Sleep Monitoring by Actigraphy in Short-Stay ICU Patients ~ アクティグラフィによる ICU 短期滞在患者の睡眠モニタリング ~ A. W. van der Kooi, MSc; J. H. M. Tulen, PhD; M. M. J. van Eijk, MD, PhD; A. W. de Weerd, MD, PhD; M. J. G. van Uitert, PhD; B. C. van Munster, MD, PhD; A. J. C. Slooter, MD, PhD Crit Care Nurs Q, Vol.36, No.2, pp.169-173, 2013 茨城県厚生連総合病院水戸協同病院救急部 集中治療部阿部智一先生監修
睡眠が中断することは ICU ではよくある しかし 睡眠が中断することは重篤な患者の予後を悪くする可能性がある 1) 従って ICU で患者の睡眠の質と量のモニタリングは重要となる 睡眠ポリグラフ ( 脳波や身体活動のモニター ) が睡眠の標準的モニタリング法であるが 手間がかかり一般的に使えない 看護師による評価や Actigraphy によって睡眠モニタリングで代用できないか 1)Parthasarathy S, Tobin MJ. Sleep in the intensive care unit. In:Hedenstierna G, Mancebo J, Brochard L &, PinskyMR, eds. Applied Physiology in Intensive Care Medicine. 2nd ed. Berlin, Germany: Springer; 2009
補足 :Actigraphy とは? アクティグラフィーは 人のrest/activityのサイクルをモニタリングする非侵襲的な方法 (Wikipedia) で 腕時計などの形をした小型高感度加速度センサー & ロガー (actigraph unit) で 小さな小さな動きであっても確実に検出できる特殊構造をしている
先行研究 1. 看護師の睡眠評価 1 2 つの研究は看護師の評価に対して肯定的 2),3) 5~15 分毎の状態観察を行っており 評価方法としては現実的ではない 2 その他の研究は看護師の睡眠評価に対して否定的 4),5) 重症患者の sleep loss and sleep disruption を過小評価していた 2. Actigraphy を用いた睡眠評価 Actigraphy は活動と休息のパターンを測定し 睡眠と覚醒を区別するためにも使われる ICU 長期滞在患者では正確性に欠けた 4),6) ICU-AW の発生と四肢の活動低下が原因となった可能性あり 2)Edwards GB, Schuring LM. Pilot study: validating staff nurses observations of sleep and wake states among critically ill patients, using polysomnography. Am J Crit Care. 1993;2(2):125-131. 12. 3)Fontaine DK. Measurement of nocturnal sleep patterns in trauma patients. Heart Lung. 1989;18(4):402-410. 4)Beecroft J, Ward M, Younes M, Crombach S, Smith O, Hanly P. Sleep monitoring in the intensive care unit: comparison of nurse assessment, actigraphy and polysomnography. Intensive Care Med. 2008;34(11):2076-2083. 5)Aurell J, Elmqvist D. Sleep in the surgical intensive care unit: continuous polygraphic recording of sleep in nine patients receiving postoperative care. Br Med J (Clin Res Ed). 1985;290(6474):1029-1032. 6) Ionita RN, Ling F, Hettinger K, Jubran A, Tobin MJ, Laghi F. Does actigraphy or nurse assessment accurately quantify sleep architecture in patients weaning from prolonged mechanical ventilation? Am J Respir Crit Care Med. 2010;181: A6704.
補足 ) *ICU-AW とは 重症患者において認められる筋肉の消耗と機能障害で もっともらしい原因が見当たらないもののことをいう 重篤な敗血症 多臓器障害または長時間機械的換気を有する患者のおよそ 46% は ICU ー AW を生じるとされる 現在 ICU ー AW の診断基準が示されている 参考文献 ) John P. Kress and Jesse B. Hall(2014):ICU-Acquired Weakness and Recovery from Critical Illness, N Engl J Med 2014; 370, p.1626-1635 Richard Appleton(2012):Intensive care unit-acquired weakness, Continuing Education in Anaesthesia Critical Care & Pain j, Volume 12, Number 2, p.62-66 Cristie M Lee and Eddy Fan(2012):ICU-acquired weakness: what is preventing itsrehabilitation in critically ill patients?, BMC Medicine 2012, 10:115(http://www.biomedcentral.com/1741-7015/10/115) ICU-AW(Intensive care unit - acquired weakness) * になりにくいと考えられる術後などの ICU 短期滞在患者ではどうか? 研究目的 : Actigraphy は ICU 短期滞在患者に対する睡眠の監視に信頼性が高い方法かどうかを明らかにする
方法 対象 : オランダの某大学医療センター ICU に入室した心胸部外科術後患者 除外基準 : Groningen Sleep Quality Scale で睡眠障害とされたもの アルコール乱用 慢性的なベンゾジアゼピン使用 中枢神経系合併症 ( 脳卒中 せん妄 てんかん発作 ) 睡眠測定 : 開始 : 術中鎮静剤停止後の 3 時間以内 終了 :ICU からの退室時 または手術翌日の 8:30 睡眠測定器具 : Actiwatch Actigraph(Cambridge Neurotechnology Ltd, UK) オキシメータのない側へ装着 睡眠ポリグラフ 頭に 8 つ 顔に 5 つ電極を装着 2 つの機器は同時に測定開始し 時間をシンクロさせた
データ分析 睡眠ポリグラフデータは ガイドライン (the American Academy of Sleep Medicine guidelines) に基づき数値化し30 秒毎に睡眠相を決定 Actigraphy データはパソコンソフトを用いて分析 the Actiwatch Sleep Analysis program (Version 1.16, Cambridge Neurotechnology Ltd, Cambridge, United Kingdom)
結果 CABG が 6 人 (86%) 僧帽弁および三尖弁修復 1 人 (14%) ( 表 1. 対象者の特徴 ) 65 歳が全対象者の中央値 IQR:62~72 歳 全対象者の 86% が男性で数としては 6 人 術中使用薬剤ミダゾラム 10mg(IQR5~10mg) Sufentanil 288μg(IQR:273~308μg) Pancuronium 8mg(IQR:8~9mg) 施行時間中央値は 206 分 IQR: 185~216 分 睡眠記録中の使用薬剤モルヒネ 16μg/kg/h (IQR8.6~18.8) Paracetamol 2.2mg/kg/h(IQR:2.0~2.7) ミダゾラム 3.6μg/kg/h(IQR:0~4.5mg) 心肺バイパス時間は 60 分 IQR: 53~80 分 人工呼吸器使用時間調査期間中の 35% が人工呼吸器を使用していた時間 IQR:28~54%
結果 ( 表 2. 睡眠ポリグラフの特徴 ) 総記録時間 974 分 (IQR:845~1080 分 ) 時間に換算すると約 16.2 時間 TST: 総睡眠時間 691 分 (IQR:650~789 分 ) 時間に換算すると 11.5 時間 睡眠効率 ( 全記録時間に占める全睡眠時間の %) 79%(IQR:62~81 分 ) Stage1 ノンレム睡眠 44 分 (IQR:34~73 分 ) Stage2 ノンレム睡眠 629 分 (IQR:558~676 分 ) 徐波ノンレム睡眠 0 分 (IQR:0~27 分 ) レム睡眠 3 分 (IQR:0~13 分 ) 覚醒回数 42 回 (IQR:21~61 回 ) 中途覚醒した時間量 193 分 (IQR:172~418 分 )
Actigraphy と睡眠ポリグラフの比較例 睡眠ポリグラフ ; Wake( 覚醒 ) N1~REM の睡眠 Stage Actigraphy; 黒 = 覚醒 白 = 睡眠 Actigraphy が活動をカウントした数 Wake: 覚醒 N1:nonrapid eye movement stage 1 N2:nonrapid eye movement stage 2 SWS:slow wave sleep REM:rapid eye movement sleep
結果 睡眠ポリグラフと Actigraphy との間の統計的に有意な相関を示した唯一のパラメータが覚醒の数であった (r = 0.76 P = 0.049) Actigraphy が検出する睡眠 ( 睡眠ポリグラフとの比較 ) 感度の中央値は 94%(IQR 91%-98%) 睡眠ポリグラフが 10 回 睡眠 (+) としている所を Actigraphy は約 9 回 睡眠 (+) と判断している 特異度の中央値は 19%( IQR 8%-24%) 睡眠ポリグラフが 10 回 睡眠 (-) としているところを Actigraphy では約 2 回 睡眠 (-) と判断している 残り 8 回は 睡眠 (+) と判断している可能性がある 青字は PP 作成者の補足説明です
考察 Actigraphy によって記録される覚醒の数と 睡眠ポリグラフによって記録される覚醒の数は相関した しかし Actigraphy は睡眠時間の量を過大評価した 睡眠ポリグラフが睡眠 (-) と判断しているところを actigraphy は睡眠 (+) と判断していることが多い Actigraphy は 動きがない時の覚醒と睡眠の判別が困難であったため すべての覚醒状態を判別できなかった ( 動きがない覚醒を睡眠と捉えた ) のだろう 鎮痛 鎮静薬は睡眠に影響した可能性があるが Actigraphy と睡眠ポリグラフとの比較には影響はないだろう 睡眠か覚醒かを区別することができるのみで睡眠ステージを判別できないから
限界 短期間の記録である Actigraphyの信頼性の増減に関係した可能性が考えられる 対象者が少ない しかし データの整合性はとれており 対象者を増やしても 結果に大きな違いは出ないのではないかと考える
CLINICAL IMPLICATIONS 手術後の ICU 短期滞在患者に対する睡眠モニタリングとして Actigraphy の信頼性は高くない Actigraphy は睡眠ポリグラフの代わりとしては使えない
私見 Actigraphy と睡眠ポリグラフに加えて 患者の熟睡感に対する主観評価を併用したらより精度が高まった可能性はないか Actigraphyは睡眠ポリグラフの代わりには使えないが 覚醒の回数という視点で何か使えそうなことはありそうに感じる 覚醒の回数と過活動型 低活動型せん妄の関係はどうか 覚醒の回数と患者の主観的な熟睡感の関係はどうか 茨城県厚生連総合病院水戸協同病院救急部 集中治療部阿部智一先生監修 覚醒の回数と看護師の認識する覚醒の関係はどうか オープンフロアであれば 覚醒の回数とその時のICUの環境との関係はどうか などなど重症疾患患者の睡眠パターンや質 量に関して どのくらいがいいとされるのかがよく分からない状況では 睡眠と覚醒が分かったところで活用はしにくい 睡眠評価はやっぱり難しい