有機化学反応の基礎 (4) 脱離反応 (1) 脱離反応 (E1 と E2 反応 )--- ハロゲン化アルキルの例脱離生成物と安定性原子上のプロトン () と電気陰性度の大きな原子を含む脱離基が脱離し π 結合を形成する 脱離基 Xの結合している炭素 (α 位 ) とその隣の炭素 (β 位 ) からXが脱離するので β 脱離とも呼ばれる ザイツェフ則 ( セイチェフ則 ): 多置換アルケン ( 安定性が高い ) が主生成物となるとき 通常起こる反応である ホフマン則 : 置換数の少ないアルケンが主生成物となるとき かさ高い塩基 (t-ブトキシア二オン) の使用 環状化合物での脱離 アンモニウム塩の脱離など a b 2-bromobutane b a ザイツェフ ( 二置換 ) ホフマン ( 一置換 ) アルケンの置換数と安定性 ( アルケンプリントの再掲 ) 同様な構造であれば 置換数の大きなアルケンが安定である 無置換一置換二置換三置換四置換 不安定 安定 E1 反応 = 1 次反応 δ δ - 2 2 2-bromo-2-methylbutane 2 カルボカチオン中間体 b 2 2 ホフマン ( 副生成物 ) b 2 a a ザイツェフ ( 主生成物 ) エネルギー 活性化エネルギー 出発物 2 遷移状態 E 1 中間体 2 反応熱 遷移状態 E 2 反応の進行度 活性化エネルギー 生成物 45 E1 反応の特徴酸性または中性条件下で起こりやすい反応速度 :v = k[ 基質濃度 ] ( 基質濃度だけに依存する一次反応 ) カルボカチオン生成が律速段階だから活性化エネルギー E 1 > E 2 反応の起こりやすさ : 級 >2 級 >1 級 ( カルボカチオンの安定性 ) 中間体が存在する2 段階反応である主生成物 :
E2 反応 = 2 次反応 δ δ - a 2 2-bromobutane b 2 5 a b Na 2 5 trans-but-2-ene 2 5 アンチの関係 ( 脱離できる ) a Na 2 5 b アンチの関係にない b trans-but-2-ene 覚えておくべき塩基 手前を左に 120 回転 小塩基性大 Na Na 2 K( ) NaN 2 2 5 b a アンチ脱離 Na 2 5 a cis-but-2-ene エネルギー 出発物 2 遷移状態 2 活性化エネルギー 反応熱 反応の進行度 生成物 E2 反応の特徴塩基性条件下で起こりやすい反応速度 :v = k[ 基質濃度 ] [ 塩基試薬 ] (2つの濃度に依存する二次反応) 反応の起こりやすさ : 級 >2 級 >1 級 ( 反応する炭素の立体障害 )* 強塩基使用で1 級でも進行する中間体が存在しない1 段階反応である主生成物 : 脱離基はアンチの関係 ( ) 鎖状化合物はザイツェフ則に従うが * S N 2 反応が起こらないときに E2 反応が起こる ( エーテルの合成を再度 考える ) エーテルの合成 ( ウィリアムソンのエーテル合成 p.25) アルコキシドイオン (R - ) は 1 級ハロゲン化アルキルへの S N 2 反応で進行し エーテルを生成する I S N 2? S N 2 I E2 I 46
ザイツェフ則 vs ホフマン則 --- 環状化合物では要注意! E2 脱離はアンチ脱離なので シクロヘキサンのいす形では になる a a b Na2 5 ー > ザイツェフホフマン アンチの関係 b ( 主生成物 ) ( 副生成物 ) cis-1-bromo-2-methylcyclohexane Na 2 5 ー ホフマン アンチの関係 ( 主生成物 ) trans-1-bromo-2-methylcyclohexane ホフマン則で進行する反応 1) かさ高い塩基を用いるとホフマン則に従う (t-bu ーを塩基として使用したとき ) b a 立体反発大 2-bromobutane 立体反発小 K( ) 主に a を経由 2 ホフマン ( 主生成物 ) ザイツェフ ( 副生成物 ) 2) 4 級アンモニウム塩の反応 (p.401-402) アミンは過剰量のハロゲン化アルキルと反応して を生じ 塩基性条件下でホフマン脱離する 2 I N 2 ( 過剰量 ) 2 N( ) I Ag 2 2 ( 加熱 ) 2 N( ) 2 2 N( ) 2 4 級アンモニウム塩 アンモニウム塩の脱離がホフマン則に従うのは E1cb(E1 conjugate base) 反応を経るためと考えられている ( 注 ) マクマリー p.401 では E2 機構で 他では立体的要因で説明している場合もある b a 2 主に a を経由 N ホフマン ( 主生成物 ) N < 共役塩基 (conjugate base) N N ザイツェフ ( 副生成物 ) 47
脱離基と脱離生成物 ( ザイツェフ vs ホフマン ) X Na 2 X ザイツェフ ホフマン I 81 19 72 28 l 67 F 0 70 N( ) 2 98 (2) 脱離反応 (E1vs E2 反応 )--- アルコールの例 脱離基の善し悪し ( 求核置換反応の再掲 ) Nu δ S N 2 δ X Nu X 強酸の共役塩基は優れた脱離基である ( 弱塩基だから ) 反応性大 脱離基 (X ー ) S N 2 での反応性 N 2 F l I <1 1 200 10000 0000 の脱離基は つまり アルコールの E2 反応は進行しない 一方 E1 反応では 良い脱離基をもつので容易に進行する δ S N 1 or E1-2 共役酸は強酸 ( ) S N 1 E1 () 主生成物の意味を考える (S N vs E 反応 )(p.226) 実際の反応では S N 1 反応とE1 反応は競合して起こり いずれか一方のみ起こすのは困難である すなわち E1 反応の最も優れた脱離基は S N 1 反応の最も優れた脱離基でもあり 通常置換生成物と脱離生成物の混合物が得られる l 64%(S N 1) 6%(E1) 48
チェック問題! 問 1 次の化合物は 何級ハロゲン化物 あるいは何置換アルケンかを答えなさい 2 l I 問 2 以下の記述に関して 正しいものには を 誤っているものには をつけ正しく直しなさい (a) ハロゲン化アルキルを E2 反応の反応速度の速くなる順に並べると ハロゲン化メチル 第一級ハロゲン化物 第二級ハロゲン化物 第三級ハロゲン化物の順になる ( ) (b) E1 反応によるアルコールの酸による脱水は 第三級アルコールの方が第二級アルコールより起こりやすい ( ) (c) アルコールの脱水反応は 酸でも塩基でも容易に起こる ( ) (d) E1 反応では鎖状化合物でも環状化合物でも ザイツェフ則に従うアルケンを生じる ( ) (e) E2 反応では鎖状化合物でも環状化合物でも ザイツェフ則に従うアルケンを生じる ( ) (f) E2 反応では 触媒として一般に酸が用いられるアンチ脱離 ( トランス脱離 ) である ( ) (g) 反応 A と反応 B のうち 生成物の合成法として適切なのは反応 A である ( ) l Na 2 Na 2 反応 A l 反応 B (h) 右に示す化合物にエトキシドイオンや t-ブトキシドイオンを用いて脱離反応を行うと 主生成物として 2-methylbut-2-ene が得られる ( ) 2 (i) メトキシドイオンよりエトキシドイオンの方が強塩基なのは アルキル基が電子供与性基だからである ( ) (j) ナトリウムメトキシドはメタノールを Na と反応させることで得られる ( ) (k) 以下の化合物は第 1 級ハロゲン化合物であるが 強塩基を用いることで E2 機構によりアルケンを生じる ( ) 2 2 (l) 次の反応の主生成物は A である ( ) N() I Ag 2, 2 加熱 2 A B 49
問 以下の反応において trans ブタ 2 エンを合成するための最も適した出発物 A はどれか 1つ選べ 2 Na 出発物 A 2 l 2 l l 1 2 4 5 問 4 E2 脱離の生成物として 正しいものはどれか 1 つ選べ 2 Na 1 2 4 5 問 5 次の 1)~2) の反応において ハロゲン化アルキルは主にどの反応を受けるか 1 求電子付加 2 求核付加 求電子置換 4 求核置換 5 脱離 1) NaN 2 2) ( ) 問 6 次の E2 反応に関する記述のうち 正しいのはどれか 2つ選べ (101-102) 2 Na 2 A B 1 カルボカチオン中間体を経由する 2 脱離すると とがシン ( シンペリプラナー ) の関係となる立体配座から進行する 反応速度は 化合物 A の濃度及びエトキシドイオンの濃度の両者に比例する 4 出発物質として化合物 A のエナンチオマーを用いると 化合物 B の幾何異性体が主生成物として得られる 5 化合物 B は Saytzeff( ザイツェフ セイチェフ ) 則に従った生成物である 問 7 シクロヘキサンの誘導体 A, B 及びその E2 反応に関する生成物 と D に関する記述のうち 正しいのはどれか 2つ選べ (94-9) 1 A と B は エナンチオマーの関係にある 2 A の安定ないす形配座において l 基はアキシアルに配置する A をエタノール中で ナトリウムエトキシドを用いて E2 反応を行うと 主としてアルケン が得られ D はほとんど得られない 4 エタノール中での ナトリウムエトキシドによる E2 反応速度を比較すると A > B となる ( ) 2 ( ) 2 ( ) 2 ( ) 2 l l A B D 50
有機化学の基礎 ( 再掲 ) 反応の種類 1. 反応の種類 ( 全体的なまとめ ) a. 置換反応 入れ替わり R 入れ替わり R 求電子置換 R X Nu 求核置換 R Nu 1. 求電子置換反応 ( 芳香族化合物の置換反応はほとんどが該当する ) 2. 求核置換反応 (S N 反応 nucleophilic substitution reaction) a)s N 1 反応 反応速度は原料の濃度だけ (1 分子 ) に依存 級基質で起こり易いカルボカチオン中間体 ラセミ化 b) S N 2 反応 反応速度は原料と試薬の両方の濃度 (2 分子 ) に依存 1 級基質で起こり易い立体反転 b. 脱離反応 ( 隣同士の炭素から X が脱離する ) X E1 脱離反応 2 X B 2 X E2 脱離反応 2 1.E 反応 elimination reaction アルケンが生成 2. ザイツェフ則とホフマン則 ( アルケンが生成するとき ) 付加反応では全く関係しない ザイツェフ則は多置換アルケンが生成するという経験則 ( 反意語がホフマン則 ).E1 反応 反応速度は原料の濃度だけ (1 次反応 ) に依存 級基質で起こり易い 中性及び酸性条件下で進行 カルボカチオン中間体を経る ザイツェフ則に従う 4.E2 反応 反応速度は原料と試薬の両方の濃度 (2 次反応 ) に依存 塩基性条件下で進行 級基質で起こり易い ( 強塩基条件では 1 級基質でも進行する ) アンチ脱離 ザイツェフ則に従うが環状基質ではザイツェフ則に従わない場合があるかさ高い塩基 [( ) ] の使用や4 級アンモニウム塩の脱離反応はホフマン則に従う c. 付加反応 マルコフニコフ付加 2, RR( 過酸化物 ) 反マルコフニコフ付加 2 1. アルケンやアルキンへの求電子付加反応 ( マルコフニコフ則と反マルコフニコフ則 ) 通常はマルコフニコフ則に従う アルケンのヒドロホウ素化(B ) は反マルコフニコフ則に従う ( シン付加でもある ) 2. カルボニル化合物への求核付加反応 ( 今回以降の講義で ) d. 転位反応 ( バイヤービリガー転位 クライゼン転位など Advanced 項目 ) バイヤービリガー転位 クライゼン転位 (m-クロロ過安息香酸) 51
~ Memo ~ 2016 version reated by Yakukagaku 52