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(2) 主要シェール オイル鉱床シェール オイルの 3 大産地 ( テキサス州のパーミアン地域とイーグル フォード地域 ノース ダコタ州のバッケン地域 ) での生産量は 全体の約 50% を占めている 広い鉱床を有し 生産性 経済性に優れるテキサス州中西部パーミアン堆積盆地に開発が集中している 20

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原油価格の動向 2019 年 2 月 株式会社三井住友銀行 コーポレート アドバイザリー本部企業調査部 本資料は 情報提供を目的に作成されたものであり 何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません 本資料は 作成日時点で弊行が一般に信頼できると思われる資料に基づいて作成されたものですが

TOPICs 世界の原油需給 by OPEC Oil Market Rerort 214 年 3 月号より 世界の原油需要 世界の原油需要 28 年 29 年 21 年 211 年前年比 212 年前年比 213 年 OPEC Oil Market Report 214 年 3 月号 前年比 28

北米からの原油供給量は 2011 年は前年比日量 +21 万バレル増であったが 2012 年は前年比 +158 万バレル増となり 2013 年は +130 万バレル増 2014 年は +92 万バレル増と見込まれている 北米を含めた OECD 先進諸国からの供給は 2011 年は +1 万バレル増

米国における石油企業の開発動向

平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

インドネシア港(%) ラリア査対象とするが 一部の国については統計上の制約から部分的な言及にとどめている 2. 原油価格上昇の影響に関する理論的考察 (1) 油価上昇と交易条件 交易利得 / 損失本稿では 交易条件の変化により起こる国家間の所得移転を示す交易利得 / 損失を油価上昇の影響を測る手段と

第1章

別紙2

2007年12月10日 初稿

エコノミスト便り

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Invesco Premia Plus Fund

【No

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タイトル

現代資本主義論

産業トピックス

経済・物価情勢の展望(2018年1月)

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

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国際エネルギー機関(IEA) 月報 国際エネルギー機関 (IEA) は13 日公表した月報で 石油輸出国機構 (O PEC) と非加盟産油国が ( 協調減産を通じて ) 世界の原油在庫を望ましい水準に引き下げる役割を達成したようだと分析 さらに 供給抑制が続いた場合には 石油市場が逼迫する可能性を示

IT 人材需給に関する調査 ( 概要 ) 平成 31 年 4 月経済産業省情報技術利用促進課 1. 調査の目的 実施体制 未来投資戦略 2017 ( 平成 29 年 6 月 9 日閣議決定 ) に基づき 第四次産業革命下で求められる人材の必要性やミスマッチの状況を明確化するため 経済産業省 厚生労働

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ロシア 3節 第 第3節 ロシア 1 マクロ経済動向 ロシア経済は 緩やかな回復基調にある 2014 年 7 以下 輸出 個人消費 消費者物価 金融市場の動 月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う 向を中心に概観する 欧米からの経済制裁に加え 2015 年以降 原油価格 の下落を主因として

2017年上半期の為替相場展望

経済・物価情勢の展望(2017年7月)

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第45回中期経済予測 要旨

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(1月号)~輸出の好調続くも新型スマホ関連がピークアウトへ

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(5月号)~輸出は好調も、旧正月の影響を均せば増勢鈍化

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サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

経済・物価情勢の展望(2016年10月)

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このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

2018 年は激動の年 年初来 トルコ株式指数はトルコリラベースで最大で約 24% 下落し トルコリラは日本円に対して最大で約 45% 下落しました トルコ株式 * の推移 ( トルコリラベース ) /12 18/03 18/06 18

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【16】ゼロからわかる「世界経済の動き」_1704.indd

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【ロシア最新経済金融週報】

平成14年1月20日

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物価の動向 輸入物価は 2 年に入り 為替レートの円安方向への動きがあったものの 原油や石炭 等の国際価格が下落したことなどから横ばいとなった後 2 年 1 月期をピークとし て下落している このような輸入物価の動きもあり 緩やかに上昇していた国内企業物価は 2 年 1 月期より下落した 年平均でみ

リンギ安進むマレーシア~原油安による経済への影響~

ブラジル中国インド インドネシア ロシア 図表 新興国の消費者物価上昇率 ( 単位 :%)( 資料 :IMF 世界経済見通し ) 通常であれば 成長率が低下すれば 国内の需給バランスが緩和し むしろ物価は低下するのが自然である しかし 中国以外の カ国は逆に物価上

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第2章_プラントコストインデックス

週刊原油190509米国石油週報 EIA短期需給予測5月号.xlsx

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(10月号)~輸出はスマホ用電子部品を中心に高水準を維持

( 無断転用禁止 ) BRICs 経済研究所レポート 中長期で上昇が期待されるブラジル株 ~2030 年のボベスパ指数は 2005 年実績の 8.4 倍まで上昇する見込み ~ ~ 要 旨 ~ 2006 年 9 月 2 日 ( 土 ) BRI Cs 経済研究所代表門倉貴史 postbr

今月の経済金融情勢2018年11月30日号

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

けた この間 生産指数は 上昇傾向で推移した (2) リーマン ショックによる大きな落ち込みとその後の回復局面平成 20 年年初から年央にかけては 米国を中心とする金融不安 景気の減速 原油 原材料価格の高騰などから 景気改善の動きに足踏みが見られたが 生産指数は 高水準で推移していた しかし 平成

週刊原油 xlsx

2/4 ページ 2 原油価格下落による MLP の中流エネルギー事業への影響 MLP の時価総額の約 5% は中流セクター 214 年 11 月末現在 米国の MLP( マスター リミテッド パートナーシップ ) は 122 銘柄が上場しており 総時価総額 は 5,323 億米ドル ( 約 3 兆円

長と一億総活躍社会の着実な実現につなげていく 一億総活躍社会の実現に向け アベノミクス 新 三本の矢 に沿った施策を実施する 戦後最大の名目 GDP600 兆円 に向けては 地方創生 国土強靱化 女性の活躍も含め あらゆる政策を総動員することにより デフレ脱却を確実なものとしつつ 経済の好循環をより

2016年度までの日本の経済・エネルギー需給見通し

日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

原油価格下落と米国経済-価格下落は米マクロ経済にはプラスも、資本市場の不安定化に注目

平成10年7月8日

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トラック運送事業の経営実態 全日本トラック協会は全国のトラック運送事業者 2,188 社 ( 有効数 ) の平成 25 年度事業報告書に基づき集計 分析した 経営分析報告書 ( 平成 25 年度決算版 ) をまとめた 全日本トラック協会が平成 4 年度から発行しているこの報告書は 会員事業者が自社の

[ 調査の実施要領 ] 調査時点 製 造 業 鉱 業 建 設 業 運送業 ( 除水運 ) 水 運 業 倉 庫 業 情 報 通 信 業 ガ ス 供 給 業 不 動 産 業 宿泊 飲食サービス業 卸 売 業 小 売 業 サ ー ビ ス 業 2015 年 3 月中旬 調査対象当公庫 ( 中小企業事業 )

週刊原油170406米国の石油週報・中国に対する非OPEC諸国原油の増加

2010年における原油価格の見通しについて

スーパーメジャー: 「スケール」から「クオリティ」へ

2. シリアへの軍事介入が回避された後も高値圏にとどまる原油価格 (1) シリア エジプト プレミアムの剥落 6 月末にエジプトで大統領の辞任を要求するデモが発生し 次いで内戦の続くシリアへの軍事介入が取り沙汰されたことから 原油価格は夏場に高騰した しかし 9 月上旬をピークにシリア問題を巡る緊張

米国の利上げ見送りと日本の長期化した金融緩和

2019 年 3 月期決算説明会 2019 年 3 月期連結業績概要 2019 年 5 月 13 日 太陽誘電株式会社経営企画本部長増山津二 TAIYO YUDEN 2017

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情勢分析_中東の石油・ガス産出国をめぐる最近の動向と今後の予測

情勢分析_中東産原油と米国シェール・オイルの攻防の行方

[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

2016 年 メキシコペソ もとの状況と今後の 通し <メキシコペソ / 円は下落 > < 政策 利とインフレ率の推移 > メキシコペソは もとまで軟調に推移してきました しかし 原油先物価格は2016 年 2 に安値をつけて下落が続いてきた理由として 1 統領選 2メ以降 持ち直す展開

1. 世界における日 経済 人口 (216 年 ) GDP(216 年 ) 貿易 ( 輸出 + 輸入 )(216 年 ) +=8.6% +=28.4% +=36.8% 1.7% 6.9% 6.6% 4.% 68.6% 中国 18.5% 米国 4.3% 32.1% 中国 14.9% 米国 24.7%

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( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

内の他の国を見てみよう 他の国の発電の特徴は何だろうか ロシアでは火力発電が カナダでは水力発電が フランスでは原子力発電が多い それぞれの国の特徴を簡単に説明 いったいどうして日本では火力発電がさかんなのだろうか 水力発電の特徴は何だろうか 水力発電所はどこに位置しているだろうか ダムを作り 水を

FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

生活衛生関係営業の景気動向等調査 平成17年7~9月期

ニュースリリース 農業景況調査 : 景況 平成 3 1 年 3 月 1 8 日 株式会社日本政策金融公庫 平成 30 年農業景況 DI 天候不順響き大幅大幅低下 < 農業景況調査 ( 平成 31 年 1 月調査 )> 日本政策金融公庫 ( 略称 : 日本公庫 ) 農林水産事業は 融資先の担い手農業者

今月の経済金融情勢2018年12月25日号

社団法人日本生産技能労務協会

企業活動のグローバル化に伴う外貨調達手段の多様化に係る課題

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MENAなんでもランキング・シリーズ その1

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 金 25, 2, 15, 12, 営業利益率 経常利益率 額 15, 9, 当期純利益率 6. 1, 6, 4. 5, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 8 社 214 年度 215 年度前年度差 ( 単位 : 億円 ) 前年

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Apr 24, 2019 No.2019-004 主任研究員古瀨礼子 03-3497-3211 furuse@itochu.co.jp 主任研究員笠原滝平 03-3497-3615 kasahara-ry@itochu.co.jp 米国シェールオイルは引き続き世界の原油需給をかく乱するのか? シェール革命以降 米国の原油生産が急増し 近年は原油相場をかく乱する要因となっている 2014 年の原油価格の下落は一時的な減産を招いたが 技術革新などによる生産の効率化を進めた結果 損益分岐点が低下しより低い原油価格での生産が可能となった 供給過剰による原油価格の下落を招きたくない主要産油国は協調減産を継続しているが シェールオイルの増産により原油相場の上値余地は小さい 米国経済の観点では 原油増産は 鉱工業生産指数の上昇に寄与 設備投資にも影響を与え 今後も米国経済のけん引役となるだろう 他方 中長期的には米国の原油生産は 2020 年代後半にピークを迎え 関連する投資も徐々に小さくなることが見込まれる シェールオイルが近年の原油相場をかく乱 2000 年代半ばに水平掘削 水圧破砕の技術が確立し 米国で大量の天然ガス 続いて原油の採掘が可能となったシェール 1 革命以降 米国の原油生産量は増加が続いている ( 左下図 ) 原油供給量の増加で原油価格の低位安定に期待できる面もあるが 実際には相場のかく乱要因となっている 例えば 2017 年 18 年は原油価格が上昇する中 シェールオイルの増産によって原油価格が急落するケースが見られた 2 ( 右下図 ) 最近ではオイルメジャーが参入するなどシェールオイル業界の事業者にも変化が生まれているが 主な事業者は中小企業であり その数は多い 各社は利潤最大化に向けて行動すると考えられるため 原油価格が損益分岐点価格を上回れば増産 下回れば減産し 石油輸出国機構 (OPEC) 加盟国のように協調して生産量調整を行うことはない また 近年はシェール関連投資や生産が米国経済へ与える影響も無視できなくなっている そこで 原油価格や米国経済の先行きを考える材料として 米国シェールオイルの動向についてまとめてみた 1 シェールオイルは頁岩から採掘されるオイルであり 厳密にはタイトオイルの一種であるが 簡便化のためここではタイトオイル全般をシェールオイルと表記した 2 2017 年は中東湾岸諸国やロシアなどによる協調減産の開始により原油価格が上昇 2018 年は米国が 5 月にイラン核合意から離脱する一方で 11 月にはイランの原油取引制裁から中国など主要輸入国を免除するなどシェールオイル増産以外の原油価格変動要因が多分に含まれる点には留意が必要 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり 投資勧誘を目的としたものではありません 作成時点で 株式会社伊藤忠総研が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが その正確性 完全性に対する責任は負いません 見通しは予告なく変更されることがあります 記載内容は 伊藤忠総研ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません

なぜシェールオイルは増産できるのか 米国内には岩盤の堅いシェール層に多くの原油や天然ガスが含まれていたが 従来の技術では多大なコ ストがかかるため採掘が行われていなかった しかし 2000 年代半ば以降 水平掘削 水圧破砕の技術が 確立したことにより採掘コストが一気に低下 シェールガス シェールオイルの商業生産が可能となった 2010 年代の前半は原油価格が 1 バレル 100 ドル程度で推移したため 損益分岐点価格が 1 バレル 70 ドル 台 3 だったシェールオイルは増産が続いた その後 2014 年には OPEC 加盟国も増産に転じたため供給過剰となり WTI 原油価格は一時 1 バレル 26 ドルまで下がった 原油価格がシェールオイル生産の損益分岐点を大きく下回ったため 米国のシェール 業界では破産する企業が続出して原油生産は減少した しかし 原油価格の急落を生き抜いたシェール企 業は 技術革新などにより効率化を進めると同時に 生産性の高い鉱区の生産を拡大した 例えば 水平 坑井掘削長の延伸や資機材の進化 最近では AI や IoT の活用 4 により 効率的な掘削が可能となり 1 坑井当たりの生産量は増加した ( 右図 5 ) また 原油や天然ガスが豊富に埋蔵されている南部のパーミアン堆積 盆 6 に開発を集中させた結果 現在は損益分岐点が 1 バレル 23 ドル 7 の 鉱区も出現 ( 平均は 1 バレル 48 ドル ) 原油価格下落への耐性が高まっ た そのため 上述のように 2017 年 2018 年に原油価格が 1 バレル約 45 ドルまで下がった際は一時的に増産傾向に歯止めがかかったものの 以前なら採算が合わなかった原油価格であっても生産を続けることが できるようになった 今後も原油価格が損益分岐点を下回る状態が継続 しない限り 米国シェールオイルの増産は続くものとみられる OPEC 加盟国の減産 VS 米国の増産 今後の原油価格の動きを考える上では世界の原油需給が重要となる 世界の需要は 足元で中国の景気 減速により増加ペースが鈍化しており 米 EIA の見通しでは 2019 年および 2020 年は前年比 +1.4% の需 要拡大が見込まれている 供給に関しては OPEC 加盟国とロシアなどの主要産油国が 2017 年以降協調減産を継続 2019 年 1 月か らは 2018 年 10 月を基準に合計日量約 120 万バレルの減産を目指している 8 このうち OPEC 加盟国は 減産目標日量 81 万バレルに対して 3 月は基準比日量 125 万バレルを減産 154% の遵守率となっている 主要産油国の協調減産は今年 6 月が一旦の期限であるが 協調減産の終了は供給過剰を招くと考えられる ことから 今後も少なくとも 2019 年末までは協調減産を続けるとみられる EIA の見通しは 2020 年以 3 ノルウェーのコンサル企業リスタッド エナジー社 (Commodity Markets Outlook, World Bank, October 2017.) 4 例えば IoT を用いてドリルの圧力など現場のデータを本社に集約し 集めたビッグデータをもとにした分析結果をリアルタイムで現場にフィードバックして現場で活用するなどが挙げられる 5 シェールオイル生産の効率化は主な産地で進んでいる 図ではパーミアン堆積盆を 1 つの例として示した 6 堆積盆とは 地殻の変動により地表面が沈降して海や湖となった場所に 有機物や無機物が層状に堆積して作られた地層 特定の地質条件下では 堆積した有機物から石油や天然ガスが生成される なお パーミアンは 簡易的に 盆地 と表記されることもある 7 パーミアン堆積盆ミッドランド鉱区で新規井戸の掘削が利益をもたらす原油価格のレンジは 1 バレル 23~65 ドル 平均値は 48 ドル ( Dallas Fed Energy Survey, Federal Reserve Bank of Dallas, March 27, 2019.) 8 イラン ベネズエラ リビアを除く OPEC 加盟 11 ヶ国およびロシア カザフスタン メキシコ オマーン アゼルバイジャン マレーシア バーレーン ブルネイ 南スーダン スーダンの OPEC 非加盟 10 ヶ国 2

降の協調減産を前提としていないよう 9 であるが 米国の増産が続くなか 原油価格の下落を招きたくな い主要産油国は 2020 年以降も足並みをそろえて減産を維持すると考えられる なお 米政権は 2019 年 4 月 22 日 イラン産原油の輸入に 2019 年 5 月以降制裁をかけると発表するとともに イラン産原油の 減少分はサウジアラビアやアラブ首長国連邦と協力して補完することを発表している 他方 米国の原油生産は増加が続いており 2015 年以降はシェールオイルの採算ラインが低下したため 増加ペースが加速 2018 年は前年比 17% の増産となった 中でも 採算性が高いパーミアン堆積盆は 米国最大の生産地となっている ただ このパーミアン堆積盆では 生産が急増したため輸送用パイプラ インが不足しており 供給のボトルネックとし て問題視されている WTI 原油とテキサス州パ ーミアンの原油価格 (WTI ミッドランド ) を比 較すると 生産量が急増した 2018 年以降 ミ ッドランド価格が相対的に低下していること からも パイプラインによる輸送がボトルネッ クであることが窺える ( 右図 ) こうした供給 制約により原油生産量は一定程度抑制されて いるとみるべきだろう しかし パイプライン の効率利用および列車やトラック輸送の活用 10 加えて 2018 年 11 月に既存パイプラインの拡張があったため 同年秋には一時的に供給制約は和らぎ 価 格差は縮小した 2019 年は 2 月に天然ガス液用パイプラインを原油用に転換したパイプラインの稼働開 始に加え 年後半には 3 本のパイプラインが増設される予定で 合計で日量 240 万バレルの流通量増加が 期待される ( 下図 ) また 2020 年以降もパイプラインの建設が計画されている パーミアン堆積盆の原 油生産は 2019 年 2 月以降毎月日量 4 万バレル超増産しており 今後 流通可能量の増加に伴ってさらに 増加することが見込まれる 9 2020 年 1 月からロシアは増産に転じると見通しているため 10 U.S. monthly crude oil production exceeds 11 million barrels per day in August, Today in Energy, EIA, November 1, 2018. 3

このため OPEC 加盟国とロシアらが協調減産を続けても シェールオイルの増産によって需給は緩和気味の状況が続くと見込まれる さらに 後述するようにトランプ大統領は原油価格の低位安定を望んでおり 原油価格が上昇すれば OPEC 加盟国への増産圧力 11 を強めることが予想される よって 少なくとも 2020 年までの原油相場は上昇余地が乏しいと考えられる 米国経済への影響が大きいシェールオイル動向続いて米国経済におけるシェールオイル動向の影響について確認する まず 生産においては鉱工業生産指数 12 の約 15% のシェアを占める鉱業の推移を見ると 2014 年後半の原油価格急落以降は減少が続いたが 2017 年以降は再び急増した シェア 75% を占める製造業の伸びが緩慢に留まる中 鉱業が全体のけん引役になっている ( 右図 ) 同様に米国の設備投資の面でもシェールオイルの影響が大きい 2014 年以降はしばらく鉱業の投資減少が設備投資を大きく抑制したことは記憶に新しい ( 右下図 ) 生産と同様に 17 年以降は原油価格上昇と共に鉱業は総じて設備投資全体の押し上げ役になっている このように 高成長に沸いた 2018 年の米国経済にシェールオイルの増産が一定の影響を与えたと言えるだろう 足元では 昨年末までの原油価格下落や金利上昇の影響があり 設備投資は軟調に推移した しかし 今後は上述の通りボトルネックであったパイプラインの増設が行われること 米国の中央銀行に当たる連邦準備制度 (FRB) の政策転換により金利は当面低水準で推移する見通しであることから 米国内の原油生産はさらに増加することが見込まれる そのため 原油価格の変動に伴って米国経済を翻弄してきたシェール関連の設備投資も基本的には増勢が続く見込みである 引き続きシェールオイルは米国経済のけん引役となるだろう なお EIA の見通しではシェールオイル ガスの生産増加 国内のエネルギー消費量の減少によって 2020 年には石油や天然ガスなどを含めたエネルギーの純輸出国に転じる見込みとなっている 米国は 1953 年以降エネルギー純輸入国となっており 2006 年には実質貿易赤字額約 9,800 億ドルのうち 石油関連は約 4,800 億ドルと半分以上を占めていた しかし 直近の 2018 年は約 1 兆ドルの貿易赤字額に対し 石油関連は約 1,400 億ドルとシェアが大幅に低下した ( 右図 ) 今後もシ 11 トランプ大統領は 2018 年 9 月 25 日 国連総会の演説の中で OPEC 加盟国に原油価格を下げることを求めた また 原油価格を下げるようサウジアラビア皇太子に個人的に圧力をかけていることも報じられている ( OPEC Has a New Best Friend: Russia, Wall Street Journal, April 5, 2019.) 12 鉱工業生産指数は GDP の約 15% に当たる生産関連産業を対象とする 4

ェールオイルの増産は米国の経常 貿易赤字の縮小に寄与することが期待される また 従来はエネルギー価格の上昇は米国経済にマイナスの影響を与えていたが エネルギー純輸出国に転じれば エネルギー価格の上昇はマクロ的には米国経済にプラスの面が多いこととなる もっとも エネルギー価格の上昇はガソリン価格や電気料金など広く国民生活に悪影響を与えるため 2020 年に大統領選挙を控えるトランプ大統領は 原油価格の上昇を歓迎しないだろう さらに 米国では道路や橋の老朽化が深刻な問題となっており トランプ大統領はこうしたインフラ整備を行うため大規模なインフラ投資を計画しているが その財源の一部を補う目的で連邦ガソリン税の引き上げを検討中とも報じられている 仮にガソリン税を引き上げる場合 原油価格の上昇をより受け入れがたいとみられる そのため 今後少なくとも大統領選挙までは原油価格の抑制を OPEC 加盟国の盟主たるサウジアラビアに求めていく可能性があるだろう 中長期的見通し EIA の見通しでは 原油価格や技術革新のスピードにもよるが 13 シェールオイルにけん引されている米国の原油増産は 2020 年代後半にピークを迎える ( 左下図 ) 一方の OPEC 加盟国の生産量は 英エネルギー企業 BP の予想によると 2020 年代半ばにかけては減少するが 採掘可能量は米国に比べて格段に多いため 長期的に見れば OPEC の原油生産シェアは再び高まる見込みである ( 右下図 ) これらの予想に基づけば 中長期的には米国のシェールオイルが世界の原油市場に与える影響は徐々に低減していくことになる 併せて 短期的には米国経済の押し上げ要因となっているシェールオイル関連投資も徐々に小さくなっていくことが見込まれる 13 EIA は複数のシナリオを公表しているが ここでは基本シナリオを示した 5