高等学校化学に対する生徒の興味 関心を高める指導法の研究 - 日常生活の文脈を重視した指導法の考案 - 自然システム教育学専修 森田晋也
研究の概要 目的生徒の化学に対する意義や必要性の認識を高めるため, 日常生活の文脈を重視した指導法を考案し, その効果を検証する 方法 結果 授業実践 : 高等学校 3 年生文型 化学選択クラス 10 名化学 Ⅰ 有機化合物官能基を含む化合物 検証方法 : 質問紙, 実験レポート 単元全体を通して, 日常生活と関連のある内容を授業に取り入れることにより, 化学の授業と日常生活との関連や, 化学の学習の必要性を再認識する生徒がいた
研究の背景 平成 19 年 OECDによる PISA( 国際学力到達度調査 ) の結果発表 科学的能力は高いが, 科学への興味 関心が低い 自らの科学学習に対する意義や必要性 の認識が低い
研究の背景 平成 20 年 1 月中央教育審議会答申 改善の基本方針 理科を学ぶことの意義や有用性を実感す る機会をもたせ, 科学への関心を高める 観点から, 実社会 実生活との関連を重視実生活との関連を重視 する内容を充実する方向で改善を図る
研究の背景 私が勤務する高等学校 大学進学率は高い 化学を学習する目的は大学受験のため 受験に化学が必要なくなると やる気を示さなくなる
研究の背景 生徒の化学に対する意義や必要性 の認識を高めたい 日常生活の文脈を重視した指導法を考案し, 授業に取り入れることによって高めることができるのではないか
研究の目的 生徒の化学に対する意義や必要性の認 識を高めるため, 日常生活の文脈を重視 した指導法を考案し, その効果を検証する
研究の方法 1. 事前調査 2. 授業実践 3. 事後調査 4. 結果の分析
1. 事前調査 調査対象 : 広島大附属高等学校 3 年生文型 化学選択クラス生徒 10 名 ( 男子 6 名, 女子 4 名 ) 調査時期 :2010 年 6 月 1 日 調査方法 : 質問紙法 質問項目は,PISA 2006での 生徒の学習状況調査 に関する質問紙をもとに作成 計 20 項目 5 件法により回答 さらに, 自由記述の質問項目も設ける
事前調査の結果 項目 化学の楽しさ (5 項目 ) ( 例 ) 化学を学ぶことに興味がある 平均値標準偏差 3.58 0.78 化学の価値 (10 項目 ) ( 例 ) 化学は, 自分の身の回りのことを理 358 3.58 079 0.79 解するのに役立つものだと思う 化学の学習の道具的動機付け (5 項目 ) ( 例 ) 将来勉強したい分野で必要になるので, 化学を学習することは重要だ 2.70 1.06
研究の方法 1. 事前調査 2. 授業実践 3. 事後調査 4. 結果の分析
2. 授業実践 実施時期 :2010 年 6 月 1 日 ~6 月 10 日 対象クラス :3 年生文型 化学選択クラス ( 男子 6 名, 女子 4 名, 計 10 名 ) 授業数 :5 時間 指導過程単元 : 高等学校化学学 Ⅰ 有機化合物官能基を含む化合物
2. 授業実践 指導過程 ( 一覧 ) 限 学習内容 授業に取り入れた日常生活と関連のある内容 1 事前調査アルコールの分類 物理的性質 1アルコールの疎水性 親水性ルの疎水性 2 アルコールの化学的性質 3 メタノール, エタノールアルデヒドの性質 4 ( 実験 ) アルコールとアルデヒド 6 銀鏡反応 ホルムアルデヒド, アセトアルデ 5 ヒド, ケトン, アセトン事後調査 2 呼気中のアルコール濃度の測定ル濃度の測定 3メタノールの有毒性 4アルコール発酵 5 バイオエタノールと環境問題 7ホルムアルデヒドの用途 8 アセトアルデヒド製法の功罪 9アセトンの用途 5 回の授業全体を通して日常生活と関連のある 5 回の授業全体を通して, 日常生活と関連のある内容を, 可能な限り授業に取り入れた
2. 授業実践 授業に取り入れた日常生活と関連のある内容 ( 例 ) 銀鏡反応 ( 生徒実験 ) ホルマリン 2~3mL ( 還元性をもつ ) 加熱 (50~60 ) アンモニア性ア性 (Ag 硝酸銀水溶液 ( 還元されやすい ) + ) Ag
2. 授業実践 授業に取り入れた日常生活と関連のある内容 ( 例 ) 呼気中のアルコール濃度の測定ル濃度の測定 エタノール 2,3 滴 ( 酸化されやすい ) 加熱 (50~60 ) Cr O 2-2 7 Cr 3+ ( 橙赤色 ) ( 還元されやすい ) ( 緑色 )
2. 授業実践 授業に取り入れた日常生活と関連のある内容 ( 例 ) バイオエタノール ( カーボンニュートラルな燃 光合成 6CO 2 +12H 2 O アルコール発酵 酵母菌 光 料 ) C 6 H 12 O 6 +6O 2 +6H 2 O C 6 H 12 O 6 2C 2 H 5 OH+2CO 2 グルコースエタノール
研究の方法 1. 事前調査 2. 授業実践 3. 事後調査 4. 結果の分析
3. 事後調査 調査対象 : 事前調査と同じ生徒 調査時期 :2010 年 6 月 10 日 調査方法 : 質問紙法 ( 質問項目は自由記述の質問項目を除 ( 質問項目は, 自由記述の質問項目を除いて事前調査と同じ )
4. 結果の分析 項目のカテゴリ化学の楽しさ化学の価値化学の学習の道具的動機付け 事前平均 ( 標準偏差 ) 3.58 (0.78) 事後平均 ( 標準偏差 ) 3.34 (1.08) 3.58 3.61 (0.79) (0.94) 2.70 2.86 (1.06) (0.89)
4. 結果の分析 化学の価値 の質問例 事前平均事後平均 ( 標準偏 ( 標準偏 差 ) 差 ) 2.60 3.10 化学の考え方の中には, 他の 人々とどう関わるかを知るのに役立つものがある (0.70) (0.74) バイオエタノール アセトアルデヒド製法の功罪 ( 水俣病の原因となった製法 ) 化学と社会との関わりを改めて意識した結果ではないか
4. 結果の分析 化学の学習の道具的動機付け の質問例将来勉強したい分野で必要になるので, 化学を学習することは重要だ 呼気中のアルコール濃度の測定 バイオエタノール アセトアルデヒド製法の功罪 事前平均 ( 標準偏 事後平均 ( 標準偏 差 ) 差 ) 180 1.80 250 2.50 (0.63) (0.85) 自分の志望先との関連を改めて意識した結果ではないか
4. 結果の分析 - 質的分析 - 質問紙自由記述 あなたは, 化学のどんなところに興味や関心がありますか 事前と事後で調査 銀鏡反応の実験 (4 時限目 ) のレポート この実験のどんなところに興味 関心を感じましたか これらを比較, 検討した
4. 結果の分析 - 質的分析 - A( 男子 ) 事前実験事後 普通に生活してい AgNO 3 にNH 3 を入れ現在使用しているるだけではわからた時に, 最初の数様々なモノなどは, ない細かい所まで知れる点 適の時は沈殿ができるのに, 更に入 化学の発展によって作り出されてい れるとそれが消え るところ 無色になる点 事前では, 物質の性質の解明に利するところがあるとした記述が, 事後では化学の有用性について記述しており, 化学に対する意 義や必要性の認識が高まったと読み取れる
4. 結果の分析 - 質的分析 - A( 男子 ) 10 項目で評価が事前より事後で高くなっている 大人になったら, 化学を様々な場面で役立てたい 化学は, 自分の身の回りのことを理解するのに役立つものだと思う 私は, 化学からたくさんのことを学んで就職に役立てたい 事前 事後 3 4 4 5 3 4 銀鏡反応 や アルデヒドなどの製法 用途 などの内容で, 化学の有用性をこの生徒が感じたためと考えられる
4. 結果の分析 - 質的分析 - B( 男子 ) 事前実験事後 紙面上ではなく, 試験や問題で見か 実際に試薬を使っ 実験を通してその ける実験で, 実際 て実験するところ 現象を楽しむことに尽きると思います にやってみるということに大きな意義を感じました 銀鏡反応がもう少しうまくいけばよかったんですが 記述の比較からは, 化学に対する意義や必要性の認識が高まったとは読み取れない
4. 結果の分析 - 質的分析 - B( 男子 ) 化学の考え方の中には, 他の人々とどう関わるかを知るのに役立つものがある 大人になったら, 化学を様々な場面で役立てたい 事前 事後 2 4 3 4 化学は, 私にとって身近なものである 3 4 バイオエタノールと環境問題 や アセトアルデヒド製法の功罪 などで, 社会生活との関連を意識させる内容を取り上げたことが影響していると思われる
考察 日常生活と関連のある内容を, 授業全体を通して, 可能な限り授業に取り入れた 銀鏡反応 呼気中のアルコール濃度の測定 化学の授業と日常生活との関連を再認識させる バイオエタノール アセトアルデヒドなどの製法と用途 化学の学習の必要性を再認識させる 今回の実践で生徒の化学に対する意義や必要性の認識を今回の実践で, 生徒の化学に対する意義や必要性の認識を, 元々ねらいとしていたところまでは, 高めることができなかった
今後の課題 ただ日常生活と関連のある内容を授業に取り入れるというだけではなく, 授業手法も, 指導効果を大きく左右する 協同学習などを取り入れた授業の創造
高等学校化学に対する生徒の興味 関心を高める指導法の研究 一日常生活の文脈を重視した指導法の考案 - 自然システム教育学専修 森田晋也