第 11 回水産資源の経済学 I: 水産資源管理の経済理論 12 月 19 日有賀健高
今回の内容 水産資源に関する以下の二つの経済モデルを理解する 1 誰でも自由に漁業ができるオープンアクセスな漁場における経済モデル 2 私的所有権が設定されており 漁業権を持った業者だけが漁業を行う漁場における経済モデル 講義で扱う項目 水産資源の特徴 水産資源の成長関数 漁業者の生産関数 オープンアクセスな漁場における経済モデル 私的所有権がある漁場における経済モデル 2
水産資源の特徴 3
水産資源の特徴 1: 資源量が回復 水産庁 水産白書 平成 22 年度 4
水産資源の特徴 2: 共有財 (common pool resources) 競争合性 (excludable) ある ない ある 私的財 (private goods) 食料品 自動車 クラブ財 ( 準公共財 ) (club goods) 高速道路 ゴルフ場 排除性 (rivalrous) ない 共有財 ( 準公共財 ) (common pool resources) 漁場 共有地 ( 純粋 ) 公共財 (public goods) 灯台 知識 無料テレビ 水産資源 5
水産資源の特徴 3: 不確実性 水産資源の変化 生態系の変化で生息数が変化する 漁場の変化 生息する魚種の変化で取れる魚種が変わる 農業や林業以上に 不確実性が大きい 6
水産資源の成長関数 7
水産資源の成長関数 ある漁場の水産資源賦存量 * と水産資源の成長率の関係を表す関数である * ある漁場に存在している水産資源の量 X(t) を t 期における水産資源賦存量とすると 水産資源の成長関数 FF XX tt は以下のように表せる : X tt = dddd(tt) dddd = FF XX tt 8
水産資源の成長関数 ( 続き ) 一般に水産資源の成長関数は以下のように表せる : FF XX = rrrr(1 XX kk) rr: 資源の本質的な最大成長率 (intrinsic population growth rate) kk : 最大資源収容力 (carrying capacity)( 一定の環境下で生存可能な生態数の上限 ) rr と kk は水産資源のバイオマス ( 生態数 ) に関するデータから計測される 9
漁業者の生産関数 10
水産資源の成長関数の導出 一般にある生物の個体数は以下のロジスティック関数で表される X tt X(t) = kk 1+ccee rrrr これを t で微分すると dddd dddd = 0 kk ( rrrrrr rrrr ) 1 + ccee rrrr 2 = rr ccee rrrr kk 1 + ccee rrrr 2 これに ccee rrrr = kk XX XX を代入して 0 FF XX = rrrr(1 XX kk) k X(t) kk XX rr kk XX 2 kk XX = rr(kk XX) kk XX 2 kk 1 + XX XX = rr kk XX XX kk = rrrr 1 XX kk したがって dddd dddd = FF XX = rrrr 1 XX kk t X(t)= kk 1+ccee rrrr 11
水産資源の成長関数の特徴 F(X) 魚が海に全くいないので増えない状況における均衡 FF(XX MMMMMM ) FF(XX 1 ) = FF(XX 2 ) XX MMMMMM XX = k 0 XX 1 XX 2 k XX 3 魚が海に多すぎてこれ以上魚が増えると魚が減ってしまうような状態における均衡 X XX MMMMMM : Maximum sustainable yield ( 最大持続可能生産量 ) 12
漁業活動があるときの単純な ( 資源の価格を考慮に入れない ) 生物経済学モデル 漁業者の漁獲関数をHH = h とする HH 1 の時 HH 1 > FF(XX) なので 資源が枯渇し 生産活動ができなくなる HH 2 の時 HH 2 = FF(XX MMMMMM ) なので 漁獲が最大となる点で持続的な生産活動が可能である F(X), H 0 k XX MMMMMM HH 1 = h 1 HH 2 = h 2 X FF(XX) 13
漁業活動があるときの単純な ( 資源の価格を考慮に入れない ) 生物経済学モデル ( 続き ) HH 3 の時 HH 3 = FF(XX 1 ) は 不安定均衡である XX 1 の左側にある場合 HH > FF(XX) のため 資源が次第に減り 漁獲は減少し続ける XX 1 の右側にある場合 HH < FF(XX) のため 資源は増加傾向にあり 漁獲すればするほど漁獲量も増える HH 3 = FF(XX 2 ) は 安定均衡である XX 2 の左側にある場合 HH < FF(XX) のため HH 3 = FF(XX 2 ) まで漁獲が増え続ける XX 2 の右側にある場合 HH > FF(XX) のため HH 3 = FF(XX 2 ) まで漁獲が減り続ける F(X), H 0 XX 1 XX 2 k XX MMMMMM HH 3 = h 3 FF(XX) X 14
漁業者の漁獲関数の設定 漁獲量を HH とすると HH = QQ EE, XX E: Effort ( 漁獲努力量 ) 漁獲するために投入される漁船の隻数 操業日数 定置網の大きさ 漁具数といった資本や労働の投入量 X: Stock( 水産資源量 ) 水産資源のバイオマス a: Catchability( 捕獲効率 ) 魚を捕まえられる確率 以上を使って漁業者の漁獲関数は一般に QQ EE, XX = aaaaaa と表される 15
漁獲努力漁 (E) と資源量 (X) の関係 今漁獲量 Hが HH で一定であるとすると Q(E, X) = HH = aaaaaaなのでeとxは以下のようなグラフで表せる X 右図で 漁獲するために投入される漁船の隻数 操業日数 定置網の大きさ 漁具数といった資本や労働の投入量である E が増えると 資源量が減っていくことがわかる HH = aaaaaa E 16
漁獲努力漁 (E) と漁獲量 (H) の関係 右図で EE 1 > EE MMMMMM > EE 2 である F(X), H H 1 =ae 1 X H MSY =ae MSY X E が大きくなるにつれて 資源量 X は減っていく FF(XX MMMMMM ) EE 2 から EE MMMMMM までは EE が増えるにつれて漁獲量が増える : HH MMMMMM = FF XX MMMMMM > FF XX 2 = HH 2 FF(XX 1 ) FF(XX 2 ) H 2 =ae 2 X EE MMMMMM から EE 1 では EE が増えるにつれて漁獲量が減っている : 0 XX 1 XX MMMMMM XX 2 k X HH 1 = FF XX 1 < FF XX MMMMMM = HH MMMMMM 17
漁業者の生産関数の導出 漁業活動がある時の資源の変化量は以下の式で表せる : X tt = dddd(tt) = F X t QQ EE, XX tt dddd 定常状態 * では X tt = 0なので F X t = QQ EE, XX tt 1 * 定常状態とは 時間の変化に対して 水産資源の量が変化しない状態を言う 1 式に FF XX = rrrr 1 XX kk QQ EE, XX = aaaaaa を代入すると rrrr 1 XX kk = aaaaaa 2 これを XX について解くと XX = k(1- aaaa rr ) なので QQ=aaEEXX=aaaaaa(1- aaaa rr ) 18
漁業者の生産関数 Q(E) QQ(EE MMMMMM ) QQ(EE)=aaaaaa(1- aaaa rr ) 0 EE MMMMMM rr aa E 19
漁業者の総収入と総費用 20
漁業者の総収入 (TR: total revenue) 曲線 収穫された水産資源の価格をPとすると 漁業者の総収入は以下の式で表せる TTTT = PPPP EE = PP aaaaaa(1- aaaa rr ) TR TTTT(EE MMMMMM ) PQQ(EE)=PPaaaaaa(1- aaaa rr ) この式を図にすると生産関数を価格の分だけ上にシフトした形状になる 0 EE MMMMMM rr aa E 21
漁業者の総費用 (TC: total cost) 曲線 EE を漁獲努力量 cc を漁獲努力量単位当たりにかかる漁業者の費用とする この時 漁業者の総費用 TC は以下の式で表せる TTTT = cccc この時 総費用曲線は図のようになる TC TTTT = cccc 0 E 22
オープンアクセスな漁場における経済モデル 23
オープンアクセス (OA:open access) の水産資源モデルの設定 オープン アクセス (open access) 漁場とは 誰でも自由に水産資源をとっても良い漁場のことである オープンアクセスの漁場では 言葉通り 全ての漁業者が資源にアクセス ( 利用 ) する権利を有している そのため 漁業をすることで少しでも利益が得られるなら 新たな漁業者が参入する 最終的には総収入と総費用が一致する ( 利潤ゼロの状況 ) ところまで参入が続く したがって OA の漁業の長期均衡では以下の条件が成立している : TTTT = TTTT OA の均衡条件 : 総収入 (TR)= 総費用 (TC) 24
オープンアクセスの均衡点における漁獲努力量 (EE OOOO ) TR = PPaaaaaa(1- aaaa rr ) TC = cccc TR = TC として E について解くと OA の場合の均衡点における漁獲努力量が求まる : TR TTTT = PPPPPPPP(1- aaaa rr ) TTTT = cccc EE OOOO = rr 1 cc aa PPPPPP 0 E EE OOOO 25
オープンアクセスの供給曲線 右図のように 価格が大きくなるにつれ 漁獲努力量が大きくなっていることがわかる しかし 価格が一定以上大きくなるとE MSY を越えるため生産量が減少する したがって オープンアクセスの漁場では 価格が一定以上になると 漁獲努力量が資源の持続可能なレベル以上に大きくなり 資源が減ってしまう その結果 価格が一定以上になると 価格上昇に伴って生産量が減るようになり 供給曲線が左上がりとなる Q, TR, TC Q MSY Q Q 1 2 Q 3 TR 2 (P=1.5 の時 ) TR 3 (P=2 の時 ) 0 E E 1 E MSY E 2 QQ EE =aaaaaa 1- aaaa rr (P=1 の時 ) E 3 TC = ce TR 1 (P=0.5 の時 ) 26
オープンアクセス漁場の供給曲線のグラフ P 200 180 160 140 120 100 80 60 40 生産を増やすための漁獲努力量が増大した結果水産資源が枯渇し 価格が上がると生産量が減る状況となるため左下がりの曲線となっている 漁船の隻数 操業日数といった資本や労働などの漁獲努力量を増やせば増やすほど生産が増える状況にあり 通常の右上がりの曲線となっている r=0.5, a=0.001, c=5, k=100 のケース 8 9 10 11 12 Q QQ = QQ MSY 27
オープンアクセスの供給曲線の導出 QQ=aaEEXX=aaaaaa(1- aaaa ) EE rr OOOO = rr 1 cc であったので 生産 aa PPPPPP 関数のEの部分にオープンアクセスでの最適な漁獲努力量 EE OOOO を導 入すればよい QQ SS OA =aaaa rr 1 cc aa PPPPPP =kr 1 cc PPPPPP 1 aa rr rr aa cc = rrrr PPaaaa PPPP 1 cc PPPPPP 1 cc PPPPaa SS オープンアクセスの供給曲線 : QQ OOOO = rrrr PPPP 1 cc PPPPPP 28
私的所有権がある漁場におけ る経済モデル 29
私的所有権 (PP: private property) がある漁場のモデルの設定 私的所有権のある漁場とは 漁業権のような漁業をするための権利のある漁業者でないと漁業を営めない漁場のことである 水産資源に関して私的所有権が存在し ( 漁業権が等があるケース ) 全ての漁業者に漁場に参入する権利が与えられていないため このような漁場では 漁業者は通常の企業と同じような利潤最大化問題に直面する : Max ππ EE = TTTT(EE) TTTT(EE) EE したがって PPのある漁業の長期均衡では以下の条件が成立し ている : dπ dee = 0 dtttt EE dee dtttt EE dee = 0 MR = MC PP の均衡条件 : 限界収入 (MR)= 限界費用 (MC) 30
私的所有権がある場合の均衡点における漁獲努力量 (EE PPPP ) TR = PPaaaaaa 1- aaaa rr MR = dddddd dddd, TC = cccc = PPaaaa(1-2aaaa rr ) MC = ddddcc dddd = cc MR = MC として E について解くと PP の場合の均衡点における漁獲努力量が求まる : EE PPPP = rr 2aa 1 cc PPPPPP TR MR=MC TTTT = cccc 0 E EE PPPP EE OOOO TR=PPaaaaaa(1- aaaa rr ) 31
オープンアクセスと私的所有権がある場合の均衡の比較 EE OOOO = rr 1 cc aa PPPPPP EE PPPP = rr 1 cc 2aa PPPPPP 図と上の式から EE OOOO > EE PPPP OAの方がPPより競争が激しいためより多くの漁獲努力量を要する したがって 資源量に関して OA の方が PP より少なくなる傾向にある : XX PPPP > XX OOOO TR($) MR=MC EE OOOO TR=PPaaaaaa(1- aaaa rr ) TTTT = cccc 0 E EE PPPP 32
私的所有権がある場合の供給曲線 右図のように 価格が大きくなるにつれ 漁獲努力量が大きくなっていることがわかる ここでは 価格がどれだけ大きくなっても EE MMMMMM を越える生産量にはならないことがわかる したがって 私的所有権の供給曲線は EE MMMMMM まで漁獲努力量が増え続けることで生産が増え続け 通常の供給曲線と同様に右上がりとなる Q, TR($),TC($) Q 3 Q 2 Q 1 0 E E 1 E 2 E 3 E MSY Q MSY QQ EE =aaaaaa 1- aaaa rr (P=1 の時 ) MR 3 MR 2 MR 1 TC = ce TR 3 (P=2の時) TR 1 (P=0.5の時) TR 2 (P=1.5の時) 33
私的所有権がある場合の供給曲線 P 200 180 160 140 120 100 80 60 40 価格があがるにつれて 生産量が増え続け 最終的には Q=Q MSY になるまで生産が増え続ける r=0.5, a=0.001, c=5, k=100 のケース 0 2 4 6 8 10 12 14 Q QQ = QQ MSY 34
私的所有権がある場合の供給曲線の導出 QQ=aaEEXX=aaaaaa(1- aaaa ) EE rr PPPP = rr 2aa 1 cc PPPPPP であったので 生産関数の E の部分にオープンアクセスでの最適な漁獲努力量 EE PPPP を導入すればよい QQ SS PPPP =aaaa rr 2aa 1 cc PPPPPP 1 aa rr rr 2aa 1 cc PPPPPP = kkkk 2 1 cc PPPPPP 1 2 1 + cc PPPPPP = kkkk 4 1 cc PPPPPP 2 私的所有権がある場合の供給曲線 : QQ SS PPPP = kkkk 4 1 cc PPPPPP 2 35
レポート課題問題 10(2017 年 1 月 23 日の講義後に提出 ) 今水産資源の成長関数が FF XX = 0.4XX 1 XX 200 漁業者の漁獲関数が QQ EE, XX = 0.001EEEE 漁業者の費用関数が TT EE = 10EE で示されている ただし XX は水産資源賦存量 EE は漁獲努力量であり 水産資源の単位当たりの価格を PP とする この時以下の問に答えなさい (1) 漁業権がなく 漁場がオープンアクセスであった場合の供給関数を求めなさい ヒント : スライド 18 の定常状態における 1 式の関係を使う (2) 漁場に私的所有権が定められている場合の供給関数を求めなさい (3)PP = 100 としたとき オープンアクセスと私的所有権がある場合の生産量を比較し そのような違いが生じた理由について述べなさい 36
参考文献 Hartwick, J.M. and Olewiler, N.D.(1998) The Economics of Natural Resource Use: Chapter 4. Addison-Wesley Publishing Co.: New York. 農林水産の経済学 中央経済社第 7 章 37