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熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repositor Title 小児慢性疲労症候群における疲労と認知障害に関する研 究 Author(s) 川谷, 淳子 Citation Issue date 2011-03-25 Type URL Thesis or Dissertation http://hdl.handle.net/2298/21722 Right

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目次 要旨 3 関連論文 5 略語一覧 6 研究の背景と目的 8 第 1 章小児型慢性疲労症候群 (CCFS) に関する概論 11 1.CFS CCFS の診断基準 11 2.CCFS の臨床症状 15 3.CFS CCFS 発症のメカニズム 16 第 2 章小児型慢性疲労症候群 (CCFS) における臨床的評価 ( 各論 ) 18 1) CCFS における疲労 意欲 18 1 目的 2 実験方法 3 結果 4 考察 2) CCFS における認知機能 -CCFS の認知機能の追跡調査 - 23 1 目的 2 実験方法 3 結果 1

4 考察 3) CCFS における睡眠覚醒リズムおよび身体活動 42 1 目的 2 実験方法 3 結果 4 考察 第 3 章総括 51 参考文献 60 別添 70 2

要旨 日本の不登校児童生徒の割合は小学生で約 0.3% 中学生で 3% に上ると報告され かろうじて登校できている児童生徒のなかにも 不定愁訴を抱えながら生活している 不 登校予備軍 は相当数に上ると考えられる このような不登校児童生徒が示す臨床症状は 小児型慢性疲労症候群 (Childhood chronic fatigue syndrome: CCFS) の診断基準を満た す場合が一部含まれる CCFS は 生命予後が不良な疾患ではないが 心身ともに発達すべ き小児期から思春期において不登校 ひきこもりの原因となり 児童の日常生活 社会生 活を長期にわたり著明にすることから 児童が 社会的な死 に瀕する原因となる CCFS は様々な環境要因 ( 身体的 精神的 物理的 化学的 生物学的ストレス ) と遺伝的要因 ( ストレス感受性 抵抗性 ) がバックグラウンドとなり 神経 内分泌 免 疫系相関の変調を引き起こすというホメオスタシスの低下現象によって引き起こされると 考えられている 本研究は CCFS における疲労 認知機能 睡眠覚醒リズムの評価を行い 予防および早期介入 早期治療につなげることを目的とした その結果 CCFS で内発的な 意欲の低下が明らかであり 努力 / 報酬比の不均衡が認められた また睡眠覚醒リズムの異 常 身体活動量の低下 注意機能 特に注意転換機能の低下が明らかであった 少なくとも注意転換機能に関しては 治療開始 6 カ月後に再評価し 精神疲労症状の改善 に伴い注意転換機能が回復しており 可逆的な機能異常であることが明らかとなった CCFS の予防 治療の観点から matmt を用いた認知機能検査やアクティグラフは非侵襲的で 客観的な評価が可能であるため臨床的に有用であると考えられる 児童の正常な睡眠覚醒 リズムの形成を促し 疲労の回復機構を維持することにより 慢性疲労状態に陥ることを 3

予防可能であるかもしれない また たとえ CCFS を発症した児童でも 睡眠覚醒リズムの 正常化に加え薬物療法 認知行動療法 (CBT) の併用療法を行うことで 子どもたちの脳機 能の回復が可能であることが示唆された 以上の結果から CCFS と 認知機能 脳機能 における検討を行い CCFS 発症の 機構の検討を試みた 4

関連論文 Junko kawatani, Kei Mizuno, Seishi Shiraishi, Miyuki Takao, Takako Joudoi, Sanae Fukuda, Yasuyoshi Watanabe, Akemi Tomoda Cognitive dysfunction and mental fatigue in childhood chronic fatigue syndrome -A 6-month follow-up study. Brain Dev, 10.1016/j.braindev.2010.12.009, 2010. Running title: CCFS and matmt 5

略語一覧 ACTH: 副腎皮質刺激ホルモン (adrenocorticotrophic hormone) ANCOVA: 共分散分析 (analysis of covariance) ANOVA: 分散分析 (analysis of variance ) BMI:Body mass index CBT: 認知行動療法 (cognitive behavioural therapy) CDC: 米国防疫センター (Centers for disease control and prevention) CFS: 慢性疲労症候群 (chronic fatigue syndrome) CCFS: 小児型慢性疲労症候群 (childhood type chronic fatigue syndrome) CRH: 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン (corticotrophin releasing hormone) DSM-Ⅳ-TR : 精神疾患の分類と診断基準 ; 第 4 改訂版 (The Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fourth Edition, Text Revision) DTA index: 日中 (8:00-21:00) の平均身体活動量 / 夜間 (0:00-5:00) の平均身体 活動量で表される活動 - 休息のリズムの指標 ERP: 事象関連電位 (Event-related potentials) FDG: 2 フルオロ 2 デオキシ D ブドウ糖 (2-fluoro-deoxyglucose) HPA axis: 視床下部 - 下垂体 - 副腎基軸 (hypothalamic-pituitary-adrenal axis) IACFS: 国際慢性疲労学会 (International Association for Chronic Fatigue Syndrome) IQ: 知能指数 (Intelligence Quotient) KPT: 仮名拾いテスト (kana pick-out test) 6

LTP: 長期増強現象 (long-term potentiation) matmt:modified advanced trail making test MRS: Proton magnetic resonance Spectroscopy PET: positron emission tomography PS: 疲労の程度を評価する指標 (performance status) SDS: 抑うつ傾向を評価する方法 (Zung self-rating depression scale ) SD: 標準偏差 (standard deviation) SPECT:Single Photon Emission Computed Tomography SSRI: 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (selective serotonin reuptake inhibitor) TMT:trail making test WISC-Ⅲ: 知能テスト (Wechsler Intelligence Scale for Children-Third Edition ) 5HTT: セロトニントランスポーター (Serotonin transporter) 5HTTLPR: セロトニントランスポーター遺伝子多型 (Serotonin transporter gene polymorphism ) 7

研究の背景と目的 文部科学省の調査によると 平成 21 年度国公私立小中学校における不登校児童生 徒の割合は小学生で 0.32% 中学生で 2.83% と報告されている 不登校とは 何らかの心 理的 情緒的 身体的あるいは社会的要因 背景により 登校しない あるいはしたくと もできない状況にあるため年間 30 日以上欠席した者のうち 病気や経済的な理由による 者を除いたもの と定義されている ここでいう 病気 とは 世間に周知されている内 科的疾患 ( 心臓 肝臓 腎臓 血液疾患など ) や外科疾患をさしていることは明白である が 何らかの心理的 情緒的 身体的とはどう理解すればよいのだろうか このような登 校したくともできない状況を明確に説明するための医学的な研究が これまでに十分にな されたとは言いがたい そのために多くの不登校児童生徒は 気持ち 根性の問題であると か 学校嫌いというレッテルを貼られ 家族や学校 社会から理解されず著しく適切さを 欠いた対応をうけている現状がある また かろうじて登校できている児童生徒のなかにも なんとなくだるい 頭痛 がする 意欲 集中力がないといったいわゆる不定愁訴を抱えながら生活している 不登校 予備軍 は相当数に上ると考えられる これまでの医学的検討により 不登校児童生徒が示す臨床症状は 慢性疲労症候 群 (Chronic fatigue syndrome: CFS) の診断基準を満たす場合が多く含まれることが明ら かになってきた (Tomoda A et al. 2000, Miike T et al,2004. Tomoda A et al. 1994,Tomoda A, et al. 2001) 最近の研究によれば 英国の CCFS( 平均 14.6 才 ) のうち 毎日登校で 8

きる児童生徒は 11% 程度で 62% は規定された全登校日数の 40% 以下しか登校できておら ず うち 28% は全く登校できていないという報告 ( E Crawley, Arch.Dis Child 2009 ) があるほか 熊本大学医学部附属病院発達小児科における調査でも 不登校を主訴に受診 した小児 ( 平均 13.3 才 ) のうち約 36% が小児型の慢性疲労症候群 (Childhood chronic fatigue syndrome: CCFS) の診断基準を満たし その 56% は中等度以上の重症度を示して いた (Joudoi T et al,2009) また 小児期に慢性疲労症候群に陥った子どもたちの予後は 報告によって大き な差があるが Bell らの報告によると 13 年間経過し 80% の患者は改善から治癒に至ったとし ながらも その約半数は軽度から中等度の症状の持続を認め 20% 程度の患者は改善が認 められないかむしろ悪化したという (David S Bell,2001) このように CCFS は 生命予後 が不良な疾患ではないが 心身ともに発達すべき小児期から思春期にひきこもりの原因と なり 長期にわたり著明に日常生活 社会生活を障害することから社会的な死に瀕する原 因となるのである こうした憂慮すべき現状を打破するために 本研究では CCFS 患者を対象とした健 常コントロールとの比較研究および CCFS 患者における追跡研究を行い CCFS の発症要因や 認知 脳機能を中心とした疾患の特徴を検討し 予防および早期介入 早期治療につなげ ることを目的とした なお本研究は独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発事業研究開 発領域 脳科学と社会 研究開発プログラム 脳科学と教育 タイプ Ⅱ 非侵襲的脳機能 9

計測を用いた意欲の脳内機序と学習効率に関するコホート研究 の分担研究として 主に CCFS における疲労 意欲 認知機能の評価を行った 10

第 1 章小児型慢性疲労症候群 (CCFS) に関する概論 1.CFS CCFS の診断基準 慢性疲労症候群 (Chronic fatigue syndrome : CFS) は 健康に生活していた人 が 上気道炎などの罹患を契機に ( あるいは明確な契機を見いださないまま ) 原因不明の 激しい全身倦怠感に襲われ それ以降疲労感とともに微熱 頭痛 脱力感や思考の障害 抑うつなどの精神神経症状などが長期に持続し 健全な社会生活が困難になるという疾患 である (Kitani T et al. 1992) 1984 年 米国ネバダ州における原因不明の疲労患者の集 団発生に端を発し 1988 年 米国防疫センター (CDC) が CFS という疾患の概念とともに診 断基準を制定した (Holmes GP, 1988.) 以後 改正が重ねられ 1994 年に発表された CDC の Fukuda 診断基準 (Fukuda K et al, 1994) が 現在世界中で最も広く臨床 研究に用いら れている 日本においても 1990 年 大阪大学医学部血液腫瘍内科で最初の症例が報告さ れ 1992 年厚生省の CFS 研究班診断基準および疲労の程度を評価する指標 (performance status:ps) を作成 (Kitani T et al, 1992) 2007 年に CFS をより客観的に診断できるよう な診断基準に改訂された ( 特集号慢性疲労症候群診断基準の改定に向けて. 日本疲労 学会雑誌 3(2):1-40,2008.)( 別添表 1.) 一方で 小児においても成人と同様の病態が報告されている 1985 年には米国で 群発 202 例が報告され うち 65 例 (33%) が 18 歳以下の小児であった (Bell D, 1989) 本邦では 1993 年に三池らが不登校児のなかに CDC が提示した CFS の診断基準を満たすもの 11

が多く存在し 不登校状態と小児型の CFS の関係を報告したことに始まり 現在までに多 くの報告がなされている 本邦における診断基準としては 2004 年厚生労働科研費研究班 で診断基準および疲労の程度を評価する指標 (PS) が制定された ( 三池 2004) この診断基 準は 成人 CFS の CDC 診断基準をもとに研究班員の外来患者統計データをもとに作成され 小児期発症の CFS を成人型と区別する意味で小児型慢性疲労症候群 (Childhood chronic fatigue syndrome: CCFS) と呼ぶようになり PS は成人 CFS で制定されたものを小児の病 態にあわせて改訂した これらの制定は 軽症期に確実に診断し 早期に対応することに より引きこもりに至る重症の CFS に陥ることを未然に防ぐことを目標としており 診断に 至る期間を 30 日とした点 大基準を満たすが小基準を満たさない症例を CFS( 疑診 ) と位置 付けた点が特徴である さらに 2005 年には国際慢性疲労学会 (International Association for Chronic Fatigue Syndrome: IACFS) において CCFS に関する討議が始まり 2006 年 Jason らにより CCFS の国際診断基準案 (Jason,2006) が発表された その翌年に IACFS 学会で承 認されたことにより 国際的にも同一の基準が臨床 研究の双方に用いられることが可能 となった この診断基準も早期診断早期治療の観点から 診断に至る期間を 3 カ月間に制 定している 12

表 1-1 小児慢性疲労症候群国際基準による診断と重症度 I. 診断 小児 ME/CFS 小児 ME/CFS 様症状 ( 古典的症状が全てそろうが期間が3カ月以内 ) 非定形小児 ME/CFS( 古典的症状を1つ満たさないがその他の症状は期間が3カ月以上持続している ) 小児 ME/CFS 以外の診断 II. 重症度と寛解 最軽度 ( 登校可能 診断をちょうど満たす程度 ) 軽度 ( おそらく登校可能 診断のいくらかの症状存在 ) 中等度 重度 ( しばしば引きこもり 終日就床 ) 部分寛解 ( 登校可能 過去には診断基準を満たしていたが現時点ではいくつかの症状を残すのみである ) 完全寛解 ( 登校可能 症状は存在しない ) 小児慢性疲労症候群国際基準 I. 臨床的検討により説明困難な 持続的あるいは再発性の過去 3 カ月以上にわたる疲労であり下記の条件を満たす もの A. 進行中の労作の結果ではない B. 安静によって実質的に軽減されない C. 結果として教育的 社会的および個人の活動が以前のレベルに比べて相当な減少がある D. 少なくとも3カ月の間 持続あるいは再発する II. 下記に示すME/CFSにおける古典的な症状が過去 3カ月間において同時並行的に認められる ( 症状はおそ らく疲労の発症に先だって認められる ) A. 労作後倦怠感 労作後疲労 特に激しい労作ということではなく階段を上る コンピューターを使う 本を読むなどの行為の中で 急速な身体疲労や認知力の疲労 労作後疲労 あるいはほかの症状が悪化するなど 回復が遅くしばしば 24 時間以上を要する B. 睡眠障害 疲労を回復できない睡眠 睡眠量及びリズム ( 質 ) の障害 過眠型睡眠障害 ( 頻回の昼寝を含む ) や入眠困難 早朝覚醒あるいは昼夜逆転 C. 疲労 しばしば広範囲にわたる移動する疼痛 ( または不快感 ) 以下のいずれかからの少なくとも 1 つの症状を有する 筋 筋膜および / または間接疼痛 ( 筋 筋膜疼痛は 深部痛 筋収縮また は うずきおよび筋肉痛を含む 疼痛 こわばりまたは痛みに対する過 敏性は どんな関節にでもさらに複数の関節で起こる可能性がある 腫 脹などの炎症所見を欠く ) 腹痛 頭痛 ( 目の痛み 羞明 胃痛 嘔心 嘔吐または胸の痛みなどが伴うか もしれない 頭痛はしばしば 眼の奥が痛い 後頭部が痛いと表現される事が多い ほかの部位の頭痛 片頭痛を含む ) D. 神経認識徴候 以下の項目の中から少なくとも2つの症状 記憶障害 ( 短期に関する情報 最近の出来事を思い出せない ) 問題点を絞り込む能力 ( 焦点化 ) の低下 ( 作業を持続するための集中力 教室内での必要なあるいは不必要な情報の選択を行うこと あるいは読 むことやコンピュータ作業 テレビ番組に集中する能力が低下している 可能性がある ) 的確な単語を見つけ出すことが困難 言いたいことをよく忘れる 関心のなさ 思考の鈍磨 情報を思い出せない 一度に1つのものにし か集中できない よくないことが頭に浮かぶ 情報理解困難 思案の連続性を失う 数学などの教科で新たな困難を生じる E. 他のカテゴリー 以下の 3 つのカテゴリーのうち 2 つからの少なくとも1つの症状 1. 自律神経症状 神経性に引き起こされた低血圧 姿勢起立性心頻拍症 遅延型起立性低 血圧 心不整脈を伴うあるいは伴わない動悸 眩暈 バランス消失 息 切れ 起立位で体位不安定 2. 神経内分泌系症状 熱感と四股冷感 微熱と著明な日内変動 発汗 暑さや寒さに対する耐 性の低下 体重の著明な変化 食欲不振または異常な食欲 ストレスに よる症状の悪化 3. 免疫性症状 インフルエンザ様症状の繰り返し 非滲出性咽頭頭痛またはイガイガ感 繰り返す熱発や発汗 リンパ節痛や腫脹 ( 通常は軽度の腫脹 ) 食物 臭いあるいは化学物質に対する新たな過敏症 13

Ⅲ. 除外すべき疾患群 A. 以下に示すような慢性的な疲労状態を説明できるような活動性の疾患 未治療の甲状腺機能低下症 睡眠時無呼吸 ナルコレプシー 悪性新生物 白血病 完治していない肝炎 多発性硬化症 若年性関節リウマチ 紅斑性エリテマトーデス HIV 感染 AIDS 高度肥満 (BMI>40) セリアック病 Lyme 病 Ⅳ. 明確な説明ができないが疲労状態を示すものであり除外する必要のないもの B. 以下に示すような 慢性的な疲労の存在を説明できる活動性の精神疾患群 小児期統合失調症または精神病性疾患 躁うつ病 活動性アルコール依存症または薬物乱用 - 以下のものを除く a. 上記であっても治療に成功し解決されている場合 活動期の神経性食思不振症 ( 拒食症 ) および過食症 以下のものを除く a. 食行動異常であっても治療に成功し解決されている場合 うつ病 以下のような精神医学的疾患 a. 不登校 b. 分離不安 c. 不安障害 d. 身体型障害 e. うつ その他 診断検査で確立することができない症状により定義される以下のような状態 a. 複数の食物あるいは化学物質に対する過敏症 b. 線維性筋痛症 その病態に関連している症状を緩和するための特定で十分な治療を受けており その状態に対して適切な治療がしられているもの その病態が慢性徴候的な後遺症を残す前にしっかりした治療を受けているもの 除外疾患の存在を強く示唆するには不十分である かけ離れた不可解な身体所見 検査 画像所見の異常を示す病態 14

2.CCFS の臨床症状 診断基準に示すように 成人の CFS と同様 CCFS は疲労を中心に睡眠の問題 疼 痛 神経認知症状 自律神経症状 神経内分泌症状 免疫性症状などを呈する Alfredo ら (2009) によれば 成人 CFS では咽頭痛 嚥下痛が高率であるのに対し CCFS で は反復性の腹痛や動悸 起立性低血圧などが高率に認められると報告している Bell らの報告では疲労 労作後疲労に加え 睡眠障害 疼痛 神経認知症状が高率に認め るという特徴を呈している 筆者らの調査でも Bell ら同様の結果を示した (Joudoi,2009) 数編の論文から CCFS の症状の頻度をまとめたものを表に示す 表 1-2 CCFS における臨床症状の出現頻度のまとめ 症状 平均 % 疲労 100 睡眠障害 70 疼痛 頭痛 76 咽頭痛 70 筋痛 68 その他 54 神経認知 64 自律神経 めまい 42 微熱 40 (7 編の論文の臨床症状に関する報告から平均 % を求めた Joudoi, 2009, Felder HM, 1994Bell KM,1991; Marshall GS, 1991;Smith MS, 1991;Bell DS, 1989;Walford GA, 1993) 15

3.CFS 発症のメカニズム これまでの先行研究による知見をまとめると 図に示したように CFS CCFS は様々 な環境要因 ( 身体的 精神的 物理的 化学的 生物学的ストレス ) と遺伝的要因 ( スト レス感受性 抵抗性 ) が複合的に作用して 神経 内分泌 免疫系の変調をきたした状態 と考えられている 細胞障害や NK 活性低下などによるウイルスの再活性化 慢性感染症により種々の サイトカイン異常が起こり サイトカインが脳への疲労シグナル伝播物質となり また一 部のサイトカインは脳での疲労惹起物質となる こうして脳 神経系の機能異常を引き起 こすのではないかと考えられる ( 図 1-1) 16

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第 2 章小児型慢性疲労症候群 (CCFS) における臨床的評価 ( 各論 ) 1) 質問紙による疲労 意欲低下の評価 1 実験方法 対象 : 熊本大学医学部附属病院発達小児科を疲労 不登校状態 その他不定愁訴を主訴に 受診した患者で 書面にて研究への同意が得られた 127 名のうち CCFS の国際診断基準によ り CCFS と診断された中学生で かつ質問紙を回収できた 80 名 ( 平均年齢 13.4±0.9 才 男性 42 名 女性 38 名 ) を対象とした 健常コントロールは 熊本県下の 1 中学校を対象 にリクルートし 64 名 ( 平均年齢 13.3±1.0 才 男性 29 名 女性 35 名 ) を対象とした 質問紙による評価 : 質問紙は CCFS 健常コントロールともに疲労の評価に Chalder 疲労 質問票日本語版 ( 別添 1) 意欲の評価に内発的 - 外発的動機づけ尺度日本語版 ( 別添 2) を使用した Chalder 疲労質問票日本語版 :Chalder 疲労質問票は Chalder らによって 1993 年 に報告され 14 項目からなり身体疲労と精神疲労の因子によって構成されている (Chalder T, 1993) 成人の慢性疲労の評価尺度であったが Patel MX らにより小児への使用の妥 当性が確認されている 内発的 - 外発的動機づけ尺度日本語版 : 本尺度は学習場面における特性としての 内発的動機付けを測定する尺度である 1 知的好奇心 ( 興味や好奇心から様々な知的課題 に取り組む傾向 )2 達成 ( 教師や友人に頼ることなく 自力で課題に取り組む傾向 )3 挑 18

戦 ( 難しい課題に取り組もうとする傾向 )4 認知された因果律の所在 ( 自分の学習行動を 自分で引き起こしていると認知するか 親や教師により引き起こしていると認知するか ) 5 内生的 - 外生的帰属 ( 自分の学習行動に対して その学習行動それ自体が目的と考える か それとも別の目的がありその学習行動をとっていると考えるか )6 楽しさ ( 知的活動 をしているときに感じる楽しいという感情 ) を仮定し これら 6 つの側面を測定できるよ うに尺度構成されている 学習における努力 - 報酬尺度 : ドイツの Siegrist が提唱した努力 - 報酬不均衡モ デルの日本語版 ( 堤らが作成 ) は 状況特異的な要因を測定する 外在的な努力 外在的 な報酬 の 2 つの尺度と 個人要因を測定する オーバーコミットメント という尺度か らなる 主に成人での状況が想定されており 外在的努力 には仕事の要求度 責任 負 担の項目が含まれ 外在的な報酬 には経済的な報酬 ( 金銭 ) 心理的な報酬 ( セルフエス ティーム / 自己肯定感 ) キャリアに関する報酬 ( 職の安定性や昇進 ) が含まれる 職業生活 において自己の努力と 得られるべき報酬が釣り合わないと人はストレスや疲労を感じや すいと考えられている オーバーコミットメントは仕事に過度に傾注する個人の態度や行 動パターンであり 仕事上認められたいという強い願望を表す それ自体がリスク要因で あり 上記のモデルを修飾すると考えられている これらの状況が小児における学習でも 成り立つと仮定し 成人版の尺度の仕事や職域の部分を学習や学校に置き換え開発された 学習における努力 - 報酬尺度 ( 福田ら ) を本研究では採用した ( 独立行政法人科学技術 振興機構社会技術研究開発事業研究開発領域 脳科学と社会 研究開発プログラム 脳 科学と教育 タイプ Ⅱ 非侵襲的脳機能計測を用いた意欲の脳内機序と学習効率に関する 19

コホート研究 研究開発報告書 ) 解析方法 : 学習意欲 疲労の平均得点 CCFS 患児と健常コントロールの比較は t 検定 ( t-test) により行った 学習における努力 - 報酬尺度の解析は一元配置分散分析 (analysis of variance:anova) により行った 2 結果 :CCFS 患児は健常児に比べ疲労得点が有意に高く (p<0.01) 学習意欲の総得点及 び 因果律と楽しさの項目の得点が有意に低かった (p<0.01)( 表 2-1-1) 学習における 努力 - 報酬尺度の解析では 不登校状態の CCFS 群と登校可能な CCFS および健常児群との 間では 努力 / 報酬比に有意に差があることが明らかになった (p<0.001)( 表 2-1-2) 3 考察 : CCFS では疲労度が高く 学習意欲は低い事が明らかとなった また自分の学習 行動が親や教師など周囲により引き起こされていると感じており ( 因果律 ) 学ぶ楽しさを 実感しにくい ( 楽しさ ) という事が明らかとなった 疲労は 特に学習意欲のうち 因果律 と 楽しさ の項目に影響を与えやすいことは 健常児コホートの成果からも明らかとなっている しかし これらの神経基盤は未だ明ら かになっていない 健常成人を対象とした Mizuno らによる研究では ワーキングメモリー課題施行時 に金銭報酬が得られる場合と課題成績により達成感が得られる場合の脳神経活動について fmri を用いた比較検討を行っている (Mizunoet al,2008) その結果 達成感が得られ しかも学習意欲が高いほど健常成人では線条体 ( 特に被殻 ) の神経活動がより賦活されて 20

いることがわかった また賦活度が高いほどタスクパフォーマンスが良好であることも明 らかとなった この研究では疲労と意欲の関連性は検討されていないが 学習意欲が高い ほど 線条体が賦活されるという仮説を本研究の CCFS にあてはめれば 今回の結果にみら れるように CCFS では疲労度が高く自発的な意欲が低下しており 線条体の賦活が低い可能 性がある そのためパフォーマンスが上がらず 努力している ( させられている ) のに 結果が出ず達成感が得られず学習を楽しいと思えない場合が多いのかもしれない 加えて 成人 CFS では課題遂行時に健常人よりも広範な脳部位を活動させているという報告 (Lange,G. et al, 2005) もあり 課題遂行にかなりの労力を注いでいることが疲労や努 力 / 報酬比の不均衡を招いている事も予想される また登校状況により努力 / 報酬比に差が あることから 登校自体が達成感となっている可能性もある 21

表 2-1-1 学習意欲 疲労の平均得点 CCFS 患児と健常児の比較 項目群 N 平均値標準偏差有意確率 ( 両側 ) 学習意欲総得点 HC 58 82.05 12.88 P<0.01 CCFS 68 75.16 14.27 好奇心 HC 62 14.19 3.00 NS CCFS 77 13.32 2.88 因果律 HC 63 13.87 3.19 P<0.01 CCFS 72 11.88 3.64 達成 HC 63 14.25 2.63 NS CCFS 78 14.04 3.69 帰属 HC 63 12.63 2.39 NS CCFS 73 11.82 2.68 挑戦 HC 60 11.65 3.90 NS CCFS 77 11.88 4.17 楽しさ HC 61 15.49 2.92 P<0.01 CCFS 76 12.09 3.47 Chalder 疲労得点 HC 64 18.58 6.79 P<0.01 CCFS 80 23.38 8.14 HC, 健常コントロール (healthy control); CCFS, 慢性疲労症候群 (childhood chronic fatigue syndrome); NS, 統計的に有意でない (t- 検定 ) 表 2-1-2. 学習における努力 - 報酬得点 CCFS 患児と健常児の比較 ( 中学生のみ ) CCFS 項目 不登校 Mean (SD) n = 73 不登校でない Mean (SD) n = 5 HC F df P n = 64 努力得点 4.21 (0.78)* 3.80 (0.45) 3.80 (0.74) 5.20 2 0.007 報酬得点 5.47 (1.20) 5.60 (0.89) 5.95 (1.19) 2.89 2 0.06 OC 得点 3.75 (0.82) 3.60 (0.89) 3.63 (0.79) 0.46 2 0.63 努力 / 報酬比 1.07 (0.31)* 0.82 (0.14) 0.88 (0.24) 8.11 2 <0.001 22

2)CCFS における認知機能 -CCFS の認知機能の追跡調査 - 1 実験方法 目的 : CCFS の認知機能 ( 特に注意機能 ) を非侵襲的脳機能計測のひとつである modified advanced trail making test (matmt) を用いて評価し CCFS の特性を明らかにする さらに 6 カ月の治療介入後に再評価する 対象 : 熊本大学医学部附属病院発達小児科を疲労 不登校状態 その他不定愁訴を主訴に 受診した患者で 書面にて研究への同意が得られた 127 名のうち CCFS の国際診断基準によ り CCFS と診断され かつベースライン ( 初回検査 ) フォローアップ ( 初回検査から 6 カ 月後 ) の 2 回において評価が可能であった中学生 19 名 ( 平均年齢 13.4±0.9 才 男性 7 名 女性 12 名 ) を解析対象とした ( 図 2-1-1) 健常コントロールは 熊本県下の中学生をリクルートし 25 名 ( 平均年齢 13.3±1.0 才 男 性 13 名 女性 12 名 ) を対象とした ( 表 2-1-1) 23

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方法 : 認知機能検査として Task A-E の 5 種類の課題で構成される matmt 検査を実施し た matmt は タッチパネルディスプレイ上に提示された 1~25 の数字 (123 ) を順 番に素早く押す視覚探索反応課題を用いた認知機能検査であり 各個人の知的水準 (IQ: intelligence quotient) や経験は結果に影響しないとされている (Kajimoto,2008) m ATMT は従来 A4 紙で行われていた TMT(trail making test)- ランダムに配置された 1~25 の数 字を一筆書きの要領で線を引く課題 - をパソコン上で行えるよう改良したもので TMT とは 異なり ターゲットの探索反応時間が測定でき 反応ごとにすべてのターゲットを再配置 させることや反応済みのターゲットを消して新規にターゲットを追加表示することが可 能である ( 図 2-2-2)Task A は 押した数字が白から黄色に変化する課題であり 選択的 注意および視空間的ワーキングメモリー機能を評価する Task B は ある数字を押したと き 新たな数字が画面上に出現する課題であり 選択的注意および視空間的ワーキングメ モリー機能を評価する Task C は ある数字を押したとき 新たな数字が画面上に出現す ると同時に画面上の全ての数字の配列が変化する課題であり 選択的注意機能を評価する Task D は 画面上に順番に整列した数字を押す課題であり モータースキルを評価する Task E は 数字および平仮名を交互かつ順々に押し 押した数字が白から黄色に変化する 課題であり 注意転換および視空間ワーキングメモリーを評価する 25

図 2-2-2 matmt 検査 Task A-E の 5 種類の構成課題 Task A は 押した数字が白から黄色に変化する課題であり 選択的注意および視空間的 ワーキングメモリー機能を評価する Task B は ある数字を押したとき 新たな数字が画面上に出現する課題であり 選択的 注意および視空間的ワーキングメモリー機能を評価する 26

Task C は ある数字を押したとき 新たな数字が画面上に出現すると同時に画面上の全 ての数字の配列が変化する課題であり 選択的注意機能を評価する Task D は 画面上に順番に整列した数字を押す課題であり モータースキルを評価する 27

Task E は 数字および平仮名を交互かつ順々に押し 押した数字が白から黄色に変化す る課題であり 注意転換および視空間ワーキングメモリーを評価する 28

仮名拾いテスト : 仮名拾いテストは 注意配分機能の評価が可能なテストであり 臨床現 場における認知機能評価のひとつとして用いられている 平仮名だけで書かれた物語の文 章を 2 分間黙読しながら 同時に母音 あ い う え お の 5 文字が出てくるごとに見 落とさないように母音に 印をつけてもらうテストであり ただ単に母音を拾い上げるだ けでなく 同時に物語の内容を読み取り理解することが要求される ( 別添 4.) つまり 二つのことを並行して同時に行う二重課題であり 適切な注意力の配分が必要である 実験デザイン : ベースライン ( 初回検査 ) では 健常コントロール群と CCFS 群において matmt と仮名拾いテスト Chalder 疲労尺度と質問紙記入を実施した CCFS 群に対しては ベース ラインの検査後 主に抗うつ剤と認知行動療法 (CBT) の併用療法を行った 約 6 カ月間の フォローアップの後 CCFS 群のみで再度 matmt と仮名ひろいテスト Chalder 疲労尺度と質 問紙記入を実施して評価した 治療法 : CFS に対する非薬物療法として CBT や段階的運動療法 (GET) の有効性が数多く報 告されている (Stulemeijer M,2005,Prins JB,2001, Deale A,2001, Wallman KE,2004, Powell P, 2004, Vercoulen JH,1996) これらは心理学的アプローチで 疲労を中心とす る症状を遷延化させる認知の歪み ( 過剰適応 活動回避 身体症状へのこだわりなど ) を患 者が自覚できるよう援助し 適切な作業 休息計画の作成と実施 活動量の漸増を行い 仕事や学校生活を含めた日常生活機能を回復させるというもので セルフコントロールの 獲得と再発防止をねらった治療法である 最近の報告で 抗うつ剤と認知行動療法 (CBT) 29

の併用療法は 思春期発症のうつ傾向を併存するいくつかの疾患において 抗うつ剤 認 知行動療法の単独治療よりも有効性が高いという報告があり (Asarnow JR et al,2009) 今 回 対象とした CCFS 群の SDS うつスコアで いずれの症例も中等度以上のうつ状態を示して いたため 抗うつ剤と認知行動療法の併用療法も行った 本研究においては 6 カ月のフォ ロー中 全症例に対し 1 回のセッションが 30 分から 60 分の CBT を平均 5 回行い 薬物療法とし て 19 名中 6 名 (32%) は 抗うつ剤を投与した うち 4 名は選択的セロトニン再取り込み阻 害剤 (SSRI) を 1 名はスルピリドと SSRI 1 名は塩酸ミドドリンと SSRI の併用投与であっ た その他 5 名は塩酸ミドドリン単独投与 4 名は睡眠薬などの投与 残り 4 名は薬物投与を 行わなかった 解析方法 : ベースラインにおける健常コントロールと CCFS の性別の比較には Fisher 検定 を 年齢 BMI 罹病期間の比較は一元配置分散分析 (analysis of variance: ANOVA) を 行った 仮名ひろいテストの比較は年齢 性別を共変量として共分散分析 (Analysis of covariance: ANCOVA) を行った Chalder 疲労尺度と matmt の A-E 各課題における反応時 間 (total reaction time) および Task A, B, C, E の反応時間からモータースキルである Task D の反応時間を減算した反応時間 (difference in total reaction time) の比較は 二元配置分散分析 (Two-way analysis of variance: Two-way ANOVA) を用いて統計解析を 行った 主効果が有意である場合には 事後検定として Bonferroni 検定を行った 健常児 と CCFS を基準変数として バッテリー尺度である difference in total reaction time を予測変量として用い判別分析を行った フォローアップにおける CCFS の Chalder 疲労尺 30

度と matmt の A-E 各課題における total reaction time および difference in total reaction time の比較は 反復測定による二元配置分散分析 (repeated two-way analysis of variance: repeated two-way ANOVA) を用いて統計解析を行った 主効果が有意である 場合には 事後検定として Bonferroni 検定を行った ベースラインとフォローアップ時の difference in total reaction time の変化量と Chalder 疲労尺度の変化量の関係は Pearson の相関係数により検定した 上記の統計解析には SPSS 17.0 software package (SPSS, Chicago, IL) を使用した 結果 : 健常児と CCFS の基本統計量は表 2-3 に示す 性別 (Fisher exact,p = 0.372) 年 齢 (F =1.51, P = 0.225) では有意差を認めなかった CCFS の SDS うつスコアは平均 53.3±6.7 点で すべての患者においてうつ傾向 (40 点以上 ) を有し 知能指数 (IQ) の平均は 97.1 ±9.5 で言語性 IQ と動作性 IQ のディスクレパンシーは認めなかった 健常児と CCFS の間に仮 名ひろいテストの仮名ひろい点数 (F =0.00, P = 0.973) および内容理解 (F = 2.50, p = 0.124) において有意差は認めなかった ( 表 2-2-1) ベースライン :Chalder 疲労尺度は二元配置分散分析でグループ間に主効果を認 め (F (1,42) = 29.30,p < 0.001) 事後検定により 身体的疲労得点 (p= 0.002) 精神疲 労得点 (p= 0.013) 総疲労得点 (p = 0.002) とすべてのカテゴリーで CCFS 群において明 らかに疲労得点が高かった matmt の A-E 各課題 total reaction time および Task A, B, C, E の difference in total reaction time は total reaction time はグループ間に主 効果を認めなかった (F (1,42) =2.09, p=0.15) 一方 difference in total reaction time 31

ではグループ間に主効果を認め (F (1,42) =5.23,p=0.023) 事後検定により Task A, B, C の difference in total reaction time で有意差を認めなかったが Task E においては CCFS 群に明らかな反応速度の遅延を認めた (p = 0.037, Student s t-test without Bonferroni correction; 表 2-2-2) 健常児と CCFS を基準変数として difference in total reaction time を予測変量とした判別分析では 予測の精度を示す正準相関係数が 0.417, また予測の全体平均値のグループ間の平均差の有意水準を示すウイルクスのラムダが 1% 水準で有意 (Λ=0.707, χ 2 =13.951,df=4, p <.01, two-tailed test) で, 判別分析の有 効性が確認され全体として健常児群と CCFS 群の判別に 70.5% の識別力を有した この場 合 task A (P = 0.410, standardized canonical coefficient β = -0.331), task B (p = 0.975, β= -1.574), or task C (p= 0.129, β= 1.358) とグループ間に有意差はなか ったが task E においては CCFS 群に明らかな反応速度の遅延を認め (p= 0.037, β= 1.076) 判別に重要な役割を示した フォローアップ :CCFS の Chalder 疲労尺度と matmt の A-E 各課題の the total reaction time および Task A, B, C, E の difference in total reaction time において は 反復測定による二元配置分散分析 (repeated two-way analysis of variance repeated two-way ANOVA) を行った Chalder 疲労尺度のデータ測定の時期に主効果を認めず (F (1,42) =0.72, p=0.407) 身体的疲労得点 (p= 0.854) 精神疲労得点 (p = 0.275) 総疲労得 点 (p= 0.407) とフォローアップによる疲労得点の減少は認めなかった matmt の A-E 各課題 total reaction time および Task A, B, C, E の difference in total reaction time の比較では total reaction time ではグループ間に主効果を認 32

めず (F (1,42) =2.09,p=0.15) difference in total reaction time(f (1,42) =2.09, p= 0.015) でグループ間に主効果を認めた (F (1,42) =7.30, p=0.015) 事後検定により Task A, B, C の difference in total reaction time で有意差を認めなかったが Task E にお いてはフォローアップ後に明らかな反応速度の改善を認めた (p = 0.037, Student s t-test without Bonferroni correction; 表 2-2-2) PS スコアはベースライン (mean, 4.4; SD, 0.7) に比較しフォローアップ (mean, 3.2; SD, 0.8) では著名な改善が認められた (p = 0.01, paired t-test) 疲労得点の変化量 ( ベースライン - フォローアップ ) と matmt の Task E の difference in total reaction time の変化量 ( ベースライン - フォローアップ ) の関連 では 精神疲労得点 (p= 0.002) 総疲労得点 (p= 0.003) と Task E の difference in total reaction time の変化量が正の相関を認めたが 身体的疲労得点 (p= 0.168) では相関を 認めなかった ( 表 2-2-3 図 2-1-2) これは治療後の精神疲労の改善度が良好であるほど Task E の difference in total reaction time の改善があったことを示す 33

表 2-2-1. 健常児とCCFSの基本統計量 HC CCFS F value P value 対象人数 25 19 性別 ( 男性 / 女性 ) 13/12 7/12 0.372* 年齢 ( 才 ) 初診時年齢 13.3 ± 0.7 13.6 ± 0.7 1.51 0.225** 発症年齢 13.3±0.5 罹病期間 ( ヵ月 ) 0 ± 0 7.6 ± 5.8 30.80 <0.001** BMI (kg/m 2 ) 19.0 ± 2.1 20.0 ± 3.8 0.47 0.468** WISC-III ( 得点 ) VIQ n.m. 98.1 ±10.5 PIQ n.m. 96.7±9.2 FIQ n.m. 97.1±9.5 前頭葉機能テスト (KPT) KPT score 30.8 ± 10.1 31.5 ± 8.9 0.00 0.973*** 内容理解 4.4 ± 1.6 5.6 ± 2.5 2.47 0.124*** SDS score n.m. 53.3 ± 6.7 PS score 0 ± 0 4.4±0.7 HC, 健常コントロール (healthy control); CCFS, 慢性疲労症候群 (childhood chronic fatigue 2 syndrome); BMI, 体重 / 身長 (body mass index); WISC-III, 知能検査 (Wechsler Intelligence Scale for Children-Third Edition); VIQ, 言語性知能指数 (verbal intelligence quotient); PIQ, 動作性 知能指数 (Performance intelligence quotient); FIQ, 全検査知能指数 (Full scale intelligence quotient) ; KPT, 仮名ひろいテスト (Kana pick-out test); SDS, 自己評価による抑うつ性尺度 (self-rating depression scale); PS, 疲労の程度を評価する指標 (performance status); n.m., 測定せず ( not measured.) *Fisher 正確確率検定, ** 一元配置分散分析 (analysis of variance: ANOVA), *** 年齢 性別を共変量 とした共分散分析 (Analysis of covariance: ANCOVA) 34

表 2-2-2. Chalder 疲労尺度と matmt における課題への反応時間 HC baseline CCFS follow-up Chalder 疲労尺度身体疲労得点 9.2 ± 6.0 14.7 ± 4.8** 14.5 ± 5.0 精神疲労得点 5.6 ± 2.4 9.6 ± 4.4* 8.2 ± 4.2 総疲労得点 15.6 ± 8.6 24.1 ± 8.4** 22.7 ± 8.4 PS score 0± 0 4.4±0.7 3.2±0.9 matmt RT on task A (s) 41.7 ± 10.7 43.4 ± 12.8 40.0 ± 5.7 RT on task B (s) 55.8 ± 12.9 54.2 ± 12.4 51.8 ± 10.7 RT on task C (s) 73.3 ± 11.7 77.8 ± 12.7 75.8 ± 12.7 RT on task D (s) 13.7 ± 4.4 12.5 ± 2.5 13.2 ± 3.0 RT on task E (s) 51.5 ± 9.6 59.6 ± 18.7 51.6 ± 11.7 Difference in RT on task A (s) 28.0 ± 10.3 30.9 ± 13.0 26.7 ± 5.1 Difference in RT on task B (s) 41.9 ± 13.7 41.8 ± 12.6 38.6 ± 9.8 Difference in RT on task C (s) 59.5 ± 11.9 65.3 ± 12.7 62.6 ± 11.1 Difference in RT on task E (s) 37.7 ± 9.1 47.1 ± 19.2 # 38.4 ± 10.1 matmt, modified advanced trail making test; HC, 健常コントロール (healthy control); CCFS, 慢性疲労症候群 (childhood chronic fatigue syndrome); PS, 疲労の程度を評価する指標 (performance status);rt, 反応時間 (reaction time). Differences in reaction time TaskA,B,C,Eの反応時間からモータースキルであるTaskDの反応時間を減算した反応時間 *p< 0.05, **p < 0.01, HC と比較し有意差あり 二元配置分散分析 (Two-way analysis of variance: Two-way ANOVA)Bonferroniにて検定事後検定 # p<0.05, HC と比較し有意差あり 二元配置分散分析 (Two-way analysis of variance: Two-way ANOVA) Bonferroniにて検定事後検定 p< 0.05, CCFS のベースラインと比較し有意差あり 反復測定による二元配置分散分析 (repeated two-way analysis of variance: repeated two-way ANOVA) Bonferroniにて検定事後検定 p < 0.001, CCFSのベースラインと比較し有意差あり 対応のあるt 検定による検定 35

表 2-2-3. CCFS における疲労度の改善と matmt の反応時間の改善の関連 Chalder 疲労尺度 matmt 身体疲労 精神疲労 総疲労 得点 得点 得点 Difference in RT on task A 0.180 0.331 0.332 Difference in RT on task B 0.264 0.284 0.358 Difference in RT on task C 0.122-0.412-0.185 Difference in RT on task E 0.330 0.653* 0.639* matmt, modified advanced trail making test; HC, 健常コントロール (healthy control); CCFS, 慢性疲労症候群 (childhood chronic fatigue syndrome); PS, 疲労の程度を評価する指標 (performance status);rt, 反応時間 (reaction time). Differences in reaction time Task A, B, C, Eの反応時間からモータースキルであるTask Dの反応時間を減算した反応時間ヒ アソンの相関係数を記載. *p < 0.05, 有意な相関あり 36

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考察 : 本研究では CCFS 児童における認知機能異常 特に注意転換機能 (alternative attention) 低下が明らかとなった すなわち CCFS 児童が呈する疲労が高次機能異常と何 らかの因果関係にあると考えられる またこの注意転換機能の低下は治療による精神疲労 症状の改善に伴って改善しており 可逆的な機能低下と推察される この研究結果は CCFS の中に認知機能異常が存在することを示すことを意味するが CCFS の原因であると断定は できない 最も注目すべき所見は ベースラインにおいて注意転換機能が CCFS 群で著しく低 下していたが 注意配分機能や注意の持続など他の前頭葉機能の低下は認めなかったこと である 加えて CBT と薬物療法を中心としたフォローアップにより 6 ヵ月後には精神疲 労の改善に伴って注意転換機能が改善している点である また matmt の Task A, B( 選択 的注意機能と視覚的ワーキングメモリー ) Task C( 選択的注意機能 ) Task E( 注意転換 機能 ) の difference in total reaction time により 健常児と CCFS を判別する事が可能 であり 全体として健常児群と CCFS 群の判別に 70.5% の識別力を有することがわかった 特に task E においては CCFS 群に明らかな反応速度の遅延を認め 判別に重要な役割を有 する事が判明した このことから matmt は CCFS 診断の客観的な指標として使用できる 可能性がある 小中学生児童から 疲労 は主訴として多く聞かれる 疲労 は学校生活のパ フォーマンス低下につながり (Garralda ME,2002) 体調不良や学力低下 社会性の発達 の障害を引き起こす (Dowsett EG, 1997, Torres-Harding SR, 2006) 著者らのこれまで の検討で 事象関連電位 (Event-related potentials: ERP) や仮名拾いテストを用いて 38

CCFS 患児の情報処理や注意の持続 および注意の配分機能のような認知機能の著しい低下 を報告し (Tomoda A, 2007) このような機能障害が CCFS の特徴であると考えていた し かし本研究において 注意転換機能が選択的に障害されていた点については 本研究の対 象となった症例は CCFS 児童の中でも比較的早期に介入されており重症度が低いことが特 色で 病状が重症化していくと認知機能の障害も進行し 情報処理や注意の持続 および 注意の配分機能のような認知機能の著しい低下を招くのではないかと推測された これを 支持する理由として まず著者らが以前に報告した CCFS のグループは 症状の重症度を表 す CCFS の PS スコアが 5 以上 (mean,5.6; SD, 0.8) (Tomoda A, 2007) だったのに対し 本研究の対象では 3 以上 (mean,4.4; SD, 0.7) と比較的軽度であった また CCFS の診断 基準が以前の研究では 1994 年に発表された CDC の Fukuda 診断基準 (Fukuda K, 1994) に準じ ていたが 本研究では国際慢性疲労学会 (International Association for Chronic Fatigue Syndrome : IACFS) において制定された CCFS の国際診断基準 (Jason,2006) に準じてより 早期の CCFS を診断することができた これらの点により CCFS 児童では まず 注意転換機 能が選択的に障害されたあと 重症化に伴い情報処理や注意の持続 および注意の配分機 能のような認知機能が低下するという仮説を支持するものと考える 本研究においてさらに興味深いのは ベースライン フォローアップの 6 か月間 で精神疲労症状の改善と注意転換機能障害の改善には関連性が認められることが明らかと なった点がある CCFS の認知機能については 情報処理速度 注意力 注意の持続につい て 10 種類のバッテリーを用いた先行研究を除いてはこれまで他に報告がない これら 10 種類の個々の認知機能課題では言語記憶と関連する注意の持続と注意転換機能 注意の配 39

分機能が明らかに低下していた (Haig-Ferguson A, 2009) こうした先行研究や本研究の ような認知機能の問題は CCFS の患者の抱える教育的な困難を示唆する CCFS や CFS では 休息によっても改善しない激しい疲労感と中枢神経系の症状を呈する 昼間の眠気や重度 の抑うつ 集中力の低下や物忘れなどである この症状が長期化し 正常発達を阻止した り 慢性的な機能障害をひきおこす こうした小児は近年増加傾向にあり さまざまなサ ポートが必要である 小児期や思春期は一生のうちでも最も成長発達が期待される時期で あり 人格形成や脳の発達などにおいて重要な時期でもある 神経画像的な先行研究でも 認知機能テスト実施時の神経伝達について以下のような報告がある 機能的 MRI を用いて Task E に類似した注意転換課題遂行中の脳神経活動評価を行った先行研究において 背外 側前頭前野の神経活動の動因により注意転換機能を遂行していることが明らかにされてい る (Zakzanis et al, 2005, Ravizza et al.,2008) また 背外側前頭前野は中央実行系処 理に最も重要な脳部位であり CCFS の発症率が高い小学校高学年や中学生において この 脳部位が担う機能は成熟していないと考えられている (Mizuno et al., 2010) 機能的 MRI 研究から 注意配分課題やワーキングメモリ課題といった高次脳機能課題遂行中に CCFS と CFS に共通して背外側前頭前野の過剰賦活がみられ さらなる疲労感 倦怠感誘発プ ロセスに背外側前頭前野が関連することを示唆する結果が得られている ( 水野ら, 2010, Lange et al., 2005) 成人の CFS 患者において両側の背外側前頭前野の灰白質量が 健常 成人と比し減少していることが既に明らかになっており また CFS 患者において認知行 動療法の前後で背外側前頭前野の萎縮量が可逆的に減少することも報告されている 以上 より CCFS 患児の背外側前頭前野の機能障害は成人の CFS と共通する症状の一つと考えら 40

れ 治療により可逆的な機能回復も期待できることが示唆された (de Lange FP et al., 2008) 本研究は症例数としては非常に少なく 今後 症例数を増やして研究を進めてい く必要があるが matmt は視覚探索反応課題を用いた認知機能検査であり 各個人の知的 水準や経験は結果に影響しないとされ 臨床的に有用と考える 本研究における症例では CBT と抗うつ薬のどちらが治療に有効だったかはわか らないが これらの組み合わせによる治療が CCFS に臨床的に有効であると考えられた 本 研究ではフォローアップの時点で PS スコアの明らかな改善を認めている これは治療によ り疲労が軽減されたというよりもむしろ身体活動 学校 社会活動での活動量などが改善 し 健康状態が改善したことによる認知機能の改善と考えられる 先述したように先行研 究でも CFS 患者において認知行動療法の前後で背外側前頭前野の萎縮量が可逆的に改善す ることも報告されている (de Lange FP et al., 2008) このように CCFS の認知機能は 治療により可逆的な機能回復も期待でき その評価に matmt の特に注意転換機能を用いる ことは臨床的に有用であると考えられた 本研究は CCFS の認知機能障害と治療による可 逆的変化を検討した報告であり 臨床的にも重要な視点を呈するものである 今後さらな る追加症例の解析を継続し 研究を展開する予定である 41

3) CCFS における睡眠覚醒リズムおよび身体活動 1 目的 : 非侵襲的な活動計測が可能なアクチグラフにより CCFS の睡眠覚醒リズムおよび 活動量計測を行う 2 実験方法 対象 : コホート研究参加の同意が得られた 27 名中 アクチグラフ使用に同意し データ が 120 時間以上計測可能であった 46 名の CCFS 患者 (M:F=25:21 平均 13.1±1.4 才 ) と 熊本市内の中学生 21 名 (M:F=7:14 平均 12.8±0.9 才 ) を解析対象とした 方法 : 腕時計型小型軽量タイプのアクチグラフマイクロミニ ( アメリカ AMI 社製 )( 写 真 1.) を利き手の反対に 1 週間 ~3 週間装着し 平日 5 日間のデータを解析ソフト AW2 によ り解析し 睡眠覚醒リズムの判定 各時間帯における活動量を測定し 健常児童 生徒と CCFS 群の比較を行った 活動計測の測定法にはいくつかあるが 2-3Hz の加速度変化を 閾値 0.01G で検知し 0 をまたぐ回数を数え (zero crossing method) 毎分の加速度変化回 数を記録した この 1 分ごとの活動量時系列データに Cole や Sadeh が開発した判定式 (Cole,R.J et al,1992, Sadeh A. et al,) を適応させると 睡眠状態であるか覚醒状態 であるかの判定が可能である AMI 社のアクチグラフ解析ソフトウェア睡眠 AW2 を用いて Cole の判定式に基づき睡眠覚 醒の判定を行い 総睡眠時間 覚醒時平均活動量 0:00-5:00 の平均活動量 8:00-21:00 42

の平均活動量を求め 健常コントロール群と CCFS 群との比較を行った また これらの項 目と PS 疲労度の関連を検定した 統計解析 : 各睡眠パラメーターにおける健常児と CCFS の比較は Mann-Whitney-U 検定を 用いた また PS の段階による各睡眠パラメーターの差の検定には Kruskal Wallis 検定 を行い PS の段階による差が認められた場合は その後の検定として Mann-Whitney-U 検 定を行った 結果 : アクチグラフ計測から得られた睡眠パラメーター各項目を健常コントロールと CCFS 患者の間で比較した結果を ( 表 2-3-1) に示す 1 日の平均総睡眠時間 (TST) は CCFS で有 意に長くなっていた (p<0.000) 平均身体活動量の比較でも覚醒時身体活動量 (p=0.005) 8:00-21:00(day time) 身体活動量 (p=0.002) と CCFS では覚醒時および学校生活に かかわる時間帯である day time における活動量の著しい低下と 0:00-5:00(night time) の活動量の著しい増加が認められた (p=0.012) それに伴い DTA index(day time activity index= day time activity/ night time activity) も CCFS で明らかな低下を認めた (p <0.000) これらの睡眠パラメーターと PS 疲労度の関連では PS により示される疲労の 程度が重篤になるほど睡眠パラメーターの悪化を認め 特に健常コントロールと学校に全 く登校できない状態の PS5 の 2 群の比較では TST(p=0.000) 覚醒時身体活動量 (p=0.005) day time(p=0.002) night time(p=0.012) DTA index(p=0.000) とすべての項目に おいて有意差を認めている ( 図 2-3-1) 43

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考察 : 脳波 眼球運動 筋電位の同時記録による睡眠ポリグラフ検査では 睡眠時間や各 睡眠段階の出現量やパターンの判定が可能であり 睡眠検査のゴールデンスタンダードと いわれているが 検査室や設備が必要であり 被験者への精神的 身体的 そして経済的 負担 長期に測定できないなどの欠点があり また 子どもの疲労 意欲低下を考えると き 夜間の睡眠のみならず 日中の活動パターンも加味しなくてはならないため 本研究 ではアクチグラフィを選択した 先行研究によれば 睡眠ポリグラフとの比較で 睡眠効 率においては両者の一致率は 85% を越え 入眠潜時は 90% を越えるとされ (Cole ら,1992) 別の総説 (Sonia Ancoli-Israel, 2005 ) では両者の睡眠と覚醒の判別の一致率は 健常 成人において 0.89~0.98 臨床における睡眠障害患者では 0.78~0.88 乳児 小児では 0.90~0.95 と記述されている 本研究では CCFS において長時間睡眠 適切な時間 (day time) での活動量の低 下 不適切な時間 (night time) の活動量の増加が認められ 睡眠覚醒リズムの異常が明 らかになった CFS 患者では全体的に行動量の低下が認められ 活動量のピークを維持す る時間が短くその後の休息状態の時間が延長していることが van der Werf により報告され ている (van der Werf, S.P,et al,2000) Tryon らは CFS 高率に睡眠の分断がみられ 日 中の身体活動量や活動 - 休息のサイクルの規則性に乏しいと報告している (Tryon,W.W, 2004) CCFS でも Ohinata らが本研究と同様の実験系で身体活動量の低下と DTA index の 低下を報告している (Ohinata et al., 2007) DTA index は活動量のリズムを表す指標で あり 日中 (= 学生が学校生活を送るために覚醒しているであろう時間帯 ) に活動量が多 48

く 夜間 (= 学生が就寝しているであろう時間帯 ) に活動量が少ないと 高い値を示す 仮に完全に昼夜逆転していた場合には 1 以下になる 本研究はこれらの先行研究を支持す る結果となった また これらの睡眠パラメーターと PS 疲労度の関連では ( 図 2-3) に 示すように PS により示される疲労の程度が重篤になるほど睡眠覚醒リズム ( 休息 - 活動 のリズム ) の悪化を認める傾向にあり 特に健常コントロールと学校に全く登校できない 状態の PS5 の 2 群の比較では TST 覚醒時身体活動量 day time および night time の身 体活動量 DTA index とすべての項目において PS5 で著しい悪化が認められた また 活 動量の低下に関し Kop らは先行する痛みや疲労感が増悪すると活動量が低下するが 活 動量の低下に続く症状の変化には関連しないとし 主観的な疲労感が活動量の低下を招い ているとも考えられている 脳幹部のモノアミン系により覚醒状態の維持や筋緊張の調節が行われ 視床下部 により賦活されている CFS では HPA axis の異常が報告されており 睡眠時間の長さやパ ターン 日常的な身体活動のレベルに影響を与える (Cleare et al,2004) CCFS にも 視 床下部の機能異常が存在しノルアドレナリン系やセロトニン系の機能低下により長時間睡 眠や身体活動の低下がおこっているのかもしれない CFS CCFS の治療では早期の活動 - 休息のサイクルの改善が必要であり (Miike et al,2006) またそのサイクルの確立により適切な活動量を維持する事が重要である (Garralda et al, 2002) といわれている 本研究は 臨床においてアクチグラフを用い て CCFS の睡眠覚醒リズムおよび活動量を測定することで客観的評価が可能であることを 49

明らかにした アクチグラフは 睡眠判定の正確さは睡眠ポリグラフに劣るものの 検査 室や設備が必要なく被験者への精神的 身体的 そして経済的負担が少ない 夜間の睡眠 のみならず日中の活動パターンを長期に測定でき 記録忘れがなく客観的なデータが得ら れることなど利点は多く 特に小児には有用であると考えられる また視覚的にデータを 表示できることから小児にも自分自身の状態を理解しやすく 治療へのモチベーション維 持につながる 今後 臨床病態の把握以外に治療効果の判定や病状の推移などの評価に活 用していく予定である 50

第 3 章総括 本研究は 主に CCFS と 認知機能 脳機能 における検討を行い CCFS における 疲労 認知機能 睡眠覚醒リズムの評価を行った こどもは元気で疲れ知らず と思わ れているが 現代社会には多くの疲れた子どもたちが存在する CCFS は持続する強い疲労 感と不定愁訴を訴え 日常生活もままならない 本研究では CCFS で内発的な意欲の低下が 明らかであり 努力 / 報酬比の不均衡が認められた また睡眠覚醒リズムの異常 身体活動 量の低下 注意機能特に注意転換機能の低下が明らかとなった 本研究で認められたこれ ら CCFS の特徴は どういったメカニズムからなるのであろうか 文献的考察を加えながら 検討してみた これまでの先行研究による知見では CFS CCFS は様々な環境要因 ( 身体的 精 神的 物理的 化学的 生物学的ストレス ) と遺伝的要因 ( ストレス感受性 抵抗性 ) が 複合的に作用して 神経 内分泌 免疫系の変調をきたした状態と考えられている 環境要因について 社会的再適応評価尺度を用いた倉恒らの研究 (2001) による と 健常人と比較し成人 CFS の発症時に有意に多くみられる生活環境ストレス項目は 睡 眠習慣の変化 ( 睡眠時間 睡眠の時間帯の変化など ) 担保や貸付金の損失 家族の健康上 または行動上の変化 親戚とのトラブル 休養の取り方 頻度の変化 怪我や疾病 生活 上の変化 ( 新築 近隣の状況悪化など ) が認められている Miike らの小児例の検討によれば CCFS の特徴的な生活環境ストレスとして夜型 51

生活による慢性的な睡眠欠乏状態が筆頭にあげられている (Miike et al, 2004) 慢性的 な睡眠欠乏状態に加え 自己抑制的生活 受験勉強やハードな部活などの持続的な精神的 身体的負荷 事故や災害への遭遇 感染症罹患 いじめなどの人間関係のトラブルなどの 環境因子が加わることにより 難治性の長時間睡眠を伴う CCFS 発症につながると考えられ ている Robert J らも 慢性的な疲労状態の予測環境因子として 睡眠の質の悪化 身体 活動の少ないライフスタイルを上げており CFS CCFS ともに睡眠の問題が大きな環境ス トレスとなると考えられている (Robert J et al, 2009) 本研究でも CCFS 患児の睡眠覚 醒リズムの異常 身体活動量の低下が明らかとなっており これらが発症の原因であるか 結果であるかは断言できないが 少なくとも何らかの因果関係があることが示唆されてい る Viner R らによれば 母親の精神疾患 出生体重 アトピー 肥満 学習能力 両親 の疾病罹患などが CFS 発症のリスクを高めるというエビデンスはないとしている (Viner R et al, 2004) その他の要因として 物理的ストレス ( 紫外線への暴露 騒音 温熱環境 ) 化学 的ストレス ( ホルムアルデヒド 残留農薬 排気ガスなど ) に加え 生物学的ストレスが 挙げられる 生物学的ストレスは EB ウイルス エンテロウイルス 単純ヘルペスウイル ス インフルエンザ マイコプラズマなどの感染後に CFS を発症し臨床的にもよく遭遇す る これら種々のストレスが組み合わさり ストレッサーとして CFS 発症の引き金となる と考えられる 遺伝的要因に関しては これまでに CFS 発症に家族内集積があること 家族性の 52

CFS で免疫異常が認められたこと また CFS 発症率が二卵性双生児よりも一卵性双生児の 方が高かったという報告などから CFS の発症機序に遺伝的要因の関与が考えられてきた 先行研究により モノアミン系神経伝達物質で 睡眠 食欲 痛み 炎症に関与するセロ トニン ( 特に脳内セロトニン ) の調節障害が CFS の発症に関与が示唆されている セロト ニン活性の調節は セロトニントランスポーター (5HTT) によって調節されており 5HTT 遺伝子のプロモーター領域遺伝子多型 (5HTTLPR) の多型分布の異常が CFS 発症に関与す るという報告がある Narita ら (2003) は CFS 患者において 5HTTLPR アリル分布を解析 し 健常人群が S 型 88% L 型 12% に対し CFS 群では S 型 77.5% L 型 25% XL 型 0.6% であ り 長いアリル (L,XL) の保有が明らかな CFS 罹患のリスクファクターであると報告して いる (Narita M, et al,2003) L アリル保有によりプロモーターの転写活性が約 2 倍にな り 細胞間隙のセロトニンの細胞内への取り込みが亢進し低セロトニン状態となると想定 され CFS 患者において低セロトニン状態が特徴であるという渡辺らの仮説に矛盾しない また 大脳皮質の発達に影響するとされる DISC1 の遺伝子多型について Hashimoto らが成人 CFS(N=155) と健常人 (N=502) の比較を行ったところ ミスセンス変異である Ser704Cys 多型の Cys 型が成人 CFS 患者に多く認められることを見出した そこで本研究 に参加した CCFS 児童の一部 (N=12) と健常児童 (N=30) において唾液由来の DNA を採取し 同様の検討を行ったところ 成人と同様 CCFS 児童に Cys 型が多いことが報告されている ( 独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発事業研究開発領域 脳科学と社 会 研究開発プログラム 脳科学と教育 タイプ Ⅱ 非侵襲的脳機能計測を用いた意欲の 53

脳内機序と学習効率に関するコホート研究 研究開発報告書 )CCFS における検討ではサン プル数が少なく予備的な検討にとどまるが この遺伝子が脳の脆弱性に関与し 注意機能 の障害という表現型につながる可能性もあるかもしれない こうした遺伝的な因子が CCFS の発症のリスクファクターとして生物学的なメカニズムに関与している可能性がある このような環境的要因 遺伝的要因が複合的に作用して 神経 内分泌 免疫系 の変調をきたすのではなかろうか 以下に主に CFS CCFS において報告されている脳機能 異常と本研究の関連について検討する 本研究では CCFS 児童における認知機能異常 特に注意転換機能 (alternative attention) 低下が明らかとなった すなわち CCFS 児童が呈する疲労が高次機能異常と何 らかの因果関係にあると考えられる またこの認知機能異常は治療による精神疲労症状の 改善に伴って改善しており 可逆的な機能低下と推察される 先行研究で CFS の脳の容積測定 (volumetry) において右背外側前頭野 (BA 8-9) と左背外側前頭野 (BA9-11) の灰白質の萎縮を認め 右背外側前頭野では萎縮の程度と疾 患の重症度 (PS) との間に有意な相関が認められるという報告や (Oakada,2004) 機能的 MRI を用いて 本研究で行った matmt の Task E に類似した注意転換課題遂行中の脳神経活 動評価を行った先行研究においても 背外側前頭前野の神経活動の動因により注意転換機 能を遂行しているという報告がある (Zakzanis et al., 2005, Ravizza et al.,2008) ま た機能的 MRI 研究で 成人 CFS と本研究に参加した CCFS の一部 (15 名 ) において注意配 分課題やワーキングメモリ課題といった高次脳機能課題遂行中に CCFS と CFS に共通して 54

背外側前頭前野の過剰賦活がみられ さらなる疲労感 倦怠感誘発プロセスに背外側前頭 前野が関連することを示唆する結果が得られている (Mizuno et al, 2010, Lange et al., 2005) さらに CBT による CFS の治癒に伴い前頭葉の萎縮が改善されることも確認されて いる (de Lange, 2008) これらの知見は 本研究の CCFS 児童における認知機能異常 特 に注意転換機能 (alternative attention) 低下に 背外側前頭前野が関与する可能性や 治療による注意転換機能の機能改善と PS の改善 精神疲労の改善に伴う注意転換機能の改 善の脳内機序を説明できる可能性がある また CCFS 患児の背外側前頭前野の機能障害は成 人の CFS と共通する症状の一つと考えられる 他にも CFS における脳の構造異常では CFS 患者では T2 強調画像において 半 卵円中心 放線冠 内包 脳質周囲 皮質下の白質部位に小さなホワイトスポットが散見 される (Schwartz,1994) うつ状態を併存しない CFS 群はうつ状態を併存する CFS 群に比 較し T2 強調画像において前頭葉白質部位に異常を認める確率が有意に高い (de Lange,1999) といった報告もあり CFS 患者における脳構造異常が明らかとなっており CFS の病態との密接な関連の可能性が示唆されてきている 脳の機能異常では 脳局所血流量の低下や脳局所グルコース利用の低下 その他 脳代謝異常などから推定することが可能で 主な方法として SPECT PET 等があげられる 脳血流量低下の報告では CFS で SPECT(single-photon emission tomography) 解析によ る前頭葉 側頭葉 頭頂葉 後頭葉 基底核などの局所血流量の低下 (Ichise M et al,1992) CCFS においても友田らにより左右前頭葉 後頭葉の皮質領域 左視床の局所血流量の低下 55

が報告されている (Tomoda, 2004) PET(positoron emission tomography) では H 2 15 O を用いた局所脳血流の解析で前 帯状回 眼窩前頭野 背外側前頭野 などの前頭葉 側頭葉 後頭葉 基底核 脳幹部の 局所血流量の低下 2-[ 18 F]fluoro-deoxyglucose( 18 FDG) 解析による右内側前頭皮質 脳幹 部 帯状回の糖代謝低下が報告されている (Tirelli U et al.1998) アセチルカルニチン 代謝でも Kuratsune ら (2002) による前帯状皮質 (24 野 ) 前頭皮質 (9 野 ) の代謝低下 や Yamamoto ら ( 2004) によるセロトニントランスポーターの前帯状回における発現低下と いった異常も報告されている 更に MRS(magnetic resonance spectroscopy) による前頭 葉コリン蓄積など高次脳機能障害を示唆する報告もある (Furusawa M et al. 1998; Tomoda et al.2000) 本研究では CCFS 患児の睡眠覚醒リズムの異常 身体活動量の低下も明らかにな った 特に健常コントロールと学校に全く登校できない状態の PS5 の 2 群の比較では TST 覚醒時身体活動量 day time および night time の身体活動量 DTA index とすべての項目 において PS5 で著しい悪化が認められた 睡眠障害により最も影響を受けやすい脳機能は 注意力だといわれ 注意力が低下した状態の脳局所血流の PET による先行研究では 視床 被殻などの皮質下領域と右半球の前頭前野背外側および腹外側部 眼窩皮質 頭頂皮質 側頭皮質の血流低下が認められる さらに睡眠不足によって視床 全帯状皮質を含めた脳 幹網様体賦活系の活動が低下し 覚醒レベルの維持が困難になることがわかっている CCFS は長時間睡眠で 長さだけでは睡眠不足とは言えないが 睡眠の質の低下 ( 中途覚醒や睡 56

眠覚醒リズムの異常 ) が背景にあり 事実上は 有効な睡眠の不足 に陥っている可能性 が高い したがって これらの神経領域の機能に強く依存している注意力が低下すると考 えられる またサルを用いた断眠実験で 睡眠不足が注意力のみならず意欲にも影響する 事が判明している 睡眠異常には ストレスによる深部体温の高体温 (stress-induced hyperthermia) の持続も関与している可能性がある 海馬から体温調節中枢である視床下 部視索前野の温度感受性への投射などから ストレス性高体温への海馬の関与が考えられ ている 夜行性であるラットにおける拘束ストレス負荷の研究では ストレス終了後約 10 時間にわたるストレス性高体温の持続と その後いったんストレス負荷前のコントロール レベルの体温に戻るも 翌日明期の体温下降が不十分で高体温が持続したという報告があ る ラットの明期 ( 安静期 ) はヒトの暗期にあたり 同様の現象がヒトでも発現すると ストレス翌日の夜間深部体温の低下が不十分になると考えられる ヒトでは夜間深部体温 の低下が睡眠の安定性と密接にかかわっており ストレスが体温調整の変調を引き起こし 睡眠覚醒リズム障害 睡眠の質の低下を招き この繰り返しにより慢性的な疲労を引き起 こす可能性がある これは CCFS で報告されている深部体温リズム 睡眠覚醒リズムの異常 を支持すると考えられる その他 CCFS にかかわる内分泌異常について記すと ストレスが引き起こす応答 で最も重要でかつよく研究されている系として視床下部 下垂体 副腎基軸 (hypothalamic- pituitary- adrenal axis: HPA axis) がある CFS においても Demitrack らの報告以来 HPA axis の異常が多く報告されている ストレスを受けることにより 視 57

床下部室傍核の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン (corticotrophin releasing hormone: CRH) 含有ニューロン活動が上昇し CRH が正中隆起より下垂体門脈へと放出される この 門脈の下流に位置する下垂体前葉で CRH により副腎皮質刺激ホルモン (adrenocorticotrophic hormone: ACTH) が分泌され全身へ循環する ACTH 分泌促進は CRH のみならず下垂体後葉ホルモンであるバソプレッシンも関与していることがわかって いる 血中へ分泌された ACTH は副腎皮質へ作用し グルココルチコイド (glucocorticoid) ミネラルコルチコイド 性ホルモンの分泌を促進する グルココルチコイドの主成分はコ ルチゾル (cortisol) である ( ラットではコルチコステロン ) グルココルチコイドの作用と して 広範な組織での蛋白質異化 血糖上昇 抗炎症 抗アレルギー作用の他に 下垂体 傍室核 海馬への抑制作用があり HPA axis におけるネガティブフィードバック系の形成 によりストレス応答を終了させる重要な役割を担う このうち海馬は空間的記憶 学習の 座としてシナプスの長期増強現象 (long-term potentiation: LTP) に関与する部位である が 脳内で最も多くのグルココルチコイド受容体を発現しており 多シナプス性に CRH 含 有ニューロンが存在する室傍核小細胞部位へ投射していることが解明されている 長期間のストレス負荷による海馬の錐体細胞の樹状突起の萎縮の報告があり 長 期間のストレス負荷による脳への影響や またラットによる実験における短期間ストレス 負荷でも行動量がストレス負荷後 7 日で最低となり 4 週間後も元のレベルに戻らない 1 回の拘束ストレスで CRH 産生核である室傍核の CRH とバソプレッシン mrna レベルが拘束 後 1 週間でも高レベルに保たれるなど 持続的ストレスやストレス後長期にわたる調節系 58

の変調が報告されている 本研究では関連する実験は行っていないが CFS における機能異常の一つである 免疫機能異常に関しても簡潔に記す CFS では末梢血中の抗核抗体の出現 免疫グロブリ ン異常 血中免疫複合体の増加 NK 活性や単球機能の低下 リンパ球サブセット異常 種々 のサイトカイン異常が報告されている しかし 相反した結果の報告もあり 単一な免疫 異常としての説明は困難である しかしながら 従来 自己制御能をもつ独立した系と考えられていた免疫系が CFS 発症に関して神経系および内分泌系と関連し 情報伝達物質として免疫系 神経系で 産生されたサイトカインが重要であるという脳 - 免疫系関連の仮説が注目されている Hori, Katafuchi らによると ストレスにより惹起され 中枢神経系で産生されたサイト カインは 交感神経系や下垂体 - 副腎皮質系の活性化など 自律神経系 内分泌系を介し て免疫機能を修飾し 発熱 摂食抑制 徐波睡眠などの高次ホメオスタシス 痛覚受容 学習記憶への影響など 様々な中枢神経作用を表す この作用が CFS の重度の疲労や自 律神経系機能 内分泌系機能 集中力や認知といった高次脳機能の低下に関連している可 能性がある (Hori et al, 2001, Katafuchi et al, 2003 & 2005) これを裏付ける研究として 片渕らによるラットにおけるウイルス感染モデルに 用いる Polyriboinosinic: polyribocytidylic acid (PolyI:C) の末梢投与により 大脳皮 質および視床下部の INF-α の mrna 発現の増強が報告されている (Katafuchi,2003) さら に INF-α により 5HTT が長期間誘導され 細胞外の 5-HT 濃度の低下とともに 自発運動 59

を低下させることが明らかになっている また INF-α は長期増強現象 (long-term potentiation: LTP) を抑制し 水迷路による空間認知学習行動を障害することから CFS の高次脳機能障害に脳内 INF-α が何らかの関与をしている可能性が考えられる 最後に本研究を終え CCFS の予防 治療の観点から matmt を用いた認知機能検査 やアクティグラフは非侵襲的で 客観的な評価が可能であるため臨床的に有用であると考 えられる 児童の正常な睡眠覚醒リズムの形成を促し 疲労の回復機構を維持することに より 慢性疲労状態に陥るのを予防可能であるかもしれない また たとえ CCFS を発症し た児童でも 睡眠覚醒リズムの正常化に加え薬物療法 認知行動療法 (CBT) の併用療法を 行うことで 子どもたちの脳機能の回復が可能であることが示唆された 参考文献 Afari N, Buchwald D. Chronic fatigue syndrome: a review. Am J Psychiatry 2003;160:221-36. Altay HT et al. The neuropsychological dimensions of postinfectious neuromyasthenia(chronic fatigue syndrome): a preliminary report. Int j Psychiatry Med 1990;20:141-149 Andersson,J.et al. J. Cereb. Blood Flow Metab,18: 701-715,1998 Asarnow JR, et al. Treatment of selective serotonin reuptake inhibitor-resistant depression in adolescents: predictors and moderators of treatment response. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry 2009;48:330-339. Baddeley A. Working memory. Science 1992; 255:556-559. 60

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別冊医学のあゆみ 最新 疲労の科学 (2010.) より抜粋 71

別添 2.Chalder 疲労尺度 この質問紙は あなたの 学校あるいはおうちでの様子を調べるものです 問いは 14 問あります 4 つのうちから この数週間であなたにあてはまるものを 1 つえらび でかこんでください どちらの意見がただしいということはありません 自分の思ったとおりにこたえてください 72

別添 3. 内発的 - 外発的動機づけ尺度日本語版 73

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