2017/8/26( 土 東京大学医科学研究所 MPN-JAPAN インタビュアー :MPN-JAPAN 代表瀧香織 専門家の先生 : 東京大学医科学研究所 ALA 先端医療学社会連携研究部門谷憲三朗先生 MPN(PV ET PMF) の遺伝子治療の開発の現状と今後の展望について 1 ALA

Similar documents
虎ノ門医学セミナー

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

白血病治療の最前線

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

白血病治療の最前線

PT51_p69_77.indd

Microsoft Word - all_ jp.docx

PowerPoint プレゼンテーション

がん登録実務について

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

白血病治療の最前線

報道発表資料 2007 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 ヒト白血病の再発は ゆっくり分裂する白血病幹細胞が原因 - 抗がん剤に抵抗性を示す白血病の新しい治療戦略にむけた第一歩 - ポイント 患者の急性骨髄性白血病を再現する 白血病ヒト化マウス を開発 白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性が

白血病とは 異常な血液細胞がふえ 正常な血液細胞の産生を妨げる病気です 血液のがん 白血病は 血液細胞のもとになる細胞が異常をきたして白血病細胞となり 無秩 序にふえてしまう病気で 血液のがん ともいわれています 白血病細胞が血液をつくる場所である骨髄の中でふえて 正常な血液細胞の産 生を抑えてしま

<4D F736F F F696E74202D2097D58FB08E8E8CB1838F815B834E F197D58FB E96D8816A66696E616C CF68A4A2E >


はじめに 日本で最初の造血幹細胞移植が行われたのは 1974 年ですが 199 年代に入ってから劇的にその件数が増え 近年では年間 5, 件を超える造血幹細胞移植が実施されるようになりました この治療法は 今日では 主に血液のがんである白血病やリンパ腫 あるいは再生不良性貧血などの根治療法としての役

BLF57E002C_ボシュリフ服薬日記_ indd

白血病治療の最前線

診療科 血液内科 ( 専門医取得コース ) 到達目標 血液悪性腫瘍 出血性疾患 凝固異常症の診断から治療管理を含めた血液疾患一般臨床を豊富に経験し 血液専門医取得を目指す 研修日数 週 4 日 6 ヶ月 ~12 ヶ月 期間定員対象評価実技診療知識 1 年若干名専門医取得前の医師業務内容やサマリの確認

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

< A815B B83578D E9197BF5F906697C38B40945C F92F18B9F91CC90A72E786C73>

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 中谷夏織 論文審査担当者 主査神奈木真理副査鍔田武志 東田修二 論文題目 Cord blood transplantation is associated with rapid B-cell neogenesis compared with BM transpl

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

再発小児 B 前駆細胞性急性リンパ性白血病におけるキメラ遺伝子の探索 ( この研究は 小児白血病リンパ腫研究グループ (JPLSG)ALL-B12 治療研究の付随研究として行われます ) 研究機関名及び研究責任者氏名 この研究が行われる研究機関と研究責任者は次に示す通りです 研究代表者眞田昌国立病院

白血病(2)急性白血病

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

白血病治療の最前線

白血病治療の最前線

臨床研究の概要および研究計画

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

<4D F736F F F696E74202D2095BD90AC E937891E63189F1836F E94C789EF8B BD90EC90E690B65F8CF68A4A97702E B93C



5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

untitled

1. ウイルス性肝炎とは ウイルス性肝炎とは 肝炎ウイルスに感染して 肝臓の細胞が壊れていく病気です ウイルスの中で特に肝臓に感染して肝臓の病気を起こすウイルスを肝炎ウイルスとよび 主な肝炎ウイルスには A 型 B 型 C 型 D 型 E 型の 5 種類があります これらのウイルスに感染すると肝細胞

中医協総 再生医療等製品の医療保険上の取扱いについて 再生医療等製品の保険適用に係る取扱いについては 平成 26 年 11 月 5 日の中医協総会において 以下のとおり了承されたところ < 平成 26 年 11 月 5 日中医協総 -2-1( 抜粋 )> 1. 保険適

ポイント 急性リンパ性白血病の免疫療法が更に進展! -CAR-T 細胞療法の安全性評価のための新システム開発と名大発の CAR-T 細胞療法の安全性評価 - 〇 CAR-T 細胞の安全性を評価する新たな方法として これまでの方法よりも短時間で正確に解 析ができる tagmentation-assis

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

革新的がん治療薬の実用化を目指した非臨床研究 ( 厚生労働科学研究 ) に採択 大学院医歯学総合研究科遺伝子治療 再生医学分野の小戝健一郎教授の 難治癌を標的治療できる完全オリジナルのウイルス遺伝子医薬の実用化のための前臨床研究 が 平成 24 年度の厚生労働科学研究費補助金 ( 難病 がん等の疾患

白血病治療の最前線

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

<4D F736F F D F73696B6B616E3991A28C8C8AB28DD DA C08C8C897493E089C82E646F63>

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

7. 脊髄腫瘍 : 専門とするがん : グループ指定により対応しているがん : 診療を実施していないがん 別紙 に入力したが反映されています 治療の実施 ( : 実施可 / : 実施不可 ) / 昨年の ( / ) 集学的治療 標準的治療の提供体制 : : グループ指定により対応 ( 地域がん診療病

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

Microsoft PowerPoint - press_11_3_18.pptx

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

始前に出生したお子さんについては できるだけ早く 1 回目の接種を開始できるように 指導をお願いします スムーズに定期接種を進めるために定期接種といっても 予防接種をスムーズに進めるためには 保護者の理解が不可欠です しかし B 型肝炎ワクチンの接種効果は一生を左右する重要なものですが 逆にすぐに効

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml DNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 JAK2/CALR. 外 N60 氷 採取容器について

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

1.若年性骨髄単球性白血病の新規原因遺伝子を発見 2.骨髄異形症候群の白血病化の原因遺伝子異常を発見

を作る 設計図 の量を測定します ですから PCR 値は CML 患者さんの体内に残っている白血病細胞の量と活動性の両方に関わるのです PCR は非常に微量の BCR-ABL 設計図 を検出することができるため 残存している病変を測定するものとよく言われます 4. PCR の検査は末梢血と骨髄のどち

Microsoft PowerPoint - 資料6-1_高橋委員(公開用修正).pptx

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

ん細胞の標的分子の遺伝子に高い頻度で変異が起きています その結果 標的分子の特定のアミノ酸が別のアミノ酸へと置き換わることで分子標的療法剤の標的分子への結合が阻害されて がん細胞が薬剤耐性を獲得します この病態を克服するためには 標的分子に遺伝子変異を持つモデル細胞を樹立して そのモデル細胞系を用い

免疫リンパ球療法とは はじめに あなたは免疫細胞 ( 以下免疫と言います ) の役割を知っていますか 免疫という言葉はよく耳にしますね では 身体で免疫は何をしているのでしょう? 免疫の大きな役割は 外から身体に侵入してくる病原菌や異物からあなたの身体を守る ことです あなたの身体には自分を守る 病

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号添加物 ( キャップ色等 ) 採取容器採取材料採取量測定材料ノ他材料 DNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 JAK2/CALR. 外 N60 氷 採取容器について その他造血器 **-**

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

日本内科学会雑誌第96巻第4号

<4D F736F F D B A814089FC92F982CC82A8926D82E782B95F E31328C8E5F5F E646F63>

資料2 ゲノム医療をめぐる現状と課題(確定版)

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

白血病治療の最前線

実践!輸血ポケットマニュアル

患者必携 がんになったら手にとるガイド 編著 国立がん研究センターがん対策情報センター 発行 学研メディカル秀潤社 患者必携 血液 リンパのがんの療養情報 白血病や悪性リンパ腫などの血液 リンパのがんでは 全身の病気として薬物療法 抗がん剤治療 による治療を中心に行います 治療の間は感染予防を 治療

遺伝子治療用ベクターの定義と適用範囲

妊よう性とは 妊よう性とは 妊娠する力 のことを意味します がん治療の影響によって妊よう性が失われたり 低下することがあります 妊よう性を残す方法として 生殖補助医療を用いた妊よう性温存方法があります 目次 はじめにがん治療と妊よう性温存治療抗がん剤治療に伴う卵巣機能低下について妊娠の可能性を残す方

医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

「             」  説明および同意書

臨床No208-cs4作成_.indd


貧血 

70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

IORRA32_P6_CS6.indd

B型肝炎ウイルスのキャリアで免疫抑制・化学療法を受ける患者さんへ

学会名 : 日本免疫不全症研究会 アンケート 1 1. アンケート 2 に回答する疾患名 (1) X 連鎖無 γ グロブリン血症 (2) 慢性肉芽腫症 2. 移行期医療に取り組むしくみあり :1 年に1 回の幹事会で 毎年 discussion している また 地区ごとの地方会で 内科の先生方にいか

臨床所見 ( 診断時 ) 診断された当時の所見や診断の根拠となった検査結果を記載症告示番号 30 免疫疾患 ( ) 年度小児慢性特定疾病医療意 書 新規申請用 病名 1 X 連鎖重症複合免疫不全症 受給者番号受診日年月日 受付種別 新規 1/2 ふりがな 氏名 (Alphabet) ( 変更があった

15髄増殖性腫瘍について.indd

<4D F736F F D FAC90EC816994AD955C8CE38F4390B394C F08BD682A082E8816A8F4390B38CE32E646F63>

ROCKY NOTE 血球貪食症候群 (130221) 完全に知識から抜けているので基本的なところを勉強しておく HPS(hemophagocytic syndrome) はリンパ球とマクロファージの過剰な活性

PowerPoint プレゼンテーション

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

がんの治療

TTP 治療ガイド ( 第二版 ) 作成厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業 血液凝固異常症等に関する研究班 ( 主任研究者村田満 ) 血栓性血小板減少性紫斑病 (thrombotic thrombocytopenic purpura:ttp) は 緊急に治療を必要とする致死的疾患である

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

配偶子凍結終了時 妊孕能温存施設より直接 妊孕能温存支援施設 ( がん治療施設 ) へ連絡がん治療担当医の先生へ妊孕能温存施設より妊孕能温存治療の終了報告 治療内容をご連絡します 次回がん治療の為の患者受診日が未定の場合は受診日を御指示下さい 原疾患治療期間中 妊孕能温存施設より患者の方々へ連絡 定

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

Microsoft Word _前立腺がん統計解析資料.docx

indd

上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)

ハイドレア とは ハイドレア は ほんたいせいけっしょうばんけっしょう 本態性血小板血症 (ET) 6 ページ参照 しんせいたけつしょう 真性多血症 ( 真性赤血球増加症 : PV) 8 ページ参照 まんせいこつずいせいはっけつびょう 慢性骨髄性白血病 (CML) 10 ページ参照 に対して処方され

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

参考 9 大量出血や急速出血に対する対処 2) 投与方法 (1) 使用血液 3) 使用上の注意 (1) 溶血の防止 参考 9 大量出血や急速出血に対する対処 参考 11 慢性貧血患者における代償反応 2) 投与方法 (1) 使用血液 3) 使用上の注意 (1) 溶血の防止 赤血球液 RBC 赤血球液

Transcription:

2017/8/26( 土 ) @ 東京大学医科学研究所 MPN-JAPAN インタビュアー :MPN-JAPAN 代表瀧香織 専門家の先生 : 東京大学医科学研究所 ALA 先端医療学社会連携研究部門谷憲三朗先生 MPN(PV ET PMF) の遺伝子治療の開発の現状と今後の展望について 1 ALA 先端医療学社会連携研究部門の ALA について教えてください ALA はアミノレブリン酸 (aminolevulinic acid) の省略です アミノレブリン酸というのは 血液中のヘモグロビン ( 血が赤いのはヘモグロビンの色です ) や薬物を代謝する酵素であるシトクロム P450 を構成するヘムとなる分子です 2 谷先生が研究している内容について教えてください 私は 2002 年まで東京大学医科学研究所の血液腫瘍内科 分子療法研究部で准教授として勤務させていただきました 私の上司は浅野茂隆先生で 当時東京大学医科学研究所附属病院長や日本血液学会理事長をなさっていらっしゃいました 浅野先生のご指導の下 造血幹細胞移植医療や遺伝子治療の基礎および臨床研究を行わせていただきました 2002 年に九州大学からお声をかけて頂き 最初は大分県別府市にある九州大学生体防御医学研究所附属病院 体質代謝内科教授 診療科教授として赴任しました 当初は消化器 血液 神経疾患患者さんの診療を 2 年間弱行わせて頂いたのち 福岡県福岡市東区にあります九州大学病院に移動し 先端分子細胞治療科に改組された診療科長として 新規分子や細胞を用いた免疫療法を悪性腫瘍の患者さんに対して行うための基礎および臨床研究 臨床試験を行わせていただきました その中の1つとして免疫細胞である樹状細胞ならびにリンパ球を専門の施設内で安全に培養し 他に治療法の無い悪性腫瘍患者さんに接種し それらが安全で一部の患者さんに対して抗腫瘍効果があることを明らかにさせていただきました ( この中のお二人は当時進行癌で苦しんでおられ 他に治療法がなかった患者様ですが その後 5 年以上お元気で過ごしておられます ) その後 平成 27 年から再び東京大学医科学研究所にお声をかけて頂き これまでの研究の継続をして先ず がんに対する新たな治療法としてのウイルス療法の開発を基礎研究レベルで実施させて頂いています 特に麻疹 ( はしか ) ウイルスや腸管ウイルス ( エンテロウイルス ) 特にコクサッキーウイルスに注目し ヒトでの臨床試験実施を目的に 現在研究を進めています 免疫療法に関してはネオ抗原と呼ばれる分子を用いた悪性腫瘍に対する新たな細胞療法臨床試験を計画中です また新たな研究として ALA を用いたがんや難病の診断法 治療法の開発研究を行っています 3 JAK2 を標的にした研究はされていますか? JAK2 研究は 私自身はやっていません 現在 私の敬愛する順天堂大学医学部 小松則夫教授ならびに私の前職 ( 九州大学病院 ) 時代の同僚でした宮崎大学医学部 下田和哉教授が日本のリーダーとして基礎および臨床での研究を進めて来られました

4 CRISPER というのを海外の MPN のカンファレンスで聞くようになりましたが CRISPER というのはど ういう技術でどういう治療ですか? 近年 ゲノム編集と呼ばれる遺伝子治療技術が開発されてきています これはゲノムの中の特異的な配列をヌクレアーゼと呼ばれる分子を利用して 思い通りに改変する技術です このヌクレアーゼとしての 1 つが CRISPR/Cas9( クリスパー キャスナイン ) と呼ばれる分子で ガイド RNA と Cas9 という 2 つの別々の分子で構成されています 骨髄増殖性腫瘍 (MPN) の原因遺伝子である JAK2V617F や 慢性骨髄性白血病原因遺伝子の BCR-ABL 遺伝子のように 正常であるべきヒトゲノム遺伝子に傷が入って異常遺伝子ができると がんになるわけです 従来はこのような異常遺伝子への直接的な遺伝子治療は不可能だったのですが 十数年前から異常となっている遺伝子を潰したり 直したりすることが可能になってきました テレビなどでも デザイナーベイビー のドラマが話題になったりしましたが 同様な技術を用いてがんの治療も可能になるかもしれません 例えば MPN の原因となる異常遺伝子 JAK2V617F の場合 JAK2 遺伝子の 617 番目のアミノ酸変異を起こす遺伝子部分を狙ってそこをパッチンと切り取ることができます 切り取った後は その遺伝子を壊してしまうか 正しい遺伝子に置き換えることが技術的に可能となっています まだ骨髄細胞におけるゲノム編集効率は低く 治療法にはなっていませんが 現在世界中の医学研究者が凌ぎを削って研究中ですので 近いうちに臨床への応用が十分に可能になってくるものと期待されています この技術が発展すると将来的にどのように応用されるかといいますと 患者さん自身の骨髄細胞を体外に取り出して 試験管内で異常 JAK2 遺伝子部分を潰したり 修復した後に患者さんにお戻しするという 完治を目指した自己骨髄細胞移植療法へとつながるものと期待されます 骨髄移植について 5 骨髄移植について教えてください 東京大学医科学研究所病院 ( 医科研病院 ) では 1982 年から白血病 リンパ腫に対する骨髄移植療法が開始されました 私は 1980 年から医科研病院で診療を行ってきましたので当時が懐かしく思い出されます その当時 関東 東日本では医科研病院は唯一の骨髄移植センターでした それをリードされたのが 浅野茂隆先生でした 同種骨髄移植の場合 最初は兄弟ドナーが主でしたので ドナーがおられず亡くなった方も多かったのですが 骨髄バンクが設立され 多くの患者さんへの骨髄移植が可能となりました そこに到るまでには ある患者さんのお父様が 自分の知っている会社の従業員 3000 人にお願いし 私費を投じて HLA 型 ( 移植抗原分子 ) を検査されました そこの関係者のおひとりが著名人の XXX 氏で 骨髄移植ドナーバンク事業推進への強力な推進役をはたしてくださいました しかし至急骨髄が必要になった場合に骨髄バンクでは対応できないことを含め ドナーの方への負担が少なく 患者さんが常時利用可能である臍帯血バンクがその後設立されました 当時は小児患者にだけ限られていた臍帯血移植を 医科研病院では成人患者でもできることを証明することができました その結果 臍帯血移植バンクはさらに充実され 現在日本で行われる幹細胞移植の約半分は臍帯血が使われています もちろん臍帯血移植にも利点と不利な点がありますが その点も次第に明らかになってきており 現在の造血細胞移植療法のドナーソースとして極めて重要な役割を現代医療では演じています 一方 ミニ移植という治療法もありますが これは移植前処置治療の強度を大幅に減らすことで治療毒性を軽減し 患者骨髄をゆるく空にした状態で移植をする方法です ( 通常の移植療法ではほぼ患者骨髄を空にして ドナー細胞が生着しやすい環境を作ります ) 従って患者さんにとって負担が少なく 高齢者(60 歳代 ) でも治療可能ですが 治療効果については人によって異なるのが現状です

6 ミニ移植ですと何歳くらいまで可能ですか? 一般的に 60 歳代までは可能とされています 7 骨髄移植はかなり体に負担がかかると思いますが 骨髄移植のメリット デメリットとしては何がありますか? メリットは 骨髄移植の場合は 長期に治療効果が得られる機会 つまり治癒する可能性が高いことです 実際 私たちの病院では もう30 年間以上治癒しておられる患者様が複数いらっしゃいます その理由は以下のように考えられています 急性白血病の患者さんが外来に来られて 末梢血標本中に白血病細胞を認めた場合 10 の 12 乗個の細胞が身体にあり そこで化学療法を行うことで次第に減少して 10 の 8 乗個くらいになった時に末梢血及び骨髄標本中にも白血病細胞が見当たらない完全寛解と呼ばれる状態になります その完全寛解の状態で 前処置として大量の化学療法や放射線療法を行い さらに白血病細胞数を減らし 骨髄移植が行われます その状態でも患者さんの体内には 10 の 5 乗個の白血病細胞が残っていると考えられています 移植前処置によって患者さんの末梢血中には白血球や血小板がほぼゼロになり 貧血も進み 感染症や出血を起こす危険性が極めて高くなりそのままでは生命が脅かされます 骨髄移植ではドナーさんの骨髄細胞を輸注することで 患者さんの骨髄はドナーさんの骨髄細胞に入れ替わり そこから生まれる白血球 血小板 赤血球により患者さんの生命は救われることになります それに加えて なぜその段階で患者さんの体内に残っているとされる 10 の 5 乗個の白血病細胞が暴れ出して再発に至らないかと言いますと ドナーさんの白血球 特に免疫を担当する リンパ球や NK 細胞が患者さんの白血病細胞を長期に抑え込んでいるからであろうと考えられています 8 骨髄線維症の場合 骨髄が線維化していると隙間がないから移植がうまくいきにくいということですか? 必ずしもそうとは言えないようです 中間から高リスク群の原発性骨髄線維症に対する同種造血幹細胞移植の成績は 全生存率が 30 63% と報告されています 生着不全は 10% 以下で 生着に伴い半数以上の患者さんで骨髄の線維化が消失すると報告されています 9 骨髄線維症の方はハイリスクになる前の中間リスク もっと前の低リスクの段階で骨髄移植を考慮した方がいいのでしょうか? 高リスクで移植が困難な場合には ruxolitinib( ルキソリチニブ : ジャカビ ) の投与が薦められています 造血幹細胞移植は副作用が発生しやすい治療法でもありますので 低リスク患者さんの場合 骨髄線維症にともなう症状がなければ経過観察が 症状があれば薬物療法が薦められています 10 年齢というよりも 線維化のレベルで移植を選択するかどうかを考えた方が あるいは 年齢が若いからというよりも 線維化レベルで考えた方がいいですか? そうではないようです 一般に原発性骨髄線維症の予後不良因子として Hb10g/dL 未満の貧血 発熱 体重減少などの持続する臨床症状 白血球数 末梢血に出現する芽球の割合 性別 ( 男性 ) 年齢などが挙げられています これらの因子をもとに予後予測分類というものが作られており その分類で中間 高リスク群に該当し 適切なドナーを有する若年者では 移植関連死亡 長期予後などを考慮して移植適応を検討する方針が取られています 11 骨髄線維症で 末梢血幹細胞移植と 骨髄移植以外で リスクが少なく完治している例はありますか? ミニ移植によって 5 年生存率が 67% であったとの期待が持てる結果も出ているようです

遺伝子治療について 12 PV の場合 JAK2 のアレルバーデン値が高い患者の続発性骨髄線維症に移行する確率が高いといわれてい ますが アレルバーデン値が高い患者に遺伝子治療は勧められますか? 確かに JAK2 のアレルバーデン値が 50% を超えますと 50% 以下の患者さんに比べて真性赤血球増加症や本態性血小板血症から骨髄線維症に移行するリスクは 10 倍になるとの報告がなされていますね しかし現在 アレルバーデンによってエビデンスに基づいた治療法選択はなされていません 先に述べたゲノム編集技術による遺伝子治療はまだ臨床的には確立していないので 現実的には造血幹細胞移植をどの段階で選択すべきかが今後の課題だと思います 13 以前アメリカのカンファレンスに参加したときに MPN に CRISPER の技術を使うためには 体内の造血幹細胞をすべて集めて編集しなければならないようにコメントされていたのですが 体内から造血幹細胞をすべて集めてくるような技術はすでに確立しているのですか? どうやって取ってくるのですか? 可能性としては 患者さんの骨髄細胞を通常の方法で採取し 体外で遺伝子編集 ( つまり CRISPR/Cas9 法等で JAK2V617F 変異を正常化させる ) を行い その間に患者さんに化学療法を行い その体内に残存する JAK2V617F 変異を有する造血幹 前駆細胞を除去後に 遺伝子編集済みの自家骨髄細胞を移植する ということだと思います Q. そうすると骨髄移植と似た処置が行われるということですね そうですね 患者さんの造血幹細胞を採取して 体外で遺伝子編集をして 患者さんに自家移植する治療になると思います 実際に 重症の造血疾患であるサラセミアや鎌状赤血球症などの患者さんを対象に 同様の方法を用いた臨床試験が海外で進行中です Q. 前処置を避けるためには 理論的には全部取ってこなければならないですか? 前処置を避けるためには 理想的にはそうですね でも それは現実的には不可能ですね Q. 将来的に見て そういう技術は開発されそうですか? 将来的には たとえば ゲノム編集ができるベクターが開発されれば 注射によって骨髄細胞がゲノム編集されて治ってしまうということも可能になるかもしれません 14 海外の MPN のニュースの中で 新抗原ワクチン (neoantigen vaccine) 免疫療法(immunotherapy) という言葉が出てくるのですが これらはどういうものですか? ネオアンチゲン ( 新抗原 ) というのは 例えば A さんが胃がんなった場合と B さんが胃がんになった場合では 同じ胃がん細胞の遺伝子検査を行っても 異なる遺伝子変異が見つかり 癌にも個性があることがわかってきました そしてこの体細胞変異部分はもともとの患者さんの免疫システムによっては非自己として認識される可能性の高い抗原分子 すなわち新抗原 になる可能性が高いことがわかってきました 現在 このネオアンチゲンを対象に 新たな免疫療法が可能ではないかと世界中のがん研究者が注目しています 例えば 進行して白血病になられた方がいらっしゃった場合に その治療法の一つとして ネオアンチゲンを対象とした 免疫療法が今後発展するかもしれませんね

Q. そうすると MPN も今後ありうるかもしれないということですか? たとえば MPN で急性白血病に転化された方ではありうると思います なお 完全に白血病化した場合に このような方法が可能となるかもしれませんが いわゆる前がん状態でどれくらい予防的な効果を発揮でき るかについては まだまだ今後の課題ですね 15 遺伝子治療の安全性はどうですか? 遺伝子治療は最初の臨床試験が始まってからすでに 30 年近くになります 悪性腫瘍や先天性疾患を対象に多くの臨床試験が実施されてきました その経過中に遺伝子導入用ウイルスベクター ( ベクターとは遺伝子の運び屋と考えてください ) が原因となり 副作用としての白血病発症や 多臓器不全発症などの問題が明らかとなりました その後遺伝子導入用ウイルスベクターの安全性は飛躍的に向上しました 現在欧米では遺伝子治療薬剤が承認され 重症免疫不全症や白血病に対する治療が可能となってきています ( 表 ) 現在基礎および臨床レベルで検討中のゲノム編集技術はまだその安全性は確立されておらず 狙った部分の遺伝子編集に加えて 他の似通った遺伝子配列部分に障害を及ぼすのでは無いかと懸念されています 今後の臨床研究によってこれらが明らかになってくると思います 16 現在遺伝子治療で 製薬会社と協力されていますか? 私たちは 造血幹細胞に対する遺伝子治療ではなくて がんに対する遺伝子治療に関しては製薬会社と協力して研究を進めさせて頂いています いわゆる 腫瘍溶解ウイルス療法と呼ばれる ウイルスを用いた抗がん治療法の臨床開発を行っています 17 それは 治験をされたりはしていますか? 現在非臨床試験を実施予定で 大型動物での安全性が確認されたら その次が治験段階となります 18 遺伝子治療の実用化への道のりを教えてください 先にも述べましたように一部の遺伝子治療は 欧米で承認され 患者さんの治療が進められています しかし日本ではまだ 承認された遺伝子治療薬はありません しかしおそらく近いうちに made in japan の遺伝子治療薬もできてくるものと期待しています 19 遺伝子治療を骨髄移植と比較したリスクについて教えてください CRISPER cas9 が 安全にできるようになった場合には 自家移植で済みますので 同種移植よりは 患者さんへの負担が少ないことが期待できます 20 CRISPER cas9 の技術が臨床に応用されるのは まだまだですか?10 年とか? 10 年以内には臨床での使用ができることを強く期待しています

( 参考文献 2 より引用 ) ( ありがとうございました ) ( 参考文献 ) 1) 小松則夫 真正赤血球増加症 p225-227 下田和哉 原発性骨髄線維症 p230-232 壇和夫 本態性血小板血症 p235-237 血液専門医テキスト( 改訂第 2 版 )2015 年発行 ( 南江堂 ) 2) 谷憲三朗 遺伝子治療の歴史と遺伝子治療の国内外の現状 遺伝子治療の新局面 医学のあゆみ 265:327-336 2018.( 医歯薬出版株式会社 )