輸血検査におけるイレギュラー反応に関与するファクター Bio-Rad Laboratories IMMUNOHEMATOLOGY ( 一社 ) 高知県臨床検査技師会輸血研究班輸血勉強会 2017.9.14 患者 ( 被検者 ) 年齢 疾患 輸血歴 妊娠歴 移植歴 不規則抗体 赤血球自己抗体 薬剤 etc. イレギュラーな反応に遭遇した場合, さまざまな情報を入手し判断することによって問題解決が容易となります 輸血検査におけるイレギュラー反応 検体 コンタミ フィブリン析出 劣化 強度乳び 強度溶血 輸液混入 etc. 輸血検査におけるイレギュラー反応と臨床検査データとの関連 バイオ ラッドラボラトリーズ株式会社診断薬カスタマーサポート部 検査機器不具合 ( ソフト, ハード ) 検査技師ヒューマンエラー日常の点検 精度管理トレーニング, マニュアル遵守 2 試薬劣化 不良日常の精度管理 輸血検査におけるイレギュラー反応 : 解決のヒント 輸血検査におけるイレギュラー反応 考えられる原因 1,2,➂,4 Case 1 年齢輸血歴妊娠歴移植歴 疾患名 臨床検査データ 投与薬剤 原因の絞込み 1 or 2 追加確定検査 3 4 Case 1. Case 1. 5 ある患者の ABO, RhD 血液型検査を試験管法で実施したところ以下のような結果が得られました 可能性のある原因 4+ 0 4+ 0 0 0 室温 30 分後判定 0 0~w+ 5 10 分後判定 0 w+ 有用となる患者情報 抗 B 産生不十分 / 抗体価低下 年齢( 生後 1 年未満の乳児, 高齢者 ) 低ガンマグロブリン血症 疾患名, 既往歴 不規則抗 Bを保有するAB 亜型 造血幹細胞移植歴 ABO 異型造血幹細胞移植後 原因解明に有効な追加検査 有用な輸血検査以外の検査データ 抗 B 吸着解離試験 TP,Alb,A/G 比, 免疫グロブリン ( 特にIgM) 6 42 歳 ( 男性 ) 生化学検査データ TP Alb 6.1g/dL 4.4g/dL A/G 比 2.6 IgG IgA IgM 年齢 疾患名 Ⅰ 型糖尿病 加齢による抗 B 抗体価低下とは考えにくい? 556mg/dL 75mg/dL 25mg/dL 低ガンマグロブリンによる ABO ウラ検査弱反応と推測 糖尿病性神経障害に対する治療薬の副作用による免疫抑制と判断 亜型を否定するためには抗 B 吸着解離試験が必要
ダイアクローン抗 B を用いた吸着解離試験の例 7 1. 被検赤血球, 陽性対照赤血球 (P.C.), 陰性対照赤血球 (N.C.) 各約 1mL を生理食塩液で 3 回以上洗浄し, 最終上清を完全に除去します 陽性対照赤血球 O 型赤血球に B 型赤血球を約 1% の割合で混和した赤血球 陰性対照赤血球 O 型赤血球 2. 洗浄後の各赤血球に等量の抗 B 試薬を加え, 混和後約 4 で 2 時間以上インキュベートします ( 時々撹拌混和します ) 3. 900~1,000g(3,000~3,400 rpm) で遠心後, 上清の抗 B 試薬を除去します 4. あらかじめ冷蔵庫で冷やした生理食塩液で8 回以上洗浄し, 最終遠心後の上清を除去します 最終洗浄上清が,B 型赤血球と反応しないことを確認します ( 反応がみられる場合はさらに数回洗浄します ) ダイアクローン抗 B を用いた吸着解離試験の例 8 5. 赤血球と等量の生理食塩液 ( または約 6% ウシアルブミン加生食 ) を加え,56 で 7~8 分間インキュベートします ( 時々撹拌します ) 6. 試験管を恒温槽から取り出し, ペーパータオル等で試験管に付着した水滴を拭き取り, 直ちに 900~1,000g(3,000~3,400 rpm) で 1~2 分間遠心します 7. 赤血球が混入しないよう注意して遠心後の上清 ( 解離液 ) を別の試験管に採取し室温に戻します 8. 各赤血球からの解離液と A 1 型,B 型および O 型赤血球との反応を確認します 直後遠心の反応が弱い場合は室温または約 4 で 15 分間インキュベーション後に再度遠心判定します < 反応例 >(B 亜型の場合 ) Case 2. ある患者の ABO, RhD 血液型検査を試験管法で実施したところ以下のような反応結果が得られました Case 2 4+ 0 4+ 0 0 w+ 室温 30 分後判定 0 5 10 分後判定 0 s 可能性のある原因 有用となる患者情報 抗 B 産生不十分 / 抗体価低下 年齢 ( 生後 1 年未満の乳児, 高齢者 ) 低ガンマグロブリン血症 疾患名, 既往歴 不規則抗 B を保有する AB 亜型 有用となる輸血検査以外の検査データ 総蛋白 アルブミン A/G 比 免疫グロブリン ( 特に IgM) 9 10 Case 2. 年齢 58 歳 ( 男性 ) 疾患名胃癌 ( 胃全摘術後 ) Case 2. 投与薬剤 セファゾリン フェンタニル ハイカリック液 2 号 メタボリン etc. 11 生化学検査データ TP 1.7g/dL BUN 5.1mg/dL Alb 1.2g/dL Cre 0.24mg/dL LDH 48U/L CRP 0mg/dL AST 7.1U/L Glu 500mg/dL ALT 4.5u/L Na 35mEq/L T-Bil 0.25mg/dL K 21mEq/L T-cho 52.6mg/dL Cl 25mEq/L 異常低値異常高値 血液検査データ WBC 2120 /μl RBC 112 10 4 /μl Hb 3.3g/dL Ht 11.1 % PLT 4.8 10 4 /μl 12 生化学検査 血液検査データにおける異常低値および異常高値より採血検体への輸液の大量混入の可能性大 < ハイカリック液 2 号 ( 高カロリー輸液用基本液 ) 成分 (1 袋 700mL 中 )> ブドウ糖 120g K + 30mEq 酢酸カリウム 2.47g Mg 2+ 10mEq グルコン酸カルシウム水和物 1.91g Ca 2+ 8.5mEq 硫酸マグネシウム水和物 1.24g P 150mg リン酸二水素カリウム 0.66g Zn 10μmol 硫酸亜鉛水和物 3.0mg
Case 2. 検体の外観チェック 血漿の色調を確認したところ, 通常よりも色が薄く, どちらかというと無色に近い色調であった < 再提出検体 > 公益財団法人日本医療機能評価機構医療事故情報収集等事業医療安全情報 No.126 2017 年 5 月 検体 ( 血液 ) が希釈されている??? 輸液 採血の状況を確認 輸液中に輸液ライン近くの血管から採血されたことが判明し, 輸液混入の可能性が高いため, 再採血を依頼 血液型再検査 4+ 0 4+ 0 0 3+ 13 14 Case 3. ある患者の ABO, RhD 血液型検査を試験管法で実施したところ以下のような結果が得られました Case 3 可能性のある原因 4+ 0 4+ 0 3+ A 亜型 ( 不規則抗 A1 を保有する A2 型など ) 外来性の抗 A 冷式自己抗体 室温反応性の不規則同種抗体 ( 抗 M, 抗 Le a, 抗 Le b, 抗 P1 など ) 有用となる患者情報 疾患名 ( 寒冷凝集素症, マイコプラズマ肺炎 etc.), 輸血歴, 投与薬剤 原因解明に有効な追加検査 抗 A1 レクチンとの反応 不規則検査 ( 室温反応 ) 15 16 Case 3. 追加検査結果 < 抗 A1 レクチン > Case 3. 年齢 63 歳 ( 男性 ) 輸血歴 あり (3 年前 ) 患者赤血球 4+ 疾患名 陽性対照 (A1) 4+ 陽性対照 (O) 0 < 不規則抗体スクリーニング> 室温直後遠心 PEG-IAT Ⅰ 0 Ⅱ 0 Ⅲ 0 Di(a+) 0 自己対照 0 冷式自己抗体?? 17 反応温度低下で増強? A 亜型は否定 5 15 分 反応に変化なし 他の原因は?? 18 多発性骨髄腫 (IgGλ 型 ) 生化学検査データ TP Alb 10.5g/dL 2.6g/dL A/G 比 0.33 IgG IgA IgM 6,700mg/dL 69mg/dL 25mg/dL 血清蛋白分画 M 蛋白 ABO ウラ検査 A1 赤血球, 不規則抗体スクリーニングの陽性反応は赤血球凝集ではなく連銭形成?
Case 3. 19 血液検査データ WBC 4200 /μl Neutro 52.9% RBC 112 10 4 /μl Eosin 2.0% Hb 8.7 g/dl Baso 0.2% Ht 26.1 % Mono 6.0% PLT 8.2 10 4 /μl Lympho 38.9% Reti 0.6% 連銭形成 + 連銭形成 (rouleaux formation) 赤血球が平面同士で粘着 集合し 顕微鏡下でコインを積み重ねたように見える現象 患者検体の血清タンパク濃度の異常あるいは高分子血漿増量剤 (HES, デキストランなど ) は赤血球を集合 (aggregate) させ, あたかも凝集のように見えることがあります 連銭形成 凝集 < 参考 > 連銭形成が存在する場合の確認方法 20 生食置換法 (saline replacement) 通常の判定を行い, 浮遊赤血球の状態から連銭形成が疑われる場合, 引き続き以下の生食置換法が試験管法での最良の方法です 1. 血漿 ( 血漿 ) 混合物を再遠心します 2. セルボタンを残し血漿 ( 血漿 ) を除去します 3. 等量の生食 (2 滴 ) で血漿 ( 血漿 ) を置換します 4. セルボタンをゆるやかに再浮遊し, 凝集の有無を観察します 連銭形成の場合 生食浮遊により分散 消失 真の凝集の場合 生食浮遊でも分散せず残る 一部の症例では, 生食により血漿 ( 血清 ) を3 倍希釈するだけで連銭形成を防ぐことができる場合があります 患者の最近の病歴が有用となることがあります ( 例 : 多発性骨髄腫 ) 高ガンマグロブリン血症例における抗体検査の注意点 PEG を添加することによって免疫グロブリンが変性を起こしやすく, ゲル化したグロブリン (IgG) は遠心するとペースト状に試験管底に沈殿し, 洗浄不十分による抗グロブリン試薬の中和が起こり偽陰性を呈しやすい 高ガンマグロブリン血清 M 蛋白血清 PEG-IAT(PEG 4 滴 ) 46/143 (32.2%) 9/23 (39.1%) PEG-IAT(PEG 2 滴 ) 15/143 (10.5%) 4/23 (17.1%) Case 4 Albumin-IAT 0/143 (0%) 0/23 (0%) 渡部和也他 : ポリエチレングリコール間接抗グロブリン試験 (PEG-IAT) における高ガンマグロブリン血症による血球凝集 false negative 現象. 日本輸血学会雑誌,48:342-349,2002. LISS 添加 PEG 添加 遠心 21 原血漿 22 Case 4. Case 4. ある患者の ABO, RhD 血液型検査を試験管法で実施したところ以下のような結果が得られました 年齢 29 歳 ( 女性 ) A 抗原未発達による弱陽性反応は否定 0 4+ 0 0 3+ 疾患名 急性骨髄性白血病 (M2) (3 日前に入院 ) 可能性のある原因 A 亜型 (A2 型,A3 型など ) 後天的 A 抗原減弱 A 抗原未発達??? 有用となる輸血検査以外の検査データ血液検査データ WBC, RBC, PLT 血液像, 白血球分類 etc. 有用となる患者情報 疾患名 ( 急性骨髄性白血病など ) 年齢 原因解明に有効な追加検査 抗 A1 レクチンとの反応 抗 A 試薬に対する被凝集価測定 A 糖転移酵素活性測定 血液検査データ WBC 35400 /μl Blast 82% RBC 368 10 4 /μl Reti 10.0% Hb 9.9 g/dl PLT 1.4 10 4 /μl Ht 30.5 % 疾患 (AML) による後天性 A 抗原減弱の可能性大 23 24
Case 4. 追加検査結果 < 抗 A1レクチン> <A 糖転移酵素活性測定 > 患者赤血球 0 患者血漿 <1:1 陽性対照 (A1) 4+ 対照血漿 (A1) 1:64 陰性対照 (O) 0 < 抗 A 試薬に対する被凝集価 > 抗 A 試薬希釈倍数 1 2 4 8 16 32 64 128 256 512 1024 被凝集価 患者赤血球 w+ 0 0 0 0 0 0 0 0 2 対照 (A1 型赤血球 ) 4+ 4+ 4+ 4+ 3+ 3+ 3+ 2+ 2+ 2+ 1024 原因が特定できないため, 後日 ( 寛解導入後 ) 再検査 ( 参考 ) 疾患による後天的抗原減弱 消失 1957 年 von Loghem らは,1 年前には正常な A 型であった急性骨髄性白血病の患者の血液型が極めて弱い A 型に変化し, 原因が白血病によるものと考えられる症例を報告 その後, 同様な症例が数多く報告され, 日本でも多数の報告例あり 抗原減弱の程度 抗 A, 抗 B 試薬との反応が通常よりやや弱い症例 A 型赤血球とO 型赤血球の2 種類の赤血球が混在するような部分凝集を示す症例オモテ試験がO 型となり, 吸着解離試験でAまたはB 抗原が証明できる症例 etc. いずれの場合も抗原の減少または消失は一過性の現象であり寛解時には正常化 原因疾患 大部分は骨髄性白血病 ( 特に AML) CML,RAEB, 赤白血病などの報告例もあり 抗原減弱 消失の機序 血液型糖転移酵素活性が低下している例が多い 抗原の減少の程度と相関しない例もあり, 糖転移酵素活性が低下する機序も不明 骨髄 末梢血中の赤芽球や網赤血球が非常に増加している例が多く, 関連が示唆されている 赤血球膜上の受容体側の問題等複数の要因が関与している可能性が高い 25 26 消化器外科入院中の 63 歳女性. 本日の生化学 血液検査データ Case 5 TP Alb T-Bil AST ALT LDH BUN CRE Na K Cl 7.1 g/dl 4.2 g/dl 2.1 mg/dl 175 U/L 48 U/L 1012 U/L 18.8 mg/dl 0.8 mg/dl 137 meq/l 4.2 meq/l 103 meq/l WBC 9,200 /μl RBC 279 10 4 /μl Hb 8.4g/dL Ht 25.5 % PLT 19.2 10 4 /μl 前回値チェックにヒット 貧血 + 黄疸 + 溶血? 前回値は??? 27 28 最近の生化学 血液検査データ 患者情報 項目 単位 10/31 11/1 11/3 11/8 11/13 11/15 TP g/dl 7.5 7.3 7.4 7.3 7.2 7.1 Alb g/dl 4.8 4.6 4.7 4.5 4.4 4.3 T-Bil mg/dl 0.6 0.9 0.8 0.8 0.7 2.1 AST U/L 32 49 42 39 35 175 ALT U/L 21 38 36 33 30 39 LDH U/L 190 223 230 218 225 1012 WBC /μl 6900 9900 9600 9300 9100 9200 RBC 10 4 /μl 409 341 355 348 338 279 Hb g/dl 12.3 9.9 10.0 10.3 10.7 8.4 Ht % 37.2 29.6 30.1 31.2 32.4 25.5 PLT 10 4 /μl 20.8 19.5 20.0 19.8 19.1 19.2 手術直後 一部の検査値が2 日間で急変動 29 30 消化器外科入院中の 63 歳女性. 輸血歴あり, 妊娠歴あり (3 回 ) 臨床診断名 : 直腸癌 11 月 1 日 : 直腸切除術施行. 出血量 1,830mL 術中 ~ 術後 Ir-RBC-LR-2 3 バッグ輸血 10 月 28 日に実施した輸血前検査結果 血液型 :O 型 RhD 陽性 不規則抗体スクリーニング : 陰性 溶血性輸血副作用??? Ir-RBC-LR-2 4 バッグとの交差適合試験 : すべて陰性
31 本日提出された検体の血液型および不規則抗体スクリーニング検査の結果 ABO,RhD 血液型検査 抗 A 抗 B 抗 D Rh-ctl A1 cell B cell 0 0 4+ 0 4+ 4+ 不規則抗体スクリーニング PEG -IAT O 型 RhD 陽性 陽性 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Di(a+) 2+ 0 0 10/28 採血検体について再検査 PEG -IAT 陰性 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Di(a+) 0 0 0 0 直接抗グロブリン試験 多特異抗 IgG 抗 C3d w+ w+ 0 不規則抗体同定試験 抗 Jk a と同定 血漿および解離液中に輸血前には検出されなかった抗 Jk a を検出 弱陽性抗体解離同定試験 ( 酸解離 ) 抗 Jk a と同定 32 交差適合試験 (PEG-IAT) O 型 Ir-RBC-LR 11/15 採血検体 10/28 採血検体 1 2+ 0 2 0 ➂ 0 4 0 0 製剤 ( ドナー ) の Kidd 血液型 O 型 Ir-RBC-LR 抗 Jk a 抗 Jk b Kidd 血液型 1 2+ 0 Jk(a+b-) 2 2+ 2+ Jk(a+b+) ➂ 2+ 2+ Jk(a+b+) 4 0 2+ Jk(a-b+) 術中に輸血 手術翌日に輸血 未使用 結果的に Jk(a+) の RBC 3 バッグが輸血されていた 最終輸血日から 13 日後に発症した抗 Jk a による遅発性溶血性輸血副作用 遅発性溶血性輸血副作用 (Delayed Hemolytic Transfusion Reaction;DHTR ) 輸血されたときには存在しなかった抗体あるいは検出感度以下の弱い抗体が, 輸血された抗原陽性赤血球によって感作され, 輸血後 1~3 週間後に抗体が産生 増強し, 輸血された赤血球が破壊され黄疸等の溶血所見を認める副作用 抗体価 検出感度以下 抗原陽性血輸血 ( 一次免疫 ) 一次免疫応答 血漿中に抗体が存在していても検出不可 抗原陽性血輸血 ( 二次免疫 ) 遅発性溶血性輸血副作用 (DHTR) 二次免疫応答 < 原因抗体 > 大部分が Rh, Kidd, Duffy 血液型に対する抗体 IgG,C3 が感作した対応抗原陽性の輸血赤血球の溶血 < 症状 > 発熱, 時に悪寒, 低血圧, 暗赤色尿 ごくまれに DIC, 腎不全 < 検査所見 > 輸血後説明のつかない Ht, Hbの低下, 血清ビリルビン値,LDHの上昇時間 ( 日 ) 遅発性血清学的輸血副作用 (delayed serologic transfusion reaction;dstr) 明らかな溶血症状を認めず, 血清学的検査上の異常所見のみを認める副作用 DHTR, DSTR の原因となった不規則抗体 (Pineda らの報告 ) Pineda AA, Vamvakas EC, Gordon LD, Winters JL, Moore SB. Trends in the incidence of delayed hemolytic and delayed serologic transfusion reactions. Transfusion 1999;39:1097-1103. 1993 年 ~1998 年の 6 年間に PEG 間接抗グロブリン試験による不規則抗体検査を行い, 輸血後に DHTR, DSTR と診断された症例の原因抗体を報告 38 の抗体が DHTR に 156 の抗体が DSTR に関与 抗 Jk a と抗 Jk b がそれぞれ全体の 37%,27% を占めています 33 34 時間経過に伴う不規則抗体の特異性と抗体検出能 Schonewille らは,1978 年 ~1997 年のすべての赤血球抗体の記録について後ろ向き調査を実施抗体検出後に少なくとも 1 回抗体検査が行われた患者の記録を調査 480 名,593 の抗体を分析 < 抗体追跡期間の中央値 :10 ヵ月 (1~240 ヵ月 )> 137 名 (29%),153(26%) の抗体は時間経過に伴い検出不可となっていた Case 6 抗 Jk a の 35%, 抗 Jk b の 67% は時間経過に伴い検出不可となっていた Schonewille H, Haak HL, Annette M, van Zijl. RBC antibody persistence. Transfusion 2000;40:1127-1131. 35 36
Case 6. Case 6. 37 項目単位 11/15 TP g/dl 6.2 Alb g/dl 3.6 BUN mg/dl 34 Cre mg/dl 1.3 T-Bil mg/dl 1.4 AST U/L 56 ALT U/L 58 LDH U/L 212 WBC /μl 9400 RBC 10 4 /μl 296 Hb g/dl 8.9 Ht % 27.7 PLT 10 4 /μl 14.2 前回値チェックにヒット 11/13 7.6 4.4 17.1 0.8 0.6 18 12 180 7300 512 14.9 45.3 23.1 11/11 7.5 4.3 17.3 0.8 0.6 16 10 193 7100 509 14.7 44.6 22.3 患者情報 消化器内科 67 歳男性 早期大腸癌のため 3 日前に内視鏡下大腸癌切除術施行 2 日間で容態急変??? 検体間違い??? 38 11/15 提出検体,11/13 提出検体について ABO,RhD 血液型を確認 検体提出日抗 A 抗 B 抗 D Rh-C A1 血球 B 血球 11/15 4+ 0 4+ 0 0 2+ 11/13 4+ 0 4+ 0 0 3+ ウラ検査の反応強度が若干異なるものの, いずれも A 型 RhD 陽性 検体提出日抗 A 抗 B 抗 D Rh-C A1 血球 B 血球 11/11 4+ 0 4+ 0 0 3+ Rh 表現型検査 検体採血間違いは否定的??? 検体提出日抗 C 抗 c 抗 E 抗 e Rh-C Rh 表現型 11/15 4+ 0 0 4+ 0 DCCee (R1R1) 11/13 0 4+ 4+ 0 0 DccEE (R2R2) 11/11 0 4+ 4+ 0 0 DccEE (R2R2) 11/15 提出検体のみ結果が異なることから提出検体が誤っている可能性大 再提出検体で再検 前回値とほぼ同じ Case 6. 11/15 再提出検体について Rh 表現型を確認 検体提出日抗 C 抗 c 抗 E 抗 e Rh-C Rh 表現型 11/15 再 0 4+ 4+ 0 0 DccEE (R2R2) 再提出検体について生化学検査を再検 項目 単位 11/15 初回提出 11/15 再提出 TP g/dl 6.2L 7.5 11/13 7.6 Case 7 Alb g/dl 3.6L 4.4 4.4 BUN mg/dl 34 16.9 17.1 Cre mg/dl 1.3 0.8 0.8 T-Bil mg/dl 1.4 0.5 0.6 AST U/L 56 19 18 ALT U/L 58 14 12 LDH U/L 212 175 180 前回値とほぼ同じ検査値 39 40 Case 7. 患者情報 呼吸器外科入院中の 81 歳男性. 臨床診断名 : 胃癌 ( 再発 ) 既往歴 : 大腿骨骨折, 胃癌 (3 年前, 幽門側胃切除 ) 輸血歴 :1 回?( 大腿骨骨折時 ) 血液型 :B 型 RhD 陽性 11 月 14 日 : 残胃全摘術施行. 出血量 920mL 術中輸血なし 術後病棟にて B 型 RBC 1 バッグを輸血 輸血開始 3 時間後, 担当看護師が採尿バッグ中の尿が暗赤色であることに気づき, 直ちに輸血を中止するとともに主治医に連絡 検査室に患者血液および尿が提出された Case 7. 生化学 血液 尿検査データ TP 7.4 g/dl WBC 11200 /μl Alb 4.7 g/dl RBC 280 10 4 /μl T-Bil 0.9 mg/dl Hb 8.5g/dL AST 182 U/L Ht 25.7 % ALT 57 U/L PLT 23.2 10 4 /μl LDH 2340 U/L 尿蛋白 ± BUN 23.1 mg/dl 尿糖 - CRE 1.2 mg/dl 尿潜血 3+ Na 137 meq/l 尿沈渣 赤血球 - K 3.9 meq/l Cl 102 meq/l 提出された尿 強度溶血あり. 黄疸なし 溶血性輸血副作用??? 41 42
Case 7. 溶血性輸血副作用の種類と原因 輸血前検体の血液型, 不規則抗体スクリーニング, 交差試験の再検査結果 ABO,RhD 血液型検査 0 4+ 4+ 0 2+ 0 不規則抗体スクリーニング PEG -IAT 交差適合試験 (PEG-IAT) Ir-RBC-LR 0 直接抗グロブリン試験 B 型 RhD 陽性 陰性 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Di(a+) 0 0 0 0 陰性 多特異抗 IgG 抗 C3d 0 0 0 陰性 輸血前検査はすべて異常なし ABO 血液型を含む血液型不適合輸血による溶血は否定 免疫性 非免疫性 代表例発症機序 関与因子おもな徴候 症状 ABO 不適合輸血 ABO 以外の血液型不適合輸血 抗 A, 抗 B, 補体 抗 A, 抗 B 以外の不規則抗体赤血球自己抗体 発熱, 悪寒, ヘモグロビン尿血圧低下, 腰背部痛, 腎不全 DIC など 発熱, 悪寒, ヘモグロビン尿黄疸, 血圧低下など 過熱血輸血熱による赤血球膜損傷ヘモグロビン尿 過冷血輸血凍結解凍による物理的溶血ヘモグロビン尿 加圧輸血加圧による物理的溶血ヘモグロビン尿 輸血ルートへの薬剤の混入 人工心肺による溶血 細菌汚染血輸血 浸透圧差による物理的溶血 人工心肺による物理的溶血 エンドトキシン ヘモグロビン尿 ヘモグロビン尿 ヘモグロビン尿, 血圧低下悪心, 嘔吐, ショック 43 44 Case 6. 輸血用血液の加温 病棟より回収したRBCのバッグ内に残存している血液の確認外観 ( 色調 濁り等 ) の異常および遠心上清に溶血を認めず 溶血, 細菌繁殖等製剤自体の異常は否定的輸血実施状況, 副作用発生状況の確認 輸血ルート: 中心静脈 (CV). 同一ルートでの輸液はなし 輸血速度:40mL/h ( 血液加温器使用 ) 規定以下の流速 血尿発見時, バイタル ( 血圧, 脈拍, 体温 ) に著変を認めず 血液加温器による物理的溶血によるヘモグロビン尿と判断本来血液加温器は不要であった 45 46 低温 (2~6 ) で保存されている赤血球製剤を輸血する場合, 通常室温に戻すだけで加温する必要はありませんが, 低体温による不整脈等の副作用防止のため, 血液を体温付近まで加温してから輸血することが望ましい場合があります 加温が必要な場合 低体温になり不整脈が生じるリスクがある場合 急速大量輸血 中心静脈ルートからの大量輸血 交換輸血 高力価寒冷凝集素 ( 冷式自己抗体 ) を保有する患者 赤血球は 42 を超えると溶血が始まり 47 以上で赤血球の形態 機能異常が著しくなり, 輸血効果が低減するだけでなくヘモグロビン尿等の副作用を引き起こす恐れがあるため, 加温器を使用する場合は規定範囲内の流速で使用します < 血液加温器の 1 例 > 使用可能流量範囲 : 1~20mL/ 分 (60~1200mL/ 時 ) 温度設定 :36 ホットプレート表面最高温度 :42 各種臨床検査データの活用による輸血検査における問題解決 輸血検査におけるイレギュラー反応 生化学検査データ 免疫検査データ 輸血検査データ 一般検査データ 輸血検査 輸血医療に関する専門知識 技術を持った specialist 細菌検査データ 病理検査データ さまざまな臨床検査データを活用できる知識を持った generalist 血液検査データ 47