帝京大学宇都宮キャンパス研究年報人文編第 20 号 (2014)pp 大学生の職業理解のための支援 横山明子

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Transcription:

帝京大学宇都宮キャンパス研究年報人文編第 20 号 (2014)pp. 139 149 大学生の職業理解のための支援 横山明子

大学生の職業理解のための支援 横山明子 1. はじめに 大学生にとって職業選択 決定は 自分の将来に大きな影響を及ぼす重要な問題である 理工系学生の採用は職種別採用が多くなっており 学生自身も文科系の学生よりも専門職志向が強いことから 就職支援については 現時点での自分の特性を明確にして それにもとづく職種や職業とのマッチングによる就職先紹介が多く行われてきた 近年 インターネットを活用した就職活動が主流になり 様々な職種や就職の情報が大量に しかも支援者を介さずに直接学生に提供されるようになったことから 学生自身が職業選択 決定を従来よりも容易に行えるようになると期待された しかしながら 大学生は自分の将来像を明確にし 自分の特性にもとづいて職業や職種を見いだすことができない さらに 職業や職種を見極めて具体的にエントリーする企業を決定することが難しいなどの新たな問題が明らかになってきた ( 横山, 2009; 2010) その原因の一つとして考えられることは 職業選択 決定に必要と考えられる多様な情報が大量にあっても 学生自身が自分にとっての必要な情報を選択し 選択 決定の時点で重要な情報を見極めることができず それらの情報を十分に有効に活用できないことである この時の情報とは 特に就職先の情報や職業に関わる情報のことである 本稿では このような学生が必要な情報を適切に利用できるようになることを支援するために 大学生の職業選択 決定のプロセスを明らかにしたうえで 具体的な支援プログラムを提案し その有効性を検証したい 2. 職業選択 決定のプロセス このような学生の支援を考えるにあたって 職業選択 決定のプロセスは 先行研究 ( 横山, 2009) から 次のようなプロセスになっていることが示されている ( 図 1 参照 ) - 139 -

この職業選択 決定のプロセスは 自己理解 とそれに続く 自己調整 のプロセスからなる まず 自己理解のプロセスでは 自己に関する情報と職業に関する情報を利用して 理想の自己と現実に理解している自己 ( 以下には 現実の自己 と記載 ) を明確にしていく ( 図 1 中の矢印の番号 1と2) さらに 自己調整のプロセスにおいては その両者の調整をはかることによって ( 図 1 中の矢印の番号 3) 実現可能な自己を見出していく ( 図 1 中の矢印の番号 4) さらに この理想の自己と現実の自己との調整プロセスにおいて 実現可能な自己に対する確信が持てなかった場合には 再度 その自己理解をやり直し 実現可能な自己について明確化を繰り返していくと考えられる すなわち この自己理解のプロセスと自己調整のプロセスを繰り返しながら実現可能な自己に対する確信を高めていき 最終的な進路を選択 決定すると考えられる 自己理解の過程 自己調整の過程 自己に関する情報 理想の自己 4 1 実現可能な自己 3 職業に関する情報 2 現実に理解している自己 ( 現実の自己 ) 図 1 職業選択 決定のプロセス このプロセスをふまえると 職業選択 決定を促進するためには まず 自己に関する情報と職業に関する情報を関連させて自己理解を深めていく必要が あると考えられる これまでは 自分の特性についての理解を深めた後 職業に - 140 -

関する情報を収集し 自分に適している職業を選択するという順序で支援を行うことが多かった しかしながら 先行研究 ( 横山, 2009) からは 進路選択 決定が進んでいる学生は どちらかの情報についての知識が多いのではなく この両者の情報を共に多く備えていることがわかった さらに 職業に関する知識は 職業に関する情報収集を行うことによって増加すると考えられるが この知識は単に職業に対する理解を深めるだけではない 学生はこの職業に関する情報を収集するプロセスを通して 職業の理解を深めることと同時に 自分がどのような職業に興味があるのか あるいは どのような職業なら取り組めるのかという能力的な側面について自分を見直し 自己理解を深めて自分の将来像を持てることが明らかになっている さらに 最終的に実現可能な自己への確信を高めるような職業的自己実現との関連では この職業に関する知識が多いほど 自分の将来像と関わる理想の職業を具体化できると考えられ さらに この情報を得ることにより 自分の職業的価値観をも考える契機となると考えられる したがって この職業に関する知識の程度は 自分の理想の進路やそれに関わる生き方についての考え方と さらに 職業的自己実現がどの程度達成できるかということと深く関連していると考えられる これらのことから この職業に関する情報は 職業選択 決定のプロセスに非常に重要な役割を果たしていることがわかる さらに 自己と職業についての情報は 職業的自己実現を行う場合には独立して機能しているのではないことから 進路選択 決定を行うためには 積極的にその両者を関連づけて考えていくことが重要であるとさらに考えられる したがって このような支援を考える場合には 自己理解を深め 次いで職業に関する情報を得られるようにするのではなく 同時並行的に両者の情報を収集し その両者を関連づけて実現可能な進路について考えられるようにすることが必要であると考えられる 3. 職業理解のための支援 3.1 支援プログラムの検討 以上のように 職業についての理解を深めることは 職業選択 決定に非常に重要な役割を果たすと考えられることから 職業についての理解を深めなが - 141 -

ら自己理解も深めることが出来るような支援のプログラムについて検討する まず 大学生が職業選択のために利用する職業についての理解を深めるために必要な情報についてリストアップすると以下のようになる 1 職業を取り巻く環境に関すること : 社会的経済的な状況 2 職業の意義に関すること : 職業の意義 働くことの意義 3 職業そのものに関すること : 産業界 ( 業界 ) 職業の種類 職種 4 業務内容に関すること : 職業に必要とされる能力 専門的な能力や資格 5 就職に関すること : 就職するための手順 活動内容 採用手続き 6 職場に関すること : 福利厚生 定着率 雇用条件など これらの職業に関する情報のうち 3の 職業そのもの についてどの程度知識があるかということについて 大学生を対象とした坂柳 後藤 (1995) の研究がある この研究では 大学生の職業知識について調査を行っている 具体的には ホランド (Holland, J. L.) が提唱した職業の 6 領域に入る 60 種類の職業名について 職業内容をどの程度知っているか 職業知識について調査した その結果 大学生の職業についての理解は 幅広く豊富なものであるとはいいがたい 状況であり 名前だけ知っている職業は 24 種類に及んでいる ことが示されている さらに 結果についての考察においては しかも大学生が職業の情報を獲るのはマスメディアなどが主であり 積極的に調べたものではなく受け身であり 自分で調べようとはしないことなどから 職業情報を収集 獲得できるような環境づくりも要請されてくること さらに職業の世界について 主体的に調査 探求して行くような態度を育成することの必要性 が指摘されている この研究に示されているように 大学生の職業そのものについての知識は決して多くはない さらに 具体的な職業選択 決定のためには 職業の種類だけではなく 業界や職種についての知識が必要であると考えられる 特に 今日のように職業を取り巻く社会経済状況の変動が大きい状況においては 自分が卒業した学部や学科 専攻の内容と職業 職種で要求されることが必ずしも一致せず 学部 学科で学んだ知識だけでなく 大学で身につけた力を広くどのような業界の中で活かせるのか また 具体的な職種や業務の中でいかに発揮できるかを考えることが必要であることから 職種や業務内容に関する知 - 142 -

識も非常に重要である この大学生の職種や業務内容に関する知識がどの程度あるのかに関する研究はほとんどなされていないが 学生の授業時の状況をみると 職種についてのイメージはある程度できるが 具体的に職場の中で 日々どのような仕事をするのかというイメージに乏しく 内容に関する詳細な知識も余り多くはないと考えられる また 現在では 学生はインターネットが利用でき 職業情報は以前よりも手軽に入手できるようになっているが 前述の研究に示されているように 大学生は主体的に調べることが少ないと考えられることから 職業や職種を積極的に探索したり 収集するような働きかけが必要であろう 以上のことから 職業理解のための支援のプログラム考案した そのプログラムは 次の 2 種類からなっている 1 職業の理解を深めるための支援プログラム VPI 職業興味検査を受けて その結果をまとめるワークシートを用いて ホランドが提唱した 6 つの領域のうち 自分自身の興味 関心がどのような領域にあるかということを知り さらに そこから 自分の興味 関心にあった具体的な職業について調べる 2 職種の理解を深めるための支援プログラム 職種の内容を理解するためには どのような職種があるのかを知るだけではなく それらの職種が相互にどのように関連していることを知ることが重要であると考えられる そこで 職種について具体的な内容を調べる課題と それらの相互関係をマップに描くことの課題を行い レポートを作成する 3.2 支援プログラムの実施 3 年生のキャリアプラニング 2 の授業の中で この両方のプログラムを実施した このプログラムに取り組んだのは 理系 文系の両方の学部の学生の 82 名である まず 1の職業理解のための支援では まず VPI 職業興味検査を受けて その結果からわかることをワークシートに記入した それをもとにして 自分の興味や関心がある領域の具体的職業について 論文末附表 1にある教示内容 ( 榎本 横山, 2013) をもとにして タスク分析を行い 後日提出した - 143 -

次の2の職種の理解のための支援では 4 人グループで以下の課題に取り組んだ グループ活動を行った理由は この課題については 一人で取り組むこともできるが グループの活動を通して課題に対する考察の視野が広がることと コミュニケーション能力を高めることが期待できるからである さらに 具体的な課題の内容については 学生が理系 文系の両方の学部の学生がいることを考慮し 比較的な身近な生活に関連した次のような課題を設定した グループ課題内容 1. みなさんは ペットボトル飲料の会社の社員です ペットボトル飲料を新発売することになりました このペットボトル飲料を消費者に売って売り上げを上げるためには その過程でどのような仕事があるのかについて ( 企画 製造 販売まで ( 上流から下流まで )) できるだけ詳しく考えて 図示してください ( 全体の仕事の俯瞰図 ) 2. その仕事のうち みなさんのグループではどのような仕事に関わりたいかを決め その内容をさらに詳しく考えて ( 調べて ) 図示してください 3. さらに それを模造紙を使ってポスターを作成してください ポスター作成後の発表と評価 1. 発表 全体を 4 グループに分けて発表を行います 2. 評価 作成されたポスターと発表についての評価は全員で行います 発表については 聞き手の学生が評価をします それぞれのメンバーは 自分が聞いたグループの発表のうち どのグループの発表が最も良いと思ったかを決めて 一票づつ投票を行います また ポスターについては 授業参加の全員が最も良くできていると思うポスターに一票づつ投票を行い 評価を行います 3. グループ内メンバーの貢献度の評価 このグループ活動について グループ内でどのメンバーがどの程度貢献したかを グループ全員で相互評価を行います その具体的内容は グループメンバーの役割はどのようなことだったのか どのような作業を分担したのかについて話し合います さらに グループ全体の貢献を 100% とすると それぞれのメンバーは何 % - 144 -

づつ貢献していたかについて相互評価し その貢献度について 円グラフを用いて表します 4. 活動の事後レポートの作成 最後に この活動を通して 自分がどのようにグループ活動に貢献したか またグループ活動に参加して自己理解が深まったこと さらに 今後自分自身で改善したいことについてレポートを作成します 3.3 支援プログラム実施の結果と考察 1VPI 興味検査の結果についての学生から提出されたレポート内容 VPI 興味検査の結果についての考察レポートで最も多かったのは ( 約 6 割 ) 様々な職業の選択肢がある事を知ったと当時に 今回の VPI 職業興味テスト結果として提示された職業が 今までやってみたいと思っていた職業や自分に適性があるのではないかと思っていた職業と一致していたというものである またこの結果から 自分がこれから希望する職業の就業の可能性が高まったと感じている場合が多く 今後 それらの職業についてさらに詳しく調べていきたいと考えている 一方 約 2 割の学生は この VPI 職業興味検査の結果提示された職業は 自分が今まで希望として考えていなかったり 全く気付いなかった職業だったことが明らかになったということである このことから 職業に関して考慮する視野が広がり 職業探索の幅が広がったというものである また このうち数人の学生は 結果が自分の趣味の分野と関連していると気付いたり 幼少期に考えていたことを思い出したことによると述べている さらに 具体的な職業名が更に分かったことから 今後 それらについてもう少し詳しく調べてみようという意欲が高まったという学生もいた この他に 自分の事前の予想と結果として示された職業が一致しなかった場合には 自分の希望を優先させたいという考察もあった 2 職種理解のための課題の結果の内容 学生が作成したポスターについては 職種の内容とその関連性を表した内容である 学生の相互評価が高かったポスターは次の図 2のようなポスターである これらのポスターの評価が高かった理由は 見やすいレイアウトであった - 145 -

こと 具体的に職種の内容や関連性が明確であったことによる このポスターの評価が高かったのこのポスターは 商品開発から販は 俯瞰図と商品の調査の流れ図売までの流れ図が非常に明確に記の説明がわかりやすかったことでさされていたことと 企画についある 発表時の説明について 学て調べているが その内容が具体生全員の評価が最も高かった 的にわかりやすかったことにより評価が高かった 図 2 学生が作成したポスターの一例 3グループ活動を行ったことによる考察 この授業では今回始めてグループ活動を行った しかも グループの編成は 理工系と文系の学生の混成であった グループ活動後の感想としては 次のような感想が多かった グループの中で役割分担を行って責任を果たせて自信がついた グループの中で多様な意見や疑問を出して議論をするので 自分が気付かないことにまで気付くことができ 視野が広がり考えを深めることが出来た 自分一人で課題をやる場合には自分で限界を決めてしまうが 分担して仕事をするため 質の高い成果物が出来あがる 自分の得意なことと不得意なこと ( 特にコミュニケーション力の低さや手先の不器用さ ) への理解が深まった - 146 -

また グループで協力して活動することに関しては とても楽しみを感じた 知らない学科の人とも知り合えて良かった 一つの目標に向かってみんなで協力し合うので完成度が上がり 協調性とコミュニケーション力が高まったことなどがあげられた 3.4 支援プログラムの考察と今後の課題 このような 2 つの支援プログラム実施の評価であるが まず職業についての理解が深まったかどうかという点については 多くの学生が自分の知らない職業や職種について知ることができ 知識の幅が広がったことがわかる また このグループ活動で行ったポスター作成という課題は 職業選択 決定についての関心度を高めるものでは必ずしもないが 職種について考察するときに 調べた内容を記述するだけではなく 学生がお互いに調べた情報を共有し合い 時には 様々な視点から議論をして理解を深めることが出来たことは 一人で課題をやる場合と比較しても非常に有意義であったと考えられる さらに このような学科の混成メンバーのグループ活動は この授業としては今回が初めてである グループ編成について 同じ学科の学生同士を組ませる場合と違い 特に理系と文系の学生がいることは 同じ指向性でない学生たちが協力して作業を行う中で お互いの興味 関心事や特性を知ったり 職種に対する興味の違いを知ることができ 自己理解が深まり 今後就活をするときにも非常に有効なのではないかと考えられる 今後の課題としては 職種の情報の情報源について 今回は学生自身がインターネットや職業情報誌 また就職関係の書籍から調べてきたものを持ち寄ったが 情報収集の方法の工夫をすることが必要であろう たとえば 実際に自分が興味のある職種に就いている人や先輩から 実際の仕事内容や仕事をしていて難しい点ややりがいに関する話を聞くなどの 生の情報を得ることも必要ではないかと考えられる さらに 今回の課題の情報のまとめ方はポスター作成ということで完結しているが 今後は 課題の中で 学生それぞれが集めた情報をデータベース化したり お互いにそれらの情報を利用できるような工夫を考えても良いのではないかと思われる - 147 -

引用文献榎本和生 横山明子 2013 大学生のためのライフキャリアデザイン ( 株 ) さんぽう 坂柳恒夫 後藤正樹 1995 大学生の職業知識 愛知教育大学研究報告教育科学 44 217-228. 横山明子 2010 大学生の職業指導 ( キャリアガイダンス ) のあり方 帝京大学理工学部研 究年報人文編 第 16 号 71-103. 横山明子 2009 大学生の進路選択 決定過程に関する研究 - 職業的自己実現の観点から- 東北大学大学院教育学研究科学位論文 1-508. 附表 1 タスク分析についての教示内容 ( 榎本 横山, 2013 より引用 ) では 次に職業に求められる具体的内容について検討しましょう ここでは企業で働くことを前提としてみましょう 例えば 米国では求人を募集する場合 職務要件書 :(job description) を提示します 職務要件書には必要となる能力や知識などが明記されています つまり どんな人材を求めているか 必要となる技術やスキルなどを明確にしています 日本では まだ職務に対する詳細な定義書を持つ企業はあまり見受けられません しかし 職務要件書がなかった場合であっても どのような職務にも職務に応じた様ざまな役割があります そこで 実際に働くことを意識する場合 求められる職務や仕事がどのような活動や要件が必要なのか知る必要があります 職務を的確に知る手段として タスク ( 与えられた職務を遂行する活動 ) 分析があります タスク分析とは 職務を次の3つの観点から分析する方法です すなわち 知識 :(Knowledge) スキル:(Skill) 態度:(Attitude) の3 要素をもとに分析するのです 知識 は 職務を遂行するために必要な情報や知識 スキル は 職務を遂行するために必要となる技能や能力 態度 は 職務遂行に求められる態度など - 148 -

が含まれます タスク分析の内容 知識 (Knowledge): 職務を遂行するために必要な情報や知識 スキル (Skill): 職務を遂行するために必要となる技能や能力 態度 (Attitude): 職務遂行に求められる態度 そして このタスク分析から示された職務要件書は 例えば 総合商社営業担当者の場合には 次のようになります 職務要件書の例職務名 商社営業担当職務の説明 海外ビジネス担当 ( 営業および開拓 ) 貿易業務担当職務に求められるスキル 知識 (Knowledge) 貿易業務知識 海外事情 為替取引基礎など スキル (Skill) 英語力 ( 会話 英文作成 ) パソコン操作 折衝力 コミュニケーション力 交渉力 プレゼンテーション力 態度 (Attitude) ビジネスマナー ( 日本人および対外国人 ) 臨機応変なスマートな対応 もちろん 職種が異なれば異なる知識やスキルが求められます また これらの内容は 企業風土によっても異なります そのため まずそれぞれの業界の職種で活躍したい場合は それぞれの業界でどのようなK( 知識 ) S( スキル ) A( 態度 ) が求められるのか情報を得ることが必要です 必要な情報を先輩や学校から入手することも一つの方法でしょう - 149 -