はじめに 両側大腿骨転子部骨折を受傷した症例 ~ 画像から考える ~ 平成 31 年 3 月 18 日 ( 月 ) 佐藤病院リハビリテーション科櫻田良介 今回, 骨粗鬆症に伴う両側大腿骨転子部骨折の症例を担当させて頂いた. まだ年齢も若く, 復職も検討されている方であるため, 早期より予後予測を立てる必要があった. 画像より予後予測を推察し, 段階的に病棟の ADL を上げていく事とし, 免荷期間中でも最大限の運動量の確保を目標とした. 現在, 左下肢全荷重, 右下肢 1/2 荷重の為 ADL に制限は出ているものの, 病棟での動きは遠位見守り ~ フリーとしている. 症例の退院目標は今月末もしくは来月初旬 退院後の支援についてご指導 ご鞭撻頂きたいと思います. 1 2 診断名両側大腿骨転子部骨折 現病歴 : 平成 30 年 12 月 25 日, 自宅で前かがみになった際に, バキッ と音がして転倒. 体動困難となり救急搬送. 両側大腿骨転子部骨折の診断で横浜市大に入院.12 月 28 日両側に観血的整復固定術 (longγ-nail 術 ) 施行し, 術中に右大腿骨転子部粉砕骨折あり. 術後は左下肢全荷重, 右下肢完全免荷よりリハビリテーション開始. 既往歴 : 拡張型心筋症, 重症筋無力症 (MGFA 分類 ClassⅢa), ステロイド性糖尿病, 介護保険 : 申請中 ( 骨折を伴う骨粗鬆症 ) 服薬 : プレドニゾロン (5 mg,1 mg 2/day), シクロスポリンカプセル, メスチノン, ネキシウムカプセル, セルトラリン, ジルチアゼム塩酸塩 R カプセル, 硝酸イソソルビド, ニコランジル, エディロール, カロナール, ニトロベン, トルリシティ皮下注, フォルテオ 受傷前の X-p H30.12.3 坐骨が骨頭に被っている 骨盤後傾 骨棘? 関節唇の骨化? 骨頭の安定化 両側頚体角 120 仙腸関節の不明瞭化 慢性的なストレス 骨硬化像 骨粗鬆症骨の栄養低下 骨質 骨梁の菲薄化 3 4 X-p 受傷後 X-p 所見 (H30.12.25) 仙腸関節不明瞭 右転子部骨折 両側骨幹部骨折 骨硬化像 両側の骨棘 ( または骨硬化像?) 涙痕 骨質 髄腔の菲薄化 5 6 1
骨折機序 X-p 術前 立位で体幹前屈胸椎左凸胸椎左回旋 骨盤右後方回旋 骨盤左 Sway 下方, 左側方への剪断力 AHI:77% ARO:30 AHI:71% ARO:40 7 8 X-p 術前 X-p2 術後 AHI:93% ARO:30 AHI:61% ARO:35 Sharp 角 :35 CE 角 :45 Sharp 角 :40 CE 角 :40 9 10 X-p2 術後 術後 X-p( ラウエンシュタイン像 )H31.2.7 Sharp 角 :38 CE 角 :40 Sharp 角 :39 CE 角 :30 11 12 2
経過 当院入院 固定式ピックアップ貸し出し H31.2.14 2w 後 x-p の結果架橋形成不良のため 1/2 荷重継続 3 日後病棟フリー H31.3.4 4w 後 x-p 姿勢 右下肢 1/2 荷重 下方視 頸部 体幹右側屈 H31.2.7 1w 後 2/3 荷重に上がる予定が, 延期 H31.2.18 キャスター付きピックアップへ変更 1/2 荷重継続 H31.3.18 院内フリー 骨盤前方 Shift 13 14 姿勢の考察 下方視眼瞼下垂 :MG 環軸関節 loose 骨盤前方 Shift 臼蓋形成不全? 距腓靭帯 stabilis Sharp 角 CE 角 項頸部筋のtone ARO 仙骨 nutation 骨盤の安定化 AHI 骨盤前方 Shift 距腓靭帯 stabilis 抗重力筋のtone loose 頸部 体幹右側屈右注視麻痺? 脚長差 ( 右 > 左 ) 右下肢 1/2 荷重転子部骨折胸椎左凸右距骨下 jt 回内制御 15 16 歩行 理学療法評価 BP:120/66mmHg,Pulse:70bpm,SpO2:98%,KT:36.6~37.1 感覚 : 左右差なし, 異常感覚なし 筋力 : 握力 (R/L)12kg/15kg 形態測定 ( cm ):SMD 65.5/66.0,TMD 63.0/62.0 周径 ( cm ): 膝蓋骨直上 36.0/36.5,10 cm 42.0/40.5, 15 cm 43.0/42.0 下腿 29.0/28.0 疼痛 :NRS 安静時 0, 運動時 3(SLR, 股 jt 外転時 ), 部位 : 術部, 鼠径部 Dr. より : 右下肢のスクリューが止まっていない, カットアウトの恐れあり屈曲 外旋, 伸展 外旋, 内旋時 8~9/10 Loose test: 手部 (+/+), 肘関節 (+/+), (-/-), 理学療法評価 ROM 屈曲 60 100 伸展 5 外転 30 35 内転 15 10 外旋 25 内旋 25 屈曲 90 130 伸展 5 0 底屈 55 50 背屈 0 5 MMT 屈曲 2 3+ 伸展 2 3+ 外転 2 3 内転 2 3 外旋 3 内旋 3 屈曲 3 3+ 伸展 2 3+ 底屈 2 3 背屈 3 3+ 17 18 3
大腿骨近位部骨折 大腿骨近位部骨折は, その骨折部位から骨頭骨折, 頸部骨折 ( 頸部内側骨折 ), 頚基部骨折, 転子部骨折 ( 頸部外側骨折 ), 大転子骨折, 小転子骨折に分類される. 頸部骨折と転子部骨折は高齢者で起こりやすい骨折の 1 つで,65 歳以上での発生率は, 女性は男性に比べて 2 倍高いとされている.75 歳未満では頸部骨折が多く, それ以上では転子部骨折が多いとの報告もある. これらの骨折が引き金となる死亡率は, 術後 3 カ月では 5.1~26%,6 カ月では 12~40%,1 年では 9.8~35% とされている. 頸部内側骨折の分類 (Garden 分類 ) StageⅠ: 不全骨折外転骨折または嵌入骨折で内側の骨性連続は残存している StageⅡ: 転位なし完全骨折完全骨折であるが, 骨頭傾斜無し軟部組織の連続性はある StageⅢ: 部分的転位と完全骨折頸部被膜の連続性はある StageⅣ: 完全な転位 骨折頸部被膜は断裂し, 全ての軟部組織の連続性が断たれる 19 20 関節包の構造と大腿骨への血行頸部外側骨折の分類 (Evans 分類 ) TypeⅠ: 骨折線が小転子から外側へ向かうもの Group1. 内側皮質骨に転位なく, 完全整復位で骨癒合が得られるもの Group2. 内側皮質骨の単純な重なりが徒手整復で改善し, 安定型の骨折となる Group3. 内側皮質骨の重なりが完全に改善せず, 骨折部が不安定で内反股が予測されるもの Group4. 内側皮質骨の粉砕骨折があり, 内反股が予測されるもの TypeⅡ: 骨折線が TypeⅠ の逆となるもので McMurray の骨切り線に一致する骨幹部が内側へ転位しやすい 21 22 転子下骨折の分類 (Seinsheimer の分類 ) TypeⅠ: 骨片の転位がないもの.2mm 未満の転位 TypeⅡ:2 骨片の骨折 A.2 骨片の横骨折 B.2 骨片の螺旋骨折. 小転子が近位骨片に付着 C.2 骨片の螺旋骨折. 小転子が遠位骨片に付着 TypeⅢ:3 骨片の骨折 A.3 骨片の螺旋骨折で, 小転子が第 3 骨片として存在 B. 近位 1/3 の 3 骨片の螺旋骨折で, 蝶形の第 3 骨片があるもの TypeⅣ:4 骨片以上の粉砕骨折 TypeⅤ: 転子下 - 転子間骨折大転子を通る骨折線のある全ての転子間骨折 3 月 4 日現在の X p 23 24 4
X-p 比較 (2 月 3 月 ) 2w 後姿勢 25 26 3 月 14 日現在姿勢理学療法評価最終 BP:120/66mmHg,Pulse:70bpm,SpO2:98%,KT:36.6~37.1 感覚 : 左右差なし, 異常感覚なし 筋力 : 握力 (R/L)12kg/18kg 形態測定 ( cm ):SMD 65.5/66.0,TMD 63.0/62.0 疼痛 :NRS 安静時 0, 運動時 1(SLR, 股 jt 外転時 ), 部位 : 術部, 鼠径部 Dr. より : 右下肢のスクリューが止まっていない, カットアウトの恐れあり屈曲 外旋, 伸展 外旋, 内旋時 8~9/10 Loose test: 手部 (+/+), 肘関節 (+/+), (-/-), 27 28 理学療法評価最終 ROM 屈曲 85 100 伸展 10 外転 25 35 内転 10 10 外旋 25 内旋 25 屈曲 120 130 伸展 0 0 底屈 55 50 背屈 5 10 MMT 屈曲 3 4 伸展 3 4 外転 3 4 内転 3 4 外旋 4 内旋 4 屈曲 3 4 伸展 3 4 底屈 3 3+ 背屈 3 4 今後の方向性 ( 見込み, 予定 ) フォロー : 当院デイケア週 1 回送迎なし電動車椅子使用 受診 : 市大 or 当院整形外科, 他科は市大 在宅生活 : 移動は伝い歩き, 寝具はベッド使用, シャワー浴, 自室は 2 階, 階段昇降は手すり使用で自立, 外出時は電動車椅子使用. ENT 予定 3 月末 4 月上旬へ変更 29 30 5
歩行最終 レンタル予定の車椅子 31 32 終わりに 本日,X-p を撮り, 明日荷重の判断が Dr. より下る. 前回の回診の際には, 次回荷重の許可を出すとしたら全荷重と話していた為, そのタイミングで外出, または外泊の許可を申請する予定である. 退院までは病棟内は歩行器の予定で考えているが, 室内のみ独歩での移動を検討している. 今後のフォローについては後日, 相談させて頂きます. ご清聴ありがとうございました 33 34 6