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今後 ますますマイクロバブルを利用した治療や診断は進むと考えられている 分子レベルの治療や診断のためにナノサイズにしたバブルや, 目的部位に自主的に誘導される アンテナ の付いたバブルなど 第三世代となるバブルが期待されている しかし更なる応用を考えると 放射する超音波に対するマイクロバブルの非線形挙動を正確に知る必要があるが マイクロバブルの利用によって超音波治療効果が助長される理由やメカニズムは完全に解明されていない マイクロバブルの非線形振動に着目した研究は尐なく また殻の付いたバブルに関する研究はさらに限定される そこで本研究では 殻の付いたマイクロバブルについて 非線形振動の研究を主とする物理的なアプローチを試み 殻の存在による 一般的な気泡との違いを考える 具体的には 液体中の単一ガス気泡の振動の支配方程式 (RP model) と 殻付きマイクロバブルの代表的なモデル (Marmottant model)[4] において 復元力の特性 殻の影響によるマイクロバブルの挙動の変化などを数値シミュレーションを用いて求め T. Faez らの実験結果 [5] と比較する そして リン脂質膜などの殻の付いたマイクロバブルの振動の性質について物理的考察を行う は脂質からなっており ここではそれをダイラタント流体として捉え バブルの半径を R 1 外側までのバブルの半径を R として殻の粘性の効果は圧力テンソルの半径方向成分を積分し 境界条件と連続の条件を導入すると以下のようになる [6] R 1 u r 3 μ lipid r r dr = 1μ lipid εr R 1 R R ε ここで ε R であり また前式までにおいてはバブルの外径を R とおいていたので 表記を統一してバブル内外の圧力のつり合いを考えると以下のようになる P G P 0 = σ R R + 4μ R L R + 1μ lipid εr R 式 (1) の右辺に式 (3) の右辺第三項を加えた式を Modified Rayleigh-Plesset 式 (MRP model) と呼ぶことにする これは高分子である殻の粘性の影響を調べるために便宜的に作成したモデルである また ここで表面張力の影響を考える 殻の弾性が加わることにより マイクロバブルの表面張力は面積によって変化することがわかっている F. Petrict ら [7] は 代表的な超音波造影剤のひとつである SonoVue を用いた実験により 表面張力と () (3). モデルおよび支配方程式モデル図を Fig. 1 に示す 超音波の照射によりバブル内の気体体積が変化してバブル壁が半径方向に振動し バブルが膨張 収縮を繰り返す 座標はバブルの中心を原点とする極座標 1 次元モデルである 最初に 殻のついていない単一球形バブルの支配方程式を考える 非圧縮性のニュートン流体中の非凝縮性の気体を内部に含むバブルとする 周囲の液体について Navier-Stokes 式と連続の式 及び表面の境界条件より 以下の Rayleigh-Plesset 式 (RP model) が導かれる [6] Fig. 1 Analytical model. RR + 3 R = P G P 0 + P a sin ωt σ R 4μ R L R (1) 次に 殻の影響を考える 殻に注目したモデルを Fig. に示す 一般的に造影剤に用いられる殻 Fig. Shell model. 416 ff f

面積の関係から表面弾性定数 χの値を求めた その実験結果を Fig. 3 のように簡単化する [4] これより 表面張力は四段階に区別して考えることができる すなわち 気泡部分の収縮に殻の収縮が付いていけず 殻であるリン脂質膜のみが表面に飛び出す形になっている座屈 (buckled) 状態 気泡と殻がともに収縮 膨張している弾性 (elastic) 状態 気泡の膨張に殻が付いてゆけなくなり 殻が裂けて気泡がむき出しになっているものの振動は保たれている破裂 (ruptured) 状態 殻も気泡も分解されてバラバラになっている崩壊 (break-up) 状態である この上三段階の表面張力は以下のようになる σ R = σ 0 σ 0 + χ R 1 σ water R R buck (R buck R R rupt ) (R rupt R) これらを Rayleigh-Plesset 式に代入すると 以下のような Marmottant model [4] の支配方程式が導かれる (4) RP model Marmottant model の初期気泡半径と固有振動数の関係を Fig.4 に示す (MRP model は RP model に同じ ) これより マイクロバブルの固有振動数はバブル半径に大きく依存し 半径が小さいほど固有振動数が高いことがわかる 式 (5) を t = 1/ω 0 t で無次元化する x + 3 x 1 + x α + β 1 1 + α 1 + x 3κ+1 1 + x 1 + β ξ 1 + x + γ x 1 + x +ζ x 1 + x 3 + ξ = η 1 sin νt 1 + x ここで 無次元パラメータを以下のように置いた break-up (8) RR + 3 R R = P G P 0 + P a sin ωt 4μ L R σ R σ 0 + χ R 1 1μ R S ε R 0 R (5) 初期状態は極めて座屈状態に近いところにあるということから σ 0 = σ として以下の数値計算を行った 一般的な RP 式 (1) に R = 1 + x を代入して ρ 1 + x で割り 非線形項 減衰項 加振項を取り除いて線形化すると 固有振動数 ω 0 を求めることができる Fig. 3 Relationship between bubble area and surface tension[4]. ω 0 = 1 3κ P 0 + σ σ (6) 同様にして Marmottant model の固有振動数を求めると 以下のように書ける ω 0 = 1 ω 0 = 1 3κ P 0 + σ σ 0 3κ P 0 + σ σ 0 χ R R buck (7) (R buck R R rupt ) Fig. 4 Relationship between bubble radius and natural frequency. 417

α = P 0 ω 0 β = σ ω 3 0 γ = 4μ ω 0 ζ = 1μ lipid ε ω 0 3 ξ = χ ω 3 0 P a η = ω 0 : 初期気泡外圧力 : 表面張力 : 周囲液体の粘性 : 殻の粘性 : 粘弾性 : 超音波加振振幅 (a) RP model ν = ω ω 0 : 加振振動数 3. 数値計算 3.1 時刻歴本研究では RP model MRP model および Marmottant model に Runge-Kutta 法を用いて数値計算を行い 時刻歴と周波数分析結果を得た まず それぞれのモデルにおいて 共振点付近 ν = 1 で加振した時の 定常状態の無次元時刻歴と周波数分析結果を Fig. 5 に示す 加振は一般的な sin 波であり 周波数の成分としては 1 のみである また 加振の振動中心は 0 である これを見ると全体的に RP model MRP model はほとんど波形が変わらず その違いは MRP model の方がやや振幅が抑えられていることのみである 対して Marmottant model の方は振幅が大きく抑えられている いずれの場合にも 固有振動数の整数倍の周波数で振動する高調波成分が確認され 非線形性を示している すなわち 殻の有無にかかわらず マイクロバブルの存在によって 非線形信号が受信されることが確認された また 波形としては収縮 リバウンドを繰り返し下側が尖っていることがわかる この傾向は Marmottant model ではほとんど見られない さらに 振動中心を確認すると Marmottant model では de Jong や Marmottant[4] が述べている通り負の方向にずれる compression only behavior を示しているのに対し RP model MRP model では正の方向にずれていることが確認できる これらの確認された挙動に関して 次章で物理的な考察を行う (b) MRP model (c) Marmottant model Fig. 5 Time histories and spectra of primary resonance (P a = 100kPa, ν = 1). 3. 周波数応答三つのモデルでの周波数応答の例を Fig. 6 に示す 加振振動数 1 付近の主共振以外にも 加振振動数 付近や 0.5 付近などで共振が起きていることがわかる MRP model の振幅の抑えられ方が前節の時刻歴よりも明らかであるが RP モデル MRP model に関しては よく似た応答を示している ここで最も注目に値するのは 三つのモデルでの主共振の傾きである RP model MRP model は共振する振動数が固有振動数よりも小さくなるソフトスプリング特性を持ち この性質は主共振以外の共振部分にも表れているが Marmottant model は一見すると固有振動数よりも大きくなるハードスプリング特性を示している また式 (5) より 殻の粘性を表す ζ が入る項には x も含まれ 主に減衰として作用することが予想される この殻の粘性の影響を考えるため 殻の厚さを元の 4nm より徐々に大きくし MRP model 418 ff f

示される これは第二世代 特に脂質膜が単層で数 nm と薄くなっているマイクロバブルの 超音波造影剤としての有用性を裏付ける結果である Fig. 6 Frequency responses for three models. にて数値シミュレーションを行った すると 膜厚を大きくしていくにつれて振幅は抑えられ 膜厚が 8nm に達した時に 加振振動数 付近に見られていた共振が消えることが確認された 3.3 分数調波固有振動数の 倍 (ν = ) 付近での共振が場合により確認されないことを受け 最初と同じ条件で ν = 付近で加振した時刻歴と周波数分析を見ると いくつかの条件で加振振動数の 1/ の振動数である分数調波による共振が確認できた それらの結果を Fig. 7 8 に示す これを見ると 加振振幅に当たる音圧が 100kPa の時は全てのモデルで分数調波が確認されているが これを 60kPa に落としたときには Marmottant model でしか確認できないことがわかる 一般に分数調波は 加振振幅と減衰のせめぎあいにより その発生する領域が決まり 減衰が大きくなればなるほど 分数調波は現れにくくなる しかし Marmottant model は RP model に対して減衰が大きいにも関わらず RP model で確認できない分数調波が見られたということは 殻の影響が分数調波の発生を助長していると考えられる また Fig. 9 に 前節に示した 殻の厚さを変えた時の MRP model の時刻歴と周波数分析を示す 膜厚を増した時に消えた ν = 付近の共振は分数調波であったことがわかる 殻粘性項の係数の形から 膜厚に伴い粘性係数が大きくなるため 減衰が大きくなることで発生が抑えられるという一般的な分数調波の特徴に一致している よって これら二つのことから 殻が存在すると分数調波が発生しやすくなること それは殻の存在によって表面張力がバブル径とともに変化する性質に起因し 殻の粘性にはよらないことが 4. 物理的考察 4.1 直流成分本章では 数値計算結果からみられた特徴を 実際の物理的な側面から考察する まず de Jong らが示している殻付きマイクロバブルの特徴 compression only behavior について考察する 波は一般にフーリエ級数と考えられるので 以下のように分解して表すことができる f t = a 0 +a 1 sin ω 1 t + φ 1 + a sin ω t + φ + +a1 sin ω1t + φ1 + a1 3 この右辺第一項を直流成分と呼び 時間によって変化しない唯一の項である すなわち直流成分は (a) RP model (b) MRP model sin ω1t + φ1 3 3 (9) + (c) Marmottant model Fig. 7 Time histories and spectra of subharmonic resonance (P a = 100kPa, ν = ). 419

(a) RP model Fig. 9 Time history and spectrum of MRP model (ε = 8nm, P a = 60kPa, ν = ). (b) MRP model (c) Marmottant model Fig. 8 Time histories and spectra of subharmonic resonance (P a = 60kPa, ν = ). 振動において 全体として変形する傾向が正負のどちらであるかを表すことができ 本研究においてはバブルの膨張圧縮の振動中心がどちらにずれるかを示す尺度となる 各モデルの直流成分を数値計算によって求めた結果を Fig. 10 に示す compression only behavior を満たすには直流成分が負である必要がある Fig. 10 より これを満たすのは Marmottant model のみであり compression only behavior も殻の存在により表面張力がバブル径に伴い変化する性質に起因することが示される 4. 変位と復元力の関係振動中心がずれるということは もとの中心であった位置からの変位 x の正負によって 働く力の大きさが異なるということである そこで これらを考えるために RP model および Marmottant model から加振項と減衰項を取り除いた時の 膨張の変位 x とバブルに作用する力 f の関係を Fig. 11 に示す 破線は各式を x = 0 近傍で線形化した Fig. 10 Frequency responses of DC component. ものである また座屈している時 殻は緩んでその一部がバブルの表面から盛り上がっている状態であるので σ 0 = 0 とする Fig. 11 から考えると RP model では バブルが縮んだ時 (x < 0) 元に戻ろうとする力が線形 RP model よりも大きく 膨らんだ時 (x > 0) は線形より小さい すなわち膨張に対してよりも圧縮に対しての抵抗の力が大きいため 振動中心が x > 0 膨張側にずれる これを物理的に考察する RP model では バブルが広がろうとする力 即ちガスの圧力と 周囲の液体の圧力および表面張力で小さくなろうとする力が釣り合っている 半径 r の変化に対して ガスの体積は r 3 バブルの表面積は r に比例して変化するので ガスが押し込められると押し返す力は線形より急激に大きくなるのに対し ガスが膨張すると密度が低下し 戻ろうとする力は線形より小さくなる そのためバブルの振動中心はやや膨張した側にずれることになる 時刻歴の下側が尖った形も これに起因していると考えられる この図は x と f の関係を表すものであることは前述した いま mx + kx = 0 で表される一般的 40 ff f

なばね 質量系を考えた時 その式をこの図の形にすると x = k m x となる この系の固有振 動数はω 0 = k mで表されるので xとx の関係図においては その傾きの大きさによって特性が決まる 即ち 曲線の傾きが 線形化されたその式の傾きを上回るときにはハードスプリング特性 下回るときにはソフトスプリング特性となる いま RP model にこの考えを適用すると 振動中心が右にずれている時 振動中のおおむねの範囲でその傾きは線形の傾きよりも緩やかになっており 全体としてソフトスプリング特性となることがわかる 次に Marmottant model を考える こちらは バブルが広がろうとする力であるガスの圧力と 周囲の液体の圧力と殻の弾性力ともいえる表面張力で小さくなろうとする力が釣り合っているが 座屈状態では 殻が緩んでいる状態のために殻の弾性力が 0 になるので バブルが拡がろうとする力であるガスの圧力と周囲の液体の圧力のつり合いとなる よって膨張側では表面張力が殻の弾性力となるため 元に戻ろうとする力が線形化 RP の式よりも大きくなる また圧縮側では 弾性力が 0 になり xの大きさによりかかる力が線形よりも大きくなる範囲と小さくなる範囲があるが Fig. 11 を見ると 一般にマイクロバブルが振動により膨張圧縮する範囲であるx 0. 前後では 常に膨張側での元に戻ろうとする力の方が大きくなっていることがわかる よって殻付きバブルの振動中心は圧縮寄りにずれることが理解できる 振動中心が圧縮寄りである状態の時 Marmottant model の傾きはxの大きさによって変化する Marmottant らが前提としていた R の範囲ではその傾きは線形より緩やかであり ソフトスプリング特性となるが 振 幅が大きくなり x 1. となっている範囲では傾きが線形よりも急になるため 数値計算と同様の結果となるハードスプリング特性となる場合もある この変化を確かめるために行った数値計算の結果を次節で示す 4.3 主共振 T. Faez らは 数値シミュレーションによって 加振振幅を上昇させるにつれて 殻付きマイクロバブルの見かけの固有振動数は主に低下する と主張した [5] これは一般的にソフトスプリング特 (a) RP model (b) Marmottant model Fig. 11 Relationship between displacement and restring force. 性の特徴である これに対し 殻付きマイクロバブルの周波数応答曲線である Fig. 6 はハードスプリング特性を示している 殻付きマイクロバブルの主共振の示す特性を詳しく調べるため 加振振幅にあたる超音波圧力を 5kPa~00kPa で動かしたときの 主共振成分のみを取り出した共振曲線を Fig. 1 に示した これを見ると 加振振幅を大きくするにつれて 共振曲線全体が上方に広がっていくことがわかる さらに 一般的なソフトスプリング特性やハードスプリング特性のように共振曲線が低振動側もしくは高振動数側に傾くのではなく 途中で折れ曲がっている 共振曲線の頂点を追ってゆくと その傾向が顕著であり 加振振幅が 40kPa より大きいところではハードスプリング特性を示し それより低いところではソフトスプリング特 41

Fig. 1 Primary resonance curves for different ultrasonic amplitudes. 性を示すようになっている また Faez らは 実験より初期直径 3 μm 以下のバブルはハードスプリング特性を示し それ以上のバブルはソフトスプリング特性を示すと主張した [5] 章で示した無次元パラメータを考えると 半径が小さいほど粘性や表面張力の影響は大きくなり ハードスプリング特性を示しやすくなる しかし 同時に加振振幅は相対的に小さくなるため こちらからはソフトスプリング特性を示しやすくなる よって 殻付きマイクロバブルには特性の違う二種類があるわけではなく 加振振幅と初期半径のバランスにより特性が切り替わる 漸硬漸軟特性を示すと考えられる 今後より詳細な条件を引き続き調べていく予定である 5. 結言殻付きおよび殻なしマイクロバブルモデルで数値シミュレーションおよび物理的考察を行い マイクロバブルの振動における殻の影響を確認した 特に 膜厚の影響は殻粘性として現れ 振動を減衰させるように働くこと 殻付きマイクロバブルの振動中心の圧縮側へのずれは殻の存在によって表面張力がバブル径とともに変化する性質に起因することを確認し 物理的な説明を可能にした また その振動の主共振は音圧の域と初期半径のバランスによって特性が切り替わる漸硬漸軟特性を示すことを示唆する結果を得た 謝辞本研究の裏付けとなる貴重な実験データを提供していただいた Erasmus MC, Biomedical Engineering の Prof. Nico de Jong,Dr. Marcia Emmer および Dr. Telli Faez に深い感謝の意を示す Nomenclature P : liquid pressure [Pa] P a : ultrasound pressure [Pa] P G : gas pressure [Pa] R : bubble radius [m] t : time [s] u r : radial velocity [m/s] x : non-dimensional displacement [-] Greek letters ε : shell thickness [m] κ : heat rate [-] μ : viscosity [Pa s] ρ : density [kg/m 3 ] σ : surface tension [N/m] ω : natural frequency [rad/s] Subscripts 0 : initial state L : liquid state lipid : lipid phase 参考文献 [1] Tachibana, K., Application of Microbubbles for Therapy, Transactions of the Japanese Society for Medical and Biological Engineering, Vol. 43(), 11 15 (005). [] The Japan Society of Mechanical Engineers. ed., Frontiers of Micro-bubbles, v-vii, 3-1,Kyoritsu Publishing, Tokyo (006). [3] Moriyasu, F. and Iijima, H., Today and Future Outlooks of Ultrasound Imaging by Microbubble Contrast Agents (in Japanese), A Monthly journal of medical imaging and information, Vol. 38(5), 570 578 (006). [4] Marmottant, P., van der Meer, S., Emmer, M., Versluis, M., de Jong, N., Hilgenfeldt, S. and Lohse, D., A model for large amplitude oscillations of coated bubbles accounting for buckling and rupture, JASA, 118(6), 3499-3505 (005). [5] Faez, T., Emmer, M., Docter, M.,Sijl, J., Versluis, M. and de Jong, N., Subharmonic Spectroscopy of Ultrasound Contrast Agents, Proc. IEEE IUS, 173-1734(010). [6] Morgan, K., Allen, J., Dayton, P., Chomas, J., Klibanov, A. and Ferrara, K., Experimental and Theoretical Evaluation of Microbubble Behavior: Effect of Transmitted Phase and Bubble Size, IEEE UFFC, Vol. 47(6), 1494 1509 (000). [7] Pétriat, F., Roux, E., Leroux, J. and Giasson, S., Study of Molecular Interactions between a Phospholipidic Layer and a ph-sensitive Polymer Using the Langmuir Balance Technique, Langmuir, Vol. 0(4), 1393 1400 (004). 4 ff f