原日本呼吸ケア リハビリテーション学会誌 2016 年第 26 巻第 1 号 101-107 医療法人康曜会プラーナクリニック看護科 ₁), 医療法人康曜会プラーナクリニック呼吸器内科 ₂), 群馬大学医 ₃) 学部附属病院呼吸器 アレルギー内科 中井晶子 1) 2) 青木康弘 松田智恵 1) 3) 鈴木雅文原史郎 2) 須賀達夫 2,3) 前野敏孝 3) 3) 倉林正彦 続の必要性に対す理解度の改善を認めた. また初回指導後 6 ヶ月 ~12ヶ月を経過すと, 吸入アドヒアランスには問題なくても, 気管支喘息理解度の低下が見られことから, 定期的な吸入指導の継続が必要と考えられた. 緖 言 要旨気管支喘息は, 気道炎症, 気道過敏性の亢進, 可逆性の気道閉塞を特徴とす慢性疾患であ. 気管支喘息の治療では気道炎症をコントロールすことが最も重要であり, 標準治療として吸入ステロイド薬が用いられ. しかし気管支 喘息患者の中には, 病態理解が不十分なために, 吸入ステロイド薬に対す誤った認識を持ち, 自己判断で吸入を中止してしまう患者が存在す. 当院では看護師が吸入指導を行うことにより, 患者の病態に対す理解度, 標準治療と治療継 Key words: 気管支喘息, 吸入ステロイド薬, 吸入指導, アドヒアランス 気管支喘息は気道の慢性炎症性疾患であり, 組織学的には好酸球, リンパ球, マスト細胞などの細胞浸潤と気道上皮の剥離を特徴とす. 臨床的には繰り返し起こ咳嗽, 喘鳴, 呼吸困難が, また生理学的には可逆性の気道狭窄と気道過敏性の亢進が特徴的で, 気道が過敏なほど喘息症状が著しい傾向にあ ₁). 気管支喘息の治療で最も重要なことは気道炎症のコントロールであり, 標準治療には吸入ステロイド薬が用いられ. 吸入ステロイド薬は, 投与量も少なく安全に使用すことができ. その目的は,1 喘息症状の軽減,2 生活の質 (QOL) および呼吸機能を改善,3 気道過敏性の軽 減,4 気道炎症の抑制,5 急性増悪の回数および強度の 改善,6 長期の吸入ステロイド薬の維持量の減少,7 喘 息にかか医療費の節減,8 気道壁のリモデリングの抑制, そして9 喘息死の減少 ₂), とされてい. しかし患者の中には, 気管支喘息の病態理解が不十分であため, 吸入ステロイド薬に対す誤った認識を持ち, 自己判断で吸入治療を中止してしまう患者が存在す. そこで看護師によ吸入指導が, 気管支喘息や吸入療法に対す患者の理解を高め, アドヒアランスの向上に寄与すかを検討した. 対象と方法平成 ₂₅ 年 ₁ 月 ~ 平成 ₂₅ 年 ₇ 月に気管支喘息と診断され アンケート 1 1 2 アンケート 2 3 アンケート 3 4 1 2 3 4 初診再診 (2 4 週間後 ) 再診 (4 8 週間後 ) 再診 (6 12 ヶ月後 ) 図 1 吸入指導プログラム 2016 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation 101
1 回目アンケート 気管支喘息について 皆さんへどのように説明 検査 治療を提案すればよいか 今後の参考として 役立てて参ります ご協力のほど どうぞよろしくお願い致します そう思うものに全部に ( ) をお願い致します 1. 今まで ( 以前は ) 気管支喘息についてどのように思っていましたか? ( ) 風邪のことだと思っていた ( ) 発作だけの ( 急性の ) 病気だと思っていた ( ) 持続す ( 慢性の ) 病気だと思っていた ( ) よく知らなかった 2. 今回の説明で気管支喘息について どのように理解しましたか? ( ) 風邪のことだとわかった ( ) 発作だけの ( 急性の ) 病気だとわかった ( ) 持続す ( 慢性の ) 病気だとわかった 3. 気管支喘息の治療薬を どのように理解しましたか? ( ) 内服治療が重要であ ( ) ステロイド ( 気管支の炎症を治す ) の吸入が重要であ ( ) 気管支拡張薬 ( 気管支を拡げ ) の吸入が重要であ 4. 気管支喘息治療薬は どのように使えばよいと理解しましたか? ( ) 症状が無くなっても 完治となまで続け事が大切であ ( ) 症状がなくなれば終了であ 5. 生活の上での留意点 ( ) たばこの影響は非常に大きい ( ) 気管支喘息はしっかり治療をすと完治すことがあ 6. 現在 たばこを吸ってい方にお聞きします ( ) 禁煙すつもりは無い ( ) いつかは禁煙したいと思う ( ) 近いうちに禁煙すつもり ( ) 今回 禁煙治療を受けてみたいご協力ありがとうございました 2 回目および 3 回目アンケート 1. 気管支喘息について どのように理解していますか? ( ) 風邪と同じだと思ってい ( ) 発作だけの ( 急性の ) 病気だと思ってい ( ) 持続す ( 慢性の ) 病気だと思ってい 2. 気管支喘息の治療を どのように理解していますか? ( ) 内服治療が重要であ ( ) ステロイド ( 気管支の炎症を治す ) の吸入が重要であ ( ) 気管支拡張薬 ( 気管支を拡げ ) の吸入が重要であ 3. 気管支喘息治療は どのように使えばよいと理解していますか? ( ) 症状が無くなっても完治すまで続け事が大切であ ( ) 症状が無くなれば終了であ 4. 生活の上での留意点 ( ) たばこの影響は非常に大きい ( ) 気管支喘息はしっかり治療すと完治すことがあ 5. 今回 当院看護師からの吸入アドバイスについて 満足度を教えてください 不満 やや不満 普通 やや良い 良い 1 2 3 4 5 6. 吸入薬について 効果や使い方の満足度と 不満点を教えてください < 吸入薬の効果 > 不満 やや不満 普通 やや良い 良い 1 2 3 4 5 < 吸入機器の使い方 > 不満 やや不満 普通 やや良い 良い 1 2 3 4 5 7. 現在 たばこを吸ってい方にお聞きします ( ) 禁煙すつもりは無い ( ) いつかは禁煙したい ( ) 近いうちに禁煙すつもり ( ) 今回で タバコをやめた ( ) 今回 禁煙治療を受けてみたい ご協力ありがとうございました 図 2 1 アンケート内容 102 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
吸入指導 1 回目 2 回目月月日 ( 日 ( ) ) : : ID 氏名歳後に行う事 事前チェックリスト 吸入療法サポートチームからのおしらせ の概略を説明す 気管支喘息アンケート をお願いす ACT ( ) 点 事前情報をチェックす 医師によ初診時の気管支喘息重症度分類 間欠型 軽症持続型 中等症持続型 重症持続型 気管支喘息の理解 好酸球 ( アレルギー ) によ慢性的な気管支の炎症と気道閉塞があこと 正常 症状の無い気道閉塞 症状のあ気道閉塞 発作状態の気道閉塞があこと 継続した治療が喘息を治すこと 放置すと喘息は徐々に悪化していくこと 禁煙が重要であこと 受動喫煙も避けべきであこと 吸入ステロイドの理解 吸入ステロイドが気管支喘息の第一選択であこと 吸入ステロイドは治療 予防薬で 発作止め ( 気管支拡張薬 ) ではないこと 吸入ステロイドは安全であこと 治療の目標の理解 咳 痰 喘鳴 息切れ 夜間覚醒 ( 咳や喘鳴 ) 睡眠障害などがなくなこと 喘息の寛解 ( 薬の減量や中止は可能であこと ただしピークフローが必要のことがあ ) 感覚によ判断をしないほうがよいこと ( 呼吸機能検査や ACT を用いことが必要 ) 吸入デバイスの理解 アドエアディスカス フルタイドディスカス シムビコート パルミコート アドエアエアゾール その他 ( ) 担当看護師次回の予定月日 ( ) : 吸入指導 3 回目月日 ( ) : 月日 ( ) : ID 氏名 歳 事前チェックリスト ACT ( ) 点 呼吸機能検査の再検査が行われていか確認 事前情報をチェックす 呼吸機能検査 ( 治療後データ確認 ) 医師によ初診時の気管支喘息重症度分類 %FEV1.0 % 軽症間欠型 %PEF % 軽症持続型 フローボリューム 中等症持続型 %V50 % 重症持続型 %V25 % 気管支喘息の理解 好酸球 ( アレルギー ) によ慢性的な気管支の炎症と気道閉塞があこと 正常 症状の無い気道閉塞 症状のあ気道閉塞 発作状態の気道閉塞があこと 継続した治療が喘息を治すこと 放置すと喘息は徐々に悪化していくこと 禁煙が重要であこと 受動喫煙も避けべきであこと 吸入ステロイドの理解 吸入ステロイドが気管支喘息の第一選択であこと 吸入ステロイドは治療 予防薬で 発作止め ( 気管支拡張薬 ) ではないこと 吸入ステロイドは安全であこと 治療の目標の理解 咳 痰 喘鳴 息切れ 夜間覚醒 ( 咳や喘鳴 ) 睡眠障害などがなくなこと 喘息の寛解 ( 薬の減量や中止は可能であこと ただしピークフローが必要のことがあ ) 感覚によ判断をしないほうがよいこと ( 呼吸機能検査や ACT を用いことが必要 ) 吸入デバイスの理解 アドエアディスカス フルタイドディスカス シムビコート パルミコート アドエアエアゾール その他 ( ) ピークフロー該当者の説明 喘息を繰り返してい 妊婦または妊娠希望 喘息を治しながら 薬を安全に減らしてみたい 自分の気管支喘息のことを詳しく知りたい 担当看護師特に問題が無ければ 次回から医師ののみになります 図 2 2 吸入指導チェックシート Vol.26 No.1 2016 103
吸入療法が開始となった症例のうち, 看護師によ吸入指導を行った₄₃ 例を対象に, アンケートを行った. 図 ₁ に看護師によ吸入指導プログラムを示す. 初診で医師のを受けた後に ₁ 回目のアンケートを行い, その後看護師によ吸入指導を約 ₃₀ 分かけて行った. 指導時には ACT を使用し, 症状変化の確認を行った. 再診時には, まず看護師によ吸入指導を₃₀ 分程度行い, 続いて ₂ 回目のアンケートを行った後に, 医師のを受けた. なお, 治療経過が良好で症状が安定してい場合は, 治療ステップダウンを考慮し, ₃ 回目の受診時にピークフロメーターを用いた気管支喘息の管理方法を指導した. そして初診から ₆ ~₁₂ヶ月経過した時点で ₃ 回目のアンケートを行い, 引き続き吸入指導を行った. 図 ₂ - ₁ にアンケートの内容を示す. これには 疾患の理解 薬剤と治療の理解 日常生活での留意点の理解 などを含めた. ₂ 回目および ₃ 回目に行うアンケートには, 治療についての満足度 の項目を追加した. 図 ₂ - ₂ に吸入指導のチェックシートを示す. 初回の指導はアンケートの結果を基に行い, 患者が疾患や薬剤, 治療についてどこまで理解できたかを確認した. 具体的には, 気管支喘息の発症機序や治療方針, 継続治療の必要性, 日常生活の注意点などをそれぞれ関連付けて解説し, 患者にみられ症状がどのような状態を意味すのかを説明した. また気管支の模型やパンフレットを使用し, 視覚からの情報も取り入れ, 患者が理解しやすいような工夫をした. 吸入デバイスを用いた指導は看護師が実際に使用法を示し, その後患者に実践させた. ₂ 回目の指導時には, 気管支喘息の説明を繰り返すことによってさらな理解を促し, 患者にデバイスを実際に操作させて正しく使用できていかどうかを確認した. ₆ ~ ₁₂ヶ月後の指導では, 患者が気管支喘息についてどの程度記憶していかを確認し, 知識が低下してい部分を補足した. さらに全患者を対象にデバイスチェックを行い, 正しく吸入出来ていかを再度確認した. アンケート結果をもとに, 疾患の理解度, 再診率, 吸入指導の満足度を解析した. なお, 患者は初回受診後に ₂ 週間 ~ ₄ 週間後の再診の指示を受けたが, 指示通り受診した場合を継続, 受診をしなかった場合を脱落と判定した. なお, 測定値は平均値 ± 標準偏差で表示した. 倫理的配慮全ての患者に本研究の主旨および目的に関す説明を行い, 患者の同意を得た. 結 果 患者背景を治療継続群と脱落群に分けて示した ( 表 ₁ ). 吸入指導を行った ₄₃ 名のうち₃₇ 名が治療継続となった ( 率 ₈₆%). 継続群と脱落群では, 年齢や呼吸機能検査結果などの患者背景に明らかな差を認めなかったが, ACT は脱落群で低い傾向だった. 治療継続群では, 患者の申告に基づく吸入アドヒアランスは₉₃.₄%, 満足度は ₅ 点満点中 ₄.₉ 点であった. 初回および ₂ 回目のアンケートの結果から, 吸入指導前後での各項目の理解度の変化を解析した ( 図 ₃ ). 病態 原因の理解度については, 気管支喘息が慢性疾患であことが分かった と答えた患者が₈₈.₄% から₉₄.₆% に増加した. 標準治療の理解度では重複回答を許したが, 少なくとも 吸入ステロイド薬が重要 と答えた患者の割合が₆₀.₅% から₈₆.₅% に増加し, 気管支拡張薬が重要 と答えた患者が₆₉.₈% から₅₉.₅% へと減少した ( 重複回答を有りとした ). 治療継続の理解度では, 治療継続が重要 と答えた患者が ₈₁.₄% から₉₇.₃% に増加した. 脱落群での理解度についても同様の解析を行ったが, 症例数が少なく, 治療継続群と明らかな差を認めなかった. ただし, 標準治療の理解度において ₆ 人中 ₄ 人が 気管支拡張薬が重要 と答えていた. 次に ₂ 回目と ₃ 回目のアンケートを比較した ( 表 ₂ ). 長期的な吸入アドヒアランスは₈₉.₇% から₉₀.₀% と保た 88.4% 風邪や感冒 94.6% 発作性 急性の疾患 指導前 表 1 患者背景 初診時継続群脱落群 患者数 ₄₃ ₃₇ ₆ 年齢 (y) ₅₁.₃±₁₇.₁ ₅₁.₅±₁₅.₈ ₄₉.₅±₂₅.₇ %FEV₁.₀ ₉₃.₄±₂₄.₁ ₉₂.₂±₂₃.₄ ₉₈.₈±₂₈.₁ %PEF ₆₄.₅±₁₈.₄ ₆₃.₈±₁₇.₂ ₆₇.₈±₂₄.₆ 吸入アドヒアランス ( 自己申告使用率 ) ₉₃.₄±₁₄.₀ 吸入指導満足度 ( ₅ 点満点 ) ₄.₉±₀.₄ 慢性の疾患 よく分からない 図 3 1 病態 / 疾患の理解度 ( 再診群 ) 指導後 104 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
60.5% 86.5% 指導前 内服治療 吸入ステロイド気管支拡張薬よく分からない 図 3 2 標準治療の理解度 ( 再診群 ) 指導後 指導前 治療継続が重要 81.4% 97.3% 症状が無くなれば終了よく分からない 図 3 3 治療継続の理解度 ( 再診群 ) 指導後 病態 / 疾患の理解度 風邪や感冒発作性 急性の疾患慢性の疾患よく分からない 標準治療の理解度 内服治療吸入ステロイド気管支拡張薬よく分からない 治療継続の理解度 治療継続が重要症状が無くなれば終了よく分からない 図 3 4 脱落群の理解度 ( 6 例 ) 表 2 患者背景 表 3 1 気管支喘息の病態理解 初診時再診時半年 ~ ₁ 年後 吸入指導後 半年 ~ ₁ 年後 患者数 ₂₃ ₂₂ ₂₃ 年齢 (y) ₅₁.₉±₁₈.₉ %FEV₁.₀(%) ₈₇.₁±₂₂.₁ ₉₆.₉±₂₁.₀ * %PEF(%) ₆₂.₁±₁₈.₇ ₇₄.₄±₁₇.₈ * 吸入アドヒアランス ( 自己申告によ ) ₈₉.₇±₁₂.₆ ₉₀.₀±₁₇.₀ 吸入指導満足度 ( ₅ 点満点 ) ₄.₇±₀.₆ ₄.₉±₀.₂ 風邪と同じ ₀ % ₀ % 発作の疾患 ₄.₅% ₂₁.₇% 慢性の疾患 ₈₆.₃% ₉₁.₃% 分からない ₁₃.₆% ₄.₃% 複数回答あり 表 3-2 標準治療の理解 *: アンケート時に測定者少数のため省略 吸入指導後 半年 ~ ₁ 年後 れており, 看護師によ吸入指導の患者満足度は₄.₉ 点 ( ₅ 点満点中 ) と高値であった. しかしながら気管支喘息の病態理解については, 気管支喘息は発作だけの病気であ と答えた患者が ₄.₅% から₂₁.₇% に増えていた ( 表 ₃ - ₁ ). 標準治療の理解については, 吸入ステロイドが重要 と答えた患者が₈₁.₈% から₇₃.₉% へ ( 表 ₃ - ₂ ), 治療継続性の理解は 炎症が消失すまで治療継続が必要 と答えた患者が₉₀.₉% から₈₂.₆% へと減っていた 内服 ₄.₅% ₄.₃% ステロイド吸入 ₈₁.₈% ₇₃.₉% 気管支拡張薬吸入 ₅₉.₁% ₅₂.₂% 分からない ₁₃.₆% ₁₃.₀% 複数回答あり ( 表 ₃ - ₃ ). ₂ 回目および ₃ 回目の指導時に, 全ての患者にデバイ スチェックを行ったところ, 数名誤った使用方法を行っ ていた患者がみられたため, 全員に再指導を行った. Vol.26 No.1 2016 105
考 表 3 3 治療継続性の理解 察 吸入指導後 半年 ~ ₁ 年後 症状消失後も継続 ₉₀.₉% 炎症が消失すまで ₈₂.₆% 気管支が拡張すまで ₃₉.₁% 症状消失で終了 ₀.₀% ₀.₀% 分からない ₉.₁% ₄.₃% 複数回答あり 従来, 気管支喘息患者に対す教育および指導は, 医師が限られた外来診療時間内に病態の解説, 治療法と治療継続の必要性などを説明していた. そのため, 医師が患者一人一人の理解度を充分に把握すことは困難であった. 駒瀬らによれば, 患者は, 医師に対してはあまり治療に対す不満や服薬を守っていないことを言わない ₃) という傾向があ. そのため今回, 看護師が吸入指導という形で積極的に治療に関わことによって, 喘息患者の治療経過にどのような効果を与えられかを検討した. 初回吸入指導時には, 後に行ったアンケート内容から, 患者が何を理解し, 何を理解していないのかを確認すことに重点を置いた. ₂ 回目の指導は ₁ 回目と同じ看護師が行うよう配慮した. 初回指導時に理解したと反応した患者に対しても, 初回と同じ内容を繰り返しゆっくりと時間をかけて説明した. また患者一人一人で理解のペースが異なため, どこまで理解できたかをその都度確認し, 振り返りながら説明した. このように看護師が時間を掛けて指導すことにより, 患者の思いを傾聴し, それに沿った治療方法を提案すことが可能になった. 再診率やアドヒアランス, 満足度の上昇は, 症状や呼吸機能が改善し日常生活が楽になったことが影響した可能性はあものの, 看護師によ吸入指導が患者の気管支喘息についての知識や理解度を深め, 治療の必要性を充分に認識させたことが影響したと考えられ. 喘息予防 管理ハンドブックは, 患者の治療アドヒアランスを高め条件として, 喘息は常に治療を必要とす疾患であことを患者が認識すこと, 処方された治療薬が安全であことを患者が認識すこと, 自分の症状が治療により改善していことを患者が実感できこと, 医療関係者と患者が信頼関係を築くこと, 身につけた対処法を患者自身が評価し自己管理能力に自信をもつようになこと ₂), を挙げてい. さらに駒瀬らは, 吸 入手技だけではなく, 患者のアドヒアランスにも気を配り, 患者自身が積極的に治療に参加し, アドヒアランスが保て吸入療法を提唱していくことが大切であ ₃) としてい. 当院の吸入指導においても, 初回指導時に気管支喘息の病態, 治療, 継続治療の必要性, 症状などを相互に関連付けて説明すことにより, 疾患についての説明が受け入れやすい状態になったと考えられ. そして単に吸入方法を説明すのではなく, 患者が納得すように指導すことが重要と考えた. これが達成されなければアドヒアランスは向上せず, 患者は症状が治まと治療を自己判断で中断してしまう可能性があためであ. こうした配慮の下で患者指導を行っても, ₂ ~ ₃ 回の吸入指導ではアドヒアランスが向上しない患者が存在した. そのような患者には, 診断に納得がいかない, 薬剤の必要性に対す認識が低い, 吸入治療薬が生活の一部として組み込まれずに忘れてしまう, などの特徴が見られた. このような場合は患者が困ってい症状に焦点を当て, 自覚症状と呼吸機能検査結果を照らし合わせて説明し, どうすればその症状が軽減 緩和されのかという観点から治療方針を提案した. さらに, 指導を行う中でどうすれば忘れずに吸入薬を使用できかを, 患者の生活習慣をもとにして患者と一緒に考えた. このような工夫によって, 僅かではあがアドヒアランスが向上したと考えられた. 一般に気管支喘息の治療は長期にわたため, 患者の立場に立ち, 患者を取り巻く医療者すべてがアドヒアランスを意識すことで, 長期にわた治療を患者と共に行っていくことが出来ようにな ₄) とされため, 私たちは患者のそばに寄り添い, 支えとなことが必要であと考えた. アドヒアランスが不良な患者の場合には, 指示通りに吸入を含む服薬が出来ていかどうか, 正しい吸入方法を実行していか, 増悪因子 ( 喫煙, アレルゲンなど ) の回避, 増悪を来す合併症 ( アレルギー性鼻炎, 好酸球性副鼻腔炎, アスピリン喘息など ) への対応ができていかなどを確認す必要があり ₅), 患者背景を含めた吸入指導も重要にな. 興味深いことに, 初回指導後より ₆ ~₁₂ヶ月経過すと, アドヒアランスは低下していないものの, 喘息の理解度が低下していことが明らかとなった. 一般に, 気管支喘息患者の吸入治療は, 治療期間が長くなとアドヒアランスが低下すといわれてい. 今回の検討から, アドヒアランス低下前には気管支喘息の理解度低下が先行す可能性があり, これは気管支喘息の病態や標準治 106 The Journal of the Japan Society for Respiratory Care and Rehabilitation
療の再確認を含めた吸入指導を継続的に行う必要があことを示唆してい. 今回の検討では₄₃ 人中 ₆ 人が再診しなかった. 自覚症状の強さについて継続群と脱落群の ACT を比較したところ, 脱落群に低い傾向が認められた. 脱落群が受診しなかった理由については推測の域を出ないが, 初回治療によって自覚症状があ程度改善し満足したため, 再診しなかった可能性が考えられ. 結論看護師によ吸入指導を行った結果, 吸入ステロイド薬に対す理解度と再診率が向上し, 満足度が高値であった. 脱落群では吸入ステロイド薬の理解が乏しい傾向にあった. 吸入指導には十分に時間をかけ, 患者とともに病態や標準治療を確認し, それぞれに合った具体的な吸入指導を行った. こうした配慮によって患者の理解と治療への参加意欲が高まったことが, アドヒアランスが良好となった一因と考えられた. さらにアドヒアランス良好な患者であっても, 定期的な吸入指導により気管支喘息病態や標準治療の知識の再確認を行うことが, 長期アドヒアランスの低下を防ぐ上で重要であと考えられた. 著者の COI(conflicts of interest) 開示 : 本論文発表内容に関して特に申告すべきものはない. Effects of patients' education including inhaler technique training by nurses on asthma management Akiko Nakai ₁), Yasuhiro Aoki ₂), Chie Matsuda ₁), Masafumi Suzuki ₃), Shiro Hara ₂), Tatsuo Suga ₂,₃), Toshitaka Maeno ₃), Masahiko Kurabayashi ₃) ₁) Nnrsing department, Prana Clinic, ₂) Department of Respiratory Medicine, Prana Clinic, ₃) Allergy and Respiratory Medicine, Department of Medicine and Molecular Science, Gunma University Graduate School of Medicine 文 献 ₁) 社団法人日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会監修 : 喘息予防 管理ガイドライン₂₀₁₂, 協和企画, 東京, ₂₀₁₂. ₂) 社団法人日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会監修 : 喘息予防 管理ハンドブック 成人編 ₂₀₁₀, 恒陽社印刷所, 東京,₂₀₁₀. ₃) 駒瀬裕子, 向井秀人 : 薬剤師, 医師, 看護師のための明日からでき実践吸入指導, メディカルレビュー社, 東京, ₂₀₁₂. ₄) 駒瀬裕子, 松岡光明 : 薬剤師, 医師, 看護師のための明日からでき実践吸入指導改訂第 ₂ 版, メディカルレビュー社, 東京,₂₀₁₅. ₅) 大田健, 今井良 : 特集ステロイド薬 ( 含吸入薬 ) の基礎と呼吸器疾患への臨床応用 ₃. 気管支喘息. 日胸臨 ₇₄: ₃₉₁-₄₀₃, ₂₀₁₅. Vol.26 No.1 2016 107