技術論文 Daptomycin の Etest 法による MIC 測定における 精度管理の重要性および問題点 中島 英恵 ) ) 長野市民病院臨床検査科 8-855 長野県長野市富竹 - 要 旨 ダプトマイシン DAP 非感性株を含む Staphylococcus aureus S. aureus 株を使用し 市販の ブランド BD 栄 研 極東 のミュラーヒントン寒天培地を用いた際の Etest 法による DAP のブレイクポイント BP MIC 値が μg/ml 付近の MIC 値の測定精度について 微量液体希釈法を基準に 比較検討した 精度管理 QC 株には S. aureus ATCC9 および Enterococcus faecalis ATCC9 を使用した S. aureus 株に対する MIC 測定では QC 株に対する MIC 値が QC レンジ外であった栄研及び極東で 偽感性が発生した BD は QC 株に対する MIC 値は QC レンジ内であったが 偽非 感性が発生した S. aureus に対する DAP の MIC 測定では BP とかけ離れた MIC 値を示す S. aureus ATCC9 だけでな く DAP の BP 値を示す S. aureus 株も QC 株として設定していく必要がある キーワード ダプトマイシン 黄色ブドウ球菌 最小発育阻止濃度 Etest 精度管理 Daptomycin DAP は 日本において 0 年 9 ブランド各々が BMD 法と有意な差を認めている 月 に 5 番 目 の 抗 Methicillin-resistant Staphylococcus p < 0.000 ) S. aureus に対する DAP の MIC 値は aureus MRSA 薬として発売になった DAP の薬 日本で市販の ブランドの MHA を用いて Etest 法で 剤 感 受 性 検 査 法 に は 微 量 液 体 希 釈 法 broth 測定した場合 DAP の MIC 測定の標準法である microdilution BMD 法 もしくは Etest 法による MIC BMD 法とは異なる結果となる可能性があることが 測定があり 使用する培地中の Ca 濃度が MIC 値の 判明した しかし 先の検討では被検菌株が BMD 変動要因となることが知られている 従って 法で 0.0 0.5 μg/ml の MIC 値を示す株のみで Clinical and Laboratory Standard Institute CLSI で あった 臨床分離 S. aureus に対する DAP 非感性株 は BMD 法の Mueller-Hinton broth の Ca 濃度を の割合は 0.%以下であり DAP 非感性株を用い 生理的濃度の 50 mg/l に調整するよう規定してい て 日本で市販の MHA を用いた際の Etest 法におけ る 一方 Etest 法では Ca 濃度が 5 0 mg/l るブレイクポイント付近の MIC 値の測定精度に関す の Mueller-Hinton Agar MHA を用いるよう添付文 る報告は未だ無い ) 今回 DAP 非感性の S. aureus 書に記載されている ) しかし MHA の Ca濃度は を用い S. aureus の DAP ブレイクポイント MIC 標準化されておらず 市販の MHA はブランドおよ 値が μg/ml 付近に対する Etest 法における MIC びロット毎に Ca 濃度が異なる 値の測定精度について検討を行った ) ) ) そこで私たちは 先に 被検菌株に臨床分離 MRSA 98 株を使用し 日本で生培地として市販されている ブランドの MHA を用いた際の Etest 法における MIC 値のばらつきを BMD 法を基準として比較し 平成 5 年 月 7 日受付 平成 年 5 月 5 日受理 58
対象および方法 I II 結 果 MHA 中の Ca濃度 対象菌株 精度管理 Quality Control QC 株 対象菌株は Cubist 社から提供された S. aureus MHA 中の Ca濃度は BD-MHA が 7.0 7. mg/ 株 C C を用いた QC 株は CLSI および L 栄研-MHA が 8.0 8.8 mg/l 極東-MHA が. Etest 添付文書に従い S. aureus ATCC9 および.8 mg/l で 栄研-MHA および極東-MHA は 添 Enterococcus faecalis ATCC9 を使用した 付文書で推奨の Ca濃度の範囲外であった ), ) Etest 法で使用した MHA と MHA 中の Ca濃度 の測定 QC 株の MIC 測定結果 QC 株の MIC 測定結果を Table に示す S. aureus MHA は ミ ュ ラ ー ヒ ン ト ン II 寒 天 培 地 lot ATCC9 に 対 す る MIC 値 は BMD 法 が 0959 000 000 ベクトン ディッキ μg/ml CLSI の BMD 法の QC レンジは ンソン 以下 BD-MHA ポアメディア ミュラー μg/ml に対し Etest 法は BD-MHA が μg/ml ヒントン S 寒天培地 lot 00 0 0 栄 栄研-MHA が μg/ml 極東-MHA が もしく 研化学 以下 栄研-MHA バイタルメディア 変 は μg/ml であった に対 法 ミ ュ ラ ー ヒ ン ト ン 寒 天 培 地 lot COAD0 する MIC 値は BMD 法が μg/ml CLSI の BMD COADD0 COAD5S0 極東製薬工業 以下 極 法の QC レンジは μg/ml に対し Etest 法 東-MHA の ブランド各々 ロットを使用した は BD-MHA が.5 もしくは μg/ml 栄研-MHA MHA 中の Ca 濃度は Radiometer ABL800 FLEX ラ が もしくは μg/ml 極東-MHA が μg/ml ジオメーターメディカル で測定し 算出した であった なお Etest 法の QC レンジは S. aureus ), 5 ) MIC 測定方法 ATCC9 は μg/ml BMD 法は MIC 測定パネルに Mueller-Hinton broth は μg/ml である ) 本検討で得られた QC 株の の Ca 濃度が 50 mg/l に調整されたフローズンプ MIC 値を評価するため 添付文書に従い 通常の レート 栄研 lot 500 栄研化学 を用い 検査方 倍希釈系列に換算すると S. aureus ATCC9 に対 法は添付文書に従った なお MIC 測定パネルは薬 する MIC 値は BD-MHA が μg/ml 栄研-MHA 剤濃度を 8 μg/ml とし 希釈系列は Etest 法と が μg/ml 極東-MHA が μg/ml E. faecalis 同様 0.9 0.5.5 ATCC9 に 対 す る MIC 値 は BD-MHA が 8 μg/ml とした Etest 法は MIC 測 μg/ml 栄研-MHA が μg/ml 極東-MHA が 0.5 μg/ 定試薬に Etest ストリップ lot 00077900 シス ml となり BD-MHA では S. aureus ATCC9 E. メックス ビオメリュー を用い 検査方法は添付 faecalis ATCC9 共に QC レンジ内であった し 文書に従った BMD 法と Etest 法による MIC 測定 か し 栄 研 -MHA で は S. aureus ATCC9 が は 接種菌液の濃度調整に濁度計を使用し 同じ菌 QC レ ン ジ よ り 低 く 極 東 -MHA で は S. aureus 液から同時に実施した QC は 対象菌株の MIC 測 ATCC9 共に QC レンジ 定日ごとに実施した MIC 値の解釈は CLSI に準じ より低かった MIC μg/ml を感性 MIC > μg/ml を非感性と 対象菌株の MIC 測定結果 した BMD 法と Etest 法の MIC 値の比較は BMD 対象菌株の MIC 測定結果を Table に示す S. 法を基準とし BMD 法で感性かつ Etest 法で非感性 aureus 株の MIC 値は BMD 法で μg/ml を偽非感性 major error ME BMD 法で非感性かつ と測定され その内訳は μg/ml が 株 0.5 μg/ Etest 法で感性を偽感性 very major error VME とし ml が 株 μg/ml が 株.5 μg/ml が 5 株 た μg/ml が 株 μg/ml が 株であった 各ブラン ) ドの MHA を用いた Etest 法による MIC 値は BDMHA は BMD 法と比較し 0.5.5 管高く測定さ 59
Table 精度管理株に対する微量液体希釈法および ブランド各々 ロットの Mueller-Hinton Agar を用いた Etest 法による Daptomycin の MIC 値 Etest-MIC (μg/ml) BMD-MIC 精度管理株 栄研-MHA BD-MHA (μg/ml) 極東-MHA 0959* 000* 000* 00* 0* 0* COAD0* COADD0* COAD5S0* (7.)* (8.8)* (8.)* (8.0)* (.)*.5.5.5.5 BD ベクトン ディッキンソン 栄研 栄研化学 極東 極東製薬工業 * MHA のロット番号 * MHA 中の Ca 濃度 mg/l Table 被検菌 S. aureus 株に対する微量液体希釈法および ブランド各々 ロットの Mueller-Hinton Agar を用いた Etest 法 による Daptomycin の MIC 値 Etest-MIC (μg/ml) BMD-MIC 菌株 No. (μg/ml) 栄研-MHA BD-MHA 極東-MHA 0959* 000* 000* 00* 0* 0* COAD0* COADD0* COAD5S0* (7.)* (8.8)* (8.)* (8.0)* (.)* C 0.0 C 0.5 0.9 0.9 0.9 C 0.5 0.9 0.9 C * *.5* C7.5 ** ** ** ** 0.5** 0.5** C8.5 ** **.5 ** ** ** C.5.5 ** ** ** ** ** C5.5.5.5.5 ** ** ** C.5.5.5.5 ** ** ** C.5.5 ** ** C9.5.5.5.5 C0.5.5.5.5.5 C 8 BD ベクトン ディッキンソン 栄研 栄研化学 極東 極東製薬工業 * MHA のロット番号 * MHA 中の Ca 濃度 mg/l * 偽非感性 ** 偽感性 れ BMD 法で μg/ml であった株が ME となった られた MIC 値とその MIC 値をもとに解釈された判 一方 栄研-MHA は BMD 法と比較し 同じ値もし 定カテゴリーは 抗菌薬選択の指標の一つとなって くは 0.5.5 管低く測定され BMD 法で.5 μg/ml いるため MIC 値の正確な測定は重要である S. であった 5 株のうち 各ロット もしくは 株が aureus に対する DAP のブレイクポイントは 現在 VME となった また 極東-MHA は BMD 法と比較 CLSI では MIC μg/ml が感性 MIC > μg/ml が し 0.5 管低く測定され BMD 法で.5 μg/ml で 非 感 性 European Committee on Antimicrobial あった 5 株全てが ロット全て VME となり BMD Susceptibility Testing EUCAST では MIC μg/ml 法で μg/ml であった 株のうち 株が ロットで が感性 MIC > μg/ml が耐性と設定されており VME となった 両ガイドラインともに中間のカテゴリーは存在し ない ), ) 従って DAP の MIC 測定は測定の際に生 III 考 察 じる僅かな誤差が VME あるいは ME に繋がりやす い状況といえる 感染症診療の現場において 薬剤感受性検査で得 570 Etest 法の添付文書には DAP の MIC 測定では
適切な Ca濃度を含む MHA のみを使用するよう記 定されていた しかし BMD 法で MIC 値が μg/ml 載されているが 市販の MHA に Ca濃度の記載は であった株 C が BD-MHA では.5 もしくは 無い 本検討において ブランド間で MHA の Ca濃 μg/ml と測定され ME が発生した S. aureus 度は異なり また先の検討においても臨床分離株の ATCC9 に対する MIC 値は S. aureus に対する MIC50/MIC90 は BMD 法が / μg/ml に対し DAP のブレイクポイント値 μg/ml と比較し Etest 法は BD-MHA が 0.5/ μg/ml 栄研-MHA が 低い値である S. aureus の DAP のブレイクポイント /0.9 μg/ml 極東-MHA が / μg/ml と測 値とかけ離れた MIC 値を示す S. aureus ATCC9 定 さ れ MHA の Ca 濃 度 は BD-MHA が 0. で ブレイクポイント付近の MIC 値の測定精度を検 mg/l 栄研-MHA が 5. mg/l 極東-MHA が 5.0 証することに 限界があると思われた S. aureus に mg/l で ブランド全てが Etest 法の添付文書に記 対する DAP の MIC 測定では 特に ブレイクポイ 載の濃度の範囲外であった ) しかし 日常検査の ント付近の MIC 値の正確な測定のためには 今後 中で MIC 測定の度に MHA 中の Ca濃度を測定する S. aureus で かつ ブレイクポイントの MIC 値 ことは 時間と手間とコストの面から困難である μg/ml を示す株も QC 株として設定していく必要 従って QC 株の MIC 測定を行うことで 使用する があると考える MHA の適否を判断するのが現実的である VME は 臨床でその抗菌薬が使用される可能性が IV 結 語 あるため 最も避けるべきエラーとされている 本 検討では 栄研-MHA および極東-MHA を用いた際 日本で生培地として市販されている ブランドの に VME が発生した この ブランドの MHA 中の MHA BD-MHA 栄研-MHA 極東-MHA を用い Ca濃度は Etest 法の添付文書に記載の濃度より高 た Etest 法による S. aureus に対する DAP の MIC 測 く QC 株の MIC 値は Etest 法の QC レンジより低 定では ME VME が発生する可能性がある VME かった 従って QC を予め実施すれば VME を防 は QC を行うことで 防ぐことが可能であると考 ぐことは可能であると考える 得られた QC 株の えられた しかし ME を回避するためには 今後 MIC 値の評価にあたっては S. aureus ATCC9 に ブレイクポイントとかけ離れた MIC 値を示す S. 対する DAP の QC レンジは CLSI の BMD 法が aureus ATCC9 だけでなく DAP のブレイクポイ μg/ml に対し Etest 法は μg/ml であり ントである MIC 値が μg/ml を示す S. aureus 株も 下限値が異なることに注意しなければならない ま QC 株として設定していく必要がある た 極東-MHA の Ca濃度は添付文書に記載の濃度 と..8 mg/l の差であったが BMD 法との MIC 値のずれが大きく VME が多く発生した 極東-MHA を用いた Etest 法による MIC 測定では MHA 中の Ca濃度以外の要因も MIC 値に影響を及ぼしている 可能性が懸念される 一方 BD-MHA を用いた Etest 法による MIC 測定 では QC 株の MIC 値は S. aureus ATCC9 およ び ともに QC レンジ内で MHA の Ca濃度も添付文書に記載の濃度の範囲内 であった S. aureus ATCC9 に対する DAP の MIC 値に関して Etest 法の添付文書には QC 結果 範囲は μg/ml と定義されるが μg/ml 前後の結果となる傾向があるとの記載があり 本検 討でも BD-MHA による MIC 値は μg/ml と測 謝辞 本検討を行うにあたり 菌株を提供して下さいました Cubist Pharmaceuticals Inc.に ご助言をいただきました Bradley Katz 氏 Cubist Pharmaceuticals Inc. 黒川利徳氏 MSD 株式会社 に深 謝申し上げます 文献 ) Koeth LM, Thorne GM : Daptomycin in vitro susceptibility methodology: a review of methods, including determination of calcium in testing media, Clin Microbiol News 00 ; : 9. ) Clinical and Laboratory Standards Institute Performance standards for antimicrobial susceptibility testing ; twenty-third informational supplement, Document M00-S. Wayne, PA, 0. ) biomerieux Inc Etest Customer Information Sheet- REF. 55000/55008 Etest ダ プ ト マ イ シ ン DPC, http:// products.sysmex-biomerieux.net/product/pdf/dpcag07 ) Nakashima H et al.: Daptomycin Etest MICs for methicillinresistant Staphylococcus aureus vary among different media, J 57 5
Infect Chemother 0 ; 8 : 970 97. 5) Hanberger H et al.: Pharmacodynamics of daptomycin and vancomycin on Enterococcus faecalis and Staphylococcus aureus demonstrated by studies of initial killing and postantibiotic effect and influence of Ca and albumin on these drugs, Antimicrob Agents Chemother 99 ; 5 : 70 7. ) European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing Breakpoint tables for interpretation of MICs and zone diameters. Version.. Munich and Basel, 0. http://www.eucast.org/ fileadmin/src/media/pdfs/eucast_files/breakpoint_tables/ Breakpoint_table_v_..pdf Technical Article Importance and problems of quality control during daptomycin MIC testing using Etest methodology Hanae NAKASHIMA ) ) Department of Clinical Laboratory, Nagano Municipal Hospital (-, Tomitake, Nagano-shi, Nagano 8-855, Japan) Summary To assess the accuracy of daptomycin (DAP) MIC near the breakpoint against Staphylococcus aureus (i.e., MIC= μg/ml) by the Etest, MIC tests were conducted using S. aureus test isolates, including non-daptomycin-susceptible isolates, and brands of MHA plates (BD, Eiken and Kyokuto) commercially available in Japan. The results were compared with those obtained by the CLSI reference BMD. and Enterococcus faecalis ATCC 9 were used as the quality control (QC) strains. When the DAP MICs were determined by the Etest on Eiken and Kyokuto MHA plates, the MICs of the QC strains were beyond the Etest QC range, and very major errors occurred for test isolates. When the DAP MICs were determined by the Etest on BD MHA plates, the MICs of the QC strains were within the Etest QC range, but a major error occurred for test isolates. For more objective and accurate measurement of DAP MICs against S. aureus, it is necessary to set, not only S. aureus ATCC9, which indicates the MIC far from the breakpoint, but also the S. aureus strain, which indicates the MIC of the breakpoint, as the QC strain. Key words: Daptomycin, Staphylococcus aureus, MIC, Etest, Quality control (Received: December 7, 0; Accepted: May 5, 0) 57