愛知教育大学保健体育講座研究紀要 No 文部科学省新体力テストのソフトボール投げにおける 巧緻性 の再考 1) 加藤玲香 2) 山下晋 平野 3) 朋枝 春日 1) 愛知教育大学非常勤講師 2) 岐阜聖徳学園大学短期大学部 3) 名古屋短期大学保育科 4) 愛知教育大学保健体育講

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平成 28 年度全国体力 運動能力 運動習慣等調査愛媛県の結果概要 ( 公立学校 ) 調査期間 : 調査対象 : ( 悉皆 ) 平成 28 年 4 月 ~7 月 小学校第 5 学年 中学校第 2 学年 男子 5,688 人 女子 5,493 人 男子 5,852 人 女子 5,531 人 本調査は

4 調査対象者数 実施人数及び実施率 公立小学校 205 校 公立中学校 97 校 公立全日制 34 校 定時制 9 校の児童生徒全員を対 象とした 実施人数及び実施率については 次の表及び図に示すとおりである 表. 各校種別調査対象者数 実施人数及び実施率 校種 年齢項目 性別等 小学校中学校 6

研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

2 31名 男子17名女子14名 の合計92名であった 図1は握力の発達をみたものであるが男女と 以下第1期生とする 第1期生の身長および体 もにほとんどのプロットは埼玉県標準値範囲内に 重の平均値を学年別男女別に表1に示した 存在していた 握力に関しては身長に相応した 表1 レベルであり特別な特徴

2 調査人員 体力調査 性別 15 歳 16 歳 17 歳 18 歳 合計 男子 12,746 12,471 11, ,297 女子 12,519 12,125 11, ,586 合計 25,265 24,596 23, ,883 質問紙調査 性

(1) 体育・保健体育の授業を改善するために

はじめに 体力は 人間のあらゆる活動の源であり 健康維持のほか 意欲や気力の充実にも大きくかかわる まさに 生きる力 の基盤になるものであることから 本県の将来を担う子どもたちの体力を向上させることは大変重要だといえます 毎年 文部科学省が行ってきた 体力 運動能力調査 によると 子どもの体力は昭和

平成25~27年度間

平成29年度体力・運動能力調査結果の概要及び報告書について

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4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

全国体力調査によって明らかになったこと

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はじめに 本県では 児童生徒の体力向上に役立てることを目的に 平成 18 年度から体力 運動能力調査の全校調査を行い これまでの調査結果とその分析から 市町村教育委員会や各学校を含めた県全体の課題が明らかになってきました 県教育委員会では この課題解決に向けて 国の事業を活用した取組を推進させ 本年

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全国調査からみる子どもの運動・スポーツの現状と課題

最高球速における投球動作の意識の違いについて 学籍番号 11A456 学生氏名佐藤滉治黒木貴良竹田竣太朗 Ⅰ. 目的野球は日本においてメジャーなスポーツであり 特に投手は野手以上に勝敗が成績に関わるポジションである そこで投手に着目し 投球速度が速い投手に共通した意識の部位やポイントがあるのではない

市中学校の状況及び体力向上策 ( 学校数 : 校 生徒数 :13,836 名 ) を とした時の数値 (T 得点 ) をレーダーチャートで表示 [ ] [ ] ハンドボール ハンドボール投げ投げ H29 市中学校 H29 m 走 m 走 表中の 網掛け 数値は 平均と同等または上回っているもの 付き

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(3) 生活習慣を改善するために

国民の体力・運動能力の長期的推移

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発育状態調査 身長 身長 ( 平均値 ) を前年度と比較すると 男子は 5~8,10,11,16 歳で 女子は 7~12,15,17 歳で前年度を上回っている (13 年齢区分中 男子は増加 7 減少 4 女子は増加 8 減少 3) 全国平均と比較すると 男子は全ての年齢で 女子は 9~11 歳を除

学校体育と幼児期運動指針の概要について

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05 体育.xlsx 年間授業計画 /4 東京都立農芸高等学校平成 0 年度年間授業計画 教科 : 保健体育 科目 : 体育 単位数 : 単位 対象 : 第 学年 HABE 組 ~ HABE 組 使用教科書 : 出版社 大修館教科書名現代保健体育改訂版 使用教材 : なし 期末考査 男 女水泳体育理

1 単位対象学年 組 区分 1 年 必修 奥村秀章 黒尾卓宏 晝間久美 保健体育 保健 我が国の健康水準 健康であるための成立要因や条件について理解させ 飲酒や喫煙等の生活習慣について考える 薬物乱用 感染症 エイズの予防対策の重要性について認識させる ストレス社会への対処の仕方や身

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高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

フトを用いて 質問項目間の相関関係に着目し 分析することにした 2 研究目的 全国学力 学習状況調査結果の分析を通して 本県の児童生徒の国語及び算数 数学の学習 に対する関心 意欲の傾向を考察する 3 研究方法平成 25 年度全国学力 学習状況調査の児童生徒質問紙のうち 国語及び算数 数学の学習に対

21 研究 ヴォーテックスを用いたトレーニングによる投能力向上の効果 Effect on improvement of throwing ability using vortex throwing training 上村孝司 *, 小林志郎 **, 田中悠士郎 ***, 右代啓祐 ****, 宮崎大

順天堂大学スポーツ健康科学研究第 7 号 (2003) external feedback) といった内的標準を利用した情報処理活動を促進することを意図したものであった. 上記のように, 運動学習におけるフィードバックの研究は, フィードバックそのもののみに焦点が当てられてきた. そこで, 学習場面

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2. 栄養管理計画のすすめ方 給食施設における栄養管理計画は, 提供する食事を中心とした計画と, 対象者を中心とした計画があります 計画を進める際は, それぞれの施設の種類や目的に応じて,PDCA サイクルに基づき行うことが重要です 1. 食事を提供する対象者の特性の把握 ( 個人のアセスメントと栄

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小学生のカルシウム摂取量に寄与する食品の検討 小学生のカルシウム摂取量に寄与する食品の検討 小川瑞己 1 佐藤文佳 1 村山伸子 1 * 目的 小学生のカルシウム摂取の実態を把握し 平日と休日のカルシウム摂取量に寄与する食品を検討する 方法 2013 年に新潟県内 3 小学校の小学 5 年生全数 3

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104 (3) 全中学校において アクティブスクール を展開 全中学校を アクティブスクール として位置付け 自校の目標 ( 値 ) や取組内容を定めた 体力向上推進計画 を作成し 取組を強力に推進している (4) スーパーアクティブスクール や アクティブライフ研究実践校 による取組中学校 47

代表を表す平均を用いることがあること, 平均だけでなく最大値や最小値, 最頻値などの観点か ら調べることで, 集団の特徴や傾向がかることなど, 資料の調べ方を総括的にまとめていく 第 3 小単元 既習のグラフや表を活用して, 体力テストの結果を統計的な観点で読み取り, 自 たちの体力について特徴や傾

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策定にあたって 中央教育審議会答申 ( 平成 20 年 (2008 年 )1 月 17 日 ) では 体力は人間の活動の源であり 健康の維持のほか意欲や気力といった精神面の充実に大きくかかわっており 生きる力 の重要な要素である 子どもたちの体力の低下は 将来的に国民全体の体力低下につながり 社会全

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ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

2) エネルギー 栄養素の各食事からの摂取割合 (%) 学年 性別ごとに 平日 休日の各食事からのエネルギー 栄養素の摂取割合を記述した 休日は 平日よりも昼食からのエネルギー摂取割合が下がり (28~31% 程度 ) 朝食 夕食 間食からのエネルギー摂取割合が上昇した 特に間食からのエネルギー摂取

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高等学校保健体育科シラバス 3 年間のねらい学習目標本校の体育は 6 年間一貫教育をふまえて 中学 1 年 2 年においては基本技能を学び 安全に体育を実施していく基礎作りを行う また 中学 3 年 高校 1 年においては中学 1,2 年で学んだ基本技能を基に応用技能を身につけ さらに高度な身体運動

3 睡眠時間について 平日の就寝時刻は学年が進むほど午後 1 時以降が多くなっていた ( 図 5) 中学生で は寝る時刻が遅くなり 睡眠時間が 7 時間未満の生徒が.7 であった ( 図 7) 図 5 平日の就寝時刻 ( 平成 1 年度 ) 図 中学生の就寝時刻の推移 図 7 1 日の睡眠時間 親子

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愛知教育大学保健体育講座研究紀要 No. 37. 2012 1) 加藤玲香 2) 山下晋 平野 3) 朋枝 春日 1) 愛知教育大学非常勤講師 2) 岐阜聖徳学園大学短期大学部 3) 名古屋短期大学保育科 4) 愛知教育大学保健体育講座 4) 則克 Reconsideration of Skill in softball throw included in New Fitness Test MEXT Reika KATO 1) Susumu YAMASITA 2) Tomoe HIRANO 3) Norikatsu KASUGA 4) 1)Aichi University of Education, lecturer(non-full-time) 2)Gifu Shotoku Gakuen University Junior College 3)Nagoya Junior College, Department of early childhood education 4)Aichi University of Education, Department of Health and Physical Education キーワード : 巧緻性 ソフトボール投げ 的当て 体力 Key Words:skill,softball throw,target skill,physical fitness 1 はじめに 子どもの体力低下が社会問題として取り上げら れている 体力低下は児童 生徒の個人の将来の 健康に関わる問題であると同時に 日本の将来の 発展にも関わる重要な問題である 体力低下を問 題視する際に テストで測られる体力評価の正当 性についても再考すべきと考える 子どもの体力 評価として昭和 39 年から始まったスポーツテス トを経て 新体力テストが行われている 小学校 (6 ~ 11 歳 ) での新体力テスト項目は 握力 上 体起こし 長座体前屈 反復横とび 20m シャト ルラン 50m 走 立ち幅跳び ソフトボール投げ である 2012 年の日経新聞 1) に掲載された記事 にはソフトボール投げは 子どもの体力のピーク 時である昭和 60 年度から比較して 他の種目よ りもその低下が著しいと指摘している 文部科学 2) 省の全国体力 運動能力 運動習慣等調査結果 によると 昭和 60 年度の全国平均値は 11 歳男子 で 29.94m 女子で 17.60m であったのに対して 平成 22 年度の全国平均値は男子で 25.23m 女子 で 14.55m であり 投能力 ( オーバーハンドスロー ) の低下は顕著である 子どもの投能力の向上に関する研究は数多くされており 尾縣ら (2001) 3) は 小学 2 3 年生の男女児において オーバーハンドスロー能力改善のための学習プログラムを実施し 有意な遠投距離の向上が認められたことを報告している また 脚の準備動作や主動作中の体幹のコントロールなどに習熟が認められたことも述べており 遠投距離を向上させるのに技術指導が有効であるとしている 高本ら (2004) 4) は 小学校 2 年生に対する学習プログラムで 適切に投動作を改善させることが投能力の改善につながると述べている しかしながら投動作の学習を重視する一方で これらの研究では 投能力 = 遠投力 ととらえられたものがほとんどであり 狙った場所へ投げるといった操作能力は考慮されていない また 新体力テストにおけるボール投げの体力評価は 巧緻性 と 瞬発力 とされているが ボールを調整して操作する能力としての 巧緻性 は 新体力テストのボール投げで評価が可能であるか

疑問である そこで 刈谷市 FK 小学校の児童を対象に 的当て試技を行い 文部科学省新体力テストのソフトボール投げとの関係性を調べ 巧緻性 がどのように評価されるのかを検討した 2 方法 1 ) 被験者愛知県刈谷市 FK 小学校の児童 1 年生 ~ 6 年生の男子 190 名 女子 166 名であった 2 ) 身体計測 4 月に FK 小学校で実施された身体検査の記録結果の身長 (cm) 体重 (kg) を元に BMI を算出した 3 ) 文部科学省新体力テスト文部科学省新体力テストに基づき 50m 走 ( 秒 ) 立ち幅とび (cm) ソフトボール投げ(m) を行った また 平成 22 年度全国平均値との比較を行った 4 ) 的当て試技的はフェルト製とし 中心 20cm 40cm 60cm 80cm 100cm 同心円とし 中心から 1.5m の高さで体育館の壁側に的を設置する 投げる位置は的から 3m とし 床にラインを引く マジックテープを貼ったプラスチックボール ( 直径 cm 重量 g) を投球に使用する 児童はラインを踏まないように立ち 的をねらって 連続 2 球ボールを投げる 験者はボールの当たった位置を確認し 合計得点を記入する 得点は中心 20cm:5 点 40cm:4 点 60cm:3 点 80cm:2 点 100cm:1 点 その他 :0 点とする ( 図 1) 図 1 的当て試技の的の模式図 5 ) 統計処理統計処理は Statce2 を用いて行い 有意水準は 5% 未満とした 3 結果 1 ) 対象者の身体的および体力的特徴表 1 は 対象者の身体的特徴 表 2 は対象者の文部科学省新体力テスト結果 (50m 走 立ち幅跳び ソフトボール投げ ) と全国平均値を示したものである FK 小学校のソフトボール投げを各学年別で見た場合には 低い学年が多く 3 年生の男子 3 4 6 年生の女子では 1% 水準で 1 2 6 年生の男子では 5% 水準にて有意差が認められた また その他のテスト種目についても全国平均と比較すると FK 小学校の結果は全体的に低く FK 小学校の生徒の体力は全国平均よりも低い傾向を示した 表 3 は 的当て試技の得点を示したものである 1 学年間の有意差は認められないが 発育発達とともに男子は 5 年生まで 女子は 4 年生まで的当て能力に発達が見られた また 2 ~ 5 年生では性差は見られなかったが 1 年生では 5% 水準で 6 年生では 1% 水準で男子が女子より優位に高かった 表 1 対象者の身体的特徴 2 ) ソフトボール投げと的当て試技の相関関係図 2 は全学年 男女別のソフトボール投げと的当て試技の相関関係を示したものである 相関係数 (r) は男子で 0.478(p<0.001) 女子で 0.350 (p<0.001) を示し 両者間に有意な関係がみられた 表 4 は ソフトボール投げおよび的当て試技と複数の項目との相関関係を示したもののである いずれの投能力も男女とも身長 体重と有意な相関関係を示した また 投能力と他の脚筋力が反 2

愛知教育大学保健体育講座研究紀要 No. 37. 2012 表 2 対象者の体力的特徴 ( 走 跳 投 ) および全国平均 図2 ソフトボール投げと的当て試技の相関関係 表4 ソフトボール投げおよび的当て試技の各項目との相関関係 表3 的当て試技の得点 一連の系 フィードバック フィードフォワード で ③ ④は力を外界に放出する出力系 ステレ オタイプ である 映される走 跳能力とも有意な相関関係が得られ 巧緻性の測定を大きく 2 つにわけると 1 つ目 たが 男女ともにソフトボール投げと 50m 走と は特定のスポーツ動作の基礎能力であり 例えば の相関が一番高く 男子で r= 0.774 p<0.001 バスケットボールのフリースローの成功回数 女子で r= 0.717 p<0.001 であった サッカーのリフティング回数 卓球やテニスなど での目標地点へのリターン回数などが挙げられ 4 る これらの能力は 先述の① ④の全ての要素 考察 が加味されて実現可能な技能である 2 つ目は新 巧緻性 とは 動作を目的にあわせて巧みに 体力テストのボール投げ種目であり 小学生およ 行う能力であり 大槻 1988 5 は巧緻性の構成 び中学生ではソフトボールを 高校生ではハンド 要素を ①状況把握能力 視覚情報 運動感覚 ボールを使用して測定を行う 桜井 2000 6 は 経験からの予想 ②正確さ 体肢のポジション 投球動作は 走動作 跳動作とならんで基本的な 力や動きの強弱 タイミング 再現性 ③すば 運動技能にあげられ 中でも片腕によるオーバー やさ 動作の開始 切り替えのすばやさ ④持 ハンド投げはもっとも強く そして正確に投げる 続性 必要とされる回数だけ 正確にすばやく動 能力が求められる技能であるとしている しかし 作を繰り返す の 4 点にまとめている ① ②は ながら ボール投げの運動能力評価は 投球能力 外界からの情報を取り入れる入力から出力までの 体力評価は 巧緻性 瞬発力 運動特性は 力

強さ タイミングの良さ とされており 7) 巧緻性以外の要素を含み測定評価されている 遠投のためには 投射角の調整また投動作を円滑に行うためには 上肢 体幹 下肢の筋活動の一連の神経制御といった技術が必要である この点から ボール投げに 巧緻性 が含まれるとする考えは正しいと判断される ボールを思ったように投げる制球力は スポーツや動作の基礎技術であり 巧緻性の測定としては無視できないが ボールをどこまで投げられるか という遠投力の評価の意味合いが強い反面 ねらった場所へボールを投げる という的当てのような制球力 つまりは巧緻性要素の1~4の能力が全て含まれた評価については検討されていないように思われる 遠投力とは別に 特定の位置へ正確にボールを複数回投げるという制球力だけを目標にした場合 正確さを追求した巧緻性を測定することになる そこで 小学生の 1 年生から 6 年生までの男女を対象とし的当て試技を行った 試技は的までの距離は 3m で 児童の手のひらの中で十分にボールを握り操作できる大きさ重さのプラスチックボールを的の中心を狙って投げるものであり 2 回の計測を行った ソフトボール投げは身長 体重との相関が男女ともに認められ 的当て試技においても身長 体重との相関が認められた これは小学 1 年生 ~ 6 年生までの発育期の者を対象としたためであり 筋力の発達と神経系の発達による運動制御機構の発育発達時期に差があること 遊びなどで経験する習熟度に違いがあることに起因すると考えられる また ソフトボール投げと 50m 走 立ち幅跳びと 的当て試技と50m 走 立ち幅跳びとの相関関係も見られた 発育発達期の児童の身体は 形態的には拡大方向に 機能的には発達という変化を示す このため投動作に必要な上肢の筋力は 脚力とともに発育発達するため 筋力が投動作に影響すると考えるのは早計である 発育段階の小学 1 ~ 6 年生全てを対象とした運動能力間の比較に於いて相関関係がみられたのであって 両者間に相互関係があるかはわからない そこで 対象者を投動作能力の発達がほぼ修了したと考えられる 6 年生 ( 男子 44 名 女子 30 名 ) に限定し 再度検討を試みた 図 3 は 6 年生におけるソフトボール投げと的当て試技の相関関係を 表 5 は 6 年生におけるソフトボール投げおよび的当て試技と複数の項目との相関関係を示したものである 男女ともにソフトボール投げと的当て試技との相関は認められず 小学 6 年生においては遠投力と制球力は関連しないことが示唆された また ソフトボール投げは男女ともに 50m 走と立ち幅跳びとの相関がみとめられたが 的当て試技については男子の 50m 走を除いて相関が認められなかった このことから 遠投力には脚力との関連性はあり これは筋力の発達が両運動能力に強く影響するためと解釈できる 一方 制球力と脚力の相互関係は認められず 制球力は筋力に依存しない巧緻性能力であることが示された また 女子については 的当て試技と身長 体重 BMI とそれぞれ相関が認められ 体格が制球力に影響を及ぼしていることが示された 第二次性徴により顕著な形態変化が起こる女児において 急速な発育と神経系の発達に関係を示すと考えられた 幼児 児童期は神経系の発達が著しいことから (Scammon ら 1930) 8) 投能力も発育発達に伴い増加する しかしながら 本研究から 小学 6 年生において遠投力と制球力に関連性がないことが明らかとなり 新体力テストのソフトボール投げでは 1 状況把握能力 2 正確さ 3すばやさ 4 持続性の 4 つを全て含む 巧緻性 を測定するものではないことが示唆された ソフトボール投げは ヒトの基本的運動技体力を 走 跳 投 としたときの一要素となる体力を測るものであり 他の測定項目と異なり 上半身の筋力やすばやさが求められる項目である 児童の健全な発育発達 正しい体力の測定 体力増進への手だてとして 補完的に体力 運動能力を測定していく必要があると考えた

愛知教育大学保健体育講座研究紀要 No. 37. 2012 参考文献 図 3 6 年生におけるソフトボール投げと的当て試技の相関関係 表 5 6 年生におけるソフトボール投げおよび的当て試技の各項目との相関関係 5 まとめ 本研究は 刈谷市 FK 小学校の児童 1 年生 ~ 6 年生の男子 190 名 女子 166 名を対象に 的当て 試技の結果と文部科学省新体力テストのソフト ボール投げの記録との関係性を調べ 巧緻性 がどのように評価されているのかを検討した 1 ) 新体力テストにおけるソフトボール投げは 巧緻性 の構成要素を全て測定するものでは なく 補完的な体力 運動能力測定が必要であ る 2 ) 遠投力は筋力の発達の影響を受けるが 制球 力は筋力に依存しない巧緻性能力である 1 ) 日経新聞 : 子供の体力 回復傾向学校の取り組み実る.2012.10.7 2 ) 文部科学省 : 全国体力 運動能力 運動習慣等調査結果 特徴小学校 3. 実技に関する調査結果 3. http://www.mext.go.jp/component/a_menu/ sports/detail/_icsfiles/afieldfile/2010/12/16/1 300266_3_1.pdf 3 ) 尾縣貢 高橋健夫 高本恵美ほか : オーバーハンドスロー能力改善のための学習プログラムの作成 : 小学校 2 3 年生を対象として. 体育學研究 2001;46(3)281 294 4 ) 高本恵美 出井雄二 尾縣貢 : 児童の投運動学習効果に影響を及ぼす要因. 体育学研究 2004;49 321 333 5 ) 大槻立志 : たくみの科学 朝倉書店 1988 6 ) 桜井伸二 : オーバーハンド投げ. スポーツバイオメカニクス. 朝倉書店 2000 7 ) 文部科学省 : 新体力テスト のよりよい活用のために http://www.mext.go.jp/component/a_menu/ sports/detail/_icsfiles/afieldfile/2012/07/18/1 321174_10.pdf 8 )RE Scammon et al.:the measurement of man. University of Minnesota Press 1930