NAVIGATION & SOLUTION 地 上 デ ジ タ ル 放 送 日 本 方 式 を 南 米 に 売 り 込 ん だ 経 験 か ら 寺 崎 明 C O N T E N T S Ⅰ 地 上 デジタル 放 送 日 本 方 式 と 国 際 標 準 Ⅱ 地 上 デジタル 放 送 日 本 方 式 の 売 り 込 みの 実 態 Ⅲ 南 米 での 地 上 デジタル 放 送 日 本 方 式 採 用 国 の 拡 大 による 効 果 Ⅳ グローバル 戦 略 の 再 構 築 要 約 1 国 際 標 準 の 覇 者 は 市 場 では 強 い そのため 日 本 は デファクトスタンダード ( 事 実 上 の 標 準 )を 含 めた 国 際 標 準 に 対 する 取 り 組 みを 強 化 しなければならな い なかでもBRICs(ブラジル ロシア インド 中 国 ) 各 国 における 日 本 方 式 の 採 用 は 重 要 で 特 に 資 源 があり 成 長 著 しいブラジルを 中 心 とした 南 米 を 忘 れてはならない 2 筆 者 は2008 年 7 月 から10 年 7 月 まで 総 務 審 議 官 として 地 上 デジタル 放 送 日 本 方 式 ( 以 下 日 本 方 式 )の 普 及 を 南 米 に 働 きかけた そういう 売 り 込 みの 際 日 本 の 現 在 のビジネスのやり 方 では 通 用 しない 欧 州 勢 は 国 の 元 首 やEU ( 欧 州 連 合 )の 首 脳 から 電 話 等 による 大 統 領 などへの 直 接 の 働 きかけがある 3 日 本 方 式 が 採 用 された 外 国 では 関 連 市 場 における 日 本 企 業 のシェアは 確 実 に 上 がっている しかし 韓 国 企 業 の 動 きは 素 早 い 日 本 国 内 の 人 口 減 少 によ る 市 場 の 縮 小 を 考 えると グローバル 化 に 向 けてやるべきことは 決 まってい る 外 国 でのワンセグメント 放 送 ( 通 称 ワンセグ 日 本 方 式 の 一 規 格 )の 採 用 は ガラパゴス 携 帯 脱 却 のチャンスでもある 4 諸 外 国 への 売 り 込 みを 成 功 させるには キーパーソン( 大 統 領 や 大 臣 など)へ の 継 続 的 なアクセス 世 界 で 通 用 するコスト(ビジネスモデル)の 実 現 素 早 い 意 思 決 定 関 係 者 機 関 との 連 携 ( 経 済 支 援 など)が 基 本 となる 何 も 難 し いことはない 34 知 的 資 産 創 造 /2011 年 6 月 号
Ⅰ 地 上 デジタル 放 送 日 本 方 式 と 国 際 標 準 2011 年 4 月 現 在 南 米 9カ 国 (ブラジル ペルー アルゼンチン チリ ベネズエラ エクアドル パラグアイ ボリビア ウルグ アイ) 中 米 1カ 国 (コスタリカ) アジア1 カ 国 (フィリピン)では 地 上 デジタル 放 送 日 本 方 式 ( 以 下 日 本 方 式 )が 採 用 されてい る( 図 1) いろいろなシステムにおいて 日 本 の 方 式 や 規 格 の 売 り 込 みが 苦 戦 するな か 地 上 デジタル 放 送 についてはこれらの 国 で 成 功 を 収 めることができた 冒 頭 に 事 実 経 過 を 述 べておく 地 上 デジタ ル 放 送 システムは 当 初 米 国 方 式 (ATSC 方 式 ) 欧 州 方 式 (DVB T) 日 本 方 式 (ISDB T)の3 方 式 が 存 在 しており 南 米 では2006 年 6 月 ポルトガル 語 圏 のブラジル が 日 本 方 式 を 採 用 した このブラジルの 決 断 は 日 本 方 式 の 技 術 的 優 位 性 を 示 したとともに 日 伯 ( 日 本 ブ ラジル) 方 式 としてこの 方 式 をブラジル 以 外 の 国 に 普 及 させようという 日 本 サイドか らの 政 治 的 な 働 きかけが 功 を 奏 したものであ る 両 国 政 府 はただちに 協 力 し 日 伯 方 式 を 南 米 などの 各 国 に 広 めることについて 合 意 し た しかし スペイン 語 圏 のウルグアイが2007 年 8 月 に また 同 語 圏 のコロンビアも08 年 8 月 に 相 次 いで 欧 州 方 式 の 採 用 を 決 めたこと で 暗 雲 がただよった その 後 の 巻 き 返 しの 結 果 2009 年 4 月 に ペルーがスペイン 語 圏 で 初 めて 日 本 方 式 を 採 用 したことで 状 況 が 一 変 し 同 年 中 にアルゼ ンチン チリ ベネズエラが さらに10 年 に は エクアドル コスタリカ パラグアイ ボリビアが 日 本 方 式 の 採 用 を 決 めた また 2010 年 6 月 には アジアでもフィリ 1 地 上 デジタル 放 送 日 本 方 式 (ISDB-T) 採 用 (11 国 20114) 1120101256000 2006629 200712 2009423 2010330 828 428 914 10 6 2010326 525 6 1 612 7 5 1227 452 332 1,400 8,857 2,850 4,450 1,002 1,680 2,860 19,400 333 3,988 628 Web 35
ピンが 日 本 方 式 の 採 用 を 決 めた このような 状 況 のなか 南 米 で 最 初 に 欧 州 方 式 の 採 用 を 決 めたウルグアイも 2010 年 12 月 に 日 本 方 式 に 変 更 し 南 米 の 主 要 国 は コ ロンビアを 除 きすべて 日 本 方 式 になった す なわち 日 本 方 式 は 事 実 上 の 南 米 標 準 となっ たわけである なお 地 上 デジタル 放 送 のような 規 格 を 国 際 展 開 することは 人 口 減 少 による 国 内 市 場 の 縮 小 ( 図 2)を 考 えると 日 本 の 産 業 の 将 来 にとって 必 須 事 項 である 1 日 本 方 式 を 南 米 で 普 及 させる 意 義 (1) 周 波 数 地 上 デジタル 放 送 は 現 行 の 地 上 アナログ 放 送 に 置 き 換 えてシステムを 構 築 する この 場 合 アナログ 用 の 周 波 数 とデジタル 用 の 周 波 数 が 相 互 にうまく 利 用 できることが 重 要 と なる 地 上 アナログ 放 送 で 用 い ら れ る 周 波 数 (VHF 帯 30 300MHz やUHF 帯 300 3000MHz )は 電 波 の 波 長 が10cmから10m となり 受 信 アンテナの 大 きさや 電 波 伝 搬 の 際 の 回 り 込 みを 考 えると 放 送 や 移 動 通 信 に 最 適 である 特 にUHF 帯 は 受 信 アンテナが 小 さくてすみ 物 陰 にも 電 波 がよく 回 り 込 む ので 移 動 通 信 には 最 適 である(アンテナの 大 きさは 波 長 に 関 係 し 周 波 数 が 高 くなると 光 のように 直 進 性 が 強 くなって 必 要 な 基 地 局 の 数 が 多 くなる) ところが このあたりの 周 波 数 幅 の 総 量 は 少 ないので 周 波 数 の 効 率 的 な 有 効 利 用 が 必 須 となっている このため アナログ 放 送 か らデジタル 放 送 に 転 換 する 場 合 には 放 送 1 チャンネル 当 たりの 周 波 数 幅 が アナログと デジタルで 同 じであることが 望 ましい 既 存 の 地 上 アナログ 放 送 システムの1チャ ンネル 当 たりの 周 波 数 幅 は 米 国 をはじめ 中 南 米 地 域 やアジアの 日 本 韓 国 台 湾 フ ィリピンでは6MHzであるのに 対 し 欧 州 を はじめとする 国 々では8MHzが 主 流 (7MHz の 国 もある)である したがって 日 本 と 同 じ 周 波 数 幅 の 国 のほ うが 日 本 方 式 をそのまま 導 入 しやすかっ 2 と 人 ( 日 本 の 人 推 移 の) 14,000 12,000 10,000 8,000 196742 120 1 200618 12,777 6520.8% 2055 8,993 6540.5% 6,000 4,000 2,000 19209 5,596 2100 4,771 6540.8% 0 1920 40 50 60 70 80 90 2000 10 20 30 40 50 60 70 80 90 2100 2006122008 36 知 的 資 産 創 造 /2011 年 6 月 号
た そこで 日 本 は6MHzの 国 々に 向 けて 普 及 活 動 を 始 めたのである そのときにはすでに カナダとメキシコは 米 国 方 式 を 採 用 してお り 6MHzの 国 々で 地 上 デジタル 放 送 の 方 式 を 決 めていなかった 大 きなエリアとして 南 米 大 陸 があった なお 8MHzの 国 でも 日 本 方 式 の 導 入 は 無 理 ではないので 2011 年 現 在 アフリカなど の8MHzの 国 々に 対 しても 日 本 方 式 の 採 用 に 向 けた 働 きかけが 始 まっている (2) 国 民 の 購 買 力 次 に 南 米 の 国 々の 発 展 度 合 いを 見 ると 各 国 の 国 民 の 購 買 力 を 正 確 に 数 値 で 示 すのは 難 しいが 世 界 銀 行 などの 資 料 から 1 人 当 た りGDP( 国 内 総 生 産 )の 値 は 容 易 に 得 るこ とができる( 表 1) 最 近 アジア 市 場 の 話 がよく 語 られるが 同 表 によれば 南 米 各 国 のその 値 は 全 般 的 にアジア 各 国 より 大 きいことがわかる 日 本 から 遠 いため 意 外 に 感 じる 人 も 多 いであろ うが 南 米 は 資 源 と 食 料 に 恵 まれており ア ジア 各 国 より 国 民 の 購 買 力 は 高 いと 評 価 でき る すなわち 市 場 の 魅 力 という 点 で 南 米 は 見 逃 せない 地 域 である (3) 埋 蔵 資 源 の 豊 富 さ たとえばボリビアには リチウムイオン 電 池 の 原 材 料 として 重 要 なリチウムに 関 して 全 世 界 の 約 6 割 が 眠 っているといわれてい る 電 気 自 動 車 などの 工 業 化 を 考 えると 資 源 のない 日 本 にとってはきわめて 重 要 な 国 で あり 南 米 にはそういう 国 々が 多 いことも 忘 れてはならない レアメタル( 希 少 金 属 )なども 同 様 であ り アンデス 周 辺 の 南 米 諸 国 は 資 源 の 確 保 という 点 からも 日 本 にとってきわめて 大 切 である 南 米 には 日 本 やアジアに 存 在 しない 資 源 があり この 意 味 からも 日 本 は 南 米 の 価 値 を 見 直 さなければならない( 次 ページ の 図 3) 2 世 界 の 地 上 デジタル 放 送 方 式 (とその 動 向 ) 地 上 デジタル 放 送 の 方 式 は ITU( 国 際 電 気 通 信 連 合 )で 標 準 化 されており 前 述 のと おり これまで 欧 州 方 式 米 国 方 式 日 本 方 式 の3 方 式 が 国 際 標 準 として 認 められている 2011 年 4 月 現 在 さらに 中 国 方 式 (DTMB) の 国 際 標 準 への 登 録 手 続 きが 進 められている ところである( 次 ページの 表 2) (1) 日 本 方 式 日 本 方 式 は 電 波 信 号 の 送 り 方 に 工 夫 をし て 劣 化 した 画 像 を 受 信 機 で 復 元 できるよ う NHKの 放 送 技 術 研 究 所 が 中 心 となって 表 1 アジア 南 米 各 国 の1 人 当 たりGDP( 国 内 総 生 産 )の 額 世 界 順 位 国 名 アジア( 主 要 国 ) 南 米 ( 主 要 国 ) 1 人 当 たり GDP 世 界 順 位 国 名 単 位 :ドル 1 人 当 たり GDP 21 日 本 38,443 53 ベネズエラ 11,230 23 シンガポール 37,600 57 チリ 10,112 28 ブルネイ 28,894 60 ウルグアイ 9,654 37 韓 国 19,115 64 ブラジル 8,400 52 ロシア 11,339 65 アルゼンチン 8,235 67 マレーシア 7,221 82 コロンビア 5,440 101 タイ 3,869 91 ペルー 4,419 108 中 国 2,912 97 エクアドル 3,900 117 インドネシア 2,254 114 パラグアイ 2,566 125 フィリピン 1,847 126 ボリビア 1,722 141 インド 1,068 142 ベトナム 1,051 148 ラオス 875 158 カンボジア 651 The World BankWorld Development Indicators 2008 37
開 発 し その 後 標 準 化 されたシステムであ り 山 谷 など 複 雑 な 地 形 のなかでもきれい な 画 像 が 楽 しめる また セグメント 構 造 (セグメント 方 式 ) という 日 本 固 有 の 技 術 により アナログ 放 送 1チャンネル 分 の 周 波 数 帯 6MHzを13 個 のセ グメントに 分 解 して 1チャンネルのなかで 異 なるさまざまな 情 報 を 目 的 に 照 らしてそ れぞれ 最 適 な 方 法 で 伝 送 できるようにしてあ る したがって 固 定 受 信 機 と 同 じチャンネ ルの 電 波 を 屋 外 の 携 帯 電 話 端 末 などでも 簡 単 に 移 動 受 信 できることが 特 徴 である( 図 4) 固 定 受 信 機 向 けの 伝 送 は 受 信 アンテナを 大 きくできるため 電 波 の 伝 送 路 での 誤 り 訂 正 のレベルを 下 げられる したがって その 分 画 質 を 上 げている 一 方 移 動 受 信 機 は アンテナが 小 さくなってしまうため 電 波 の 伝 送 路 での 誤 り 訂 正 のレベルを 上 げる 必 要 が ある しかし 移 動 受 信 なので 画 面 は 小 さく てすむことから 画 質 を 下 げている 日 本 方 式 はこのようなセグメント 構 造 の 技 術 により 性 質 の 異 なる 固 定 受 信 機 向 けと 移 動 受 信 機 向 けの 放 送 波 を 1チャンネル 分 の 電 波 で 同 時 に 伝 送 できるようになっている 3 1974 7,995 8,400 21,400 9,710 18,000 12.2 % 3.7% 39.3 % 53.9 % 0.2% 0.8% 3.0% 2.5% 0.9% 0.2% 0.6% 0.2% 9.3% 11.7% 18.2% 0.6% 12.2% 41.1% 4800 23 683 1,580 54,200 20 17.7 % 43.2 % 27.1 % 0.5% 0.7% 16.5% 1.6% 8.0% 33.7% 3.6% 7.5% 16.0% BPThe Statistical Review of World Energy 2010USGSMineral Commodity Summaries 2010 38 知 的 資 産 創 造 /2011 年 6 月 号
要 するに 放 送 局 側 の 送 信 装 置 (トランスポ ンダー)が1 台 あれば 固 定 受 信 機 向 け 放 送 と 移 動 受 信 機 向 け 放 送 が 同 時 に 行 えるように なっているのである (2) 欧 州 方 式 欧 州 方 式 は 日 本 方 式 に 比 べて 画 像 劣 化 が 大 きく 移 動 受 信 が 簡 単 にできないシステム である 画 像 劣 化 を 少 なくするため 2010 年 5 月 に 改 良 版 のシステムが 標 準 化 された ただ この 改 良 版 は 改 良 前 と 変 調 方 式 が 異 な るので 導 入 する 場 合 はすでに 購 入 した 欧 州 方 式 の 受 信 機 で 視 聴 することはできない また セグメント 構 造 の 技 術 を 採 用 してい 表 2 地 上 デジタル 放 送 の 方 式 比 較 日 本 方 式 欧 州 方 式 米 国 方 式 中 国 方 式 スタンダード( 国 際 標 準 )の 取 得 〇 〇 〇 ITU( 国 際 電 気 通 信 連 合 )で 審 議 中 電 波 干 渉 への 強 さ 〇 〇 移 動 受 信 機 ( 携 帯 端 末 での 視 聴 ) 1つの 放 送 電 波 のな かで 対 応 可 能 別 の 放 送 電 波 が 必 要 別 の 放 送 電 波 が 必 要 採 用 決 定 国 数 100カ 国 以 上 自 国 のみ セットトップボックス( 既 存 のアナログ 受 信 機 で 視 聴 する ためのアダプター)の 普 及 デジタルテレビを 買 う 人 が 多 い 〇 〇 導 入 開 始 時 期 2003 年 ~( 日 本 ) 1998 年 ~( 英 国 ) 1998 年 ~( 米 国 ) 2008 年 ~( 中 国 ) 4 日 本 方 式 はさなースに 1 1ンル 放 送 (ジン) 2 1ンル 8 グント 構 は 日 本 方 式 だけの 優 れた 39
ないため 固 定 受 信 機 向 けのチャンネルと 移 動 受 信 機 向 けのチャンネルが 別 々に 必 要 にな る すなわち 固 定 受 信 機 向 け 放 送 に 加 えて 移 動 受 信 機 向 け 放 送 を 行 おうとすると 放 送 局 側 に2つの 送 信 装 置 が 必 要 になる なお 改 良 前 の 欧 州 方 式 の 採 用 国 は 世 界 で100カ 国 以 上 といわれている (3) 米 国 方 式 米 国 方 式 も 日 本 方 式 に 比 べて 画 像 劣 化 が 大 きい また 移 動 受 信 機 向 け 放 送 の 標 準 方 式 はない ただし 米 国 では メディアフロ ー と 呼 ばれるモバイルコミュニケーション サービスの 発 展 形 が 地 上 デジタル 放 送 とは 別 に 実 現 している 米 国 方 式 は 主 に 北 米 大 陸 ( 米 国 カナ ダ メキシコ)と 韓 国 で 導 入 されている (4) 中 国 方 式 中 国 方 式 は 4つのうち 一 番 新 しい 方 式 で あるため 欧 州 方 式 や 米 国 方 式 よりも 画 像 劣 化 が 少 なく 技 術 的 には 優 れている ただ 今 のところ 中 国 でしか 採 用 されていないの で 各 国 は 普 及 拡 大 を 注 視 している 状 況 にあ る ITUへの 国 際 標 準 化 の 作 業 も 進 められて いるところである なお 中 国 方 式 にもセグメント 構 造 の 技 術 は 取 り 入 れられていないため 固 定 受 信 機 向 けと 移 動 受 信 機 向 けの 放 送 をする 場 合 には 2つの 送 信 装 置 が 必 要 となる 3 国 際 標 準 の 重 要 性 グローバル 市 場 を 創 出 拡 大 するには 通 常 行 われるような 営 業 活 動 が 重 要 であること はいうまでもない しかし 筆 者 はグローバ ル 市 場 の 創 出 獲 得 のために あえて 国 際 標 準 (デファクトスタンダード 事 実 上 の 標 準 も 含 む)への 取 り 組 みの 重 要 性 を 指 摘 し ておきたい 他 の 国 にシステムを 導 入 しようとする 場 合 そのシステムが 何 らかの 国 際 標 準 に 合 致 していないと 採 用 が 大 変 困 難 だからであ る また 途 上 国 では 技 術 評 価 のノウハウ がないので 形 式 的 にはむしろ 国 際 標 準 への 適 合 がより 厳 格 に 求 められる 場 合 がある したがって グローバル 市 場 を 獲 得 する 際 には まずは 導 入 してもらいたいシステムを 何 らかの 国 際 標 準 にしたうえで いくつかあ る 国 際 標 準 のなかから その 国 際 標 準 の 採 用 を 相 手 国 に 認 めてもらう 必 要 がある( 通 常 国 際 標 準 は 一 つの 方 式 規 格 ではなく 複 数 存 在 するケースが 多 い) 日 本 で 開 発 した 技 術 が 国 際 標 準 になり か つグローバル 市 場 でその 国 際 標 準 が 受 け 入 れ られれば 技 術 先 行 性 から 市 場 で 優 位 に 立 て る それとともに 市 場 がより 大 きくなり 規 模 の 経 済 性 から 製 品 コストが 安 くなり 国 際 競 争 力 が 一 層 増 す 日 本 国 民 も 安 い 製 品 を 購 入 でき パテント( 特 許 )などの 知 的 財 産 での 収 入 も 見 込 めるようになる 欧 米 の 大 手 企 業 では 国 際 標 準 の 担 当 者 を その 企 業 の 経 営 中 枢 幹 部 にすえている 例 が 多 く 見 られる 一 方 日 本 企 業 の 場 合 国 際 標 準 の 担 当 者 を 役 員 にまで 昇 格 させているケースがほとん どないのは 大 変 残 念 である 経 済 環 境 の 変 化 のなかで 日 本 経 済 を 再 度 強 くするには 国 際 標 準 の 重 要 性 を 強 く 認 識 する 必 要 がある グローバル 市 場 に 出 るためには 何 らかの 国 際 標 準 の 獲 得 が 必 要 条 件 なのである 40 知 的 資 産 創 造 /2011 年 6 月 号
複 数 企 業 による 国 際 標 準 戦 略 が 功 を 奏 した 例 は 携 帯 電 話 の 欧 州 方 式 であるGSM( 第 2 世 代 携 帯 電 話 )である パソコン 分 野 で 米 国 に 遅 れを 取 ったと 感 じた 欧 州 が 携 帯 電 話 の 世 界 で 国 際 標 準 化 戦 略 を 駆 使 し 名 実 とも に 国 際 標 準 になった ノキアなどの 活 躍 ぶり は 述 べる 必 要 がないであろう Ⅱ 地 上 デジタル 放 送 日 本 方 式 の 売 り 込 みの 実 態 1 南 米 各 国 で 何 が 議 論 になったのか 地 上 デジタル 放 送 では 米 国 方 式 が 一 番 古 い ため 南 米 各 国 が 方 式 を 決 定 する 前 から 米 国 方 式 のテレビ 受 信 機 (アナログ 受 信 機 に 米 国 方 式 のICチップが 入 っている 製 品 )が 自 然 に 流 通 していた しかし 技 術 の 新 鮮 味 に 乏 しいこともあって 南 米 各 国 に 対 する 放 送 方 式 の 普 及 活 動 では 米 国 の 諦 めが 意 外 に 早 いように 見 受 けられた したがって 南 米 各 国 では 日 本 方 式 が 欧 州 方 式 と 一 騎 打 ちを 行 う 色 彩 が 強 かった 中 国 方 式 については ベネズエラが 一 時 内 定 した り エクアドルが 地 上 デジタル 放 送 方 式 決 定 の 途 中 段 階 で 電 気 通 信 監 督 庁 の 長 官 が 強 く サポートしたりしたことがあった 中 国 が ICT( 情 報 通 信 技 術 )の 分 野 で 大 がかりな 標 準 方 式 のシステムを 自 ら 開 発 し それを 外 国 に 広 める 活 動 を 取 ったのは おそ らく 今 回 が 初 めてではないかと 思 われるが この 事 実 はしっかり 記 憶 にとどめておくべき である なお 中 国 は3G( 第 3 世 代 ) 方 式 のデジ タル 携 帯 電 話 でも 独 自 の 標 準 を 開 発 してい ることを 付 記 しておく 以 下 では 南 米 各 国 が 地 上 デジタル 放 送 の 方 式 を 選 定 するに 当 たって どのような 論 点 があったかについて 整 理 する (1) 技 術 の 優 位 性 日 本 方 式 のアピールポイントである 移 動 受 信 機 向 け 放 送 の 必 要 性 について 相 手 国 に 理 解 してもらうことに 日 本 サイドでは 苦 労 した 屋 外 でテレビを 見 ることは 必 要 がな いし 必 要 になったときにやればよいのでは ないか という 現 地 国 の 主 張 に 手 こずった 日 本 から 携 帯 電 話 端 末 を 持 って 行 って デモ ンストレーションを 行 うなど 現 物 を 見 せて 説 得 することが 必 須 であった なお 電 波 伝 搬 特 性 の 優 位 性 などについて は 各 方 式 の 比 較 試 験 が 実 際 に 行 われ 日 本 方 式 は 満 足 のいく 結 果 が 出 せている 技 術 の 優 位 性 については 相 手 側 が 技 術 者 であれば 話 を 聞 いてもらい 説 得 できるのであ るが 技 術 者 以 外 のキーパーソンに 理 解 して もらうには 具 体 的 でわかりやすい 資 料 が 不 可 欠 である (2) 導 入 コスト 1 受 信 機 やセットトップボックスの 値 段 欧 州 勢 からは 日 本 方 式 の 機 器 は( 余 計 で 複 雑 な 技 術 が 組 み 込 まれているので) 値 段 が 高 い 貧 困 層 には 買 えない というコメン トがたびたび 発 せられることに 悩 まされ 続 け た 具 体 的 に 欧 州 勢 は 既 存 の 受 信 機 で 日 本 方 式 のデジタルテレビを 見 るには セットト ップボックス(デジタル 信 号 をアナログ 信 号 に 変 換 するアダプター)が 必 要 であるが 日 本 の 秋 葉 原 の 安 売 りショップでその 値 段 を 調 41
べると150ドルであった 欧 州 方 式 に 必 要 な セットトップボックスは 普 通 のショップで も30ドル 以 下 で 買 える あるいは 欧 州 方 式 は100カ 国 以 上 で 採 用 されている 日 本 方 式 を 採 用 した 国 は 日 本 以 外 ほとんどない し たがって 製 品 の 販 売 数 が 圧 倒 的 に 少 ないの で 日 本 方 式 のセットトップボックスは 値 段 が 安 くならない といった 情 報 を 流 した 欧 州 勢 は 技 術 の 良 し 悪 しよりも こういっ たわかりやすいコメントを 政 府 や 新 聞 放 送 事 業 者 さらには 大 学 教 授 などの 識 者 に 対 して 終 始 徹 底 して 提 供 していた デジタルテレビにかぎらず 日 本 の 製 品 は 一 般 的 に 値 段 が 高 いという 意 識 ( 思 い 込 み) が 国 際 的 にはあり 日 本 企 業 がグローバル 市 場 に 出 るならば このポイントをどうしても 乗 り 越 えなくてはならない( 安 くしたくない のであれば それなりのイメージ 戦 略 が 必 要 ) 欧 州 勢 のこうした 攻 撃 に 対 して 日 本 サイ ドは 当 初 どの 国 でも デジタル 放 送 を 開 始 してか ら5 年 から10 年 は アナログ 放 送 も 見 ら れるように 移 行 期 間 を 設 けており セッ トトップボックスがすぐに 必 要 となるわ けではない セットトップボックスが 本 当 に 必 要 にな るのは 5 年 から10 年 後 にアナログ 放 送 を 停 止 するときである それまでにはセ ットトップボックスの 値 段 は 大 いに 下 が るので 全 く 問 題 はない という 正 論 を 説 明 した ところが 日 本 サイドのこのコメントが 逆 に 欧 州 勢 にうまく 利 用 されてしまった 欧 州 勢 は 日 本 はセットトップボックス をつくって 売 る 気 がないから そういうこと をいう 日 本 人 の 大 多 数 はデジタルテレビに 買 い 替 えている お 金 のある 日 本 人 だからで きるが 南 米 ではそううまくはいかない だ から 日 本 は 安 いセットトップボックスをつく る 気 がない というコメントが 流 布 されてし まった( 特 にコロンビアにおいて) こういう 状 況 を 踏 まえて 日 本 の 大 手 電 機 メーカーに 対 して セットトップボックスの 低 価 格 化 の 提 案 を 依 頼 したが 100ドルを 切 るのがやっと というような 返 答 ( 回 答 )が 多 く 前 に 進 めない 状 況 になった 日 本 方 式 の 売 り 込 みなので 日 本 人 が 経 営 しているベンチャー 企 業 に 当 たったところ 生 産 ロット( 最 小 製 造 単 位 )が 多 ければ40 50ドルでつくれそうだ という 企 業 を 探 し 当 てた それでも 欧 州 方 式 の30ドルよりも 高 い そこで 欧 州 勢 が30ドル 以 下 としているセ ットトップボックスの 機 能 に 合 わせるため 日 本 方 式 に 搭 載 されている 著 作 権 保 護 など のためのB-CASカードシステムを 規 格 から 外 すので30ドル 前 後 にならないか とそのベ ンチャー 企 業 に 問 い 合 わせしたところ や ってみましょう という 返 事 をもらった その 後 ワンセグ 放 送 の 受 信 機 能 のみの セットトップボックスであれば ロットが 多 ければ20ドルでできる という 提 案 もあり セットトップボックスの 値 段 の 問 題 は 解 決 し た 日 本 方 式 でも 20ドルでセットトップボッ クスが 提 供 可 能 という 提 案 ができるまでに 相 当 時 間 を 費 やしてしまい その 間 にウルグ アイ コロンビアの2カ 国 は 欧 州 方 式 に 決 定 してしまった 42 知 的 資 産 創 造 /2011 年 6 月 号
なお 欧 州 方 式 は100カ 国 以 上 で 採 用 され ているのでロットが 多 くて 安 いが 日 本 方 式 は 採 用 国 がほとんどないのでロットが 少 なく 値 段 が 高 い との 欧 州 勢 のコメントに 対 して も 次 のような 対 応 を 取 ることで 水 掛 け 論 のレベルにまで 揺 り 戻 した 欧 州 方 式 と 米 国 方 式 の 受 信 機 の 出 荷 台 数 は Webサイトで 容 易 に 確 認 できるので 調 べたところ 実 は 日 本 方 式 の 受 信 機 の 出 荷 台 数 が 多 かった そこで 各 方 式 の 出 荷 台 数 を 普 及 国 数 で 割 り 1カ 国 当 たりの 受 信 機 の 普 及 台 数 をグラフに 表 して 逆 に 欧 州 方 式 の 1か 国 当 たり 受 信 機 の 普 及 台 数 は 日 本 方 式 には 遠 く 及 ばない これは 各 国 の 視 聴 者 か ら 見 て 欧 州 方 式 のシステムに 魅 力 がないか らである というロジックで 日 本 方 式 の 優 位 性 を 訴 えた( 図 5) これは 見 る 方 向 を 変 えれば 分 析 によっ て 逆 の 結 論 が 導 けるという 信 念 に 基 づき 考 察 した 結 果 である 2 送 信 装 置 の 価 格 アナログからデジタルに 変 更 すると 放 送 局 の 設 備 のうち 少 なくとも 送 信 装 置 を 変 更 しなければならない 送 信 装 置 の 価 格 は 変 調 方 式 などのみが 主 要 な 違 いになるので 各 方 式 の 送 信 装 置 の 価 格 はほとんど 変 わらな い 送 信 装 置 1 台 当 たりの 値 段 は 送 信 電 力 の 大 小 によって 変 わり 数 百 万 円 から 数 億 円 程 度 である 前 述 のとおり 日 本 方 式 は 固 定 受 信 機 向 けの 放 送 と 移 動 受 信 機 向 けのそれを1 台 の 送 信 装 置 で 送 信 できるが 欧 州 方 式 など 他 の 方 式 で 両 方 を 放 送 しようとすれば 2 台 の 送 信 装 置 が 必 要 になる すなわち 仮 に 全 国 放 送 を 行 う 場 合 に200 カ 所 の 送 信 所 が 必 要 であるとし その 際 送 信 装 置 1 台 当 たりの 平 均 価 格 を5000 万 円 とす ると 送 信 装 置 の 設 備 投 資 コストは 台 数 が 半 分 ですむ 日 本 方 式 のほうが 100 億 円 少 な くてすむことになる このように 結 論 は 明 確 であるにもかかわら ず 旧 宗 主 国 などとの 関 係 もあって 普 段 のつ き 合 いの 多 い 欧 州 勢 からの 欧 州 方 式 でも 移 動 受 信 はできる しかし 移 動 受 信 は( 玩 具 のようなものなので) 当 面 必 要 ない 放 送 しようと 思 えばいつでもできる とのコメン トのほうに 南 米 各 国 の 幹 部 が 説 得 されてし まう 傾 向 があった 日 本 サイドでは それに 対 抗 して 相 手 国 の キーパーソンに 対 し しつこいくらいに 送 信 装 置 の 価 格 的 優 位 性 を 主 張 し 続 けた 特 にエ クアドルでは 当 初 移 動 受 信 は 不 採 用 という 想 定 であったため 支 援 費 用 を 含 めた 全 体 コ ストの 比 較 で 日 本 方 式 は 欧 州 方 式 に 負 けてい た しかしながら 政 府 間 の 交 渉 で 最 終 的 に 都 市 部 は 固 定 受 信 と 移 動 受 信 ローカル( 地 方 )では 固 定 受 信 のみという 考 え 方 を 入 れた 51 5,000 4,980 4,000 3,000 2,000 1,000 0 201111 240 200912 Web 1,980 20098 43
ことにより 送 信 装 置 のコスト 差 のおかげで 日 本 方 式 がかろうじて 勝 利 した (3) 技 術 移 転 と 雇 用 の 増 大 標 準 方 式 を 他 国 から 受 け 入 れる 以 上 導 入 する 国 からは その 国 の 発 展 を 促 すという 観 点 で 雇 用 の 確 保 と 併 せて 工 場 や 研 究 センタ ーの 誘 致 を 要 求 されるケースが 多 い こうい った 要 求 があると 他 の 方 式 を 提 案 する 国 ( 欧 州 や 中 国 )は 前 向 きの 対 応 を 簡 単 に 約 束 してしまうようである しかし 工 場 の 誘 致 については ブラジルと 組 んで 日 本 方 式 の 普 及 活 動 を 行 ってきたこと が 大 変 功 を 奏 した ブラジル 企 業 がデジタル テレビの 組 み 立 て 工 場 の 設 置 に 投 資 するとい うことを ブラジル 政 府 が 各 国 に 積 極 的 に 提 案 したからである 日 本 企 業 の 一 部 は デジ タルテレビの 組 み 立 て 工 場 の 実 現 に 一 定 のコ ミット( 関 与 )をしたが そこに 至 るまでに は 社 内 調 整 にかなりの 時 間 を 要 した 日 本 サイドは 自 国 内 で 使 用 する 目 的 で テレビなどの 製 品 をその 国 のなかで 生 産 する ことに 関 しては 標 準 方 式 にかかわる 基 本 的 な 特 許 のみを 無 償 で 開 示 することにした 工 場 の 誘 致 と 雇 用 の 増 大 に 対 する 要 求 には ブ ラジルとの 連 携 が 効 果 的 であったといえよ う (4) 経 済 協 力 地 上 デジタル 放 送 システムの 設 置 に 際 し て 欧 州 勢 は 融 資 等 で100 万 ユ ー ロ( 約 1 億 2000 万 円 1ユーロ=120 円 で 換 算 )を 支 援 する など 具 体 的 な 数 字 を 挙 げて 提 案 する これに 対 し 日 本 サイドは 関 係 機 関 と 調 整 する というにとどまり 融 資 のスキ ーム( 枠 組 み)を 紹 介 することしかできな い また 欧 州 勢 は 個 別 国 への 融 資 の 提 案 で あるにもかかわらず 南 米 全 体 に 向 けた 融 資 総 額 と 同 じ 数 字 を 平 気 で 使 っているケースが ある この 点 日 本 サイドはまじめすぎるきらい がある 提 案 内 容 を 単 純 に( 表 面 的 に) 比 較 されると 投 資 総 額 の 数 字 の 多 寡 で 明 らかに 負 けてしまうのである 日 本 の 総 務 省 などが 相 手 国 の 国 営 放 送 の 設 備 支 援 ( 第 1 号 の 送 信 装 置 など)を 行 ったことや 設 備 の 更 改 に 伴 って 日 本 では 不 要 となったNHKや 民 間 放 送 事 業 者 からの 中 継 車 およびスタジオカメラ などを 提 供 したことは 相 手 国 からの 評 価 を 高 めるうえで 大 変 有 効 であった 日 本 方 式 が 南 米 を 席 捲 するまでに 至 ったの は ポルトガル 語 圏 のブラジルが 日 本 方 式 を 採 用 した 後 スペイン 語 圏 において ウルグ アイおよびコロンビアが 欧 州 方 式 を 採 用 した にもかかわらず ペルーが 日 本 方 式 を 初 めて 採 用 したことがポイントであった ペルーが 日 本 方 式 に 決 める5カ 月 前 (2008 年 11 月 )に APEC(アジア 太 平 洋 経 済 協 力 ) 首 脳 会 議 が ぺルーの 首 都 リマで 開 催 さ れた その 際 の 日 本 ペルー 首 脳 会 談 におい て ペルーが 希 望 していた 日 本 ペルー 経 済 連 携 協 定 (EPA)について 政 治 的 に 前 向 きに 検 討 との 方 向 が 示 されたことが 結 果 的 に 日 本 方 式 の 採 用 決 定 に 良 い 影 響 を 与 え た なお 相 手 国 にとっては 人 材 育 成 に 関 す る 支 援 ( 活 動 )が 非 常 に 有 効 であることも ここで 述 べておきたい 日 本 方 式 の 普 及 に 当 たって 人 材 技 術 研 修 として 導 入 相 手 国 の 専 門 家 20 人 ほどを JICA( 国 際 協 力 機 構 )の 44 知 的 資 産 創 造 /2011 年 6 月 号
予 算 で2 週 間 ほど 東 京 に 招 いたことが 相 手 国 の 大 臣 をはじめ 政 府 幹 部 から 大 いに 感 謝 さ れた 設 備 支 援 より 費 用 が 少 なくてすむにも かかわらず 先 端 技 術 の 人 材 技 術 研 修 は 大 変 評 判 が 良 いということを 付 記 しておく また 日 本 方 式 の 採 用 国 であるペルー ア ルゼンチン チリなどに 対 しては JICAの 予 算 により 専 門 家 (NHKや 民 間 放 送 事 業 者 で 実 際 に 地 上 デジタル 放 送 を 立 ち 上 げた 技 術 者 )を 長 期 にわたって 派 遣 していること も 先 方 ( 相 手 国 )から 高 く 評 価 されてい る 現 在 も 南 米 の 地 に 居 住 して 日 本 方 式 のサービス 開 始 に 向 けて 努 力 している 日 本 人 技 術 者 には 心 から 敬 意 を 表 したい 2 キーパーソンへの 接 触 の 重 要 性 (1) キーパーソンは 誰 か 日 本 方 式 の 導 入 に 向 けた 交 渉 を 進 めていく 場 合 相 手 国 のキーパーソンは 誰 か とい うことを 正 確 に 見 極 めることが 最 も 重 要 で ある 各 国 との 交 渉 の 経 過 と 経 緯 を 振 り 返 っ て 分 析 すると 南 米 などの 国 で 地 上 デジタル 放 送 の 方 式 を 決 めるキーパーソンは 結 局 放 送 を 所 管 している 大 臣 であり 大 統 領 であっ た 放 送 方 式 ですらそうであることから 新 幹 線 などの 大 型 案 件 についての 意 思 決 定 が 大 統 領 マター( 管 轄 )であることは 容 易 に 推 察 できる 欧 州 勢 が 途 上 国 に 働 きかける 際 に は まず 旧 宗 主 国 が 窓 口 となって 働 きかけを 行 い 欧 州 委 員 会 が 動 くのはその 後 のようで ある 南 米 の 場 合 旧 宗 主 国 である 欧 州 勢 の 元 首 から 南 米 各 国 の 大 統 領 に 地 上 デジタル 放 送 は 欧 州 方 式 にするよう 何 度 も 直 接 に 電 話 などがあったと 聞 いている それでもだ めな 場 合 最 後 には 欧 州 委 員 会 の 首 脳 から 大 統 領 に 対 して 欧 州 方 式 採 用 への 働 きかけが あったそうである これは 従 来 日 本 が 取 ってきたビジネス 慣 行 とは 全 く 異 なる 動 きである 日 本 の 場 合 は まず 担 当 者 ( 部 課 長 レベル) 同 士 が 話 し 合 って 段 取 りをつけ 次 に 局 長 や 執 行 役 員 な ど 部 門 の 責 任 者 が 相 互 に 内 容 を 確 認 し その 詰 めが 終 わった 段 階 で 所 管 の 大 臣 や 企 業 の 代 表 者 が 面 会 して 署 名 をする という 形 式 が 取 られることが 多 いと 思 われる (2) 何 をしなければならないのか 途 上 国 相 手 に 仕 事 をする 場 合 重 要 な 案 件 (AかBに 方 式 を 決 めることなど)ほど 担 当 者 から 上 司 に 話 が 上 がらないと 思 って 対 応 するほうがよいようである その 理 由 は 担 当 者 からすると 重 要 な 意 思 決 定 を 迫 る 案 件 を 上 司 に 上 げることにより 上 司 から 賄 賂 を 受 け 取 ったのではないか と 思 われるのを 防 ぐためではないかと 推 察 できる 途 上 国 で は キーパーソンが 汚 職 を 根 治 しようとして いるケースが 多 いものの 現 実 にはなかなか 減 らない 状 況 にあると 見 られる したがって 日 本 とは 異 なり 初 期 の 段 階 で キーパーソンである 所 管 の 大 臣 や 企 業 の 代 表 者 あるいは 大 統 領 に 直 接 働 きかけるこ とが 大 変 重 要 である まずキーパーソンに 働 きかけて そこで 担 当 者 を 紹 介 してもらい 担 当 者 同 士 で 交 渉 を 進 めつつ キーパーソン ともときどき 進 捗 状 況 を 確 認 する 形 で 同 時 並 行 的 に 話 を 進 めることが 必 須 である 相 手 国 の 担 当 者 も キーパーソンの 紹 介 で あれば 怖 くて 賄 賂 などは 要 求 できない 従 45
来 の 日 本 流 のやり 方 では 必 ずしも 相 手 国 に 対 して 真 に 働 きかけていることにはならな い ということを 理 解 しなければならない 日 本 航 空 の 再 建 に 当 たり アライアンス ( 企 業 提 携 ) 先 をアメリカン 航 空 にするかデ ルタ 航 空 にするかで 問 題 になったとき 両 社 ( 両 航 空 会 社 )のCEO( 最 高 経 営 責 任 者 ) が 日 本 の 国 土 交 通 大 臣 や 日 本 航 空 のトップ 層 に 直 接 話 に 来 た これがグローバルビジネ スを 成 功 させる 際 の 常 識 であると 思 う 日 本 企 業 でも 勝 敗 の 行 方 がわからない 交 渉 の 場 に 代 表 者 を 出 席 させたり 相 手 国 の 大 臣 などに 直 接 アポイントメントを 入 れて 働 き かけたりすることが もっと 普 通 に 行 われる ようになるべきである 外 国 の 主 要 なグローバル 企 業 は 社 長 の 専 用 ジェット 機 を 保 有 している 日 本 企 業 で も 株 主 総 会 対 策 のために 自 社 のグローバル 化 を 口 にするのではなく グローバル 活 動 を 本 気 で 行 うために 社 長 の 専 用 ジェット 機 は 必 須 であると 考 えて 購 入 すべきと 思 う ちなみに 地 上 デジタル 放 送 の 場 合 は 欧 州 勢 や 中 国 による 南 米 各 国 の 大 統 領 への 直 接 の 働 きかけがあったという 情 報 をキャッチし て 日 本 サイドも 首 相 から 相 手 国 の 大 統 領 に 対 して 会 談 の 場 や 電 話 で 複 数 回 タイム リーに 働 きかけがなされた さらにつけ 加 えると 途 上 国 においては 普 段 から 旧 宗 主 国 や 米 国 などとのつき 合 いが 多 く 政 府 レベルでは 課 長 級 から 次 官 級 までは 常 日 ごろ それらの 国 の 担 当 者 と 何 らかの 接 触 や 働 きかけが 継 続 的 にあることが 多 い し たがって 日 本 にとって 都 合 の 良 い 話 があっ ても 次 官 以 下 でブロックされてしまい 所 管 大 臣 や 大 統 領 には 伝 わらない 可 能 性 が 高 い ことも 意 識 しなければならない (3) 継 続 的 な 接 触 の 重 要 性 外 国 との 交 渉 では 日 本 側 のキーパーソン から 相 手 国 のキーパーソンへの 働 きかけは 年 に1 回 くらいの 場 合 やらないよりはまし であるが 国 内 向 けの 単 なるパフォーマンス になってしまうことが 多 い 交 渉 を 成 功 させ るためには 相 手 国 のキーパーソンに 対 し て 継 続 的 に しつこいくらいに 接 触 し 続 け ることが 何 よりも 大 切 である 過 去 に1 回 ないし2 回 面 会 していれば そ の 後 は 電 話 でかまわない 最 終 結 論 ( 合 意 ) が 得 られるまで 担 当 者 同 士 で 進 捗 状 況 を 確 認 しながら キーパーソン 同 士 がときどき 接 触 を 繰 り 返 して 相 手 に 働 きかけることが 重 要 である 地 上 デジタル 放 送 の 場 合 は 欧 州 勢 や 中 国 の 国 家 元 首 クラスから 南 米 各 国 の 大 統 領 に 対 して 直 接 的 な 働 きかけがあった それだけ に キーポイントにおける 日 本 の 首 相 から 大 統 領 へのタイムリーな 働 きかけは 重 要 な 意 味 を 持 った さらに 日 本 側 の 担 当 者 から 相 手 国 の 大 統 領 や 所 管 大 臣 への 継 続 的 な 接 触 も 重 要 であ る 日 本 の 大 臣 副 大 臣 政 務 官 の 頻 繁 な 海 外 出 張 は 国 会 会 期 中 は 困 難 であるため 筆 者 が 総 務 審 議 官 の 職 にあったとき(2008 年 7 月 から10 年 7 月 まで)には 相 手 国 大 統 領 宛 ての 首 相 親 書 や 所 管 大 臣 宛 ての 総 務 大 臣 レタ ーを 持 参 し 2 年 間 で 南 米 を24 回 訪 問 して 接 触 の 面 で 万 全 を 期 した 総 務 審 議 官 のように 省 名 のつく 審 議 官 は 英 語 で はVice-Minister for Policy Coordinationと 翻 訳 され 次 官 級 になるの 46 知 的 資 産 創 造 /2011 年 6 月 号
で 相 手 国 の 所 管 大 臣 や 大 統 領 にアポイント メントを 入 れやすかったことが 幸 いした 2009 年 5 月 には 首 相 の 指 示 を 受 けて 筆 者 は 中 国 方 式 に 内 定 していたベネズエラの 大 統 領 に 対 し 日 本 方 式 の 詳 しい 説 明 を 直 接 行 う 機 会 があった 筆 者 以 外 にも 南 米 各 国 を 訪 問 し 徹 底 的 に 日 本 方 式 のPRに 努 めた 関 係 者 ( 矢 橋 隆 元 NHK 技 術 局 長 など)がいた ことを 付 記 しておく 3 現 地 大 使 館 との 連 携 の 重 要 性 今 回 の 南 米 での 活 動 に 当 たり とりわけ 重 要 であったのは 外 務 省 の 中 南 米 局 を 通 じた 現 地 大 使 館 との 連 携 であった 相 手 国 のキー パーソン( 大 統 領 所 管 大 臣 に 加 え 次 官 有 力 議 員 有 力 企 業 幹 部 など)との 会 談 のア ポイントメント 設 定 には 現 地 大 使 館 の 役 割 がきわめて 大 きい 大 統 領 へのアクセスとなると 大 きな 国 際 会 議 の 際 は 首 相 が 会 って 直 接 働 きかけるか 電 話 で 伝 えることになる 首 相 が 出 席 する 国 際 会 議 は 限 られているため 直 接 の 面 会 はな かなか 困 難 である また 日 本 が 国 会 会 期 中 であれば 前 述 の とおり 大 臣 や 副 大 臣 の 遠 方 への 海 外 出 張 は 大 変 困 難 である そういう 状 況 では 代 わりに 筆 者 が 行 くことになるが 大 統 領 への 働 きか けとなると 現 地 の 日 本 国 大 使 と 一 緒 に 面 会 を 求 める 必 要 がある そのような 場 面 では 首 相 官 邸 や 外 務 省 と 事 前 によく 相 談 し 署 名 入 りの 首 相 親 書 を 携 えて 行 くことが 大 変 有 効 となる 大 統 領 とのアポイントメント 確 保 は 現 地 大 使 館 の 仕 事 であるが その 苦 労 は 容 易 に 想 像 がつく 日 本 の 民 間 人 でも 大 統 領 と 親 しけ ればアポイントメントは 取 れるが そうでな ければ 大 統 領 とのアポイントメントは 大 使 館 から 行 うことが 必 須 である 前 述 のように 南 米 のスペイン 語 圏 の 国 々 ではウルグアイとコロンビアが 欧 州 方 式 に 決 め 日 本 方 式 がなかなか 採 用 されなかった ペルーが 最 初 に 日 本 方 式 に 踏 み 切 ってくれた ことが その 後 の 展 開 において 大 変 大 きな 意 味 を 持 った 在 ペルーの 目 賀 田 周 一 郎 日 本 国 大 使 の 活 躍 で 大 統 領 に 何 回 も 接 触 すること ができ 大 統 領 に 日 本 方 式 の 神 髄 を 十 分 に 理 解 していただくことができたことが 寄 与 した と 考 えられる 今 回 の 一 連 の 活 動 で 島 内 憲 前 ブラジル 日 本 国 大 使 をはじめ 南 米 各 国 に 駐 在 している 日 本 国 大 使 と 連 携 を 取 って 動 いたが 日 本 企 業 の 進 出 のサポートに 対 しても 南 米 の 日 本 国 大 使 館 は 熱 心 に 取 り 組 もうとしており 日 本 企 業 も 大 使 館 の 力 をもっと 借 りたほうがよ いのではないかと 感 じている Ⅲ 南 米 での 地 上 デジタル 放 送 日 本 方 式 採 用 国 の 拡 大 による 効 果 1 ISDB-Tインターナショナル フォーラムの 設 置 開 催 日 本 方 式 の 普 及 拡 大 ( 採 用 )に 伴 い 同 方 式 に 関 して 技 術 面 利 用 面 で 各 国 間 の 意 見 交 換 協 力 を 一 層 円 滑 に 進 めるため 日 本 はブ ラジルと 協 力 して ISDB-Tインターナシ ョナルフォーラム ( 以 下 ISDB-Tフォー ラム)の 設 置 開 催 を 進 めた 第 1 回 の 同 フォーラムは ブラジルの 次 に 日 本 方 式 の 採 用 を 決 めたペルーのリマにおい 47
て 2009 年 9 月 ペルー 大 統 領 出 席 のもとに 盛 大 に 開 催 された この 開 催 までに ペルー に 続 いてアルゼンチン( 同 年 8 月 ) チリ ( 同 年 9 月 )が 日 本 方 式 の 採 用 を 決 めてい た 同 ISDB-Tフォーラムには 日 本 から 総 務 大 臣 ブラジルから 通 信 大 臣 ペルーは 運 輸 通 信 大 臣 アルゼンチンから 通 信 庁 長 官 チリから 運 輸 通 信 大 臣 が 出 席 し 開 催 国 のペ ルー 大 統 領 がリード 役 となって 進 められた このフォーラムでは ペルーの 運 輸 通 信 大 臣 の 尽 力 で 5カ 国 の 大 臣 の 署 名 により リ マ 宣 言 が 採 択 された( 図 6) このリマ 宣 言 は 日 本 方 式 の 普 及 に 各 国 が 協 力 するという 内 容 であり その 後 の 南 米 に おける 日 本 方 式 の 普 及 を 決 定 的 なものとした 6 2009921 ISDB-T 1. ISDB-T ISDB-T 2. ISDB-T 3. ISDB-T 4. ISDB-T 2009921 また ISDB-Tフォーラムには 日 本 から 民 間 放 送 連 盟 会 長 NHK 副 会 長 関 係 メー カーの 代 表 も 出 席 し 南 米 でのビジネス 展 開 を 後 押 しする 大 変 よい 機 会 となった 政 官 民 の 関 係 者 が 集 まるフォーラムは 各 国 の 相 互 協 力 という 点 でその 意 義 は 大 きい このフォーラムに 担 当 者 が 出 席 していたベ ネズエラが 内 定 していた 中 国 方 式 を 翻 して 日 本 方 式 の 採 用 を 決 定 した この 後 エクア ドル コスタリカ パラグアイ ボリビアが 続 いた アジアでは フィリピンが 日 本 方 式 の 採 用 を 決 めた その 後 ISDB-Tフォーラムはアルゼンチ ン ブラジル チリと 持 ち 回 りで 開 かれてお り 同 フォーラムには 最 近 アフリカの 国 も 参 加 し 始 めている 2 南 米 での 採 用 国 拡 大 による 効 果 (1) 市 場 規 模 の 推 計 日 本 方 式 のデジタル 放 送 は ワンセグ 技 術 により 移 動 受 信 機 ( 携 帯 電 話 端 末 など)でも 視 聴 できるため 放 送 装 置 やテレビ 受 信 機 の メーカーのほかに 海 外 にあまり 出 ていない 日 本 の 携 帯 電 話 端 末 メーカーにとっても グ ローバル 市 場 進 出 のチャンスになる 上 述 のように 南 米 各 国 には 日 本 方 式 の 地 上 デジタル 放 送 の 導 入 が 進 むことになった が 次 に 同 市 場 の 規 模 について 触 れておきた い 南 米 では 約 4 億 の 人 口 のうち 9 割 近 く が 日 本 方 式 の 市 場 になった アジアでもフィ リピンが 日 本 方 式 を 採 用 したので 人 口 で 見 た 市 場 規 模 は 日 本 と 合 わせて 全 世 界 で5 億 6000 万 人 に 拡 大 した それに 伴 って 送 信 装 置 スタジオ 機 器 テレビ 受 信 機 ワンセグ 48 知 的 資 産 創 造 /2011 年 6 月 号
携 帯 電 話 端 末 など 日 本 企 業 の 進 出 機 会 が 拡 大 したことになる 南 米 で 日 本 方 式 を 採 用 した 国 のうち 1 人 当 たりGDP 上 位 5カ 国 (ブラジル アルゼ ンチン ベネズエラ チリ ペルー)におけ るデジタル 機 器 ( 携 帯 電 話 端 末 テレビ 受 信 機 放 送 機 器 )の 市 場 規 模 は 総 務 省 の 調 査 地 上 デジタル 放 送 日 本 方 式 採 用 国 拡 大 に 伴 う 経 済 効 果 に 関 する 調 査 研 究 によれば2020 年 に2 兆 5000 億 4 兆 円 11 年 20 年 までの 累 計 で16 26 兆 円 に 達 すると 推 計 されてお り 魅 力 的 な 市 場 であると 考 えられる また この 市 場 における 日 本 企 業 の 収 益 は 2020 年 に 売 上 高 9000 億 1 兆 4000 億 円 営 業 利 益 3000 億 5000 億 円 11 20 年 までの 累 計 で 売 上 高 5 兆 7000 億 8 兆 7000 億 円 営 業 利 益 1 兆 5000 億 2 兆 5000 億 円 に 達 するも のと 推 計 されている (2) 実 績 実 際 に 南 米 で 日 本 方 式 による 地 上 デジタル 放 送 が 始 まったのは ブラジルが2007 年 12 月 ペルーが10 年 3 月 アルゼンチンが 同 年 4 月 である このため 各 国 のテレビをはじ めとする 出 荷 台 数 などの 統 計 は 十 分 ではな い しかしながら ブラジルの 実 績 推 計 値 を 見 ると 効 果 は 着 実 に 現 れてきている ブラジルの 主 要 5 都 市 における 送 信 装 置 の 販 売 額 は アナログのときは 累 積 で 約 8 億 円 であったが デジタルでは 約 110 億 円 となっ たもようである また 薄 型 テレビ 市 場 は 2006 年 時 点 での 日 本 メーカーのシェアは10% であったが 09 年 には 倍 の20%になっている 携 帯 電 話 端 末 の 南 米 市 場 への 投 入 を 推 進 し ようとする 日 本 メーカーもようやく 登 場 し 今 後 の 展 開 が 楽 しみである 日 本 の 携 帯 電 話 端 末 は 近 年 ガラパゴス と 揶 揄 されてき た これは 日 本 で 開 発 した 標 準 携 帯 電 話 技 術 の 海 外 展 開 が 不 十 分 な 状 態 のなか 技 術 力 があるがゆえに 携 帯 電 話 端 末 は 国 内 だけで 独 自 の 進 化 を 遂 げた このため 結 果 的 に 国 内 市 場 のみに 閉 じて 高 コスト 体 質 になり 海 外 に 一 層 進 出 しにくくなった 状 況 を 指 してい る ガラパゴスといわれているこのような 殻 を ワンセグ 携 帯 電 話 技 術 (スマートフォン を 含 む)の 海 外 への 展 開 をチャンスに 破 っ て 欲 しいと 考 えている (3) 波 及 効 果 日 本 と 南 米 の 国 々との 間 には 日 本 方 式 と いう 共 通 の 放 送 基 盤 ができた 今 後 放 送 番 組 やコンテンツの 交 流 も 進 むであろう 放 送 の 影 響 力 は 強 いので 日 本 と 南 米 各 国 との 観 光 交 流 経 済 交 流 にも 良 い 影 響 を 与 えるもの と 考 えられる また 各 国 の 要 人 とは 人 的 なつながりが 構 築 できたため その 他 の 関 連 分 野 ( 道 路 交 通 情 報 システムやブロードバンドなど)の 協 力 にも 広 がってきている( 次 ページの 図 7) Ⅳ グローバル 戦 略 の 再 構 築 2007 年 8 月 に 南 米 で 最 初 に 欧 州 方 式 の 採 用 を 決 めていたウルグアイは 日 本 サイドの 働 きかけが 奏 功 して10 年 12 月 に 日 本 方 式 に 変 更 すると 発 表 した 欧 州 方 式 に 決 めたときの 政 府 の 担 当 次 官 が 担 当 大 臣 に 昇 格 していたの で この 担 当 大 臣 への 働 きかけよりも ウル 49
グアイの 外 務 大 臣 官 房 長 官 大 統 領 へのア クセスを ブラジルと 協 力 して 行 った 大 統 領 が 代 わったことも 幸 いであった ウルグアイが 日 本 方 式 を 採 用 したことによ り 南 米 大 陸 の 主 要 国 ではコロンビアのみが 欧 州 方 式 にとどまっている コロンビアで 欧 州 方 式 の 採 用 を 決 めたテレビ 委 員 会 の 委 員 長 は 現 在 通 信 省 の 次 官 になっている その ため ウルグアイと 同 じように ブラジルと ともに 外 務 大 臣 や 大 統 領 に 働 きかけること で 状 況 を 変 えられる 可 能 性 がある ウルグ アイと 同 様 に 欧 州 方 式 に 決 めたときの 大 統 領 が 代 わっているので 南 米 全 体 を 日 本 方 式 にすることは 不 可 能 ではないと 考 えられる このような 経 緯 で 南 米 大 陸 に 日 本 方 式 を 導 入 することができたが 一 方 で 一 部 の 人 か ら 実 際 にテレビ 受 信 機 などの 製 品 を 販 売 し ているのは 韓 国 メーカーであり 日 本 メーカ ーの 製 品 は 入 っていないので 規 格 の 売 り 込 みだけでは 意 味 がないという 意 見 もある し かし 時 間 差 はあるが 日 本 メーカーの 取 り 組 みも 始 まっている 方 式 を 決 める 時 期 は 導 入 相 手 国 が 決 めるこ となので その 時 期 に 合 わせて 方 式 の 売 り 込 みをタイムリーにやっていかないと 日 本 方 式 は 広 がらない 日 本 の 情 報 通 信 機 器 メーカ ーの 進 出 と 同 時 期 に 方 式 を 売 り 込 めること が 理 想 であるが 組 織 の 大 きい 日 本 メーカー は 決 断 が 遅 くなりがちである 総 合 的 に 考 えると 今 後 は 1 国 際 標 準 (デファクトスタンダードを 含 む)の 獲 得 2その 国 際 標 準 の 海 外 への 普 及 3 市 場 の 獲 得 7 7 2 5 8 5 110 55% 20% 10% 2009 2006 % 2007 100 38 08 276 22 09 430 14 10 560 13 11 870 6 12 990 7 13 1,100 20091124 101 A B C 1055000 50 知 的 資 産 創 造 /2011 年 6 月 号
というサイクルは 必 然 であり 国 内 市 場 の 人 口 減 少 と それに 伴 うロット 減 から 来 る 製 造 コスト 増 を 考 えると やるべきことは おのずと 明 らかである 本 稿 で 述 べたように グローバル 化 の 活 動 において 政 治 行 政 民 間 が 力 を 合 わせて 本 気 で 戦 えば 日 本 は 勝 てるということが 実 証 できた その 要 因 として 行 政 の 分 野 で 総 務 省 と 外 務 省 財 務 省 経 済 産 業 省 の 連 携 がうまくいったことも 見 逃 せない 相 手 国 のキーパーソンに 対 する 継 続 的 な 働 きかけ 世 界 に 通 用 する 製 品 コスト 水 準 の 実 現 政 官 民 の 協 力 による 支 援 がきちん とできれば 日 本 は 勝 てるのである 日 本 の 情 報 通 信 産 業 の 課 題 は 明 確 であり チャレンジ 精 神 が 持 続 できれば 将 来 は 明 る い 南 米 での 地 上 デジタル 放 送 の 方 式 選 定 競 争 が 一 段 落 した 時 点 で 南 米 各 国 の 方 々と 懇 談 する 機 会 があった そのとき 話 を 聞 いて 驚 い たことがある 南 米 各 国 で 地 上 デジタル 放 送 の 方 式 を 検 討 している 段 階 で ブラジル チリおよびペル ーの3カ 国 の( 運 輸 ) 通 信 省 の 幹 部 や 大 臣 顧 問 に 各 国 1 人 ずつ 日 本 の 電 気 通 信 大 学 に 留 学 した 人 (しかも3 人 のうち2 人 は 同 じ 部 屋 で 下 宿 していた)がいて それぞれの 国 で 方 式 を 決 めていく 際 頻 繁 に 連 絡 を 取 り 合 って いたということである これを 通 じて 人 材 交 流 の 大 切 さを 実 感 し た 総 務 省 のこの 件 に 関 する 主 要 な 担 当 責 任 者 にも 電 気 通 信 大 学 の 出 身 者 ( 布 施 田 英 生 室 長 )がいて 彼 らと アミーゴ( 友 人 )の 関 係 が 築 かれていたことも 大 きくプラス に 作 用 した なお 布 施 田 氏 は 南 米 におい て 日 本 方 式 の 導 入 を4 年 間 担 当 し その 間 南 米 に30 回 の 多 きにわたって 出 張 し 現 地 の さまざまな 関 係 者 に 働 きかけた 筆 者 は 東 京 工 業 大 学 の 客 員 教 授 も 兼 務 し ている 同 大 学 には 現 在 中 国 から 約 430 人 韓 国 から 約 140 人 ベトナム(ベトナム では 最 も 優 秀 な 人 材 は 日 本 に 留 学 するとのこ と)から 約 80 人 南 米 から 約 20 人 の 優 秀 な 留 学 生 が 在 籍 しているそうである 今 後 の 日 本 と 各 国 の 連 携 活 動 においては 政 官 民 のほか に 大 学 の 果 たす 役 割 も 非 常 に 大 きいことを 付 言 したい 日 本 では 昨 今 インフラの 海 外 展 開 に 関 す る 機 運 が 盛 り 上 がっている 新 幹 線 発 電 所 水 ビジネスなどが 動 いているが 成 功 を 切 に 祈 るものである 繰 り 返 すが これらの 成 功 には 1キーパ ーソン( 大 統 領 や 担 当 大 臣 等 )への 継 続 的 な 働 きかけ 2 世 界 で 通 用 するコスト(ビジネ スモデルや 製 品 )の 実 現 3 素 早 い 意 思 決 定 4 関 係 者 機 関 の 連 携 ( 経 済 支 援 など) が 基 本 である これらがそろえば グローバ ル 化 を 進 めるうえで 難 しいことはないので ある 参 考 文 献 1 寺 崎 明 グローバル 市 場 開 拓 へ 国 際 標 準 獲 得 と 普 及 を 地 デジの 経 験 生 かせ 南 米 の 高 い 将 来 性 に 期 待 日 本 経 済 新 聞 経 済 教 室 2010 年 11 月 23 日 著 者 寺 崎 明 (てらさきあきら) 理 事 専 門 は 情 報 通 信 政 策 ( 電 気 通 信 事 業 電 波 周 波 数 割 り 当 て コンテンツ 技 術 開 発 標 準 化 国 際 化 など) 51