - 8 次元モデルのバンド構造 前節で計算した V0 cos(πx/) という簡単な周期ポテンシャルでなく (-8) で表せる一般の周期ポテンシャルの場合 エネルギーギャップは,,, のところで生 じる 従って 次元モデルではエネルギー分散曲線 ε() は図 -8 に示すようにエネルギーギャップ ( 禁止帯 ) で隔てられた領域に分割される すなわち エ - 5 -

図 - 9 次元還元ゾーン例 : 第 B.Z. 内の自由電子 ( x) A exp i x A exp i x exp ix A cos x i si x expi x u ( x)exp i x 生じるのはブリルアン ゾーン境界であり ブラッグ散乱が生じるところである そのため 次元 3 次元の電子状態を知るには ブラッグ散乱の条件を与える逆格子の概念を理解しておく必要がある ここでは 以後の議論に必要な逆格子の性質とエバルト球による回折条件を簡単に説明しておく 立方晶系の生滅則よく知られているように 立方晶系のブラッグ反射の条件はミラー指数 {hl} に対し 単純立方晶 : 全ての {hl} bcc:{0},{00},{}, [h++l が偶数 ] fcc:{},{00},{0}, [ 全ての h,,l が奇数または偶数 ] であった これらの指数を単位ベクトルの長さを / として 座標点 {±h,±,±l} に格子点を置くと図 - に示すような空間格子を作る 電子の加速と反復ゾーン 図 - 立方晶格子についてブラッグ反射が生じるミラー指数を座標点としてプロットした図 単位ベクトルの長さを / とすると逆格子に等しい 図 - 0 次元格子のエネルギー バンドの色々な表現 () 拡張ゾーン形式 (b) 還元ゾーン形式 (c) 反復ゾーン形式 還元ゾーンとは逆に第 B.Z. の分散曲線を図 -0 に示すように第 第 3 B.Z. に繰り返し表現することがある これは 電子が電場や磁場により加速されたときの運動を 空間上で記述するときに便利である これを反復ゾーンと呼ぶ 図 -0 に 次元格子のエネルギーバンドの表現法をまとめて示しておく 5 逆格子とブラッグの条件 次元格子で学んだように エネルギーギャップが このとき 実空間格子とブラッグ散乱を生じるミラー指数が作る格子との間には以下の対応がある 単純立方格子 単純立方格子体心立方格子 面心立方格子面心立方格子 体心立方格子このようにして作られる格子を逆格子 (Reciprocl Lttice) という ( ただし このように定義できるのはブラべー格子点に 種類の原子が置かれた単純結晶の場合のみである 一般の場合は以下の数学的定義による ) 逆格子の一般的な定義空間格子の基本並進ベクトルを, b, c としたとき 対応する逆格子の基本並進ベクトルは b c c b *, b*, c* b c b c b c (- 5) で定義される なお この π 倍 すなわち A *, B b *, C c * を逆格子基本並進ベクトルと定義すると 波数ベクトル空間 ( 空間 ) でのベクトルと見なせ 便利なことが多い このテキ - 6 -

ストでもブリルアン ゾーンと関連する所からこちらの定義を使う 逆格子の性質 () 逆格子基本並進ベクトル (*, b*, c*) と空間格子基本並進ベクトル (, b, c) の関係 * b * b = c * c =, * b = * c = b * = b * c = c * = c * b = 0 (- 6) 本来 これらの関係式が逆格子基本並進ベクトルの定義であるが (-5) で定義された *, b*, c * が (-6) を満足することは容易に示すことが出来る () 原点から逆格子点 (h,,l) へのベクトル ( 逆格子ベクトル ) r* h * b * l c * は空間格子の (h l ) 面に垂直である (3) ベクトル r* の長さ r* の逆数は空間格子の (h l ) 面の間隔に等しい 証明原点より ( h l ) 面に降ろした垂線 (r* に平行 ) の長さ dhl は図 - より d hl c c * ( h * * l *) cos r c b c l l r * l r * r * 立方晶系 六方晶系の逆格子 () 単純立方晶基本並進ベクトル : x, b y, c z (- 7) : 格子定数,, x y z: 直交座標の単位ベクトル 3,,, b c b z b c x c y 図 - (hl) 面と法線 (-5) 式より x y z *, b*, c* となり 逆格子も格子定数 / の単純立方晶である () bcc 基本並進ベクトル 証明 ( 図 - 参照 ) ミラー指数の定義より ベクトル h b は (h l ) 面 に含まれる このベクトルと逆格子ベクトル r* との内積をとると b b r *( hl) h * b * l c * h h * b * b 0 となり 互いに直交する この関係はベクトル b c, c との間にも成り立ちこれらの l l h ベクトルを含む面 すなわち (h l ) 面と r* は垂直であることが分かる x y z, b x y z, c x y z (- 8) x y z b c x y (- 9) 4 3 b c x y z x y (- ) b c * x y b c (- ) - 7 -

同様に *, * b y z c x z (- ) これは 格子定数 / の fcc 格子の基本並進ベクトルに等しい (3) fcc 基本並進ベクトル : x y, b y z, c z x (-3) 逆格子基本並進ベクトル ( 証明は略 ): * x y z, b* x y z, c* x y z (- 4) 従って 逆格子基本並進ベクトルとして A *, B b *, C c * を採用する 逆格子の作る空間を逆格子空間と呼び その中の任意のベクトル は方向 波長 すなわち波数ベクトル の平面波に対応する すなわち に垂直な面は実空間の波面に対応し その面間隔は である 逆に 逆格子点 G r * h A B l C は波数ベクトルの作る空間 ( 空間 ) 内の特殊な点 ( これに対応する波面には実際の原子面が存在する ) とみなせる このことから ブラック条件を逆格子ベクトルと波数ベクトル間の幾何学的関係として表すことが出来る エバルト球とブラッグ条件 これは 格子定数 / の bcc 格子の基本並進ベクトルに等しい (4) 六方晶系 図 - 3 六方晶系の基本単位格子と逆格子基本並進ベクトル : 3 3 x y, b x y, c c z 逆格子基本並進ベクトル : * x 3 y, b* x 3 y, 3 3 c* z c すなわち 逆格子も六方晶系を作る 逆格子空間と波数 ( ) 空間以下逆格子として先に求めた値を π 倍したもの - 8 - 図 - 4 逆格子とエバルト球 θ は ( h l ) 面と入射波のなす角 すなわち実空間での入射角に相当する 図 -4 に示すように 入射 X 線 ( または電子線 ) の波数ベクトル (= AO ) をその先端が逆格子空間の原点 (O) に来るように描く そして 起点 (A) を中心として半径 の円 (3 次元の場合は球 ) を描く この円 ( 球面 ) が逆格子点 G(B) と交わればその逆格子点に対応する ( h l ) 面でブラッグ反射が起こる そして ( AB ) の方向が反射波の方向である この球 ( 円 ) をエバルト球と呼び結晶の回折条件を調べるのに便利である 証明 OA G d hl OA AB ' 図 -4 より sig 従って d si となりブラッグ条件と一致する hl ベクトルで書くと AO OB AB G ' (-5)

G ', ' より あるいは G G 0 (- 6) (-5) または (-6) が逆格子ベクトルと波数ベクトルで表したブラッグの条件になる 6 次元 3 次元空間でのブリルアン ゾーン 次元モデルで示したように結晶中の電子はブラッグ条件を満たす波数ベクトルでエネルギーギャップが生じる 従って 次元 3 次元ではブラッグ条件 G ' を満たす が作る面でエネルギーギャップが生じる これは エバルト球による回折条件を考えると 図 -5 に示すように 空間 ( 逆格子空間 ) の原点と逆格子点を結ぶ線の垂直 等分線 (3 次元の場合は面 ) となる これらの直線 ( 面 ) で囲まれた領域をブリルアン ゾーン (B.Z.) と呼ぶ 原点に近い方から 第 第 第 ブリルアンゾーンと名付ける 図 -6 に 次元正方格子のブリルアン ゾーンを示す 原点から B.Z. 境界を (-) 回切る領域を第 ブリルアン ゾーンという 第 B.Z. に属す領域の断片を適当に逆格子ベクトル分移動するとパズルの断片をはめ込むようにきっちりと第 B.Z. を満たす 立方晶系のブリルアン ゾーン図 -7 にbccの第 ブリルアン ゾーンを示す bccの逆格子は fccであるが この場合 逆格子の原点を体心にとってある 従って第 近接逆格子点は各辺の中心にある 第 ブリルアン ゾーンの境界はこれら第 近接逆格子点の垂直 等分面からなり正 面体である 図 - 6 bcc の第 ブリルアン ゾーン 図 - 5 空間の原点 (O) と逆格子点 (G) を結ぶ直線の垂直 等分線 ( 面 ) 上にある波数ベクトルは常にブラッグ条件を満たす G を逆格子ベクトルとすればここで 対称性から G も逆格子ベクトルであることに留意せよ 次元正方格子の第 ブリルアン ゾーン 図 -8 に fcc の第 ブリルアン ゾーンを示す 逆格子の原点は体心にとる 従って第 近接逆格子点はコーナーサイトである 第 ブリルアン ゾーンの境界面は [] 方向についてはこのコーナーサイトの逆格子点への垂直 等分面であるが [00] 方向へは第 近接逆格子点への垂直 等分面である 図 - 7 fcc の第 ブリルアン ゾーン 図 -6 次元ブリルアンゾーン は逆格子点 - 9 - hcpのブリルアン ゾーンとジョーンズゾーン六方晶の第 第 B.Z. を図 -9 (),(b) に示す hcp 構造では (00) 面に原子面が存在するので (00) ブラッグ反射は消滅する 従って 逆格子 (00) の垂直

等分面 すなわち第 B.Z. の上下面ではエネルギーギャップは生じない 初めてエネルギーギャップが生じる面は六方晶系の第 B.Z. の側面 [(c) の A 面 ] と第 B.Z. を合わせた (c) のようなゾーンを作る これを特にジョーンズゾーンと呼ぶ 図 - 8 () 六方晶系の第 ブリルアン ゾーン (b) 第 ブリルアン ゾーン 稠密六方晶 (hcp) ではブラべー格子の (00) 面 [ z c の位置 ] にも原子面が存在するのでブラッグ反射は生じない 同様に電子波にもエネルギーギャップは生じない 従って 最初にエネルギーギャップが生じる面は (c) に示す (),(b) を合わせた複合ゾーン (c) である これをジョーンズ ゾーンとよぶ 演習問題 - 拡張ゾーンで第 3 ブリルアンゾーン内にある波数 3 の自由電子 ( 次元 ) をブロッホ関数の形に表し u(x) を求めよ 演習問題 - 格子定数 = 4/5, b = 4/3 の 次元単純長方格子についてグラフ用紙に逆格子点をプロットし 図 -6 の要領で 第 第 第 3 第 4 ブリルアンゾーンを示せ 図のスケールは任意でよいが縦横の比は正確に なお 次元逆格子基本ベクトルの定義は * b * b, * b b * 0 とする - 0 -